相続時精算課税制度に110万円の基礎控除が設けられた!

 2023(令和5)年度税制改正で、暦年課税と相続時精算課税の見直しが行われました。今回はそのうちの相続時精算課税の改正について確認します(暦年課税の改正については、本ブログ記事「生前贈与加算期間はいつから7年になる?」をご参照ください)。

1.相続時精算課税制度とは?

 相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母など(贈与者)から18歳以上の子または孫など(受贈者)が受ける贈与について、2,500万円の特別控除を適用して贈与税を計算し、その後の贈与者の相続発生時に贈与税と相続税を精算するしくみです。適用対象となる贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はありません。
 受贈者は、贈与者である父母、祖父母ごとにこの制度を選択することができますが、この制度を選択する場合には、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。
 なお、この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降すべてこの制度が適用され、暦年課税へ変更することはできません。
 また、この制度の贈与者である父母または祖父母などが亡くなった時の相続税の計算上、この制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を相続財産の価額に加算して相続税額を計算します。
 具体的な贈与税および相続税の計算は、以下のとおりです。

(1) 贈与税の計算
 受贈者は、相続時精算課税制度を選択した年以後の各年において、この制度に係る贈与者ごとに次のように贈与税額を計算します。

(贈与財産の価額-特別控除2,500万円)×20%=贈与税額

 上記算式の特別控除2,500万円は、複数年の累積限度額です。前年以前において既にこの特別控除を適用している場合は、残額が限度額となります。

(2) 相続税の計算
 相続時精算課税に係る贈与者が亡くなった時に、それまでに贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額(贈与時の時価)と相続や遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税額を控除して算出します。

相続時精算課税選択後の贈与財産の価額+相続財産の価額=課税価格
課税価格を基に計算した相続税額-既に納めた相続時精算課税に係る贈与税額=納付すべき相続税額

 なお、相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税額は還付されます。

2.相続時精算課税制度の改正点

 現行の相続時精算課税制度の概要は上記1のとおりですが、2023(令和5)年度税制改正では注目すべき2点の改正が行われました。
 第一に、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられたことです。
 110万円の基礎控除というと、相続時精算課税を選択すると利用できなかった暦年課税の基礎控除110万円が活用できるようになったと勘違いしそうですが、今回の改正で設けられた110万円の基礎控除はあくまでも相続時精算課税制度の中でのことです。相続時精算課税における控除枠が2,500万円と110万円の2つになったのであって、相続時精算課税を選択した後に暦年課税に戻れるということではありません。
 相続時精算課税に110万円の基礎控除が設けられたことにより、2024(令和6)年1月1日以降、相続時精算課税を選択した人への贈与は、年110万円までなら贈与税はかからず、申告も不要です。また、相続財産への加算も不要とされていますので、相続税もかかりません。
 現行の相続時精算課税では、特別控除2,500万円までは贈与税が発生しませんが、この特別控除枠を使い切った後に追加の贈与を受けた場合は、その額が10万円や20万円などの少額であっても申告が必要であり、かつ、相続財産への加算も必要でした。また、2,500万円までの特別控除枠を使い切った翌年に200万円の贈与を受けたとしても、課税対象額は90万円(200万円-110万円)となることから、今回の改正は利用者にとってメリットが大きいといえます。
 なお、改正後の相続時精算課税制度における贈与税の計算は、次のようになります。

{(贈与財産の価額-基礎控除110万円)-特別控除2,500万円}×20%=贈与税額

 注目すべき第二の改正は、相続時精算課税によって受贈した土地や建物が災害により一定以上の被害を受けた場合に、相続発生時にその課税価格を再計算することです。
 現行の相続時精算課税では、生前贈与を受けた財産は、その後に災害等により損失を受けたとしても贈与時点の価額(贈与時の時価)が相続財産に加算されますので、その問題点を改善したものといえます。

出所:財務省ホームページ

生前贈与加算期間はいつから7年になる?

