課税売上がなくても消費税の還付申告はできる!

 輸出取引の多い事業者や多額の設備投資を行った事業者などは、消費税の申告によって消費税の還付を受けることができます。
 
 還付を受ける際は、課税売上(輸出免税売上や国内における課税売上)がある場合が一般的だと思われますが、課税売上がない場合でも消費税の還付を受けることができる場合があります。

 今回は、この点について確認します。

1.仕入税額控除と課税売上割合

 会計の世界では、商品を販売したりサービスを提供したりすることを「売上」と呼びますが、消費税の世界では、商品の販売やサービスの提供だけではなく、建物や車両などの事業用資産を売却することも「売上」といいます。

 また、会計の世界では、商品を購入することを「仕入」と呼びますが、消費税の世界では、商品の購入以外に、事業用資産を購入することも「仕入」といいます。

 消費税の納税額計算の仕組みを考えるとき、消費税では「売上」や「仕入」の概念が会計よりも広くなっていることに留意する必要があります。

 このことを踏まえて消費税の納税額計算の仕組みを簡潔に説明すると、消費税の納税額は、売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を控除して求めます。これを仕入税額控除といいます。

 通常は、売上に係る消費税額が仕入に係る消費税額よりも多いため消費税を納税することになりますが、輸出取引の多い事業者や多額の設備投資を行った事業者などのように、売上に係る消費税額より仕入に係る消費税額の方が多い場合は、消費税が還付されます。

 この仕入税額控除ですが、「課税売上割合」によって全額控除、個別対応方式、一括比例配分方式という3つの方法に分かれます。
 全額控除は仕入れに係る消費税額の全額を控除できますが、個別対応方式と一括比例配分方式では、仕入に係る消費税額を課税売上割合によって按分する必要があります。

 課税売上割合は総売上高に占める課税売上高の割合をいい、次の算式により算出します。

 課税売上割合=課税売上高/総売上高=課税売上高/(課税売上高+非課税売上高)

 この課税売上割合が95%以上かつ課税売上高が5億円以下の場合は、仕入税額控除の方法は全額控除となります。
 課税売上割合が95%未満または課税売上高が5億円超の場合は、個別対応方式か一括比例配分方式のどちらかになります。

2.課税売上がない場合の仕入税額控除

 課税売上がない場合の課税売上割合は、上記1の計算式の分子が0円となるため、0%(95%未満)として取り扱われます。
 したがって、仕入税額控除の方法は、個別対応方式か一括比例配分方式のどちらかになります。

 個別対応方式と一括比例配分方式は、仕入に係る消費税額を課税売上割合によって「控除できる税額」と「控除できない税額」に按分する必要があります。

 個別対応方式では、仕入に係る消費税額を次の3つに区分します。

 A:課税売上のみに対応(課税売上対応分)
 B:非課税売上のみに対応(非課税売上対応分)
 C:AとBに共通して対応(共通対応分)

 そのうえで、仕入に係る消費税額のうち控除できる税額(控除対象仕入税額といいます)を次のように計算します。

 控除対象仕入税額=A+C×課税売上割合

 一方、一括比例配分方式では、仕入に係る消費税額を区分する必要はなく、次のように控除対象仕入税額を計算します(一括比例配分方式は、個別対応方式における区分の煩雑さを考慮して区分不要とし、すべての仕入に係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算する簡便的な方法です)。

 控除対象仕入税額=仕入に係る消費税額×課税売上割合

 上記の個別対応方式と一括比例配分方式の控除対象仕入税額の計算式を見比べると、課税売上がない(課税売上割合が0%)場合でも、個別対応方式ではA(課税売上対応分)の税額が控除できることがわかります。
 それに対して、一括比例配分方式では控除対象仕入税額は0となります。

 つまり、課税売上がない(課税売上割合が0%)場合でも、個別対応方式を適用すれば消費税の還付を受けることができます。

3.課税売上がないのに課税売上対応?

 上記2のように、課税売上がない(課税売上割合が0%)場合でも、個別対応方式を適用すれば、仕入に係る消費税額のうち課税売上対応分については還付を受けることができます。

 しかし、ここで疑問が生じます。課税売上がないのに、仕入に係る消費税額を「課税売上対応分」として区分することに問題はないのか?ということです。

 これに関しては、消費税法基本通達11-2-10(課税資産の譲渡等にのみ要するものの意義)において、次のように規定されています(下線は筆者による)。

11-2-10 法30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」という。)とは、課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等をいい、例えば、次に掲げるものの課税仕入れ等がこれに該当する。
 なお、当該課税仕入れ等を行った課税期間において当該課税仕入れ等に対応する課税資産の譲渡等があったかどうかは問わないことに留意する。(令5課消2-9により改正)

(1) そのまま他に譲渡される課税資産
(2) 課税資産の製造用にのみ消費し、又は使用される原材料、容器、包紙、機械及び装置、工具、器具、備品等
(3) 課税資産に係る倉庫料、運送費、広告宣伝費、支払手数料又は支払加工賃等

 上記通達の下線部にあるように、課税売上がない場合でも、仕入に係る消費税額を「課税売上対応分」として区分することに問題はありません。

令和7年1月から書面提出した申告書等の控えに収受日付印は押なつされません(提出事実等の確認方法は?)

