災害による保険金収入の課税の繰延べと経理処理

1.災害損失特別勘定の繰入れによる損金算入

 昨今の台風や地震などの自然災害の大型化により、被災地では被害が甚大になるケースがあります。
 この被災地の被害に対して、最近では損害保険会社は保険金を迅速に支払うようになってきています。一方、被害が甚大な場合は、修理業者に修理を依頼しても、資材や人員の不足などから実際に修理をしてもらうまでに長期間待たされることもあります。
 その結果、被災事業年度に保険金の支払いを受けたにもかかわらず、実際に修理が行われるのが翌事業年度にずれるという事態も起こります。そうすると、被災事業年度においては保険金収入だけが計上(益金算入)されることになり、翌事業年度の修理に充てられる資金が目減りしてしまうという問題が生じます。
 このような場合には、修理業者の見積額など合理的に見積もった金額を災害損失特別勘定繰入額として損金経理し、保険金収入があった被災事業年度の損金の額に算入することによって、保険金収入に係る課税を繰り延べることができます(法人税基本通達12-2-6)。
 また、被災資産の修繕費用等の見積額は、その修繕等を行うことが確実な被災資産につき、例えば次の金額によるなど合理的に見積もるものとされています (法人税基本通達12-2-8) 。

(1) 建設業者、製造業者等による当該被災資産に係る修繕費用等の見積額
(2) 相当部分が損壊等をした当該被災資産につき、次のイからロを控除した金額
 イ 再取得価額又は国土交通省建築物着工統計の工事費予定額から算定した建築価額等 を基礎として、その取得の時から被災事業年度終了の日まで償却を行ったものとした場合に計算される未償却残額
 ロ 被災事業年度終了の日における価額

 なお、この制度の適用を受けようとする場合は、災害損失特別勘定繰入額を損金経理により損金算入した事業年度の法人税の確定申告書に「災害損失特別勘定の損金算入に関する明細書」を添付する必要があります (法人税基本通達12-2-9) 。

2.災害損失特別勘定の経理処理

 以下において、簡単な数値例で経理処理を確認します(勘定科目名は一例です)。

(1) 被災資産につき、修理業者から見積もりを取って損害保険会社に保険金の支払いを請求したところ、1,000万円の保険金が支払われた。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 1,000万円 保険金収入
(P/L特別利益)
1,000万円

(2) 修理業者の修理は翌事業年度に行われることになった。保険金収入の課税を繰り延べるため、決算で災害損失特別勘定1,000万円を設定した。

借方 金額 貸方 金額
災害損失特別勘定繰入損
(P/L特別損失)
1,000万円 災害損失特別勘定(B/S流動負債) 1,000万円

(3) 翌事業年度になって、950万円の修理が行われた。

借方 金額 貸方 金額
災害損失
(P/L特別損失)
950万円 現金預金 950万円
災害損失特別勘定 950万円 災害損失特別勘定取崩額
(P/L特別利益)
950万円

※ 災害のあった日から1年を経過する日の属する事業年度において、災害損失特別勘定の残額がある場合には、その残額を取り崩して益金の額に算入することとなりますが、やむを得ない事情により修繕等が遅れているときは、税務署長の確認を受けることにより、その修繕等が完了すると見込まれる日の属する事業年度まで、災害損失特別勘定の残額の益金算入を延長することができます。

(4) 決算で災害損失特別勘定の残額を取り崩した。

借方 金額 貸方 金額
災害損失特別勘定 50万円 災害損失特別勘定取崩額
(P/L特別利益)
50万円

講師契約書に貼る印紙代と節税方法

1.課税文書の判定と文書の所属

 次の講師契約書は実務上よく見る文書ですが、この契約書に貼る印紙はいくらになるでしょうか?

                講師契約書

 委任者○○(以下、甲という)と講師△△(以下、乙という)は、下記のとおり甲の専属講師として契約する。

第1条 乙は甲の依頼により、企業や官公庁、大学などで実務的な簿記会計や税務に関する講義、検定試験の受験指導にかかる講義を行うものとする。

第2条 甲が乙に講義を依頼する際は、実施場所、講義日数、講義料等を別表により通知する。依頼を受けた乙は、1週間以内に承諾の可否を甲に連絡するものとする。

第3条 講義等にかかる交通費は実費を支給する。

第4条 甲の依頼により、教材、資料などを作成する場合は、別途教材作成料を支払うものとし、その料金は別途協議する。

第5条 契約期間は、令和3年11月1日~令和4年10月31日の1年間とする。

 答えは「印紙は不要」です。
 この契約書に書かれているのは、甲の依頼により乙は講師の仕事を1年間行うということだけで、実際に企業等での講師の仕事を依頼されたわけではありません。第1条や第2条の文言から、この契約書の作成段階において、乙は甲から何も仕事を請け負っていない(具体的には何も取引が発生していない)ので、この契約書は不課税文書になります。したがって、印紙の貼付けは不要です。

 では、上記契約書以外に次のような別表がある場合は、印紙代はいくらになるでしょうか?

