個人事業主の源泉徴収義務

 法人や個人事業主が、従業員に給与を支払ったり、税理士や司法書士などに報酬を支払ったりした場合には、その給与や報酬から支払金額に応じた所得税及び復興特別所得税を差し引き、従業員や税理士等に代わって国に納めることになっています。
 この所得税及び復興特別所得税を差し引いて、国に納める義務のある者を源泉徴収義務者といいます。
 法人(会社だけではなく、学校や官公庁、人格のない社団・財団を含みます)は、給与や報酬を支払う場合は、必ず源泉徴収義務者になります。従業員を雇っておらず社長だけの「1人会社」であっても、社長に給与を支払っていれば源泉徴収義務者になり、また、「1人会社」において社長に給与を支払っていなくても、税理士等に報酬を支払っていれば源泉徴収義務者になります。
 これに対し、個人事業主は、給与や報酬の支払があっても源泉徴収義務者にならない場合があり、源泉徴収が必要か否かについて判断を迷うこともあります。
 今回は、個人事業主の源泉徴収義務と源泉徴収すべき報酬等の範囲について確認します。

1.源泉徴収義務者となる場合・ならない場合

 個人事業主が給与や報酬を支払う場合は、原則として源泉徴収義務者になります。ただし、次のような場合は源泉徴収義務者にはなりません(下記(1)や(2)に該当する場合でも、ホステス等に報酬・料金等を支払う場合は、源泉徴収をする必要があります)。

(1) 常時2人以下のお手伝いさんや家政婦さんなどのような家事使用人だけに給与を支払っている個人は、その支払う給与や退職金について源泉徴収をする必要はありません。
(2) 源泉徴収義務のない個人が支払う税理士報酬などの報酬・料金については、源泉徴収をする必要はありません。例えば、給与所得者が確定申告などをするために税理士に報酬を支払っても、源泉徴収をする必要はありません。

 したがって、個人が給与等の支払者であっても常時2人以下の家事使用人のみに対する給与の支払者である場合又は従業員を雇っておらず給与等の支払者でない場合は、ホステス等に報酬・料金等を支払うときを除き、源泉徴収する必要はありません。

 ここで注意を要するのは、青色事業専従者給与を支払っている場合は、たとえその給与等について納付すべき税額がない場合であっても、源泉徴収義務者になるということです。上記(1)の家事使用人と青色事業専従者を混同しないように注意してください。

 源泉徴収義務者は、源泉徴収の対象となる報酬・料金等を支払う際に、所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。以下では、源泉徴収が必要となる報酬・料金等についてみていきます。

2.源泉徴収が必要な報酬・料金等

 源泉徴収が必要な報酬・料金等の範囲は、その報酬・料金等の支払を受ける者が、個人であるか法人であるかによって異なります。
 支払を受ける者が法人の場合は、馬主である法人に支払う競馬の賞金以外は、源泉徴収の必要はありません。
 支払を受ける者が個人の場合は、次の報酬・料金等を支払ったときに源泉徴収が必要になります。

(1) 原稿料や講演料など(ただし、懸賞応募作品等の入選者に支払う賞金等については、一人に対して1回に支払う金額が5万円以下であれば、源泉徴収をしなくてもよいことになっています)
(2) 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
(3) 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
(4) プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
(5) 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
(6) ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
(7) プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
(8) 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

 源泉徴収義務者((6)については源泉徴収義務者でなくても)がこれらの報酬・料金等を支払った場合に源泉徴収を怠ると、源泉徴収漏れとして支払った側にペナルティが課されますので、ご注意ください。

印紙税の節税方法5選

 印紙税は契約書などに課される税金ですが、印紙を貼っていなくても、その文書の法的な効力がなくなるわけではありません
 とはいえ、正式な契約の成立の証しとして作成する契約書に印紙を貼っていないと、契約の相手方が不安や物足りなさを感じるかもしれません。たとえ、合法的に印紙の貼り付けを不要にできる方法があったとしてもです。しかし、親子会社間や同族会社間の取引であれば、活用できる余地はあると思われます。
 そこで今回は、親子会社間や同族会社間で活用できる印紙税の節税方法について確認します(以下の方法は、親子会社間や同族会社間に限定した節税方法ではなく、双方の合意があれば、契約の相手方が誰であっても有効な方法です)。

1.コピーに印紙は不要

 契約書の文面に、「甲はこの契約書の原本を保有し、乙はそのコピーを保有する」と記載すれば、乙の保有するコピーに印紙を貼る必要はありません。これで、印紙代は半分に節約できます。
※ 詳しくは、本ブログ記事「契約書のコピーに印紙は必要?不要?」をご参照ください。

