被災地に義援金を送金した場合等の税務上の取扱い

 個人又は法人が、災害により被害を受けられた方を支援するために、被災地の地方公共団体に設置される災害対策本部等に義援金や支援金を支払った場合等の税務上の取扱いについて確認します。
 なお、義援金は「お悔やみや応援の気持ちを込めて被災者に直接届けるお金」のことをいい、支援金は「自分が応援したい団体に寄付し、被災地の支援活動に役立ててもらうお金」のことをいいますが、本稿では両者を合わせて「義援金」といいます。

1.被災地の地方公共団体に設置された災害対策本部に対して義援金を支払った場合

 個人又は法人が、被災地の地方公共団体に設置された災害対策本部に対して義援金を支払った場合の税務上の取扱いは、次のとおりです。

個人  個人の方が、被災地の地方公共団体に設置された災害対策本部に対して支払った義援金は「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。
 なお、当該義援金は、地方公共団体に対する寄附金として個人住民税の寄附金税額控除の対象となり、原則としてふるさと納税に該当します(ワンストップ特例制度の適用ができますが、通常は返礼品はありません)。
法人  法人が、被災地の地方公共団体に設置された災害対策本部に対して支払った義援金は「国等に対する寄附金」に該当し、その全額が損金の額に算入されます。

2.日本赤十字社又は社会福祉法人中央共同募金会等に対して義援金を支払った場合

 個人又は法人が、日本赤十字社や社会福祉法人中央共同募金会等が被災者への支援を目的として設けた専用口座に対して義援金を支払った場合の税務上の取扱いは、次のとおりです。

個人  個人が、日本赤十字社や社会福祉法人中央共同募金会等に対して支払った義援金については、その義援金が最終的に地方公共団体(義援金配分委員会等)に対して拠出されるものであるときは、「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。
 なお、当該義援金は、地方公共団体に対する寄附金として個人住民税の寄附金税額控除の対象となり、原則としてふるさと納税に該当します(ワンストップ特例制度の適用ができますが、通常は返礼品はありません)。
法人  法人が、日本赤十字社や社会福祉法人中央共同募金会等に対して支払った義援金については、その義援金が最終的に義援金配分委員会等に対して拠出されることが募金趣意書等において明らかにされているものであるときは、「国等に対する寄附金」に該当し、その全額が損金の額に算入されます。

※ 日本赤十字社や社会福祉法人中央共同募金会等に対して支払った義援金であっても、例えば、日本赤十字社や社会福祉法人中央共同募金会等の事業資金として使用されるなど、最終的に地方公共団体に拠出されるものでないものについては、上記と異なる取扱いになる場合がありますので、義援金の支払先に確認する必要があります。

3.被災地の救援活動等を行っている認定NPO法人等に対して義援金を支払った場合

 被災地の救援活動や被災者への救護活動を行っているNPO法人が「認定NPO法人等」であり、支払った義援金がその認定NPO法人等の行う特定非営利活動に係る事業に関連するものであるときには、その義援金は「認定NPO法人等に対する寄附金」に該当します。
 個人又は法人が、認定NPO法人に対して義援金を支払った場合の税務上の取扱いは、次のとおりです。

個人  個人の方が、「認定NPO法人等に対する寄附金」として支払った義援金は、寄附金控除(所得控除)又は寄附金特別控除(税額控除)の対象となります(選択適用)。ふるさと納税には該当しません。
法人  法人が、「認定NPO法人等に対する寄附金」として支払った義援金は、「特定公益増進法人に対する寄附金」に含めて損金算入限度額を計算し(特別損金算入限度額)、その範囲内で損金の額に算入されます。

4.被災地の救援活動等を行っている認定NPO法人等以外の法人等に対して義援金を支払った場合

 個人又は法人が、認定NPO法人等以外の法人等に対して義援金を支払った場合(※)には、次に掲げるような支払先の区分に応じて、税務上の取扱いが異なります。
 支払先の区分や支払った義援金の税務上の取扱いについては、直接支払先の法人等に確認する必要があります。

※ 「国等に対する寄附金」及び「指定寄附金」に該当するものを支払った場合を除きます。

支払先

公益社団法人・公益財団法人の場合(その法人の主たる目的である業務に関連するものに限ります)