 2023(令和5)年度税制改正で、暦年課税と相続時精算課税の見直しが行われました。今回はそのうちの暦年課税の改正について確認します(暦年課税の詳細については、本ブログ記事「贈与税の課税方法『暦年課税』」をご参照ください)。

1.暦年課税の改正点

 年間110万円以下の贈与であれば贈与税がかからない暦年課税において、贈与を受けた財産を相続の際に相続財産に加算する「持ち戻し」期間が、相続開始前3年から7年に延長されました。
 また、延長された4年の間に受けた贈与のうち総額100万円までは相続財産に加算しないこととされました。
 これらの改正は、2024(令和6)年1月1日以後に受けた贈与について適用されます。

出所:財務省ホームページ

2.令和13年1月1日以後の相続から加算期間が7年になる

 上記改正は2024(令和6)年1月1日以後に受けた贈与から適用されますが、いきなり加算期間が7年になるわけではありません。
 生前贈与の加算の対象となる相続開始前7年以内とは、相続開始日から遡って7年目の応当日から相続開始日までをいいます。
 例えば、X年5月10日に相続があった場合には、(X-7)年5月10日からX年5月10日までをいいます。
 したがって、2024(令和6)年5月10日が相続開始日の場合は、2017(平成29)年5月10日から2024(令和6)年5月10日までが相続開始前7年以内にあたりますが、2017(平成29)年5月10日から2021(令和3)年5月9日までの贈与は改正前の期間ですので、2021(令和3)年5月10日から2024(令和6)年5月10日までの3年間に受けた贈与が加算の対象となります。
 下表において、相続開始日を各年の5月10日とした場合の生前贈与の加算対象期間と加算期間を示します。

相続開始日 加算対象期間 加算期間
2024(令和6)年5月10日 2021(令和3)年5月10日~2024(令和6)年5月10日の贈与 3年間
2025(令和7)年5月10日 2022(令和4)年5月10日~2025(令和7)年5月10日の贈与 3年間
2026(令和8)年5月10日 2023(令和5)年5月10日~2026(令和8)年5月10日の贈与 3年間
2027(令和9)年5月10日 2024(令和6)年1月1日~2027(令和9)年5月10日の贈与 3年5か月10日
2028(令和10)年5月10日 2024(令和6)年1月1日~2028(令和10)年5月10日の贈与 4年5か月10日
2029(令和11)年5月10日 2024(令和6)年1月1日~2029(令和11)年5月10日の贈与 5年5か月10日
2030(令和12)年5月10日 2024(令和6)年1月1日~2030(令和12)年5月10日の贈与 6年5か月10日
2031(令和13)年5月10日 2024(令和6)年5月10日~2031(令和13)年5月10日の贈与 7年間

 年が進むにつれて加算期間が増えていき、2031(令和13)年1月1日以後の相続から加算期間が7年になります。

18歳への成年年齢の引下げに伴う税制上の措置

 明治時代から約140年間、日本での成年年齢は20歳と民法で定められていました。この民法が改正され、2022(令和4)年4月1日から、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
 この成年年齢の引下げにより、18歳になれば、これまでは親の同意が必要だった携帯電話を契約する、一人暮らしの部屋を借りる、クレジットカードをつくる、高額な商品を購入したときにローンを組むなどといった行為が、親の同意なしに自分一人でできるようになります。
 また、18歳になれば、10年有効のパスポートを取得できるほか、公認会計士や司法書士、行政書士などの資格を取得したりすることもできるようになります。
 一方、成年年齢が18歳になっても、飲酒や喫煙、競馬などの公営競技に関する年齢制限は、これまでと変わらず20歳とされています。
 成年年齢の引下げは様々なところに影響がありますが、以下では成年年齢の引下げに伴う税制上の措置について確認します。

