「合計所得金額」「総所得金額」「総所得金額等」の違いとは?

 年末調整や確定申告において所得控除を適用する場合に、適用可能かどうかを判定するための基準として所得金額が設けられています。

 例えば、配偶者控除の適用要件は配偶者の所得金額が48万円以下とされていますが、ここでいう所得は「合計所得金額」です。
 一方、寄附金控除額は寄附した金額と所得金額の40%のいずれか少ない金額から2,000円を控除した額とされていますが、ここでいう所得は「総所得金額等」です。

 また、個人住民税においては、均等割の非課税限度額は「合計所得金額」で判定するのに対して、所得割の非課税限度額は「総所得金額等」で判定します。

 このように「合計所得金額」や「総所得金額等」(さらに「総所得金額」もあります)は、所得税や個人住民税の計算に用いられています。
 どれも所得の合計を表すよく似た用語ですが、税法上少しずつ違いがありますので、それらが用いられる場面によって使い分けが必要です。

 以下では、「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」という3つの用語について確認します。

1.課税所得金額の計算過程のどの金額か?

 国税庁のホームページや書籍等では、「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」について詳細な説明がされています。
 例えば、国税庁ホームページでは、「合計所得金額」について以下のように説明されています。

次の①と②の合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額です。

※ 申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額を加算した金額です。

① 事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の合計額(損益通算後の金額)
② 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額


ただし、「◆総所得金額等」で掲げた繰越控除を受けている場合は、その適用前の金額をいいます。

 確かにこの説明を読みくだいていけば「合計所得金額」がどういうものであるかがわかります。
 また、「総所得金額」と「総所得金額等」についても説明を読み解けば個々の理解はできます。
 しかし、3者の違いまでわかろうとすると、説明文を読むだけでは困難だと思われますので、ここでは図を用いて理解の一助とします。

 「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」は、課税所得金額の計算過程で出てくる用語ですので、これらの違いを理解するには、課税所得金額の計算構造を示した下図が参考になると思われます。

 課税所得金額は、各種所得の金額を一定の順序に従い損益通算し、純損失、雑損失等の繰越控除をして課税標準を求め、その課税標準から所得控除額を差し引いて計算します。
 詳細な説明は省きますが、「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」の違いを理解するにあたっては、これらが課税所得金額の計算過程のどの時点で出てくるかに注目することがポイントです。
 つまり、損益通算の前なのか後なのか、繰越控除の前なのか後なのか、分離課税の譲渡所得の特別控除の前なのか後なのか、所得控除の前なのか後なのか、ということです。

2.合計所得金額で判定するもの

 合計所得金額を用いて判定するものには、以下のものがあります。

・配偶者控除(本人の所得1,000万円以下、配偶者の所得48万円以下等)、配偶者特別控除
・扶養控除(扶養親族の所得48万円以下等)
・寡婦、ひとり親控除(500万円以下)
・基礎控除(2,500万円以下)
・住宅借入金特別控除(2,000万円以下)
・均等割の非課税限度額
・障がい者、未成年者、寡婦、ひとり親の非課税限度額 等

3.総所得金額で判定するもの

 総所得金額には分離所得が含まれていないので、判定基準として使用されることはあまりありません。

4.総所得金額等で判定するもの

 総所得金額等を用いて判定するものには、以下のものがあります。

・雑損控除
・医療費控除
・寄附金控除
・所得割の非課税限度額 等

個人住民税(市・県民税)の申告の要否について

 2024(令和6)年度の個人住民税(市・県民税)は、2023(令和5)年中の所得等により計算され、2024(令和6)年1月1日に居住していた市区町村で課税されます。
 2023(令和5)年分の所得税確定申告期間は、2024(令和6)年2月16日(金)から3月15日(金)までとなっています。
 この間に所得税の確定申告をした人は、原則として個人住民税の申告をする必要はありません。
 一方、所得税の確定申告をする必要のない人(例えば、公的年金等の収入金額が400万円以下で公的年金等以外の所得金額が20万円以下の人)でも、個人住民税の申告はしなければなりません(確定申告不要制度については、本ブログ記事「給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度の注意点」をご参照ください)。
 以下では、個人住民税の申告の要否について確認します。