NPO法人(認定NPO法人等でないもの)、職場の有志で組織した団体などの人格のない社団等の場合
個人  寄附金控除(所得控除)の対象となります。
 支払先が一定の要件を満たす公益社団法人・公益財団法人である場合には、寄附金特別控除(税額控除)との選択適用が可能です。
 寄附金控除等の対象となりません。
法人  特定公益増進法人に対する寄附金として、特別損金算入限度額の範囲内で損金の額に算入できます。  一般の寄附金として、損金算入限度額の範囲内で損金の額に算入できます。

5.募金団体を通じて地方公共団体に対して義援金を支払った場合

 関係する個人、法人から義援金を集め、これを取りまとめた上で、一括して地方公共団体に対して支払う場合(※)、義援金を取りまとめる団体(以下「募金団体」といいます)に寄附した個人、法人の税務上の取扱いは、次のとおりです。

※ 税務署において、募金団体に対して支払う義援金が、最終的に国、地方公共団体に拠出されるものであるかどうかの確認が行われます。

個人  個人が、募金団体に対して支払った義援金については、その義援金が最終的に地方公共団体(義援金配分委員会等)に対して拠出されることが募金団体が発行する預り証において明らかにされているものであるときは、「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。
 なお、当該義援金は、地方公共団体に対する寄附金として個人住民税の寄附金税額控除の対象となり、原則としてふるさと納税に該当します(ワンストップ特例制度の適用ができますが、通常は返礼品はありません)。
法人  法人が、募金団体に対して支払った義援金については、その義援金が最終的に義援金配分委員会等に対して拠出されることが募金団体が発行する預り証において明らかにされているものであるときは、「国等に対する寄附金」に該当し、その全額が損金の額に算入されます。

6.法人が被災した取引先に対して義援金を支払った場合

 法人が、被災した取引先に対し、被災前の取引関係の維持・回復を目的として、災害を受けた取引先が通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間において支出する災害見舞金は、交際費等に該当せず損金の額に算入されます。

7.法人が自社製品を被災者に提供した場合

 法人が、不特定又は多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品等の提供に要する費用は、寄附金又は交際費等には該当せず、広告宣伝費に準ずるものとして損金の額に算入されます。

住宅借入金等特別控除の適用要件等の見直し

 2021(令和3)年度税制改正で、住宅借入金等特別控除制度(いわゆる住宅ローン控除)の見直しが行われました。
 改正内容は、次のとおりです。

1.控除期間13年間の特例の延長

 住宅の取得等(新築、建売・中古取得又は増改築等)で特別特例取得に該当するものをした個人が、その特別特例取得をした家屋を2021(令和3)年1月1日から2022(令和4)年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合には、住宅借入金等を有する場合の所得税額の控除及び当該控除の控除期間の3年間延長(控除期間13年間)の特例を適用できることとされました。
 特別特例取得とは、その対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合の住宅の取得等で、次に掲げる区分に応じてそれぞれ次に定める期間内にその契約が締結されているものをいいます。

(1) 居住用家屋の新築・・・2020(令和2)年10月1日から2021(令和3)年9月30日までの期間
(2) 居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは中古住宅の取得又はその者の居住の用に供する家屋の増改築等・・・2020(令和2)年12月1日から2021(令和3)年11月30日までの期間

新築 令和2年10月1日~令和3年9月30日の契約
建売、中古、増改築等 令和2年12月1日~令和3年11月30日の契約

2.床面積要件の下限の引き下げ(40㎡以上)

 上記1の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例は、個人が取得等をした床面積が40㎡以上50㎡未満である住宅の用に供する家屋についても適用できることとされました。
 ただし、床面積が40㎡以上50㎡未満である住宅の用に供する家屋に係る上記1の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例は、その者の13年間の控除期間のうち、その年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下である場合に限り適用されます。

 上記1及び2について、その他の要件等は、現行の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除と同様です(参考:本ブログ記事「中古住宅を取得した場合の住宅借入金等特別控除の適用要件」)。

3.適用時期

 上記の改正は、住宅の取得等で特別特例取得に該当するものをした個人が、その特別特例取得をした家屋を2021(令和3)年1月1日から2022(令和4)年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合に適用されます。

資本的支出の譲渡所得における所有期間の判定

1.5年以内の資本的支出は短期譲渡?