1.相続税の未成年者控除

 未成年者控除は、相続で財産を引き継ぐ相続人が未成年の場合、相続税の額から一定の金額を差し引くことができる制度です。
 これまでは未成年者の相続人が満20歳になるまでの年数1年につき10万円が控除されましたが、2022(令和4)年4月1日からは満18歳になるまでの年数に変わります。
 例えば、相続のときの年齢が12歳6ヶ月とすると、未成年者控除として控除できる金額は、10万円×(18歳-12歳)=60万円となり、満20歳で計算するよりも20万円少なくなります。
 2022(令和4)年4月1日以後に相続により取得する財産に係る相続税から適用されます。
 なお、未成年者控除の適用があるのは法定相続人だけですので、相続人ではない孫が遺言によって財産を引き継いでも、未成年者控除は適用できません。

※ 1年未満の端数があるときは切捨てますので、12歳として計算します。

2.相続時精算課税制度

 相続時精算課税制度は、贈与税と相続税を一体化して遺産相続時に税額を精算する制度です。
 従来の制度は、60歳以上の父母や祖父母から、20歳以上の子や孫が財産の贈与を受けたときに、累計2,500万円までは贈与税が非課税になるというものでした。
 今回の成年年齢の引下げにより、相続時精算課税制度の適用を受けることができるのが18歳以上の子や孫となり、従来の20歳と比べると2年早くこの制度の活用を検討することができるようになりました。
 2022(令和4)年4月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税から適用されます。

※ その年(贈与があった年)の1月1日における年齢です。

3.直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例

 従来の制度は、20歳以上の子や孫が、父母や祖父母などの直系尊属から受ける贈与については特例贈与として、一般贈与(特例贈与以外の贈与)より低い税率(特例税率)が適用されるというものでした。
 今回の成年年齢の引下げにより、特例贈与を受けた子や孫が18歳以上であれば、特例税率が適用されることとなります。
 2022(令和4)年4月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税から適用されます。

※ その年(贈与があった年)の1月1日における年齢です。

4.住宅取得等資金の贈与税非課税の特例

 今回の成年年齢の引下げにより、父母や祖父母などの直系尊属から、住宅用の家屋の新築、取得、増改築等をするための資金を、18歳以上(従来は20歳以上)の子や孫が贈与された場合、一定の要件を満たすときは一定の金額まで贈与税が非課税とされます。
 2022(令和4)年4月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税から適用されます。

※ その年(贈与があった年)の1月1日における年齢です。

親から土地と借入金の贈与を受けた場合の贈与税等の課税関係

 先日、次のような質問を受けました。

 「兄弟2人(兄をA、弟をBとします)で親から土地の贈与を受けることを考えているが、親がその土地を取得したときの借入金が残っており、その借入金をAが全額負担した場合でも、Aに贈与税がかかるのか?」

 これは、借入金付きで土地の贈与を受ける「負担付贈与」といわれるものです。この質問に答えるために、次の数値例を設定します(Aが借入金の債務者となることにつき、銀行の承諾を得ているものとします)。

・土地の相続税評価額・・・4,000万円
・土地の時価・・・5,000万円
・借入金残高・・・2,500万円

1.借入金を全額負担しても贈与税はかかるか?

 例えば、贈与を受ける土地の割合がA:B=3:2だとしたら、借入金を全額負担したとしてもAには贈与税がかかります。
 本来、贈与税を計算するときの評価は相続税評価額によりますが、不動産の負担付贈与の場合は、時価で評価をします。
 一方、負担付贈与の場合は、贈与財産の価額から負担額を差し引いた価額が贈与税の課税対象になります。
 したがって、Aの贈与税の計算をするときの課税対象は、5,000万円×3/5-2,500万円=500万円となり、この500万円から基礎控除110万円を引いた390万円に対して贈与税がかかります。

 また、贈与を受ける土地の割合がA:B=1:1だとしたら、借入金を全額負担したAには贈与税はかかりません。
 この場合のAの贈与税の課税対象は、5,000万円×1/2-2,500万円=0円となるからです。