1.住民税の申告が必要な人

 以下の人は、2024(令和6)年度個人住民税の申告が必要です。

(1) 賦課期日(令和6年1月1日)現在において市内に在住し、かつ前年(令和5年)中の合計所得金額が43万円を超える人
(2) 賦課期日(令和6年1月1日)現在において市内に在住し、前年(令和5年)中の合計所得金額が43万円以下の人のうち課税(所得)証明書が必要な人
(3) 賦課期日(令和6年1月1日)現在において市外に在住し、市内に事業所や事務所がある個人事業者

※ 例えば、宝塚市に住んでいる人が西宮市の事業所で事業を行っている個人事業者である場合は、宝塚市には均等割と所得割を納付し、西宮市には均等割を納付することになります。

出所:西宮市ホームページ

2.住民税の申告が不要な人

 以下の人は、2024(令和6)年度個人住民税の申告は不要です。

(1) 所得税の確定申告をする人※1
(2) 前年(令和5年)中に所得がなかった人※2
(3) 前年(令和5年)中の所得が給与のみで、勤務先から市役所に給与支払報告書が提出されている人
(4) 前年(令和5年)中の所得が公的年金のみで、扶養・配偶者などの控除が前年(令和5年)分の公的年金などの源泉徴収票に記載されている内容どおりの人※2

※1 所得税の確定申告をする場合でも、確定申告書第2表の住民税に関する事項に記入もれ等があると、所得税額に影響がなくても個人住民税額等に影響する場合がありますので注意が必要です。

出所:宝塚市ホームページ

※2 上記(2)に該当する人でも健康保険の手続きなどで所得申告が必要な場合や、上記(4)に該当する人でも生命保険料控除や医療費控除などを追加する場合は、申告が必要となることがあります。

2024(令和6)年度から改正される個人住民税

 2024(令和6)年度から適用される個人住民税に関連する改正項目について、以下で確認します。

1.上場株式等の配当所得等に係る課税方式の統一

 上場株式等に係る配当所得等及び譲渡所得等に係る所得の課税方式を、所得税と住民税で一致させることとなりました。
 これまでは、上場株式等の配当所得等・譲渡所得等については所得税と住民税で異なる課税方式を選択できましたが、2024(令和6)年度課税分からは所得税において選択した課税方式が個人住民税にも適用され、所得税と住民税で異なる課税方式を選択することができなくなりました
 この改正により、扶養控除や配偶者控除等の適用、非課税判定、国民健康保険税の保険料算定など、各種行政サービスに影響する場合がありますのでご注意下さい。

※ これに伴い、2023(令和5)年分所得税確定申告書(第二表)における「住民税・事業税に関する事項」の「住民税」のうち、「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」欄が削除されています。

2.国外居住親族に係る扶養控除等の見直し

 30歳以上70歳未満の国外居住親族(国内に住所がなく、かつ、1年以上国内に居住していない親族)は、「扶養控除等の適用」及び「非課税限度額を算定するための扶養親族」の対象外となります。
 ただし、以下のいずれかに該当する人は対象となります。

(1) 留学により国外居住者となった人
(2) 障碍者
(3) 扶養親族等を申告する納税義務者から、生活費又は教育費に充てるための支払いを、税額の計算対象となる年(2024(令和6)年度の個人住民税の場合は2023(令和5)年中)において38万円以上受けている人

 これらに該当する人に係る扶養控除等の適用を受けようとする場合には、年末調整や確定申告等の際に各種証明書類を添付する必要があります(関連記事:「令和6年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」)。

3.森林環境税(国税)の課税開始

 森林環境税は、温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止を図るため、森林の整備などに必要な地方財源を安定的に確保するための国税で、年額1,000円が個人の市・県民税の均等割と併せて課税されます。
 その税収は全額が森林環境贈与税として国から自治体へ譲与され、森林整備などに充てられます。
 一方、東日本大震災からの復興を図ることを目的とした均等割1,000円(市・県500円ずつ)の課税は、2023(令和5)年度で終了します。
 これにより、個人住民税均等割と森林環境税の合計額は従前の個人住民税均等割の額と同額となります(下表は兵庫県宝塚市の場合)。

税目 平成26~令和5年度 令和6年度~
森林環境税 1,000円
市民税均等割 3,500円 3,000円
県民税均等割 2,300円 1,800円
合計 5,800円 5,800円

事務所・店舗等を移転した場合の償却資産申告書の記載例

1.償却資産税の申告対象

 償却資産とは、土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産で、所得税法又は法人税法の所得の計算上減価償却の対象となる資産をいいます。
 例えば、飲食店を営む個人事業主であれば、店舗で使用している冷蔵庫やレジスター、エアコン等が該当します。

