贈与税の配偶者控除を選択する基準と税制上のメリット

 婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭を課税されずに贈与できるのが「贈与税の配偶者控除」(以下、「おしどり贈与」といいます)ですが、この制度を活用するときは事前の検討が必要です。

 今回は、おしどり贈与を選択する場合と選択しない場合の選択基準(一般的な考え方)と、それぞれの場合における税制上のメリットについて確認します。

※ 贈与税の配偶者控除については、「贈与税の配偶者控除の適用要件」をご参照ください。

1.おしどり贈与を選択する場合

(1) 配偶者の生活保障

 配偶者と子に相続争いの生じるリスクに備えたいとき、何よりも配偶者が安心して居宅に住み続けたいときは、おしどり贈与で配偶者の生活拠点を確保できます。

 また、おしどり贈与は特別受益となりませんので、遺産分割の際、配偶者は生前贈与を受けた居宅のほかに預金や株式などを法定相続分で取得し生活の原資を確保できます。

(2) 選択する場合の税制上のメリット

 おしどり贈与は、贈与税の課税価格から最大2,000万円まで控除され(ほかに基礎控除110万円も適用されます)、生前贈与加算の必要もありません
 ただし、取得時に不動産取得税と不動産登記の登録免許税、取得後は固定資産税がかかります。

 おしどり贈与は、配偶者が居宅の贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住の用に供し、かつ、その後も引き続き居住の用に供する見込みであるときに適用されます。

 適用を受けた後、事情が変わり居宅を売却したときは、居住用財産の譲渡所得3,000万円控除のほか、所有期間が10年超であれば、軽減税率の特例(譲渡所得金額6,000万円まで、所得税10%、住民税4%)を適用できます。

※ 生前贈与加算については、「生前贈与加算期間はいつから7年になる?」をご参照ください。

2.おしどり贈与を選択しない場合

(1) 相続人の争いが見込まれないとき

 配偶者が子供夫婦と良好な関係にあり、相続人の争いが見込まれないときは、おしどり贈与を選択せず、家族会議で夫婦の希望を子に伝えて遺産分割で配偶者に居宅を取得させることができます。

 また、遺言書を作成して夫婦の意思を示しておくこともできます。

(2) 選択しない場合の税制上のメリット

 おしどり贈与を選択せず、相続や遺贈で配偶者が居宅を取得する場合、居宅の宅地に小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)を適用でき、居住用宅地の課税価格の80%(330㎡まで)が相続税の課税価格から減額され、相続税を大幅に圧縮できます。

 また、相続税の算出時には配偶者の税額軽減が適用され、課税価格1億6,000万円または配偶者の法定相続分のいずれか大きい金額まで相続税は課税されません。

 配偶者が居宅を売却する場合には、譲渡所得3,000万円控除の特例や所有期間10年超の軽減税率の特例も利用できます。

ミニマムタックスの対象が令和9年から拡大されます(令和8年度税制改正)

 ミニマムタックスは、2023(令和5)年度税制改正で創設され、2025(令和7)年分の所得から適用されています。
 
 2026(令和8)年度税制改正では、ミニマムタックスが早くも課税強化され、2027(令和9)年分の所得から適用されます。

 ミニマムタックスは超富裕層を対象とした新しいルールとして導入されましたので、これまでは自分には関係ないと思っていた人も多いかもしれません。

 しかし、2026(令和8)年度税制改正によりミニマムタックスの対象範囲が広がりましたので、これまで想定していなかった層にも影響が及ぶ可能性があります。

 以下では、ミニマムタックスについて確認します。

1.ミニマムタックスの概要

 ミニマムタックスは、極めて高額な所得を持つ個人、いわゆる超富裕層を対象とした所得税の追加課税措置です。

 正式名称は「特定の基準所得金額の課税の特例(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化に係る措置)」といい、通常の所得税額よりも一定の税率で計算した金額が高い場合、その差額を追加で納付する仕組みになっています(租税特別措置法第41条の19)。

