インボイス制度導入後の経過措置期間中の簡易課税制度における税抜経理方式による会計処理

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が開始されました。
 インボイス制度導入後は、インボイス発行事業者以外からの仕入れは原則として仕入税額控除ができませんが、インボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる場合もあり、例えば、経過措置や簡易課税制度などが該当します
 
 今回は、インボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れについて、簡易課税制度を選択し、かつ、税抜経理方式を採用している場合の会計処理について確認します。

※ 詳細については、本ブログ記事「インボイスの保存がなくても仕入税額控除できる15のケース」をご参照ください。

1.経過措置期間における本来の会計処理

 免税事業者などのインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れについては、2023(令和5)年10月1日から2026(令和8)年9月30日までの3年間は仕入税額相当額の80%、2026(令和8)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの3年間は仕入税額相当額の 50%を仕入税額控除できる経過措置が設けられています。

 この経過措置期間の最初の3年間に、課税事業者(簡易課税制度及び税抜経理方式を適用)が免税事業者から1,100円(税率10%)の課税仕入れを行ったときの会計処理は、原則として次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 1,020 現金預金 1,100
仮払消費税等 80    

 上記の会計処理は、本則課税(原則課税)を適用している課税事業者と同じになります。
 このような会計処理をするためには、交付された請求書等がインボイスの要件を満たしているかどうか、換言すれば、取引相手がインボイス発行事業者であるかどうかを確認しなければなりません。
 そのうえで(インボイスではないことを確認したうえで)、仕入税額相当額100円(1,100円×100/110)の80%である80円を仮払消費税等として計上します。

2.経過措置期間における簡便な会計処理

 しかし、簡易課税制度を適用している事業者は、インボイスの有無にかかわらず、課税売上げに係る税額にみなし仕入率を乗じて計算した金額の仕入税額控除が認められており、仕入税額控除をするに当たってインボイスの有無は要件とされていません。

 こうしたことを踏まえ、2023(令和5)年12月の消費税経理通達の改正において、税抜経理方式を適用している簡易課税制度適用事業者が課税仕入れを行った場合に、その取引相手がインボイス発行事業者かインボイス発行事業者以外の者かを厳密に区分する事務負担を軽減する観点から、簡便な会計処理が認められることとなりました。

 つまり、簡易課税制度を適用している課税期間を含む事業年度における継続適用を条件として、インボイスの有無にかかわらず全ての課税仕入れについて、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率の対象となるものは108分の8)を乗じて算出した金額を仮払消費税等の額とすることも認められました。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 1,000 現金預金 1,100
仮払消費税等 100    

3.事務負担軽減のために税込経理方式も

 上記2のとおり、2023(令和5)年12月の消費税経理通達の改正では、税抜経理方式を適用している場合の日々の記帳における事務負担軽減措置が講じられましたが、税抜経理方式を適用している以上は、一定の事務負担(法人税法上の税務調整等)が発生することは避けられないものと考えられます。

 こうしたことから、簡易課税制度適用事業者や計算構造が簡易課税制度と同じである2割特例適用事業者は、税込経理方式を採用することにより事務負担の軽減を図ることも考えられます。

 この点について、事業者が採用する会計処理は原則として継続適用が求められますが、インボイス制度導入を契機としてその会計処理を税込経理方式に変更する場合は特に問題とはなりません。

免税事業者がインボイス登録した場合の「基準期間の課税売上高」の計算方法

 2023(令和5)年10月1日から消費税のインボイス制度がスタートしました。このインボイス制度の導入によって、本来は免税事業者であるにもかかわらず、インボイス発行事業者として登録して課税事業者となった方も多いと思われます。

 今回は、免税事業者である個人事業者がインボイス発行事業者になった場合の基準期間の課税売上高の計算方法について確認します。

1.基準期間における課税売上高とは?

 消費税の納税義務があるかどうかを判定するための基準の一つとして「基準期間における課税売上高」があり、消費税申告書に参考事項として記載することになっています。

 基準期間とは、法人の場合は「その事業年度の前々事業年度」をいいます。前々事業年度が1年未満の場合は、1年分へ換算します
 例えば、前々事業年度(3か月)が免税事業者の場合でその間の課税売上高が330万円(税率は10%とします)のときは、基準期間における課税売上高は330万円×12か月/3か月=1,320万円となります(税抜処理をしません)。
 前々事業年度が課税事業者の場合は、330万円×100/110×12か月/3か月=1,200万円となります(税抜処理をします)。

 個人事業者の基準期間は、「その年の前々年」をいいます。前々年が1年未満の場合でも1年分への換算はしません
 例えば、前々年(3か月)が免税事業者の場合でその間の課税売上高が330万円のときは、基準期間における課税売上高は330万円となります(年換算も税抜処理もしません)。
 前々年が課税事業者の場合は、330万円×100/110=300万円となります(年換算はせず税抜処理をします)。