2.契約書を電子メール、ファックスで送る

 印紙税は、相手に渡したり、双方で取り決めをした「紙」の文書に課される税金です。電子メールやファックスは紙の文書を送っているわけではなく、電子データ(電子メール)や通信データ(ファックス)を送っています。
 したがって、電子メールやファックスでデータを送信しても課税文書を作成したことにはならず、印紙税の課税原因は発生しません
 例えば、注文請書に記名押印した後にPDFファイル等の電磁的記録に変換し、そのPDFファイルを注文先に電子メールで送信したとしても、現物を注文者に交付しなければ、それは課税文書に該当しません。送信用の現物(原本)を相手に交付せずに社内で保管する場合は、印紙税の課税対象外となります。
 ただし、電子メールで送信した後に注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課されます
 一方、受信者側が送信された注文請書をプリンタで印刷しても、現物の交付がなされない場合は、コピーした文書と同様のものと認められるため、印紙税は課税されません

3.記載金額を分割する

 例えば、親子会社間あるいは同族会社間で金銭の貸し借りをする場合に、金銭消費貸借契約書を1枚にせず、金額を分割します。
 仮に、金額が1,000万円なら、500万円の金銭消費貸借契約書を2枚作成します。記載金額が1,000万円なら印紙税は1万円ですが、500万円なら印紙税は2,000円です。500万円の金銭消費貸借契約書を2枚作っても、合計で4,000円の印紙税で済みます。

4.消費税、源泉所得税は区分表示する

 第1号文書(不動産等の譲渡等に関する契約書)、第2号文書(請負に関する契約書)、第17号文書(売上得代金等に係る金銭又は有価証券の受取書)は、消費税を区分表示した場合は消費税抜きの金額を記載金額とするという規定(消費税の特例)があります。
 また、第17号文書については、源泉所得税も区分表示すれば、税抜きの金額が記載金額とされます
※ 消費税の特例については、本ブログ記事「契約書・領収書の記載金額における消費税の特例」をご参照ください。

5.印紙を金券ショップや格安チケット屋で購入する

 郵便局で購入する収入印紙には、消費税が課税されません。消費税では、日本郵便株式会社や簡易郵便局等で譲渡される収入印紙は非課税とされています(消費税基本通達6-4-1)。
 一方、郵便局以外の場所、例えば金券ショップや格安チケット屋などで譲渡される収入印紙には、消費税が課税されます。
 金券ショップ等を利用すれば、額面金額よりもわずかながら安く購入することができ、さらに消費税の課税事業者で本則課税を採用している事業者であれば、印紙の購入額を課税仕入れとして処理できます
 印紙税の節税というよりは消費税の節税ですが、特に印紙の購入額が大きい不動産業や建設業の方には、活用していただきたい節税方法です。

月次支援金の申請受付が令和3年6月より開始されます

 一時支援金の申請受付は、2021(令和3)年5月31日(月)で終了しますが、この一時支援金とは別に、新たに「月次支援金」の制度概要が経済産業省から公表されました。
 月次支援金は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策として2021(令和3)年4月以降に実施される緊急事態措置やまん延防止等重点措置により、「飲食店の休業・時短営業」や「外出自粛等」の影響を受けている中小法人と個人事業者に向けた継続的な支援制度です。
 月次支援金の給付にあたっては、一時支援金の仕組みを用いることで、事前確認や提出資料の簡略化が図られており、申請者の利便性を高めるように措置されています。
 そのため、登録確認機関の事前確認を経て一時支援金を受給した方にとっては、月次支援金の申請はしやすいものと思われます。
 制度の詳細は5月中旬に公表される予定ですが、4月30日付で公表されている制度概要は次のとおりです。

1.月次支援金の概要

 

給付対象

①緊急事態措置又はまん延防止等重点措置に伴う飲食店の休業・時短営業又は外出自粛等の影響を受けていること※
②2021(令和3)年の月間売上が、2019(令和1)年又は2020(令和2)年の同月比で50%以上減少していること
給付額 2019年又は2020年の基準月の売上-2021年の対象月の売上

対象月:緊急事態措置又はまん延防止等重点措置が実施された月のうち、同措置の影響を受けて、2019年又は2020年の同月比で、売上が50%以上減少した2021年の月
基準月:2019年又は2020年における対象月と同じ月
給付額上限 中小法人等:20万円/月
個人事業者等:10万円/月