 端的に言えば、超高額の所得がある人に最低限の税負担を求める制度です。

2.導入の背景

 日本の所得税は累進課税制度を採用しており、給与所得や事業所得の最高税率は45%(住民税を合わせると55%)です。

 一方、株式の配当や譲渡益などの金融所得には、一律20.315%の税率が適用されます。

 このため、所得が増えるにつれて金融所得の割合が高まる富裕層ほど実効税率が下がる傾向がありました。

 財務省のデータでは、所得が1億円を超えたあたりから実効税率が低下し始めるため、いわゆる「1億円の壁」問題が生じていました。

 ミニマムタックスはこの不公平を是正する目的で導入されました 。

3.現行制度の計算方法

 現行制度では、年間の基準所得金額から3.3億円を控除した金額に22.5%の税率を掛けた金額が通常の所得税額を上回る場合、その差額を追加で納税します。
 計算式は以下の通りです。

(基準所得金額 − 3.3億円)× 22.5% − 通常の所得税額 = 追加納税額

 基準所得金額とは、申告不要制度を適用せずに計算した合計所得金額をいいます。

 一般に合計所得金額とは、給与所得・事業所得・不動産所得・譲渡所得などを合算した金額をいい、申告不要制度を適用した上場株式等の配当所得や譲渡所得は合計所得金額に含まれません。

 しかし、ミニマムタックスにおける基準所得金額には、申告不要制度を適用した上場株式等の配当所得や譲渡所得が含まれますので注意が必要です(NISA(少額投資非課税制度)やエンジェル税制(一定のスタートアップ再投資)による非課税所得は含まれません)。

4.令和9年分から適用となる改正

 2026(令和8)年度税制改正により、2027(令和9)年分の所得から適用される改正項目には以下の2つがあります。

(1) 特別控除額が3.3億円から1.65億円へ

 2027(令和9)年分の所得からは、特別控除額が3.3億円から1.65億円に引き下げられ、より低い所得水準からミニマムタックスの課税対象となります。

 特別控除額が従前の半分になりますので、会社株式売却や不動産売却で一時的に高額所得を得た人も対象となる可能性があります。

(2) 税率が22.5%から30%へ

 ミニマムタックスにおける税率が、従前の22.5%から30%に引き上げられます。

5.まとめ

 2027(令和9)年分の所得から、特別控除額の引き下げと税率の引き上げが同時に行われますので、超富裕層にとっては追加納税額の負担が重くなります。

 また、特別控除額が半分に引き下げられましたので、ミニマムタックスの対象がこれまでの超富裕層だけではなく、普通の富裕層や一時的に高額所得を得た一般の人にも広がる可能性があります。

インボイス登録申請書等の書面による提出先が変わります

 インボイス制度に関する申請書等には、例えば「適格請求書発行事業者の登録申請書」や「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」などがありますが、これらを書面で提出する場合の提出先が以下のように変わります。

1.令和8年9月23日(水)までの提出先

 これまでと同様、管轄の各国税局(沖縄国税事務所)のインボイス登録センターに提出(郵送)します。

 インボイス登録センターの所在地(提出先)については、国税庁ホームページ(各局(所)インボイス登録センターのご案内)に掲載されていますが、札幌国税局インボイス登録センターについては、2026(令和8)年7月13日(月)に移転していますので、提出の際はご注意ください。

2.令和8年9月24日(木)以降の提出先

 管轄の各国税局(沖縄国税事務所)の業務センターに提出(郵送)します。

 業務センターの所在地(提出先)についても、国税庁ホームページ(税務署の内部事務のセンター化について)に掲載されています。
 なお、2026(令和8)年7月10日(金)から、全税務署が内部事務のセンター化の対象署となっています。

3.インボイス制度に関する申請書等の様式変更

 2026(令和8)年6月以降、インボイス制度に関する申請書等を含む国税関係の各種様式が順次変更されます

 変更後においては、新様式(AI‐OCR様式)により提出(郵送)します。

※ 紙で提出される申告書や申請書を自動でデータ化する「AI‐OCR」の本格運用が開始されます。
 これに伴い、AI‐OCRで文字や数字の読み取りを行うため、一部の書面申告書等についてレイアウトが変更されます。

4.e-Taxによる提出の場合

 インボイス関係の申請書等を書面により提出する場合は上記1~3のとおりですが、e-Taxにより提出する場合の提出先については、特に意識する必要はありません。

 e‑Taxで送信すれば、提出先は自動処理されます(自動的に正しい部署へ届きます)。

 なお、国税庁では、2026(令和8)年9月24日(木)に国税システムの更改(KSK(国税総合管理)からKSK2へ移行)を予定しています。

 KSK2の導入に伴い、2026(令和8)年9月19日(土)0時から同年9月24日(木)8時30分の間においてはe-Taxが利用できませんのでご注意ください。

個人の青色申告の承認が取り消される場合とは?