 譲渡所得の計算では、資産の所有期間が5年を超えれば長期譲渡、5年以下であれば短期譲渡となり、その取扱いを異にしています。ここでいう所有期間とは、総合課税の場合はその資産の取得の日から譲渡した日までの期間をいい、分離課税の場合は譲渡した年の1月1日における所有期間(いわゆる「1月1日基準」)をいいます。
 この所有期間について、資本的支出をした場合はどのように判定するのか、というのが今回の主題です。
 例えば、所有期間5年超の業務用資産について、それを譲渡する3か月前に資本的支出(2007(平成19)年4月1日以後の支出)をした場合、その資本的支出は新たな減価償却資産の取得となりますが、この業務用資産を譲渡したときは、業務用資産本体を長期譲渡、資本的支出を短期譲渡と判定するのでしょうか?
 また、自宅等の非業務用資産の場合はどうでしょうか?

2.資産本体の所有期間で判定

 上記の問いに対する結論を先に述べると、3か月前に行った資本的支出も業務用資産本体の所有期間5年超で判定し、すべてが長期譲渡になります。
 また、自宅等の非業務用資産についても同様に取り扱います。

 2007(平成19)年4月1日以後に資本的支出を行った場合には、その資本的支出の金額を取得価額とする減価償却資産を新たに取得したものとする旨が規定されていますが(所得税法施行令127条1項)、これは減価償却資産に関する取扱いです。
 業務用資産、非業務用資産に対して資本的支出を行い、その資本的支出の金額を取得価額とする新たな減価償却資産を取得したものとされたとしても、その資本的支出は既存の減価償却資産につき改良、改造等のために行った支出です。その資本的支出のみが減価償却資産本体と区分され、単独資産として取引の対象となるのであれば別ですが、通常は減価償却資産本体と一体となって取引の対象となる資産が形成されます。
 そうすると、資本的支出を含めた減価償却資産全体の譲渡となり、減価償却資産本体の所有期間により長期又は短期の判定がなされるものと考えられます。
 このように判定する根拠は、次の租税特別措置法通達31・32共-6(改良、改造等があった土地建物等の所有期間の判定)にあります。

31・32共-6 その取得後改良、改造等を行った土地建物等について措置法第31条第2項に規定する所有期間を判定する場合における同項に規定する「その取得をした日」は、その改良、改造等の時期にかかわらず、当該土地建物等の取得をした日によるものとする。
 

所得控除における「生計を一にする」の判定基準

1.同一生計を要件とする所得控除

 所得税法では、所得税額を計算するときに各納税者の個人的事情(担税力)を加味するために、所得控除の制度が設けられています。
 所得控除には物的控除と人的控除がありますが、それぞれの所得控除の要件の一つとしてよく出てくるのが「生計を一にする」という要件です。
 所得控除を受けるにあたって、この「生計を一にする(同一生計)」という要件を必要とするもの(○)と不要なもの(×)をまとめると、下表のようになります。

所得控除 「同一生計」の要否
物的控除 雑損控除 ○(納税者又は納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族)
医療費控除 ○(自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族)
社会保険料控除 ○(自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族)
小規模企業共済等掛金控除 ×
生命保険料控除 ×
地震保険料控除 ○(自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族)
寄附金控除 ×
人的控除 障害者控除 ○(納税者自身、同一生計配偶者又は扶養親族)
寡婦控除 ○(夫と離婚した後婚姻をしておらず、扶養親族がいる人)※死別の場合は扶養親族要件なし
ひとり親控除 ○(生計を一にする子がいる)
勤労学生控除 ×
配偶者控除 ○(納税者と生計を一にしている)
配偶者特別控除 ○(納税者と生計を一にしている)
扶養控除 ○(納税者と生計を一にしている)
基礎控除 ×

 上表から、多くの所得控除で「生計を一にする」という要件が必要であることがわかります。では、「生計を一にする」とは、どういうことなのでしょうか?

2.「生計を一にする」とは?

 「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していること(同居していること)を要件とするものではありません。次のような場合も、「生計を一にする」ものとして取り扱われます(所得税基本通達2-47)。

(1) 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとされます。
① 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
② これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合

(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとされます。

 以上から、「生計を一にする」とは、必ずしも同居を要件とするものではなく、別居していても生活費等を送金するなどして「同じ財布で生活している」場合は、生計を一にするものとされます。
 では、どの程度の送金をすれば「同じ財布で生活している」ことになるのでしょうか?以下では、別居している親に送金する場合についてみていきます。

3.「同じ財布で生活している」とは?

