登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、2023(令和5)年4月1日から改正内容の一部が反映される(4)について確認します。

※ (1)の「2割特例」の制度概要については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、(2)(3)の制度概要等については「インボイス制度に係る支援措置:R5年4月以降の申請可・少額取引のインボイス保存不要等」ご参照ください。

1.インボイス登録手続きの柔軟化

出所:財務省ホームページ

 2023(令和5)年度税制改正では、上述したとおり4つの負担軽減措置が講じられました。
 そのほとんどが、インボイス制度がスタートする2023(令和5)年10月1日から適用されますが、「登録制度の見直しと手続きの柔軟化」のうち「手続きの柔軟化」については、2023(令和5)年4月1日から適用されます。

 改正前は、インボイス制度がスタートする2023(令和5)年10月1日からインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)になるためには同年3月31日までに登録申請しなければならず、同年4月1日以降に登録申請する場合は、同年3月31日までに申請することにつき「困難な事情」を申請書に記載する必要がありました。
 改正後は、2023(令和5)年4月1日以降の登録申請であっても、「困難な事情」の記載は不要となり、同年9月30日までに登録申請すれば同年10月1日からインボイス発行事業者になることができます。

2.インボイス登録制度の見直し

出所:財務省ホームページ

 「登録制度の見直しと手続きの柔軟化」のうち「登録制度の見直し」については、2023(令和5)年10月1日から適用されます。

 免税事業者がインボイス発行事業者の登録申請をして課税期間の初日から登録を受けようとする場合、現行(改正前)では、当該課税期間の初日の前日から起算して1か月前の日までに登録申請書を提出しなければなりません。
 改正後は、当該課税期間の初日の前日から起算して15日前の日までに短縮されます。
 したがって、2023(令和5)年10月1日後にインボイス発行事業者の登録を受けようとする免税事業者は、その登録申請書に、提出日から15日以後の日を登録希望日として記載することとなります。
 この場合、登録希望日後に登録がされたときは、当該登録希望日に登録を受けたものとみなされます。

 なお、登録を取り消す場合の届出書の提出期限についても、同様の措置が講じられています。
 すなわち、インボイス発行事業者が登録取消届出書を提出し、その提出があった課税期間の翌課税期間の初日から登録を取り消そうとする場合は、当該翌課税期間の初日から起算して15日前の日(現行(改正前)は、その提出があった課税期間の末日から起算して30日前の日の前日)までに届出書を提出しなければなりません。

インボイス制度に係る支援措置:R5年4月以降の申請可・少額取引のインボイス保存不要等

 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、インボイス制度の円滑な実施に向けて、インボイス制度に係るいくつかの支援措置が講じられました。
 前回の記事では、その支援措置のうち売上税額の2割納税の特例について確認しましたが、今回は、2割納税の特例以外の主な措置について概観します。
 また、令和4年度第2次補正予算におけるインボイス制度への対応に係る支援策についても概観します。

1.令和5年4月以降も申請可能

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度が開始されますが、この制度開始時からインボイス発行事業者の登録を受けるためには、原則として2023(令和5)年3月31日までに申請書を提出する必要があり、2023(令和5)年4月1日以降に申請する場合は「困難な事情」があることを記載する必要がありました。
 しかし、令和5年度税制改正大綱においては、事業者の準備状況を考慮して、「困難な事情」の記載がなくても2023(令和5)年4月1日以降も申請できるように改められ、この場合でも制度開始時の登録が可能となりました。

2.少額取引はインボイスの保存不要

 基準期間の課税売上高が1億円以下の事業者等については、税込1万円未満の課税仕入れであれば、インボイスの保存がなくても帳簿の保存のみで仕入税額控除ができるようになりました。この措置は、2023(令和5)年10月1日から6年間実施されます。

※ 本特例の対象となる1万円未満かどうかの判定は、税込価額で行います。また、その金額の判定単位は、課税仕入に係る1商品ごとの金額ではなく、1回の取引の合計額が1万円未満であるかどうかにより判定します。

(1) 対象になる者
 基準期間(法人は2期前、個人は2年前)の課税売上高が1億円以下または特定期間(法人は前期の上半期、個人は前年の1月~6月))の課税売上高が5,000万円以下の者

※ 特定期間における5,000万円の判定に当たり、課税売上高に代えて給与支払額の合計額の判定によることはできません。

(2) 対象となる期間
 2023(令和5)年10月1日~2029(令和11)年9月30日

3.少額値引・返品は返還インボイスの交付不要

 すべての事業者は、税込1万円未満の値引きや返品等については、返還インボイスを交付する必要がなくなりました。振込手数料分を値引処理する場合も対象となります。
 また、この措置には適用期限はありません。

