「売上税額の2割納税の特例」の適用期間の留意点

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、(1)の「2割特例」の適用期間の留意点について確認します。

※ (1)の「2割特例」の制度概要については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、(2)(3)の制度概要等については「インボイス制度に係る支援措置:R5年4月以降の申請可・少額取引のインボイス保存不要等」を、(4)については「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください。

1.2割特例の適用対象期間

出所:財務省ホームページ

 2割特例は、免税事業者がインボイス発行事業者として課税事業者になる場合の税負担や事務負担を軽減するために設けられ、消費税納税額を売上税額(売ったときに受け取った消費税)の2割とする特例です。
 その適用対象期間は、2023(令和5)年10月1日から2026(令和8)年9月30日までの日の属する各課税期間です。

 具体的には上図のように、免税事業者である個⼈事業者が2023(令和5)年10⽉1⽇から登録を受ける場合は、2023(令和5)年分(令和5年10~12⽉分のみ)の申告から2026(令和8)年分の申告までの計4回の申告が適⽤対象となります。
 また、免税事業者である3⽉決算法⼈が2023(令和5)年10⽉1⽇から登録を受ける場合は、2024(令和6)年3⽉決算分(令和5年10⽉〜翌3⽉分のみ)から2027(令和9)年3⽉決算分までの計4回の申告が適⽤対象となります。

2.基準期間の課税売上高が1,000万円超の場合

出所:財務省ホームページ

 ただし、2割特例の適用対象期間内であっても、基準期間(法人は2期前、個人は2年前)における課税売上高が1,000万円を超える場合は、その課税期間は2割特例の適用を受けることができません。

 例えば、上図において、免税事業者である個⼈事業者が2023(令和5)年10⽉1⽇から登録を受ける場合は、2023(令和5)年分(令和5年10~12⽉分のみ)の申告から2026(令和8)年分の申告までの計4回の申告が適⽤対象となりますが、2026(令和8)年分の申告については、基準期間である2024(令和6)年の課税売上高が1,000万円を超えていますので、2割特例の適用を受けることはできません。

 したがって、2割特例の適用対象期間内であっても、申告する課税期間が2割特例の適⽤対象となるか否かについては確認が必要です。

3.課税事業者を選択してインボイス登録した場合

出所:財務省ホームページ

 2割特例は、免税事業者からインボイス発行事業者になった者(基準期間の課税売上高が1,000万円以下等の要件を満たす者で、インボイス発行事業者の登録をしなければ課税事業者にならなかった者)が対象となります。

 この対象者には、課税事業者選択届出書を提出し、登録を受けてインボイス発行事業者となる者も含まれます。
 ただし、2023(令和5)年10月1日前から課税事業者選択届出書を提出していることにより、引き続き事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる同日の属する課税期間については適用されません。

 例えば、免税事業者である個⼈事業者が2022(令和4)年12月に課税事業者選択届出書とインボイス登録申請書を提出して2023(令和5)年10月1日から登録を受け、2023(令和5)年1月1日から同年12月31日までの課税期間について納税義務が生じる場合は、当該課税期間(令和5年分)の申告については2割特例の適用を受けることができません(上図・左の例)。

 ただし、このような場合でも令和5年分の申告について2割特例の適⽤を受けるかどうかを検討できるように、その課税期間中(上記の例では、改正法の施⾏⽇である2023(令和5)年4⽉1⽇から同年12⽉31⽇まで)に、課税事業者選択不適⽤届出書を提出することで、その課税期間(令和5年分)から課税事業者選択届出書の効⼒を失効できることとされます。

 したがって、本⼿続を行うことにより、上記の例では、2023(令和5)年1⽉1日から同年9月30日までの納税義務が改めて免除され、インボイス発⾏事業者として登録を受けた2023(令和5)年10⽉1⽇から同年12⽉31⽇までの期間について納税義務が⽣じることとなり、その期間について2割特例を適⽤することが可能となります(上図・右の例)。

登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、2023(令和5)年4月1日から改正内容の一部が反映される(4)について確認します。

※ (1)の「2割特例」の制度概要については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、(2)(3)の制度概要等については「インボイス制度に係る支援措置:R5年4月以降の申請可・少額取引のインボイス保存不要等」ご参照ください。

1.インボイス登録手続きの柔軟化

出所:財務省ホームページ

 2023(令和5)年度税制改正では、上述したとおり4つの負担軽減措置が講じられました。
 そのほとんどが、インボイス制度がスタートする2023(令和5)年10月1日から適用されますが、「登録制度の見直しと手続きの柔軟化」のうち「手続きの柔軟化」については、2023(令和5)年4月1日から適用されます。

 改正前は、インボイス制度がスタートする2023(令和5)年10月1日からインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)になるためには同年3月31日までに登録申請しなければならず、同年4月1日以降に登録申請する場合は、同年3月31日までに申請することにつき「困難な事情」を申請書に記載する必要がありました。
 改正後は、2023(令和5)年4月1日以降の登録申請であっても、「困難な事情」の記載は不要となり、同年9月30日までに登録申請すれば同年10月1日からインボイス発行事業者になることができます。

2.インボイス登録制度の見直し

出所:財務省ホームページ

 「登録制度の見直しと手続きの柔軟化」のうち「登録制度の見直し」については、2023(令和5)年10月1日から適用されます。

 免税事業者がインボイス発行事業者の登録申請をして課税期間の初日から登録を受けようとする場合、現行(改正前)では、当該課税期間の初日の前日から起算して1か月前の日までに登録申請書を提出しなければなりません。
 改正後は、当該課税期間の初日の前日から起算して15日前の日までに短縮されます。
 したがって、2023(令和5)年10月1日後にインボイス発行事業者の登録を受けようとする免税事業者は、その登録申請書に、提出日から15日以後の日を登録希望日として記載することとなります。
 この場合、登録希望日後に登録がされたときは、当該登録希望日に登録を受けたものとみなされます。