 個人の青色申告は、複式簿記による帳簿の作成や保存等を行う必要があるため、基本的に白色申告よりも事務負担が増えます。

 一方、事務負担が増加する見返りとして、青色申告には様々な特典が設けられています。
 例えば、青色申告特別控除、青色事業専従者給与、40万円未満の少額減価償却資産の特例、一括評価による貸倒引当金、純損失の繰越控除などです※。

 青色申告は、所得金額の計算などについて有利な取扱いが受けられるため、一定水準の記帳をし、その記帳に基づいて正しい申告をしなければなりませんが、税務調査等で青色申告の承認が取り消される場合があります。

 今回は、個人の青色申告の承認が取り消される場合について確認します。

※ 青色申告の特典については、「青色申告と白色申告の特典比較」をご参照ください。

1.青色申告承認の取消事由

 個人の青色申告の承認取り消しについては、所得税法第150条第1項(青色申告の承認の取消し)に規定されています。

 また、税務署の取扱基準を示した「事務運営指針」では、所得税法第 150条第1項各号に掲げる事実及びその程度、記帳状況、改善可能性等を総合勘案の上、真に青色申告書を提出するにふさわしくない場合について、承認取り消しを行うこととされています。

 以下において、所得税法と事務運営指針を基に、個人の青色申告承認の取消事由についてみていきます。

(1) 帳簿書類を税務調査で提示しない場合(所得税法第 150条第1項第1号)

 帳簿書類の備付け、記録又は保存とは、単に物理的に帳簿書類が存在することのみを意味するにとどまらず、これを税務職員に提示することを含みます。

 したがって、税務調査の際に帳簿書類の提示を再三にわたり求められたにもかかわらず、正当な理由なくその提示を拒否した場合には、青色申告の承認の取消事由に該当することとなり、その提示がされなかった年分のうち最も古い年分以後の年分について、その承認が取り消されます。

(2) 税務署長の指示に従わない場合(所得税法第 150条第1項第2号)

 帳簿書類の備付け、記録又は保存について、税務署長の指示に従わない場合は、青色申告の承認の取消事由に該当することとなり、当該指示に係る年分以後の年分について、その承認が取り消されます。

(3) 隠ぺい又は仮装を行った場合等(所得税法第 150条第1項第3号)

 次のいずれかに該当する場合には、その該当することとなった年分以後の年分について、その承認が取り消されます。

① 決定又は更正がされた場合において、当該決定又は更正後の所得金額のうち隠ぺい又は仮装の事実に基づく所得金額が、当該決定又は更正に係る所得金額の50%に相当する金額を超えるとき(当該隠ぺい又は仮装の事実に係る所得金額が 500万円に満たないときを除く)

② 純損失の金額を減額する更正(所得金額があることとなる更正を含む)がされた場合において、当該更正により減少した部分の純損失の金額(所得金額があることとなる更正の場合にあっては、当該所得金額を加算した金額)のうち隠ぺい又は仮装の事実に基づく金額が、当初の申告に係る純損失の金額(所得金額があることとなる更正の場合にあっては、当該所得金額を加算した金額の50%に相当する金額を超えるとき(当該隠ぺい又は仮装の事実に係る純損失の金額が 500万円に満たないときを除く)

③ 帳簿書類への記載等が不十分である等のため、所得税法第 156条の規定による推計によらなければ適正な所得金額の計算ができないと認められる状況にある場合

2.取り消しに関するよくある誤解(期限後申告の場合)

 個人の青色申告の承認が取り消されるのは上記1の事由に該当した場合ですが、よくある誤解が、「2事業年度連続で期限内(2月16日~3月15日)に申告しなかった場合は、青色申告の承認が取り消される」というものです。

 2事業年度連続で期限後申告をした場合に青色申告の承認が取り消されるのは法人だけであって、個人については2年連続で期限後申告となっても、そのことが原因で青色申告の承認が取り消されることはありません

※ 詳細については、「無申告でも所得税の青色申告は取り消されない」をご参照ください。

賃上げ促進税制の繰越税額控除制度の注意点

 中小企業向け賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、前年度より 給与等の支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。