 このように、基準期間における課税売上高の計算方法は、法人と個人や免税事業者と課税事業者で異なりますが、以下では、免税事業者である個人事業者を前提として、基準期間における課税売上高の計算方法を確認します。

※ 他に「特定期間における課税売上高」がありますが、ここでの説明は省略します。

2.課税期間の中途からインボイス発行事業者となった場合

 本来は免税事業者であるにもかかわらず、インボイス制度がスタートした2023(令和5)年10月1日から課税事業者になった個人事業者は、令和5年10月1日から同年12月31日までの3か月間を消費税の集計期間として令和5年分の消費税申告を行いました。

 この個人事業者が2025(令和7)年分の消費税申告を行うにあたって、その基準期間は前々年である2023(令和5)年となります。
 では、その基準期間における課税売上高はどのように計算するのでしょうか?

 課税事業者となった令和5年10月から12月までの課税売上高を計算すればいいのでしょうか?
 それとも免税事業者であった令和5年1月から9月までの課税売上高も含めて計算するのでしょうか?

 結論は、免税事業者であった令和5年1月から9月までの課税売上高と、課税事業者となった令和5年10月から12月までの課税売上高との合計額を基準期間における課税売上高とします。
 また、免税事業者であった令和5年1月から9月までの課税売上高については、税抜処理を行わないことにも留意する必要があります。

 次の簡単な計算例で確認します(税率は10%とします)。

・令和5年1月~9月の課税売上高・・・550万円
・令和5年10月~12月の課税売上高・・・330万円

 令和7年分申告における「基準期間における課税売上高」は、次のように計算します。
 550万円(税抜処理しない)+330万円×100/110(税抜処理する)=850万円

 なお、上記計算例では、基準期間における課税売上高が850万円(1,000万円以下)となりましたので、この個人事業者は令和7年分の申告において2割特例を適用することができます。

※ 2割特例については、本ブログ記事「『売上税額の2割納税の特例』の適用期間の留意点」、「売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?」等をご参照ください。

誤ったインボイスを受け取ったときの3つの対応方法

 インボイス制度の下では、買い手が仕入税額控除を行うためにはインボイスの保存が必要です。
 もし、受け取ったインボイスに誤りがあった場合は、そのインボイスを保存したとしても仕入税額控除を行うことはできません。
 以下では、誤ったインボイスを受け取ったときに、買い手が仕入税額控除を行うための3つの対応方法について確認します。

1.売り手に修正インボイスの交付を求める

 売り手であるインボイス発行事業者は、交付したインボイス(適格請求書)、簡易インボイス(適格簡易請求書)又は返還インボイス(適格返還請求書)の記載事項に誤りがあったときは、買い手である課税事業者に対して、修正したインボイス、簡易インボイス又は返還インボイスを交付しなければならないこととされています。

 したがって、記載事項に誤りがあるインボイスを受け取った課税事業者は、仕入税額控除を行うために、売り手であるインボイス発行事業者に対して修正したインボイスの交付を求め、その修正したインボイスを保存する必要があります。
 なお、買い手が自ら追記や修正を行うことは認められていません。

2.買い手が仕入明細書等を作成する

 一方、買い手である課税事業者が作成した一定事項の記載のある仕入明細書等の書類で、売り手であるインボイス発行事業者の確認を受けたものについても、仕入税額控除を行うために保存が必要な請求書等に該当します。

 したがって、仕入税額控除を行うためにインボイスの記載事項の誤りを修正した仕入明細書等を買い手において作成し、売り手であるインボイス発行事業者の確認を受けた上で、その仕入明細書等を保存することもできます。
 この場合、売り手であるインボイス発行事業者は、改めて修正したインボイスを交付しなくても差し支えありません。

 なお、仕入明細書の記載事項は次のとおりです。

(1) 仕入明細書の作成者の氏名又は名称
(2) 課税仕入れの相手方の氏名又は名称及び登録番号
(3) 課税仕入れを行った年月日
(4) 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである旨)
(5) 税率ごとに合計した課税仕入れに係る支払対価の額及び適用税率
(6) 税率ごとに区分した消費税額等

3.買い手がインボイスを自ら修正する

 上記2の対応方法の場合は、例えば、相互に関連する複数の書類により仕入明細書等を作成することも可能であることから、受け取ったインボイスと関連性を明確にした別の書類として修正した事項を明示したものを作成し、当該修正事項について売り手の確認を受けたものを保存することも認められます。