※ 2021(令和3)年4月以降に実施される緊急事態措置又はまん延防止等重点措置に伴い、同措置が実施される地域において、休業または時短営業の要請を受けて休業又は時短営業を実施している飲食店と直接・間接の取引があること、又はこれらの地域における不要不急の外出・移動の自粛による直接的な影響を受けていることが必要です。
 なお、外出自粛等の影響には、人流抑制を目的とする休業又は時短営業の要請を受けた事業者に対して、商品・サービスを提供していることによる影響も含みます。
 ただし、地方公共団体による休業又は時短営業の要請に伴う協力金の支払対象の事業者については、当該協力金が新型コロナウイルス感染症対策対応地方創生臨時交付金を用いている場合には、月次支援金の給付対象外です。

2.月次支援金の申請手続き等の留意点

 月次支援金は一時支援金の仕組みを利用することから、その申請手続き等も一時支援金の場合と共通点が多いといえます。以下では、月次支援金の申請に際しての留意点を列挙します。

(1) 申請者の利便性向上のために一時支援金の仕組みを用いることから、一時支援金事務局が月次支援金事務局を兼ねることとされています。

(2) 月次支援金の申請をする際は、初回のみ登録確認機関の事前確認を受ける必要があります。事前確認を受けて月次支援金を受給すれば、2回目以降の申請では、基本的には事前確認は不要です。
 なお、事前確認を経て一時支援金を受給した事業者は、基本的には、月次支援金の申請のために改めて事前確認を受ける必要はありません

(3) 緊急事態措置又はまん延防止等重点措置が複数月に及ぶ場合や新たに同措置が実施されて対象月が増えた場合などは、それぞれの月において、売上が50%以上減少し必要な要件を満たせば、申請を行うことができます。
 ただし、1つの対象月につき、申請・受給は1回のみとされています。

(4) 初めて月次支援金の申請を行う場合は、下表の①~⑤の提出書類をすべて提出する必要がありますが、2回目以降の申請における提出書類は、基本的には、対象月の売上台帳となります(2回目以降の申請では、宣誓・同意書を改めて提出する必要はありませんが、オンライン上で宣誓・同意事項の確認がされます)。
 なお、一時支援金の受給に際して提出した書類は、改めて提出する必要はありません。
 ただし、既存の提出書類に修正・追加の必要がある場合には、修正後・追加の書類を提出します。

  一時支援金受給者の1回目の申請 一時支援金受給者の2回目の申請 一時支援金未受給者の1回目の申請 一時支援金未受給者の2回目の申請
事前確認 必要
①2019年・2020年の確定申告書 提出
②2021年の対象月の売上台帳 提出 提出 提出 提出
③通帳 提出
④宣誓・同意書 提出 オンライン上で確認 提出 オンライン上で確認
⑤履歴事項全部証明書(中小法人等)
本人確認書類(個人事業者等)
提出

(5) 提出書類の他に、緊急事態措置又はまん延防止等重点措置の影響を受けたことを示す証拠書類の保存が必要です(詳細は5月中旬に公表予定)。

(6) 証拠書類等及び給付額の算定等に関する特例が措置される予定です(詳細は5月中旬に公表予定)。

役員退職金の分割支給と源泉徴収

 役員が退職するにあたり、その退職金を一括で支払うと、会社の資金繰りに支障をきたすことがあります。このような場合は、退職金を一括支給せずに分割支給にすることができます。
 今回は、役員退職金を分割支給する場合の損金算入時期と源泉徴収税額及び分割支給の留意点について確認します。

※ 一括支給する場合については、本ブログ記事「役員退職金の損金算入時期と経理処理」をご参照ください。

1.分割支給する場合の損金算入時期

 役員退職金の損金算入時期は、原則として株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とされ、損金経理は要件とされていません。
 ただし、法人が役員退職金を実際に支給した日の属する事業年度において、その支払った金額を損金経理した場合には、例外としてこれも認められています。
 つまり、役員退職金の損金算入時期は、その額の確定時と支給時のいずれかによることができるということです。
 このことは、株主総会等において役員退職金の額が確定したものの、資金繰りの理由により確定額を分割支給する場合も同じです。
 したがって、役員退職金を分割支給する場合は、その額が確定した事業年度において未払金として計上するか、実際に支給した事業年度において退職金として計上すれば、損金算入が認められます。