 償却資産は毎年1月1日現在での所有状況を、1月31日までにその償却資産の所在地の市区町村へ申告することになっています。

 1月1日現在において事業の用に供することができる資産であれば、遊休資産(稼動を休止しているが、維持補修が行われている資産)、未稼働資産(すでに完成しているが、まだ稼働していない資産)、償却済み資産(減価償却を終わり、残存価額のみ帳簿に計上されている資産)なども申告対象となります
 一方、自動車税・軽自動車税の課税対象となる車両無形固定資産(ソフトウェア、鉱業権、漁業権、特許権等)、繰延資産(創立費、開業費、試験研究費等)などは申告対象とはなりません
 また、少額の減価償却資産については、取得価額10万円未満の資産のうち一時に損金算入したもの、取得価額20万円未満の資産のうち3年間で一括償却したものなどは申告対象から除外されますが、中小企業者等が取得価額30万円未満の減価償却資産の合計額 300万円までを損金算入した場合(中小企業者等の少額資産特例)は申告対象となります

※ 取得価額が10万円未満の資産であっても、一時に損金算入せず個別に減価償却しているものは償却資産税の申告対象となります。

2.移転前と移転後の両方の所在地に申告が必要

 先に述べたように、償却資産は毎年1月1日現在での所有状況を、1月31日までにその償却資産の所在地の市区町村へ申告することになっています。
 もし、本店や事務所、店舗等を移転し償却資産の所在地が変わった場合は、移転後の所在地だけではなく移転前の所在地の市区町村に対しても償却資産申告書を提出する必要があります。
 次の設例を用いて、飲食業を行っている法人が店舗を移転した場合の償却資産申告書記載例を示します。

 株式会社ITAMIは、兵庫県伊丹市○○1-2-3に所在する店舗で飲食業を行っていたが、令和5年9月29日にその店舗を廃止し、令和5年9月30日から兵庫県宝塚市○○町4-5-6へ店舗を移転(開設)した。
 令和6年1月26日に、令和6年度償却資産申告書を伊丹市と宝塚市に提出した。

 旧店舗の所在地の伊丹市には、償却資産申告書の「備考」欄(下図の赤枠内)に必要事項を記入して、申告書だけを提出します。
 種類別明細書(増加資産・全資産)は提出する必要はありません(ただし、これは兵庫県伊丹市の例であって、市区町村によっては種類別明細書の提出も求められることがあります)。

 新店舗の所在地の宝塚市には、償却資産申告書と種類別明細書(増加資産・全資産)を提出します。
 償却資産申告書の書き方のポイントは、次のとおりです。

(1) 伊丹市の申告書に記載されている「前年前に取得したもの(イ)」欄の金額を、宝塚市の申告書の「前年中に取得したもの(ハ)」欄に転記します。下図記載例では令和5年1月2日以降に取得した償却資産が無いことを前提としていますが、もし取得した償却資産があればその金額も加算します。

(2) 申告書の「異動事項」欄に異動日の日付を記入し、該当項目を〇で囲みます。今回はア~オに該当する項目がありませんので、「備考」欄に伊丹市より転入と記載します。

 種類別明細書(増加資産・全資産)の書き方のポイントは、次のとおりです。

(1) 「資産の種類」、「資産の名称等」、「数量」、「取得年月」、「取得価額」、「耐用年数」の各欄は、伊丹市の種類別明細書(増加資産・全資産)に記載されている内容を転記します。
 「増加事由」欄は3(移動による受け入れ)を〇で囲み、「摘要」欄に伊丹市よりと記入します。

(2) もし令和5年1月2日以降に取得した償却資産がある場合は、その取得の記入をします。


 

登記簿上の名目本店に均等割はかかるのか?(異動届の記載例あり)

1.名目本店とは?

 法人を設立する際に、代表者の自宅を法人の本店として登記し、事業は本店所在地とは別の場所に設けた店舗で行うことがあります。
 本店と店舗の所在地が同一市内(例えばA市とします)にあれば、法人市民税の均等割は本店と店舗が所在するA市に対して納付します。

 しかし、本店の所在地はそのままで、店舗だけを他の市に移転した場合は、均等割は本店と店舗の両方の所在地に対して納付するのでしょうか?
 例えば、代表者の自宅を本店登記地としてA市に残し、店舗だけをB市に移転した場合は、A市とB市の両方に均等割を納付するのでしょうか?

