改正電子帳簿保存法:最低限どんな対応をしたらいいのか?

1.なぜ今回の改正が注目されているのか?

 電子帳簿保存法とは、帳簿や決算書、請求書などの国税関係帳簿・書類を電子データで保存するための要件を定めた法律です。この法律自体は1998(平成10)年に施行されており、その後に何度か改正されていますが、これまではあまり注目されることはなかったように思います。
 ところが、2022(令和4)年1月1日から施行されている今回の改正法が注目されているのは、「電子取引」については電子データ保存が義務化されたためです。
 この改正法により、電子取引については、これまでのようにプリントアウトして「紙」で保存することは認められなくなり、「電子データ」で保存しなければならなくなりました。この改正は、法人・個人や規模の大小にかかわらず、すべての事業者が対応しなければならないため、過去の改正に比べて注目度が上がっています。
 なお、2022(令和4)年1月1日からの対応が難しい場合は、2024(令和6)年1月1日からの対応でもよいことになっています。

※ 電子取引とは、例えば、次のようなものが該当します(詳細については、本ブログ記事「改正電子帳簿保存法~電子取引と電子データの具体例」をご参照ください)。
・電子メールに添付されている請求書や領収書等のPDFを授受する
・ショッピングサイトで商品を購入した際に、そのWEBサイトから請求書や領収書等のPDFをダウンロードする
・クレジットカードの利用明細データやスマートフォンアプリの決済データ等をクラウドサービスなどから受領する

2.すべてが電子化されるわけではない

出所:国税庁ホームページ

 「電子データ」での保存が必要ということは、何か専用のシステムを導入しないといけないのでは?と考えがちですが、必ずしもそうとは言えません。
 この点に関しては、改正された電子帳簿保存法が次の3つに区分されていることを理解し、それぞれ別個に対応を考えることが重要です。

 (1) 電子帳簿等保存
 (2) スキャナ保存
 (3) 電子取引データ保存

 これらのうち、端的に言うと、(1)と(2)に対応するためには専用のシステム(会計ソフトや証票管理システムなど)の導入が必要ですが、(3)については専用のシステムがなくても対応することができます。
 また、今回の改正法では、(1)と(2)について対応するかどうかは任意とされていますので、この制度を利用したい事業者(対応可能な事業者)のみが対応すればいいことになっています。したがって、今回の改正法で全ての事業者が対応しなければならないのは(3)です。
 (3)だけに対応する場合、これまでと何が変わるのかと言えば、電子取引で受領した電子データ(例えば、メールに添付された請求書のPDF)は「紙」ではなく「電子データ(PDF)」のまま保存するということです。言い換えれば、電子取引に該当しない「紙」で受け取った請求書は、これまで通り「紙」で保存するということです。すべてが電子化されるわけではありません。

3.最低限必要な対応とは?

 改正電子帳簿保存法の全て(上記2.(1)~(3))に対応しようとすると、専用システムの導入などにコストがかかります。現時点でそこまで考えていない事業者の方(コストをかけないで改正法に対応したい事業者の方)は、最低限、(3)電子取引データ保存への対応を考えて下さい。
 具体的な対応方法は、次のとおりです。

 ① 不当な訂正削除の防止に関する「事務処理規程」の制定・遵守
 ② モニター・操作説明書等の備付け
 ③ 検索要件の充足

 ①については、国税庁ホームページから事務処理規定のひな型(法人の例と個人事業者の例)をダウンロードすることができますので、それを参考に自社の業務内容に合わせて作成してください。
 ③については、電子データのファイル名に規則性を持たせて(「日付・金額・相手方」を記載して)検索可能な状態で電子データを保存する方法と、表計算ソフト等で索引簿を作成し、その索引簿を使用して電子データを検索できるようにする方法があります。

出所:国税庁ホームページ

4.将来のDXを見据えて電子帳簿保存法に対応

 電子帳簿保存法に対応することによって、業務のデジタル化が進み、業務の効率化や生産性の向上などを図ることができます。また、業務のデジタル化は、ビジネスモデルを変革して新たな価値を生み出すDX(デジタルトランスフォーメーション)にもつながります。
 いきなり電子帳簿保存法のすべてに対応する必要はありませんので、まずは「電子取引データ保存」に対応し、その後はできるところから始めていきましょう。

扶養控除等申告書に障害者等の記載があった場合の源泉徴収税額

1.扶養控除等申告書の用途は年末調整だけではない

 年末調整では、勤務先に各種申告書(扶養控除等申告書、基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書、保険料控除申告書、住宅借入金等特別控除申告書)を提出することで、いろいろな控除を受けることができます。
 これらの申告書のうち、令和4年分扶養控除等申告書については、昨年(令和3年)の年末調整時に勤務先に提出(令和4年中に途中入社した方は入社時に提出)していると思いますが、今年(令和4年)の年末調整時に修正事項(結婚や出産により扶養者が増えた等)の有無を確認するため、勤務先より再度配布されます。
 また、令和5年分扶養控除等申告書は、来年(令和5年)1月から支払う給与の計算に使用するため、今年(令和4年)の年末調整時に勤務先に提出します。
 年末調整のタイミングで扶養控除等申告書を提出することが多いので、なんとなく扶養控除等申告書は年末調整で所得控除を受けるために提出するものと思われがちですが、そうではありません。
 扶養控除等申告書の用途は年末調整だけではなく、毎月の給与から天引きする所得税額(源泉徴収税額)を計算する際にも使用します。つまり、源泉徴収税額は扶養控除等申告書に記載された内容を反映するものでなければなりません。
 以下では、扶養控除等申告書に障害者等の記載があった場合の源泉徴収税額の求め方について確認します。

