定額減税を受ける公的年金等の受給者は確定申告の要否に注意

 給与所得者については、2024(令和6)年6月1日以後最初に支払われる給与等から所得税の定額減税(月次減税)が開始されます。
 公的年金等の受給者についても、令和6年6月1日以後最初に支払われる公的年金等から所得税の定額減税が開始されます。
 
 今回は、公的年金等受給者が定額減税を受ける場合の注意点について確認します。

1.定額減税の対象者と減税額

 定額減税の対象となるのは、令和6年分所得税の納税者である居住者で、令和6年分の所得税に係る合計所得金額が1,805万円以下である人です。

 また、所得税の定額減税額は、次の金額の合計額です。

(1) 本人(居住者に限ります)・・・3万円
(2) 同一生計配偶者及び扶養親族(居住者に限ります)・・・1人につき3万円※1

※1 公的年金等の支払者に「令和6年分公的年金等の受給者の扶養親族等申告書(以下「扶養親族等申告書」といいます)が提出されている場合は、その扶養親族等申告書の記載内容に基づき計算されます。

2.扶養親族等申告書に異動があった場合

 公的年金等の受給者に対する所得税の定額減税は、令和6年6月1日以後最初に支払われる公的年金等から実施されます※2
 6月に支給される公的年金等に係る源泉所得税から定額減税額が控除され、控除しきれない部分の金額が残った場合は、以後に支給される公的年金等から順次控除されていきます。

 もし、扶養親族等申告書に記載した事項の異動等(令和6年中に扶養親族の人数に増減があった場合など)により定額減税額が増減する場合は、2025(令和7)年1月以降に行う令和6年分の所得税の確定申告において、最終的な定額減税額を受給者が自ら計算した上で、納付すべき又は還付される所得税の金額を精算することとなります。

 つまり、扶養親族等申告書の記載内容に異動があっても、定額減税額の再計算は行われませんので、受給者自身で確定申告を行う必要があるということです。

 例えば、扶養親族が増えた場合は定額減税額も増えますので、「令和6年分公的年金等の源泉徴収票」に記載された源泉徴収税額の一部又は全部が還付されます。
 このような場合は、所得税の還付を受けるために確定申告が必要になります(確定申告をした方がよいといえます)。

 一方、扶養親族が減った場合は定額減税額も減りますので、「令和6年分公的年金等の源泉徴収票」に記載された源泉徴収税額を超えて追加の所得税額(納付税額)が発生します※3
 このような場合は、控除しすぎた定額減税額を返還(納付)するために、原則として確定申告が必要になります(確定申告をしなければなりません)。
 ただし、年金所得者の申告不要制度※4を適用する場合は、定額減税額を返還するための確定申告は不要ということにもなります。
 どちらになるのかについては、この記事の執筆時点では未定となっていますので、今後の情報を待つことになります。
 
 いずれにしても、扶養親族等申告書の記載内容に異動があった場合は、確定申告の要否について注意が必要です。
 
※2 住民税の定額減税は、令和6年10月に支払われる公的年金等から実施されます。

※3 医療費控除など他の所得控除を受ける場合は、還付となる可能性もあります。

※4 公的年金等の収入金額が400万円以下で公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下の場合は、計算の結果、納税額がある場合でも所得税等の確定申告は不要とする制度です。
 確定申告不要制度については、本ブログ記事「給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度の注意点」をご参照ください。

「合計所得金額」「総所得金額」「総所得金額等」の違いとは?

 年末調整や確定申告において所得控除を適用する場合に、適用可能かどうかを判定するための基準として所得金額が設けられています。

 例えば、配偶者控除の適用要件は配偶者の所得金額が48万円以下とされていますが、ここでいう所得は「合計所得金額」です。
 一方、寄附金控除額は寄附した金額と所得金額の40%のいずれか少ない金額から2,000円を控除した額とされていますが、ここでいう所得は「総所得金額等」です。

 また、個人住民税においては、均等割の非課税限度額は「合計所得金額」で判定するのに対して、所得割の非課税限度額は「総所得金額等」で判定します。

 このように「合計所得金額」や「総所得金額等」(さらに「総所得金額」もあります)は、所得税や個人住民税の計算に用いられています。
 どれも所得の合計を表すよく似た用語ですが、税法上少しずつ違いがありますので、それらが用いられる場面によって使い分けが必要です。

 以下では、「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」という3つの用語について確認します。

1.課税所得金額の計算過程のどの金額か?