2.分割支給した場合の源泉徴収税額の計算

 役員退職金を分割支給した場合の源泉徴収は、その退職金の総額に対する税額を計算し、その税額を各回の支給額で按分します※1
 例えば、3月決算法人の役員(勤続38年)がX1年3月に退職し、X1年5月の株主総会において5,000万円の退職金を支給することが決議されましたが、資金繰りの都合からX1年7月に3,000万円、X1年12月に2,000万円と2回に分割して支給することとした場合、源泉徴収税額は以下のように計算します。
 なお、この役員から、「退職所得の受給に関する申告書」の提出があったものとします(関連記事:「退職所得の受給に関する申告書を提出した人が還付を受けるためにする確定申告」)。

(1) 勤続38年に対する退職所得控除額:800万円+70万円×(38年-20年)=2,060万円
(2) 退職所得金額の計算:(5,000万円-2,060万円)×1/2=1,470万円
(3) 源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税の額※2:(1,470万円×33%-153.6万円)×102.1%=3,384,615円
(4) 7月に徴収する所得税及び復興特別所得税の額:3,384,615円×3,000万円/5,000万円=2,030,769円
(5) 12月に徴収する所得税の額:3,384,615円×2,000万円/5,000万円=1,353,846円

※1 退職所得に係る個人住民税についても、退職金支給の際に特別徴収することとされています。計算方法は、退職金の総額に対する税額を計算し、その税額を各回の支給額で按分します。
※2 参考:国税庁ホームページ「退職所得の源泉徴収税額の速算表」

3.分割支給の留意点

 役員退職金を分割支給するにあたって、留意すべき点は次のとおりです。

(1) 退職金を分割支給する場合、支給を受ける側の退職所得の収入金額とすべき時期については、原則としてその支給の起因となった退職の日とされます。
 したがって、分割で支給を受ける場合でも、その決定された金額の全額がその年の収入金額になります。
(2) 分割支給とすることに特段の理由が無く、利益調整目的などの意図があり税額に影響を及ぼす場合は、損金算入が認められない可能性があります(「赤字決算を避けるため」は合理的な理由にならず、「資金繰りの都合」は合理的な理由になります)。
 したがって、株主総会又は取締役会において分割支給の合理的な理由を説明し、支給時期と金額を明確にしたうえで、議事録を作成することが重要です。
(3) 分割期間が長期にわたる場合は、退職一時金ではなく退職年金と認定される可能性があります。
 退職金の一時払いというよりも有期年金の支給と考えた方が実態に即しているような場合には、決議日等の属する確定事業年度で全額損金処理することはできず、支給の都度、損金算入しなければなりません。
 つまり、年金総額を未払計上したとしても、その未払金相当額を確定事業年度の損金に算入することはできません。
 また、退職一時金ではなく退職年金と認定された場合、支給を受ける側にとっては退職所得ではなく雑所得として扱われることになります。

役員退職金の損金算入時期と経理処理

 役員に支給する退職金については、税務上、様々な論点があります。例えば、その適正額に関する議論は最たるものであり、税務調査の際にも、課税庁と納税者の間で度々争いが起こります。
 しかし、意外に見落とされがちなのが、役員退職金を損金に算入する時期の問題です。ここを誤ると、適正額云々以前に役員退職金の損金算入が否認されてしまいます。
 今回は、役員退職金の損金算入時期と経理処理について確認します。

1.損金算入時期の原則と例外

 税法上、役員に対して支給する退職金の損金算入時期は、原則として、株主総会、社員総会等の決議により、退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度とされ、損金経理は要件とされていません
 また、会社の機関として取締役会を設置しており、株主総会で役員退職金を支給することだけを決議し、具体的な支給額の決定は取締役会に一任することとしている場合は、その金額が取締役会で具体的に決定された日の属する事業年度において損金算入することとなります。
 ただし、法人が退職金を実際に支払った日の属する事業年度において、その支給額につき損金経理をした場合は、その支払った日の属する事業年度において損金算入することも認められます。
 したがって、役員に支給する退職金の損金算入時期は、その金額の確定時(原則)と支給時(例外)のいずれかによることができますが、原則の場合は損金経理は不要であり、例外の場合は損金経理が必要です。

※ 2006(平成18)年度の税制改正で、役員退職金についての損金経理要件が廃止されたため、退職金の額が確定した事業年度において仮払金等として経理した金額につき申告調整により減算することは認められます。

2.役員退職金を未払計上した場合

 上記のように、役員退職金の損金算入時期については、原則として退職金の額の確定時、例外として退職金の支給時となりますが、一般的には退職金の金額確定と支給は同じ事業年度になるものと思われます。
 しかし、資金繰り等の理由から、退職金の額の確定と支給が異なる事業年度になることも考えられます。
 例えば、3月決算法人の役員がX1年2月に退職したため、X1年5月の株主総会で退職金を1,000万円支給することが承認されましたが、資金繰りの都合から支給はX2年4月になるというような場合です。
 このとき、X2年3月期(X1年4月1日~X2年3月31日の事業年度)に役員退職金を損金算入するのであれば、次のように役員退職金を未払計上します。