 なお、登録を取り消す場合の届出書の提出期限についても、同様の措置が講じられています。
 すなわち、インボイス発行事業者が登録取消届出書を提出し、その提出があった課税期間の翌課税期間の初日から登録を取り消そうとする場合は、当該翌課税期間の初日から起算して15日前の日(現行(改正前)は、その提出があった課税期間の末日から起算して30日前の日の前日)までに届出書を提出しなければなりません。

事務処理規程の書き方と記載例:電子取引データ保存

1.事務処理規程による運用が現実的

 2022(令和4)年1月1日から施行されている改正電子帳簿保存法では、①電子帳簿等保存、②スキャナ保存、③電子取引データ保存のうち、③電子取引データ保存が義務化されました。
 この電子取引データ保存にあたっては、真実性(保存されたデータが改ざんされていないこと)と可視性(保存されたデータを検索・表示できること)が確保されていなければなりません。
 この2要件のうち、真実性を確保するためには、次の(1)~(4)のうち、いずれかの保存措置を行う必要があります。

(1) タイムスタンプが付された後、取引情報の授受を行う
(2) 取引情報の授受後、その業務に係る通常の期間(2か月+7日以内)を経過した後速やかにタイムスタンプを付す
※ 2023(令和5)年度税制改正で、「保存を行う者又は監督者に関する情報を確認できるようにしておく」という要件が廃止されました。
(3) 記録事項の訂正・削除の履歴を確認できるシステム又は訂正・削除を行うことができないシステムで、取引情報の授受及び保存を行う
(4) 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行う

 中小企業や個人事業主の実情を踏まえると、真実性を確保するためには上記(4)の事務処理規程による運用が現実的だと思われます(詳細については、本ブログ記事「電子取引データ保存の実務対応~事務処理規程と検索機能」をご参照ください)。
 そこで、以下において事務処理規程の記載例を確認します。

2.事務処理規程の記載例

 事務処理規程は、上記1のとおり真実性を確保する観点から必要な措置として要件とされたものです。
 この規程については、どこまで整備すればデータ改ざん等の不正を防ぐことができるのかについて、事業規模等を踏まえて個々に検討する必要がありますが、国税庁ホームページには参考資料(各種規程等のサンプル)として、法人の例と個人事業主の例がそれぞれWord形式でダウンロードできるようになっています。
 ここでは法人の例を用いて、事務処理規程の記載例を以下に示します(赤文字部分は国税庁のひな型に補足を加えたものです)。

(法人の例)

電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程

第1章 総則

(目的)
第1条 この規程は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法の特例に関する法律第7条に定められた電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務を履行するため、○○株式会社(貴社名を記載)において行った電子取引の取引情報に係る電磁的記録を適正に保存するために必要な事項を定め、これに基づき保存することを目的とする。

(適用範囲)
第2条 この規程は、○○株式会社(貴社名を記載)の全ての役員及び従業員(契約社員、パートタイマー及び派遣社員を含む。以下同じ。)に対して適用する。

(管理責任者)
第3条 この規程の管理責任者は、●●(責任者名を記載)とする。

第2章 電子取引データの取扱い

(電子取引の範囲)
第4条 当社における電子取引の範囲は以下に掲げる取引とする。
一 EDI取引
二 電子メールを利用した請求書等の授受
三 クラウドサービスを利用した請求書等の授受
四 ウェブサービスを利用した請求書等の授受
五 キャッシュレスサービスを利用した支払証明等の受領
六 ペーパーレスFAXを利用した請求書等の授受
七 記録媒体による請求書等の授受
八 上記に掲げるものの他、電子データにより行われる各種の取引に係る請求書等の授受

記載に当たってはその範囲を具体的に記載してください(法人が行う可能性のある全ての電子取引を具体的に列挙するのは困難であるため、八において網羅的な条項を設けています)

(取引データの保存)
第5条 取引先から受領した取引関係情報及び取引相手に提供した取引関係情報のうち、第6条に定めるデータについては、保存サーバ、保存メディア、クラウドストレージ等(ウェブサービスを提供する者、○○株式会社(貴社名を記載)の全ての役員及び従業員のものを含む)内に、△△年間保存する(下線部については、青色欠損金との関係から「10年間」程度が妥当と思われます。また、「当該取引関係情報の法定保存期間にあわせて保存する」と記載することも可能です)

(対象となるデータ)
第6条 保存する取引関係情報は以下のとおりとする。
一 見積依頼情報
二 見積回答情報
三 確定注文情報
四 注文請け情報
五 納品情報
六 支払情報
七 ▲▲

上記第6条の下線部は、貴社の取引上発生する可能性のある証憑を限定列挙することが困難であるため、代表的な書類の名称とそれに類する情報を含ませて、以下のように記載することも可能です。

一 見積書その他これに類する情報
二 契約書その他これに類する情報
三 注文書その他これに類する情報
四 納品書その他これに類する情報
五 請求書その他これに類する情報
六 領収書その他これに類する情報
七 上記に掲げるものの他、電子データにより行われる各種の取引に係る請求書等の授受

(運用体制)
第7条 保存する取引関係情報の管理責任者及び処理責任者は以下のとおりとする。
一 管理責任者 ○○部△△課 課長 XXXX(貴社責任者情報を記載)
二 処理責任者 ○○部△△課 係長 XXXX(貴社責任者情報を記載)