 国税庁のホームページや書籍等では、「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」について詳細な説明がされています。
 例えば、国税庁ホームページでは、「合計所得金額」について以下のように説明されています。

次の①と②の合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額です。

※ 申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額を加算した金額です。

① 事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の合計額(損益通算後の金額)
② 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額


ただし、「◆総所得金額等」で掲げた繰越控除を受けている場合は、その適用前の金額をいいます。

 確かにこの説明を読みくだいていけば「合計所得金額」がどういうものであるかがわかります。
 また、「総所得金額」と「総所得金額等」についても説明を読み解けば個々の理解はできます。
 しかし、3者の違いまでわかろうとすると、説明文を読むだけでは困難だと思われますので、ここでは図を用いて理解の一助とします。

 「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」は、課税所得金額の計算過程で出てくる用語ですので、これらの違いを理解するには、課税所得金額の計算構造を示した下図が参考になると思われます。

 課税所得金額は、各種所得の金額を一定の順序に従い損益通算し、純損失、雑損失等の繰越控除をして課税標準を求め、その課税標準から所得控除額を差し引いて計算します。
 詳細な説明は省きますが、「合計所得金額」、「総所得金額」、「総所得金額等」の違いを理解するにあたっては、これらが課税所得金額の計算過程のどの時点で出てくるかに注目することがポイントです。
 つまり、損益通算の前なのか後なのか、繰越控除の前なのか後なのか、分離課税の譲渡所得の特別控除の前なのか後なのか、所得控除の前なのか後なのか、ということです。

2.合計所得金額で判定するもの

 合計所得金額を用いて判定するものには、以下のものがあります。

・配偶者控除(本人の所得1,000万円以下、配偶者の所得48万円以下等)、配偶者特別控除
・扶養控除(扶養親族の所得48万円以下等)
・寡婦、ひとり親控除(500万円以下)
・基礎控除(2,500万円以下)
・住宅借入金特別控除(2,000万円以下)
・均等割の非課税限度額
・障がい者、未成年者、寡婦、ひとり親の非課税限度額 等

3.総所得金額で判定するもの

 総所得金額には分離所得が含まれていないので、判定基準として使用されることはあまりありません。

4.総所得金額等で判定するもの

 総所得金額等を用いて判定するものには、以下のものがあります。

・雑損控除
・医療費控除
・寄附金控除
・所得割の非課税限度額 等

申告漏れ所得金額が高額な上位10業種

1.政治家の申告漏れ

 2023(令和5)年分の確定申告を巡っては、自民党派閥の政治資金規正法違反事件(いわゆる裏金問題)に端を発して、SNS上では確定申告ボイコットや納税拒否などの呼びかけが拡散されていました。

 キックバックされた資金(裏金)のうち、それが政治資金として使用された場合は非課税になり、政治活動以外に使用した場合や未使用の場合は議員個人の雑所得として課税されるというのが国税庁の見解です。

 だとすると、自民党のアンケートに対してキックバックされた資金を使用していないと回答した議員は確定申告をして納税をしなければなりませんが、今のところそのような動きにはなっていないようです。

 全国商工団体連合会の試算によると、自民党のアンケートで政治資金収支報告書への不記載が判明した議員85人に対する追徴税額(本税や重加算税など)は、約1億3,500万円に上るということです。

2.一般納税者の申告漏れ

 一般の納税者の申告漏れ所得等については、各事務年度における「所得税及び消費税調査等の状況」を国税庁が報道発表資料として毎年11月に公開しています。

 この「所得税及び消費税調査等の状況」の中で「参考計表」として「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」が挙げられています。
 
 2022(令和4)年事務年度(令和4年7月~令和5年6月)から2018(平成30)年事務年度(平成30年7月~令和1年6月)までの直近5事務年度における上位10業種は、以下のとおりです。

順位 R4 R3 R2 R1 H30
1 経営コンサルタント 経営コンサルタント プログラマー 風俗業 風俗業
2 くず金卸売業 システムエンジニア 畜産農業(肉用牛) 経営コンサルタント キャバクラ
3 ブリーダー ブリーダー 内科医 キャバクラ 経営コンサルタント
4 焼肉 商工業デザイナー キャバクラ 太陽光発電 システムエンジニア
5 タイル工事 不動産代理仲介 太陽光発電 システムエンジニア 特定貨物自動車運送
6 冷暖房設備工事 外構工事 建築士 土木工事 不動産代理仲介
7 鉄骨、鉄筋工事 型枠工事 経営コンサルタント ダンプ運送 貨物軽車両運送
8 太陽光発電 機械部品受託加工 小売業・犬 タイル工事 ダンプ運送
9 バー 一般貨物自動車運送 不動産代理仲介 冷暖房設備工事 畜産農業(肉用牛)
10 電気通信工事 司法書士、行政書士 商工業デザイナー 清掃業 機械部品受託加工

