新紙幣発行に伴うシステム改修費の税務上の取扱い

 20年ぶりに肖像画のモデルが変更された新紙幣の発行が、本日(2024(令和6)年7月3日)から始まります。
 新紙幣は肖像画のモデル変更だけではなく、新技術による透かしや3Dホログラム等が導入されていますので、これまで使用していたレジシステムや自動券売機、自動販売機などは新紙幣への対応が必要になります。
 この新紙幣へ対応するためには、レジシステムなどのプログラム修正や部品の入替えなどをしなければなりませんが、1台当たり100万円以上かかるケースもあるため、その対応に苦慮している中小事業者もいます。
 今回は、このような新紙幣発行に伴うシステム改修費の税務上の取扱いについて確認します。

1.インボイス導入が類似事例として参考になる

 新紙幣発行に伴うシステム改修費の税務上の取扱い、すなわち、その改修費を資本的支出として資産計上しなければならないのか、修繕費として費用処理が可能なのかについては、国税庁が公表している法令解釈に関する情報(軽減税率導入の際の「消費税の軽減税率制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」やインボイス導入の際の「消費税のインボイス制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」)が類似事例として参考になります。

 これら法令解釈に関する情報に照らし合わせると、新紙幣発行に伴うプログラムの修正は「システムに従来備わっていた機能の効用を維持するために必要な修正を行うものである」ことから、「新たな機能の追加、機能の向上等に該当せず、これらの修正に要する費用は修繕費として取り扱われる」こととなります。

 ただし、プログラムの修正の中に、新たな機能の追加、機能の向上等に該当する部分が含まれている場合には、この部分に関しては資本的支出として取り扱うこととなります。

 なお、資本的支出であっても、修正に要した費用の額が20万円に満たない場合や、当該費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合に、その金額が次のいずれかに該当するときは、修繕費として取り扱って差し支えありません。

① その金額が60万円に満たない場合
② その金額が、修正に係るソフトウエアの前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合

出所:国税庁ホームページ

2.新紙幣対応で利用できる補助金

 新紙幣への対応に苦慮している中小事業者は、手続きが煩雑なものもありますが、補助金を活用するのも一考です。
 例えば、中小企業の省力化を支援する「中小企業省力化投資補助金」は、パネル式券売機を導入すると最大1,500万円の補助を受けることができます。
 また、「IT導入補助金(インボイス枠)」は、インボイス制度に対応した会計ソフトの導入にあわせて券売機等を取得することで最大20万円の補助を受けることができます。
 さらに、自治体独自で支援策を講ずるところもありますので、一度問い合わせてみてはいかがでしょうか。

令和6年10月1日から登記申請時に社長の住所を非公開にできます

 商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)によって、2024(令和6)年10月1日から代表取締役等住所非表示措置が施行されます。
 以下では、代表取締役等住所非表示措置について確認します。

1.制度の概要

 現行の会社法においては、株式会社の代表取締役など会社の代表者は氏名と住所を登記する必要があり、登記後はその氏名と住所が登記簿上で公開されます。
 また、その住所に変更があった場合は、2週間以内に変更登記をしなければならないとされています。

 代表取締役等住所非表示措置とは、一定の要件の下、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」といいます)の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービス(以下「登記事項証明書等」といいます)に表示しないこととする措置です。

 この措置により、登記事項証明書等で公開が必要だった代表取締役等の氏名と住所のうち、住所の一部を非公開にすることができるようになります。

※ 最小行政区画までは公開されます。つまり、市区町村(東京都においては特別区、指定都市においては区)までは公開されます。

2.一定の要件(手続き)

 代表取締役等住所非表示措置を講ずることを希望する場合は、以下の要件を満たす必要があります。

(1) 登記申請と同時に申し出ること

 代表取締役等住所非表示措置を講ずることを希望する者は、登記官に対してその旨を申し出る必要があります。
 また、代表取締役等住所非表示措置の申出は、設立の登記や代表取締役等の就任の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記の申請と同時にする場合に限りすることができます。
 したがって、住所の非表示だけを求めての申出はできません

※ 既に退任をした代表取締役等の住所や閉鎖事項証明書等に記載された住所など、過去の住所についての非表示の申出はできません。

(2) 所定の書面を添付すること

 代表取締役等住所非表示措置の申出に当たっては、以下の区分に応じた書面の添付が必要となります。

① 上場会社である株式会社の場合
 株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面(既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合は不要です)

② 上場会社以外の株式会社の場合
 以下のイからハまでの書面
イ.株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面等
ロ.代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書(例:住民票の写しなど)
ハ.株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面(例:資格者代理人の法令に基づく確認の結果を記載した書面など)

※ 既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合は、ロのみの添付で足ります。
 また、株式会社が一定期間内に実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は、ハの添付は不要です。

3.留意事項

 代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されます。
 そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な検討が必要です。

 また、代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、会社法に規定する登記義務が免除されるわけではないため、代表取締役等の住所に変更が生じた場合には、その旨の登記の申請をする必要があります。

 なお、代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社から当該措置を希望しない旨の申出があった場合や、当該株式会社が本店所在場所に実在しないことが認められた場合などは、登記官が職権で当該措置を終了させることとなります。
 
※ 代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出は、登記申請と同時である必要はなく、単独で行うことができます。

青色申告を取り消されても過去の繰越欠損金は控除できる!