(訂正削除の原則禁止)
第8条 保存する取引関係情報の内容について、訂正及び削除をすることは原則禁止とする。

(訂正削除を行う場合)
第9条 業務処理上やむを得ない理由によって保存する取引関係情報を訂正または削除する場合は、処理責任者は「取引情報訂正・削除申請書」に以下の内容を記載の上、管理責任者へ提出すること。
一 申請日
二 取引伝票番号
三 取引件名
四 取引先名
五 訂正・削除日付
六 訂正・削除内容
七 訂正・削除理由
八 処理担当者名
2 管理責任者は、「取引情報訂正・削除申請書」の提出を受けた場合は、正当な理由があると認める場合のみ承認する。
3 管理責任者は、前項において承認した場合は、処理責任者に対して取引関係情報の訂正及び削除を指示する。
4 処理責任者は、取引関係情報の訂正及び削除を行った場合は、当該取引関係情報に訂正・削除履歴がある旨の情報を付すとともに「取引情報訂正・削除完了報告書」を作成し、当該報告書を管理責任者に提出する。
5 「取引情報訂正・削除申請書」及び「取引情報訂正・削除完了報告書」は、事後に訂正・削除履歴の確認作業が行えるよう整然とした形で、訂正・削除の対象となった取引データの保存期間が満了するまで保存する。

附則

(施行)
第10条 この規程は、令和○年○月○日(運用開始日付を記載)から施行する。

 

事務処理規程と検索機能が実務対応の鍵:電子取引データ保存

1.義務化された電子取引データ保存

 2022(令和4)年1月1日から施行されている改正電子帳簿保存法は、次の3つに区分されています。

・電子帳簿等保存
・スキャナ保存
・電子取引データ保存

 上記の3つの区分のうち、改正電子帳簿保存法で義務化されたのは電子取引データ保存であり、他の2つについては任意(利用したい事業者(対応可能な事業者)のみが対応すればいい)とされています。
 電子取引データ保存とは、取引情報の授受を電子メールやウェブサイト上、EDI(電子データ交換)システムなどを用いて行った場合に、これらの電子取引をその電子データのまま保存することをいいます(電子取引等の具体例については、本ブログ記事「改正電子帳簿保存法:電子取引と電子データの具体例」をご参照ください)。
 改正電子帳簿保存法には2年間の宥恕規定が設けられていますので、2023(令和5)年12月31日までに⾏う電子取引については、保存すべき電子データをプリントアウトして紙で保存し、税務調査等の際に提示・提出できるようにしていれば差し⽀えありません。
 しかし、2024(令和6)年1月1日からは、法人・個人を問わずすべての事業者が、保存要件に従った電子データの保存をしなければなりません。

2.保存要件:真実性の確保

 電子データの保存要件には、真実性(保存されたデータが改ざんされていないこと)と可視性(保存されたデータを検索・表示できること)があります。
 真実性を確保するためには、次の(1)~(4)のうち、いずれかの保存措置を行う必要があります。

(1) タイムスタンプが付された後、取引情報の授受を行う
(2) 取引情報の授受後、その業務に係る通常の期間内(2か月+7日以内)にタイムスタンプを付す
※ 2023(令和5)年度税制改正で、「保存を行う者又は監督者に関する情報を確認できるようにしておく」という要件が廃止されました。
(3) 記録事項の訂正・削除の履歴を確認できるシステム又は訂正・削除を行うことができないシステムで、取引情報の授受及び保存を行う
(4) 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行う

 中小企業や個人事業主の実情を鑑みると、上記(1)~(3)には次のような対応し難い面があると思われます。

(1)については、すべての取引先からタイムスタンプが付されたデータをもらうのは実質的に不可能である。
(2)については、タイムスタンプの付与に対応したシステムの導入コストやランニングコスト等が発生する。
(3)についても、訂正・削除の履歴を管理できるシステム等の導入コストやランニングコストが発生する。

 これらのことを考慮すると、(4)の事務処理規程による運用は、新たにシステムを導入するためのコストも発生せず現状のシステムで対応可能であるため、中小企業や個人事業主にとっては現実的な対応であるといえます(事務処理規程については、本ブログ記事「事務処理規程の書き方と記載例:電子取引データ保存」をご参照ください)。

3.保存要件:可視性の確保

 電子データのもう一つの保存要件である可視性を確保するためには、次の(1)~(3)の保存措置を行う必要があります。

(1) 電子計算機(パソコン等)、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付けて、保存しているデータを画面・書面に速やかに出力できるようにしておく
(2) 電子計算機処理システムの概要書(データ作成ソフトマニュアル等)を備え付ける
(3) 次の①~③の検索機能を確保する
取引年月日、取引金額、取引先の3つの項目で検索できること
② 日付又は金額の範囲指定により検索できること
③ 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること

 上記のうち(1)と(2)については、特に問題はないと思われます。可視性の要件を満たすためには、(3)の検索機能の確保への対応が必要になります。
 ただし、検索機能の確保には、次のような例外があります。

・税務職員によるダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合は、上記(3)の検索要件のうち②③は不要です。
・ダウンロードの求めに応じることに加えて、法人の場合は2期前(個人事業主の場合は2年前)の売上高が5,000万円以下の場合、又はデータを出力した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものに限ります)を提示・提出できるようにしている場合は、上記(3)の検索機能の確保自体が不要となります。
※ 2023(令和5)年度税制改正で、売上高が1,000万円以下から5,000万円以下に引き上げられました。

 したがって、多くの中小企業や個人事業主が、検索機能を確保するために実質的に対応しなければならないのは、上記(3)のうち①ということになります(例外(データを出力した書面を提示・提出できるようにしている場合)で検索機能の確保が不要となる売上高5,000万円超の事業者も、取引年月日等及び取引先ごとにきちんと整理された電子データの保存は必要ですので、実質的には上記(3)①へ対応しておくことが望まれます)。
 (3)①については、検索機能を確保する簡易な方法として、国税庁ホームページに下図の方法(索引簿を作成するかファイル名に規則性を持たせるか)が示されています。

出所;国税庁ホームページ

改正電子帳簿保存法:電子取引と電子データの具体例

1.電子取引とは?