※ 上記調査事績は、特別調査及び一般調査に基づく実施結果です。

(参考)
 実地調査(特別調査・一般調査)とは、高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を対象に深度ある調査を行うもので、特に、特別調査は、多額な脱漏が見込まれる個人を対象に、相当の日数(1件当たり10日以上を目安)を確保して実施しているものです。

 実地調査(着眼調査)とは、資料情報や申告内容の分析の結果、申告漏れ等が見込まれる個人を対象に実地に臨場して短期間で行う調査です。

 簡易な接触とは、原則、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接を行い、申告内容を是正するものです。

還付申告でも青色控除55万円・65万円の適用を受けるなら期限内申告が必要!

 2023(令和5)年分の所得税の確定申告期間は、2024(令和6)年2月16日から同年3月15日までとなっています。
 基本的にはこの期間内に確定申告をする必要がありますが、還付申告の場合は確定申告期間に関わりなく、その年の翌年1月1日から5年間は還付申告書を提出することができます。
 2023(令和5)年分であれば、2024(令和6)年1月1日から2028(令和10)年12月31日までの間に申告書を提出すれば還付を受けることができます(還付申告書の提出期限については、本ブログ記事「所得税還付申告書を提出できる期間とその最終日とは?」をご参照ください)。
 しかし、還付申告であっても、青色申告者が青色申告特別控除(55万円・65万円)の適用を受ける場合は期限内申告が必要です。
 この点について、以下で確認します。

1.還付申告とは?

 確定申告書を提出する義務のない人でも、給与等から源泉徴収された所得税額や予定納税をした所得税額が年間の所得金額について計算した所得税額よりも多いときは、確定申告をすることによって、納め過ぎの所得税の還付を受けることができます。この申告を還付申告といいます。
 例えば給与所得者であれば、次のような場合には、原則として還付申告をすることができます。

(1) 年の途中で退職し、年末調整を受けずに源泉徴収税額が納め過ぎとなっているとき
(2) 一定の要件のマイホームの取得などをして、住宅ローンがあるとき
(3) マイホームに特定の改修工事をしたとき
(4) 認定住宅等の新築等をした場合(認定住宅等新築等特別税額控除)
(5) 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき
(6) 特定支出控除の適用を受けるとき
(7) 多額の医療費を支出したとき
(8) 特定の寄附をしたとき
(9) 上場株式等に係る譲渡損失の金額を申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得等の金額から控除したとき

 先に述べたように、還付申告の場合は確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間は還付申告書を提出することができます。
 ただし、青色申告特別控除(55万円・65万円)の適用を受けようとする場合は、還付申告であっても法定申告期限(原則として翌年3月15日)までに提出する必要があります。

2.なぜ期限内申告が必要なのか?

 なぜ、青色申告特別控除55万円や65万円の適用を受ける場合は、期限内申告が必要なのでしょうか?
 
 青色申告者は、下記の要件を満たす場合に最高65万円の青色申告特別控除の適用を受けることができます(55万円控除の場合は(1)~(5)、65万円控除の場合は(1)~(6)の要件を満たす必要があります)。

(1) 現金主義を選択していないこと
(2) 事業的規模の不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営む者であること
(3) 正規の簿記の原則に従い取引を記録していること
(4) 貸借対照表、損益計算書を確定申告書に添付すること
(5) 期限内に申告書を提出すること
(6) 次のいずれかに該当すること
① その年分の事業に係る仕訳帳および総勘定元帳について電子帳簿保存を行っていること
② その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表および損益計算書等の提出を、e-Tax(国税電子申告・納税システム)を使用して行うこと

 55万円控除でも65万円控除でも青色申告特別控除の適用を受けるためには、上記要件(5)にあるように期限内に申告書を提出することが要件となっています。
 このように法定申告期限までに確定申告書を提出することがその適用要件となっている特例を適用する場合には、還付申告であっても法定申告期限までに提出する必要があります。

 青色申告者が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかった場合は、青色申告特別控除額は10万円となります。
 その報酬・料金から所得税が源泉徴収される事業を営んでいる事業者(例えば、原稿、写真、作曲、講演、翻訳、通訳、弁護士、司法書士、税理士、社会保険労務士など)は、55万円控除又は65万円控除を受けた場合は還付申告であっても、10万円控除の場合では還付額が減るか還付申告ではなくなる可能性があります。

 「還付申告だから申告期限を過ぎても大丈夫」ということにはならないケースもありますので、注意しなければなりません。

同一生計親族からの住宅取得でも住宅ローン控除を受けられる?