 申告書等を税務署に書面提出した場合に、申告書等の正本(提出用)と一緒に控え(納税者保管用)を提出すると、その控えに収受日付印(受付印)の押なつが行われていました。

 収受日付印が押なつされた申告書等の控えによって、納税者においては申告書等を提出したことが客観的に確認でき、また、金融機関や行政機関においても、収受日付印が押なつされた控えによって、その申告書等の内容が正本と変わらない(偽造されたものではない)ことを確認できました。

 この申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて、かねてより国税庁からアナウンスされていたとおり、2025(令和7)年1月から収受日付印の押なつが行われなくなります。

 以下では、収受日付印の押なつが行われなくなった後の申告書等の提出事実や提出年月日の確認方法について述べます。

1.日付・税務署名が記載されたリーフレット

 令和7年1月から、書面提出した申告書等の控えに収受日付印の押なつが行われなくなることから、申告書等を税務署の窓口で提出する場合や郵送する場合は、申告書等の正本(提出用)のみを提出(郵送)することになります。

 申告書等の控えへ収受日付印の押なつがされませんので、申告内容等の事後の確認のため、納税者自身で控えの作成及び保有、提出年月日の記録・管理を行う必要があります。

 なお、令和7年1月以降、当分の間の対応として、窓口で交付する「リーフレット」(今般の見直しの内容と申告書等の提出事実等の確認方法を案内するもの)に申告書等を税務署が収受した日付と税務署名を記載したものが希望者に渡されます。

 また、郵送等により申告書等を提出する際に、切手を貼付した「返信用封筒」を同封した場合も、日付・税務署名(業務センター名)を記載したリーフレットが返送されます。

 仮に、申告書等を提出したにもかかわらず、税務署等から、「申告書等が提出されていないのではないか」といった問合せがあった場合などには、税務署側で納付状況や他の証拠書類を確認し、税理士及び納税者からの聴き取りなどを行った上で、そのリーフレットと申告書等の控えなどを確認することによって、原則として、その日に税務署に来署し、申告書等を提出したものとして取り扱うとしています。

出所:国税庁ホームページ

 なお、リーフレットのメモ欄については、納税者が備忘等の観点から任意に記載する欄として便宜的に設けられていますので、必要に応じて、提出書類の書類名等を記載します。

2.申告書等の提出事実及び提出年月日の確認方法

 令和7年1月以降、上記1以外に、書面提出した申告書等の提出事実及び提出年月日を確認する方法は、以下のとおりです。

(1) 申告書等情報取得サービス

 所得税の確定申告書、青色申告決算書及び収支内訳書について、書面により提出している場合であっても、パソコン・スマートフォンからe-Taxを利用してPDFファイルを取得することができます。

 利用は無料ですが、オンライン申請のみ可能となっていますのでマイナンバーカードが必要です。

 直近年分の所得税の申告書等の申請は、原則として翌年5月1日以降に可能となります(例えば、令和6年分の申告書の場合、令和7年5月1日以降に申請可能です)。
 ただし、法定申告期限(翌年3月15日)後に申告書等を提出している場合は、税務署における処理のため、申請が可能になるまでしばらく時間を要することがあります。

(2) 保有個人情報の開示請求

 税務署が保有する個人情報に対する開示請求により、提出した申告書等の内容を確認することができます(写しの交付の場合は1か月程度かかります)。

 税務署の窓口での申請の他、e-Taxを利用したオンライン請求も可能であり、手数料は、税務署窓口での申請は300円、オンライン申請は200円です。

 なお、法人の申告書等には利用できません。

(3) 税務署での申告書等の閲覧サービス

 税務署の窓口で過去に提出した申告書等を閲覧することができ、写真撮影も可能です。

 税務署の窓口での申請のみ可能であり、郵送やオンライン申請はできません。

 申告書等が業務センターや外部書庫等に保管されている場合がありますので、申請する際は事前に税務署宛に連絡しておくと手続がスムーズに進みます。

 閲覧対象の申告書等が当日提出したものである場合には、原則として、当日中は閲覧サービスを申請することができません。
 また、所得税等の確定申告期においては、閲覧可能となるまでに時間を要する場合があります。

(4) 納税証明書の交付請求

 納税証明書の交付請求を行うことにより、確定申告書等を提出した場合の納税額又は所得金額の証明書を取得することができます(納税証明書では、提出年月日を確認することはできません)

 税務署の窓口での申請の他、e-Taxを利用したオンライン申請も可能であり、手数料は、税目ごと1年度1枚につき400円(オンライン申請は370円)です。

 所得税等の確定申告期においては、発行までに時間を要する場合があります。

令和6年10月1日から変わる税金・社会保険その他の主な制度

 2024(令和6)年10月1日から、税金や社会保険などにおいて制度変更が行われるものがあります。
 それらの中には、会社の経営や従業員の働き方などに影響を及ぼすものもありますので、どのような制度変更があるのかを確認しておくことは有意義であると思われます。
 以下では、令和6年10月1日から変更される主な制度について確認します。

1.中小企業倒産防止共済掛金の損金算入制限

 中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)は、取引先事業者が倒産した際に無担保・無保証人で掛金の最大10倍(上限額8,000万円)の金額を借りることができ、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。

 取引先の突然の倒産などの「もしも」のときに備えるというのが本来の目的ですが、掛金全額(1年間で最大240万円)を損金または必要経費に算入できることから、節税対策としても活用されています。