 したがって、受け取ったインボイスに買い手が自ら修正を加えたものであったとしても、その修正した事項について売り手に確認を受けることで、その書類はインボイスであるのと同時に修正した事項を明示した仕入明細書等にも該当することから、当該書類を保存することで仕入税額控除の適用を受けることとしても差し支えないとされています。

 上記1にあるように、誤ったインボイスを受け取っても買い手が自ら追記や修正を行うことは認められていません。
 にもかかわらず、誤ったインボイスの修正を買い手に認めるのは、売り手の確認を受けることによって買い手が修正したインボイスが「インボイス」であるのと同時に上記2で認められる「仕入明細書」にも該当するからです。

 これにより、誤ったインボイスを受け取ったときに、例えば、売り手に電話等で修正事項を伝え、売り手が保存しているインボイスの写しに同様の修正を行ってもらえば、自ら修正を行ったインボイスの保存で仕入税額控除を行うことができます。

出所:国税庁ホームページ

 国税庁は、「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(令和5年10月改訂)」の公表後、納税者が直面する実務上の問題について追加問や既存問の改訂等として「多く寄せられるご質問」に整理・集約しています。
 上記3の取扱いは、「多く寄せられるご質問『問⑥買手による適格請求書の修正』」で述べられています。

ETC利用時のインボイスの保存方法

1.ETC利用照会サービスの利用証明書の保存が必要

 高速道路を利用する場合にETCシステムにより料金を支払い、後日、クレジットカードによりその料金を精算している事業者も多いと思われます。
 この場合、クレジットカード会社が発行するクレジットカード利用明細書を保存することによって消費税の仕入税額控除を行うことはできるのでしょうか?

 答えは「否」です。
 クレジットカード会社がそのカードの利用者に発行する利用明細書は、そのカード利用者である事業者に対して課税売上を行った売り手(高速道路会社)が作成・交付する書類ではなく、当該売り手(高速道路会社)の登録番号や適用税率なども記載されていないため、インボイスには該当しません。
 そのため、クレジットカード会社が発行した利用明細書を保存することにより仕入税額控除の適用を受けることはできません。
 この場合、課税売上を行った売り手(高速道路会社)から受領したインボイスを保存することで、仕入税額控除の適用が認められます。
 したがって、ETCクレジットカード※1を使用した高速道路料金について仕入税額控除の適用を受けるためには、原則としてすべての取引について高速道路会社が運営するホームページ(ETC利用照会サービス)からダウンロードした「利用証明書※2」(簡易インボイス)の保存が必要です。

※1 ETCクレジットカードとはクレジットカード会社がETCシステムの利用のために交付するカードをいい、高速道路会社が発行するETCコーポレートカード及びETCパーソナルカードを除きます。
 ETCコーポレートカード及びETCパーソナルカードを利用した場合は、月に一回発行される請求書がインボイスに対応した形式となります。

※2 利用料金が確定前の状態でETC利用照会サービスから発行される利用証明書は、インボイス対象外となりますのでご注意ください。

2.利用明細書と利用証明書を併せて保存してもOK

 しかし、ETCクレジットカードを使用して高速道路を利用する度に、すべての利用証明書をダウンロードして保存することは事務的な煩雑さを伴います。
 そこで、高速道路の利用が多頻度にわたるなどの事情によりすべての利用証明書の保存が困難なときは、クレジットカード会社が発行するクレジットカード利用明細書※3と、高速道路会社及び地方道路公社など(以下「高速道路会社等」といいます)の任意の一取引※4に係る利用証明書をダウンロードして併せて保存することで、仕入税額控除の適用を受けることができます。
 つまり、クレジットカード会社が発行するクレジットカード利用明細書だけの保存では仕入税額控除を受けることができませんが、ETC利用照会サービスからダウンロードした利用証明書とクレジットカード利用明細書を併せて保存する場合は仕入税額控除の適用を受けることができ、事務負担も緩和できます。

※3 個々の高速道路の利用に係る内容が判明するものに限ります。また、取引年月日や取引の内容、課税資産の譲渡等に係る対価の額が分かる利用明細データ等を含みます。

※4 複数の高速道路会社等の利用がある場合は、高速道路会社等ごとに任意の一取引の利用証明書を保存します。
 なお、利用証明書については、クレジットカード利用明細書の受領ごとに(毎月)取得・保存する必要はなく、高速道路会社等がインボイス発行事業者の登録を取りやめないことを前提に、高速道路会社等ごとに任意の一取引に係る簡易インボイスの記載事項を満たした利用証明書を一回のみ取得・保存することで差し支えないとされています。  
 また、例えば、A高速道路会社からB高速道路会社を経由してC高速道路会社の料金所で降りた際、C高速道路会社がまとめて利用証明書を発行している場合には、C高速道路会社の利用証明書を保存することになります。



インボイス不要の「自動販売機特例」「回収特例(3万円未満)」における帳簿の記載方法

1.自販機の住所を帳簿に記載する?