                  別表

実施場所:◇◇大学
講  座  名:簿記検定試験直前対策
開  催  日:令和3年11月6日(土)
開催時間:13:00~16:00
開催条件:最小開催人数を5人とする
講師謝礼:受講料(税込)の35%

 答えは「200円」です。
 最初の契約書だけなら、具体的な取引が発生していないので、印紙の貼付けは不要でしたが、今回は甲から乙に実際に仕事の依頼があり、別表にその具体的な内容が記載されています。乙が1週間以内に承諾する旨を甲に連絡すれば、本件については契約成立となり、別表は課税文書になります。
 文書の所属については、この講座が3か月を超えて複数回行われるものであれば、第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当する可能性がありますが、開催日が令和3年11月6日の1日だけですので、第2号文書(請負に関する契約書)となります。
 印紙税額を決める記載金額については、別表に「最小開催人数5人、講師謝礼は受講料(税込)の35%」と書かれていることから、記載金額(講師謝礼)を計算する際の元となる受講料は、受講者数によって変わります。別表からは実際の参加人数がわかりませんので、記載金額を計算することができません。したがって、この文書は記載金額のない第2号文書となり、印紙税額は200円となります。
 なお、契約を結んだときには別表がなく、後になって具体的な仕事が決まってから別表を作成する場合は、最初の契約書に印紙を貼る必要はありません。契約時には何も請け負っていないので、その契約書は不課税文書です。後日、別表が作成された時点で第2号の課税文書となり、別表に印紙を貼る必要があります。

2.印紙税の節税方法

 本事例は、別表がなければ不課税文書となり、印紙税はかかりません。とはいえ、甲が乙に仕事を依頼するには別表が必要です。
 そこで、別表を文書として作成するのではなく、別表の記載内容をメールでやり取りすれば、印紙税を納める必要はありません。

※ 印紙税の節税については、本ブログ記事「印紙税の節税方法5選」をご参照ください。

相続により取得した賃貸用建物の減価償却等の注意点

 被相続人が生前に不動産賃貸業を営んでおり、相続人がその不動産賃貸業を引き継ぐ場合には、いくつかの点に注意しなければなりません。
 例えば、引き継いだ賃貸用建物の減価償却費を計上するとき、取得価額をどのように決定すればいいのかについては、時価、簿価、相続税評価額などが頭に浮かびますが、これらを取得価額とすることはできるのでしょうか?
 また、相続で取得した賃貸用建物は、ほとんどの場合は中古資産に該当しますので、減価償却費を計上するときの耐用年数を「中古資産の耐用年数」(耐用年数省令第3条第1項)の規定で計算した耐用年数とすることができるのでしょうか?
 今回は、相続により賃貸用建物を取得した場合の減価償却等の注意点について確認します。

1.相続で取得した建物の取得価額と耐用年数

 冒頭で述べたように、相続により取得した建物の取得価額をいくらにすればよいかについては、思いつくままに挙げると、時価、簿価、あるいは相続税評価額などがあります。これらは、相続で取得した場合の取得価額になり得るのでしょうか?

 答えは「否」です。相続等により取得した資産について、所得税法施行令第126条第2項(減価償却資産の取得価額)※1の規定では、所得税法第60条1項(贈与等により取得した資産の取得費等)※2に規定する相続等により取得した資産が減価償却資産である場合の取得価額は、その減価償却資産を取得した者が引き続き所有していたものとみなした場合におけるその減価償却資産の取得価額に相当する金額とすることとされています。
 したがって、相続により取得した建物の取得価額は、時価、簿価、相続税評価額などではなく、被相続人の取得価額を相続人が引き継ぐこととなります。

 また、相続により取得した建物の耐用年数は、「中古資産の耐用年数」の規定で計算した耐用年数とすることができるのでしょうか?

 答えは「否」です。 耐用年数省令第3条第1項 に定める「中古資産の耐用年数」とは、次の計算式で計算した年数のことをいいます(その年数が2年未満となるときは2年とし、その年数に1年未満の端数があるときは切り捨てます)。

(1) 法定耐用年数の一部を経過した資産
 耐用年数=法定耐用年数-経過年数×0.8
(2) 法定耐用年数の全部を経過した資産
 耐用年数=法定耐用年数×0.2

 上述したように、相続等により取得した減価償却資産については、その減価償却資産を取得した者が引き続き所有していたものとみなされますので、相続により取得した建物の耐用年数を「中古資産の耐用年数」の規定で計算した耐用年数とすることはできません