1.親族間の取引には制限がかかる

 住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、住宅ローン等を利用して住宅を新築、取得、増改築等をした場合に、住宅ローン等の年末残高の一定額を所得税等から控除できるという制度です。
 住宅ローン控除は新築住宅から中古住宅、増改築まで幅広く適用がありますが、その適用を受けるためには、それぞれに定められた一定の要件を満たしている必要があります。
 例えば、新築住宅や中古住宅を取得した場合の主な要件は次のとおりです(認定住宅等については、認定長期優良住宅や低炭素建築物などの区分に応じて要件が異なりますので、ここでは共通の要件を挙げます)。

(1) 住宅の新築等の日から6か月以内に居住の用に供していること

(2) この控除を受ける年分の12月31日まで引き続き居住の用に供していること

(3) 次に該当すること※1
① 住宅の床面積が50平方メートル以上であり、かつ、床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること
② この控除を受ける年分の合計所得金額が2,000万円以下であること

※1 特例居住用家屋または特例認定住宅等の場合は次に該当すること
① 住宅の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満であり、かつ、床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること
② この控除を受ける年分の合計所得金額が1,000万円以下であること

(4) 10年以上にわたり分割して返済する方法になっている新築等のための一定の借入金または債務(住宅とともに取得するその住宅の敷地の用に供される土地等の取得のための借入金等を含む)があること※2

※2 一定の借入金または債務とは、銀行等の金融機関、独立行政法人住宅金融支援機構、勤務先などからの借入金や独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社、建設業者などに対する債務をいいます。
 ただし、勤務先からの借入金の場合で無利子または0.2パーセント未満の利率による借入金や、親族や知人からの借入金は住宅ローン控除の対象にはなりません。

(5) 2以上の住宅を所有している場合には、主として居住の用に供すると認められる住宅であること

(6) 居住年およびその前2年の計3年間に、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の特例など譲渡所得の課税の特例(全5項目)の適用を受けていないこと

(7) 居住年の翌年以後3年以内に居住した住宅(住宅の敷地を含む)以外の一定の資産を譲渡し、当該譲渡について上記(6)の譲渡所得の課税の特例を受けていないこと

(8) 住宅の取得(その敷地の用に供する土地等の取得を含む)は、その取得時および取得後も引き続き生計を一にする親族や特別な関係のある者からの取得でないこと

(9) 贈与による住宅の取得でないこと

 上記要件(1)~(9)のうち、(4)や(8)のように親族との取引には、住宅ローン控除の適用を受けるにあたって制限がかかります。
 つまり、住宅を取得するための借入金が親族から借りたものであったり、住宅の取得が取得時・取得後を通じて引き続き生計を一にする親族からの取得であった場合は、住宅ローン控除を受けることができません。

2.取得後生計を別にすれば適用可能

 生計を一にする親族からの住宅取得については住宅ローン控除の適用を受けることができないと考えがちですが、上記1.(8)の要件をよく見ると、そうでないことがわかります。
 上記1.(8)は、「住宅の取得がその取得時および取得後も引き続き生計を一にする親族からの取得でないこと」が適用要件であることを示しています。
 ということは、生計を一にする親族から住宅を取得した場合であっても、取得後生計を別にしていれば、他の要件を満たす限り住宅ローン控除の適用を受けることができるということです。

3.離婚に伴う財産分与の場合も適用可能

 離婚に伴う財産分与により取得した住宅については、贈与により取得したものではなく、既に生計を一にする親族等からの既存住宅の取得にも該当しないことから、その他の要件を満たしていれば住宅ローン控除を受けることができます。
 なお、財産分与により取得した住宅がすでに住宅ローン控除の適用を受けている共有家屋の持ち分である場合には、当初から保有していた共有部分と追加取得した共有部分(既存住宅の取得となります)のいずれについても住宅ローン控除を受けることができます。

文書料は医療費控除の対象となるか?