(1) 対象になる者
 すべての事業者

(2) 対象となる期間
 適用期限がない恒久的措置

4.インボイス制度対応に係る補助金支援

 インボイス制度への対応に係る支援策について、令和4年度第2次補正予算では、商工会・商工会議所及びよろず支援拠点等による講習会の開催や専門家派遣を含む事業者からの相談体制の強化に加え、IT導入補助金における補助下限の撤廃や、小規模事業者持続化補助金における補助上限の一律50万円上乗せ等が実施されます。

(1) IT導入補助金の下限撤廃

 IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)について、安価な会計ソフトも対象となるように、補助下限額が撤廃されました。

① 対象になる者
 中小企業・小規模事業者等

② 補助額(下限額を撤廃)
 ・ITツール:~50万円(補助率3/4以内)、50~350万円(補助率2/3以内)
 ・PC、タブレット等:~10万円(補助率1/2以内)
 ・レジ、券売機等:~20万円(補助率1/2以内)

③ 補助対象
 ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、ハードウェア購入費等

(2) 小規模事業者持続化補助金の50万円上乗せ

 小規模事業者持続化補助金について、免税事業者がインボイス発行事業者に登録した場合、補助上限額が一律50万円加算 されます。

① 対象になる者
 小規模事業者

② 補助上限
 50~200万円(補助率2/3以内、一部の類型は3/4以内)が、100~250万円(インボイス発行事業者の登録で50万円プラス)

③ 補助対象
 税理士相談費用、機械装置導入、広報費、展示会出展費、開発費、委託費等
 

インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税

 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、インボイス制度の円滑な実施に向けて、インボイス制度に係る支援措置がいくつか講じられました。
 以下では、その支援措置のうち、売上税額の2割納税の特例について概観します。

1.売上に係る消費税の2割の納税でよい

 消費税の納税額は、売上に係る消費税(売ったときに受け取った消費税)から仕入れに係る消費税(買ったときに支払った消費税)を差引いて計算します。
 例えば、税率が10%の場合、77,000円で仕入れた商品を110,000円で売ったとすると、納税額は10,000円(受け取った消費税)から7,000円(支払った消費税)を差引いた3,000円になります。この支払った消費税を差引くことを「仕入税額控除」といいます。
 今回の令和5年度税制改正大綱では、免税事業者がインボイス発行事業者になった場合の税負担と事務負担を軽減するために、仕入れに係る消費税(買ったときに支払った消費税)がいくらであろうと、売上に係る消費税(売ったときに受け取った消費税)の2割だけを納税すればよいという特例が設けられました。
 先の例でいうと、実際には仕入に係る消費税が7,000円だったとしても、売上に係る消費税10,000円の2割である2,000円を納税すればよいことになり、1,000円分の税負担が軽減されます。
 また、消費税の申告を行うためには、通常、経費等の集計やインボイスの保存などが必要となりますが、この特例を適用すれば、所得税・法人税の申告で必要となる売上高を税率毎(軽減税率8%と標準税率10%など)に把握するだけで、申告書の作成(納税額の計算)ができるようになります。
 さらに、事前の届出も不要ですので、申告時に適用するかどうかの選択が可能です。
 この特例をまとめると、次のようになります。

(1) 特例の対象となる者
 免税事業者からインボイス発行事業者になった者(基準期間の課税売上高が1,000万円以下等の要件を満たす者で、インボイス発行事業者の登録をしなければ課税事業者にならなかった者)が対象

(2) 特例の対象となる期間
 ・法人は、2023(令和5)年10月1日~2026(令和8)年9月30日を含む課税期間
 ・個人事業者は、2023(令和5)年10~12月の申告から2026(令和8)年分の申告まで

 なお、課税期間の特例の適用を受ける課税期間等については適用されません(2割納税の特例の適用期間については、本ブログ記事「『売上税額の2割納税の特例』の適用期間の留意点」をご参照ください)。

(3) 事前の届出
 この特例を適用するにあたって、事前の届出は不要(確定申告書に特例の適用を受ける旨を付記するだけ)

2.簡易課税制度との関係

 令和5年度税制改正大綱で設けられた上記の売上税額の2割納税の特例は、従来の簡易課税制度におけるみなし仕入率を、業種にかかわりなく一律に80%とすることと同義であるといえます。
 免税事業者がインボイス発行事業者になる場合に、仕入税額控除の方法を原則課税ではなく簡易課税にするという選択肢もありましたが、今回設けられた2割納税の特例との有利不利を考慮したうえで判断しなければなりません(2割納税の特例と簡易課税の有利不利については、本ブログ記事「売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?」をご参照ください)。

※ 免税事業者がインボイス発行事業者となる場合の簡易課税制度の選択については、本ブログ記事「免税事業者がインボイス発行事業者となる場合の事前準備」をご参照ください。