 以上から、相続( 限定承認に係るものを除く )により取得した建物については、被相続人から取得価額、耐用年数、経過年数及び未償却残高を引き継いで減価償却費を計算することになります。
 なお、建物については賃貸用建物という業務用資産を前提に述べてきましたが、非業務用資産であっても相続人から取得価額、耐用年数、経過年数及び未償却残高を引き継ぐ点は同じです。異なるのは、非業務用資産の減価償却費は、次のように計算する点です。

 取得価額×90%×法定耐用年数の1.5倍の年数に応ずる旧定額法の償却率×経過年数

(参考条文)
※1 所得税法施行令第126条第2項(減価償却資産の取得価額)では、次のように規定されています。

 法第60条第1項各号(贈与等により取得した資産の取得費等)に掲げる事由により取得した減価償却資産(法第40条第1項第1号(たな卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入)の規定の適用があつたものを除く。)の前項に規定する取得価額は、当該減価償却資産を取得した者が引き続き所有していたものとみなした場合における当該減価償却資産のこの条及び次条第2項の規定による取得価額に相当する金額とする。

※2 所得税法第60条1項(贈与等により取得した資産の取得費等)では、次のように規定されています。

 居住者が次に掲げる事由により取得した前条第1項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。
一 贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)

2.青色申告承認申請書の提出期限に注意

 被相続人の不動産賃貸業を相続人が引き継ぐにあたって注意しなければならないことは、青色申告承認申請書の提出期限です。相続により事業を承継した場合の提出期限は、以下のとおりです。

(1) 被相続人が青色申告をしていた場合
 ① 相続開始を知った日が1月1日~8月31日→相続開始日から4か月以内
 ② 相続開始を知った日が9月1日~10月31日→その年の12月31日
 ③ 相続開始を知った日が11月1日~12月31日→翌年2月15日
(2) 被相続人が白色申告をしていた場合
 ① 相続開始を知った日が1月1日~1月15日→相続した年の3月15日
 ② 相続開始を知った日が1月16日~12月31日→相続開始日から2か月以内

 相続により事業を承継した場合は、通常の提出期限と異なるケースもあります。青色申告承認申請書の提出はしているものの、期限に間に合っていない事例も見受けられますので、提出期限にはご注意ください。

3.遺産分割と所得の帰属に注意

 被相続人の不動産賃貸業を相続人が引き継ぐにあたって、もう一点注意しなければならないことがあります。それは、相続した賃貸物件から生じる所得の帰属です。
 結論だけ端的に述べると、遺産分割成立前の未分割の相続財産から生じた所得については、法定相続分に応じて各相続人に帰属することとなります。
 また、遺産分割成立後の相続財産から生じた所得については、実際にその相続財産を相続により取得した相続人に帰属することとなります。
 詳しくは、本ブログ記事「未分割の相続財産から生じた不動産所得の帰属は?」をご参照ください。
 

役員報酬月額を低額に抑えて賞与を支給する社会保険料節約術の税務上のリスク

1.社会保険料節約スキーム

 社会保険料の負担を軽減するため、役員の報酬月額を極端に低く抑え、その代わりに賞与(事前確定届出給与)を支給するという方法を、数年前から耳にするようになりました。
 この方法では社会保険料の負担を減らすことができますが、それは、賞与に係る健康保険料と厚生年金保険料に上限が設けられているためです。
 賞与に係る社会保険料の上限は、賞与の支給額が健康保険料については年間累計で573万円、厚生年金保険料については1回の支給につき150万円となっています。
 つまり、賞与の支給額がこれらの上限を超える場合、例えば1,000万円の賞与を支給したとしても、健康保険料については573万円、厚生年金保険料については150万円をベースに社会保険料が計算されることになります。
 したがって、毎月の役員報酬を低く抑える一方、上限を超える役員賞与を支給すると、上限を超える部分の社会保険料は支払わなくてよいことになるので、社会保険料の節約になります。

 例えば、毎月100万円(年間1,200万円)の役員報酬の支給を、毎月10万円の役員報酬と1080万円の役員賞与の支給に変更した場合は、どれくらいの節約になるでしょうか?
 以下において、次の前提の下でシミュレーションをしてみます。

【前提】
・年齢50歳(配偶者あり)
・健康保険組合は協会けんぽ(兵庫)、一般の事業
・2021(令和3)年4月時点の税率、保険料に基づいて計算

 毎月100万円(年間1,200万円)の役員報酬を支給した場合の社会保険料(会社負担分+個人負担分)は、次のとおりです。

健康保険料 117,992円
厚生年金保険料 118,950円
子ども・子育て拠出金 2,340円
合計(月額) 239,282円
合計(年額) 2,871,384円

 毎月10万円の役員報酬と1,080万円の役員賞与を支給した場合の社会保険料(会社負担分+個人負担分)は、次のとおりです。

  役員報酬10万円 役員賞与1,080万円
健康保険料 11,799.2円 689,892円
厚生年金保険料 17,934円 274,500円
子ども・子育て拠出金 353円 5,400円
合計(月額) 30,086円 969,792円
合計(年額) 361,032円 969,792円

 以上の結果から、毎月100万円(年間1,200万円)の役員報酬の支給を、毎月10万円の役員報酬と1,080万円の役員賞与の支給に変更した場合は、2,871,384円-(361,032円+969,792円)=1,540,560円の社会保険料の節約(年額)になります。

2.税金を考慮しても有利?