2.甲欄の「扶養親族等の数」

 扶養控除等申告書の提出があった人の源泉徴収税額は、源泉徴収税額表より次のステップで求めます。

(1) まず、その人のその月の給与等の金額から、その給与等の金額から控除される社会保険料等の金額を控除した金額を求めます。

(2) 次に、上記(1)により求めた金額に応じて「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」欄の該当する行を求め、その行と扶養控除等申告書により申告された扶養親族等の数に応じた甲欄の「扶養親族等の数(0人~7人)」欄との交わるところに記載されている金額を求めます。この金額が源泉徴収税額です。

 ここで注意しなければならないのが、源泉徴収税額表における「扶養親族等」の意味です。
 源泉徴収税額表における「扶養親族等」とは、控除対象扶養親族※1だけではなく源泉控除対象配偶者※2も含みます。つまり「扶養親族等の数」とは、源泉控除対象配偶者と控除対象扶養親族(老人扶養親族又は特定扶養親族を含みます)との合計数をいいます。

※1 控除対象扶養親族とは、扶養親族のうち、年齢16歳以上の人をいいます。
 扶養親族とは、給与等の支払を受ける人と生計を一にする親族等(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者(以下「青色事業専従者等」といいます)を除きます)で、令和 4年中の所得の見積額が48万円以下の人をいいます。
 ここにいう親族等には、児童福祉法の規定により養育を委託されたいわゆる里子や、老人福祉法の規定により養護を委託されたいわゆる養護老人も含まれます。

※2 源泉控除対象配偶者とは、給与等の支払を受ける人(合計所得金額が900万円以下である人に限ります)と生計を一にする配偶者(青色事業専従者等を除きます)で、令和 4 年中の所得の見積額が95万円以下の人をいいます。

 また、提出された扶養控除等申告書に障害者等の記載がある場合は、その内容を次のように源泉徴収税額表の「扶養親族等の数」に反映させなければなりません。

(3) 扶養控除等申告書に、給与等の支払を受ける人本人が障害者(特別障害者を含みます)、寡婦、ひとり親又は勤労学生に該当する旨の記載があるときは、扶養親族等の数にこれらの一に該当するごとに1人を加算した数を、上記(2)における「扶養親族等の数」とします。

(4) 扶養控除等申告書に、給与等の支払を受ける人の同一生計配偶者※3や扶養親族(年齢16歳未満の人を含みます)のうちに障害者(特別障害者を含みます)又は同居特別障害者に該当する旨の記載があるときは、扶養親族等の数にこれらの一に該当するごとに1人を加算した数を、上記(2)における「扶養親族等の数」とします。

※3 同一生計配偶者とは、給与等の支払を受ける人と生計を一にする配偶者(青色事業専従者等を除きます)で、令和 4 年中の所得の見積額が48万円以下の人をいいます。

 したがって、提出された扶養控除等申告書に障害者等の記載があった場合は、(年末調整で過不足の精算が行われるとはいえ)毎月の給与の源泉徴収税額にも影響がありますのでご注意下さい。


FM宝塚でインボイス制度の解説をします

 2023(令和5)年10月1日から始まるインボイス制度について、FM宝塚で解説をさせていただくことになりました(提供:宝塚商工会議所)。

 インボイス制度が始まるとどうなるのか?
 免税事業者はインボイス発行事業者として登録した方がいいのか?
 登録するかどうかは何を基準に判断すればいいのか?
 課税事業者が免税事業者との取引を見直す際の注意点は?

などについて、パーソナリティーの芦田純子さんと一緒に解説をしていきます。

 自分は関係ないと思っていても、取引先などからインボイス対応について聞かれたときに、知識がなければ答えることができませんので、この放送を通してインボイス制度の概要をつかんでいただければと思います。

 番組名は「インボイス制度ってな~に?」、初回放送は2022(令和4)年10月8日(土)8時15分~8時30分で、2022(令和4)年12月24日(土)までの全12回(再放送を含みます)の放送です。

放送スケジュール
2022/10/8(土) 8:15~8:30 ①本放送
2022/10/15(土) 8:15~8:30 ①再放送
2022/10/22(土) 8:15~8:30 ②本放送
2022/10/29(土) 8:15~8:30 ②再放送
2022/11/5(土) 8:15~8:30 ③本放送
2022/11/12(土) 8:15~8:30 ③再放送
2022/11/19(土) 8:15~8:30 ④本放送
2022/11/26(土) 8:15~8:30 ④再放送
2022/12/3(土) 8:15~8:30 ⑤本放送
2022/12/10(土) 8:15~8:30 ⑤再放送
2022/12/17(土) 8:15~8:30 ⑥本放送
2022/12/24(土) 8:15~8:30 ⑥再放送

令和4年分給与所得者の保険料控除申告書の書き方と記載例

 保険料控除申告書は、給与の支払を受ける人(給与所得者)が、その年の年末調整において生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除を受けるために給与の支払者(勤務先)に提出するものです。
 今回は、生命保険料控除申告書の書き方について確認します。なお、令和4年分扶養控除等申告書については、本ブログ記事「令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」を、令和4年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書については「令和4年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書の書き方と記載例」を、年末調整で勤務先に提出する書類については「年末調整に必要な書類(各種申告書と証明書等)」をご参照ください。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長
 給与の支払者の所在地等の所轄税務署長を記入します。