 一方、掛金の積立額は上限800万円とされており、上限に達した後は任意のタイミングで解約して解約手当金を受け取ることになりますが、この解約手当金は収益(益金または収入金額)となります。

 黒字のタイミングで解約すれば解約手当金がすべて課税対象となってしまい、せっかくの損金算入が単なる課税の繰り延べになってしまいますので、節税効果を活かすためには解約するタイミングは重要です。

 一般的には、赤字のタイミングで解約したり、役員退職金や大規模修繕などの大型の経費を計上するタイミングで解約して、解約手当金と相殺する方法があります。

 さらに、解約した後にすぐに再加入して、掛金(前納すれば最大240万円)と解約手当金を相殺するという方法が用いられることがありましたが、この部分が中小企業庁に不適切であると指摘され、見直しが行われました。

 その結果、2024(令和6)年10月1日以後に解約した中小企業倒産防止共済については、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は損金算入することができないとされました。
 これにより、解約後すぐに再加入して節税するというスキームが封じられることになります。

 もし、再加入による掛金の損金算入を検討している場合は、令和6年9月30日までに現契約を一度解約した上で再加入する必要があります。

※ 損金算入制限については、「中小企業倒産防止共済の再加入後の損金算入制限に注意」をご参照下さい。

2.免税事業者等からの仕入れに係る経過措置の適用の制限

 インボイス制度の下では、免税事業者等(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについては、仕入税額控除のために保存が必要なインボイスの交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができません。

 ただし、インボイス制度開始から一定期間(6年間)は、免税事業者等からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合(80%・50%)を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。

期間 割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで 仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで 仕入税額相当額の50%

 上記経過措置が2024(令和6)年度税制改正により見直しが行われ、一の免税事業者等から行う当該経過措置の対象となる課税仕入れの額の合計額がその年又はその事業年度で税込み10億円を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて、本経過措置は適用できないこととされました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

※ 経過措置については、「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照下さい。

3.パート・アルバイトの社会保険加入義務の拡大

 パートやアルバイトで働く方の社会保険(健康保険及び厚生年金保険)加入義務の判定基準が、2024(令和6)年10月1日から変わります。

 パートやアルバイトで働く短時間労働者の方でも、一定の要件を満たす場合は社会保険に加入しなければなりません。
 一定の要件とは次の4要件をいい、これらの要件をすべて満たす場合は社会保険の加入義務が生じます。

(1) 週の所定労働時間が20時間以上であること
(2) 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
(3) 2か月を超える雇用の見込みがあること
(4) 学生でないこと

 現在、厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等で働く上記4要件を満たす短時間労働者は、社会保険の加入対象となっています。
 この短時間労働者の加入要件がさらに拡大され、令和6年10月1日から厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く短時間労働者の社会保険加入が義務化されます。

 今回の加入要件の拡大に伴い、該当するパート・アルバイトの方やその家族の生活、働き方の選択などに大きな影響を及ぼす可能性がありますので、事前に制度変更の周知を図る必要があります。

※ 加入要件の詳細については、「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」をご参照ください。

4.代表取締役等住所非表示措置

 現行の会社法においては、株式会社の代表取締役など会社の代表者は氏名と住所を登記する必要があり、登記後はその氏名と住所が登記簿上で公開されます。

 この登記簿上の代表者の住所について、2024(令和6)年10月1日から登記申請時に代表者の住所を非公開にすることができるという制度(代表取締役等住所非表示措置)が始まります。

 この措置により、登記事項証明書等で公開が必要だった代表者の氏名と住所のうち、住所を非公開にすることができるようになります。
 ただし、非公開にできるのは住所の一部であり、最小行政区画までは公開されます。つまり、市区町村(東京都においては特別区、指定都市においては区)までは公開されます。

 なお、代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されます。

 そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な検討が必要です。

※ 制度の詳細については、「令和6年10月1日から登記申請時に社長の住所を非公開にできます」をご参照ください。

5.給与所得者の保険料控除申告書

 2024(令和6)年10月1日以後に提出する「給与所得者の保険料控除申告書」について、以下の「申告者との続柄」の記載を要しないこととされました。

(1) 社会保険料について、社会保険料のうちに自己と生計を一にする配偶者その他の親族が負担すべきものがある場合におけるこれらの者の申告者との続柄
(2) 新生命保険料及び旧生命保険料について、保険金、年金、共済金、確定給付企業年金、退職年金又は退職一時金の受取人の申告者との続柄
(3) 介護医療保険料について、保険金、年金又は共済金の受取人の申告者との続柄
(4) 新個人年金保険料及び旧個人年金保険料について、年金の受取人の申告者との続柄

6.地域別最低賃金の引き上げ

 最低賃金は、パート、アルバイト、正社員、臨時、嘱託など雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。

 近年は最低賃金引き上げの流れが続いており、2024(令和6)年度の全国加重平均は時給1,055円と過去最高となっており、引き上げ幅51円も過去最高となっています。
 令和6年度の地域別最低賃金を見ると、最高額は東京都の1,163円、最低額は秋田県の951円となっています。