 以下の取引については、適格請求書(以下「インボイス」といいます)がなくても一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。

(1) インボイスの交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(公共交通機関特例)
(2) 簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除きます)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(回収特例)
(3)  古物営業を営む者のインボイス発行事業者でない者からの古物の購入 
(4) 質屋を営む者のインボイス発行事業者でない者からの質物の取得
(5) 宅地建物取引業を営む者のインボイス発行事業者でない者からの建物の購入
(6) インボイス発行事業者でない者からの再生資源又は再生部品の購入
(7) インボイスの交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等(自動販売機特例)
(8) インボイスの交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストにより差し出されたものに限ります)
(9)  従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

  これらの取引の帳簿記載に関しては、通常必要な記載事項に加えて次の事項の記載が必要です。

(a) 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる上記(1)~(9)のいずれかの仕入れに該当する旨
 例えば、上記(1)に該当する場合は「3万円未満の鉄道料金」や「公共交通機関特例」など、上記(2)に該当する場合は「入場券等」や「回収特例」など、上記(7)に該当する場合は「自動販売機特例」などと記載します。

(b) 仕入れの相手方の住所又は所在地(一定の者を除きます) 
 例えば、上記(7)に該当する場合は「○○市 自販機」や「××銀行□□支店ATM」などと記載します(参考:国税庁ホームページ「適格請求書等保存方式に関するQ&A」問110)。

 ここで、上記(b)についての記載に関しては少なからず疑問が生じます。
 例えば、神戸市内の自販機で飲料を購入した場合に「神戸市 自販機」と記載することに意味があるのでしょうか?そう記載することで飲料を購入した自販機を特定できるのでしょうか?

 この点に関して、2023(令和5)年12月22日に「令和6年度税制改正の大綱」が閣議決定され、仕入税額控除に係る帳簿の記載事項の見直しについて、以下のとおり、その方針が示されました。

 一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる自動販売機及び自動サービス機による課税仕入れ並びに使用の際に証票が回収される課税仕入れ(3万円未満のものに限る。)については、帳簿への住所等の記載を不要とする。
注)上記の改正の趣旨を踏まえ、令和5年10月1日以後に行われる上記の課税仕入れに係る帳簿への住所等の記載については、運用上、記載がなくとも改めて求めないものとする。

 この閣議決定に基づき、「自動販売機特例が適用される取引」や「回収特例が適用される取引(3万円未満の取引に限る)」における帳簿の記載事項については、「公共交通機関特例」などの取扱いと同様に「住所又は所在地」の記載を不要とする取扱いが整備されます(国税庁告示を改正予定)。
 なお、この整備前においても、運用上「住所又は所在地」の記載を求めないこととされています。

出所:国税庁ホームページ

2.自販機特例・回収特例(3万円未満)の帳簿への記載例

 令和6年度税制改正の大綱によって、インボイス制度が開始された令和5年10月1日以降に自販機特例や回収特例(3万円未満)が適用される取引については、帳簿に「住所又は所在地」を記載する必要がなくなりました。
 これらの取引については、具体的には次のように帳簿に記載します。

(1) 自販機特例
 例えば、会議の際に提供する飲み物として自動販売機で飲料(1本150円)を20本(3,000円)購入した場合、帳簿には次のように記載します。

出所:国税庁ホームページ

(2) 回収特例(3万円未満)
 例えば、従業員の福利厚生目的で〇〇施設の入場券(1枚2,000円)を4枚(8,000円)購入し使用した場合、帳簿には次のように記載します。

出所:国税庁ホームページ

 なお、自販機特例や回収特例(3万円未満)が適用される取引かどうかは、1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定します。
 また、帳簿に記載する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」及び「特例の対象となる旨」は、「自販機」との記載で差し支えありません。
 この記載方法に関する取扱いは、今回の見直し前後で変更はありません。

インボイス制度導入後の弥生会計・やよいの青色申告の設定と入力方法

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まりました。これに伴い、会計ソフトへ課税仕入取引を入力する際に、本則課税(原則課税)を適用している場合は従前の区分記載請求書等保存方式のときの入力に加えて「請求書区分(適格か区分記載か)」と「仕入税額控除割合(100%か80%(50%)か)」の選択が必要になりました。
 以下では弥生会計・やよいの青色申告を使用する場合を例に、課税仕入取引の入力方法を確認します。