(1) 親の生活費等の大部分又は一部を送金している場合

 生活費等の大部分を送金していれば、「生計を一にする」と考えられますが、生活費等の大部分を送金しなければならないということではなく、それが生活費の一部であるならば「生計を一にする」と解されます。
 ただし、この場合送金しているのが「生活費等」なのか、単なる「お小遣い」なのか事実認定の問題がありますが、親の所得と一般的にかかる生活費等から、送金しているのが生活費の一部なのか判定する必要があります。

(2) 兄弟等と共同で親の生活費等を送金している場合

 兄弟等と共同で継続的に送金していても、それが生活費等に消費されていることが明らかであれば、お互いに「生計を一にする」と解されます。
 ただし、扶養控除等を兄弟間で重複して適用することはできません。

(3) 親の生活費を毎月継続して送金している場合

 上記2.(1)②でみたように、「生計を一にする」のは、常に生活費等の送金が行われている場合とされています。
 生活費等とは、本来必要な都度送金されるものと解されますので、月々の生活費等の送金を毎月継続的に行っている場合には、常に送金が行われているといえます。

(4) 親の生活費をボーナス時や帰省時にまとめて送金している場合

 上記(3)に対して、半年に一度のボーナス時や年に一度の帰省時にまとめて送金するのは本来生活費とは言い難く、常に生活費等を送金しているとはいえませんので、特段の事情がない限り「生計を一にする」とはいえないと思われます。

賃貸用マンションの修繕積立金は支払期日に必要経費算入可、意外な盲点は管理費の消費税の取扱い

 分譲マンションのオーナー(区分所有者)が、転勤等のため長期間自室を留守にする場合、賃貸に出して家賃収入を得ることがあります。
 賃貸に出した場合でも、修繕積立金と管理費をマンション管理組合に支払うのは、オーナーである区分所有者です(家賃に転嫁して賃借人の負担とするかどうかは別として)。
 今回は、修繕積立金を必要経費に算入する時期の確認と、意外な盲点である(間違った処理が多い)管理費の消費税の取扱いを確認します。

1.原則は修繕完了時に必要経費算入

 修繕積立金は、原則として、実際に修繕等が行われその修繕等が完了した日の属する年分の必要経費になります。
 修繕積立金は、マンションの共用部分について行う将来の大規模修繕等の費用の額に充てられるために長期間にわたって計画的に積み立てられるものであり、実際に修繕等が行われていない限りにおいては、具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していないことから、原則的には、管理組合への支払期日の属する年分の必要経費には算入されず(所得税基本通達37-2)、実際に修繕等が行われ、その費用の額に充てられた部分の金額について、その修繕等が完了した日の属する年分の必要経費に算入されることになります。

2.一定の場合は支払期日に必要経費算入可

 しかしながら、修繕積立金は区分所有者となった時点で、管理組合へ義務的に納付しなければならないものであるとともに、管理規約において、納入した修繕積立金は、管理組合が解散しない限り区分所有者へ返還しないこととしているのが一般的です(マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省)第60条第6項)。
 そこで、修繕積立金の支払がマンション標準管理規約に沿った適正な管理規約に従い、次の事実関係の下で行われている場合には、その修繕積立金について、その支払期日の属する年分の必要経費に算入しても差し支えないものとされています。

(1) 区分所有者となった者は、管理組合に対して修繕積立金の支払義務を負うことになること
(2) 管理組合は、支払を受けた修繕積立金について、区分所有者への返還義務を有しないこと
(3) 修繕積立金は、将来の修繕等のためにのみ使用され、他へ流用されるものでないこと
(4) 修繕積立金の額は、長期修繕計画に基づき各区分所有者の共有持分に応じて、合理的な方法により算出されていること

3.管理費の消費税課税区分は不課税!

 不動産所得の計算上、修繕積立金を必要経費に算入する時期については上記のとおりです。また、管理費については、支払期日に必要経費に算入することに関して疑義は生じません。
 しかし、マンション管理組合に支払う管理費の消費税課税区分には要注意です。支払った管理費の課税区分を「課税仕入」としているケースが多いのですが、これは間違いです。
 マンション管理組合は、その居住者である区分所有者を構成員とする組合であり、その組合員との間で行う取引は営業に該当しません。したがって、マンション管理組合に支払う管理費の消費税課税区分は「不課税(課税対象外)」となります。
 区分所有者が支払う管理費が、マンション管理組合を介して、マンションを管理する不動産業者に渡るとしても、現行の消費税法では不課税となります。