(2) 給与の支払者の法人番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の法人番号を付記します。

2.生命保険料控除の記入

(1) 控除証明書の内容を記入(転記) 
 保険会社から送られてきた生命保険料控除証明書や契約証書などを参考に、下記項目を記入します。

項目 記入内容
保険会社等の名称 保険会社等の名称(略称可)
保険等の種類 控除証明書の「保険種類」
保険期間又は年金支払期間 控除証明書の「保険期間」
保険等の契約者の氏名 控除証明書に記載されている人の「氏名」
保険金等の受取人 控除証明書に記載されている「保険金受取人名」(控除証明書に記載が無い場合は、契約証書等を参照)
あなたとの続柄 自分の場合は「本人」、それ以外の場合は「妻、夫、配偶者、父、母、子」など
新・旧の区分 控除証明書に記載されている「適用制度」の新旧の区分
あなたが本年中に支払った保険料等の金額 控除証明書に記載されている参考欄の「12月末時点の申告予定額
給与の支払者の確認印 勤務先の記入欄なので記入不要

 なお、保険料控除を受けるためには、保険金等の受取人があなた又はあなたの配偶者や親族(個人年金保険料については親族を除きます)であることが必要です(参考:本ブログ記事「妻が契約者でも夫の生命保険料控除の対象にできるか?」)。
 また、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する際は、旧生命保険料で一契約の保険料の金額が9,000円以下であるものを除き、証明書類の添付等が必要です。

(2) 控除額の計算
 保険料控除申告書の下部に記載されている「計算式Ⅰ(新保険料等用)」「計算式Ⅱ(旧保険料等用)」に当てはめて控除額を計算します。控除額の計算において算出した金額に1円未満の端数があるときは、その端数を切り上げます。

3.地震保険料控除の記入

 地震保険料控除についても生命保険料控除と同じように、保険会社から送られてきた地震保険料控除証明書の内容を記入(転記)して、地震保険料控除額の計算式に当てはめて控除額を計算します。
 なお、保険等の対象となった家屋等に居住又は家財を利用している人は、あなた又はあなたと生計を一にする親族であることが必要です(参考:本ブログ記事「賃貸住宅に住んでいる場合に地震保険料控除の適用はあるか?」)(同一生計を要件とする所得控除については、本ブログ記事「所得控除における『生計を一にする』の判定基準」をご参照ください)。
 また、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する際は、証明書類の添付等が必要です。

4.社会保険料控除の記入

 国民年金保険料など、あなたが直接支払った社会保険料を記入します。給与から差し引かれた社会保険料は記入しません。
 具体的には、次のような場合に記入が必要です。
(1) 勤務先が社会保険に未加入で、国民年金保険料・国民健康保険料を自分で支払っている場合
(2) 年の途中で就職し、それまでは国民年金保険料・国民健康保険料を支払っていた場合
(3) 配偶者、親、子の代わりに国民年金保険料・国民健康保険料を支払っている場合

 これらに該当する場合は、下記項目を記入します。

項目 記入内容
社会保険の種類 国民年金、国民年金基金、国民健康保険など
保険料支払先の名称 日本年金機構、市区町村名など
保険料を負担することになっている人 あなたや家族の氏名
あなたとの続柄 自分の場合は「本人」、それ以外の場合は「妻、夫、配偶者、父、母、子」など
あなたが本年中に支払った保険料の金額 ①国民年金や国民年金基金の場合
控除証明書に記載されている「合計額(納付済額+見込額)
②国民健康保険料(税)の場合
控除証明書がないので、領収書等から支払額を集計
合計(控除額) すべての額の合計

 なお、国民年金と国民年金基金については控除証明書の添付等が必要ですが、国民健康保険は控除証明書がありません(勤務先から「市町村の支払額の通知書」の提出を求められる場合があります)。

5.小規模企業共済等掛金控除の記入

iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金など、あなたが直接支払った小規模企業共済等掛金を記入します。給与から差し引かれた掛金は記入しません。
 独立行政法人中小企業基盤整備機構や国民年金基金連合会、地方公共団体から送付された証明書をもとに下記項目の金額を記入します。
 なお、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する際は、証明書類の添付等が必要です。 

項目 記入内容
独立行政法人中小企業基盤整備機構の共済契約の掛金 小規模企業共済
※フリーランスの退職金の準備のための掛金。
確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金 企業型DC(企業型確定拠出年金)
※企業が掛金を拠出し、従業員が運用する。通常は、給与から差し引かれるため記入不要。
確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金 iDeCo(個人型確定拠出年金)
※自分で加入する。
心身障害者扶養共済制度に関する契約の掛金 心身障害者扶養共済掛金
※障害者を扶養している保護者が毎月一定の掛金を支払うことで、保護者に万一のことがあったときに障害者に年金が支給される。