1.医療費控除とは

 自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合、その年中に支払った医療費の金額から保険金等により補填される金額を控除した金額が年間10万円(総所得金額等が200万円未満の場合は、その金額の5%)を超える場合は、その超える部分の金額を所得金額から控除できます(最高200万円まで)。これを医療費控除といいます。

 病院で支払った医療費がすべて医療費控除の対象となるわけではなく、例えばインフルエンザの予防接種や健康診断の費用などは医療費控除の対象にはなりません。
 医療費控除を受けるときは、その医療費が控除の対象になるかどうかに気をつけなければなりませんが、一般的には控除の対象とならないと思われているものでも内容によっては控除の対象となるものもあります。
 以下では、医療費の領収書に記載されている「文書料」の医療費控除について確認します。

※ 総所得金額等については、本ブログ記事「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。

2.医師による診断書料

 病院の領収書には様々な様式のものがありますが、その領収書をよく見ると、「文書料」という項目が記載されているものがあります。
 この「文書料」とは、病気やケガなどで入院したり手術をした場合などに保険会社に保険金を請求するため、あるいは会社や役所などへ提出するために、医師に執筆してもらう証明書の作成費用をいい、一般的には「診断書」と呼ばれるものです。
 領収書によっては、「文書料」とは別に、この診断書作成費用を「診断書料」という項目で表示しているものもありますが、「文書料」という項目でまとめて表示しているケースが多いと思われます。

 一般的に文書料は医療費控除の対象にならないと認識されていますが、この「診断書料(診断書作成に係る文書料)」は医療費控除の対象にはなりません。

 医療費控除の対象となる医療費は、医師による診療や治療の対価のうち通常必要であると認められるものとされています。
 そうすると、診断書作成に係る文書料は医師が診療又は治療した内容を記載した文書の発行手数料であり、その発行された診断書は生命保険会社へ給付金を請求する場合等の提出書類として使用されることから、医師等の診療又は治療の対価に該当せず医療費控除の対象にはなりません。

3.医師による紹介状

 一方、領収書の「文書料」の項目で表示されるもののうち、いわゆる「紹介状(診療情報提供に係る文書料)」は医療費控除の対象となります。

 例えば、ケガをした際に当初診療を受けたA市民病院の医師からそれまでの診療状況を記した紹介状の交付を受け、紹介先のB整形外科医院にその紹介状を渡して引き続き治療を受ける場合があります。

 このような場合の「紹介状」は、A市民病院の医師がその診療に基づきB整形外科医院での診療の必要性を認めて交付したものであり、この紹介状の作成費用はB整形外科医院による診療を受けるために直接必要な費用であり通常必要なものと考えられることから、医療費控除の対象となります。

確定申告書の還付口座の記載方法と留意点

 令和5年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書の受付は、令和6年2月16日(金)から同年3月15日(金)までです。
 確定申告の必要がない方でも、ふるさと納税等の寄附金控除や医療費控除などにより、源泉徴収された税金の還付を受けるための申告(還付申告)をすることができます。
 この還付申告については、令和6年2月16日(金)以前でも行えます。令和5年分であれば、令和6年1月1日から令和10年12月31日まで申告することができます
 今回は、還付申告する際の確定申告書の還付口座(還付される税金の受取口座)の記載方法と留意点を確認します。

※還付申告書を提出できる期間については、本ブログ記事「所得税還付申告書を提出できる期間とその最終日とは?」をご参照ください。

1.還付金の受取方法

 還付金の受取りには、「預貯金口座への振込みによる方法」と「最寄りのゆうちょ銀行各店舗又は郵便局に出向いて受け取る方法」とがあります。
 後者の受取方法の場合は、後日、国庫金送金通知書が送付されますので、指定したゆうちょ銀行の各店舗や郵便局窓口に国庫金送金通知書と身分証明書(運転免許証又は国民健康保険被保険者証など、本人であることを証するもの)を持参して還付金を受け取ります。
 前者の受取方法の場合は、指定した金融機関の預貯金口座に還付金が直接振り込まれます。

2.還付口座の記載方法と留意点

 還付金の受取りに預貯金口座への振込みを希望する場合は、確定申告書第一表の「還付される税金の受取場所」欄に、申告者本人の取引している金融機関名、預貯金の種別及び口座番号を記載します。
 具体的には、次のように記載します。