 本店でも事業を行っているのであれば、本店と店舗が所在するA市とB市に対して均等割を納付しなければなりませんが、本店で事業を行っていない場合は、本店が所在するA市に対して均等割を納付する必要はありません。このような登記簿上のみの本店のことを「名目本店」といいます

 もう少し具体的に言うと、例えば飲食業を行う法人が、代表者の自宅が所在するA市を本店登記地として残したまま店舗だけをB市に移転した場合は、その本店で事業活動(飲食業)を行っていないのであれば、その本店は登記簿上の「名目本店」に該当し、A市に均等割を納める必要はありません。

 名目本店に均等割はかかりませんが、店舗を移転した場合はA市とB市に異動届を提出しなければなりません。

2.異動届の記載例

 次の設例によって、名目本店の所在地と店舗の移転先に提出する異動届の記載について確認します。

 飲食業を行う株式会社ITAMIは、代表者の自宅がある伊丹市○○1-2-3を本店所在地として登記している。
 本店は登記簿上の名目本店であり、営業は伊丹市△△7-8-9にある店舗で行っている。
 同社は令和5年11月29日に伊丹市△△7-8-9に所在する店舗を廃止し、令和5年12月5日に宝塚市○○町4-5-6へ店舗を移転(開設)した。
 これら店舗の移転に関する異動届を、令和5年12月12日に伊丹市と宝塚市へ提出し、伊丹市と宝塚市を管轄する兵庫県阪神北県税事務所にも同様の異動届を提出した(県税事務所への異動届は記載例省略)。
 なお、登記を伴う異動ではないことから、本店所在地の伊丹市を管轄する伊丹税務署へは異動届を提出していない。

・代表者の自宅の所在地:兵庫県伊丹市〇〇1-2-3
・名目本店の所在地:兵庫県伊丹市〇〇1-2-3
・店舗の元々の所在地:兵庫県伊丹市△△7-8-9
・移転した店舗の所在地:兵庫県宝塚市○○町4-5-6

 上記設例における伊丹市への異動届の記載例は、次のとおりです。異動届の備考欄に、登記簿上の本店が名目本店であり、事業活動を行っていない旨を記載します。

 宝塚市への異動届の記載例は、次のとおりです。登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の写しと定款の写しを異動届に添付します。

パート・アルバイトの税制上と社会保険制度上の年収の壁

 年末が近づいてくると、パートやアルバイトで働く人の中には、ある一定の年収を超えないように就業調整をする人が出てきます。
 例えば、年収103万円を超えると配偶者控除や扶養控除の対象から外れるため、労働時間を抑制して103万円というラインを超えないようにします。
 この103万円というラインのことを一般に「年収の壁」と呼びますが、年収の壁は103万円だけではありません。
 以下においては、パートやアルバイトで働く給与所得者を前提として、税制上と社会保険制度上の年収の壁について確認します。

1.98万円の壁(住民税)

 年収の壁としてまず直面するのは、住民税における98万円の壁です。給与収入が年間で98万円を超えると住民税がかかります。
 所得税における基礎控除は48万円ですが、住民税における基礎控除は43万円です。そのため、年収が98万円であれば、給与収入98万円-給与所得控除55万円-基礎控除43万円=0円となるので住民税はかかりませんが、98万円を超えると住民税がかかります

※ 住民税は、所得金額に応じて課税される「所得割と、定額で課税される「均等割」から成りますが、住んでいる地域によって住民税が非課税となる所得金額は異なります。詳しくは本ブログ記事「住民税非課税世帯とは?」をご参照ください。

2.103万円の壁(所得税)

 年収の壁として広く一般に認識されているのは、所得税における103万円の壁です。
 配偶者控除や扶養控除の対象となるには合計所得金額が48万円以下であることが必要ですが、年収が103万円であれば、給与収入103万円-給与所得控除55万円=48万円となるので、配偶者控除や扶養控除の対象となります。
 また、年収が103万円であれば、給与収入103万円-給与所得控除55万円-基礎控除48万円=0円となるので本人にも所得税はかかりません。

3.106万円の壁(社会保険)

 社会保険制度上の年収の壁として、106万円の壁があります。
 ①従業員が101人以上(2024(令和6)年10月からは51人以上)、②週の労働時間が20時間以上、③月収8.8万円以上(年収106万円以上)、④2か月以上雇用の見込、⑤学生でない、といった条件を満たす場合は、パートやアルバイト従業員が自ら社会保険被保険者となり社会保険の扶養から外れます。