相続財産を売却した場合の取得費加算の特例

 相続開始後3年10か月以内に相続財産を譲渡(売却)した場合は、相続税額の一部を取得費に加算することにより、譲渡所得に係る所得税額を軽減することができます。
 今回は、この取得費加算の特例の内容と計算例を確認します。

1.取得費加算の特例

(1) 特例の概要

 相続又は遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を、相続開始の日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合は、実際の取得費又は概算取得費に一定の相続税額を加算して、譲渡所得に係る所得税額額を軽減することができます。

譲渡所得の計算式
譲渡所得=収入金額-〔(取得費+加算する相続税額)+譲渡費用〕-特別控除額

(2) 取得費に加算する相続税額

 取得費に加算する相続税額は、次の計算式で計算した金額となります。ただし、その金額がこの特例を適用しないで計算した譲渡益(土地、建物、株式などを売った金額から取得費、譲渡費用を差し引いて計算します。)の金額を超える場合は、その譲渡益相当額が取得費に加算する相続税額となります。
 なお、譲渡した財産ごとに計算します。

取得費に加算する相続税額の計算式
取得費に加算する相続税額=その者の相続税額×その者の譲渡資産の相続税の課税価格/その者の債務控除前の相続税の課税価格

(3) 特例を受けるための要件

 この特例を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。

① 相続や遺贈により財産を取得した者であること
② その財産を取得した人に相続税が課税されていること
③ その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること

(4) 特例を受けるための手続き

 この特例を受けるためには、確定申告をすることが必要です。
 確定申告書には、①相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書、②譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】)や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書などの添付が必要です。

(5) 留意点

 この特例を受けるにあたって、留意しなければならない点は次のとおりです。

① この特例は譲渡所得のみに適用がある特例ですので、株式等の譲渡による事業所得及び雑所得については、適用できません。
② この特例と空き家の譲渡所得の特例とは、選択適用となります。なお、空き家の譲渡所得の特例については、本ブログ記事「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」をご参照ください。

2.計算例

 相続により令和元年10月に取得した土地のうち、その2分の1を令和3年4月に譲渡した場合の譲渡所得の金額と所得税額は以下のようになります(下表を前提とします)。

取得した相続財産の課税価格 1億円
上記のうち土地の相続税課税価格 8,000万円
譲渡した土地の相続税課税価格 4,000万円
土地の譲渡価額 5,000万円
取得費 不明
仲介手数料 50万円
譲渡した者の納付すべき相続税額 1,000万円

取得費に加算する相続税額は、1,000万円×4,000万円/1億円=400万円になります。
譲渡所得の金額は、5,000万円-(5,000万円×5%+400万円+50万円)=4,300万円になります。
所得税額は、4,300万円×20.315%=873万5,450円になります。
なお、取得費加算の特例の適用がない場合の所得税額は、954万8,050円です。

個人年金保険の一時金は一時所得以外に雑所得でも申告可能

 個人年金保険は、毎年「年金」として受け取る人が多いと思われますが、将来の年金を「一時金」として一括受給することもできます。
 年金と一時金、どちらで受け取った方が良いのかについては、たびたび議論されるところではありますが、今回はその議論はさておき、一時金として一括受給した場合の所得区分について述べていきます。

1.所得税基本通達35-3

 一般的には、個人年金保険を「年金」として受給した場合の所得区分は雑所得、「一時金」として一括受給した場合の所得区分は一時所得と考えられています。
 ところが、所得税基本通達35-3(年金に代えて支払われる一時金)では、次のように規定されています。

35-3 令第183条第1項、令第184条第1項、令第185条又は令第186条の規定の対象となる年金の受給資格者に対し当該年金に代えて支払われる一時金のうち、当該年金の受給開始日以前に支払われるものは一時所得の収入金額とし、同日後に支払われるものは雑所得の収入金額とする。ただし、同日後に支払われる一時金であっても、将来の年金給付の総額に代えて支払われるものは、一時所得の収入金額として差し支えない。

 つまり、①受給開始日以前に支払われる一時金(解約返戻金等)は一時所得、②同日に支払われる一時金は雑所得、③同日に支払われる一時金のうち、将来の年金給付の総額に代えて支払われる一時金一時所得として差し支えない、とされています。
 ①の受給開始日以前に支払われる一時金とは解約返戻金等であり、これは一時所得になります。今回問題としているのは、②③の受給開始日後に支払われる一時金です。
 そうすると、上記通達の「差し支えない」という文言から、受給開始日後に支払われる一時金は雑所得が原則であり、一時所得とするのは例外のようにも読み取れます。
 この点について、以下で確認します。