(1) 銀行等の預金口座の場合の記載方法

「預金種類」欄は、該当する預金種類に印を付けます(総合口座の場合は「普通」に印を付けます)。
「口座番号記号番号」欄は、口座番号のみを左詰めで記入します。

(2) ゆうちょ銀行の貯金口座の場合の記載方法

「口座番号記号番号」欄は、貯金総合通帳の記号番号のみを左詰めで記入します。その際、以下の点に注意してください。
① 他の金融機関との振込用の「店名(店番)」「口座番号」は記入しません。
② 記号部分と番号部分の間に1桁の数字(通帳再発行時に表示される「-2」などの枝番)がある場合は、その数字の記入は不要です。例えば、「12340 - 2 - 12345671」の「-2」は不要です。

※ ゆうちょ銀行の各店舗又は郵便局窓口での受取りを希望する場合は、受取りを希望する郵便局名等を記入します。

(3) 還付口座の留意点

 預貯金口座への振込みを希望する場合は、原則として、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合、漁業協同組合及びゆうちょ銀行の預貯金口座を指定することができます。
 ただし、以下の点に留意する必要があります。
① 還付金の振込みに指定できる預貯金口座は、申告者本人名義のものに限られます。申告者本人の氏名のほかに店名、事務所名などの名称(屋号)が含まれる場合は振込みできないことがありますので、申告者本人の氏名のみの口座を指定します。
旧姓のままの名義である場合には、振込みできないことがあります。
③ 公金受取口座への振込みを希望し(既に公金受取口座の登録が済んでいる人に限ります)、「公金受取口座の利用」欄に〇を記入する場合は、「還付される税金の受取場所」を記入する必要はありません。
④ 納税管理人の指定をしている場合は、その納税管理人の名義の預貯金口座となります(公金受取口座として登録・利用はできません)。
一部のインターネット専用銀行については還付金の振込みができませんので、振込みの可否について、あらかじめ利用しているインターネット専用銀行に確認する必要があります。

個人住民税(市・県民税)の申告の要否について

 2024(令和6)年度の個人住民税(市・県民税)は、2023(令和5)年中の所得等により計算され、2024(令和6)年1月1日に居住していた市区町村で課税されます。
 2023(令和5)年分の所得税確定申告期間は、2024(令和6)年2月16日(金)から3月15日(金)までとなっています。
 この間に所得税の確定申告をした人は、原則として個人住民税の申告をする必要はありません。
 一方、所得税の確定申告をする必要のない人(例えば、公的年金等の収入金額が400万円以下で公的年金等以外の所得金額が20万円以下の人)でも、個人住民税の申告はしなければなりません(確定申告不要制度については、本ブログ記事「給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度の注意点」をご参照ください)。
 以下では、個人住民税の申告の要否について確認します。

1.住民税の申告が必要な人

 以下の人は、2024(令和6)年度個人住民税の申告が必要です。

(1) 賦課期日(令和6年1月1日)現在において市内に在住し、かつ前年(令和5年)中の合計所得金額が43万円を超える人
(2) 賦課期日(令和6年1月1日)現在において市内に在住し、前年(令和5年)中の合計所得金額が43万円以下の人のうち課税(所得)証明書が必要な人
(3) 賦課期日(令和6年1月1日)現在において市外に在住し、市内に事業所や事務所がある個人事業者

※ 例えば、宝塚市に住んでいる人が西宮市の事業所で事業を行っている個人事業者である場合は、宝塚市には均等割と所得割を納付し、西宮市には均等割を納付することになります。

出所:西宮市ホームページ

2.住民税の申告が不要な人

 以下の人は、2024(令和6)年度個人住民税の申告は不要です。

(1) 所得税の確定申告をする人※1
(2) 前年(令和5年)中に所得がなかった人※2
(3) 前年(令和5年)中の所得が給与のみで、勤務先から市役所に給与支払報告書が提出されている人
(4) 前年(令和5年)中の所得が公的年金のみで、扶養・配偶者などの控除が前年(令和5年)分の公的年金などの源泉徴収票に記載されている内容どおりの人※2

※1 所得税の確定申告をする場合でも、確定申告書第2表の住民税に関する事項に記入もれ等があると、所得税額に影響がなくても個人住民税額等に影響する場合がありますので注意が必要です。

出所:宝塚市ホームページ

※2 上記(2)に該当する人でも健康保険の手続きなどで所得申告が必要な場合や、上記(4)に該当する人でも生命保険料控除や医療費控除などを追加する場合は、申告が必要となることがあります。