4.130万円の壁(社会保険)

 所得税における103万円の壁と同様に広く一般に認識されているのが、社会保険における130万円の壁です。
 130万円の壁とは、社会保険被保険者である給与所得者(例えば夫)が扶養する者(例えば妻)については、夫が負担する社会保険料のみで妻の健康保険料及び国民年金保険料まで賄われるという年収の分岐点のことをいいます。
 従業員が101人以上(2024(令和6)年10月からは51人以上)の企業では106万円、それより規模の小さい企業では130万円が年収の壁となっています。

5.150万円の壁(所得税)

 年収103万円を超えると配偶者控除の対象から外れますが(上記2)、年収150万円以下であれば、配偶者特別控除は満額の38万円が適用されます(ただし、給与所得者の合計所得金額が900万円以下の場合です)。
 年収150万円を超えると、段階的に配偶者特別控除が減っていきます。

6.180万円の壁(社会保険)

 意外と見落とされやすいのが、社会保険における180万円の壁です。
 60歳以上や障がい者の方は、年収130万円ではなく年収180万円までは社会保険の扶養に入ることができます(関連記事「扶養判定における遺族年金の取扱いは所得税と社会保険で異なる!」)。

7.201万円の壁(所得税)

 年収150万円を超えると段階的に配偶者特別控除が減っていきますが(上記5)、年収201万円を超えると配偶者特別控除はゼロとなります。
 201万円の壁とは、配偶者特別控除が適用されるか否かの年収の分岐点のことをいいます。

海外転勤者の税金と社会保険

1.国外転出届により国内住所がなくなる

 1年以上の予定で海外転勤となる場合は、居住している自治体に国外転出届を提出します。この届出により国内に住所はなくなりますが、国内に住所がなくなることで、住所を基に課される税金や社会保険の扱いも変わってきます。

※ 国外に居住することとなった者は、国外における在留期間が契約等によりあらかじめ1年未満であることが明らかであると認められる場合を除き、「国外において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する者」として、非居住者として取り扱われます。

2.非居住者の所得税・住民税

 国内に住所がなくなると、所得税法上の納税義務者区分は非居住者となります。
 非居住者は、給与以外の所得がなければ日本での所得税の課税はなく、勤務先国での税法に従った課税となります(駐在期間中の自宅を他人用の賃貸に出すなど、給与以外の日本国内源泉所得がある場合は、日本での確定申告が必要となることもあります)。

 個人住民税は、その年の1月1日時点で市町村(都道府県)に住所がある者に対して課税されます。そのため、住所がなくなった翌年からは、帰国して住所を持つこととなるまで、住民税は課されないことになります。

※ 非居住者(内国法人の役員等一定の者を除きます)の国外勤務に係る給与が、非居住者の国内口座に振り込まれている場合でも、振込額の全額が日本での課税対象とはなりません。日本での課税対象となるものは、非居住者が支払を受ける給与のうち国内勤務に係る給与です。

3.非居住者の社会保険

 赴任前の国内会社から継続して国内払い給与があれば、海外赴任中も各種社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険など)の被保険者資格は継続となります
 厚生年金につき、赴任先国と日本との間で年金協定があれば、2つの国での二重払いを回避できます。

 健康保険が継続していると、海外赴任中に急な病気やけがなどによりやむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合に、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる海外療養費制度が使えます。

 一方、雇用主が駐在先の現地法人となる場合には、現在の日本での被保険者資格を喪失することになります。その場合は厚生年金から国民年金への切り替えや健康保険の任意継続などの手続きが必要となります。

 国民年金は、日本国籍者であれば、海外居住でも任意加入できます。国民年金に任意加入する目的としては、年金をもらう条件として必要な加入期間を充足させることと将来もらえる年金額を減らさないためなどです。
 なお、海外在住者に国民健康保険の任意加入制度はありません。

※ 健康保険および厚生年金保険は、適用事業所に勤務する限り、国内における住所の有無を問わず加入します。なお、社会保障協定を結んでいる国で働く場合、外国の社会保障制度の加入が免除される場合があります。

法人住民税の均等割における事務所、事業所、寮等とは?