借方 金額 貸方 金額
役員退職金 1,000万円 未払金 1,000万円

 そして、X2年4月の支給時に次のように処理します。

借方 金額 貸方 金額
未払金 1,000万円 現金預金 1,000万円

 また、支給日の属するX3年3月期(X2年4月1日~X3年3月31日の事業年度)に損金算入するのであれば、X2年3月期は経理処理をせず、支給日に次のように処理します。

借方 金額 貸方 金額
役員退職金 1,000万円 現金預金 1,000万円

 なお、退職金の額が具体的に確定する事業年度より前の事業年度において、取締役会で内定した金額を損金経理により未払計上した場合は、未払金に計上した時点での損金算入は認められません。
 例えば、3月決算法人の役員がX1年2月に退職したため、取締役会で1,000万円の退職金支給を内定し、その承認をX1年5月の株主総会で受けるとします。
 この場合、役員退職金1,000万円を次のように未払計上しただけでは、X1年3月期(X0年4月1日~X1年3月31日の事業年度)に損金算入することはできません。株主総会で承認を受けるのが翌期になりますので、X1年3月期においては退職金の額が確定していないからです。

借方 金額 貸方 金額
役員退職金 1,000万円 未払金 1,000万円

 この場合は、次のように実際に1,000万円の退職金をX1年3月期中に支給していれば、株主総会の承認を受ける前であってもX1年3月期に損金算入することができます。

借方 金額 貸方 金額
未払金 1,000万円 現金預金 1,000万円

注意!フリーレント契約の支払家賃の計上時期と経理処理

 不動産賃貸におけるフリーレント契約とは、賃貸借契約開始後の当初数か月間の賃料を無料にする、あるいは減額するというものです(本記事では、無料を前提とします)。
 貸主にとっては、賃貸不動産物件の稼働率の向上が見込めるというメリットがあり、また、借主にとっては初期費用を抑えることができるというメリットがありますが、賃料が無料であるということは、その間(フリーレント期間)の経理処理はどうしたらいいのか、という疑問が生じます
 この点について、前回は貸主側の処理を確認しました(前回記事「フリーレント契約の受取家賃の計上時期と経理処理」をご参照ください)。
 今回は、借主側の処理について確認します。

1.中途解約禁止条項がある場合

 フリーレント契約の場合、フリーレント期間中あるいはフリーレント期間経過直後に解約されてしまうことを防止するために、中途解約禁止条項が設けられているのが一般的です。例えば、次のようなフリーレント契約です。

「賃貸借期間2年間のうち、当初3か月間の賃料(月額40万円)はゼロとするフリーレント契約において、中途解約は禁止であり、仮に賃借人の都合で解約する場合は、賃借人はフリーレント期間に係る賃料相当額120万円(40万円×3か月)及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額(40万円×未経過期間月数)を賃貸人に支払う。」

 このような内容のフリーレント契約の場合、貸主には受取家賃の計上時期と経理処理について、理論的方法と実務的方法の2つが認められていました。
 理論的方法は、フリーレント期間開始時から受取家賃を計上する方法であり、実務的方法は、フリーレント期間は受取家賃を計上せずフリーレント期間終了後から受取家賃を計上する方法です。

 では、借主側にも理論的方法と実務的方法が認められているのでしょうか?この点について、以下で確認します。

(1) フリーレント期間開始時から支払家賃を計上―否認される可能性あり

 上記のフリーレント契約においては、中途解約が禁止されており、仮に賃貸借期間の中途で賃借人が自己の都合で解約する場合は、賃貸人は賃借人から、フリーレント期間に係る賃料相当額120万円及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額の支払を受けることになります。
 すなわち、賃貸借期間の2年間に係る賃料相当額840万円(40万円×(24か月-3か月))は、このフリーレント契約締結時に、これを受領する権利が確定しているといえます。
 このようなケースでは、受取家賃をフリーレント期間を含む全賃貸借期間に係る賃料として、各期間に配分して収益計上すること(理論的方法)が貸主側の経理処理として相当とされています。具体的には、月額35万円(840万円÷24か月)の受取家賃をフリーレント期間開始時から計上する処理です。