ストックオプションの課税関係と計算例

1.税制適格SOと税制非適格SO

 ストックオプションとは、会社が自社または子会社の従業員・役員等に対して付与する自社株式を、一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で購入することができる権利(新株予約権)をいいます。
 このストックオプションについては、ストックオプション税制の適用を受けて取得する「税制適格ストックオプション」と、その適用を受けないで取得する「税制非適格ストックオプション」があります。

 税制適格ストックオプションは、ストックオプションの付与契約において、次に掲げる要件が定められているものをいいます。

(1) 当該ストックオプションは、発行会社の取締役等に付与されたものであること。
(2) 当該ストックオプションの行使は、その契約の基となった付与決議の日後2年を経過した日からその付与決議の日後10年を経過する日(発行会社が設立の日以後の期間が5年未満の株式会社で、金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社以外の会社であることその他の要件を満たす会社である場合には15年)までの間に行わなければならないこと。
 なお、付与決議の日とは、新株予約権の割当に関する決議の日をいいます。
(3) 当該ストックオプションの行使の際の権利行使価額の年間の合計額が1,200万円を超えないこと。
(4) 当該ストックオプションの行使に係る1株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の当該契約の締結の時における1株当たりの価額相当額以上であること。
(5) 当該ストックオプションについて、譲渡が禁止されていること。
(6) 当該ストックオプションの行使に係る株式の交付が、会社法第 238 条第1項に定める事項に反しないで行われるものであること(無償ストックオプションの発行(会238条1項2号)は、労働モチベーションの向上等、適正な便益を受領しているものと評価できる場合は、有利発行には該当しないものとされています(会238条3項1号))。
(7) 発行会社と金融商品取引業者等との間であらかじめ締結された取決めに従い、金融商品取引業者等において、当該ストックオプションの行使により取得した株式の保管の委託がされること。

2.ストックオプションの課税時期

 勤務先から支給を受ける現物支給の給与については、支給時の給与所得として所得税の課税対象とされますが、その現物支給の給与が、譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)である場合には、そのストックオプションを譲渡して所得を実現させることができないことから、ストックオプションの付与時に所得を認識せず、そのストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得として所得税の課税対象とされます。

 また、勤務先から適正な時価で有償取得したストックオプション(税制非適格ストックオプション)の課税関係は、次のとおりとなります。

(1) 税制非適格ストックオプション(有償型)は、当該ストックオプションを適正な時価で購入していることから、ストックオプションの購入時は経済的利益は発生せず、課税関係は生じません。
(2) 当該ストックオプションの行使時の経済的利益(ストックオプションの値上がり益)については、所得税法上、認識しないこととされています。
(3) 当該ストックオプションを行使して取得した株式を売却した場合、株式譲渡益課税の対象となります。

 一方、税制適格ストックオプションに該当する場合には、当該ストックオプションを行使して株式を取得した日の給与課税を繰り延べ、その株式を売却した日の属する年分の株式譲渡益として所得税の課税対象とされます。

 以上をまとめると、ストックオプションの課税時期は下表のようになります(×は課税されない、○は課税されることを示します)。

ストックオプションの類型 権利付与時 権利行使時 株式売却時
税制非適格ストックオプション(無償) × ○(給与所得) ○(譲渡所得・分離課税)
税制非適格ストックオプション(有償) × ×(認識しない) ○(譲渡所得・分離課税)
税制適格ストックオプション(無償) × ×(課税の繰延) ○(譲渡所得・分離課税)

 また、権利行使時と株式売却時の所得の計算方法は次のとおりです。

権利行使時 (権利行使時株価-権利行使価格)×株式数=所得金額
株式売却時 (売却価格-権利行使時株価)×株式数=所得金額

3.計算例

 以下では、税制非適格ストックオプション(無償型・有償型)と税制適格ストックオプションの課税関係を、簡単な数値例で確認します。

(1) 税制非適格ストックオプション(無償・有利発行型)の課税関係

勤務先から譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)を無償で取得した場合の課税関係は、次のとおりです。
【発行会社の株価等】
・ ストックオプションの付与時 : 200
・ ストックオプションの行使時 : 800(権利行使価額 200)
・ 権利行使により取得した株式の売却時:1,000
① 権利付与時:課税されない
② 権利行使時:800-200=600が給与所得として課税される
③ 株式売却時:1,000-800=200が譲渡所得として課税される