1.法人住民税均等割の納税義務者

 法人に課される地方税の代表的なものに、都道府県税と市町村民税があります。また、都道府県民税と市町村民税は、法人税割と均等割に大別されます。
 法人税割は、国税である法人税額を基準にして課される税金ですので、基本的には利益が出ている法人が対象になります。
 一方、均等割は利益が出ていなくても課される税金で、地方団体(都道府県と市町村)が提供する行政サービスを享受していることに対する負担という意味合いが強いといえます。
 利益が出ていなくても課される均等割の納税義務者については、例えば兵庫県のホームページには、次の表が掲載されています。

出所:兵庫県ホームページ

 また、兵庫県神戸市のホームページには、次の表が掲載されています。

出所:神戸市ホームページ

 上記の表から、法人住民税の均等割の納税義務者は、兵庫県内や神戸市内に「事務所または事業所(本店・支店・工場など)」あるいは「寮・宿泊所・クラブ・保養所・集会所など」を設けている法人であることがわかります。
 しかし、ここで疑問が生じます。
 「事務所または事業所」(以下「事務所等」といいます)や「寮・宿泊所・クラブ・保養所・集会所など」(以下「寮等」といいます)は、ある程度の例示がされているとはいえ、具体的にはどのようなものを指すのでしょうか?
 例えば、倉庫や駐車場、社員寮などは事務所等または寮等に該当するのでしょうか?

2.事務所等とは?

 事務所等とは、事業の必要から設けられた人的および物的設備であって、そこで継続して事業が行われる場所です。
 つまり、事務所等の要件として、人的設備、物的設備、事業の継続性の三要件があり、三要件を備えている必要があるということです。

(1) 人的設備
① 人的設備とは事業活動に従事する自然人をいい、正規従業員だけでなく、法人の役員、清算法人における清算人、アルバイト、パートタイマーなども含みます。
② 人材派遣会社から派遣された者も、派遣先企業の指揮および監督に服する場合は人的設備となります。
③ 規約上,代表者または管理人の定めがあるものについては、特に事務員等がいなくても人的設備があるとみなします。

(2) 物的設備
① 物的設備とは、事業が行われるのに必要な土地、建物があり、その中に機械設備または事務設備など、事業を行うのに必要な設備を設けているものをいいます。
② 物的設備は、それが自己の所有であるか否かは問いません。
③ 規約上、特に定めがなく、代表者の自宅等を連絡所としているような場合でも、そこで継続して事業が行われていると認められるかぎり、物的設備として認められます。

(3) 事業の継続性
① 事務所等において行われる事業は、法人の本来の事業の取引に関するものであることを必要とせず、本来の事業に直接、間接に関連して行われる付随的事業であっても社会通念上そこで事業が行われていると考えられるものについては、事務所等とします。
② 事業の継続性には、事業年度の全期間にわたり連続して行われる場合のほか、定期的または不定期的に、相当日数、継続して行われる場合を含みます。
 また、そこで事業が行われた結果、収益ないし所得が発生することは必ずしも必要としません。例えば、単に商品の引渡しなどをする場合でも、相当の人的物的設備を備えていれば事務所等に該当します。
③ 原則として、2~3か月程度(建設工事現場の場合は6か月程度)の一時的な事業の用に供される現場事務所、仮小屋などは事務所等に該当しません。

 以上の三要件から、事務所等の範囲に含まれるか否かを判断するにあたって、注意を要する事例を以下に掲げます。

・材料置場、倉庫および車庫等など単に物的設備のみが独立して設けられたものは、事務所等に該当しません(人的設備のない無人倉庫や独立した車庫は、事務所等とはなりません)。
・モデルハウスは、商品見本としての性格が強いものは事務所等に該当しませんが、展示場として人的設備、物的設備のあるものは、事務所等に該当します。
・デパート内のテナントは、事務所等に該当します。
・法人の出張所を社員の自宅におき、他に事務所を備えず、かつ、社員自ら事務を処理しており、その社員以外に事務員がいない場合は、事務所等には該当しません(例えば、新聞社通信部、保険代理店など)。

3.寮等とは?