 2022(令和4)年1月1日から施行されている改正電子帳簿保存法には、2年間の宥恕規定が設けられています。
 宥恕規定はシステム対応が間に合わなかった事業者に適用される経過措置であり、これにより2023(令和5)年12月31日までは、「電子取引」を「電子データ」で保存せずに「出力書面(紙)」で保存することができます。
 しかし、2024(令和6)年1月1日からは、「電子取引」をプリントアウトして「紙」で保存することは認められなくなり、「電子データ」で保存しなければなりません。
 ところが、「電子データ」のまま保存しなければならない「電子取引」には、具体的にどのようなものが該当するのかわかりにくい一面があります。
 この点については、国税庁ホームページの「電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)」の「問2 電子取引とは、どのようなものをいいますか。」において、以下の回答が示されています。

 「電子取引」とは、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいいます(法2六)。
 なお、この取引情報とは、取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいいます。
 具体的には、いわゆるEDI取引、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む。)、インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引等をいいます。


 一定の回答が示されてはいるものの、電子取引が具体的にどのようなものをいうのかについては、やはり判然としません。

2.電子取引の具体例と保存対象となる電子データ

 しかし、国税庁ホームページの「電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)」を読み進めると、次の「問3」の質問が電子取引の具体例を考えるにあたって参考になります。

 当社は以下のような方法により仕入や経費の精算を行っていますが、データを保存しておけば出力した書面等の保存は必要ありませんか。
(1) 電子メールにより請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)を受領
(2) インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)又はホームページ上に表示される請求書や領収書等のスクリーンショットを利用
(3) 電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービスを利用
(4) クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、スマートフォンアプリによる決済データ等を活用したクラウドサービスを利用
(5) 特定の取引に係るEDIシステムを利用
(6) ペーパーレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用
(7) 請求書や領収書等のデータをDVD等の記録媒体を介して受領


 この「問3」の質問に対して、回答では「(1)~(7)のいずれも『電子取引』(法2五)に該当すると考えられます」と示されていますので、「問3」の内容を参考にして、電子取引の範囲と具体例及び対象となる電子データについて下表にまとめます。

電子取引の範囲 電子取引の具体例 対象となる電子データ
(1) 電子メールによる請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)の授受 取引先等との受発注等 ・メールに添付された請求書・領収書等のPDFファイル等
・メール本文
(2) インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)の受領又はホームページ上に表示される請求書や領収書等のスクリーンショットの利用 Amazon、Rakuten等のEC(電子商取引)サイト 電子請求書、電子領収書、注文詳細等のメールや画面等
・Yahoo!オークション等のオークションサイト
・メルカリ、ラクマ、PayPayフリマ等のフリーマーケットサイト
商品画面、取引履歴画面、連絡メール等
クレジットカード 電子提供される利用明細書等
ネットバンキング 振込等各種取引、ペイジーやデビット等決済の詳細、入出金履歴等の明細
電気・ガス、携帯電話等のインフラ会社等のお客様管理ページ 電子請求書、電子領収書等
(3) クラウドサービスを利用した電子請求書や電子領収書の授受 Misoca、楽楽明細等の請求書発行システム 電子請求書、電子領収書等
(4) クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、スマートフォンアプリによる決済データ等の受領 ・JCB、三井住友カード等のクレジットカード
・ICOCA、Suica、iD等の電子マネー
・PayPay、LINEPay等のアプリ
電子提供される利用明細書等、決済完了通知、決済履歴等の画面等
(5) EDIシステムを利用した請求書等の授受 インフォマート、ビーエルトラスト、スマクラ等のEDIサービス 電子契約書、電子請求書・電子領収書等受発注に関する商取引文書
(6) ペーパーレスFAXを利用した請求書等の授受

複合機で受信後に出力指定することによりプリントアウトされるもの

複合機内に受信されたFAXデータ、発信の場合は相手に送信したデータ
eFax等のインターネットファックス クラウド上の受信データ、発信の場合は相手に送信したデータ
(7) DVD等の記録媒体を介した請求書や領収書等のデータの受領 DVD、CD-R、USBメモリ等 電子契約書、電子請求書・電子領収書等受発注に関する商取引文書

「事前確定届出給与に関する届出書」等の書き方と記載例

 従来は臨時的ないわゆる役員賞与については損金算入が認められていませんでしたが、事前確定届出給与の制度を利用すれば、臨時的な給与(賞与)であっても一定の要件を満たせば損金算入が可能です。
 この制度を利用するには、納税地の所轄税務署長に対して、あらかじめ確定している支給時期・支給金額のほか、必要事項を記載した届出書等を届出期限までに提出しなければなりません。 
 以下では、3月決算法人が2023(令和5)年5月27日に定時株主総会を開催し、それに基づく事前確定届出給与に関する届出を2023(令和5)年6月7日に届け出た場合の「事前確定届出給与に関する届出書」と「付表1(事前確定届出給与等の状況(金銭交付用))」について、書き方と記載例を確認します。

1.「事前確定届出給与に関する届出書」の書き方と記載例

 以下において、「事前確定届出給与に関する届出書」の主な項目について書き方を確認します。その他の項目については、上図の記載例をご参照ください。

(1)「①事前確定届出給与に係る株主総会等の決議をした日及びその決議をした機関等」欄は、「株主総会」や「取締役会」など事前確定届出給与に関する決議をした機関名と決議日を記入します。
 今回の例では、「決議をした日」が2023(令和5)年5月27日、「決議をした機関等」が株主総会となります。

(2)「②事前確定届出給与に係る職務の執行を開始する日」欄は、一般的に役員給与は定時株主総会から次の定時株主総会までの間の職務執行の対価であると考えられるため、定時株主総会開催日を記入します。
 今回の例では、2023(令和5)年5月27日となります。