 では、この取引の裏側にある借主側にも同様の経理処理が認められるのでしょうか?具体的には、賃料を支払っていないフリーレント期間開始時から月額35万円の支払家賃を計上する次のような経理処理です。

借方 金額 貸方 金額
支払家賃 35万円 未払金 35万円

 また、フリーレント期間終了後の4か月目からの経理処理は、次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
支払家賃 35万円 現金預金 40万円
未払金 5万円    

 貸主側の裏側の処理として当然認められそうに思いますが、このような借主側の経理処理は否認される可能性があります。
 2018(平成30)年6月15日裁決(この裁決事例は、フリーレント期間の賃料を無料ではなく減額するというものでした)において、国税不服審判所は、債務が確定していないなどとして損金算入を認めませんでした(国税不服審判所ホームページ・公表裁決事例「平成30年6月15日裁決」参照)。個人的には、国税不服審判所の判断には疑問が残りますが、借主側の経理処理としては否認される可能性があることに注意が必要です。

(2) フリーレント期間終了後から支払家賃を計上

 賃料を支払っていないフリーレント期間は支払家賃を計上せず、実際に賃料の支払が始まるフリーレント期間終了後から支払家賃を計上する方法です。
 経理処理は、フリーレント期間は仕訳なし、フリーレント期間終了後の4か月目から次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
支払家賃 40万円 現金預金 40万円

2.中途解約禁止条項がない場合

 フリーレント契約において、中途解約禁止条項を設けないのはあまり一般的とはいえませんが、この場合は、上記1(2)と同様に、フリーレント期間終了後から支払家賃を計上します。

フリーレント契約の受取家賃の計上時期と経理処理

 不動産賃貸におけるフリーレント契約とは、賃貸借契約開始後の当初数か月間の賃料を無料にする、あるいは減額するというものです(本記事では、無料を前提とします)。
 貸主にとっては、賃貸不動産物件の稼働率の向上が見込めるというメリットがありますが、賃料が無料であるということは、その間(フリーレント期間)の受取家賃は計上しなくてもいいのか、という疑問が生じます。
 今回は、フリーレント契約の場合の受取家賃の計上時期と経理処理(貸主側の処理)について確認します。

※借主側の処理については、本ブログ記事「注意!フリーレント契約の場合の支払家賃の計上時期と経理処理」をご参照ください。

1.中途解約禁止条項がある場合

 フリーレント契約の場合、フリーレント期間中あるいはフリーレント期間経過直後に解約されてしまうことを防止するために、中途解約禁止条項が設けられているのが一般的です。例えば、次のようなフリーレント契約です。

「賃貸借期間2年間のうち、当初3か月間の賃料(月額40万円)はゼロとするフリーレント契約において、中途解約は禁止であり、仮に賃借人の都合で解約する場合は、賃借人はフリーレント期間に係る賃料相当額120万円(40万円×3か月)及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額(40万円×未経過期間月数)を賃貸人に支払う。」

 以下では、このフリーレント契約の内容を前提に、受取家賃の計上時期と経理処理を確認します。

(1) フリーレント期間開始時から受取家賃を計上する

 上記のフリーレント契約においては、中途解約が禁止されており、仮に賃貸借期間の中途で賃借人が自己の都合で解約する場合は、賃貸人は賃借人から、フリーレント期間に係る賃料相当額120万円及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額の支払をうけることになります。
 すなわち、賃貸借期間の2年間に係る賃料相当額840万円(40万円×(24か月-3か月))は、このフリーレント契約締結時に、これを受領する権利が確定しているといえます。
 したがって、このようなケースでは、受取家賃はフリーレント期間を含む全賃貸借期間に係る賃料として、各期間に配分して収益計上することになります。
 具体的には、賃貸人は月額35万円(840万円÷24か月)の受取家賃をフリーレント期間開始時から計上することになり、次のように経理処理します。

借方 金額 貸方 金額
未収入金 35万円 受取家賃 35万円

 なお、フリーレント期間(3か月間)終了後の4か月目からは、次のように経理処理します。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 40万円 受取家賃 35万円
    未収入金 5万円

※貸方・未収入金5万円=35万円×3か月÷(24か月-3か月) 

 理論的には、上記のように受取家賃を計上することが相当と考えられますが、実務的には、次の方法も認められます。

(2) フリーレント期間終了後から受取家賃を計上する

 昨今のフリーレントは、取引実態が「賃料の免除又は値引き」といえるため、会計上フリーレント期間に対応する賃料相当額を収益に計上していない場合でも、税務上認容されます(週刊税務通信No.3338)。
 したがって、フリーレント期間の3か月間は受取家賃を計上せず、フリーレント期間終了後の4か月目から月額40万円の受取家賃を21か月間計上することになります。
 経理処理は、フリーレント期間は仕訳なし、フリーレント期間終了後の4か月目から次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 40万円 受取家賃 40万円