 令和6年度地域別最低賃金は、令和6年10月1日から同年11月1日にかけて順次引き上げられる予定です。

※ 詳細については、「令和6年度地域別最低賃金が10月1日から順次引き上げられます」をご参照ください。

7.郵便料金の値上げ

 2024(令和6)年10月1日から郵便料金が値上げされます。主な郵便料金の変更内容は次のとおりです。

出所:日本郵便ホームページ

ETC利用時のインボイス保存方法の緩和の変遷

 高速道路を利用する際にETCシステムにより料金を支払い、後日、クレジットカードによりその料金を精算している場合、クレジットカード会社が発行するクレジットカード利用明細書を保存するだけでは消費税の仕入税額控除を行うことはできないとされていました。

 しかし、電子帳簿保存法のルール変更に伴い、一定の要件を満たす場合にはクレジットカード利用明細書を保存するだけで消費税の仕入税額控除を行うことができるようになりました。

 以下では、ETC利用時のインボイスの保存方法について、ETC利用証明書の取扱いを中心に確認します。

1.すべてのETC利用証明書の保存が必要(原則)

 クレジットカード会社がそのカードの利用者に発行する「クレジットカード利用明細書」は、そのカード利用者に対して課税売上を行った売り手(高速道路会社)が作成・交付する書類ではなく、当該売り手(高速道路会社)の登録番号や適用税率なども記載されていないため、インボイスには該当しません。

 したがって、ETCクレジットカード※1を使用した高速道路料金について仕入税額控除の適用を受けるためには、原則としてすべての取引について高速道路会社が運営するホームページ(ETC利用照会サービス)からダウンロードした「利用証明書※2」(簡易インボイス)を保存しなければなりません。

※1 ETCクレジットカードとはクレジットカード会社がETCシステムの利用のために交付するカードをいい、高速道路会社が発行するETCコーポレートカード及びETCパーソナルカードを除きます。
 ETCコーポレートカード及びETCパーソナルカードを利用した場合は、月に一回発行される請求書がインボイスに対応した形式となります。

※2 利用料金が確定前の状態でETC利用照会サービスから発行される利用証明書は、インボイス対象外となりますのでご注意ください。

2.任意の一取引のETC利用証明書の保存で可(緩和その1)

 しかし、ETCクレジットカードを使用して高速道路を利用する度に、すべての利用証明書をダウンロードして保存することは事務的な煩雑さを伴い、実務的には困難であると思われます。

 そこで、高速道路の利用が多頻度にわたるなどの事情によりすべての利用証明書の保存が困難なときは、クレジットカード会社が発行するクレジットカード利用明細書※3と、高速道路会社及び地方道路公社など(以下「高速道路会社等」といいます)の任意の一取引※4に係る利用証明書をダウンロードして併せて保存することで、仕入税額控除の適用を受けることができるようになりました。

 すべての利用証明書ではなく、任意の一取引に係る利用証明書をダウンロード・保存することでよくなりましたので、事務的な負担は大幅に緩和されました。

※3 個々の高速道路の利用に係る内容が判明するものに限ります。また、取引年月日や取引の内容、課税資産の譲渡等に係る対価の額が分かる利用明細データ等を含みます。

※4 複数の高速道路会社等の利用がある場合は、高速道路会社等ごとに任意の一取引の利用証明書を保存します。

3.ETC利用証明書の保存は不要(緩和その2)

 上記2により、ETC利用時のインボイスの保存方法は大幅に緩和されたといえますが、電子帳簿保存法のルール変更に伴い、さらに保存方法が緩和されました。

 2024(令和6)年4月に国税庁ホームページ「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」の問103(高速道路利用料金に係る適格簡易請求書の保存方法)が改訂され、以下の注意書きが追記されました(下線は筆者による)。

 適格請求書等につき、電磁的記録による提供を受けた場合、仕入税額控除の適用を受けるためには、電帳法に準じた方法により保存する必要があります(消令 50①、消規15の5)。この点、電帳法においては、当該適格請求書等の電磁的記録をダウンロードすることができる場合に、当該適格請求書等に係る電磁的記録の確認が随時可能な状態である場合には、必ずしも当該電磁的記録をダウンロードせずとも、その保存があるものとして、仕入税額控除の適用を受けることとして差し支えありません。
 そのため、ETC利用照会サービスにおいてダウンロードできる期間(15か月間)に、繰り返し、同じ高速道路会社等の道路を利用しているような場合は、いつでも利用証明書をダウンロードできる状態にあるため、結果として、利用証明書のダウンロードは不要となり、クレジットカード利用明細書の保存のみで仕入税額控除の適用を受けることが可能です。なお、ダウンロードできる期間を超えて利用間隔に開きがある高速道路会社等の道路については、利用証明書のダウンロードが必要になりますのでご注意ください。


 電子帳簿保存法では、WEB上で領収書等の確認が随時可能な状態である場合は、ダウンロード・保存は不要というルールに変更されました。

 このルール変更に伴い、繰り返し(15か月に1回以上)ETCを利用している場合は、いつでも利用証明書をダウンロードできる状態にあるため利用証明書のダウンロードは不要となり、クレジットカード利用明細書の保存のみで仕入税額控除ができるようになりました。

 ETC利用時のインボイスの保存方法について、ETC利用証明書の取扱いを中心にみると、「すべてのダウンロード・保存が必要」→「任意の一取引についてダウンロード・保存が必要」→「ダウンロード・保存は不要」というように緩和されています。

令和6年6月1日から軽減税率8%の対象となる給食の金額基準が変更されます

 2024(令和6)年6月1日より、消費税の軽減税率8%の対象となる給食の一食当たりの金額基準が変更されます。
 有料老人ホームの設置者や運営者、各種学校の設置者、給食調理業者など、関係する事業者の方はご注意ください。