※ 事前確定届出給与対象者のうちその職務の執行を開始する日が異なる者がいる場合には、この欄の余白部分に、例えば「一部役員については令和○年○月○日」等と記載します。

(3)「届出期限」欄の「①又は②に記載した日のうちいずれか早い日から1月を経過する日」は、①又は②の翌日を起算日として暦に従って計算します。
 今回の例では、①②ともに5月27日ですので、その翌日の5月28日が起算日となり6月27日が「1月を経過する日」になります。

(4)「届出期限」欄の「会計期間4月経過日等」は、会計期間開始の日から4月を経過する日を記入します。
 今回の例では、会計期間開始日が2023(令和5)年4月1日ですので2023(令和5)年7月31日となります。

(5) 以上より、届出期限は(3)と(4)のうちいずれか早い日となりますので、今回の例では、2023(令和5)年6月27日が届出期限となります。

(注)定期給与を受けていない者に対して、株主総会等で決議した「所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定め」に基づいて継続して毎年支給する給与、例えば、非常勤役員に対して四半期ごとに支給する給与についても、この届出が必要となります。
 ただし、同族会社に該当しない法人が、定期給与を支給しない役員に対して支給する給与で金銭によるものについては、この届出は必要ありません。
 詳細については、本ブログ記事「届出不要の事前確定届出給与とは?」をご参照ください。

2.「付表1(事前確定届出給与等の状況(金銭交付用))」の書き方と記載例

 この付表は、「所定の時期に確定した額の金銭を交付する旨の定め」に基づき支給する給与について届け出る場合に、「事前確定届出給与に関する届出書」に添付するものです。
 以下において、「付表1(事前確定届出給与等の状況(金銭交付用))」の主な項目について書き方を確認します。その他の項目については、上図の記載例をご参照ください。

(1) 「事前確定届出給与に係る職務の執行の開始の日(職務執行期間)」欄には、「所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定め」に係る職務の執行の開始の日(定時株主総会の開催日など)及び職務執行期間(定時株主総会の開催日から次の定時株主総会の開催日までの期間など)を記載します。

(2) 「当該事業年度」欄には、この届出をする事業年度を記載します。

(3) 用紙左側の「事前確定届出給与に関する事項」の「支給時期(年月日)」欄及び「支給額(円)」欄には、次のように記載します。

① 「区分」欄の「届出額」欄は、前回以前の届出において届け出た事前確定届出給与の支給時期及び支給額について記載します。
 「届出額」欄の記載例では、前回の届出で「令和4年12月6日に800,000円を支給する」こととしていた事前確定届出給与について記載しています。

② 「区分」欄の「支給額」欄は、①の事前確定届出給与の実際の支給時期及び支給額について記載します。
 「支給額」欄の記載例では、前回の届出通りに実際に支給が行われたことを記載しています。

③ 「区分」欄の「今回の届出額」欄は、今回の届出において届け出る事前確定届出給与について、届出の時において予定されている支給時期及び支給額について記載します。
 「今回の届出額」欄の記載例では、「令和5年12月5日に900,000円を支給する」こととしている事前確定届出給与について記載しています。

(4) 用紙右側の「事前確定届出給与以外の給与に関する事項」の「支給時期(年月日)」欄及び「支給額(円)」欄には、事前確定届出給与対象者に対して支給した、又は支給しようとする事前確定届出給与以外の給与について、届出の時において予定されている支給時期及び支給額を記載します。


令和5年度雇用保険料率が改定されます

1.厚生労働省関係の制度変更

 2023(令和5)年4月に実施される厚生労働省関係の制度変更には、中小企業等の雇用・労働関係に影響を与える事項も含まれています。
 例えば、「中小企業の月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の25%から50%への引上げ」や「雇用保険料率の引上げ」などの事項です。
 以下では、雇用保険法等の一部を改正する法律の施行により改定される2023(令和5)年度の雇用保険料率を確認します。

※ 中小企業の月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引上げの詳細については、本ブログ記事「令和5年4月から中小企業も月60時間超の残業割増賃金率が50%になります」をご参照ください。

2.令和5年度の雇用保険料率

 雇用保険法等の一部を改正する法律の施行により、2023(令和5)年度の雇用保険料率が改定されます(適用開始:2023(令和5)年4月1日)。
 改定前(2023(令和5)年3月まで)と改定後(2023(令和5)年4月~2024(令和6)年3月)の雇用保険料率は、以下のとおりです。

(1) 改定前(2023(令和5)年3月まで)

事業の種類 一般事業 農林水産業・清酒製造業 建設業
被保険者負担率 5.0/1000 6.0/1000 6.0/1000
事業主負担率 8.5/1000 9.5/1000 10.5/1000
合計負担率 13.5/1000 15.5/1000 16.5/1000

(2) 改定後(2023(令和5)年4月~2024(令和6)年3月)

事業の種類 一般事業 農林水産業・清酒製造業 建設業
被保険者負担率 6.0/1000 7.0/1000 7.0/1000
事業主負担率 9.5/1000 10.5/1000 11.5/1000
合計負担率 15.5/1000 17.5/1000 18.5/1000

 なお、労働保険は労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険に分かれますが、改定されるのは雇用保険料率であり、労災保険料率は前年(2022(令和4)年度)の料率から改定されていません。
 また、令和5年度雇用保険料は、2023(令和5)年4月1日以降に到来する給与締め日を基準に改定を行います。給与支払日ではありませんので、改定のタイミングにご注意ください。