2.贈与した親に所得税・住民税がかかる可能性がある

 通常の贈与であれば無償で資産を譲渡するので、贈与者である親が課税されることはありません。
 しかし、今回のような借入金付きで土地の贈与をする負担付贈与の場合は、親の借入金(債務)が消滅し、親は債務の消滅という経済的利益を得ることになるのでみなし譲渡課税の対象になります(所得税法第59条)。
 つまり、2,500万円の借入金が消滅するということは、土地を2,500円で売却したのと同じとみなされ、親には所得税・住民税がかかる可能性があります。
 例えば、土地の取得価額が2,000万円だったとしたら、2,500万円-2,000万円=500万円の譲渡益となり、所得税・住民税がかかります(各種特例は考慮していません)。
 一方、土地の取得価額が3,000万円だったとしたら、2,500万円-3,000万円=△500万円の譲渡損となり、所得税・住民税はかかりません。

 

令和3年分確定申告・納付期限の簡易な方法による個別延長

1.令和4年3月16日~4月15日は簡易な方法で申請可、4月16日以降は延長申請書を提出

 2021(令和3)年分の申告所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の確定申告については、オミクロン株による感染の急速な拡大状況に鑑み、2022(令和4)年3月15日(個人事業者の消費税の確定申告については2022(令和4)年3月31 日)の期限までに、新型コロナウイルス感染症の影響により申告することが困難である納税者については、同年4月15日までの間、「簡易な方法」により申告・納付期限の延長を申請することができることとなりました。
 簡易な方法による延長とは、別途、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」(以下、「延長申請書」といいます)を作成して提出する必要はなく、申告書を提出する際に、その余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」といった文言を付記するか、e-Tax を利用する場合は所定の欄にその旨を入力するなどの方法をいいます。
 なお、2022(令和4)年4月16日以降に期限の延長申請を行う場合は、「延長申請書」を提出する必要があります。

2.簡易な方法による個別延長の具体的記載例

(1) 申告書を書面で提出する場合の記載方法

 申告書の右上の余白に、「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と記載します。具体的な記載例は次のとおりです。

出所:国税庁ホームページ
出所:国税庁ホームページ
出所:国税庁ホームページ

(2) 各種会計ソフトを利用して e-Taxで提出する場合の入力方法

 具体的な入力例は次のとおりです。

出所:国税庁ホームページ
出所:国税庁ホームページ

(3) 国税庁確定申告書等作成コーナーを利用して e-Tax で提出する場合の入力方法

 具体的な入力例は次のとおりです。

出所:国税庁ホームページ
出所:国税庁ホームページ
出所:国税庁ホームページ

3.簡易な方法による延長後の申告・納付期限は?

 2022(令和4)年4月15 日までの簡易な方法により申告と同時に延長を申請した場合は、原則として、申告書を提出した日が申告・納付期限となります。そのため、申告・納付が可能となった時点で申告書を提出します。
 同年4月 16日以降も新型コロナウイルス感染症の影響が続き、申告等ができなかった場合は、申告等ができるようになった日から2か月以内に「延長申請書」を所轄の税務署に提出します。この場合は、所轄の税務署長が指定した日が申告・納付期限となります。

贈与契約書に貼る印紙はいくら?

 相続税対策として、親から子へ現金や不動産などの生前贈与を行うことがあります。贈与契約自体は口頭だけでも成立しますが、後のトラブルを避けるためにも贈与契約書を作成しておく必要があります。
 この贈与契約書には、以下のように、何を贈与するかによって、収入印紙の貼付けが必要な場合と不要の場合があります。

1.不動産の贈与契約

 例えば、次のような土地建物の贈与契約書を作成した場合、印紙の貼付けは必要でしょうか?