令和4年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書の書き方と記載例

 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書は、基礎控除申告書、配偶者控除等申告書、所得金額調整控除申告書の3つが一体の書式になっています。
 今回は、令和4年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書の書き方を確認します。なお、令和4年分扶養控除等申告書については、本ブログ記事「令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」を、令和4年分保険料控除申告書については「令和4年分給与所得者の保険料控除申告書の書き方と記載例」を、年末調整で勤務先に提出する書類については「年末調整に必要な書類(各種申告書と証明書等)」をご参照ください。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長
 給与の支払者(勤務先)の所在地等の所轄税務署長を記入します。

(2) 給与の支払者の法人番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の法人番号を付記しますので、あなた(給与所得者)が記入する必要はありません。

2.給与所得者の基礎控除申告書の記入

(1) あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算
 給与所得については、令和4年中の給与の収入金額(給与を2か所以上から受けている場合は、その合計額)の見積額を「収入金額」欄に記入し、その給与の収入金額を基に下表を使用して「所得金額」を計算します。

給与の収入金額(A) 給与所得の金額
1円以上    550,999円以下 0円
551,000円以上 1,618,999円以下 A-550,000円
1,619,000円以上 1,619,999円以下 1,069,000円
1,620,000円以上 1,621,999円以下 1,070,000円
1,622,000円以上 1,623,999円以下 1,072,000円
1,624,000円以上 1,627,999円以下 1,074,000円
1,628,000円以上 1,799,999円以下 A÷4(千円未満切捨て)…B
B×2.4+100,000円
1,800,000円以上 3,599,999円以下 A÷4(千円未満切捨て)…B
B×2.8-80,000円
3,600,000円以上 6,599,999円以下 A÷4(千円未満切捨て)…B
B×3.2-440,000円
6,600,000円以上 8,499,999円以下 A×0.9-1,100,000円
   8,500,000円以上 A-1,950,000円

 ただし、所得金額調整控除の適用を受ける人は、上の表に従って求めた給与所得の金額から所得金額調整控除の控除額を差し引いた額を記入してください。
 所得金額調整控除の額の計算方法は、次のとおりです(①②の両方がある場合は、その合計額)。
① (給与の収入金額※1-850万円)×10%
 ※1 1,000万円を超える場合は1,000万円
② 給与所得控除後の給与等の金額※2+公的年金等に係る雑所得の金額※2-10万円
 ※2 10万円を超える場合は10万円

 例えば、給与の収入金額が8,970,000円の場合、上の表より給与所得の金額は8,970,000円-1,950,000円=7,020,000円と計算されますが、所得金額調整控除の額(8,970,000円-8,500,000円)×10%=47,000円を差し引いた6,973,000円を「所得金額」欄に記入します。

(2) 控除額の計算
 上記(1) の「あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算」の表で計算した合計額を基に「判定」欄の該当箇所に✓を付け、判定結果に対応する控除額を「基礎控除の額」欄に記入します。

(3) 区分Ⅰ
 配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けようとする人は、「控除額の計算」の「判定」欄の判定結果に対応する記号(A~C)を記入します。

3.給与所得者の配偶者控除等申告書の記入

(1) 配偶者の氏名、個人番号など
 一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください(本ブログ記事「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書のマイナンバー記載を省略する方法」をご参照ください)。
 また、配偶者が非居住者である場合には、「非居住者である配偶者」欄に○を付け、「生計を一にする事実」欄にその年に送金等をした金額の合計額を記入します。この場合、親族関係書類及び送金関係書類の添付等が必要ですが、親族関係書類については、扶養控除等(異動)申告書を提出した際に添付等をしているときは必要ありません。

(2) 配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算
 上記 2.(1)を参考に、配偶者の収入金額、所得金額を記入して下さい。例えば、給与収入の見積額が920,000円でかつ、所得金額調整控除が適用されない人の場合には、所得金額は920,000円-550,000円=370,000円となります。

(3) 判定及び区分Ⅱ
 上記3.(2)で計算した合計所得金額及び配偶者の生年月日を基に、「判定」欄の該当箇所に✓を付け、判定結果に対応する記号(①~④)を「区分Ⅱ」欄に記入します。

(4) 配偶者控除の額又は配偶者特別控除の額
 区分Ⅱが①又は②の場合は「配偶者控除の額 」欄に、区分Ⅱが③又は④の場合は「 配偶者特別控除の額 」欄に、「控除額の計算」の表で求めた配偶者控除額又は配偶者特別控除額を記入します。

4.所得金額調整控除申告書の記入

(1) 要件
 該当する要件に✓を付けます。複数の項目に該当する場合は、いずれか1つを選んで✓を付けます。
 「特別障害者」とは、障害者のうち身体障碍者手帳に身体上の障害の程度が一級又は二級である者として記載されている人など、精神又は身体に重度の障害のある人をいいます。
 「同一生計配偶者」とは、あなたと生計を一にする配偶者(青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和4年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人をいいます。
 「扶養親族」とは、あなたと生計を一にする親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和4年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人をいいます。 なお、児童福祉法の規定により養育を委託されたいわゆる里子や老人福祉法の規定により養護を委託されたいわゆる養護老人で、あなたと生計を一にし、令和4年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人も扶養親族に含まれます。