※ 労働保険の年度更新については、本ブログ記事「労働保険の年度更新の仕組みと会計処理(仕訳)」をご参照ください。



令和5年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例

 年末調整では、勤務先に各種申告書(扶養控除等申告書、基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書、保険料控除申告書、住宅借入金等特別控除申告書)を提出することで、いろいろな控除を受けることができます。
 これらの申告書のうち、今回は2023(令和5)年分扶養控除等申告書の書き方を確認します。扶養控除等申告書には2024(令和6)年分もありますが、令和5年分は今年(令和5年)の年末調整の計算に使用するため、令和6年分は来年(令和6年)1月から支払う給与の計算に使用するため、勤務先に提出します。
 令和5年分扶養控除等申告書は、昨年(令和4年)の年末調整時に提出済み、途中入社の方は入社時に提出済みだと思われますが、今年(令和5年)の年末調整で修正事項(結婚や出産により扶養者が増えた等)の有無を確認するため、勤務先より配布されます。
 以下で、令和5年分扶養控除等申告書の書き方について確認します。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長等
 給与の支払者(勤務先)の所在地等の所轄税務署長とあなた(給与所得者)の住所地等の市区町村長を記載します。

(2) 給与の支払者の法人(個人)番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の個人番号又は法人番号を付記します。給与の支払者が法人の場合は、給与の支払者の法人番号をあらかじめ記載(印字)して、給与所得者に配付しても差し支えありません。

(3) あなたの個人番号
 あなたの個人番号を記載する必要がありますが、一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください。

※本ブログ記事「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」のマイナンバー記載を省略する方法」をご参照ください。

(4) あなたの住所又は居所
 令和5年分は、令和5年12月31日時点の住所を記載します(給与の支払者の指示に従ってください)。令和6年分は、令和6年1月1日時点の住所を記載します。

(5) 配偶者の有無
 ここでいう配偶者とは、一定の要件を満たす必要のある源泉控除対象配偶者のことではありません。単に配偶者がいれば「有」に○、いなければ「無」に○を付けます。

(6) 従たる給与についての扶養控除等申告書の提出
 2か所以上から給与の支払を受けている人が、他の給与の支払者に「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出している場合に◯を付けます。

※ 本ブログ記事「『従たる給与についての扶養控除等申告書』とは?」をご参照ください。

2.源泉控除対象配偶者、控除対象扶養親族の記入

(1) 源泉控除対象配偶者
 配偶者が「源泉控除対象配偶者」となるには、以下の要件を満たす必要があります。

① あなたの所得金額が900万円以下である(給与収入のみならば年収1,095万円以下)
② 配偶者の所得金額が95万円以下である(給与収入のみならば年収150万円以下)
③ あなたと生計を一にする配偶者である
④ 青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない

 上記4要件を満たす場合は、配偶者の情報を記入します。なお、年末調整において配偶者(特別)控除の適用を受けるには、この欄の記載の有無に関わらず「給与所得者の配偶者控除等申告書」の提出が必要です。

※ ここでいう所得金額は合計所得金額です。合計所得金額については、本ブログ記事「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。
※「生計を一にする」については、本ブログ記事「所得控除における『生計を一にする』の判定基準」をご参照ください。

(2) 控除対象扶養親族
 親族が「控除対象扶養親族」となるには、以下の要件を満たす必要があります(①~③は扶養親族の要件)。

① 親族の所得金額が48万円以下である(給与収入のみならば年収103万円以下)
② あなたと生計を一にする親族である
③ 配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない
④ 居住者のうち、年齢16歳以上である人(平成20年1月1日以前生)
⑤ 非居住者のうち、次のイ~ハのいずれかに該当する人
イ 年齢16歳以上30歳未満の人(平成6年1月2日から平成20年1月1日までの間に生まれた人)
ロ 年齢70歳以上の人(昭和29年1月1日以前に生まれた人)
ハ 年齢30歳以上70歳未満の人(昭和29年1月2日から平成6年1月1日までの間に生まれた人)のうち、「留学により国内に住所及び居所を有しなくなった人」、「障害者」又は「あなたから令和5年中において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受ける人」

 上記の要件(①~④又は①~③⑤)を満たす場合は、親族の情報を記入します。なお、児童福祉法の規定により養育を委託されたいわゆる里子や老人福祉法の規定により養護を委託されたいわゆる養護老人で、あなたと生計を一にし、令和5年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人も扶養親族に含まれます。

※「非居住者」とは、国内に住所を有せず、かつ、現在まで引き続いて1年以上国内に居所を有しない個人をいいます。

(3) 個人番号
 源泉控除対象配偶者及び控除対象扶養親族の個人番号を記載する必要がありますが、一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください(上記1.(3)参照)。

(4) 老人扶養親族
 控除対象扶養親族が年齢70歳以上(昭和29年1月1日以前生)の場合には、次のとおりいずれかに✓を付けます。

① その人があなた又はあなたの配偶者の直系尊属で、あなた又はあなたの配偶者のいずれかと同居を常況としている人であるとき→「同居老親等」に✓を付けます。
② その人が①以外の人であるとき →「その他」に✓を付けます。

(5) 特定扶養親族
 控除対象扶養親族が年齢19歳以上23歳未満(平成13年1月2日~平成17年1月1日生)の場合に、✓を付けます。

(6) 非居住者である親族
 源泉控除対象配偶者が非居住者である場合に「非居住者である親族」欄に○を付けます。
 また、控除対象扶養親族が非居住者であり、その非居住者の年齢が16歳以上30歳未満又は70歳以上である場合には「非居住者である親族」欄の「16歳以上30歳未満又は70歳以上」に✓を付け、30歳以上70歳未満の場合には、「留学」、「障害者」又は「38万円以上の支払」のうち該当するいずれかの項目に✓を付けます。
 源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族が非居住者である場合、親族関係書類の添付等が必要です。
 また、上記の「留学」に✓を付けた場合は、留学ビザ等書類の添付等が必要です。