 収入印紙を貼るべき課税文書は、印紙税法別表第1「課税物件表」に掲げられている20項目のうち、非課税文書に該当しない文書です。不動産の譲渡に関する契約書は、次のように課税文書(第1号の1文書)に該当します。

文書の種類
第1号の1文書 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書

 上記の不動産の贈与に関する契約書は、黄色マーカー部分の文言より、土地と建物の所有権を甲から乙へ移転する内容のものですが、このように対価を受けずに無償で贈与する場合は課税文書(第1号の1文書)に該当するのでしょうか?
 不動産をその同一性を保持させつつ他人に移転させることを内容とするものは、対価を受けるかどうかを問わず、第1号の1文書(不動産の譲渡に関する契約書)に該当します
 また、本事例の契約書には、土地の評価額が1,500万円、建物の評価額が300万円と記載されています(水色マーカー部分)。
 しかし、贈与は無償契約ですから、贈与契約書に土地と建物の評価額が記載されていても、その評価額は不動産譲渡の対価としての金額ではありませんので、印紙税額表の記載金額には該当しません
 したがって、本事例の贈与契約書は「記載金額のない第1号の1文書」となり、印紙税額は200円となります。

2.不動産以外の贈与契約

 不動産の贈与契約書については印紙税の課税対象となりますが、例えば、高価な時計や車、現金や株式などの贈与契約書は印紙税の課税対象にはなりません
 先に述べたように、収入印紙を貼るべき課税文書は、印紙税法別表第1「課税物件表」に掲げられている20項目のうち、非課税文書に該当しない文書です。時計や車、現金、株式などの贈与(無償の譲渡)はこの20項目に含まれていないため、課税文書にはなりません。

住宅取得等資金贈与の非課税特例の見直し

 2021(令和3)年度税制改正で、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置が改正されています。
 今回は、その改正内容を確認します(制度の詳細については、本ブログ記事「住宅取得等資金贈与の非課税特例」をご参照ください)。

1.改正内容(非課税限度額の引き上げ)

 2021(令和3)年12月31日までに、父母や祖父母などの直系尊属から、住宅の新築・取得又は増改築のための資金(以下、「住宅取得等資金」といいます)の贈与を受けて契約を締結した場合には、住宅取得等資金のうち、住宅用家屋の区分及び契約の締結時期、対価・費用に含まれる消費税率に応じて、それぞれ次に掲げる金額(以下、「非課税限度額」といいます)までについては贈与税が課税されません。

① 改正前

契約日 ①消費税率8%の場合又は個人間売買の場合 ②消費税率10%の場合
省エネ等住宅 左記以外 省エネ等住宅 左記以外
平成28年1月~平成31年3月 1,200万円 700万円
平成31年4月~令和2年3月 1,200万円 700万円 3,000万円 2,500万円
令和2年4月~令和3年3月 1,000万円 500万円 1,500万円 1,000万円
令和3年4月~令和3年12月 800万円 300万円 1,200万円 700万円

※上表の省エネ等住宅とは、断熱等性能等級4以上、一次エネルギー消費量等級4以上、高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上、耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上又は免震建築物のいずれかに該当する住宅用家屋をいいます。

② 改正後

 2021(令和3)年4月1日から同年12月31日までの間に住宅用家屋の新築等に係る契約を締結した場合における非課税限度額が、次のとおり、2020(令和2)年4月1日から2021(令和3)年3月31日までの間の非課税限度額と同額まで引き上げられました。

契約日 ①消費税率8%の場合又は個人間売買の場合 ②消費税率10%の場合
省エネ等住宅 左記以外 省エネ等住宅 左記以外
平成28年1月~平成31年3月 1,200万円 700万円
平成31年4月~令和2年3月 1,200万円 700万円 3,000万円 2,500万円
令和2年4月~令和3年3月 1,000万円 500万円 1,500万円 1,000万円
令和3年4月~令和3年12月 1,000万円 500万円 1,500万円 1,000万円

2.改正内容(床面積要件の引き下げ)

 受贈者が贈与を受けた年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下である場合に限り、床面積要件の下限を40㎡以上(現行:50㎡以上)に引き下げられました(措令40の4の2①)。
 なお、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税の特例においても、同様に床面積要件の下限が40㎡以上(現行:50㎡以上)に引き下げられました(措令40の5①)。