法人成りにおける個人と法人の税務上の取扱い

 個人事業主が既存事業を法人化することを、法人成りといいます。法人成りの際には、個人事業主時代の棚卸資産や固定資産等を法人に引き継ぐことがあります。
 主な引き継ぎ方法には現物出資と売却がありますが、一般的には売却によることが多いと思われます。
 そこで、以下では、法人成りに際して個人から法人へ棚卸資産や固定資産を売却した場合の税務上の取扱いについて確認します。

1.個人から法人へ棚卸資産を売却した場合

 個人事業主が棚卸資産(商品や原材料など)を法人へ売却した場合は、所得税における所得区分は事業所得になります。したがって、個人の確定申告では、通常の売上に加えて法人成りの際の法人への売上も計上しなければなりません。
 また、棚卸資産が課税資産の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、非課税資産(例えば、不動産販売業における土地など)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から棚卸資産を購入した法人は、その棚卸資産を仕入(商品)として計上します。

2.個人から法人へ減価償却資産を売却した場合

 個人事業主が減価償却資産(建物附属設備、車両運搬具、備品など)を法人へ売却した場合は、所得税法における所得区分は譲渡所得(総合課税)になります。
 また、課税資産の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、非課税資産(例えば、介護タクシー事業における福祉車両など)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から減価償却資産を購入した法人は、その減価償却資産を有形固定資産として計上し、中古資産の取得として見積法又は簡便法による耐用年数で減価償却を行います(中古資産の耐用年数によらずに、法定耐用年数で減価償却することもできます)。
 ただし、取得価額が30万円未満の少額減価償却資産については、損金経理を要件として全額を損金算入することができます(青色申告を行う中小企業者)。

※ 車椅子のまま車に乗るタイプであれば消費税は非課税ですが、助手席や後部座席が回転・昇降するタイプは、消費税の課税対象となります。

3.個人から法人へ事業用建物・土地を売却した場合

 個人事業主が事業用の建物や土地を法人へ売却した場合は、所得税法における所得区分は譲渡所得(分離課税)になります。
 また、建物(課税資産)の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、土地(非課税資産)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から建物や土地を購入した法人は、その建物や土地を有形固定資産として計上し、建物については中古資産の取得として見積法又は簡便法による耐用年数で減価償却を行います(中古資産の耐用年数によらずに、法定耐用年数で減価償却することもできます)。
 仮に、建物の取得価額が30万円未満だった場合は、損金経理を要件として全額を損金算入することができます(青色申告を行う中小企業者)。
 なお、土地は非減価償却資産であるため、減価償却は行いません。

会社・役員間において賃貸物件の原状回復(内部造作の撤去)をしない場合の課税関係

 会社とその役員との間で、建物の賃貸借取引を行う場合があります。例えば、役員所有の建物に、会社が内装工事を行って本店や営業所として賃借する場合などです。
 この賃貸借契約が終了するにあたり、会社が入居時に行った内装工事(内部造作)を撤去せずにそのままの状態で退去する場合があります。
 この場合の会社側の会計処理として、内装工事の簿価(未償却残高)を固定資産除却損として費用計上することが考えられますが、税務上は気をつけなければならないことがあります。
 以下では、会社が原状回復(内部造作の撤去)をせずに賃貸物件を退去する場合の、会社と役員双方の課税関係について確認します。

1.概要

 不動産販売業を営むA社は、社長のB氏が法人成りしてできた会社です。法人成りの際に、B氏の自宅を増築(B氏が費用負担)し、そこに内装工事(A社が費用負担)を行って本店兼営業所として使用していましたが、この度、B氏個人が新たに建築した建物をA社の新社屋(本店兼営業所)として使用することになり、登記も済ませました。
 A社では法人成りの際の内装工事代350万円を建物勘定で資産計上しており、当期首の簿価(未償却残高)は260万円となっています。

 本店移転に伴って、旧本店(B氏自宅の増築部分)は廃止し営業所(支店)としても使用しません。宅建業法では営業所に専任の宅建資格者(宅地建物取引士)を設置しなければなりませんが、A社には宅建資格者がB氏1名しかいませんので、旧本店を営業所(支店)として使用することはできません(B氏は新社屋の専任資格者になります)。

 したがって、旧本店を今後事業の用に供することはありませんが、内装はそのままにしています。内装工事の内容は、床を土足仕様にしたり、営業所の入口としてガラス扉を設けたりしたことが主なものです。
 なお、旧本店を事業の用に供することはありませんが、そのままの内装の状態でB氏の自宅として使う可能性はあります(例えば、子供の勉強部屋など)。