(2) ☆扶養親族等
 「要件」欄で「同一生計配偶者が特別障害者」、「扶養親族が特別障害者」、「扶養親族が年齢23歳未満」の項目に✓を付けた場合、その要件に該当する同一生計配偶者又は扶養親族の氏名、個人番号及び生年月日等を記入します。
 なお、「扶養親族が特別障害者」、「扶養親族が年齢23歳未満」の項目に✓を付けた場合でその扶養親族が2人以上いる場合は、いずれか1人の氏名、個人番号及び生年月日を記入します(扶養親族が年齢23歳未満の場合については、本ブログ記事「所得金額調整控除における『23歳未満の扶養親族』とは?」をご参照ください)。
 また、 一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください (上記3.(1)参照)。

(3) ★特別障害者
 「特別障害者に該当する事実」欄には、障害の状態又は交付を受けている手帳などの種類と交付年月日、障害の程度(障害の等級)などの特別障害者に該当する事実を記入します。
 なお、特別障害者に該当する人が「扶養控除等(異動)申告書」に記載している特別障害者と同一である場合には、特別障害者に該当する事実の代わりに「扶養控除等申告書のとおり」と記載することも認められています。

※所得金額調整控除については、本ブログ記事「令和2年分から適用される基礎控除の改正と所得金額調整控除の新設」をご参照ください。

法人設立や本店移転があった事業年度の均等割の計算方法

1.1月に満たないときは1月とし、1月に満たない端数があるときは端数を切り捨て

 法人が地方団体に納めるべき税金として、法人住民税(都道府県民税と市町村民税)があります。
 法人住民税は、都道府県及び市町村に事務所、事業所(以下「事務所等※1」といいます)又は寮等※2を有する法人等に課税され、法人の規模に応じて決まる「均等割」と法人税(国税)の額に応じて決まる「法人税割」とがあります。
 法人税割は、黒字で国に法人税を納めている法人に課税されるのに対して、均等割は赤字の法人でも課税されます。
 均等割は、事業年度末日現在の資本金等の金額等と従業者数により、都道府県ごと・市町村ごとに年税額が決められており、事務所等又は寮等を有していた月数に応じて計算します。通常は12か月で計算しますが、事業年度中に法人設立や本店移転があった場合等は、暦に従って月数を計算し、これが1月に満たないときは1月とし、1月に満たない端数があるときは端数を切り捨てます。
 「1月に満たないときは1月とし」とは、例えばその事業年度における事務所等又は寮等を有していた月数が25日間の場合は、これを1か月とカウントすることをいいます。
 「1月に満たない端数があるときは端数を切り捨てます」とは、例えばその事業年度における事務所等又は寮等を有していた月数が11か月と25日の場合は、11か月とカウントすることをいいます。
 以下において、事例ごとに均等割の計算方法を確認します。

※1 自己が所有するものか否かにかかわらず、事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって、そこで継続して事業が行われる場所をいいます。
※2 宿泊所・クラブ・保養所・集会所その他これらに類するもので、法人が従業者の宿泊・慰安・娯楽等の便宜を図るために常時設けている施設をいいます。したがって、寮等とよばれるものであっても、その実質が独身寮・社員住宅などのように特定の従業者が居住するための施設は含まれません。

2.法人設立事業年度の均等割

 例えば、兵庫県神戸市でx1年4月5日に設立した3月決算法人の設立事業年度(x2年3月期)の均等割は、次のように計算します(均等割の年額を、法人県民税22,000円、法人市民税50,000円とします)。

(1) 法人県民税の均等割

 22,000円×11か月÷12か月=20,166円→20,100円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月からx2年3月までの11か月と26日ですが、4月の26日(4/5~4/30)は切捨てて11か月となります。

(2) 法人市民税の均等割

 50,000円×11か月÷12か月=45,833円→45,800円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月からx2年3月までの11か月と26日ですが、4月の26日(4/5~4/30)は切捨てて11か月となります。

3.本店移転があった事業年度の均等割

 例えば、大阪府東大阪市の3月決算法人が、x1年6月25日に本店を大阪府枚方市に移転した場合のx2年3月期の均等割は、次のように計算します(均等割の年額を、法人府民税20,000円、法人市民税は東大阪市・枚方市ともに50,000円とします)。

(1) 法人府民税の均等割

 20,000円×12か月÷12か月=20,000円→20,000円
※ 大阪府内に事務所等を有していた月数は、x1年4月からx2年3月までの12か月です。

(2) 法人市民税の均等割

① 東大阪市の均等割
 50,000円×2か月÷12か月=8,333円→8,300円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月からx1年6月までの2か月と25日ですが、6月の25日(6/1~6/25)は切捨てて2か月となります。

②枚方市の均等割
 50,000円×9か月÷12か月=37,500円→37,500円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年6月からx2年3月までの9か月と5日ですが、6月の5日(6/26~6/30)は切捨てて9か月となります。

 法人府民税計算の月数は12か月でしたが、法人市民税計算の月数は2か月+9か月=11か月となります。

4.法人設立と本店移転が同一事業年度の場合の均等割

 例えば、大阪府東大阪市でx1年4月5日に設立した3月決算法人が、x1年6月25日に本店を大阪府枚方市に移転した場合のx2年3月期の均等割は、次のように計算します(均等割の年額を、法人府民税20,000円、法人市民税は東大阪市・枚方市ともに50,000円とします)。

(1) 法人府民税の均等割

 20,000円×11か月÷12か月=18,333円→18,300円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月からx2年3月までの11か月と26日ですが、4月の26日(4/5~4/30)は切捨てて11か月となります。

(2) 法人市民税の均等割

① 東大阪市の均等割
 50,000円×1か月÷12か月=4,166円→4,100円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月は26日(4/5~4/30)、5月は31日、6月は25日(6/1~6/25)になりますが、4月の26日と6月の25日は1月未満の端数ですので切捨てて1か月となります。

②枚方市の均等割
 50,000円×9か月÷12か月=37,500円→37,500円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年6月からx2年3月までの9か月と5日ですが、6月の5日(6/26~6/30)は切捨てて9か月となります。

 法人府民税計算の月数は11か月でしたが、法人市民税計算の月数は1か月+9か月=10か月となります。

適格請求書等の発行が免除される場合とは?