1.対象となる施設は変更なし

 有料老人ホームや小中学校等で提供される飲食料品(以下「給食」といいます)は、これらの施設で日常生活や学校生活を営む入居者や生徒等に対してその施設の設置者等が調理等をして提供するものですから、本来はケータリングサービス※1に該当し標準税率10%が適用されます。

 しかし、このような特定の施設で提供される給食は、入居者や生徒等がその都度自ら選択できるものではなく、日常生活や学校生活を営む場において他の形態で食事をとることが難しいことから、給食を食べざるを得ないという面があります。

 そこで、以下の特定の施設で提供される給食についてはケータリングサービスに該当しないものとされ、軽減税率8%が適用されます。

(1) 有料老人ホームにおいて、当該有料老人ホームの設置者又は運営者が、当該有料老人ホームの一定の入居者※2に対して行う飲食料品の提供

(2) サービス付き高齢者向け住宅(以下「サ高住」といいます)において、当該サ高住の設置者又は運営者が、当該サ高住の入居者に対して行う飲食料品の提供

(3) 義務教育諸学校の施設において、当該義務教育諸学校の設置者が、その児童又は生徒の全て※3に対して学校給食として行う飲食料品の提供

(4) 夜間課程を置く高等学校の施設において、当該高等学校の設置者が、当該夜間過程において、生徒の全て※3に対して夜間学校給食として行う飲食料品の提供

(5) 特別支援学校の幼稚部又は高等部の施設において、当該特別支援学校の設置者が、幼児又は生徒の全て※3に対して学校給食として行う飲食料品の提供

(6) 幼稚園の施設において、当該幼稚園の設置者が、教育を受ける幼児の全て※3に対して学校給食に準じて行う飲食料品の提供

(7) 特別支援学校に設置される寄宿舎において、当該寄宿舎の設置者が、寄宿する幼児、児童又は生徒に対して行う飲食料品の提供

※1 ケータリングサービスとは、相手方が指定した場所において行う加熱、調理又は給仕等の役務を伴う飲食料品の提供をいいます。

※2 ①60歳以上の者、②要介護認定・要支援認定を受けている60歳未満の者、③ ①又は②に該当する者と同居している配偶者(事実上婚姻関係にある者を含みます)に限られます。

※3 アレルギーなどの個別事情により全ての児童又は生徒に対して提供することができなかったとしても軽減税率の適用対象となります。

2.一食当たり640円から670円に変更

 上記1.(1)~(7)の施設において提供される給食の全てが軽減税率8%の対象となるのではなく、一食当たりの基準額と一日当たりの上限額(累計額)が設けられています。

 これらの基準額が、2024(令和6)年6月1日から次のように変更されます。

変更前
同一の日同一の者に対して行う飲食料品の提供の対価の額(税抜)が・・・
一食当たり640円以下(1日累計1,920円まで)※4
変更後
同一の日同一の者に対して行う飲食料品の提供の対価の額(税抜)が・・・
一食当たり670円以下(1日累計2,010円まで)※4

※4 一日当たりの上限額は、原則として、その日の一番初めに提供される食事の対価の額から累計して判定することになりますが、各施設の設置者等が、算定対象となる飲食料品の提供をあらかじめ書面により明らかにしている場合は、当該明らかにしている飲食料品の提供の対価の額の累計額によって一日当たりの上限額を判定することも可能とされています。

インボイス制度導入後の経過措置期間中の簡易課税制度における税抜経理方式による会計処理

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が開始されました。
 インボイス制度導入後は、インボイス発行事業者以外からの仕入れは原則として仕入税額控除ができませんが、インボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる場合もあり、例えば、経過措置や簡易課税制度などが該当します
 
 今回は、インボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れについて、簡易課税制度を選択し、かつ、税抜経理方式を採用している場合の会計処理について確認します。

※ 詳細については、本ブログ記事「インボイスの保存がなくても仕入税額控除できる15のケース」をご参照ください。

1.経過措置期間における本来の会計処理

 免税事業者などのインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れについては、2023(令和5)年10月1日から2026(令和8)年9月30日までの3年間は仕入税額相当額の80%、2026(令和8)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの3年間は仕入税額相当額の 50%を仕入税額控除できる経過措置が設けられています。

 この経過措置期間の最初の3年間に、課税事業者(簡易課税制度及び税抜経理方式を適用)が免税事業者から1,100円(税率10%)の課税仕入れを行ったときの会計処理は、原則として次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 1,020 現金預金 1,100
仮払消費税等 80    

 上記の会計処理は、本則課税(原則課税)を適用している課税事業者と同じになります。
 このような会計処理をするためには、交付された請求書等がインボイスの要件を満たしているかどうか、換言すれば、取引相手がインボイス発行事業者であるかどうかを確認しなければなりません。
 そのうえで(インボイスではないことを確認したうえで)、仕入税額相当額100円(1,100円×100/110)の80%である80円を仮払消費税等として計上します。

2.経過措置期間における簡便な会計処理

 しかし、簡易課税制度を適用している事業者は、インボイスの有無にかかわらず、課税売上げに係る税額にみなし仕入率を乗じて計算した金額の仕入税額控除が認められており、仕入税額控除をするに当たってインボイスの有無は要件とされていません。