 また、これまでA社からB氏に旧本店の家賃を支払っていましたが、新社屋への移転に伴って旧本店との賃貸借契約を解除し、新社屋の家賃をA社からB氏に支払う賃貸借契約を新たに結びました。
 どちらの契約もA社に原状回復義務があり、B氏に造作等の買取義務はありませんが、旧本店との賃貸借契約を解除するにあたって、A社においては内装の撤去工事の費用を節約できること及び撤去工事をしても廃材の売却収入が見込めないこと、B氏においては現状でも自宅として使用可能であることから、内装はそのままにしています。

2.旧本店の内部造作の処理と課税関係

 このような状況の下で、A社で資産計上されている建物:内装工事(期首簿価260万円)の処理方法と、それぞれの場合におけるA社とB氏の課税関係は、次のように考えられます。

(1) A社からB氏へ無償譲渡(賃貸借契約解除時に除却)

 この場合のA社の会計上の仕訳は、次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
固定資産除却損 243万円    

 これに対して、税務上の仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
建物譲渡原価 243万円    
寄附金 243万円 建物譲渡収益 243万円

 減価償却費17万円は、期首から賃貸借契約解除時までの月割額です。A社が内部造作を放棄してそのままの状態で退去するということは、A社からB氏へ内部造作の無償譲渡が行われたということです。このとき、A社では建物の簿価243万円を固定資産除却損として会計処理しています。

 ところが、税務上は、有償譲渡だけではなく無償譲渡に係る収益も益金の額に算入することになります(法人税法第22条第2項)。 つまり、資産の無償譲渡が行われた場合には、原則としてその資産の時価で譲渡されたものとみなされます。
 また、その資産の時価と譲渡対価の額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、寄附金の額に含まれるものとされます(法人税法第37条第8項)。
 したがって、会計上は固定資産除却損を計上していたとしても、税務上は寄附金とみなされ、寄附金とみなされた金額のうち損金不算入部分の金額は課税されます。
 ただし、固定資産除却損は、第三者間の取引であれば造作を放棄する合理的な理由(撤去費用を負担せずにすむ)がある場合(※)は、その無償譲渡は贈与等には該当せず寄附金課税されないと解されています(税務通信3434号)。
 
※ 第三者間取引でも、造作を取り壊すより放棄した方がコストが低いような場合(撤去費用が廃材売却収入より多くかかる場合)は合理的な理由と認められますが、そうでない場合(撤去費用を上回る廃材売却収入がある場合)は寄附金課税されると考えられます。

 A社の無償譲渡が第三者との取引であれば、固定資産除却損は税務上も損金算入されると考えられますので、課税上の特段の問題は生じません。
 しかし、今回のA社の無償譲渡は役員B氏との取引であるため、税務上は次のように考える必要があります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
建物譲渡原価 243万円    
役員給与 243万円 建物譲渡収益 243万円

 会計上は固定資産除却損を計上していたとしても、税務上は損金不算入の役員給与とみなされます。
 したがって、A社については、固定資産除却損243万円が損金不算入とされ法人税等が課税されます。また、役員給与243万円に対して、所得税の源泉徴収が必要になります。

 一方、B氏については、受贈益課税されます。すなわち、契約上は原状回復義務がA社にあるにもかかわらずそれを免除したということは、B氏にとって価値ある資産を譲り受けたものとして捉えられますので、役員給与として受贈益課税されると考えられます。
 したがって、B氏については、役員給与243万円に対して所得税の負担が生じます。

(2) A社からB氏へ有償譲渡(賃貸借契約解除時に売却)

 この場合のA社の会計処理は、次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
現金預金 243万円    

 時価の算定が困難であることから、売却時点の簿価243万円を時価としています(※)。
 この場合、A社においては税務上も売却損益は生じないため、特段の課税関係は生じないと考えられます。
 ただし、A社が消費税の課税事業者である場合は、243万円の課税売上が発生します(上記(1)の場合も同じ)。

※ 時価には再調達価額や売却可能価額などがありますが、時価を見積もるのが困難な場合は基本的には簿価を時価とするのが一般的です。

 一方、B氏においても、特段の課税関係は生じません。

(3) まとめ

 A社としては、固定資産除却損を計上して法人税等の節税を考えたいところですが、会社と役員間の取引においては、固定資産除却損の計上(無償譲渡)を行う場合も結局は時価で譲渡したものとみなされ、A社とB氏に税負担が生じます。
 安易な除却損の計上には、気をつけなければなりません。

インボイス制度のよくある質問

 2023(令和5)年10月1日から始まるインボイス制度について、これまでに事業者の皆さんから受けた質問をQ&A形式で紹介します。

1.インボイス制度が始まると、免税事業者は消費税額を請求できない?

Q.免税事業者である当社は、これまで消費税分を加算した金額を相手方に請求していましたが、インボイス制度が始まる令和5年10月1日以降も消費税分を請求すると、消費税法違反になりますか?