1.会計ソフトの消費税設定

 免税事業者が経過措置を利用して2023(令和5)年10月1日からインボイス発行事業者となる場合は、9月決算法人(事業年度:令和5年10月1日~令和6年9月30日)を除いて、令和5年10月1日を含む課税期間に免税事業者である期間と課税事業者である期間が併存することになります。この場合は、令和5年10月1日から課税期間の末日までを対象期間として消費税申告書を作成します※1
 弥生会計では令和5年10月1日を含む課税期間のデータについて「消費税設定」で課税事業者を選択すると、その右側に「課税期間開始日設定」ボタンが現れます。そのボタンをクリックして開始日を登録すれば、開始日から課税期間の末日までの申告データが作成されます。課税期間短縮特例を選択した場合の申告データ作成手順とは異なりますのでご注意ください。
 また、税込1万円未満の少額取引に係るインボイス保存不要の特例(少額特例)※2の適用を受ける場合は、同じ消費税設定画面で「インボイス少額特例の適用対象に該当する」に✓を入れておきます。
 
※1 申告書に記載する課税期間は、課税期間短縮特例を選択していなければ、個人事業主の場合は「令和5年1月1日~令和5年12月31日」となります(「令和5年10月1日~令和5年12月31日」ではありません)。
※2 少額特例の詳細については、本ブログ記事「インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる『少額特例』とは?」をご参照ください。

 2割特例※3の適用を受ける場合は、「決算・申告」メニューの「消費税事業所設定」をクリックし、「申告書設定」タブの「2割特例(税額控除に係る経過措置)の適用」に✓を入れておきます。

※3 2割特例については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」をご参照ください。

2.帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引の「請求書区分」「仕入税額控除割合」

 2023(令和5)年10月1日以降の課税仕入取引を入力する場合は、「請求書区分」と「仕入税額控除割合」を選択する必要があります。
 弥生会計における「請求書区分」と「仕入税額控除割合」の基本的な選択基準は次のとおりです。

(1) 受け取った請求書がインボイスの場合・・・「適格」「100%」
(2) 受け取った請求書がインボイスではない場合・・・「区分記載」「80%」(ただし令和8年10月1日~令和11年9月30日については「区分記載」「50%」)※4
(3) 受け取った請求書がインボイスではない場合で少額特例を適用するとき・・・「区分記載」「100%」(ただし令和11年9月30日までの期間)

※4 免税事業者からの仕入れでも仕入税額控除できる「経過措置」については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照ください。

 上記(1)~(3)の基本的な選択基準に加えて、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引(特例9項目)についての「請求書区分」の選択基準は次のとおりです(「仕入税額控除割合」はすべて「100%」です)。

特例9項目 請求書区分
① インボイスの交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(公共交通機関特例) 適格
② 簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(回収特例)
③ 古物営業を営む者のインボイス発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入 区分記載
④ 質屋を営む者のインボイス発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の取得
⑤ 宅地建物取引業を営む者のインボイス発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
⑥ インボイス発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
⑦ インボイスの交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等(自動販売機特例) 適格
⑧ インボイスの交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)
⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当) 区分記載

 上記のうち①、⑦、⑨の入力例を以下に示します。

インボイスの保存がなくても仕入税額控除できる15のケース

 インボイス制度の下では、インボイス発行事業者以外からの仕入れは原則として仕入税額控除ができませんが、インボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる場合もあります。
 以下では、インボイスの保存がなくても仕入税額控除ができるケースについて確認します。

1.免税事業者からの仕入れでも仕入税額控除できる「経過措置」

 経過措置とは、激変緩和の趣旨から、インボイスを発行できない免税事業者からの仕入れであっても、インボイス制度開始後の3年間は80%、次の3年間は50%の仕入税額控除ができるというものです。
 インボイスの保存がなくても仕入税額控除できますが、帳簿には経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載しておかなければなりません。
 経過措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照ください。

2.「少額特例」を適用する場合

 少額特例は、インボイス制度開始後6年間に限り、小規模事業者が行う税込1万円未満の課税仕入れについては、インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められるという事務負担の軽減措置です。
 少額特例については、本ブログ記事「インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる「少額特例」とは?」をご参照ください。

3.インボイスの交付義務が免除される取引

 次の取引は、インボイス発行事業者が行う事業の性質上、インボイスを交付することが困難なため、インボイスの交付義務が免除されます。したがって、取引の相手方はインボイスの保存がなくても仕入税額控除できます。
 ただし、帳簿には以下のいずれかの仕入れに該当する旨を記載しておかなければなりません。

(1) 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送(公共交通機関特例)
(2) 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限る)
(3) 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限る)
(4) 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等(自動販売機特例)
(5) 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)