 役員報酬月額を低く抑えて役員賞与を支給する方法は、上記のとおり社会保険料の節約になりますが、社会保険料が減るということは、会社の利益や個人の所得から控除できる額も減ることになりますので、その分の法人税等や所得税、住民税が増えることになります。
 社会保険料は、会社と個人が折半して負担しますので、1,540,560円を節約することにより、会社の利益と個人の所得がそれぞれ770,280円ずつ増えることになります。
 この増えた部分に対して税金がどれくらいかかるのかをシミュレーションすると、下表のようになります。税率は、法人税等31%、所得税33%、住民税10%としています。

法人税等 238,786円
所得税 254,192円
住民税 77,028円
合計 570,006円

 社会保険料を1,540,560円節約した結果、税金が570,006円増えますが、それでも1,540,560円-570,006円=970,554円だけ社会保険料の節約効果の方が大きいことがわかります。税金を考慮しても、この社会保険料節約スキームは有利であるといえます。

3.税務上のリスク

 この社会保険料節約スキームを実行するには、税務署に事前確定届出給与に関する届出をし、その届出通りの支給をしなければなりません。
 では、届出通りの支給をしている場合、役員賞与は損金の額に算入できるのでしょうか?
 法人が役員に対して支給する給与の額については、定期同額給与、事前確定届出給与及び業績連動給与に該当する場合は、原則として損金の額に算入されますので、事前確定届出給与の届出をし、そのとおりに給与と賞与を支給しているのであれば、その点では損金の額に算入することが認められます(法人税法34条1項2号)。
 一方、法人税法34条2項は、役員給与のうち不相当に高額な部分の金額は損金に算入しない旨を規定しています。
 ここで懸念されるのは、各月の役員報酬の支給額と役員賞与の支給額に大きな差があることから、不相当に高額であると認められる場合には、その部分の金額は損金の額に算入されないのではないか、ということです。
 先の例では、年間の給与総額が120万円で賞与の額が1,080万円、合計で1,200万円ですが、税法が定める不相当に高額な給与とは、各月の給与の支給額や個々の賞与の額で判定するのか、年間の支給総額で判定するのか、について疑問が生じます。
 この不相当に高額な部分の判定基準は、以下の実質基準と形式基準の2つが規定されており、これらの基準により算出される超過金額のうち、多い方の額を過大とすることとされています(法人税法施行令70条)。

(1) 法人が各事業年度においてその役員に支給した給与の額が、その役員の職務の内容、その法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況その法人と同種の事業を営む法人で事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、その役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額(実質基準)
(2) 定款の規定又は株主総会等の決議により役員に対する給与として支給することができる金銭の額の限度額若しくは算定方法等を定めている法人が、各事業年度においてその役員に対して支給した給与の額の合計額がその事業年度に係るその限度額及びその算定方法により算定された金額等を超えるにはその超える部分の金額(形式基準)

 税法の規定振りを見ると、「 各事業年度においてその役員に支給した給与の額 」又は「 各事業年度においてその役員に対して支給した給与の額の合計額 」とされており、各月の給与の支給額とも個々の賞与の額とも書かれていません。つまり、不相当に高額な部分の金額は、 各月の給与の支給額や個々の賞与の額で判定するのではなく、年間の支給総額で判定する ことになります。先の例では、報酬月額10万円や賞与1,080万円で判定するのではなく、支給総額の1,200万円で判定します。
 したがって、各月の役員報酬の支給額と役員賞与の支給額に大きな差があったとしても、事前確定届出給与の届出のとおりに支給されており、その支給した給与の合計額が不相当に高額であると認められない場合には、損金の額に算入されます
 結局のところ、この問題は、役員に支給した給与と賞与の総額が不相当に高額であるか否かという点に帰結します。

店舗の蛍光灯100本を単価1万円のLEDに取替えた場合の費用は修繕費?

1.修繕費か資本的支出か?