 法人も個人も青色申告にはいろんな特典がありますので、通常は法人設立時又は個人事業開業時に青色申告の承認申請書を税務署に提出するものと思われます。

 この青色申告については、無申告や期限後申告の場合は取り消されるというのが一般的な認識のようですが、個人事業主の場合は無申告や期限後申告の場合でも青色申告は取り消されません(詳細については、本ブログ記事「無申告でも所得税の青色申告は取り消されない」をご参照ください)。

 一方、法人については、2期連続で無申告や期限後申告となると青色申告が取り消されます。
 この場合に気になるのが、青色申告が取り消されて白色申告となった場合に、青色申告時代の繰越欠損金が控除できるのか否かということです。

 以下では、この点について確認します。

1.法人は2期連続期限後申告・無申告で青色申告取り消し

 法人の青色申告の承認の取り消しについては、次の法人税法第127条第1項に定められています。

第121条第1項(青色申告)の承認を受けた内国法人につき次の各号のいずれかに該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に定める事業年度まで遡つて、その承認を取り消すことができる。この場合において、その取消しがあつたときは、当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書(納付すべき義務が同日前に成立した法人税に係るものを除く。)は、青色申告書以外の申告書とみなす。

第1号 その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が前条第1項に規定する財務省令で定めるところに従つて行われていないこと

第2号 その事業年度に係る帳簿書類について前条第2項の規定による税務署長の指示に従わなかつたこと

第3号 その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること

第4号 第74条第1項(確定申告)の規定による申告書をその提出期限までに提出しなかつたこと


 また、上記法人税法第127条第1項第4号の規定による取り消しは、国税庁ホームページの事務運営指針によると、「2事業年度連続して期限内に申告書の提出がない場合に行うものとする。この場合、当該2事業年度目の事業年度以後の事業年度について、その承認を取り消す。」とされています。

 つまり、法人については、2期連続して期限後申告(無申告を含む)をすると、2期目から青色申告が取り消されます

2.青色取消後の3期間は白色申告となる

 上記1のように、法人は2期連続で期限後申告又は無申告となると青色申告が取り消されますが、注意しなければならないのは2期目から青色申告が取り消されるということです。

 例えば、設立3期目の法人が前期(第2期)に期限後申告をし、当期(第3期)も期限後申告となった場合は、前期(第2期)までは青色申告が適用されますが、当期(第3期)から青色申告が取り消されます。次期(第4期)から取り消されるのではない点に注意が必要です。


 さらに注意点として、期限後申告となる当期(第3期)から青色申告が取り消されることがわかっていても、一旦は青色申告書を提出するということです。
 青色申告書を提出した後に、税務署から「青色申告承認申請の取り消し通知」(以下「取消通知」といいます)が届いて、当期(第3期)から白色申告という扱いになります。
 この場合、当期(第3期)に新たに欠損金が生じていたり、課税所得に影響があるような会計処理(30万円未満の少額減価償却資産の特例の適用など)をしているときは、白色申告で修正申告を行います

 なお、税務署から「取消通知」が届いた後で期限後申告をする場合は、はじめから白色申告書を提出します。

 また、青色申告を取り消された場合でも、青色申告の承認申請書を再提出すれば青色申告に戻すことができます。

 取消通知が届くのは、第3期の期限後申告を行った第4期です。この取消通知が届いてから1年経過後の第5期に、青色申告の承認申請書を提出することができるようになります。
 ただし、青色申告の承認申請書は、適用を受けたい事業年度開始の日の前日までに提出しなければなりませんので、第5期に提出したとしても青色申告に戻れるのは第6期からとなります。
 青色申告が取り消されると、少なくとも3期間は白色申告となります。

3.青色申告時代の繰越欠損金は白色申告になっても控除可能

 期限後申告(無申告を含む)2期目から青色申告が取り消されますが、この場合、過去の繰越欠損金はどうなるのでしょうか?
 
 例えば、欠損金の状況が次のような設立3期目の法人を例にします。

 
 前々期(第1期)に200万円、前期(第2期)に100万円の欠損金が生じていますが、期限後申告となった前期(第2期)の100万円の欠損金は、青色申告が適用されるため、当期(第3期)以降に繰り越すことができます。
 しかし、期限後申告2期目の当期(第3期)に生じた欠損金50万円は、青色申告が取り消されて白色申告となるため、次期(第4期)以降へ繰り越すことができません。
 また、第5期に生じた欠損金50万円も、同じ理由から、次期(第6期)以降に繰り越すことはできません。

 一方、第4期に利益が100万円発生していますが、この利益100万円と第1期に生じた200万円の欠損金のうち100万円を繰越控除(相殺)することができます。
 その結果、第4期終了時点における繰越欠損金は、合計200万円(第1期分100万円、第2期分100万円)となります。
 青色申告が取り消されて白色申告となった場合でも、青色申告時代に生じた繰越欠損金は控除することができます。

 なお、上記の例では期限後申告2期目となる当期(第3期)に50万円の欠損金が生じていますが、第3期に50万円の利益が発生した場合は、この利益50万円と第1期の繰越欠損金200万円のうち50万円を繰越控除(相殺)することができます。
 その結果、第3期終了時点における繰越欠損金は、合計250万円(第1期分150万円、第2期分100万円)となります。

法人設立届出書の書き方と記載例

 法人を設立した場合には、納税地を所轄する役所(税務署、都道府県税事務所、市町村役場)に対して、法人の設立に伴う様々な届出書や申請書を提出しなければなりません。
 以下では、それらのうち税務署に提出しなければならない法人設立届出書の書き方について確認します。