1.適格請求書等の交付義務と保存義務

 2023(令和5)年10月1日から「適格請求書等保存方式」(以下、「インボイス制度」といいます)が開始されます。
 インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者は、取引の相手方(課税事業者に限ります)から求められたときは「適格請求書の交付義務が免除されるもの」に該当する場合を除き、適格請求書又は適格簡易請求書を交付し、その写しを保存しなければなりません。ただし、免税取引、非課税取引及び不課税取引のみを行った場合については、適格請求書等の交付義務はありません。
 では、「適格請求書の交付義務が免除されるもの」とは、どのような取引をいうのでしょうか?

2.適格請求書の交付義務が免除されるもの

 次の取引は、適格請求書発行事業者が行う事業の性質上、適格請求書を交付することが困難なため、適格請求書の交付義務が免除されます。したがって、適格請求書及び適格簡易請求書のいずれも交付する義務はありません。

(1) 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送(公共交通機関特例)※①
(2) 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限る)
(3) 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限る)
(4) 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等(自動販売機特例)※②
(5) 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)

※① 3万円未満の公共交通機関による旅客の運送かどうかは、1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定します。したがって、1商品(切符1枚)ごとの金額や、月まとめ等の金額で判定することにはなりません。
 例えば、東京-新大阪間の新幹線の大人運賃が 13,200 円であり、4人分の運送役務の提供を行う場合には、4人分の 52,800 円で判定することとなります。

※② 自動販売機特例の対象となる自動販売機や自動サービス機とは、代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われる機械装置であって、その機械装置のみで代金の受領と資産の譲渡等が完結するものをいいます。
 例えば、自動販売機による飲食料品の販売のほか、コインロッカーやコインランドリー等によるサービス、金融機関のATMによる手数料を対価とする入出金サービスや振込サービスのように機械装置のみにより代金の受領と資産の譲渡等が完結するものが該当することとなります。
 なお、小売店内に設置されたセルフレジを通じた販売のように機械装置により単に精算が行われているだけのもの、コインパーキングや自動券売機のように代金の受領と券類の発行はその機械装置で行われるものの資産の譲渡等は別途行われるようなもの及びネットバンキングのように機械装置で資産の譲渡等が行われないものは、自動販売機や自動サービス機による商品の販売等に含まれません。

適格請求書・適格簡易請求書の記載事項と記載例

 2023(令和5)年10月1日から適格請求書等保存方式(以下、「インボイス制度」といいます)がスタートします。
 インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者は、取引の相手方(課税事業者に限ります)から求められたときは、適格請求書又は適格簡易請求書を交付し、その写しを保存しなければなりません(免税取引、非課税取引及び不課税取引のみを行った場合については、適格請求書等の交付義務はありません)
 以下では、適格請求書と適格簡易請求書の記載事項について確認します。

1.適格請求書

 適格請求書とは、次の事項が記載された書類(請求書、納品書、領収書、レシート等)をいいます。
 現行の区分記載請求書等保存方式(2019(令和1)年10月1日~2023(令和5)年9月30日)における請求書等の記載事項に加え、①、④及び⑤の下線部分が追加されます。

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
税率ごとに区分した消費税額等(消費税額等とは、消費税額及び地方消費税額に相当する金額の合計額のことです)
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

 例えば、飲食料品や日用雑貨の販売を行っている事業者が、現行の区分記載請求書等保存方式の下で発行している区分記載請求書の記載例は、次のようになります。

出所:国税庁ホームページ

 この事業者が適格請求書発行事業者となった場合に発行する適格請求書の記載例は、次のようになります。

出所:国税庁ホームページ

 区分記載請求書の記載事項と比較すると、①、④及び⑤の記載事項が追加されています。
 なお、適格請求書の様式は、法令等で定められていません。適格請求書として必要な事項が記載された書類であれば、請求書、納品書、領収書等その名称にかかわらず、適格請求書に該当します。

2.適格簡易請求書

 インボイス制度においては、適格請求書発行事業者が、小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業又は駐車場業等のように不特定かつ多数の者を相手方として事業を行う場合には、適格請求書に代えて適格簡易請求書を交付することができます。
 適格簡易請求書の記載事項は、適格請求書の記載事項よりも簡易なものとされており、適格請求書の記載事項と比べると、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載が不要である点、「税率ごとに区分した消費税額等」又は「適用税率」のいずれか一方の記載で足りる点が異なります。
 なお、具体的な記載事項は、次のとおりです。

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲
渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率

 例えば、小売業(スーパーマーケット)を営む事業者が、適格請求書発行事業者となった場合に発行する適格簡易請求書の記載例は、次のようになります(「適用税率のみを記載する場合」と「税率ごとに区分した消費税額等のみを記載する場合」の2例)。