2.有期年金の場合は雑所得又は一時所得

 個人年金保険は、有期年金と終身年金に大別されます。
 有期年金とは、年金の支払期間(保証期間)終了後に受給資格者が生存していても、年金は支払われないものをいいます。例えば、10年有期年金であれば、支払開始から10年間だけ年金が支払われ、その後は受給資格者が生存していても、年金は支払われないことになります。
 一方、終身年金は、終身にわたって年金が支払われるもの、つまり、受給資格者が生存している限り年金が支払われるものをいいます。

 ここで少し整理すると、受給開始日後に支払われる一時金のうち、今回問題としているのは有期年金です。
 有期年金は、年金の保証期間終了をもって年金の支払がストップする仕組みですので、有期年金の一時金は、所得税基本通達35-3でいう「将来の年金給付の総額に代えて支払われるもの」に該当し、「一時所得の収入金額として差し支えない」ことになります。
 すなわち、同通達における一時金の所得区分は雑所得を原則とし、将来の年金給付の総額に代えて支払われる一時金については、一時所得とすることもできるということです。
 個人年金保険の一時金は、税務メリットのあるケースが多いと考えられる一時所得で申告するのが一般的だと思われますが、「一時金=一時所得」と定型的に考えるのではなく、雑所得とした場合の税務メリット(例えば、他の雑所得の損失との内部通算が認められる等)も考慮した方がいいかもしれません。
 ただし、次の保証期間付終身年金の一時金については、一時所得とすることはできず雑所得になります。

3.保証期間付終身年金の場合は雑所得

 保証期間付終身年金は、受給資格者が保証期間終了後も生存していれば、引き続き年金が支払われるというものです。
 保証期間に係る一時金を受給しても、その後生存していれば再び年金を受給できる仕組みですので、保証期間付終身年金の一時金は、一時所得となる「将来の年金給付の総額に代えて支払われる一時金」に該当しないとされています(国税庁・質疑応答事例参照)。
 したがって、保証期間付終身年金の一時金の所得区分は雑所得になります。

生命保険金を受け取ったときの税金

 生命保険金を受け取った場合、その保険金が死亡に基づくものか、満期によるものか、また、保険料の負担者は誰なのかなどによって課税関係が異なります。
 今回は、生命保険金を受け取ったときの課税関係について整理します。

1.死亡保険金を受け取ったとき

 例えば、「契約者:夫、被保険者:夫、受取人:妻」の生命保険契約の保険料を、夫が支払っていたとします。
 このような状況で夫が亡くなった場合は、妻は保険会社から死亡保険金を受け取ります。このとき、妻が受け取った死亡保険金は相続税の課税対象(みなし相続財産)となります。
 また、「契約者:夫、被保険者:夫、受取人:妻」の生命保険契約の保険料を、妻が支払っていたとします。
 このような状況で夫が亡くなった場合も、妻は保険会社から死亡保険金を受け取るのですが、さきほどの例とは異なり、妻が受け取る死亡保険金はみなし相続財産にはなりません。
 妻が自分で保険料を支払って、自分で保険金をもらったわけですから、一時所得として所得税の課税対象になります。
 さらに一例を挙げると、「契約者:夫、被保険者:夫、受取人:妻」の生命保険契約の保険料を、子が支払っていたとします。
 この場合も、妻が受け取る死亡保険金はみなし相続財産にはなりません。子が保険料を支払っていたからこそ、妻は保険金を受け取っているのですから、この場合は子から妻への贈与となり、贈与税の課税対象(みなし贈与財産)となります。
 死亡保険金に限らず、生命保険金を受け取った場合の課税関係において重要なことは、誰が保険料を支払っていたか(誰が保険料の負担者なのか)ということです。
 保険契約者が保険料負担者であることが一般的ですが、必ずしもそうではないケースもありますので、注意しなければなりません。
 下表は、被保険者が死亡した場合の課税関係の例を示したものです。

  負担者 被保険者 受取人 課税関係
死亡保険金 妻に相続税:保険金-(500万円×法定相続人)
妻の一時所得※:(保険金-支払保険料-50万円)×1/2
妻に贈与税:保険金-110万円
夫の一時所得※:(保険金-支払保険料-50万円)×1/2
子に贈与税:保険金-110万円