 寮等とは、寮、宿泊所、クラブ、保養所、集会所、休憩所その他これらに類するもので、法人等が従業員の宿泊、慰安、娯楽等の便宜を図るために常時設けられている施設をいいます。
 ここで疑問が生じるのは、独身寮や社員寮、社員住宅(社宅)は「寮」に含まれるのか否かということです。
 結論を先に述べると、独身寮、社員寮、社員住宅は寮には含まれません。
 独身寮、社員寮、社員住宅のように特定の従業員の居住のための施設は、この寮等には該当しませんので、均等割は課されません。

※ 関連記事
「決算日直前に完成した保養所の均等割は支払う必要があるか?」
「法人設立や本店移転があった事業年度の均等割の計算方法」


住民票の住所と現住所が異なる場合の確定申告書の提出先

1.納税地

 確定申告書は、納税地の所轄税務署長に提出します。所得税法では、下表のように納税地を定めています。

判定基準 納税地 納税者
原則 特例
① 国内に住所を有する場合※1 住所地 居所、事業所等を納税地として選択する場合※3 居住者※4
② 国内に住所を有せず、居所を有する場合※2 居所地
③ 国内に恒久的施設(事務所、事業所等)を有する場合 恒久的施設の所在地 非居住者※4
④ かつて住所又は居所を有していた場所に親族等が現在居住している場合 当時の住所地又は居所地
⑤ 上記③④に該当しない場合で、国内にある不動産の貸付け等の対価を受ける場合 貸付資産の所在地
⑥ 上記③④⑤に該当しないで、納税地を選択した場合 その者の選択した場所
⑦ 上記③④⑤⑥に該当しない場合 麴町税務署

※1 住所とは生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実により判定します(所得税基本通達2-1)。
※2 居所とは相当期間継続して居住している場所をいい、住所といえる程度に達していないものをいいます(神戸地裁平14.10.7判決)。
※3 納税地の特例を選択する場合は、変更前の所轄税務署長に対して「納税地の変更に関する届出書」を提出する必要があります(所得税法第16条)。
※4 納税者の区分(居住者・非居住者)は、次のとおりです。

納税者の区分 定義
居住者 永住者 日本国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人
非永住者 居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人
非居住者 居住者以外の個人

 確定申告書は納税地の所轄税務署長に提出しますが、居住者については、国内に住所を有する場合は、原則として住所地が納税地となります。
 住所とは生活の本拠をいい、客観的事実によって判定します。一般的には住民票の登録をしている住所が納税地になりますので、確定申告書は原則として住民票のある住所地の所轄税務署長に提出します。

 会社員等の給与所得者でも、医療費控除やふるさと納税等の寄附金控除を受ける場合などは確定申告をする必要があります。基本的には住民票のある住所地と現住所は一致しますので、確定申告書の提出先を迷うことはありません。
 しかし、引越しや転勤などで住所が変わったにもかかわらず、住民票異動の手続きをしていないため、住民票に記載されている住所と現住所が異なることがあります。
 このような場合は、住民票のある住所地と現住所のどちらに確定申告書を提出すればいいのか疑問が生じますが、現住所の所轄税務署長に確定申告書を提出すればよいことになっています。

 また、個人事業主が住所地や居所地以外の地で事業をしている場合は、事業所の所在地を納税地とすることができます。この納税地の特例を選択する場合は、変更前の所轄税務署長に対して「納税地の変更に関する届出書」を提出する必要があります。

2.住民税は二重課税されないか?

 住民票のある住所と実際の現住所が異なる場合は、現住所の所轄税務署長に確定申告書を提出することになりますが、この場合に心配なのが、住民票のある住所地と現住所で住民税が二重課税されないか、ということです。
 住民税は住民票のある市町村が課税しますが、今回のケースのように住民票のある市町村と現住所の市町村が異なっている場合は、現住所の市町村が課税することになっています(地方税法294条3項・4項)。したがって、住民税が二重課税されるということはありません。

 ただし、市町村内に事業所等を有する個人事業主で当該市町村内に住所(生活の本拠)を有しない者は、原則として住民税の均等割が課税されます。
 しかし、前年の合計所得金額が市町村の条例で定める金額以下の場合は、均等割は非課税となります(地方税法294条1項2号)。