※ 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税の特例とは、2003(平成15)年1月1日から2021(令和3)年12月31日までの間に、贈与の年の1月1日において20歳以上の者が、父母、祖父母等からの贈与により住宅取得等資金の取得をした場合、贈与者の年齢がその年の1月1日に60歳未満であっても、一定の要件を満たせば相続時精算課税の適用を受けることができるというものです。

3.適用時期

 上記の改正は、2021(令和3)年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用されます。

相続開始前3年以内の贈与の節税メリット

 相続開始前3年以内に被相続人から贈与された財産は、相続の際には相続税の課税価格に加算する必要があります(いわゆる生前贈与加算の特例)。
 これは、被相続人の余命があとわずかというときに、相続税を少しでも安くするために、あらかじめ相続人に財産を移転する、というような行為を抑えることを狙ったものです。
 このような生前贈与加算の特例が適用されても、生前贈与を行うメリットはあるのでしょうか?
 今回は、生前贈与加算の特例と生前贈与のメリットについて整理します。

※ 2023(令和5)年度税制改正で、生前贈与の加算期間が3年から7年に延長されました。詳細については、本ブログ記事「生前贈与加算期間はいつから7年になる?」をご参照ください。

1.生前贈与加算の特例

 生前贈与加算の特例とは、相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続開始前3年以内にその相続に係る被相続人から財産を贈与を受けていた場合、その贈与により取得した財産(贈与税の非課税財産を除きます)の価額(贈与を受けた時の価額)を相続財産に加算し、贈与を受けた財産につき課された贈与税額は、その者の相続税額から控除するというものです。
 この場合の相続開始前3年以内とは、相続開始の日から遡って3年目の応当日から相続開始の日までをいいます。
 例えば、X年4月5日に相続があった場合には、(X-3)年4月5日からX年4月5日までをいいます。
 なお、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産に相続税がかかるのは、相続や遺贈によって財産を取得した者がいる場合です。
 例えば、相続人である長男が、被相続人が亡くなる1年前に土地をもらっていたとします。この場合、長男が今回の相続によって被相続人の財産をもらったときは、この土地を相続財産に加えて相続税を計算することになります。
 しかし、もし、長男が今回の相続によって被相続人の財産を何ももらっていないときは、この土地を相続財産に加える必要はありません。

2.生前贈与の節税メリット

 このような生前贈与加算の特例の適用を受ける場合でも、次のような節税効果が期待できます。

(1) 前述したように、生前贈与加算の対象は、相続又は遺贈により財産を取得した者に限定されています。したがって、孫(相続又は遺贈により財産を取得している場合を除きます)への贈与は加算対象外となります。

(2) 贈与税の非課税財産は、生前贈与加算の対象外です。例えば、扶養義務者相互間における生活費や教育費の贈与等は加算対象外です。

(3) 居住用不動産の贈与で贈与税の配偶者控除の適用を受けた場合は、控除額相当額(最高2,000万円)は生前贈与加算の対象外です。また、直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税特例、直系尊属からの教育資金の一括贈与の特例(一定の場合は、贈与者死亡時の管理残額が加算の対象)及び結婚・子育て資金の一括贈与の特例(贈与者死亡時の管理残額が加算の対象)についても、同様の効果があります。

(4) 生前贈与加算の特例により加算される価額は、贈与時の財産の価額となるため、値上がりしている財産については節税効果があります。

 上記(1)~(4)の節税効果以外に、生前贈与には、被相続人の意思に基づいた財産の移転が確実に実行できるメリットがあります。
 ただし、生前贈与に係る遺留分侵害額の請求に留意する必要があります。

生命保険金を受け取ったときの税金

 生命保険金を受け取った場合、その保険金が死亡に基づくものか、満期によるものか、また、保険料の負担者は誰なのかなどによって課税関係が異なります。
 今回は、生命保険金を受け取ったときの課税関係について整理します。