 なお、インボイスの交付義務が免除される取引については、本ブログ記事「適格請求書等の発行が免除される場合とは?」をご参照ください。

4.個人からの仕入れが多い事業者の場合

 事業者ではない個人からの仕入れが多い事業者(例えば個人からマイホームを買い取る不動産業者やマイカーを買い取る中古車販売業者など)には、インボイスの交付を受けることが困難であるなどの理由により、インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められるとする例外的な措置が講じられています。
 ただし、帳簿には以下のいずれかの仕入れに該当する旨を記載しておかなければなりません。

(1) 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の購入
(2) 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の取得
(3) 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の購入
(4) 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産(古紙、空びん、廃自動車、廃家電製品等)に該当するものに限ります)の購入

 なお、個人からの仕入れが多い事業者の例外的措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の個人(消費者)からの仕入れに係る仕入税額控除」をご参照ください。

5.回収される入場券や従業員に支給する出張旅費

 簡易インボイスが交付されるが回収される取引や、上記4と同様にインボイスの交付義務がない者との取引については、インボイスの保存がなくても仕入税額控除できます。
 ただし、帳簿には以下のいずれかの仕入れに該当する旨を記載しておかなければなりません。

(1) 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引
(2) 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

6.「簡易課税制度」を適用する場合

 上記1~5は、原則課税(本則課税)で仕入税額控除を行う場合を前提としていましたが、簡易課税制度を適用する場合はそもそもインボイスの保存は必要ありません。
 簡易課税制度は売上にかかる消費税(受け取った消費税)がわかれば、それにみなし仕入率(業種ごとに90%・80%・70%・60%・50%・40%と決められている)を乗じて仕入税額控除の額が計算できるので、原則課税のようにインボイスから消費税額を集計する必要がありません。

7.「2割納税の特例」を適用する場合

 2割納税の特例は、簡易課税制度におけるみなし仕入率を業種にかかわりなく一律80%とするものです。計算構造が簡易課税制度と同じなので、インボイスの保存は不要です。
 2割納税の特例については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」をご参照ください。

インボイス登録を最短でやめたい個人事業者は令和5年12月17日までに取消届の提出を!

1.インボイスの登録をしたものの・・・

 インボイス制度がスタートしてから1か月余りが経ちましたが、「インボイスの登録をやめることはできないか?」というご相談を受ける機会が増えています。
 これらのご相談者は、本来は免税事業者なのに、インボイス制度が導入されたが故にインボイス発行事業者の登録をされた個人事業主の方々です。
 多くの方が税理士の関与を受けておらず、インボイスの登録にあたって適切なアドバイスを受けることができなかったため、取引先に言われるがままに登録をしたケースがほとんどでした。
 ところが、インボイス制度が始まって蓋を開けてみたら、登録をしていない免税事業者も多いことを報道などで知って、冒頭のご相談に至ったようです。

2.最短では令和6年1月1日から免税事業者に戻れる

 上記の個人事業主の方々の場合、2023(令和5)年は、10月1日から12月31日までの3か月分については消費税の申告義務がありますが、2年縛りの制限がないため※1、最短では2024(令和6)年1月1日から免税事業者に戻ることができます※2

※1 「2年縛り」については、本ブログ記事「免税事業者がインボイスの登録を受ける場合の2年縛りに注意!」をご参照ください)。

※2 基準期間(2022(令和4)年1月1日~同年12月31日)の課税売上高が1,000万円を超えている場合は、インボイスの登録をやめても2024(令和6)年は課税事業者となりますのでご注意ください。

3.登録をやめる場合は取引先と相談を

 ただし、インボイスの登録をやめて免税事業者に戻る場合は、その旨を取引先に伝えて登録をやめた後の取引がどうなるかについて確認しておくことが必要です。
 もし、登録をやめるなら取引も打ち切るとか、消費税分は払わないというようなことを先方が通告してきた場合は(これらの行為は下請法や独占禁止法上問題となるおそれがありますので、面と向かって言われることはないと思いますが※3)、例えば、経過措置がある間は消費税分の20%を値引きする代わりに免税事業者のままでの取引継続を打診するなど※4、多少の妥協を含みながらも双方が納得できる着地点を探ることが大事です。

※3 独占禁止法・下請法上問題となる事例については、本ブログ記事「インボイス制度後の免税事業者との取引は独占禁止法・下請法違反に注意」をご参照ください。

※4 経過措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照ください。

4.登録取消届出書を期限までに提出

 取引先との交渉がまとまって、インボイスの登録をやめることができる場合は、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(登録取消届出書)を、翌課税期間の初日から起算して15日前の日までに税務署に提出します。
 具体的には、2023(令和5)年12月17日(日)までに登録取消届出書を提出すれば、2024(令和6)年1月1日から免税事業者に戻ることができます。
 なお、2023(令和5)年12月17日は日曜日ですので、税務署の窓口に提出する場合は12月15日(金)の閉庁時間(17:00)までに提出し、郵送の場合は12月17日(日)の通信日付印のあるものまでが有効です。e-Taxの場合は12月17日(日)の23:59:59までの受付となります。

 取引先との交渉がまとまらず、インボイスの登録を継続する場合は、消費税分も堂々と請求しましょう。
 そして消費税の申告をする際は、2026(令和8)年分までは「2割納税の特例」を適用することができますので、税負担・事務負担の軽減を図りましょう※5

※5 「2割納税の特例」については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」「売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?」をご参照ください。

免税事業者がインボイスの登録を受ける場合の2年縛りに注意!