※ 一定の一時払養老保険等の差益は、源泉徴収だけで納税が完了する源泉分離課税となります。また、年金方式で保険金を受け取った場合は、その年ごとの雑所得として所得税及び復興特別所得税がかかります。

2.満期保険金・解約返戻金を受け取ったとき

 上記1は死亡保険金を受け取ったときの課税関係でしたが、満期保険金や解約返戻金を受け取ったときの課税関係はどうなるでしょうか。
 例えば、「契約者:夫、被保険者:夫、受取人:妻」の生命保険契約の保険料を、夫が支払っていたとします。
 このような状況で保険契約が満期を迎えた場合は、妻は保険会社から満期保険金を受け取ります。満期保険金は、夫がまだ亡くなっていませんので、みなし相続財産にはなりません。この満期保険金は、夫が保険料を支払っていたからこそ、保険会社から妻に支払われるものです。したがって、夫から妻への贈与となり、贈与税の課税対象(みなし贈与財産)となります。
 また、「契約者:夫、被保険者:夫、受取人:妻」の生命保険契約の保険料を、妻が支払っていたとします。
 このような状況で、保険契約が満期を迎えた場合に妻が受け取る満期保険金は、みなし贈与財産にはなりません。
 妻が自分で保険料を支払って、自分で保険金をもらったわけですから、一時所得として所得税の課税対象になります。
 満期保険金や解約返戻金を受け取ったときの課税関係についても、誰が保険料を支払っていたか(誰が保険料負担者なのか)ということが重要です。
 下表は、満期保険金や解約返戻金を受け取った場合の課税関係の例を示したものです。

  負担者 被保険者 受取人 課税関係
満期保険金解約返戻金 妻に贈与税:保険金-110万円
妻の一時所得※:(保険金-支払保険料-50万円)×1/2
妻に贈与税:保険金-110万円
夫の一時所得※:(保険金-支払保険料-50万円)×1/2
子に贈与税:保険金-110万円

※ 一定の一時払養老保険等の差益は、源泉徴収だけで納税が完了する源泉分離課税となります。また、年金方式で保険金を受け取った場合は、その年ごとの雑所得として所得税及び復興特別所得税がかかります。

副業の給与所得が会社にバレない方法とは?

 かつては副業を禁止する会社が多かったのですが、最近は副業を容認(あるいは推奨)する会社が増えてきています。公務員でも、届出さえしておけば副業が許される自治体もあるようです。
 今は世の中が副業に対して寛容になったとはいえ、一方で副業を禁止する会社もあり、また、副業が解禁されている会社に勤めていても、副業していることを会社に知られたくない場合もあるかと思います。
 今回は、副業が会社にバレない一般的な方法と、副業の「給与所得」が会社にバレないイレギュラーな方法について述べます。

1.副業がバレない一般的な方法

 会社員が会社勤めの傍ら行う副業には、様々なものがあります。例えば、アフィリエイト、FX取引、仮想通貨取引、原稿執筆、講演、UBER EATS ドライバーなどがあります。これらの活動によって得た所得は、雑所得に区分されます。
 また、自分が所有するマンションの一室を賃貸して家賃収入を得ることもありますが、これは不動産所得に区分されます。
 さらに、副業ではありませんが、例えば自分の居住する住宅を売って売却代金を受け取ると、これは譲渡所得になります。
 これらの活動によって得た所得は、基本的には確定申告をする必要があります。その結果、これらの所得は本業の給与所得と合算されて住民税が課税され、会社で給与から天引き(特別徴収)されますので、会社の経理担当者に給与以外に所得があると気づかれる可能性があります。
 このような副業が会社にバレないようにするために、一般的によく行われるのは次の方法です。

 所得税の確定申告書第二表には、「住民税・事業税に関する事項」欄に住民税の徴収方法を選択する箇所があります(上図参照)。この箇所の「自分で納付」に〇をつけて申告すると、副業による所得に関する住民税の通知・納付書が自宅に届きますので、その分を自分で納付すれば、副業を会社に知られずに済みます(自分で納付する方法のことを「普通徴収」といいます)。
 一般的には以上の方法で、会社に届く住民税の特別徴収税額の決定通知書には給与所得だけが記載され、「その他の所得計」欄や「主たる給与以外の合算所得区分」欄に副業分が記載されることはありません(兵庫県宝塚市の場合)。しかし、市町村によっては対応が異なる可能性もありますので、確定申告の前に確認しておく方がいいと思います。

 なお、会社員の副業による雑所得等が20万円以下の場合は、確定申告をしなくてもよいことになっています(詳しくは、本ブログ記事「給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度の注意点」をご参照ください)。

2.副業が給与所得の場合はどうする?