 こうしたことを踏まえ、2023(令和5)年12月の消費税経理通達の改正において、税抜経理方式を適用している簡易課税制度適用事業者が課税仕入れを行った場合に、その取引相手がインボイス発行事業者かインボイス発行事業者以外の者かを厳密に区分する事務負担を軽減する観点から、簡便な会計処理が認められることとなりました。

 つまり、簡易課税制度を適用している課税期間を含む事業年度における継続適用を条件として、インボイスの有無にかかわらず全ての課税仕入れについて、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率の対象となるものは108分の8)を乗じて算出した金額を仮払消費税等の額とすることも認められました。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 1,000 現金預金 1,100
仮払消費税等 100    

3.事務負担軽減のために税込経理方式も

 上記2のとおり、2023(令和5)年12月の消費税経理通達の改正では、税抜経理方式を適用している場合の日々の記帳における事務負担軽減措置が講じられましたが、税抜経理方式を適用している以上は、一定の事務負担(法人税法上の税務調整等)が発生することは避けられないものと考えられます。

 こうしたことから、簡易課税制度適用事業者や計算構造が簡易課税制度と同じである2割特例適用事業者は、税込経理方式を採用することにより事務負担の軽減を図ることも考えられます。

 この点について、事業者が採用する会計処理は原則として継続適用が求められますが、インボイス制度導入を契機としてその会計処理を税込経理方式に変更する場合は特に問題とはなりません。

免税事業者がインボイス登録した場合の「基準期間の課税売上高」の計算方法

 2023(令和5)年10月1日から消費税のインボイス制度がスタートしました。このインボイス制度の導入によって、本来は免税事業者であるにもかかわらず、インボイス発行事業者として登録して課税事業者となった方も多いと思われます。

 今回は、免税事業者である個人事業者がインボイス発行事業者になった場合の基準期間の課税売上高の計算方法について確認します。

1.基準期間における課税売上高とは?

 消費税の納税義務があるかどうかを判定するための基準の一つとして「基準期間における課税売上高」があり、消費税申告書に参考事項として記載することになっています。

 基準期間とは、法人の場合は「その事業年度の前々事業年度」をいいます。前々事業年度が1年未満の場合は、1年分へ換算します
 例えば、前々事業年度(3か月)が免税事業者の場合でその間の課税売上高が330万円(税率は10%とします)のときは、基準期間における課税売上高は330万円×12か月/3か月=1,320万円となります(税抜処理をしません)。
 前々事業年度が課税事業者の場合は、330万円×100/110×12か月/3か月=1,200万円となります(税抜処理をします)。

 個人事業者の基準期間は、「その年の前々年」をいいます。前々年が1年未満の場合でも1年分への換算はしません
 例えば、前々年(3か月)が免税事業者の場合でその間の課税売上高が330万円のときは、基準期間における課税売上高は330万円となります(年換算も税抜処理もしません)。
 前々年が課税事業者の場合は、330万円×100/110=300万円となります(年換算はせず税抜処理をします)。

 このように、基準期間における課税売上高の計算方法は、法人と個人や免税事業者と課税事業者で異なりますが、以下では、免税事業者である個人事業者を前提として、基準期間における課税売上高の計算方法を確認します。

※ 他に「特定期間における課税売上高」がありますが、ここでの説明は省略します。

2.課税期間の中途からインボイス発行事業者となった場合

 本来は免税事業者であるにもかかわらず、インボイス制度がスタートした2023(令和5)年10月1日から課税事業者になった個人事業者は、令和5年10月1日から同年12月31日までの3か月間を消費税の集計期間として令和5年分の消費税申告を行いました。

 この個人事業者が2025(令和7)年分の消費税申告を行うにあたって、その基準期間は前々年である2023(令和5)年となります。
 では、その基準期間における課税売上高はどのように計算するのでしょうか?

 課税事業者となった令和5年10月から12月までの課税売上高を計算すればいいのでしょうか?
 それとも免税事業者であった令和5年1月から9月までの課税売上高も含めて計算するのでしょうか?

 結論は、免税事業者であった令和5年1月から9月までの課税売上高と、課税事業者となった令和5年10月から12月までの課税売上高との合計額を基準期間における課税売上高とします。
 また、免税事業者であった令和5年1月から9月までの課税売上高については、税抜処理を行わないことにも留意する必要があります。

 次の簡単な計算例で確認します(税率は10%とします)。

・令和5年1月~9月の課税売上高・・・550万円
・令和5年10月~12月の課税売上高・・・330万円

 令和7年分申告における「基準期間における課税売上高」は、次のように計算します。
 550万円(税抜処理しない)+330万円×100/110(税抜処理する)=850万円

 なお、上記計算例では、基準期間における課税売上高が850万円(1,000万円以下)となりましたので、この個人事業者は令和7年分の申告において2割特例を適用することができます。

※ 2割特例については、本ブログ記事「『売上税額の2割納税の特例』の適用期間の留意点」、「売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?」等をご参照ください。

誤ったインボイスを受け取ったときの3つの対応方法

 インボイス制度の下では、買い手が仕入税額控除を行うためにはインボイスの保存が必要です。
 もし、受け取ったインボイスに誤りがあった場合は、そのインボイスを保存したとしても仕入税額控除を行うことはできません。
 以下では、誤ったインボイスを受け取ったときに、買い手が仕入税額控除を行うための3つの対応方法について確認します。