 LEDは消費電力が少ないので電気代の節約になり、また、寿命も長いので従来の蛍光灯よりも取替費用を抑えることができます。
 そのため、初期投資額はそれなりになるものの、長い目で見れば費用削減につながるため、店舗や事務所などで使用している蛍光灯を一斉に蛍光灯型LEDランプに取り替えるところも増えています。
 1本2本の交換なら、その購入費用を消耗品費などの勘定科目で費用処理することに躊躇することはないと思います。
 しかし、店舗や事務所のすべての蛍光灯を一斉にLEDに交換するとなると金額も高額になりますので、修繕費として費用処理できるのか、資本的支出として資産計上すべきなのかについて疑問が生じることもあると思います。
 そこで、次の設例をもとに、この点について考えます。

【取替の概要】
・店舗の蛍光灯100本すべてを、蛍光灯型LEDランプに取り替える。
 なお、この取替えに当たっては、建物の天井のピットに装着された照明設備(建物附 属設備)については、特に工事は行われない。
・蛍光灯型LEDランプの購入費用は、1本10,000円
・取付工事費は、1本1,000円
・取替えに係る費用総額は、1,100,000円

【取替メリット】
・消費電力が少ないので、電気代の削減になる
・寿命が長いので、費用が節約できる
・LEDランプの白色光は紫外線をほとんど含まないため、生鮮物や化学薬品に影響が小さく、また虫の飛来抑制にもなる
・安全で軽量である
・発熱が少ないため、空調に与える影響が少なく、エアコンなどに係る負担を軽減できる

2.部品の性能向上であって照明設備の価値向上ではない

 その支出が修繕費になるのか資本的支出になるのかについては、次のように規定されています。
 すなわち、法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額は修繕費となります(法人税基本通達7-8-2)。
 一方、法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち、当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額は資本的支出となります(法人税法施行令第132条、法人税基本通達7-8-1)。

 本設例において考慮すべき点は、蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えることで、節電効果や使用可能期間などが向上している事実をもって、その有する固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増しているとして資本的支出に該当するのかどうかということです。
 この点について、蛍光灯(又は蛍光灯型LEDランプ)は、照明設備(建物附属設備)がその効用を発揮するための一つの部品であり、かつ、その部品の性能が高まったことをもって、建物附属設備として価値等が高まったとまではいえないと考えられます。
 したがって、本設例の蛍光灯型LEDランプ への取替費用(総額1,100,000円)は、修繕費として処理することが相当です。

2以上の構造からなる建物の一部を区分所有した場合の耐用年数の判定

 2以上の構造からなる建物(35階建ての高層ビルのうち、1階から8階までが鉄骨鉄筋コンクリート造で、9階から35階までが金属造のもの)の1階から15階までをA法人が取得し、16階から35階までをB法人が取得することになりました。
 この場合、A法人が取得する部分の耐用年数は、次のうちどちらで判定するのでしょうか?

(1) 1階から8階までを鉄骨鉄筋コンクリート造で判定し、9階から15階までを金属造で判定する
(2) 1階から15階まですべて金属造で判定する

1.耐通1-2-1(建物の構造の判定)

 結論を先に述べると、正解は(2)になります。直感的には、(1)の方が合理的な判定方法のように見えますが、耐用年数の適用等に関する取扱通達1-2-1(建物の構造の判定)では、次のように規定されています。

1-2-1 建物を構造により区分する場合において、どの構造に属するかは、その主要柱、耐力壁又ははり等その建物の主要部分により判定する。

 本件建物のように8階までが鉄骨鉄筋コンクリート造、9階から35階までが金属造の高層ビルについては、金属造部分が大部分を占めることから、建物全体が金属造と認められます。 
 一般に超高層ビルのように下部の一部が鉄骨鉄筋コンクリート造、その他の部分が金属造であって、全体として金属造に該当すると認められる場合において、その一部の所有権を取得したときは、当該部分が鉄骨鉄筋コンクリート造部分であっても、耐用年数を適用する場合の構造の判定に当たっては、耐用年数の適用等に関する取扱通達1-2-2(2以上の構造からなる建物)の適用がある場合を除き、その建物全体の構造により判定することが相当と考えられます。
 したがって、本件建物については、 耐用年数の適用等に関する取扱通達1-2-2の適用はありませんので、金属造の建物としてその用途に応じて耐用年数を適用します。

2.耐通1-2-2(2以上の構造からなる建物)

 上記のとおり、耐用年数を適用する場合の構造の判定に当たっては、耐用年数の適用等に関する取扱通達1-2-2(2以上の構造からなる建物)の適用がある場合を除き、その建物全体の構造により判定することが相当と考えられますが、 耐用年数の適用等に関する取扱通達1-2-2の内容は、次のとおりです。

1-2-2 一の建物が別表第一の「建物」に掲げる2以上の構造により構成されている場合において、構造別に区分することができ、かつ、それぞれが社会通念上別の建物とみられるもの(例えば、鉄筋コンクリート造り3階建の建物の上に更に木造建物を建築して4階建としたようなもの)であるときは、その建物については、それぞれの構造の異なるごとに区分して、その構造について定められた耐用年数を適用する。