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度がスタートしましたが、インボイス制度開始後も登録申請ができます。
 ただし、免税事業者がインボイスの登録を受ける場合は、消費税課税事業者選択届出書を提出していなくても、登録日から最低2年間は免税事業者に戻ることができない場合があります(いわゆる「2年縛り」です)。
 以下では、この2年縛りについて確認します。

1.免税事業者が経過措置期間中に登録を受ける場合

 免税事業者が、2023(令和5)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの日の属する課税期間中において、2023(令和5)年10月1日(=10月2日以後)に登録を受ける場合は、登録申請書に「提出日から15日以降の日」を登録希望日として記載することで、その登録希望日から登録を受けることとなる(=課税事業者となる)経過措置が設けられています。

 また、免税事業者が登録を受けるためには、原則として消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となる必要がありますが、この経過措置の適用を受けることとなる場合は、登録を受けるに当たり、課税事業者選択届出書を提出する必要はありません。

 なお、この経過措置の適用を受けてインボイス発行事業者の登録を受けた場合、基準期間の課税売上高にかかわらず、登録日から課税期間の末日までの期間について、消費税の申告が必要となります。

2.登録日の属する課税期間が令和5年10月1日を含まない場合は2年縛りあり

 上記の経過措置の適用を受ける登録日の属する課税期間が2023(令和5)年10月1日を含まない場合は、登録日の属する課税期間の翌課税期間から登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については免税事業者となることはできません。

 例えば、免税事業者である個人事業者や12月決算法人が2023(令和5)年12月1日から登録を受ける場合は、登録日(R5.12.1)の属する課税期間(R5.1.1~R5.12.31)が2023(令和5)年10月1日を含みますので、2年縛りはありません。
 したがって、最短では2024(令和6)年1月1日から免税事業者に戻ることができます(登録取消届出書を、翌課税期間の初日から起算して15 日前の日までに提出する必要があります)。

 しかし、免税事業者である個人事業者や12月決算法人が2024(令和6)年1月1日から登録を受ける場合は、登録日(R6.1.1)の属する課税期間(R6.1.1~R6.12.31)が2023(令和5)年10月1日を含みませんので、2年縛りがあります。
 この場合は、登録日(R6.1.1)の属する課税期間(R6.1.1~R6.12.31)の翌課税期間(R7.1.1~R7.12.31)から登録日以後2年を経過する日(R7.12.31)の属する課税期間(R7.1.1~R7.12.31)まで免税事業者になることができません。
 したがって、課税事業者としての強制適用期間は、2024(令和6)年1月1日から2025(令和7)年12月31日までの2年間となります。

 また、免税事業者である個人事業者や12月決算法人が2024(令和6)年2月1日から登録を受ける場合も、登録日(R6.2.1)の属する課税期間(R6.1.1~R6.12.31)が2023(令和5)年10月1日を含みませんので、2年縛りがあります。
 この場合は、登録日(R6.2.1)の属する課税期間(R6.1.1~R6.12.31)の翌課税期間(R7.1.1~R7.12.31)から登録日以後2年を経過する日(R8.1.31)の属する課税期間(R8.1.1~R8.12.31)まで免税事業者になることができません。
 したがって、課税事業者としての強制適用期間は、2024(令和6)年2月1日から2026(令和8)年12月31日までの2年11か月間となります。

 上記のように免税事業者である個人事業者や12月決算法人を前提にすると、2024(令和6)年1月1日以降にインボイスの登録を受ける場合は、消費税課税事業者選択届出書を提出していなくても、2年縛りがあります。

 免税事業者がインボイスの登録を受ける場合の2年縛りの有無について、結論を示すと次のようになります。

2023(令和5)年10月1日を含む課税期間に、登録に係る経過措置の適用により登録を受ける場合は、「2年縛りなし
2023(令和5)年10月1日を含む課税期間の翌課税期間以後に、登録に係る経過措置の適用により登録を受ける場合は、「2年縛りあり

今日から始まるインボイス制度~Q&A~

 今日からインボイス制度が始まります。新しい制度の導入前後は混乱が生じやすいですが、事業者の皆さんは疑問点をクリアにして、実務対応を図る必要があります。
 今回は、FM宝塚「インボイス制度ってな~に?パート2」で本日の8:15からオンエアした内容を、Q&A形式でお伝えします。

※ 番組の概要については、本ブログ記事「FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします」をご参照ください。

1.免税事業者と交渉の場を持つ

Q.課税事業者が免税事業者との取引(価格交渉など)において注意すべき点は?