1.売り手に修正インボイスの交付を求める

 売り手であるインボイス発行事業者は、交付したインボイス(適格請求書)、簡易インボイス(適格簡易請求書)又は返還インボイス(適格返還請求書)の記載事項に誤りがあったときは、買い手である課税事業者に対して、修正したインボイス、簡易インボイス又は返還インボイスを交付しなければならないこととされています。

 したがって、記載事項に誤りがあるインボイスを受け取った課税事業者は、仕入税額控除を行うために、売り手であるインボイス発行事業者に対して修正したインボイスの交付を求め、その修正したインボイスを保存する必要があります。
 なお、買い手が自ら追記や修正を行うことは認められていません。

2.買い手が仕入明細書等を作成する

 一方、買い手である課税事業者が作成した一定事項の記載のある仕入明細書等の書類で、売り手であるインボイス発行事業者の確認を受けたものについても、仕入税額控除を行うために保存が必要な請求書等に該当します。

 したがって、仕入税額控除を行うためにインボイスの記載事項の誤りを修正した仕入明細書等を買い手において作成し、売り手であるインボイス発行事業者の確認を受けた上で、その仕入明細書等を保存することもできます。
 この場合、売り手であるインボイス発行事業者は、改めて修正したインボイスを交付しなくても差し支えありません。

 なお、仕入明細書の記載事項は次のとおりです。

(1) 仕入明細書の作成者の氏名又は名称
(2) 課税仕入れの相手方の氏名又は名称及び登録番号
(3) 課税仕入れを行った年月日
(4) 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである旨)
(5) 税率ごとに合計した課税仕入れに係る支払対価の額及び適用税率
(6) 税率ごとに区分した消費税額等

3.買い手がインボイスを自ら修正する

 上記2の対応方法の場合は、例えば、相互に関連する複数の書類により仕入明細書等を作成することも可能であることから、受け取ったインボイスと関連性を明確にした別の書類として修正した事項を明示したものを作成し、当該修正事項について売り手の確認を受けたものを保存することも認められます。

 したがって、受け取ったインボイスに買い手が自ら修正を加えたものであったとしても、その修正した事項について売り手に確認を受けることで、その書類はインボイスであるのと同時に修正した事項を明示した仕入明細書等にも該当することから、当該書類を保存することで仕入税額控除の適用を受けることとしても差し支えないとされています。

 上記1にあるように、誤ったインボイスを受け取っても買い手が自ら追記や修正を行うことは認められていません。
 にもかかわらず、誤ったインボイスの修正を買い手に認めるのは、売り手の確認を受けることによって買い手が修正したインボイスが「インボイス」であるのと同時に上記2で認められる「仕入明細書」にも該当するからです。

 これにより、誤ったインボイスを受け取ったときに、例えば、売り手に電話等で修正事項を伝え、売り手が保存しているインボイスの写しに同様の修正を行ってもらえば、自ら修正を行ったインボイスの保存で仕入税額控除を行うことができます。

出所:国税庁ホームページ

 国税庁は、「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(令和5年10月改訂)」の公表後、納税者が直面する実務上の問題について追加問や既存問の改訂等として「多く寄せられるご質問」に整理・集約しています。
 上記3の取扱いは、「多く寄せられるご質問『問⑥買手による適格請求書の修正』」で述べられています。

ETC利用時のインボイスの保存方法

1.ETC利用照会サービスの利用証明書の保存が必要

 高速道路を利用する場合にETCシステムにより料金を支払い、後日、クレジットカードによりその料金を精算している事業者も多いと思われます。
 この場合、クレジットカード会社が発行するクレジットカード利用明細書を保存することによって消費税の仕入税額控除を行うことはできるのでしょうか?

 答えは「否」です。
 クレジットカード会社がそのカードの利用者に発行する利用明細書は、そのカード利用者である事業者に対して課税売上を行った売り手(高速道路会社)が作成・交付する書類ではなく、当該売り手(高速道路会社)の登録番号や適用税率なども記載されていないため、インボイスには該当しません。
 そのため、クレジットカード会社が発行した利用明細書を保存することにより仕入税額控除の適用を受けることはできません。
 この場合、課税売上を行った売り手(高速道路会社)から受領したインボイスを保存することで、仕入税額控除の適用が認められます。
 したがって、ETCクレジットカード※1を使用した高速道路料金について仕入税額控除の適用を受けるためには、原則としてすべての取引について高速道路会社が運営するホームページ(ETC利用照会サービス)からダウンロードした「利用証明書※2」(簡易インボイス)の保存が必要です。

※1 ETCクレジットカードとはクレジットカード会社がETCシステムの利用のために交付するカードをいい、高速道路会社が発行するETCコーポレートカード及びETCパーソナルカードを除きます。
 ETCコーポレートカード及びETCパーソナルカードを利用した場合は、月に一回発行される請求書がインボイスに対応した形式となります。

※2 利用料金が確定前の状態でETC利用照会サービスから発行される利用証明書は、インボイス対象外となりますのでご注意ください。

2.利用明細書と利用証明書を併せて保存してもOK

 しかし、ETCクレジットカードを使用して高速道路を利用する度に、すべての利用証明書をダウンロードして保存することは事務的な煩雑さを伴います。
 そこで、高速道路の利用が多頻度にわたるなどの事情によりすべての利用証明書の保存が困難なときは、クレジットカード会社が発行するクレジットカード利用明細書※3と、高速道路会社及び地方道路公社など(以下「高速道路会社等」といいます)の任意の一取引※4に係る利用証明書をダウンロードして併せて保存することで、仕入税額控除の適用を受けることができます。
 つまり、クレジットカード会社が発行するクレジットカード利用明細書だけの保存では仕入税額控除を受けることができませんが、ETC利用照会サービスからダウンロードした利用証明書とクレジットカード利用明細書を併せて保存する場合は仕入税額控除の適用を受けることができ、事務負担も緩和できます。