 賃上げ促進税制における税額控除額は、調整前法人税額の20%を限度とするとされていますので、中小企業者等が要件を満たす賃上げを実施しても、その実施した事業年度に控除しきれなかった金額(税額控除限度超過額)が生じることがあります。

 この税額控除限度超過額はその期で失効せず、その後5年間の繰越控除が認められています(2024(令和6)年度税制改正)。

 以下では、中小企業向け賃上げ促進税制の繰越税額控除制度を適用する際の注意点について確認します。

1.ゼロ申告でも賃上げ促進税制の別表を添付

 この繰越税額控除の適用を受けるためには、税額控除限度超過額が生じた事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を添付し、繰越控除の適用を受ける事業年度の確定申告書に控除の対象となる繰越税額控除限度超過額と控除を受ける金額を記載するとともに、その金額の計算に関する明細書を添付する必要があります

 このように、その適用に当たっては、賃上げ促進税制の別表を作成・提出し続けることが要件となっています。

 繰越欠損金の発生事業年度や繰越欠損金がある事業年度であっても、賃上げ促進税制による税額控除限度超過額が発生した場合には、ゼロ申告でも賃上げ促進税制の別表を添付することになります。

 従来においても、ゼロ申告の事業年度でも、税務調査で納税額が出ることになる可能性がある場合に備えて、法人税申告書に賃上げ促進税制の別表を添付しておき、税額控除の適用の可能性を担保しておくべき、と言われていました。

 2024(令和6)年度税制改正で5年間の繰越控除が可能となりましたので、今後はこのようなリスク管理的な配慮ではなく、5年間の内に黒字を達成すれば税額控除の適用を受けられるようにしておく必要があります。

※ 賃上げ促進税制の別表の書き方については、「中小企業者等の賃上げ促進税制に係る別表六の書き方と記載例《令和6年4月1日~令和9年3月31日開始事業年度》」をご参照ください。

2.継続的な賃上げが不可欠

 ところで、賃上げ促進税制のほかにも各種の税額控除制度があります。例えば、中小企業者等が機械等を取得した場合の税額控除制度(中小企業投資促進税制)などです。

 中小企業投資促進税制では、翌期に法人税額があれば税額控除が可能です。

 しかし、賃上げ促進税制では、繰越税額控除を適用する各事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額より増加していなければ控除は認められない、という追加要件が課されている点には注意が必要です。

 税額控除の権利は保持できても、実際に税額控除をするには継続的な賃上げが不可欠だということです。

 また、賃上げ促進税制での税額控除額は、調整前法人税額の20%を限度とするとされています。
 複数の税額控除制度を適用する場合、調整前法人税額の20%という部分は、重複して適用を受けられます。

 ただし、20%の税額控除が幾つもあった場合、その合計額については、調整前法人税額の90%を限度とする制限規定があります。
 したがって、調整前法人税額の90%を超える部分の金額(調整前法人税額超過額)は、調整前法人税額から控除することができません。

 この調整前法人税額超過額は、各種の税額控除制度による控除可能期間が最も長いものから順次成ることとされています。
 つまり、調整前法人税額超過額は、まず残りの控除可能期間の長いものに配賦し、次に控除可能期間が同じものについては、法人の選択により配賦することとされています。

社会保険料を給与から天引きするタイミングの原則と例外

 先日、顧問先の社長さんから次のような質問がありました。

 「6月1日に雇用した新入社員の給与を6月25日に支給したところ、その新入社員から『社会保険料が天引きされているのはおかしい』と指摘されたが、当社の処理は間違っているのか?」

 この会社の給与の締め日は毎月20日で、給与の支給日は当月の25日です。この会社では新しく従業員を雇用したときの社会保険料については、入社後初めて支給する給与から天引きすることにしています。

 今回の例もこれまで通りの処理をしただけなのですが、この処理は間違っているのでしょうか?