1.税務署へ提出する書類

 法人(消費税の免税事業者であることを前提とします)を設立した場合に、税務署に提出する書類は以下のとおりです((3)~(8)は必要に応じて提出します)。

(1) 法人設立届出書
(2) 源泉所得税関係の届出書
(3) 青色申告の承認申請書
(4) 棚卸資産の評価方法の届出書
(5) 減価償却資産の償却方法の届出書
(6) 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書
(7) 申告期限の延長の特例の申請書
(8) 事前確定届出給与に関する届出書

 上記書類の内容や提出期限については、本ブログ記事「会社設立時に提出する税務上の書類」をご参照ください。

2.法人設立届出書の書き方と記載例

 内国法人(国内に本店または主たる事務所を有する法人)である普通法人または協同組合等を設立した場合は、設立の日(設立登記の日)以後2か月以内に「法人設立届出書」を納税地の所轄税務署長に1部(調査課所管法人は2部)提出しなければなりません。
 この法人設立届出書には、「定款、寄附行為、規則または規約等の写し」を1部(調査課所管法人は2部)添付します。

 以下の法人設立届出書の記載例を見ながら、その書き方について確認します。

① 法人設立届出書を提出した日と所轄税務署を記入します。

② 整理番号はまだ付番されていませんので、記入不要です(※印のある欄は記入不要です)。

③ 本店又は主たる事務所の所在地を登記(履歴事項全部証明書の「本店」欄)のとおりに記入します。電話番号は固定電話がなければ携帯電話を記入し、郵便番号も忘れずに記入します。

④ 納税地に関する特別の届出をしていない場合は、③の本店又は主たる事務所の所在地と同じです。

⑤ 法人名を登記(履歴事項全部証明書の「商号」欄)のとおり記入します。フリガナも忘れずに記入します。

⑥ 13桁の法人番号を記入します。提出日時点において法人番号の指定を受けていない場合は、記入しなくてもかまいません。

⑦ 代表者の氏名を登記(履歴事項全部証明書の「役員に関する事項」(合同会社の場合は「社員に関する事項」)欄)のとおり記入します。フリガナも忘れずに記入します。

⑧ 代表者の住所を登記(履歴事項全部証明書の「役員に関する事項」(合同会社の場合は「社員に関する事項」)欄)のとおり記入します。電話番号は固定電話がなければ携帯電話を記入し、郵便番号も忘れずに記入します。

⑨ 設立年月日は登記(履歴事項全部証明書の「会社成立の年月日」欄)のとおり記入します。

⑩ 定款に記載されている事業年度を記入します。

⑪ 資本金を登記(履歴事項全部証明書の「資本金の額」欄)のとおり記入します。

⑫ ⑪の設立時の資本金の額又は出資金の額が1千万円以上である場合に、⑨の設立年月日を記入します。この欄に設立年月日を記入した場合には、「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」を提出する必要はありません。

⑬ 事業の目的の「(定款等に記載しているもの)」は、定款(または履歴事項全部証明書の「目的」欄)に記載されている事業の目的のうち主要なものを記入します。
 事業の目的の「(現に営んでいる又は営む予定のもの)」は、「(定款等に記載しているもの)」と通常は同じですので、同上と記入します。

⑭ 本店以外に支店・出張所・工場等がある場合は、登記の有無に関わらず全ての支店・出張所・営業所・事務所・工場等を記入します。支店・出張所・工場等がない場合は、記入不要です。

⑮ 設立の形態は、該当する形態の番号を○で囲みます。法人成りの場合は1を〇で囲み、個人事業主のときの所轄税務署と整理番号を記入します。現金預金の払込みによる設立の場合は5を〇で囲み、( )内に金銭出資による設立などと記入します。

⑯ ⑮の設立の形態が2から4までである場合に、適格かその他のどちらかを〇で囲みます。

⑰ 法人設立後、事業を開始した年月日または事業を開始する見込みの年月日を記入します。通常は⑨の設立年月日と同じになります。

⑱ 「給与支払事務所等の開設届出書」の提出の有無のいずれかの該当のものを○で囲みます(法人設立届出書と一緒に提出する場合または既に別途に提出している場合は「有」を○で囲みます)。

⑲ 1を〇で囲み、定款、寄附行為、規則または規約等の写しを添付します。

⑳ 関与税理士がいる場合に記入します。いない場合は記入不要です。

㉑ この法人設立届出書を税理士または税理士法人が作成した場合は、その税理士等が署名します。

㉒ 税務署処理欄ですので、記入不要です(※印のある欄は記入不要です)。

中小企業倒産防止共済の再加入後の損金算入制限に注意

 中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)は、取引先事業者が倒産した際に中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度で、独立行政法人中小企業基盤整備機構が実施しています。

 取引先の突然の倒産などの「もしも」のときに備えるというのが本来の目的ですが、一方で掛金全額を損金または必要経費に算入できることから、節税対策として活用されることもあります。

 この中小企業倒産防止共済(以下「倒産防」といいます)について、2024(令和6)年度税制改正で見直しが行われましたので、以下でその内容を確認します。

1.制度の概要

 倒産防は先に述べたように、取引先事業者が倒産した際に中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。
 「もしも」のときに資金繰りが悪化しないように、無担保・無保証人で共済金の借入ができます。
 借入額の上限は、回収困難となった売掛金債権等の額と納付された掛金総額の10倍(最高8,000万円)の、いずれか少ない方の金額となります。