※3 個々の高速道路の利用に係る内容が判明するものに限ります。また、取引年月日や取引の内容、課税資産の譲渡等に係る対価の額が分かる利用明細データ等を含みます。

※4 複数の高速道路会社等の利用がある場合は、高速道路会社等ごとに任意の一取引の利用証明書を保存します。
 なお、利用証明書については、クレジットカード利用明細書の受領ごとに(毎月)取得・保存する必要はなく、高速道路会社等がインボイス発行事業者の登録を取りやめないことを前提に、高速道路会社等ごとに任意の一取引に係る簡易インボイスの記載事項を満たした利用証明書を一回のみ取得・保存することで差し支えないとされています。  
 また、例えば、A高速道路会社からB高速道路会社を経由してC高速道路会社の料金所で降りた際、C高速道路会社がまとめて利用証明書を発行している場合には、C高速道路会社の利用証明書を保存することになります。



インボイス不要の「自動販売機特例」「回収特例(3万円未満)」における帳簿の記載方法

1.自販機の住所を帳簿に記載する?

 以下の取引については、適格請求書(以下「インボイス」といいます)がなくても一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。

(1) インボイスの交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(公共交通機関特例)
(2) 簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除きます)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(回収特例)
(3)  古物営業を営む者のインボイス発行事業者でない者からの古物の購入 
(4) 質屋を営む者のインボイス発行事業者でない者からの質物の取得
(5) 宅地建物取引業を営む者のインボイス発行事業者でない者からの建物の購入
(6) インボイス発行事業者でない者からの再生資源又は再生部品の購入
(7) インボイスの交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等(自動販売機特例)
(8) インボイスの交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストにより差し出されたものに限ります)
(9)  従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

  これらの取引の帳簿記載に関しては、通常必要な記載事項に加えて次の事項の記載が必要です。

(a) 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる上記(1)~(9)のいずれかの仕入れに該当する旨
 例えば、上記(1)に該当する場合は「3万円未満の鉄道料金」や「公共交通機関特例」など、上記(2)に該当する場合は「入場券等」や「回収特例」など、上記(7)に該当する場合は「自動販売機特例」などと記載します。

(b) 仕入れの相手方の住所又は所在地(一定の者を除きます) 
 例えば、上記(7)に該当する場合は「○○市 自販機」や「××銀行□□支店ATM」などと記載します(参考:国税庁ホームページ「適格請求書等保存方式に関するQ&A」問110)。

 ここで、上記(b)についての記載に関しては少なからず疑問が生じます。
 例えば、神戸市内の自販機で飲料を購入した場合に「神戸市 自販機」と記載することに意味があるのでしょうか?そう記載することで飲料を購入した自販機を特定できるのでしょうか?

 この点に関して、2023(令和5)年12月22日に「令和6年度税制改正の大綱」が閣議決定され、仕入税額控除に係る帳簿の記載事項の見直しについて、以下のとおり、その方針が示されました。

 一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる自動販売機及び自動サービス機による課税仕入れ並びに使用の際に証票が回収される課税仕入れ(3万円未満のものに限る。)については、帳簿への住所等の記載を不要とする。
注)上記の改正の趣旨を踏まえ、令和5年10月1日以後に行われる上記の課税仕入れに係る帳簿への住所等の記載については、運用上、記載がなくとも改めて求めないものとする。

 この閣議決定に基づき、「自動販売機特例が適用される取引」や「回収特例が適用される取引(3万円未満の取引に限る)」における帳簿の記載事項については、「公共交通機関特例」などの取扱いと同様に「住所又は所在地」の記載を不要とする取扱いが整備されます(国税庁告示を改正予定)。
 なお、この整備前においても、運用上「住所又は所在地」の記載を求めないこととされています。

出所:国税庁ホームページ

2.自販機特例・回収特例(3万円未満)の帳簿への記載例

 令和6年度税制改正の大綱によって、インボイス制度が開始された令和5年10月1日以降に自販機特例や回収特例(3万円未満)が適用される取引については、帳簿に「住所又は所在地」を記載する必要がなくなりました。
 これらの取引については、具体的には次のように帳簿に記載します。

(1) 自販機特例
 例えば、会議の際に提供する飲み物として自動販売機で飲料(1本150円)を20本(3,000円)購入した場合、帳簿には次のように記載します。

出所:国税庁ホームページ

(2) 回収特例(3万円未満)
 例えば、従業員の福利厚生目的で〇〇施設の入場券(1枚2,000円)を4枚(8,000円)購入し使用した場合、帳簿には次のように記載します。

出所:国税庁ホームページ

 なお、自販機特例や回収特例(3万円未満)が適用される取引かどうかは、1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定します。
 また、帳簿に記載する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」及び「特例の対象となる旨」は、「自販機」との記載で差し支えありません。
 この記載方法に関する取扱いは、今回の見直し前後で変更はありません。