※ 発行会社は源泉所得税を徴収して納付する必要あり

(2) 税制非適格ストックオプション(有償型)の課税関係

勤務先からストックオプションを適正な時価(50)で有償取得した場合の課税関係は、次のとおりです。
【発行会社の株価等】
・ ストックオプションの付与時 : 200
・ ストックオプションの行使時 : 800(権利行使価額 200)
・ 権利行使により取得した株式の売却時:1,000
① 権利付与時:課税されない
② 権利行使時:課税されない(経済的利益を認識しない)
③ 株式売却時:1,000-50-200=750が譲渡所得として課税される

※ 株式譲渡益は、売却時の株価(1,000)から、当該ストックオプションの購入価額(50)と権利行使価額(200)の合計額(250)を差し引いた 750 となる

(3) 税制適格ストックオプションの課税関係

勤務先から税制適格ストックオプションを取得した場合の課税関係は、次のとおりです。
【発行会社の株価等】
・ ストックオプションの付与時 : 200
・ ストックオプションの行使時 : 800(権利行使価額 200)
・ 権利行使により取得した株式の売却時:1,000
① 権利付与時:課税されない
② 権利行使時:課税されない(課税が繰り延べられる)
③ 株式売却時:1,000-800=200が譲渡所得として課税される

給与所得者(サラリーマン)の確定申告の要否

1.給与所得者で確定申告をしなければならない人

 給与所得者のうち大部分の人は、年末調整によって所得税及び復興特別所得税の精算が完了しますので、確定申告をする必要がありません。
 しかし、給与所得者であっても次のいずれかに当てはまる人は、確定申告をしなければなりません。

(1) 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
(2) 1か所から給与の支払を受けている人で、給与所得および退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える人
(3) 2か所以上から給与の支払を受けている人のうち、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整されなかった給与(従たる給与等)の収入金額と給与所得および退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える人
(4) 同族会社の役員やその親族などで、その同族会社から給与の他に貸付金の利子や不動産の賃貸料などを受け取っている人
(5) 災害を受けた人で、給与について災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている人
(6) 源泉徴収の規定が適用されない給与(家事使用人給与、在日外国公館から支払を受ける給与など)の支払を受けている人
(7) 退職所得について正規の方法で税額を計算した場合に、その税額が源泉徴収された金額よりも多くなる人

2.給与所得者で確定申告をすれば税金が還付される人

 確定申告をする必要がない給与所得者の人でも、年末調整で適用できない所得控除や税額控除を適用して還付を受けるための確定申告(還付申告)をすることができます。
 還付申告書は、翌年の1月1日から税務署に提出することができます。例えば、令和5年分であれば令和6年1月1日から提出することができます。
 また、還付申告書は3月15日を過ぎても提出することができますが、その提出期間は5年間とされています。例えば、令和5年分の還付申告であれば令和10年12月31日まで提出することができます。
 還付申告をすることができるのは、次のような人です。

(1) 医療費が10万円(または所得金額の合計額の5%)を超えたために医療費控除を受ける人
(2) セルフメディケーション税制で医療費控除の特例を受ける人(上記(1)の医療費控除との選択適用)
(3) 災害や盗難、横領により、住宅や家財などの資産に受けた損害について雑損控除を受ける人(詐欺による被害は雑損控除の対象外)
(4) ふるさと納税などの寄附を行い、寄附金控除を受ける人
(5) 住宅ローンで住宅の新築や購入、増改築等をして、住宅借入金等特別控除を受ける人(入居した最初の年)
(6) 配当所得を申告して配当控除を受ける人
(7) 政党や政治団体に寄附をして政党等寄附金特別控除を受ける人
(8) 災害により住宅や家財に損害を受けたため、災害減免法を適用して所得税及び復興特別所得税の軽減または免除を受ける人
(9) 給与所得者の特定支出控除を受ける人
(10) 年の中途で退職して年末調整を受けなかった人のうち、その年中に再就職しなかった人
(11) 退職金の支払を受ける際に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかったため、20.42%の税率で源泉徴収された人

3.年末調整が間違っていた場合等の確定申告

 給与所得者で扶養親族等の異動や保険料の追加払いによる年末調整の再調整ができなかった人や年末調整に間違いがあった人は、確定申告により所得税及び復興特別所得税の精算をすることになります。

※ 参考記事「交通費込み給与の交通費部分は確定申告でも非課税にできない