インボイス制度導入後の個人(消費者)からの仕入れに係る仕入税額控除

1.個人からの仕入れが多い事業者には例外措置あり

 2023(令和5)年10月1日から適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」といいます)が導入されます。インボイス制度が導入されると、免税事業者や消費者など、適格請求書発行事業者以外の者からの仕入れは、原則として仕入税額控除の適用を受けることができません。
 インボイス制度導入から6年間は、区分記載請求書等と同様の記載事項が記載された請求書と帳簿を保存することにより、仕入税額相当額の一定割合を控除することができる経過措置が設けられますが、2029(令和11)年10月1日からは仕入税額控除ができないことになります(経過措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照ください)。
 経過措置があるとはいえ、最終的には免税事業者や消費者からの仕入れは、原則として仕入税額控除の対象外となります。
 もし、取引の相手方である免税事業者が、インボイス制度の下で取引から排除されることを懸念して自ら課税事業者(適格請求書発行事業者)になるとしたら、この仕入税額控除という問題は解消される可能性があります。
 しかし、事業を行っていない消費者は、そもそも課税事業者(適格請求書発行事業者)になることができませんし、なろうともしないと思われます。
 そのため、例えば、個人からマイホームやマイカーを買い取ることが多い不動産業者や中古車販売業者などは、取引の相手方が課税事業者(適格請求書発行事業者)になれば・・・ということを期待できません。
 このような不動産業者や中古車販売業者には、原則課税との有利不利を度外視して簡易課税を選択するという方策も残されていますが、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えてしまうと簡易課税も選択できません。
 そこで、これらのことを踏まえて、個人(消費者)からの仕入れが多い事業者には、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるとする次の例外的な措置が講じられています。

2.帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合

 インボイス制度の下では、帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の要件ですが、以下の取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除の要件を満たすことになります。

(1) 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
(2) 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引((1)に該当するものを除きます)
(3) 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の購入
(4) 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の取得
(5) 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の購入
(6) 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産(古紙、空びん、廃自動車、廃家電製品等に該当するものに限ります)の購入
(7) 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等
(8) 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります)
(9) 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

 これらの取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められますが、「一定の事項」とはどのようなものでしょうか?

3.帳簿への一定の記載事項

 帳簿及び請求書等の保存を要せず帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる場合には、帳簿について、通常必要な記載事項に加え、次の事項の記載が必要となります。

(1) 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨
 例えば、上記2(1)に該当する場合は「3万円未満の鉄道料金」、上記2(2)に該当する場合は「入場券等」など。
(2) 仕入れの相手方の住所又は所在地
 ただし、次の者からの仕入れについては、「 仕入れの相手方の住所又は所在地 」を記載する必要はありません。

① 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送について、その運送を行った者
② 適格請求書の交付義務が免除される郵便役務の提供について、その郵便役務の提供を行った者
③ 課税仕入れに該当する出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)を支払った場合の当該出張旅費等を受領した使用人等
④ 上記2(3)の古物の購入の相手方(古物営業法により、業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限ります)
⑤ 上記2(4)の質物の取得の相手方(質屋営業法により、業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限ります)
⑥ 上記2(5)の建物の購入の相手方(宅地建物取引業法により、業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限ります)
⑦ 上記2(6)の再生資源及び再生部品の購入の相手方(事業者以外の者から受けるものに限ります)

 例えば、古物営業を営む場合、古物営業法において、商品を仕入れた際の対価の総額が1万円以上(税込み)の場合には、帳簿(いわゆる「古物台帳」)に「①取引年月日、②古物の品目及び数量、③古物の特徴、④相手方の住所、氏名、職業及び年齢、⑤相手方の確認方法」を記載し、保存しなければならないこととされています。
 一方、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合の帳簿の記載事項は、「①課税仕入れの相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地、②課税仕入れを行った年月日、③課税仕入れに係る資産又は役務の内容、④課税仕入れに係る支払対価の額、⑤帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨」ですが、古物台帳には①から④の事項が記載されていることになります。
 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合の帳簿の記載事項としては、⑤の事項も必要となるため、古物台帳と⑤の事項について記載した帳簿(総勘定元帳等)を合わせて保存することで、帳簿の保存要件を満たすことができます。


給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある場合の所得金額調整控除

 所得金額調整控除は、2020(令和2)年分以後の所得税について適用されます。その対象者は、①給与等の収入金額が850万円超で子ども・特別障害者を有する者等(措法41の3の3①)、②給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方の所得を有する者(措法41の3の3②)です。
 ①については、本ブログ記事「令和2年分から適用される基礎控除の改正と所得金額調整控除の新設」で確認しましたので、今回は②について確認します。

1.対象者と控除額

 給与所得と公的年金等に係る雑所得の両所得を有する者については、給与所得控除額と公的年金等控除額がそれぞれ10万円引き下げられたため、基礎控除額の10万円の引き上げだけでは負担増となるケースが生じ得ます。そこで、以下の内容の所得金額調整控除が措置されました。