1.原則的な処理は「翌月徴収」

 この新入社員の方は6月1日に入社しましたので、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の資格取得日は6月1日となり、6月分の社会保険料が発生します。

 その6月分の社会保険料を、翌月の7月25日に支給する給与から天引きして、7月末に納付するというのが原則的な流れとなります。

 この原則的な流れからすると、新入社員の方の指摘は正しく会社の処理は間違っているようにも見えます。

 なぜなら、6月分の社会保険料を当月の6月25日に支給する給与から天引きして7月末に納付することになりますので、原則的な流れと比べると天引きするタイミングが1か月早くなっているからです。

 しかし、結論を先に述べると、このような処理が一概に間違っているとはいえません。

2.例外的な処理は「当月徴収」

 上記1でみたように、原則的な処理においては、当月分(6月分)の社会保険料を翌月(7月)に支給する給与から天引きして翌月末(7月末)に納付することになります。

 この場合、数年後にこの従業員が退職したとき、例えば、数年後の10月31日に退職したときは、10月分の社会保険料が発生しますので、その10月分の社会保険料を翌月の11月25日に支給する最後の給与から天引きします。

 また、10月30日に退職したときは、10月分の社会保険料は発生しませんので、翌月の11月25日に支給する最後の給与から社会保険料は天引きしません。

 一方、今回のように、6月分の社会保険料を、当月の6月25日に支給する給与から天引きして、7月末に納付するという例外的な処理も認められます。

 原則的な処理より1か月早い天引きになりますが、違法ではなく採用している事業所も多くあります。

 この例外的な処理において、数年後にこの従業員が退職したとき、例えば、数年後の10月31日に退職したときは、10月分の社会保険料が発生しますので、その10月分の社会保険料を当月の10月25日に支給する給与から天引きします。
 この場合、11月25日に支給する最後の給与からは社会保険料を天引きしません。

 また、10月30日に退職したときは、10月分の社会保険料は発生しませんので、当月の10月25日に支給する給与から社会保険料は天引きしません。
 この場合、11月25日に支給する最後の給与からも社会保険料を天引きしません。

 このような例外的な処理が認められるのは、原則的な処理と社会保険料を天引きするタイミングにズレがあったとしても、不合理が生じないからです。

 原則的な処理に比べて、例外的な処理は社会保険料の天引きを開始するタイミングが1か月早くなりますが、その分、天引きを終了するタイミングも1か月早くなります。

 従業員の入社から退職までを考えると、給与から天引きする社会保険料の額や回数は、原則的な処理でも例外的な処理でも同じになり、不合理は生じません。



社用車は購入すべきかリースすべきか?

 社用車の調達に際しては、主に、①自社で購入して管理・運用する方法、②リース会社に毎月リース料を支払い運用するカーリースの方法、さらには③必要な時に必要な分だけ利用できる最近流行りのカーシェアを使うという方法があります。

 ③のカーシェアによる方法は、恒常的に利用が必要でなければ、税金・自動車保険料(任意保険)・車検(定期点検)費用・駐車場代など、維持にかかる経費削減に効果的ですが、今回は、恒常的に社用車が必要な会社にとって、①と②のどちらがより良い選択肢かについて、それぞれのメリット・デメリットを比較します。

1.購入のメリット・デメリット

(1) 購入のメリット

 購入する場合は、支払総額がリースよりも少なく済みます。
 また、自社で減価償却(定率法)を行いますので、購入初年度の節税効果が大きいことの期待もあります。
 売却や廃棄処分についても、自社で自由に設定できます。

(2) 購入のデメリット

 購入する場合は、購入時に車両代金や納車整備費用、各種税金等がかかりますので、一時的にまとまった資金調達が必要となります。
 また、毎年の自動車税や定期点検整備費用、車検時には車検代金や各種税金の支払いが発生します。
 税金や保険、車検や整備などの管理を自社でしなければならないため、これらの事務負担が発生します。

2.カーリースのメリット・デメリット

(1) カーリースのメリット

 カーリースとは、利用者が希望するクルマをリース会社が代行して購入し、一定の期間に渡って貸し出すサービスです。
 そのため、車の所有権はリース会社にありますが、月々定額のリース料に初期費用や税金などが含まれているため、リース開始時にまとまった資金を用意する必要がありません。
 また、契約期間中も車検や整備などの管理をリース会社が行うため、その業務負担を抑えることができます。

(2) カーリースのデメリット

 中途解約する場合は違約金を支払うことになりますので、車が不要になっても中途解約できない場合があります。
 また、リース会社が資金調達と事務管理をしますので、その分のコストがリース会社の儲けとしてリース料に上乗せされるため、支払総額が購入する場合よりも大きくなります。

3.自宅は購入か賃貸か?と同じテーマ

 購入とリースのメリット・デメリットは、それぞれ裏表の関係にあります。
 自社で資金を調達して税金メリットを取るのか、自社の事務管理を省いてその分の負担金を多く支払うのかなど、それぞれ自社の資金調達環境や社内管理体制などによって、どちらがより良い選択肢となるのかは変わってきます。
 個別環境によって変わってくるところは、「住宅は購入か賃貸か?」に似ている比較ともいえます。

青色事業専従者給与を事業収入以外の資金で支払ったら否認されるのか?