A.令和5年10月1日以降の取引においても、免税事業者が消費税相当額を請求してはならないという規定は消費税法にありません。したがって、消費税分を請求しても違法ではありません。

Q.ということは、これまで通り請求書に消費税率や消費税額を記載しても問題はないということですね?

A.税率や税額を記載すること自体は違法ではありませんが、免税事業者がインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)であるとの誤解を招くような書類を発行することは禁じられており、罰則規定もあります。
 また、免税事業者が請求書に税率や税額を記載することは、相手方から値引き交渉の材料とされる可能性もあります。
 したがって、請求金額は税額を別記する外税ではなく税込みの金額である内税で記載し、消費税率や消費税額は記載しないで請求書を作成するのが良いと思います。

2.インボイス発行事業者になれば外税で請求してもよいという提案を受けたが?

Q.当社は免税事業者であることから、これまでは内税で請求をしていましたが、インボイス制度導入を契機に取引先と取引条件の見直しをしていたところ、インボイス発行事業者になれば外税で請求してもよいという提案を受けました。この提案に乗るべきでしょうか?

A.乗ってください。例えば、内税で10万円を請求していたのを外税で11万円を請求できるということは、1万円の収入増加になります。一方で、消費税の納税義務も生じますので、この増えた1万円のうちいくらかは消費税として納付することになりますが、必ず手元に残るお金はあります。これは消費税の計算方法が原則課税でも簡易課税でも、仕入率が0%でない限り必ず手元にお金が残ります。
 ただし、取引先がこの1社だけならこの提案に乗るべきですが、他にも取引先があり、その取引先とは内税での請求が続くのであれば、各取引先との取引量や取引金額などを総合的に勘案して検討しなければなりません(外税請求と内税請求の割合を考慮する必要があります)。

3.事務所家賃を口座振替で支払っており貸主から請求書や領収書を受け取っていない。この場合、インボイス制度が始まると仕入税額控除できなくなる?

Q.当社は事務所の家賃を口座振替で支払っていますが、貸主から請求書や領収書が発行されないため、家賃の支払の記録としては銀行の通帳に口座振替の記録が残るだけです。この場合、インボイス制度が始まると当社は仕入税額控除ができなくなるのでしょうか?

A.契約書に基づき代金決済が行われ、取引の都度、請求書や領収書が交付されない取引であっても、仕入税額控除を受けるためには、原則としてインボイスの保存が必要です。
 そこで、仕入税額控除を受けるためには、次の3つの方法があります。

口座振替の都度、貸主からインボイスの交付を受け、それを保存する。
貸主から一定期間の家賃についてのインボイスの交付を受け、それを保存する(インボイスは、一定期間の取引をまとめて交付することもできます)。
インボイスの記載事項の一部(例えば、口座振替の年月日以外の事項)が記載された契約書とともに通帳(口座振替の年月日の事実を示すもの)を併せて保存する(インボイスとして必要な記載事項は、一の書類だけで全てが記載されている必要はなく、複数の書類で記載事項を満たせば、それらの書類全体でインボイスの記載事項を満たすことになります)。

 上記のうち事務の煩雑さを考慮すると、②か③になると思いますが、③については令和5年9月30日以前からの契約の場合は、契約書にインボイスとして必要な事項(例えば、登録番号)の記載が不足している場合には、別途、記載が不足していた事項(登録番号)の通知を貸主から受け、契約書とともに保存していれば差し支えありません。
 貸主の立場からは、③での対応が一番楽だと思います。

Q.もし、貸主がインボイス発行事業者ではない場合は、当社は仕入税額控除ができないのでしょうか?

A.免税事業者や消費者から物を買ったりサービスを受けたりした場合でも、一定の要件のもとに6年間は仕入税額控除をしてもいいという経過措置が設けられています。
 令和5年10月1日から令和8年9月30日までは免税事業者に支払った消費税相当額の80%を、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは50%を仕入税額控除できます。

※ 一定の要件とは、「区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等及びこの経過措置の規定の適用を受ける旨を記載した帳簿を保存していること」です。

4.インボイス制度開始前に請求書に登録番号を記載しても大丈夫?

Q.当社はインボイス登録申請書を提出し、令和4年10月に登録番号が通知されました。インボイス制度が始まる前に、この登録番号を請求書に記載しても問題ないでしょうか?

A.問題ありません。請求書等に登録番号を記載したとしても、取引の相手方は現行制度(区分記載請求書等保存方式)の仕入税額控除の要件を確保できますので、インボイス制度開始前に請求書に登録番号を記載しても差し支えありません。

5.電子インボイスとデジタルインボイスの違いとは?