 掛金月額は5千円~20万円まで自由に選べ、増額・減額することもできます。また、掛金は損金(法人の場合)または必要経費(個人事業主の場合)に算入できます。

 解約した場合は解約手当金を受け取ることができ、解約手当金は益金(法人の場合)または収入金額(個人事業主の場合)に算入されます。
 自己都合の解約であっても、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻り、40か月以上納めていれば掛金全額が戻ります(12か月未満は掛け捨てとなります)。

2.節税対策としての利用方法

 倒産防は累計800万円まで掛金を拠出することができ、掛金は全額が損金または必要経費に算入されます。
 一方、解約手当金は最高800万円を受け取ることができ、解約手当金は雑収入として全額が益金または収入金額に算入されます。
 そのため、解約した期には解約手当金に対して法人税または所得税が課税されます。

 解約手当金への課税を最小限にする(または回避する)ために、退職金などで赤字が発生しそうな期に解約して、退職金と雑収入を相殺するという節税はよく行われていました。
 さらに、これに追加して、解約した期に倒産防に再加入して掛金(最高240万円)を前納し損金または必要経費に算入することで、雑収入による利益上昇の影響を緩和するという節税も行われていました。

3.再加入後の損金算入に制限あり

 中小企業庁によると、解約手当金の返戻率(支給率)が100%となる加入後3年目、4年目に解約が多くなる傾向が顕著であり、解約してすぐに再加入する行動変容の発生が加入・脱退の増加の一因としています。

 短期間で繰り返される脱退・再加入は、積立額の変動により「もしも」のときの借入可能額も変動することから連鎖倒産への備えが不安定となるため、本来の制度利用に基づかない不適切な倒産防の利用とされました。

 そのため、2024(令和6)年10月1日以後に解約した倒産防については、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は損金算入することができないとされました。

 つまり、解約の日から2年を経過する日までの間に再加入することは可能ですが、この間の掛金は損金算入できないということです。
 言い換えると、掛金全額を損金算入するためには、解約の日から2年を経過した日以後に再加入しなければならないということです。

 なお、倒産防の掛金を損金算入するための要件等については、本ブログ記事「中小企業倒産防止共済掛金の損金算入要件等」をご参照ください。

翌期の中間法人税等還付金の会計処理と別表四・五(一)・五(二)の記載例

 前期の決算で、法人税・住民税・事業税(以下「法人税等」といいます)の年税額が中間納付税額より少なくなった場合は、その差額が当期に還付されます
 以下では、前期の中間納付税額が当期に還付されたときの会計処理と、それに伴う別表四・別表五(一)・別表五(二)の記載例を確認します。

※ 中間納付税額が還付される場合の前期の会計処理とそれに伴う税務処理(別表調整)については、今回の記事の前編である「中間法人税等還付金の会計処理と別表四・五(一)・五(二)の記載例」をご参照ください。

1.中間納付税額が還付されたときの会計処理

 前期の決算で、中間(予定)納付した法人税等の税額が還付される場合の会計処理は何通りかありますが、会計処理方法によって別表調整はすべて変わってきます。
 以下では、前期決算において中間納付税額還付金を仮払金(具体的な勘定科目は「未収入金」)として資産計上していたことを前提とします。

【設例】

(1) 当期に還付された前期の中間納付税額(未収入金)
① 法人税・・・・・707,400円
② 地方法人税・・・72,900円
③ 事業税・・・・・285,700円
④ 法人県民税・・・7,000円
⑤ 法人市民税・・・42,400円
※ ①~⑤の合計・・1,115,400円(他に前期の受取利息の源泉徴収税額2,783円が還付されています)

(2) 当期の年度決算に基づく年税額(法人税、住民税及び事業税)
① 法人税・・・・・0円
② 地方法人税・・・0円
③ 事業税・・・・・0円
④ 法人県民税・・・22,000円
⑤ 法人市民税・・・50,000円
⑥ 受取利息の源泉徴収税額(所得税及び復興特別所得税)・・・2,575円
※ ①~⑥の合計・・74,575円

(3) 確定納付税額(未払法人税等)
① 法人県民税・・・22,000円
② 法人市民税・・・50,000円
※ ①~②の合計・・72,000円

(1) 前期の中間納付税額と受取利息の源泉徴収税額が当期に還付されたときの会計処理

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 1,115,400 未収入金 1,115,400
普通預金 2,783 雑収入 2,783

(2) 当期の年度決算時の会計処理

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法人税、住民税及び事業税 74,575 仮払法人税等 2,575
    未払法人税等 72,000

(参考)受取利息の源泉徴収税額(所得税及び復興特別所得税)2,575円の仕訳

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 14,239 受取利息 16,814
仮払法人税等 2,575    

※ 所得税及び復興特別所得税の税率:15.315%

2.別表四、五(一)、五(二)の記載例

 上記1の設例における会計処理をした場合の別表四、五(一)、五(二)の記載例は、次のとおりです。

 前期に未収計上していた中間納付税額が当期に還付されたときの当期の別表調整のポイントは次のとおりです。

(1) 別表五(二)において、法人税及び地方法人税2番と住民税(道府県民税7番、市町村民税12番)については「期首現在未納税額」①欄の金額(前期の未収還付税額と未払法人税等)を「充当金取崩しによる納付」③欄へ記入します。
 また、事業税17番については「当期発生税額」②欄と「充当金取崩しによる納付」③欄に前期の未収還付税額を記入します。