1.死亡保険金を受け取ったとき

 例えば、「契約者:夫、被保険者:夫、受取人:妻」の生命保険契約の保険料を、夫が支払っていたとします。
 このような状況で夫が亡くなった場合は、妻は保険会社から死亡保険金を受け取ります。このとき、妻が受け取った死亡保険金は相続税の課税対象(みなし相続財産)となります。
 また、「契約者:夫、被保険者:夫、受取人:妻」の生命保険契約の保険料を、妻が支払っていたとします。
 このような状況で夫が亡くなった場合も、妻は保険会社から死亡保険金を受け取るのですが、さきほどの例とは異なり、妻が受け取る死亡保険金はみなし相続財産にはなりません。
 妻が自分で保険料を支払って、自分で保険金をもらったわけですから、一時所得として所得税の課税対象になります。
 さらに一例を挙げると、「契約者:夫、被保険者:夫、受取人:妻」の生命保険契約の保険料を、子が支払っていたとします。
 この場合も、妻が受け取る死亡保険金はみなし相続財産にはなりません。子が保険料を支払っていたからこそ、妻は保険金を受け取っているのですから、この場合は子から妻への贈与となり、贈与税の課税対象(みなし贈与財産)となります。
 死亡保険金に限らず、生命保険金を受け取った場合の課税関係において重要なことは、誰が保険料を支払っていたか(誰が保険料の負担者なのか)ということです。
 保険契約者が保険料負担者であることが一般的ですが、必ずしもそうではないケースもありますので、注意しなければなりません。
 下表は、被保険者が死亡した場合の課税関係の例を示したものです。

  負担者 被保険者 受取人 課税関係
死亡保険金 妻に相続税:保険金-(500万円×法定相続人)
妻の一時所得※:(保険金-支払保険料-50万円)×1/2
妻に贈与税:保険金-110万円
夫の一時所得※:(保険金-支払保険料-50万円)×1/2
子に贈与税:保険金-110万円

※ 一定の一時払養老保険等の差益は、源泉徴収だけで納税が完了する源泉分離課税となります。また、年金方式で保険金を受け取った場合は、その年ごとの雑所得として所得税及び復興特別所得税がかかります。

2.満期保険金・解約返戻金を受け取ったとき

 上記1は死亡保険金を受け取ったときの課税関係でしたが、満期保険金や解約返戻金を受け取ったときの課税関係はどうなるでしょうか。
 例えば、「契約者:夫、被保険者:夫、受取人:妻」の生命保険契約の保険料を、夫が支払っていたとします。
 このような状況で保険契約が満期を迎えた場合は、妻は保険会社から満期保険金を受け取ります。満期保険金は、夫がまだ亡くなっていませんので、みなし相続財産にはなりません。この満期保険金は、夫が保険料を支払っていたからこそ、保険会社から妻に支払われるものです。したがって、夫から妻への贈与となり、贈与税の課税対象(みなし贈与財産)となります。
 また、「契約者:夫、被保険者:夫、受取人:妻」の生命保険契約の保険料を、妻が支払っていたとします。
 このような状況で、保険契約が満期を迎えた場合に妻が受け取る満期保険金は、みなし贈与財産にはなりません。
 妻が自分で保険料を支払って、自分で保険金をもらったわけですから、一時所得として所得税の課税対象になります。
 満期保険金や解約返戻金を受け取ったときの課税関係についても、誰が保険料を支払っていたか(誰が保険料負担者なのか)ということが重要です。
 下表は、満期保険金や解約返戻金を受け取った場合の課税関係の例を示したものです。

  負担者 被保険者 受取人 課税関係
満期保険金解約返戻金 妻に贈与税:保険金-110万円
妻の一時所得※:(保険金-支払保険料-50万円)×1/2
妻に贈与税:保険金-110万円
夫の一時所得※:(保険金-支払保険料-50万円)×1/2
子に贈与税:保険金-110万円

※ 一定の一時払養老保険等の差益は、源泉徴収だけで納税が完了する源泉分離課税となります。また、年金方式で保険金を受け取った場合は、その年ごとの雑所得として所得税及び復興特別所得税がかかります。

離婚により自宅を財産分与した場合にかかる税金は?