Q.取引の相手方から、電子帳簿保存法に対応するために電子インボイスを発行してほしいという要望がありましたが、電子インボイスとデジタルインボイスの違いがわかりません。

A.電子インボイスとデジタルインボイスは似ていますが、それぞれ異なるものです。
 「電子インボイス」とは、例えば、紙の請求書を「画像データ化(PDF)」してメール送信したものをいいます。Excelで作成した請求書をプリントアウトせずにPDFに変換し、メールに添付して送信したものも電子インボイスです。
 電子インボイスは、紙やExcelデータなどを電子化(PDF)したものであり、人がそれを処理することが前提となっています。
 これに対し「デジタルインボイス」とは、請求に関する情報について、売り手のシステムから買い手のシステムへ人を介さずにデータ連携する仕組みです。
 売り手のシステムが生成したインボイスデータ(電子データ)を買い手のシステムで読み取り、受発注や決済まで自動処理させることを前提としています。
 業務の効率化という点では、デジタルインボイスの方が利便性が高いといえます。

免税事業者がインボイス発行事業者となる場合の事前準備

 2023(令和5)年10月1日から適格請求書等保存方式(インボイス制度)がスタートします。
 現在課税事業者で今後も課税事業者が続くと見込まれる場合や、現在は免税事業者だけど2023(令和5)年10月1日時点では課税事業者であり、それ以降も課税事業者であることが見込まれる場合は、インボイス発行事業者の登録をしない理由はないと言えます。
 一方、現在免税事業者で今後も免税事業者であることが見込まれる場合は、インボイス発行事業者の登録をすべきか否かについて、免税事業者の方は非常に悩ましい判断を迫られています。
 今回は、いろいろと検討した結果、インボイス制度のスタートに合わせてインボイス発行事業者になるという決断をした免税事業者の、事前に必要な準備について述べていきます。

1.消費税を意識した記帳を今から始める

 免税事業者がインボイス発行事業者の登録をするということは、当然のことながら課税事業者になることを意味します。つまり、消費税の申告納税義務が生じます。
 この場合、個人事業主と12月決算法人を前提(以下2、3において同じ)とすると、消費税の申告対象となる期間は2023(令和5)年1月1日~同年12月31日の1年間ではなく、2023(令和5)年10月1日~同年12月31日までの3か月間になります。
 免税事業者の方は、会計ソフトを使用している場合も手書きや表計算ソフト等で帳簿を作成している場合も、これまでは消費税を意識した記帳は行っていなかったと思われます。
 しかし、課税事業者になると、消費税についてもきっちり記帳をしなければ消費税の申告納税をすることができません。免税事業者である今のうちから、消費税を意識した記帳を行って、申告納税に備える必要があります(今のうちに練習をしておくということです)。
 また、下記3で述べるように、課税事業者になったときの納税額の有利不利をシミュレーションするためにも、免税事業者のうちから消費税を意識した記帳を行う必要があります。

2.棚卸資産に係る調整措置を適用する

 消費税の納税額は、売上に係る消費税(売ったときに受け取った消費税)から仕れに係る消費税(買ったときに支払った消費税)を差引いて計算します。例えば、税率を10%とすると、77,000円で仕入れた商品を110,000円で売った場合、納税額は10,000円(受け取った消費税)から7,000円(支払った消費税)を差引いた3,000円になります。この支払った消費税を差引くことを「仕入税額控除」といいます。
 しかし、免税事業者のときに仕入れた商品等を課税事業者になってから販売すると、消費税納税額の計算上、売上に係る消費税(課税事業者になってから受け取った消費税)は計上されますが、仕入れに係る消費税(免税事業者のときに支払った消費税)は差引くこと(仕入税額控除)ができません。
 このような不合理を調整するために、免税事業者が課税事業者になった場合に、免税事業者時代の棚卸資産(商品や原材料などの在庫)に含まれる消費税を仕入税額控除できる「棚卸資産に係る調整措置」が設けられています。
 免税事業者が今回のインボイス制度導入に合わせて課税事業者になった場合に当てはめると、2023(令和5)年9月30日時点の棚卸資産に含まれる消費税を、課税事業者になった2023(令和5)年10月1日~同年12月31日の期間で仕入税額控除できることになります。
 今回この調整措置を適用するためには、棚卸し(在庫の確認)を決算期の12月31日だけではなく、免税事業者最終日の9月30日にも行う必要があります。
 この調整措置は納税者有利の規定ですから、卸売業や小売業、飲食店業など、棚卸資産のある業種の事業者の方は、忘れずに適用してください。ただし、下記3の簡易課税制度を選択する場合は適用できません。