法人設立や本店移転があった事業年度の均等割の計算方法

1.1月に満たないときは1月とし、1月に満たない端数があるときは端数を切り捨て

 法人が地方団体に納めるべき税金として、法人住民税(都道府県民税と市町村民税)があります。
 法人住民税は、都道府県及び市町村に事務所、事業所(以下「事務所等※1」といいます)又は寮等※2を有する法人等に課税され、法人の規模に応じて決まる「均等割」と法人税(国税)の額に応じて決まる「法人税割」とがあります。
 法人税割は、黒字で国に法人税を納めている法人に課税されるのに対して、均等割は赤字の法人でも課税されます。
 均等割は、事業年度末日現在の資本金等の金額等と従業者数により、都道府県ごと・市町村ごとに年税額が決められており、事務所等又は寮等を有していた月数に応じて計算します。通常は12か月で計算しますが、事業年度中に法人設立や本店移転があった場合等は、暦に従って月数を計算し、これが1月に満たないときは1月とし、1月に満たない端数があるときは端数を切り捨てます。
 「1月に満たないときは1月とし」とは、例えばその事業年度における事務所等又は寮等を有していた月数が25日間の場合は、これを1か月とカウントすることをいいます。
 「1月に満たない端数があるときは端数を切り捨てます」とは、例えばその事業年度における事務所等又は寮等を有していた月数が11か月と25日の場合は、11か月とカウントすることをいいます。
 以下において、事例ごとに均等割の計算方法を確認します。

※1 自己が所有するものか否かにかかわらず、事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって、そこで継続して事業が行われる場所をいいます。
※2 宿泊所・クラブ・保養所・集会所その他これらに類するもので、法人が従業者の宿泊・慰安・娯楽等の便宜を図るために常時設けている施設をいいます。したがって、寮等とよばれるものであっても、その実質が独身寮・社員住宅などのように特定の従業者が居住するための施設は含まれません。

2.法人設立事業年度の均等割

 例えば、兵庫県神戸市でx1年4月5日に設立した3月決算法人の設立事業年度(x2年3月期)の均等割は、次のように計算します(均等割の年額を、法人県民税22,000円、法人市民税50,000円とします)。

(1) 法人県民税の均等割

 22,000円×11か月÷12か月=20,166円→20,100円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月からx2年3月までの11か月と26日ですが、4月の26日(4/5~4/30)は切捨てて11か月となります。

(2) 法人市民税の均等割

 50,000円×11か月÷12か月=45,833円→45,800円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月からx2年3月までの11か月と26日ですが、4月の26日(4/5~4/30)は切捨てて11か月となります。

3.本店移転があった事業年度の均等割

 例えば、大阪府東大阪市の3月決算法人が、x1年6月25日に本店を大阪府枚方市に移転した場合のx2年3月期の均等割は、次のように計算します(均等割の年額を、法人府民税20,000円、法人市民税は東大阪市・枚方市ともに50,000円とします)。

(1) 法人府民税の均等割

 20,000円×12か月÷12か月=20,000円→20,000円
※ 大阪府内に事務所等を有していた月数は、x1年4月からx2年3月までの12か月です。

(2) 法人市民税の均等割

① 東大阪市の均等割
 50,000円×2か月÷12か月=8,333円→8,300円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月からx1年6月までの2か月と25日ですが、6月の25日(6/1~6/25)は切捨てて2か月となります。

②枚方市の均等割
 50,000円×9か月÷12か月=37,500円→37,500円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年6月からx2年3月までの9か月と5日ですが、6月の5日(6/26~6/30)は切捨てて9か月となります。

 法人府民税計算の月数は12か月でしたが、法人市民税計算の月数は2か月+9か月=11か月となります。

4.法人設立と本店移転が同一事業年度の場合の均等割

 例えば、大阪府東大阪市でx1年4月5日に設立した3月決算法人が、x1年6月25日に本店を大阪府枚方市に移転した場合のx2年3月期の均等割は、次のように計算します(均等割の年額を、法人府民税20,000円、法人市民税は東大阪市・枚方市ともに50,000円とします)。

(1) 法人府民税の均等割

 20,000円×11か月÷12か月=18,333円→18,300円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月からx2年3月までの11か月と26日ですが、4月の26日(4/5~4/30)は切捨てて11か月となります。

(2) 法人市民税の均等割

① 東大阪市の均等割
 50,000円×1か月÷12か月=4,166円→4,100円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月は26日(4/5~4/30)、5月は31日、6月は25日(6/1~6/25)になりますが、4月の26日と6月の25日は1月未満の端数ですので切捨てて1か月となります。

②枚方市の均等割
 50,000円×9か月÷12か月=37,500円→37,500円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年6月からx2年3月までの9か月と5日ですが、6月の5日(6/26~6/30)は切捨てて9か月となります。

 法人府民税計算の月数は11か月でしたが、法人市民税計算の月数は1か月+9か月=10か月となります。