 夫婦が離婚したとき、相手方の請求に基づいて一方の人が相手方に財産を渡すことを財産分与といいます。
 この財産分与の対象財産として、自宅(土地や建物)を相手方に渡すケースも多いと思います。
 今回は、離婚により夫が妻に自宅を財産分与した場合の課税関係についてみていきます。

1.財産分与をした者(夫)

(1) 譲渡所得として課税される

 結論を先に述べると、財産分与が自宅(土地や建物)で行われたときは、分与した人(夫)に譲渡所得の課税が行われることになります。

 夫は自宅を妻に渡しても、妻から金銭を受け取ることはありません。しかし、自宅という財産の移転は、夫の財産分与の義務を消滅させるものであり、それ自体が一つの経済的利益の享受といえます。
 したがって、その財産分与の義務の消滅という経済的利益を対価とする資産の譲渡があったものとして、夫に譲渡所得の課税が行われることになります。

(2) 譲渡所得の収入金額は?

 この場合、分与した時の自宅(土地や建物)の時価が譲渡所得の収入金額となります。

 民法768条の財産分与の規定による財産の分与として資産の移転があった場合には、その分与をした者(夫)は、その分与をした時において、そのときの価額により資産を譲渡したことになります。
 したがって、自宅という譲渡所得の基因となる財産を分与した場合は、その分与時の時価で自宅の譲渡をしたものとして、譲渡所得の計算を行うことになります。

(3) 居住用財産の譲渡所得の特例(3,000万円控除と軽減税率)の適用はあるか?

 自宅を財産分与した場合でも、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除及び軽減税率の特例を、夫は受けることができます。

 3,000万円特別控除と軽減税率の特例は、配偶者等の親族及び居住用財産の譲渡者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者(以下「特殊関係者」といいます)への譲渡については、適用を受けることができません。つまり、夫から妻への自宅の譲渡は、特例の適用対象外ということになります。
 しかし、財産分与による資産の譲渡は、離婚後における譲渡になるため、親族(配偶者)に対する譲渡には該当しないこととなり、居住用財産の特例の適用を受けることができます。
 また、離婚に伴う財産分与として受け取っている金銭等により生計を維持している者は特殊関係者に該当しないことになるので、離婚後に養育費等の名目で元妻に金銭等を支払っている場合でも、元妻へ財産分与した自宅については、居住用財産の特例の適用を受けることができます。

2.財産分与を受けた者(妻)

(1) 財産分与により取得した自宅の取得費

 分与を受けた人(妻)は、分与を受けた日にその時の時価で自宅(土地や建物)を取得したことになります。

 自宅を財産分与した者(夫)の当初の取得費を引き継がないので、元妻が分与を受けた自宅を譲渡する際は、取得費として分与時の時価を算定する必要があります。
 また、財産分与を受けた日を基に、長期譲渡になるか短期譲渡になるかを判定することになります。

(2) 贈与税はかからない?

 離婚により相手方(夫)から自宅をもらった場合、通常、妻に贈与税がかかることはありません。

 離婚による財産分与によって取得した財産については、財産分与請求権(民法768条)に基づく財産の取得ですので、贈与により取得した財産とはなりません。つまり、相手方から贈与を受けたものではなく、夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けたものといえます。
 したがって、原則として、財産分与を受けた者に贈与税はかかりません。

 ただし、次のいずれかに当てはまる場合には贈与税がかかります。

① 分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多過ぎる場合
 この場合は、その多過ぎる部分に贈与税がかかることになります。
② 離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合
 この場合は、離婚によってもらった財産すべてに贈与税がかかります。