3.簡易課税の選択を検討する

 消費税の仕入税額控除の方法には、原則課税と簡易課税があります。
 原則課税は、商品等を購入した際の領収書等から実際に支払った消費税を集計し、これを受け取った消費税から差し引いて納税額を計算します。
 一方、簡易課税は、業種ごとに決められた「みなし仕入率※1」という一定の割合を、受け取った消費税に乗じて(掛け算して)支払った消費税を算出します。
 例えば、小売業の場合、77,000円で仕入れた商品を110,000円で売ったとき、原則課税で計算した「支払った消費税」は7,000円(納税額は3,000円)になりますが、簡易課税では、小売業のみなし仕入率は80%ですので、「支払った消費税」は受け取った消費税10,000円に80%を乗じた8,000円(納税額は2,000円)になります。
 この計算例でわかるように、簡易課税は、原則課税のように実際に支払った消費税を領収書等から集計する必要がありません(売上高がわかれば納税額の計算ができます)。つまり、インボイス制度が導入されてもインボイスを保存する必要がないので、経理事務負担が軽減されるということです※2
 また、上記の計算例のように、実際の仕入率(支払った消費税7,000円÷受け取った消費税10,000円=70%)よりみなし仕入率(小売業80%)の方が高い場合は、簡易課税の方が原則課税よりも納税額が少なくなります。逆に、実際の仕入率がみなし仕入率より高い場合は、納税額が原則課税より増えます。
 このように、実際の仕入率とみなし仕入率の関係によっては、簡易課税の方が税負担が軽減される場合があるということです。
 うまくいけば、事務負担も税負担も軽減されますので、簡易課税の選択は検討する価値があります※3

 ただし、簡易課税を選択する場合には、次の点に留意しなければなりません。

(1) 基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること。
 この制限に関しては、今回は免税事業者(基準期間の課税売上高1,000万円以下)が課税事業者になる場合を述べていますので、クリアしています。

(2) 簡易課税を選択する場合は、「簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要がある。
 通常は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出しなければなりませんが、今回のインボイス制度導入に合わせて免税事業者が課税事業者になる場合は、2023(令和5)年12月31日までに提出すればよいことになっています。

(3) 簡易課税を選択した場合は、2年間継続適用しなければならない。
 簡易課税を初めて選択した次の年度に原則課税の方が有利になる場合でも、簡易課税を継続適用しなければなりません。

※1 みなし仕入率

事業区分 該当する事業 みなし仕入率
第1種 卸売業 90%
第2種 小売業 80%
第3種 農業、林業、漁業、建設業、製造業など 70%
第4種 飲食店業など 60%
第5種 金融・保険業、運輸通信業、サービス業 50%
第6種 不動産業 40%

※2 所得税法・法人税法上は、受領した請求書等は保存しなければなりません。

※3 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、売上税額の2割納税の特例が設けられました。簡易課税制度の選択にあたっては、この2割納税の特例との有利不利を考慮する必要がありますので、ご注意ください。2割納税の特例については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、2割納税の特例と簡易課税制度の有利不利については「売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?」をご参照ください。

FM宝塚でインボイス制度の解説をします

 2023(令和5)年10月1日から始まるインボイス制度について、FM宝塚で解説をさせていただくことになりました(提供:宝塚商工会議所)。

 インボイス制度が始まるとどうなるのか?
 免税事業者はインボイス発行事業者として登録した方がいいのか?
 登録するかどうかは何を基準に判断すればいいのか?
 課税事業者が免税事業者との取引を見直す際の注意点は?

などについて、パーソナリティーの芦田純子さんと一緒に解説をしていきます。

 自分は関係ないと思っていても、取引先などからインボイス対応について聞かれたときに、知識がなければ答えることができませんので、この放送を通してインボイス制度の概要をつかんでいただければと思います。

 番組名は「インボイス制度ってな~に?」、初回放送は2022(令和4)年10月8日(土)8時15分~8時30分で、2022(令和4)年12月24日(土)までの全12回(再放送を含みます)の放送です。

放送スケジュール
2022/10/8(土) 8:15~8:30 ①本放送
2022/10/15(土) 8:15~8:30 ①再放送
2022/10/22(土) 8:15~8:30 ②本放送
2022/10/29(土) 8:15~8:30 ②再放送
2022/11/5(土) 8:15~8:30 ③本放送
2022/11/12(土) 8:15~8:30 ③再放送
2022/11/19(土) 8:15~8:30 ④本放送
2022/11/26(土) 8:15~8:30 ④再放送
2022/12/3(土) 8:15~8:30 ⑤本放送
2022/12/10(土) 8:15~8:30 ⑤再放送
2022/12/17(土) 8:15~8:30 ⑥本放送
2022/12/24(土) 8:15~8:30 ⑥再放送

適格請求書等の発行が免除される場合とは?