(2) 別表五(一)において、未収還付法人税等22番、未収還付道府県民税23番、未収還付市民税24番については「期首現在利益積立金額」①欄の金額を「当期の増減」欄の「減②」に記入します。
 納税充当金26番についても「期首現在利益積立金額」①欄の金額を「当期の増減」欄の「減②」に記入します。

(3) 別表五(二)において、「納税充当金の計算」欄の32番の空欄に「還付法人税等」と記入し、事業税以外の未収還付税額(別表五(一)の22,23,24番の合計金額)を記入します。
 一方、同欄の仮払税金消却39番には、事業税も含めた未収還付税額(別表五(一)の△を取った3番の金額)を記入します。
 また、別表五(一)において、仮払税金3番について「期首現在利益積立金額」①欄の金額を「当期の増減」欄の「減②」に△を付したまま記入します。
 なお、別表四において、未収還付税額を10番の空欄に「仮払税金取崩し」として記入して加算し、同額を18番で減算することもありますが、課税所得の計算には影響がありませんので、強いて記入しなくても差し支えありません。

(4) 別表五(二)において、「納税充当金の計算」欄の損金経理をした納税充当金31番に当期の損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」の金額を記入すると、期末納税充当金41番の金額は貸借対照表の「未払法人税等」の金額と一致します。
 また、別表五(二)の損金経理をした納税充当金31番の金額を、別表四の損金経理をした納税充当金4番①②に記入します。

(5) 別表四の13番①②の金額283,125円は、前期に未収計上した事業税△285,700円と当期の受取利息の源泉徴収税額2,575円の合計額です。
 なお、当期に還付された前期の受取利息の源泉徴収税額2,783円を、19番①③に記入するのを忘れないようにしてください。

3.還付加算金があるとき

 法人税等の還付と一緒に、還付加算金を受け取ることがあります。還付加算金はもともと益金に算入されるもので、会計上収益として計上されていれば別表四でも別表五でも調整の必要はありません。

電子帳簿保存法への対応に困っているなら・・・

 改正電子帳簿保存法は2022(令和4)年1月1日から施行されていましたが、2年間の宥恕措置を経て2024(令和6)年1月1日から本格的に開始されました。
 この電子帳簿保存法は、法人・個人や規模の大小にかかわらず、すべての事業者が対応しなければなりません。
 電子帳簿保存法とは、仕訳帳などの国税関係帳簿や決算書・請求書などの国税関係書類を「紙(書面)」ではなく「電子データ」で保存するための要件を定めた法律です。
 これまでは紙で保存していたけれど電子データで保存しなければならないとなると、令和6年1月1日からどうすればいいのだろうと困っている事業者の方もいるかもしれません。
 結論を先に述べると、電子帳簿保存法への対応を最小限の労力で済ませたい場合は、下記3の「猶予措置」の適用をお勧めします。
 まずは、電子帳簿保存法に関するよくある誤解について紹介します。

1.スキャナ保存のよくある誤解

 事業者の方からよく質問されるのは、「紙で受け取った領収書や請求書をスキャンしてデータで保存しなければならないのか?」ということですが、必ずしもその必要はありません。
 電子帳簿保存法は1つの法律ですが、その内容は次のように電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引データ保存の3つの部分に分かれています。

(1) 電子帳簿等保存
 最初から一貫してパソコン等で作成した国税関係帳簿や国税関係書類を電子データのまま保存するというものです。例えば、会計ソフトで作成した仕訳帳やパソコンで作成した請求書の控え等が対象となります。

(2) スキャナ保存
 取引先から受領した紙の領収書・請求書等をスマホやスキャナで読み取って、データで保存するというものです。

(3) 電子取引データ保存
 電子取引で受領した電子データ(例えば、メールに添付された請求書のPDF等)をプリントアウトした「紙」ではなく「電子データ(PDF等)」のまま保存するというものです。

 こららのうち改正電子帳簿保存法で義務化されたのは(3)電子取引データ保存だけであり、(1)と(2)に対応するかどうかは事業者の任意とされています。
 紙で受け取った領収書等をスキャンして保存するのは(2)スキャナ保存に該当しますので、必ずしも対応する必要はありません。
 これまで通り紙で受け取ったものは紙で保存していただいて結構です。

 なお、(2)スキャナ保存に対応するためには、単にスキャンするだけではなくタイムスタンプを付すなど保存要件に従った保存が必要ですので、新たなシステムの導入が必要です。
 また、(1)電子帳簿等保存に対応するためには会計ソフトの導入が必要です。

2.電子取引データ保存への最低限の対応

 対応が必要なのは電子取引データ保存ですが、これは「電子取引」を紙ではなくデータで保存することをいいます。
 具体的には次のようなものが電子取引に該当します。

・電子メールで送受信する請求書や領収書などのPDF
・インターネット上のホームページやショッピングサイト(amazon、楽天)でダウンロードした請求書や領収書などのPDF
・インターネット上で表示される請求書や領収書などのスクリーンショット
・クラウドサービス(楽々明細、Misoca)を利用した電子請求書や電子領収書の授受
・クレジットカード(JCB、三井住友カード)の利用明細データ
・交通系ICカード(ICOCA、Suica)による支払データ
・スマートフォンアプリ(PayPay、LINEPay)による決済データ等の受領・・・など