A.取引上優越的な立場にある課税事業者が、インボイス制度実施後も免税事業者でいることを選択した事業者に対し、「課税事業者にならなければ消費税分は払わない」とか「取引を打ち切る」などと一方的に通告することは、下請法や独占禁止法上問題となるおそれがあります。

Q.課税事業者も法令違反になるのは避けたいところですが、具体的にはどのように免税事業者と取引すればいいでしょうか?

A.経過措置を思い出して下さい。

Q.経過措置とは、免税事業者からの仕入であっても、インボイス制度実施後(今日)から3年間は80%、その後の3年間は50%の仕入税額控除ができるというものでしたね。

A.はい。免税事業者との取引でも仕入税額控除が全くできないということではありませんので、いきなり消費税分を払わないなどと言わずに価格交渉の場を持ち、多少の妥協を含みながらも双方が納得できる着地点を探ることが大事です。一方的な通告はダメです。

2.令和5年10月1日前後の実務対応

Q.免税事業者の中には今回インボイスの登録申請をした方もいると思うのですが、インボイスの登録申請期限は9月30日(昨日)まででしたね。登録番号の通知はすぐに届くのでしょうか?

A.今のところ、e-Taxで申請した場合は通知が届くまで約1か月、郵送の場合は約2か月半かかるようです。駆け込みで登録申請した場合は、10月1日(今日)までに登録通知が届かないと思いますが、9月30日までに登録申請書を提出した場合は、10月1日(今日)から登録を受けたものとみなされます。

Q.とはいえ、登録通知が届かないということは、売り手が発行する請求書等に登録番号を記載できないということであり、インボイスの記載事項を欠くことになりますよね?登録通知が届くまでの間、売り手はどのように対応すればいいですか?

A.次の3つの方法が考えられます。

(1) 事前にインボイスの交付が遅れる旨を取引先に伝え、通知後にインボイスを交付する。
(2) 通知を受けるまでは登録番号のない請求書等を交付し、通知後に改めてインボイスを交付し直す。
(3) 通知を受けるまでは登録番号のない請求書等を交付し、その請求書等との関連性を明らかにした上で、インボイスに不足する登録番号を書類やメール等でお知らせする。

Q.継続的な取引関係がある事業の場合はこの3つの方法で対応ができますが、不特定多数の人を相手にする小売店や飲食店などの場合は、後でインボイスを交付したりメールで登録番号をお知らせしたりできないですよね?この場合はどうすればいいですか?

A.小売店等の売り手は、事前にインボイスの交付が遅れる旨をHPや店頭でお知らせした上で、次の2つの方法を採ることが考えられます。

(1) 登録通知が届いたら小売店等のHPや店頭で、「弊社の登録番号は『T1234・・・』です。令和5年10月1日から令和5年○月○日(通知を受けた日)までの間のレシート等をお持ちの方で仕入税額控除を行う方におきましては、当ページを印刷するなどの方法により、レシート等と併せて保存してください。」のように掲示して、広く一般に周知する方法。

(2) 買い手側から電話等で質問を受けたときに登録番号をお知らせし、その登録番号の記録とレシート等とを併せてインボイスとして保存してもらうという、インボイスが必要な人だけに対応する方法。

Q.売り手側ではこのような対応ができますが、いずれにしても登録番号の通知が届くまでは、登録番号を記載したインボイスを交付することができません。そうすると、登録番号のない請求書等を受け取った買い手がそのまま申告期限を迎えた場合、仕入税額控除を行っていいのかどうかという疑問が生じます。

A.この点については、事前に売り手からインボイス発行事業者の登録を受ける旨の連絡があったときは、申告期限後であってもインボイスや登録番号のお知らせを受け取るのであれば、登録番号のない請求書等に記載された金額を基礎として仕入税額控除を行うことができます。この場合は、事後的に交付されたインボイスや登録番号のお知らせを保存することが必要となります。

Q.インボイスがないまま仕入税額控除を行ったものの、後で売り手からインボイスや登録番号のお知らせをもらえなかった場合はどうすればいいですか?

A.そのような場合には、仕入税額控除を行った翌課税期間において、本来の控除税額との差額を調整することとして差し支えありません。