1.適格請求書等の交付義務と保存義務

 2023(令和5)年10月1日から「適格請求書等保存方式」(以下、「インボイス制度」といいます)が開始されます。
 インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者は、取引の相手方(課税事業者に限ります)から求められたときは「適格請求書の交付義務が免除されるもの」に該当する場合を除き、適格請求書又は適格簡易請求書を交付し、その写しを保存しなければなりません。ただし、免税取引、非課税取引及び不課税取引のみを行った場合については、適格請求書等の交付義務はありません。
 では、「適格請求書の交付義務が免除されるもの」とは、どのような取引をいうのでしょうか?

2.適格請求書の交付義務が免除されるもの

 次の取引は、適格請求書発行事業者が行う事業の性質上、適格請求書を交付することが困難なため、適格請求書の交付義務が免除されます。したがって、適格請求書及び適格簡易請求書のいずれも交付する義務はありません。

(1) 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送(公共交通機関特例)※①
(2) 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限る)
(3) 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限る)
(4) 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等(自動販売機特例)※②
(5) 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)

※① 3万円未満の公共交通機関による旅客の運送かどうかは、1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定します。したがって、1商品(切符1枚)ごとの金額や、月まとめ等の金額で判定することにはなりません。
 例えば、東京-新大阪間の新幹線の大人運賃が 13,200 円であり、4人分の運送役務の提供を行う場合には、4人分の 52,800 円で判定することとなります。

※② 自動販売機特例の対象となる自動販売機や自動サービス機とは、代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われる機械装置であって、その機械装置のみで代金の受領と資産の譲渡等が完結するものをいいます。
 例えば、自動販売機による飲食料品の販売のほか、コインロッカーやコインランドリー等によるサービス、金融機関のATMによる手数料を対価とする入出金サービスや振込サービスのように機械装置のみにより代金の受領と資産の譲渡等が完結するものが該当することとなります。
 なお、小売店内に設置されたセルフレジを通じた販売のように機械装置により単に精算が行われているだけのもの、コインパーキングや自動券売機のように代金の受領と券類の発行はその機械装置で行われるものの資産の譲渡等は別途行われるようなもの及びネットバンキングのように機械装置で資産の譲渡等が行われないものは、自動販売機や自動サービス機による商品の販売等に含まれません。

適格請求書・適格簡易請求書の記載事項と記載例

 2023(令和5)年10月1日から適格請求書等保存方式(以下、「インボイス制度」といいます)がスタートします。
 インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者は、取引の相手方(課税事業者に限ります)から求められたときは、適格請求書又は適格簡易請求書を交付し、その写しを保存しなければなりません(免税取引、非課税取引及び不課税取引のみを行った場合については、適格請求書等の交付義務はありません)
 以下では、適格請求書と適格簡易請求書の記載事項について確認します。

1.適格請求書

 適格請求書とは、次の事項が記載された書類(請求書、納品書、領収書、レシート等)をいいます。
 現行の区分記載請求書等保存方式(2019(令和1)年10月1日~2023(令和5)年9月30日)における請求書等の記載事項に加え、①、④及び⑤の下線部分が追加されます。

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
税率ごとに区分した消費税額等(消費税額等とは、消費税額及び地方消費税額に相当する金額の合計額のことです)
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

 例えば、飲食料品や日用雑貨の販売を行っている事業者が、現行の区分記載請求書等保存方式の下で発行している区分記載請求書の記載例は、次のようになります。

出所:国税庁ホームページ

 この事業者が適格請求書発行事業者となった場合に発行する適格請求書の記載例は、次のようになります。

出所:国税庁ホームページ

 区分記載請求書の記載事項と比較すると、①、④及び⑤の記載事項が追加されています。
 なお、適格請求書の様式は、法令等で定められていません。適格請求書として必要な事項が記載された書類であれば、請求書、納品書、領収書等その名称にかかわらず、適格請求書に該当します。

2.適格簡易請求書

 インボイス制度においては、適格請求書発行事業者が、小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業又は駐車場業等のように不特定かつ多数の者を相手方として事業を行う場合には、適格請求書に代えて適格簡易請求書を交付することができます。
 適格簡易請求書の記載事項は、適格請求書の記載事項よりも簡易なものとされており、適格請求書の記載事項と比べると、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載が不要である点、「税率ごとに区分した消費税額等」又は「適用税率」のいずれか一方の記載で足りる点が異なります。
 なお、具体的な記載事項は、次のとおりです。

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲
渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率

 例えば、小売業(スーパーマーケット)を営む事業者が、適格請求書発行事業者となった場合に発行する適格簡易請求書の記載例は、次のようになります(「適用税率のみを記載する場合」と「税率ごとに区分した消費税額等のみを記載する場合」の2例)。

出所:国税庁ホームページ

 なお、適格請求書及び適格簡易請求書の発行が免除されるケースについては、本ブログ記事「適格請求書等の発行が免除される場合とは?」をご参照ください。