相続により取得した賃貸用建物の減価償却等の注意点

 被相続人が生前に不動産賃貸業を営んでおり、相続人がその不動産賃貸業を引き継ぐ場合には、いくつかの点に注意しなければなりません。
 例えば、引き継いだ賃貸用建物の減価償却費を計上するとき、取得価額をどのように決定すればいいのかについては、時価、簿価、相続税評価額などが頭に浮かびますが、これらを取得価額とすることはできるのでしょうか?
 また、相続で取得した賃貸用建物は、ほとんどの場合は中古資産に該当しますので、減価償却費を計上するときの耐用年数を「中古資産の耐用年数」(耐用年数省令第3条第1項)の規定で計算した耐用年数とすることができるのでしょうか?
 今回は、相続により賃貸用建物を取得した場合の減価償却等の注意点について確認します。

1.相続で取得した建物の取得価額と耐用年数

 冒頭で述べたように、相続により取得した建物の取得価額をいくらにすればよいかについては、思いつくままに挙げると、時価、簿価、あるいは相続税評価額などがあります。これらは、相続で取得した場合の取得価額になり得るのでしょうか?

 答えは「否」です。相続等により取得した資産について、所得税法施行令第126条第2項(減価償却資産の取得価額)※1の規定では、所得税法第60条1項(贈与等により取得した資産の取得費等)※2に規定する相続等により取得した資産が減価償却資産である場合の取得価額は、その減価償却資産を取得した者が引き続き所有していたものとみなした場合におけるその減価償却資産の取得価額に相当する金額とすることとされています。
 したがって、相続により取得した建物の取得価額は、時価、簿価、相続税評価額などではなく、被相続人の取得価額を相続人が引き継ぐこととなります。

 また、相続により取得した建物の耐用年数は、「中古資産の耐用年数」の規定で計算した耐用年数とすることができるのでしょうか?

 答えは「否」です。 耐用年数省令第3条第1項 に定める「中古資産の耐用年数」とは、次の計算式で計算した年数のことをいいます(その年数が2年未満となるときは2年とし、その年数に1年未満の端数があるときは切り捨てます)。

(1) 法定耐用年数の一部を経過した資産
 耐用年数=法定耐用年数-経過年数×0.8
(2) 法定耐用年数の全部を経過した資産
 耐用年数=法定耐用年数×0.2

 上述したように、相続等により取得した減価償却資産については、その減価償却資産を取得した者が引き続き所有していたものとみなされますので、相続により取得した建物の耐用年数を「中古資産の耐用年数」の規定で計算した耐用年数とすることはできません

 以上から、相続( 限定承認に係るものを除く )により取得した建物については、被相続人から取得価額、耐用年数、経過年数及び未償却残高を引き継いで減価償却費を計算することになります。
 なお、建物については賃貸用建物という業務用資産を前提に述べてきましたが、非業務用資産であっても相続人から取得価額、耐用年数、経過年数及び未償却残高を引き継ぐ点は同じです。異なるのは、非業務用資産の減価償却費は、次のように計算する点です。

 取得価額×90%×法定耐用年数の1.5倍の年数に応ずる旧定額法の償却率×経過年数

(参考条文)
※1 所得税法施行令第126条第2項(減価償却資産の取得価額)では、次のように規定されています。

 法第60条第1項各号(贈与等により取得した資産の取得費等)に掲げる事由により取得した減価償却資産(法第40条第1項第1号(たな卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入)の規定の適用があつたものを除く。)の前項に規定する取得価額は、当該減価償却資産を取得した者が引き続き所有していたものとみなした場合における当該減価償却資産のこの条及び次条第2項の規定による取得価額に相当する金額とする。

※2 所得税法第60条1項(贈与等により取得した資産の取得費等)では、次のように規定されています。

 居住者が次に掲げる事由により取得した前条第1項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。
一 贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)

2.青色申告承認申請書の提出期限に注意

 被相続人の不動産賃貸業を相続人が引き継ぐにあたって注意しなければならないことは、青色申告承認申請書の提出期限です。相続により事業を承継した場合の提出期限は、以下のとおりです。

(1) 被相続人が青色申告をしていた場合
 ① 相続開始を知った日が1月1日~8月31日→相続開始日から4か月以内
 ② 相続開始を知った日が9月1日~10月31日→その年の12月31日
 ③ 相続開始を知った日が11月1日~12月31日→翌年2月15日
(2) 被相続人が白色申告をしていた場合
 ① 相続開始を知った日が1月1日~1月15日→相続した年の3月15日
 ② 相続開始を知った日が1月16日~12月31日→相続開始日から2か月以内