出所:国税庁ホームページ

 なお、適格請求書及び適格簡易請求書の発行が免除されるケースについては、本ブログ記事「適格請求書等の発行が免除される場合とは?」をご参照ください。

インボイス登録すれば外税請求できると提案され・・・

 2023(令和5)年10月1日から適格請求書等保存方式(以下、「インボイス制度」といいます)がスタートします。最近は、このインボイス制度に関するご質問・ご相談を受けることが多くなっています。
 前回は、免税事業者である任意団体がインボイス対応を求められた例を挙げました(本ブログ記事「任意団体が主催する公募展の協賛金とインボイス対応」をご参照ください)。
 今回は、免税事業者である家電取付業者からのご相談を例に挙げます。

1.取引先からインボイス対応を打診された

 家電取付業者であるAさんは個人事業主で、現在は消費税の免税事業者です。Aさんのお仕事の流れは上図のようになっています。
 まず一般消費者Dが家電量販店Cでエアコン等の電気製品を購入し、その取り付けを家電量販店Cに依頼します。家電量販店Cは電気製品の取り付けを下請業者Bに依頼し、下請業者Bは契約のある家電取付業者のAさんに取り付けを委託します。取引先Bから委託を受けたAさんは、消費者D宅で電気製品の取り付けをし、その作業に係る報酬の請求書をBに発行すると、Bから報酬が支払われます。
 この度Aさんは、取引先Bからインボイス対応を打診されたのですが、その内容は「インボイス登録事業者になる場合は、現在の内税による請求を令和5年10月1日から外税による請求にしてもかまわない」というものでした。この打診に対してどう対応したらいいのか、Aさんからご相談がありました。

2.外税請求できるのならインボイス登録もあり

 現在の内税による請求が外税による請求に変わるとAさんにどのような影響があるかを考えてみます。
 例えばBに対して30万円の請求をする場合、現在の内税(30万円に消費税が含まれる)による請求をしたときのBからの領収書は次のようになっています。なお、下記領収書における「控除額」とは、Bが支給した部材代や機器使用料、振込手数料などですが、話を単純化するためにここでは0円としています。

支払金額 300,000円
請求額300,000円(内消費税27,272円)-控除額0円=支払金額300,000円

 Aさんがインボイス登録事業者になり、外税(30万円+消費税3万円)による請求をすると、Bからの領収書は次のようになります。

支払金額 330,000円
請求額330,000円(内消費税30,000円)-控除額0円=支払金額330,000円

 支払金額だけを見ると、当然のことながら、内税よりも外税による請求の方がAさんの受取金額は多くなります。しかし、インボイス登録事業者になるということは消費税の課税事業者になるということですので、Aさんには消費税の申告納税義務が生じます。この度のBからの打診に対しては、この消費税の申告納税も考慮して対応する必要があります。
 上記の例(外税請求)におけるAさんの納税額を試算してみます。この試算では、申告に不慣れなAさんは簡易課税を選択するものとし(Aさんが自分で申告をします)、事業区分は第5種とします。

①売上に係る消費税額 30,000円
②控除対象仕入税額(①×50%) 15,000円
③納税額(①-②) 15,000円

 試算の結果、Aさんの消費税納税額は15,000円となりました。この納税額も考慮したAさんの実質的な受取額(手取額)は330,000円-15,000円=315,000円となり、インボイス対応しない場合(免税事業者のまま内税請求する場合)の手取額300,000円よりも多くなります。
 したがって、Aさんはインボイス登録事業者になって外税請求をする方が有利になります。
 消費税の納税は、本体の30万円に加算された消費税3万円を全額納付するのではなく、仕入税額控除ができます(上記試算の②)。つまり、受け取った消費税のうち、いくらかは手元に残ることになります。これは、原則課税で消費税の納税額を計算しても同じ結果になります。

 仮に、Bが価格を据え置いたまま(現在の内税請求のまま)Aさんにインボイス登録を求めてきた場合、それに応じることはAさんにとって不利な選択になります。

①売上に係る消費税額 27,272円
②控除対象仕入税額(①×50%) 13,636円
③納税額(①-②) 13,636円

 Aさんの消費税納税額は、上記のとおり13,636円となります。この場合のAさんの実質的な受取額は300,000円-13,636円=286,364円となり、従来の手取額300,000円よりも少なくなります。
 多くの免税事業者は、価格を据え置かれたままインボイス登録事業者(課税事業者)になることを要請される可能性があり、その対応に苦慮しています。その点を踏まえると、この度のBの提案は検討するに値するものと言えます。

※ 免税事業者のインボイス登録については、本ブログ記事「適格請求書発行事業者の登録申請書の書き方と記載例(R3.10.1~R5.9.30提出分)」をご参照ください。



任意団体が主催する公募展の協賛金とインボイス対応

 2023(令和5)年10月1日から適格請求書等保存方式(以下、「インボイス制度」といいます)がスタートします。最近は、このインボイス制度に関するご質問を受けることが多くなっています。
 今回は、ある任意団体の方から受けたご相談を例として挙げます。