(1) 対象者 
 その年の給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額がある居住者で、給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額の合計額が10万円を超える者

(2) 控除額

控除額=給与所得の金額(10万円を限度)+公的年金等に係る雑所得の金額(10万円を限度)-10万円
※ 総所得金額の計算上、給与所得の金額から控除する。

 給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方を有する者の総所得金額を計算する場合は、給与所得控除後の給与等の金額(10万円を超える場合は10万円)及び公的年金等に係る雑所得の金額(10万円を超える場合は10万円)の合計額から10万円を控除した残額が、その年分の給与所得の金額から控除されます。

2.留意点

(1) 公的年金等に係る確定申告不要制度の適用要件である「公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下」については、所得金額調整控除の金額で判定します。

(2) 公的年金等控除額を計算する場合の「 公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額」は、所得金額調整控除の金額となります。
 ただし、子ども・特別障害者を有する者等の所得金額調整控除(措法41の3の3①)の適用がある場合は、所得金額調整控除の金額となります。

出所:国税庁「令和2年分 年末調整のしかた」公的年金等控除額速算表

 次の2つの設例において、公的年金等控除額の計算方法を確認します。

【前提】
・年齢62歳
・給与収入1,200万円、公的年金等の収入100万円
・本人、同一生計配偶者及び扶養親族のいずれも特別障害者ではなく、23歳未満の扶養親族もいない。
【計算】
① 給与所得(所得金額調整控除前)
1,200万円-195万円(給与所得控除額)=1,005万円

② 公的年金等に係る雑所得
100万円-50万円(公的年金等控除額)=50万円
※ 所得金額調整控除の給与所得(1,005万円)で判定するため、公的年金等控除額は速算表より50万円になります。これを、誤って所得金額調整控除後の給与所得(995万円)で判定すると、公的年金等控除額が60万円となり、雑所得の金額が変わってしまいます。

③ 給与所得(所得金額調整控除後・措法41の3の3②)
1,200万円-195万円-10万円(所得金額調整控除額)=995万円
※ 給与所得、公的年金等に係る雑所得がどちらも10万円を超えているため、所得金額調整控除額は上限の10万円になります。
【前提】
・年齢62歳
・給与収入1,200万円、公的年金等の収入100万円
・19歳の扶養親族がいる。
【計算】
① 給与所得(所得金額調整控除前)
1,200万円-195万円(給与所得控除額)=1,005万円

② 給与所得(所得金額調整控除後・措法41の3の3①)
1,200万円-195万円-15万円(所得金額調整控除額)=990万円
※ 給与収入が1,000万円超のため、所得金額調整控除額は上限の15万円になります。

③ 公的年金等に係る雑所得
100万円-60万円(公的年金等控除額)=40万円
※ 子ども・特別障害者を有する者等の所得金額調整控除(措法41の3の3①)の適用がある場合は、所得金額調整控除の給与所得(990万円)で判定するため、公的年金等控除額は速算表より60万円になります。これを、誤って所得金額調整控除前の給与所得(1,005万円)で判定すると、公的年金等控除額が50万円となり、雑所得の金額が変わってしまいます。

④ 給与所得(所得金額調整控除後・措法41の3の3②)
990万円-10万円(所得金額調整控除額)=980万円
※ 給与所得、公的年金等に係る雑所得がどちらも10万円を超えているため、所得金額調整控除額は上限の10万円になります。

(3) 「給与等の収入金額が850万円超で子ども・特別障害者を有する場合の所得金額調整控除」と 「給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方の所得を有する場合の所得金額調整控除」は併用可能であり、両方の控除を適用した場合の控除額は最高25万円(15万円+10万円)となります(上記(2)の設例参照)。

相続人以外の貢献者を守る「特別寄与料制度」

 2018(平成30)年に行われた約40年ぶりの民法(相続関係)改正により、無償で被相続人の療養看護等を行った親族(相続人等を除く)は、相続人に対して金銭(特別寄与料)の請求をすることができるようになりました。
 この特別寄与料に関する規定は、2019(令和1)年7月1日以後に開始した相続から適用されます。
 今回は、新設された特別寄与料制度について確認します。

1.寄与分制度と特別縁故者制度

 従前から、被相続人の療養看護等に貢献した者等に対する金銭的な補償の制度として、寄与分制度と特別縁故者制度がありました。
 しかし、寄与分制度については、その権利(寄与分権)を行使できる者は相続人に限られているため、例えば、被相続人を献身的に介護した長男の妻は、相続人ではないため適用の範囲外であり、相続財産の分与を受けることができません。一方、相続人である長女や次男などは、被相続人の介護を全く行っていなかったとしても相続財産を取得することができるため、公平ではないという指摘がされていました。
 また、特別縁故者制度については、そもそも被相続人に相続人が不存在であることを要件としているため、適用されること自体が多くないと思われます。
 このように、寄与分制度と特別縁故者制度だけでは、被相続人の子の配偶者が被相続人の介護の世話を献身的に行ったとしても、その貢献に報いることはできませんでした。