2.中途解約禁止条項がない場合

 フリーレント契約において、中途解約禁止条項を設けないのはあまり一般的とはいえませんが、例えば、次のようなフリーレント契約があるとします。

「賃貸借期間2年間のうち、当初3か月間の賃料(月額40万円)はゼロとするフリーレント契約において、中途解約が可能であり、解約後の未経過期間に係る賃料相当額の支払義務はないものの、賃借人の都合で解約する場合は、賃借人はフリーレント期間に係る賃料相当額120万円(40万円×3か月)を、中途解約時に賃貸人に支払う。」

 このようなケースでは、フリーレント契約の締結時に、全賃貸借期間に係る賃料相当額が確定しているとは認められませんので、当事者間の契約に従ってフリーレント期間の3か月間は受取家賃を計上せず、フリーレント期間終了後の4か月目から月額40万円の受取家賃を21か月間計上することになります。
 経理処理は、上記1(2)と同様になります。

請求書に印紙は必要?不要?

 印紙税の課税文書のうち、代表的なものとして領収書があります。売上代金を受領した際に発行する領収書について、そこに記載された受取金額が5万円以上の場合は、印紙を貼らなければならないことはよく知られています。
 一方、請求書を発行する際は、その請求金額にかかわらず基本的に印紙を貼る必要はありませんが、内容によっては印紙が必要となるケースもあります。
 今回は、請求書と印紙について確認します。

1.請求書に印紙は原則として不要

 印紙税が課税されるのは、印紙税法で定められた課税文書に限られています。この課税文書とは、次の3つのすべてに当てはまる文書をいいます。

(1) 印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること
※ 課税物件表については、国税庁ホームページ「印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」及び「印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで」をご参照ください。
(2) 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること
(3) 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと

 請求書は、上記(1)の課税物件表に掲げられている課税文書に該当しませんので、原則として印紙を貼る必要はありません。
 しかし、課税文書に該当するかどうかは、その文書に記載されている内容に基づいて判断しなければなりません。当事者の約束や慣習により文書の名称や文言は種々の意味に用いられるため、その文書の内容判断に当たっては、その名称、呼称や記載されている文言により形式的に行うのではなく、その文書に記載されている文言、符号等の実質的な意味を汲み取って行う必要があります。

2.請求書に印紙が必要となる場合

 例えば、売掛金の請求書に「済」や「了」と表示してあり、その「済」や「了」の表示が売掛金を領収したことの当事者間の了解事項であれば、その文書は売上代金の受領書(第17号の1文書)に該当することになります。
 つまり、請求書が領収書を兼ねる場合(請求書内で「領収済」というような請求代金の受け取りを証明する文言がある場合)は、タイトルが請求書となっていたとしても領収書の扱いになりますので、印紙を貼る必要があります。
 この場合は、記載金額によって印紙税額が変わります。印紙税額については、上記課税物件表(印紙税額の一覧表)の第17号文書をご参照ください。

不祥事による役員報酬の一時的な減額は定期同額給与になるか?

 会社や役員が不祥事を起こした場合に、役員がその不祥事の責任をとって役員報酬を一定期間減額するということがよく報道されています。
 例えば、不祥事が発覚した会社でそのイメージダウンを避けるために、役員が責任をとって役員報酬を6か月間30%減額するなどという場合です。
 このような場合、その減額された役員報酬は定期同額給与として損金算入できるのでしょうか?今回は、この点について確認します。

1.臨時改定事由とは?

 事業年度の中途で役員報酬の減額が行われた場合、それが臨時改定事由によるものであるときは、定期同額給与に該当するものとされています(法人税法施行令69条1項1号)。
 臨時改定事由とは、「役員の職制上の地位の変更、役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」をいいます。
 例えば、社長が任期途中で退任したことに伴い副社長が社長に就任する場合は、一般的には、その地位及び職務内容ともに重大な変更があると認められることから、臨時改定事由に該当するといえます。
 また、合併法人の取締役が合併後も引き続き同じ地位に留まるものの、その職務内容に大幅な変更がある場合等も臨時改定事由に該当するといえます。
 なお、ここでいう「役員の職制上の地位」とは、定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等により付与されたものをいい、いわゆる自称専務等はこれに該当しません。

2.臨時改定事由に該当するか?