 これらの電子取引を、紙ではなく電子データ(PDF、スクリーンショット等)で保存する必要があります。
 これも単にPDF等で保存するだけではなく、次の保存要件(真実性・可視性)に従った保存が必要です。

(1) 真実性の確保
 保存されたデータが改ざんされていないという「真実性」を確保する必要があります。
 そのためにはタイムスタンプを付与する等の措置がありますが、新たなシステムの導入コスト等がかからず現実的なのは、「正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程」(以下「事務処理規程」といいます)を定め、その規程に沿った運用を行うことです。
 事務処理規程については国税庁ホームページよりひな型(法人用・個人事業者用)をダウンロードできますので、そのひな型を自社用にアレンジすることで真実性の確保に対応できます(事務処理規程の書き方については、本ブログ記事「事務処理規程の書き方と記載例:電子取引データ保存」をご参照ください)。

(2) 可視性の確保
 保存されたデータを検索、表示できるという「可視性」を確保する必要があります。
 保存されたデータの検索については、税務職員によるダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合は高度な検索は不要となり、取引年月日、取引金額、取引先名の3つの項目で簡易な検索ができればよいとされています。
 さらに、2023(令和5)年度税制改正で、ダウンロードの求めに応じることに加えて、法人の場合は2期前(個人事業主の場合は2年前)の売上高が5,000万円以下の場合、又はデータを出力した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものに限ります)を提示・提出できるようにしている場合は、検索できなくてもよいとされました。
 保存されたデータの表示について必要なことは、パソコン、モニター、プリンター、取扱説明書の備付けですので、これについては問題ないと思われます。

 したがって、義務化された電子取引データ保存に対応するために最低限しなければならないことは、真実性を確保するために事務処理規程を整備し、可視性を確保するためにデータをダウンロード可能な状態で簡易な検索ができるように保存しパソコン等を備え付けてそのデータを表示できるようにしておくことです。

3.猶予措置の適用

 義務化された電子取引データ保存に最低限の対応をするためには、上記2の保存要件を満たした保存(真実性と可視性を確保した保存)をすればよいということになりますが、それでもなお対応が難しい場合には2023(令和5)年度税制改正で設けられた「猶予措置」の適用をお勧めします。

 猶予措置とは、次の(1)(2)の要件をいずれも満たしている場合には、2024(令和6)年1月1日以降もこれまで通り紙保存が認められる(保存要件を満たすという対応自体が不要となり、電子データを単に保存しておくことができる)というものです。

(1) 保存要件に従って電子データを保存することができなかったことについて、所轄税務署⻑が相当の理由があると認める場合(事前申請等は不要)
(2) 税務調査等の際に、電子データの「ダウンロードの求め」及びその電子データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合

 (1)における「相当の理由」については、システムの導入や社内のワークフローの整備が間に合わない場合などの他、人手不足や資金繰り(お金が足りない)なども認められるようです。
 仮に税務調査等の際に税務職員から確認等があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを具体的に説明すれば差し支えないとされています。

 ただし、(2)の要件にあるように、電子データの「ダウンロードの求め」に応じなければなりませんので、紙保存に加えて電子データの保存も必要です。
 この場合の電子データの保存は保存要件(真実性・可視性)を満たす必要はなく、単にPDFやスクリーンショットなどで保存するだけで大丈夫です。
 最小限の労力で電子帳簿保存法に対応したい場合は、紙保存に加えて電子データも保存しておいてください(紙保存が認められるからといって、電子データを保存しなくてもいいということではありませんのでご注意ください)。

【結論】
・「紙」で受け取ったものは紙で保存する(これまで通りです)
・「データ」で受け取ったものは印刷して紙で保存すると同時にデータも保存する(猶予措置を適用した最小限の労力での対応です)

消費税還付金の計上時期~必ず未収計上しなければならないか?

 消費税は国内において消費される商品の販売やサービスを課税対象としますので、国外で消費される輸出取引については消費税が免除されます。これを輸出免税といいます。
 輸出免税は、輸出売上げに係る消費税を免除する一方で、その仕入れに係る消費税を仕入税額控除の対象としますので、輸出取引が多い事業者の場合は消費税の還付を受けることができます。
 一例として輸出免税を挙げましたが、消費税は納付するだけではなく還付を受けるケースもあるということです。
 消費税の還付を受ける場合、法人税法や所得税法との関係から、その還付申告となった課税期間を含む事業年度または年の益金または総収入金額に算入しなければならないように思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。
 還付額をどのタイミングでどのように計上するかについては、以下のように消費税の経理方法によって異なります。

1.税抜経理方式の場合

 消費税の経理処理には税抜経理方式と税込経理方式があり、どちらの方法を選択するかは事業者の任意とされており、また、選択した方法によって納付する消費税額や還付を受ける消費税額に差異が生じることは基本的にはありません。
 税抜経理方式を選択した場合の経理処理は、次のようになります(還付申告のケース)。

(1) 仕入時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 3,000 買掛金 3,300
仮払消費税等 300    

(2) 売上時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売掛金 2,200 売上 2,000
    仮受消費税等 200

(3) 決算時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仮受消費税等 200 仮払消費税等 300
未収消費税等 100    

(4) 還付時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 100 未収消費税等 100

 事業者がすべての取引について税抜経理方式を選択した場合、上記のように消費税が課される取引については税抜金額で計上し、課税売上げに対する消費税額は仮受消費税等、課税仕入れに対する消費税額は仮払消費税等とします。 
 決算時には上記(3)のように、その課税期間の仮受消費税等の金額から仮払消費税等の金額を控除し、納付すべき税額は未払消費税等、還付を受ける税額は未収消費税等として計上しますが、原則として法人税または所得税の課税所得金額には影響しません。