3.障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生の記入

(1) 同一生計配偶者
 同一生計配偶者が一般の障害者、特別障害者又は同居特別障害者に該当する場合には、該当する欄に✓を付けます。

※「同一生計配偶者」とは、あなたと生計を一にする配偶者(青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和5年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人をいいます。

(2) 扶養親族
 扶養親族が一般の障害者、特別障害者又は同居特別障害者に該当する場合には、該当する欄に✓を付けます。
 なお、障害者控除の対象となる扶養親族は、控除対象扶養親族とは異なり、年齢16歳未満(平成20年1月2日以後生)の扶養親族も対象となります。

(3) 寡婦、ひとり親、勤労学生
 あなたが寡婦、ひとり親、勤労学生に該当する場合に✓を付けます
 寡婦は、ひとり親に該当しない女性で、以下のいずれかに当てはまる人です。

① 所得金額が500万円以下で、夫と離婚した後に婚姻をしておらず、扶養親族がいる
② 所得金額が500万円以下で、夫と死別した後婚姻をしていない、もしくは夫の生死が明らかでない

 ひとり親は、現在婚姻していない人、もしくは配偶者の生死が明らかでない一定の人のうち、以下のすべてに当てはまる人です。

① 所得金額が500万円以下である(給与収入のみならば、年収6,777,778円以下)
② 生計を一にする子がいる
③ 事実上の婚姻関係にある人がいない

※寡婦、ひとり親については、本ブログ記事「ひとり親控除の新設と寡婦(夫)控除の改正」をご参照ください。

 勤労学生は、以下のすべてに当てはまる人です。

① あなたが学生である(小学校、中学校、高等学校、高等専門学校、大学の学生、国や地方公共団体、学校法人などが設立した専修学校、各種学校、または職業訓練学校のうち一定の要件を満たす学校の学生)
② アルバイトなどの勤労による所得金額が75万円以下である(収入が1つの勤務先からのアルバイト代(給与収入)のみならば、年収130万円以下)

(4) 障害者又は勤労学生の内容
 左記の障害者又は勤労学生に該当する(人がいる)場合、その該当する事実やその人の氏名を記載します。
(例)障害者の場合・・・障害の状態又は交付を受けている手帳などの種類と交付年月日、障害の程度(等級)などの障害者に該当する事実を記載します。

(注)寡婦、ひとり親に該当する方について、死別、離婚、生死不明の別、生計を一にする子の氏名及びその子の所得の見積額など、寡婦又はひとり親に該当する事実の記載は必要ありません。

4.他の所得者が控除を受ける扶養親族等の記入

 他の所得者が控除を受ける扶養親族等の欄については、共働きなどで子供を扶養親族としなかった方が子供の氏名等を記入する欄ですが、空欄でも構いません。記入しなかったとしても「控除額が減り、損をする」というわけではありません。

5.住民税に関する事項の記入

(1) 16歳未満の扶養親族
 年齢16歳未満(平成20年1月2日以後生)の扶養親族について記載します。16歳未満の扶養親族は「扶養控除」の対象外ですが、住民税の計算で利用するためあわせて記載します。

(2) 控除対象外国外扶養親族
 国内に住所を有しない16歳未満の扶養親族に該当する場合に○を付けます。この場合、親族関係書類及び送金関係書類を令和6年3月15日までに住所所在地の市区町村に提出しなければならない場合があります。

(3) 退職手当等を有する配偶者・扶養親族
 退職手当等(源泉徴収されるものに限ります。以下同じです)の支払を受ける配偶者(あなたと生計を一にする配偶者で、令和5年中の退職所得を除いた合計所得金額の見積額が133万円以下であるものに限ります)又は扶養親族について記載します。

(4) 非居住者である親族
 退職手当等の支払を受ける配偶者が非居住者である場合には、「非居住者である親族」欄の「配偶者」に✓を付けます。
 また、退職手当等の支払を受ける扶養親族が非居住者であり、その非居住者の年齢が30歳未満又は70歳以上である場合には「非居住者である親族」欄の「30歳未満又は70歳以上」に✓を付け、30歳以上70歳未満の場合には、「留学」(留学により国内に住所及び居所を有しなくなった人)、「障害者」又は「38万円以上の支払」(あなたから令和5年中において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受ける人)のうち該当するいずれかの項目に✓を付けます。
 この場合、親族関係書類、留学ビザ等書類及び送金関係書類を令和6年3月15日までに住所所在地の市区町村に提出しなければならない場合があります。

(5) 令和5年中の所得の見積額(退職所得を除く)
 令和5年中の退職所得の金額を除いた合計所得金額の見積額を記載します。

(6) 障害者区分
 退職手当等の支払を受ける配偶者のうち同一生計配偶者(あなたと生計を一にする配偶者で、令和5年中の退職所得を除いた合計所得金額の見積額が48万円以下である人をいいます)又は扶養親族について、その配偶者又は扶養親族が障害者である場合は「一般」に✓を付け、特別障害者である場合は「特別」に✓を付けます。

(7) 寡婦又はひとり親
 退職所得を除くと令和5年中の合計所得金額の見積額が48万円以下となる扶養親族を有することにより、あなたが寡婦又はひとり親に該当する場合に、✓を付けます。

(注)記載欄が足りない場合は、適宜の様式に記載してこの申告書に添付します。なお、住民税では、扶養親族等の要件とされる所得の金額には、退職所得の金額は含めないこととされています。

白色申告に関する誤解~損益通算・繰越控除・青色申告承認後の白色申告

 前回(「白色申告に関する誤解~現金主義と収支内訳書」)に続いて、白色申告に関する誤解をとり上げます。

1.白色申告は損益通算できない?