 ここで、今回の減額事由(不祥事の責任をとる)が「その他これらに類するやむを得ない事情」に該当するか否かがポイントになります。
 役員がとるべき不祥事の責任には、例えば法令違反により行政処分を受けるなど役員個人の行為が原因となるものや、役員は直接かかわっていなくても組織ぐるみで隠ぺいや改ざんを行うなど組織の行為が原因となるものがあります。
 いずれにせよ、これらの不祥事に対する役員の責任を問うために、一定期間役員報酬を減額することは、企業慣行として定着していると考えられます。
 そのため、役員報酬を一時的に減額する理由が、企業秩序を維持して円滑な企業運営を図るため、あるいは法人の社会的評価への悪影響を避けるために、やむを得ず行われたものであり、かつ、その処分の内容が、その役員の行為に照らして社会通念上相当のものであると認められる場合には、「やむを得ない事情」に該当するものとして、減額された期間においても引き続き同額の定期給与の支給が行われているものとして取り扱って差し支えないとされています(2006(平成18)年12月 国税庁・質疑応答事例「一定期間の減額」より)。

3.自主返還された場合

 なお、国税庁・質疑応答事例「一定期間の減額」では、不祥事の責任をとるため、いったん支給した定期給与を役員が自主的に返還した場合には、その自主返還された定期給与は定期同額給与として取り扱われるとしています。この場合、自主返還された定期給与は、雑収入等で処理することとなります。

賃貸用マンションの修繕積立金は支払期日に必要経費算入可、意外な盲点は管理費の消費税の取扱い

 分譲マンションのオーナー(区分所有者)が、転勤等のため長期間自室を留守にする場合、賃貸に出して家賃収入を得ることがあります。
 賃貸に出した場合でも、修繕積立金と管理費をマンション管理組合に支払うのは、オーナーである区分所有者です(家賃に転嫁して賃借人の負担とするかどうかは別として)。
 今回は、修繕積立金を必要経費に算入する時期の確認と、意外な盲点である(間違った処理が多い)管理費の消費税の取扱いを確認します。

1.原則は修繕完了時に必要経費算入

 修繕積立金は、原則として、実際に修繕等が行われその修繕等が完了した日の属する年分の必要経費になります。
 修繕積立金は、マンションの共用部分について行う将来の大規模修繕等の費用の額に充てられるために長期間にわたって計画的に積み立てられるものであり、実際に修繕等が行われていない限りにおいては、具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していないことから、原則的には、管理組合への支払期日の属する年分の必要経費には算入されず(所得税基本通達37-2)、実際に修繕等が行われ、その費用の額に充てられた部分の金額について、その修繕等が完了した日の属する年分の必要経費に算入されることになります。

2.一定の場合は支払期日に必要経費算入可

 しかしながら、修繕積立金は区分所有者となった時点で、管理組合へ義務的に納付しなければならないものであるとともに、管理規約において、納入した修繕積立金は、管理組合が解散しない限り区分所有者へ返還しないこととしているのが一般的です(マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省)第60条第6項)。
 そこで、修繕積立金の支払がマンション標準管理規約に沿った適正な管理規約に従い、次の事実関係の下で行われている場合には、その修繕積立金について、その支払期日の属する年分の必要経費に算入しても差し支えないものとされています。

(1) 区分所有者となった者は、管理組合に対して修繕積立金の支払義務を負うことになること
(2) 管理組合は、支払を受けた修繕積立金について、区分所有者への返還義務を有しないこと
(3) 修繕積立金は、将来の修繕等のためにのみ使用され、他へ流用されるものでないこと
(4) 修繕積立金の額は、長期修繕計画に基づき各区分所有者の共有持分に応じて、合理的な方法により算出されていること

3.管理費の消費税課税区分は不課税!

 不動産所得の計算上、修繕積立金を必要経費に算入する時期については上記のとおりです。また、管理費については、支払期日に必要経費に算入することに関して疑義は生じません。
 しかし、マンション管理組合に支払う管理費の消費税課税区分には要注意です。支払った管理費の課税区分を「課税仕入」としているケースが多いのですが、これは間違いです。
 マンション管理組合は、その居住者である区分所有者を構成員とする組合であり、その組合員との間で行う取引は営業に該当しません。したがって、マンション管理組合に支払う管理費の消費税課税区分は「不課税(課税対象外)」となります。
 区分所有者が支払う管理費が、マンション管理組合を介して、マンションを管理する不動産業者に渡るとしても、現行の消費税法では不課税となります。