1.協賛者からインボイス対応を求められた

 この任意団体は、書道の芸術性を高め、書道文化の向上や普及を目的として設立されたものであり、会員の会費で運営されています。
 毎年秋に開催される公募展は、「書道芸術の相互錬磨や次世代の書道の担い手を発掘・育成する」という趣旨の下、幼年から小中学生を含む広く一般の方から書道作品の出品を募っており、協賛者からの協賛金で運営されています。
 協賛者(企業、団体及び個人)の名称や住所等は公募展のパンフレットに記載され、協賛金の額に応じて広告スペースが割り当てられています。
 先日、この公募展の協賛者(今年初めて協賛金に協力してくれた新規の協賛者)から、協賛金の領収書にインボイス対応ができるのかという問い合わせがあり、対応できない場合は来年の協賛金については出せないかもしれないということを示唆されました。
 そこで、そもそも任意団体としてインボイス対応ができるのか、また対応すべきなのかという今回のご相談になりました。
 なお、この任意団体の収入の柱は、会員からの会費、公募展の協賛金、会員の作品を展示販売する展覧会の収入(展覧会の収入の一部は被災地などへの義援金としています)、の3本であり、いずれも非収益事業として法人税の申告はしていません。
 また、これら3本のうち課税取引である展覧会の収入が1,000万円以下(3本合わせても1,000万円以下)であることから、消費税の申告もしていません。

2.インボイス登録事業者となれるのか?

 現行の消費税法(区分記載請求書等保存方式)では、協賛者側(課税事業者かつ原則課税)において、パンフレットに名称等が記載されることから「広告宣伝費(課税取引)」として仕入税額控除ができましたが、インボイス制度が導入されると仕入税額控除をするためには、任意団体が発行する領収書に登録番号や消費税率、消費税額が記載されていることが必要になるため、この度の問い合わせになったものと思われます。
 この問い合わせ(インボイス対応できるのか)については、結論を先に述べると、この任意団体には展覧会の収入という課税取引が既にあるため、インボイス登録事業者(課税事業者)になることは可能、ということになります。
 また、協賛金の趣旨については先に述べたとおり「書道芸術の相互錬磨や次世代の書道の担い手を発掘・育成する」というものですが、この趣旨に「広告宣伝の対価」という一面を加えることによって、協賛金が課税取引に該当することが明確になります。その上で、任意団体が発行する領収書に登録番号や消費税率、消費税額を記載しても差し支えありません。この点については、インボイス制度導入後は、任意団体側で課税売上、協賛者側で課税仕入と合わせておけば、特に問題はないと思われます。
 なお、広告スペースについてのルール(協賛金の額に応じて広告掲載枠が決まるなど)を整備しておかなければなりませんが、この点についてもこの任意団体は既に対応済みですので問題はありません(同じ広告掲載枠なのにA社は10万円の協賛金、B社は30万円の協賛金だとすると、差額の20万円はB社にとって寄附金になる可能性があります)。

3.インボイス登録事業者となることの税務上の影響

 では、この任意団体がインボイス登録事業者になった場合、税務上はどのような影響があるのでしょうか?
 協賛者側については、支払う協賛金について消費税の計算上これまで通り仕入税額控除が可能となります。
 任意団体側については、次の三つの影響があります。
 第一に、当然のことながら、消費税の申告納税義務が生じます。
 第二に、協賛金を「広告宣伝の対価」と位置付けるなら、法人税法上の収益事業となる可能性があり、その場合は消費税だけではなく法人税の申告納税義務も生じます。なお、収益事業となるか否かについては判断が難しく、税務署との協議が必要です。
 収益事業とならない場合は、法人税の申告納税義務はなく、消費税だけを申告納税すればよいことになります。
 第三に、消費税だけを申告納税する場合、協賛金だけではなく展覧会の収入も申告しなければなりません。
 展覧会の収入は法人税法上の非収益事業ですが、消費税法上の課税取引に該当します。法人税は収益事業だけが申告対象になりますが、消費税は非収益事業であっても課税取引に該当すれば申告対象になります。消費税は、収益事業部門及び非収益事業部門において行った課税資産の譲渡等について、合わせたところで申告をする必要があります。

4.任意団体が採りうる選択肢

 以上を勘案すると、この任意団体が採りうる選択肢は次のとおりです。

① 税金の申告納税義務は生じるが、協賛者の便宜(仕入税額控除)を図って、あえてインボイス登録事業者(課税事業者)になる。
② インボイス登録事業者にならずに、従来通りの領収書(登録番号、消費税率、消費税額の記載がないもの)を協賛者に発行する。なお、従来通りの領収書であっても、経過措置により、協賛者側では6年間は仕入税額控除(最初の3年間は80%、残りの3年間は50%)が可能です

 上記のうちどちらを選ぶかについての最終的な判断は任意団体に委ねますが、私見では、古くからのお付き合いのある協賛者は協賛金を広告宣伝の対価とは考えていないように思います。協賛者は協賛金の趣旨に賛同して協賛金を支払っているのであって、広告宣伝の対価として(つまり、仕入税額控除を期待して)支払っているのではないと思われます。
 協賛者には、協賛金本来の趣旨を説明し、インボイス登録事業者ではないことをお伝えし、任意団体本来のスタンスをご理解をいただく方が良いと思われます。
 この旨を相談者である任意団体に申し上げたところ、インボイス登録事業者にならないという②を選択されました。
 もっとも、ある程度は結論が出ていたようで、誰かに後押しをしてもらいたいために相談に来られたようでした。
 仮に、問い合わせのあった新規の協賛者からの協賛金がなくなるとしても、協賛金の趣旨に賛同してくれる人を、頑張って他で探すとのことでした。

※ 経過措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照ください。