 不動産所得、事業所得、山林所得及び譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額は、一定の順序(第一次通算、第二次通算、第三次通算)で他の所得の金額から控除することができます。
 例えば、不動産外交員など事業所得と給与所得がある人で、事業所得の損失が200万円で給与所得が60万円の場合は、給与所得は0となり、140万円の損失が残ります(60万円-200万円=△140万円)。
 このように、他の黒字の所得金額から損失の金額を差し引くことを、損益通算といいます。
 この損益通算は、その対象となる損失の金額や損益通算の順序などが厳密に決められていますが、青色申告だけに適用する旨の規定はありません。したがって、白色申告の場合でも、損益通算はできます。

2.白色申告は損失の繰越控除ができない?

 青色申告の場合は、損失の生じた年の翌年から3年間にわたってその損失を繰越控除できます。
 先の例でいえば、損益通算して生じた140万円の損失を翌年の所得から控除することができ、それでも控除しきれない損失の金額がある場合は翌々年、翌々翌年の所得から控除することができます。
 では、白色申告の場合は、損失の繰越控除ができないのでしょうか?
 この答えを出すためには、繰越控除できる損失には次の2種類があることを理解する必要があります。

(1) 純損失の繰越控除
 純損失の金額とは、事業所得、不動産所得、総合譲渡所得、山林所得の4つの所得の損失のうち、損益通算しても控除しきれない損失の金額をいいます。先の例で生じた140万円の損失は純損失です。
 青色申告の場合は、この純損失の金額のすべてを、純損失の生じた年の翌年から3年間の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除することができます。
 しかし、白色申告の場合は、純損失の金額のうち、変動所得の損失と被災事業用資産の損失の金額に限り控除することができます。先の例で生じた140万円の純損失は、繰越控除できません。

(2) 雑損失の繰越控除
 雑損控除の額がその年分の所得金額から控除できなかった場合、その控除不足額を雑損失の生じた年分の翌年以後3年間の総所得金額、分離短期(長期)譲渡所得の金額、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得の金額、株式等に係る譲渡所得等の金額、先物取引に係る雑所得等の金額、山林所得金額、又は退職所得金額から控除することができます。
 この雑損失の金額については、青色申告の場合も白色申告の場合も、そのすべてを控除することができます。

 したがって、白色申告は雑損失の金額についてはすべて繰越控除できるが、純損失の金額については変動所得の損失と被災事業用資産の損失の金額しか繰越控除ができないということになります。

3.青色申告の承認後は白色申告できない?

 青色申告の特典を受けるためには、税務署に青色申告承認申請書を期限までに提出しなければなりません。
 では、青色申告の承認を受けた後でも、白色申告はできるのでしょうか?

 青色申告については、所得税法143条に次のように規定されています。

不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行なう居住者は、納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、確定申告書及び当該申告書に係る修正申告書を青色の申告書により提出することができる。

 いわゆる「できる」規定ですので、青色申告の承認を受けたとしても青色申告が強制されるものではありません。
 つまり、青色申告の承認後であっても白色申告をすることができます。

白色申告に関する誤解~現金主義と収支内訳書

 所得税の確定申告には青色申告と白色申告があります。青色申告を行う場合は、税務署に期限までに青色申告承認申請書を提出したり、55万円(電子申告等をすれば65万円)の青色申告特別控除を適用するためには複式簿記による記帳が必要であったりしますので、青色申告の特典を受けるためには手続きや会計処理に若干の煩雑さが伴います。
 白色申告を行う場合は、税務署への届出も必要ありませんし、単式簿記による記帳でも構いませんので、青色申告に比べれば煩雑さはありません。そのため、白色申告はシンプルで簡単というイメージがありますが、このことが白色申告に関する以下のような誤解を生んでいるのかもしれません。

1.白色申告は現金主義でよい?

 発生主義に比べると現金主義は簡単なイメージがあるため、このような誤解があるのかもしれませんが、青色申告も白色申告も、原則として発生主義による記帳を行わなければなりません※1
 現金主義による記帳は、一定の要件※2を満たす青色申告者のみに認められた特典であり、白色申告者に現金主義の適用はありません。

※1 令和4年分以後の業務に係る雑所得(サラリーマンが行うアフィリエイトなど、いわゆる副業)については、その年の前々年分の収入金額が300万円以下である人は、業務に係る雑所得の金額の計算上総収入金額および必要経費に算入すべき金額は、その年において収入した金額および支出した費用の額とすることができます。ただし、この特例を受けるには、確定申告書にこの特例を受ける旨を記載しなければなりません。

※2 不動産所得と事業所得について、その年の前々年分の不動産所得の金額及び事業所得の金額(事業専従者給与(控除)の額を必要経費に算入しないで計算した金額)の合計額が300万円以下であり、「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を、適用を受けようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に新たに開業した場合には、開業した日から2月以内)に提出する必要があります。

2.白色申告の事業所得は収支内訳書を添付しなくてよい?

 収支内訳書を確定申告書に添付して提出する義務のある人は、次のいずれにも該当する人です。

(1) 事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき業務を行っている人
(2) 青色申告をしていない人
(3) 確定申告書を提出する人

 また、収支内訳書を添付する確定申告書には、次の申告書も含まれます。

① 還付を受けるための申告書
② 損失申告用の申告書
③ 準確定申告書

 したがって、確定申告書を提出する義務がある場合だけではなく、確定申告書が提出される限り、要件に該当すれば収支内訳書を添付することになります。
 つまり、事業所得や不動産所得がある白色申告者は、確定申告書に収支内訳書を添付しなければなりません※3

※3 業務に係る雑所得のある人(アフィリエイトを行うサラリーマンなど)は上記の要件を満たさないため、これまでは収支内訳書の添付は不要でした。
 しかし、令和4年分以後の所得税においては、業務に係る雑所得を有する場合で、その年の前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が1,000万円を超える人は、確定申告書を提出する際に総収入金額や必要経費の内容を記載した収支内訳書を添付する必要があります。