 相続により事業を承継した場合は、通常の提出期限と異なるケースもあります。青色申告承認申請書の提出はしているものの、期限に間に合っていない事例も見受けられますので、提出期限にはご注意ください。

3.遺産分割と所得の帰属に注意

 被相続人の不動産賃貸業を相続人が引き継ぐにあたって、もう一点注意しなければならないことがあります。それは、相続した賃貸物件から生じる所得の帰属です。
 結論だけ端的に述べると、遺産分割成立前の未分割の相続財産から生じた所得については、法定相続分に応じて各相続人に帰属することとなります。
 また、遺産分割成立後の相続財産から生じた所得については、実際にその相続財産を相続により取得した相続人に帰属することとなります。
 詳しくは、本ブログ記事「未分割の相続財産から生じた不動産所得の帰属は?」をご参照ください。
 

簡易課税制度における不動産業の事業区分

 消費税の計算方法には、原則課税(一般課税、本則課税)と簡易課税があります。このうち、原則課税による計算は煩雑であり事務手数を要することから、基準期間における課税売上高が5,000万円以下の中小事業者には簡易課税が認められています。
 簡易課税は原則課税の簡便法として設けられていますが、事業区分の判定については判断に迷うことも多く、必ずしも「簡易」な方法であるとは言えません。とりわけ不動産業は、簡易課税制度においては第6種事業に区分されていますが、場合によっては他の事業に区分されることもあります。
 今回は、簡易課税制度における不動産業の事業区分について確認します。

1.簡易課税制度の事業区分とみなし仕入率

 原則課税では、消費税額は次のように計算します。

  消費税額=課税売上げに係る消費税額-課税仕入れ等に係る消費税額

 この算式のうち、「課税仕入れ等に係る消費税額」を算出するための手続きが煩雑で事務負担も大きいことから、簡便法として簡易課税が設けられています。

 簡易課税では、課税売上げに係る消費税額に、事業区分に応じた一定の「みなし仕入率」を掛けた金額を「課税仕入れ等に係る消費税額」とみなして、納付する消費税額を計算します。算式は次のとおりです。

  消費税額=課税売上げに係る消費税額-(課税売上げに係る消費税額×みなし仕入率)

 原則課税のように「課税仕入れ等に係る消費税額」を算出する必要がなく、課税売上げに係る消費税額のみから納付すべき消費税額が計算できるため、簡便法と位置付けられています。

 簡易課税におけるみなし仕入率は、事業区分に応じて次のように定められています。

事業区分 該当する事業 みなし仕入率
第1種事業 卸売業 90%
第2種事業 小売業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) 80%
第3種事業 製造業、建築業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)など 70%
第4種事業 第1・2・3・5・6種以外の事業(飲食店業など) 60%
第5種事業 運輸・通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く) 50%
第6種事業 不動産業 40%

 この表からもわかるように、今回の論点である不動産業は第6種に区分されています。しかし、一口に不動産業と言っても、その形態は様々です。不動産に関する事業をすべて第6種としてしまうのは誤りです。

2.不動産業の事業区分とみなし仕入率

 ここでは、簡易課税制度における不動産業を、不動産売買業、不動産仲介業、不動産賃貸業、不動産管理業の4つに細分化します。そのうえで、それぞれ簡易課税制度のどの事業区分に該当するかを整理したものが下表です。

業態 内容 事業区分 みなし仕入率
不動産売買業 不動産を買い取り、そのままの状態で事業者に販売 第1種 90%
不動産を買い取り、そのままの状態で消費者に販売 第2種 80%
自己が建設した建売住宅を販売 第3種 70%
注文住宅を請け負って、下請けに建築させて販売 第3種 70%
中古住宅をリフォーム(塗装、修理等)して販売 第3種 70%
不動産仲介業 不動産の売買や賃貸を仲介 第6種 40%
不動産賃貸業 不動産の賃貸 第6種 40%
賃借人から原状回復費(内装工事などの建築リフォーム)を受け取った 第3種 70%
賃借人から原状回復費(室内クリーニングなど)を受け取った 第5種 50%
不動産管理業 他の者の不動産を管理 第6種 40%

 不動産業に簡易課税制度を適用する際は、その業態や内容に応じて該当する事業区分(みなし仕入率)が異なりますので注意が必要です。