 青色申告には様々な特典がありますが、その一つに青色事業専従者給与があります。

 個人事業者が生計を一にする親族に給与を支払っても必要経費にできませんが(所得税法第56条)、青色申告の承認を受けている個人事業者が青色事業専従者給与に関する届出書を税務署に提出している場合は、労務の対価として相当と認められる給与については必要経費にすることができます(所得税法第57条第1項)。

 税務調査の際には、青色事業専従者給与が労務の対価として相当か否かが争われるケースが多いと思われますが、税務署が「事業収入以外の資金(給与収入)から支払われていたこと」を否認理由の一つに挙げた裁決例があります。

 以下では、この税務署の否認理由について、国税不服審判所がどのように判断したのかを確認します。

1.必要経費算入の要件

 青色事業専従者給与については、所得税法第57条第1項に次のように規定されています(下線は筆者による)。

青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢15歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。

 青色事業専従者給与が必要経費に算入されるための要件について、所得税法第57条第1項は、前段で形式的要件(事業から支払われた給与であること)、後段で実質的要件(労務の対価として相当な金額であること)を挙げています。

 このうち、税務署が形式的要件を満たしていないことを否認理由の一つとして挙げたのが次の裁決例です。

2.平成27年4月13日裁決

(1) 事案の概要

 医師として複数の病院に勤務するとともに自ら診療所を営む納税者が妻に対して支払った青色事業専従者給与について、税務署は、次の理由から「当該事業から」給与の支払を受けた場合に該当しないため、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないと主張しました。

① 事業収入より給与収入が約4倍多い
 青色事業専従者給与の原資は診療所の事業収入ではなく、勤務先病院からの給与収入である。

② 事業用口座から支払われていない
 事業用の預金口座ではなく、勤務先病院からの給与収入が振り込まれる口座から直接現金を引き出して支払っている。

 ①②の理由から、青色事業専従者給与は給与収入から支払われているため事業からの支払といえず、必要経費に算入できないとしました。

(2) 審判所の判断

 これに対し、審判所は次の理由から「青色事業専従者給与は事業から支払われた給与に該当する」として、税務署の主張を退けました。

① 青色事業専従者給与は勤務先病院の給与振込口座から現金出金されていたが、出金時または年末に「事業主借」勘定へ振替処理がされており、事業用とされた現金から支払われていた。

② 所得税法第57条は、事業収入以外から事業に流入した資金により青色事業専従者給与が支払われた場合に、当該支払を必要経費に算入することを認めない旨を規定したものではない。

 ①②の理由から、青色事業専従者給与は事業から支払われていたものと認められるため、税務署の主張には理由がないとしました。

 個人事業では、事業主の個人資金を事業に補填することは通常の処理であり、事業主借勘定に振り替えられ事業用とされた現金から支払われている以上、「事業から支払われた給与」に該当するということです。

 ただし、この裁決例では、所得税法第57条第1項後段の実質的要件(労働の対価として相当な金額であること)により、その青色事業専従者給与の大部分が否認されています。

固定資産税・不動産取得税の免税点の引き上げ(令和8年度税制改正)

 2026(令和8)年度税制改正で、固定資産税と不動産取得税の免税点が引き上げられています。
 以下では、改正前と改正後の免税点について確認します。

1.固定資産税の免税点

 固定資産税の免税点の見直しは、1991(平成3)年以来となります。

 固定資産税の課税対象(課税客体)は土地、家屋、償却資産ですが、今回の税制改正では、家屋に係る免税点が30万円(改正前は20万円)に、償却資産に係る免税点が180万円(改正前は150万円)に引き上げられています。