2.税込経理方式の場合

 税込経理方式を選択した場合の経理処理は、次のようになります(還付申告のケース)。

(1) 仕入時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 3,300 買掛金 3,300

(2) 売上時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売掛金 2,200 売上 2,200

 事業者がすべての取引について税込経理方式を選択した場合には、上記のように課税売上げに対する消費税額は収益の額または収入金額に含まれ、また、課税仕入れに対する消費税額は仕入金額や経費などの額に含まれます。
 このため、納付すべき消費税額は租税公課として損金の額または必要経費に算入し、還付を受ける消費税額は雑収入などとして益金の額または総収入金額に算入しますので、法人税または所得税の課税所得金額に影響します。
 ということは、消費税の納付税額や還付税額を計上するタイミングによって、法人税額や所得税額が変わるということです。
 では、どのタイミングでこれらを計上すればよいのでしょうか?決算時でしょうか、それとも納付時(還付時)でしょうか?

 結論を先に述べると、納付すべき消費税額および還付を受ける消費税等額の計上時期は、原則として「納付時(還付時)」です。
 納付税額または還付税額の計上時期については、申告に係るものはその申告書が提出された日の属する事業年度または年(更正または決定に係るものはその更正または決定があった日の属する事業年度または年)とされています。
 したがって、決算時と還付時の経理処理は、原則として次のようになります。

(3) 決算時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕訳なし      

(4) 還付時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 100 雑収入 100

 しかし、税込経理方式を選択していても、実務では消費税の納付税額または還付税額を未払計上・未収計上することはよくあります。
 これについては、法人が申告期限未到来の納税申告書に記載すべき消費税額を損金経理により未払金に計上した場合または収益の額として未収入金に計上した場合には、その計上した事業年度の損金の額または益金の額に算入することができるとされており、個人事業者が申告期限未到来の納税申告書に記載すべき消費税額を未払金または未収入金に計上した場合には、その計上した年の必要経費または総収入金額に算入することができるとされているためです。

 したがって、税込経理方式を選択した場合は、消費税還付金を還付時に雑収入として経理処理するのが原則であり、決算時に必ずしも未収計上する必要はないということです。

猶予措置は電子取引データ保存の最後の手段!

 電子取引データの保存要件が緩和されたとはいえ、対応に四苦八苦している事業者や既にあきらめている事業者の方もいます。そのような方には、究極の緩和策である猶予措置の適用をお勧めします。
 今回は、FM宝塚「インボイス制度ってな~に?パート2」の最終回で本日の8:15からオンエアした内容を、Q&A形式でお伝えします。

※ 番組の概要については、本ブログ記事「FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします」をご参照ください。

1.どうしても対応できない場合は猶予措置

Q.前回の放送で、税務職員のダウンロードの求めに応じることができて2年前の売上高が5,000万円以下の事業者などは、検索機能を確保しなくてもいいという話がありました。その場合でも、保存要件に従った電子データの保存が必要ということでしたが、どうしても対応できないという声もあります。そんな場合はどうしたらいいでしょうか?

A.2023(令和5)年度の改正で猶予措置が設けられ、この猶予措置の要件に該当する場合は保存要件を満たさなくてもよく、電子データを単に保存しておくことができるとされました。

Q.猶予措置の要件とは?

A.次の2つのいずれにも該当することが必要です。

(1) 保存要件を満たせなかったことについて、所轄税務署⻑が「相当の理由」があると認める場合

(2) 税務調査の際に、電子データのダウンロードの求め及びその電子データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合

この2つの要件を満たせば、2024(令和6)年1月1日以降も電子データを印刷して紙で保存することができますので、対応に困っている事業者の方は猶予措置の適用を検討してみてください。

2.猶予措置における「相当の理由」とは?

Q.猶予措置は検討する価値があると思いますが、「相当の理由」の内容が気になります。どんな場合に「相当の理由」があると認められるのでしょうか?

A.この「相当の理由」については、電子帳簿保存法取扱通達7-12に記載されています。要約しますと、例えば、保存要件に適合したシステムの導入や社内でのワークフローの整備が間に合わない場合などは相当の理由があると認められます。また、資金繰りや人手不足等も相当の理由として認められるようです。

Q.「準備が間に合わない」とか「資金や人手が足りない」など、自己の責任だと思われるような理由でも認められるのですね?

A.そうですね。ただし、単に経営者の信条のみに基づく理由である場合は認められません。例えば、電子データは一瞬で失われる可能性があるので、我が社では電子データを紙で保存することを信条としている、といった場合です。

Q.相当の理由について、税務署への事前の申請は必要ですか?

A.事前申請は必要ありません。仮に税務調査の際に、相当の理由について税務職員から確認があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを具体的に説明すれば差し支えないとされています。

Q.電子帳簿保存法は令和4年1月1日から始まっていますが、令和5年12月31日までの2年間に限り、電子データを紙で保存してもいいとされています。今回の改正で設けられた猶予措置にも期限はありますか?

A.期限はありません。猶予措置は経過措置ではなく本則として規定された恒久的措置ですので、猶予措置が適用される限り、電子データを紙で保存することができます。

3.紙保存に加えてデータの保存も必要

Q.猶予措置を適用している間は紙保存ができるということですが、電子データを保存しなくてもいいということになりますか?