2.特別寄与料制度

 そこで、改正民法では、相続人以外の親族※1が、被相続人に対して無償※2で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持又は増加※3について特別の寄与をした場合、相続人に対して金銭(特別寄与料)の請求ができるようになりました。

※1 親族とは、配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族をいいます。ただし、相続放棄者、相続欠格者、被廃除者を除きます。相続人が特別の寄与を行っていた場合は、従前通り、寄与分の請求を行うことになります。
※2 労務の提供は、無償であることが必要です。
※3 例えば、長男の妻が無償で療養看護を行うことによって、本来支出するはずであった看護費用などの支出を免れたような場合は「財産の維持」といえます。

 特別寄与料制度により、寄与分制度の適用の範囲外であった相続人以外の親族(例えば長男の妻)にも、金銭的な補償の機会が与えられました。
 ただし、金銭の請求ができるようになっても、相続人ではないので遺産分割協議に加わることはできません。
 また、介護で貢献したとしても、特別寄与料を請求する際に相続人からの納得を得るためには、客観的事実が明らかになる資料の提示が必要であると思われます。例えば、領収書などの出費の記録を残す、介護日誌などの介護に関する記録を残す、他の兄弟姉妹に手紙やメールで介護の状況を知らせておく、などです。

3.相続税法上の取扱い

 税務的な視点でみれば、特別寄与料を受け取った親族(以下「特別寄与者」といいます)は、その受け取った特別寄与料を遺贈により取得したものとして、相続税を課税されます。
 相続税法18条では、相続又は遺贈により財産を取得した者が、被相続人の1親等の血族及び配偶者以外の者である場合、相続税額を2割加算することとしています。
 したがって、特別寄与者が支払う相続税は、2割加算の対象になります。
 また、相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内とされていますが、当該申告期限内に特別寄与料が確定していないことが考えられます。そのような場合を想定して、特別寄与者の相続税申告期限は、特別寄与料の支払額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内とされています。
 一方、それぞれの相続分に応じて特別寄与料を負担した相続人は、特別寄与料を控除した相続財産について、相続税を課税されます。この場合にも相続税申告時に控除すべき特別寄与料が確定していないことが想定できるため、各相続人は負担しすぎた相続税の還付を受けるため、更正の請求を行うことができます。

贈与契約書に貼る印紙はいくら?

 相続税対策として、親から子へ現金や不動産などの生前贈与を行うことがあります。贈与契約自体は口頭だけでも成立しますが、後のトラブルを避けるためにも贈与契約書を作成しておく必要があります。
 この贈与契約書には、以下のように、何を贈与するかによって、収入印紙の貼付けが必要な場合と不要の場合があります。

1.不動産の贈与契約

 例えば、次のような土地建物の贈与契約書を作成した場合、印紙の貼付けは必要でしょうか?

 収入印紙を貼るべき課税文書は、印紙税法別表第1「課税物件表」に掲げられている20項目のうち、非課税文書に該当しない文書です。不動産の譲渡に関する契約書は、次のように課税文書(第1号の1文書)に該当します。

文書の種類
第1号の1文書 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書

 上記の不動産の贈与に関する契約書は、黄色マーカー部分の文言より、土地と建物の所有権を甲から乙へ移転する内容のものですが、このように対価を受けずに無償で贈与する場合は課税文書(第1号の1文書)に該当するのでしょうか?
 不動産をその同一性を保持させつつ他人に移転させることを内容とするものは、対価を受けるかどうかを問わず、第1号の1文書(不動産の譲渡に関する契約書)に該当します
 また、本事例の契約書には、土地の評価額が1,500万円、建物の評価額が300万円と記載されています(水色マーカー部分)。
 しかし、贈与は無償契約ですから、贈与契約書に土地と建物の評価額が記載されていても、その評価額は不動産譲渡の対価としての金額ではありませんので、印紙税額表の記載金額には該当しません
 したがって、本事例の贈与契約書は「記載金額のない第1号の1文書」となり、印紙税額は200円となります。

2.不動産以外の贈与契約

 不動産の贈与契約書については印紙税の課税対象となりますが、例えば、高価な時計や車、現金や株式などの贈与契約書は印紙税の課税対象にはなりません
 先に述べたように、収入印紙を貼るべき課税文書は、印紙税法別表第1「課税物件表」に掲げられている20項目のうち、非課税文書に該当しない文書です。時計や車、現金、株式などの贈与(無償の譲渡)はこの20項目に含まれていないため、課税文書にはなりません。