 土地に係る免税点については、1991(平成3)年よりも地価が下落していることから、従前の30万円で据え置きとなっています。

 改正前と改正後の固定資産税の免税点は、次のとおりです。改正後の免税点は、2027(令和9)年度以後の年度分の固定資産税について適用されます。

固定資産税の課税対象 改正前 改正後
土地 30万円 30万円
家屋 20万円 30万円
償却資産 150万円 180万円

※ 償却資産税に関連する参考記事は、次のとおりです。
・「償却資産税の申告対象となる資産とは?
・「償却資産の申告で迷いやすいケース
・「家屋と一体の建築設備は家屋と償却資産のどちらに該当するか?
・「事務所・店舗等を移転した場合の償却資産申告書の記載例
・「償却資産申告書の修正方法(修正申告)

2.不動産取得税の免税点

 不動産取得税の免税点の見直しは、1973(昭和48)年以来となります。

 不動産取得税の課税対象は土地と家屋です。不動産取得税は、土地や家屋の購入、贈与、家屋の建築などで不動産を取得(相続などの場合は除く)した際に、取得した人に対して課される税金です。

 今回の税制改正で、不動産取得税の免税点は、土地に係る免税点が16万円(改正前は10万円)に、家屋に係る免税点のうち建築に係るもの(建築分)は66万円(改正前は23万円)に、その他のもの(承継分:建築以外で取得)は34万円(改正前は12万円)に引き上げられています。

 改正前と改正後の不動産取得税の免税点は次のとおりです。改正後の免税点は、2026(令和8)年度以後の年度分の不動産取得税について適用されます。

不動産取得税の課税対象 改正前 改正後
土地 10万円 16万円
家屋(建築分) 23万円 66万円
家屋(承継分) 12万円 34万円

免税事業者からの仕入れに係る経過措置(8割控除の後は7割・5割・3割控除へ段階的に縮小)

 インボイス制度が始まって以降、中小企業・小規模事業者からは依然として「経理負担が重い」「消費税の負担が増えた」という声が多く聞かれます。
 こうした状況を踏まえ、2026(令和8)年度税制改正において仕入税額控除の経過措置が見直され、その適用期限が延長されました。
 今回は、免税事業者からの仕入に係る仕入税額控除の経過措置について、改正内容を確認します。

1.免税事業者からの仕入れに係る経過措置とは?

 インボイス制度の下では、インボイス(登録番号が記載された請求書等)が交付されない課税仕入れは、買い手側で仕入税額控除をすることができません。

 免税事業者はインボイスを発行することができませんので、免税事業者との取引の縮小や廃止を考える事業者が出てくる可能性があります。

 このような事態を避けるため、免税事業者からの仕入れであっても、一定期間は一定割合の控除を認める「経過措置」が設けられました。

 具体的には、インボイス制度が導入された2023(令和5)年10月1日から2026(令和8)年9月30日までの3年間は仕入税額の8割控除を認め、2026(令和8)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの3年間は5割控除を認めるというものでした。

期間 控除割合
2023(令和5)年10月1日~2026(令和8)年9月30日 8割
2026(令和8)年10月1日~2029(令和11)年9月30日 5割
2029(令和11)年10月1日~ 控除不可

2.改正後の控除割合の推移

 今回の税制改正により、控除割合の引下げペースが緩和され、次のように段階的に縮小されることとなりました。

期間 控除割合
2023(令和5)年10月1日~2026(令和8)年9月30日 8割
2026(令和8)年10月1日~2028(令和10)年9月30日 7割
2028(令和10)年10月1日~2030(令和12)年9月30日 5割
2030(令和12)年10月1日~2031(令和13)年9月30日 3割
2031(令和13)年10月1日~ 控除不可

 改正前は「8割→5割」という2段階の縮小が予定されていましたが、改正後は「8割→7割→5割→3割」という4段階の縮小になり、 買い手側の負担増のペースが緩和されました。

3.年間適用上限額の引下げ

 経過措置の濫用防止の観点から、経過措置の対象となる免税事業者ごとの課税仕入れの合計額に係る制限も改正されています。

 改正前は、一の免税事業者から行う経過措置の対象となる課税仕入れの額の合計額がその年又はその事業年度で税込み10億円を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて経過措置は適用できませんでした。

 今回の改正で、税込み10億円という年間適用上限額が、税込み1億円に引き下げられました。

 この改正も、2026(令和8)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。