A.いいえ。この点については誤解する事業者の方もいるかもしれませんので念を押しておきますと、先ほど言いましたように、猶予措置には「電子データのダウンロードの求めに応じることができる」という要件があります。ダウンロードの求めに応じるためには、電子データの保存が必要になります。つまり、電子帳簿保存法が定める保存要件に従った保存は不要ですが、電子データを保存しなくてもいいということではありません。

Q.ということは、猶予措置を適用する場合でも、紙保存に加えて電子データの保存も必要ということですね。でも、保存要件を満たす必要がなくなるだけでだいぶん負担が減りますね。

A.そうですね。これまでの紙保存と何が変わるかといえば、電子データをとりあえず保存するだけですからね。この猶予措置ができたことによって電子帳簿保存法が骨抜きにされたという意見もありますが、対応に困っていた事業者の方は助かると思います。

電子取引データ保存の具体的な対応方法

 2024(令和6)年1月1日から、すべての事業者は電子取引を電子データのまま保存しなければなりませんが、単に保存するのではなく保存要件に従った保存をしなければなりません。
 今回は、FM宝塚「インボイス制度ってな~に?パート2」で本日の8:15からオンエアした内容を、Q&A形式でお伝えします。

※ 番組の概要については、本ブログ記事「FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします」をご参照ください。

1.保存要件―真実性の確保

Q.保存要件とは?

A.電子データの保存要件には、真実性の確保と可視性の確保があります。真実性の確保とは「保存されたデータが改ざんされていないこと」をいい、可視性の確保とは「保存されたデータを検索・表示できること」をいいます。

Q.真実性を確保するためには、どのような方法がありますか?

A.真実性確保(改ざん防止)のためには、3つの方法があります。1つ目は「電子データにタイムスタンプを付与する方法」、2つ目は「訂正・削除の履歴を確認できるシステム又は訂正・削除を行うことができないシステムで保存を行う方法」、3つ目が「改ざん防止に関する事務処理規程に沿った運用を行う方法」です。

Q.タイムスタンプとは何でしょうか?

A.例えば、書類を社内で回覧する場合のような紙での手続きでは、正式に処理された証として印鑑が利用されてきましたが、その印鑑に代わって電子データに付与されるものがタイムスタンプです。

Q.タイムスタンプは誰でも付与できますか?

A.タイムスタンプは保存されたデータの正当性を裏付けるものとなりますので、事業者が勝手に付与することはできません。第三者機関である「時刻認証局」を通じてタイムスタンプを付与する仕組みとなっています。そのため、タイムスタンプを付与するためには、新たなシステムの導入が必要です。

Q.2つ目の「訂正・削除の履歴を確認できるシステム又は訂正・削除を行うことができないシステムで保存を行う方法」もタイムスタンプが必要ですか?

A.こちらについてはタイムスタンプは不要ですが、そもそもこのような要件を満たしたシステムの導入が必要です。

Q.ということは、改ざん防止策の1つ目と2つ目の方法は新たなシステムの導入が必要になりますので、導入コストやランニングコストなどを考えると、中小企業や個人事業主には対応し難い面がありますね。

A.その通りです。そこでお勧めしたいのが3つ目の「改ざん防止に関する事務処理規程に沿った運用を行う方法」です。この方法でしたら現状のシステムで対応可能ですので、新たなコストもかかりません。ただし、改ざん等の不正をどうすれば防止できるのかについて社内で検討し、事務処理規程を作成する必要があります。

Q.事務処理規程の作成は難しそうなので、専門家に依頼した方がいいですか?

A.いいえ。国税庁ホームページに法人用と個人用のひな型が用意されていますので、それを自社用にアレンジすることで容易に作成できます

※ 事務処理規程の作成については、本ブログ記事「事務処理規程の書き方と記載例:電子取引データ保存」をご参照ください。

2.保存要件―可視性の確保

Q.もう1つの保存要件である可視性を確保するためには、どうすればいいですか?

A.可視性を確保するためには、概ね2点の対応が必要です。1点目はパソコンやディスプレイ、プリンタを設置し、これらの操作マニュアルと概要書を備え付けて、データを画面上や書面で確認できるようにしておくことです。

Q.パソコン等の周辺に説明書を置いておくだけで簡単に対応できそうですね。もう1点の対応とは何ですか?

A.保存したデータの検索機能を確保することです。この検索機能の確保には3つの要件がありすべてを満たす必要があったのですが、令和5年度の改正で大幅に緩和されました。

Q.どのように緩和されたのですか?

A.詳細な説明は省略して結論だけを言いますと、税務調査の際に税務職員によるダウンロードの求めに応じることができて2年前の売上高が5,000万円以下の場合は、検索機能の確保自体が不要(つまり3つの要件すべてが不要)とされました。さらにダウンロードの求めに応じることを前提に、整然かつ明瞭な状態で印刷され日付と取引先ごとに整理された書面を提示・提出できる場合も検索機能の確保が不要となりました。

Q.要件を満たせば検索機能の確保が不要になるということですが、ダウンロードの求めには応じないといけないのですね。ということは、電子データの保存は必要ということですね?

A.その通りです。あくまでも可視性の要件の1つである検索機能の確保が不要となるだけであって、真実性と可視性が確保された状態で電子データを保存しなければなりません。具体的には、事務処理規程を作成・運用して真実性を確保し、パソコン等の周辺に説明書を置いて可視性を確保します。