 一般的には上記1の方法により副業を会社に知られないようにするのですが、副業で得た収入が給与所得に該当する場合はどうでしょうか?
 例えば、コンビニ、スーパー、レストラン、居酒屋、塾、専門学校などでアルバイトをしている場合、これらで得た収入は給与所得になります。副業が給与所得の場合、上記1の方法は使えません。
 上記1の図をよく見ると、「給与、公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法」となっているのがわかります。
 つまり、給与所得以外の所得(雑所得や不動産所得など)については、確定申告書第二表で住民税の徴収方法を選択できるのですが、給与所得の場合は住民税の徴収方法は選択できず、原則として特別徴収になります。
 また、本業と副業の2か所から給与所得を得ていますので、たとえ副業の給与所得が20万円以下だったとしても、確定申告不要制度は使えません。
 そうすると、副業で得た所得を確定申告して、さらに住民税を特別徴収されると、会社に副業がバレる可能性があります。
 このような場合は、どうすることもできないのでしょうか?

 残された唯一の方法は、自分が住んでいる市区町村に住民税の普通徴収の申し出をすることです。
 本来は2か所からの給与所得は合算され、その合計に対して住民税が課税され、一律特別徴収されますので、副業分の住民税だけを普通徴収にするというのはイレギュラーな手続きになります。
 しかし、副業を会社に知られたくない旨を伝えると、この普通徴収の申し出に対応してくれる市区町村もあります。
 イレギュラーな手続きになりますので、原則として納税者本人が市区町村の窓口で手続きをする必要があります(同居家族であれば委任状がなくても手続きできる場合があります)。申し出といっても何か特別な様式があるわけではなく、2か所分の源泉徴収票と印鑑を持参して、本業は特別徴収、副業は普通徴収を希望することを担当者に相談するだけです。相談できる期限は所得税の確定申告期限と同じであり、所得税の確定申告が済んでいなくても相談できます。
 市区町村によって対応は異なると思いますが、一度相談してみる価値はあると思います。

青色申告と白色申告の特典比較

1.白色申告は現金主義で記帳できるという誤解

 青色申告と白色申告には、それぞれ適用できる特典がありますが、両者を混同して適用を誤ってはいけません。
 例えば、「青色申告の記帳は発生主義によらないといけないが、白色申告の場合は現金主義で記帳することができる」という認識があるとすれば、これは誤解です。
 青色申告も白色申告も、原則として発生主義による記帳を行わなければなりません。現金主義による記帳は、一定の要件を満たす青色申告者のみに認められた特典であり、白色申告者に現金主義の適用はありません。
 また、白色申告者が取得価額30万円未満の少額減価償却資産を必要経費に算入することはできません。これも青色申告者のみに認められた特典です。
 このような適用誤りを防止するために、青色申告と白色申告について、それぞれに認められている特典の比較を行います。

2.主な特典の比較

 青色申告と白色申告の特典は、次のとおりです。

特典 青色申告 白色申告
青色申告特別控除 最高65万円又は10万円を不動産所得、事業所得、山林所得から順次控除できる 適用なし
青色事業専従者給与
事業専従者控除
事業的規模の所得において、労務の対価として相当と認められる金額の範囲内で支払われた給与は、全額必要経費に算入できる 事業的規模の所得において、専従者1人あたり最高50万円(配偶者は86万円)を必要経費に算入できる
現金主義 前々年の不動産所得及び事業所得の合計額が300万円以下の場合は、現金主義による所得計算ができる 適用なし
少額減価償却資産の特例 取得価額が30万円未満の少額減価償却資産は、業務の用に供した年に、全額必要経費に算入できる(年間300万円が限度) 適用なし
貸倒引当金 事業的規模の所得において、個別評価、一括評価(事業所得に限る)による貸倒引当金の計上ができる 事業的規模の所得において、個別評価のみ認められる
低価法 棚卸資産は低価法により評価できる 適用なし
純損失の繰越控除 損失額のうち、同一年中の所得と通算しても控除しきれない金額は、翌年以降3年間にわたり控除できる 変動所得又は被災事業用資産の損失に限り繰越控除できる
純損失の繰戻し還付 前年分の所得に対する税金から還付を受けられる 適用なし