少額な返還インボイスの交付義務の免除

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、(3)の「少額な返還インボイスの交付義務の免除」の内容を確認します。

1.返還インボイスとは?

 インボイス制度がスタートすると、値引きや返品等があった場合に、インボイス発行事業者である売り手に返還インボイス(適格返還請求書)の交付義務が課せられます。
 返還インボイスの記載事項と記載例は次のとおりです。

① インボイス発行事業者のの氏名又は名称及び登録番号
② 値引・返品等を行う年月日及びその値引・返品等の基となった売上を行った年月日
③ 値引・返品等の基となる売上の内容
④ 値引・返品等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
⑤ 値引・返品等の金額に係る消費税額等又は適用税率

出所:国税庁ホームページ

2.値引等が税込1万円未満であれば交付義務免除

 インボイス発行事業者である売り手が値引をしたり返品を受けたりする場合には、原則として上記1のような返還インボイスを発行する必要があります。

 しかし、売り手が負担する振込手数料(買い手からの売上代金の振込時に差し引かれる振込手数料)について売り手が値引として処理する場合に、振込手数料という少額な値引にまで返還インボイスの交付義務が課される点については、事務負担などの懸念が示されていました。

 そのため、2023(令和5)年度税制改正で返還インボイスの交付義務の見直しが行われ、値引や返品等の税込価額が1万円未満である場合は、返還インボイスの交付義務が免除されることとなりました。

出所:国税庁ホームページ

 この見直しにより、振込手数料は通常1万円未満と考えられるため、売り手負担の振込手数料に係る事務負担が解消されます。
 なお、この措置(少額な返還インボイスの交付義務の免除)は「2割特例」や「少額特例」と異なり、すべての事業者が対象(適用対象者に制限なし)であり、適用期限のない恒久的な措置となっています。

※ 「2割特例」については本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、「少額特例」については「インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる「少額特例」とは?」をご参照ください。

3.売り手負担の振込手数料を支払手数料で処理する場合

 上記のように、売り手負担の振込手数料を「売上値引(売上げに係る対価の返還等)」として処理する場合は、返還インボイスの交付義務は免除されます。

 では、売り手負担の振込手数料を「支払手数料(課税仕入)」として処理する場合も交付義務免除の対象となるのでしょうか?

 この場合は、値引(対価の返還等)ではなく支払手数料(課税仕入)として処理していますので、そもそも返還インボイスの交付は必要ありません。
 ただし、支払手数料として仕入税額控除を行うためには、金融機関や取引先等からの支払手数料に係るインボイスが必要ですが、振込手数料は通常1万円未満と考えられるため、「少額特例」の対象にはなります。

インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる「少額特例」とは?

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、(2)の「少額特例」の内容を確認します。

1.少額特例の内容

 「少額特例」は、インボイス制度への移行後6年間に限り、一定規模以下の事業者が行う1万円未満の課税仕入れについては、インボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるという事務負担の軽減措置です。
 具体的な内容は、以下のとおりです。

(1) 適用対象期間

 本特例は、2023(令和5)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの期間が適用対象期間となり、その間に行う課税仕入れに適用されます。
 そのため、たとえ課税期間の途中であっても、2029(令和11)年10月1日以後に行う課税仕入れについては適用されません。
 例えば、2029(令和11)年1月1日~同年12月31日を課税期間とする個人事業者や12月決算法人は、2029(令和11)年9月30日までは本特例を適用できますが、残りの3か月(10月1日~12月31日)は税込1万円未満の課税仕入れでもインボイスの保存が必要となります。
 なお、本特例は、少額(税込1万円未満)の課税仕入れについてインボイスの保存を不要とするものであり、インボイス発行事業者の交付義務が免除されているわけではありませんので、インボイス発行事業者は課税事業者からインボイスを求められた場合には交付する必要があります。

(2) 適用対象者

 基準期間※1における課税売上高が1億円以下又は特定期間※2における課税売上高が5,000万円以下の事業者が、適用対象者となります。
 なお、特定期間における課税売上高の判定に当たり、課税売上高に代えて給与支払額の合計額で判定することはできません。

※1 「基準期間」とは、個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年である法人の場合はその事業年度の前々事業年度のことをいいます。
※2 「特定期間」とは、個人事業主については前年1月から6月までの期間をいい、法人については前事業年度開始の日以後6月の期間をいいます。

(3) 課税仕入れの金額の判定

 本特例の対象となる1万円未満かどうかの判定は、税込価額で行います。
 また、その金額の判定単位は、課税仕入れに係る1商品ごとの金額により判定するのではなく、1回の取引の合計額が税込1万円未満であるかどうかにより判定します。
 例えば、8,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合、1商品ごとの金額は1万円未満になりますが、1回の取引の合計額が15,000円になりますので、少額特例の対象とはなりません。

2.少額特例とは別の「保存が免除される取引」

 少額特例は、インボイスの保存がなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるという特例ですが、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる別の規定もあります。
 例えば、個人からマイホームやマイカーを買い取ることが多い不動産業者や中古車販売業者などは、取引の相手方である個人からインボイスの発行を受けることができません。
 このような個人からの仕入れが多い事業者には、インボイスの交付を受けることが困難であるなどの理由により、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる例外的な措置が講じられています。
 この例外的な措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の個人(消費者)からの仕入れに係る仕入税額控除」をご参照ください。
 

国税庁からのお知らせ(インボイス負担軽減措置など)が届きました

 国税庁では、インボイス制度について更なる周知を行うため、案内文等を個人事業者及び法人に対して、税理士関与の有無やインボイス発行事業者の登録の有無を問わず、以下のとおり送付することを予定しています。

1.e-Tax利用者の場合

 e-Tax利用者については、e-Taxメッセージボックスへメッセージが格納されます。
 メッセージ格納時期は、個人事業者は2023(令和5)年4月17日(月)から5月26日(金)まで、法人は2023(令和5)年4月26日(水)から4月28日(金)までとなっています。
 当事務所の関与先(法人)のメッセージボックスにも、2023(令和5)年4月27日(木)15:00前後に次のようなメッセージが続々と格納されています。

 メッセージボックスの画面上の「関連ページの確認」に記載されている「インボイス制度に係る負担軽減措置などのお知らせ(国税庁ホームページ)」をクリックすると、次の案内文(国税庁からのお知らせ)が開きます。

出所:国税庁ホームページ

2.e-Tax未利用者の場合

 e-Tax未利用者については、ダイレクトメール(メール便)が送付されます。
 発送時期は2023(令和5)年5月12日(金)頃から5月末までで、国税庁指定の業者から次の封筒で順次発送されます(差出人・返還先名は、大阪国税局課税第二部消費税課となっています)。

 送付物は、以下の案内文と税制改正リーフレットです。

出所:国税庁ホームページ

売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、(1)の「2割特例」と簡易課税制度の関係について確認します。

※ (1)の「2割特例」の制度概要については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、(2)(3)の制度概要等については「インボイス制度に係る支援措置:R5年4月以降の申請可・少額取引のインボイス保存不要等」を、(4)については「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください。

1.納税額の計算上どちらが有利か?

 2割特例は売上税額の2割を納税額とするものですが、具体的には簡易課税制度と同様に以下のように計算します。

 消費税納税額=課税売上げに係る消費税額-課税売上げに係る消費税額×80%

 簡易課税制度におけるみなし仕入率は、事業区分に応じて下表のように定められていますが、2割特例は、簡易課税制度におけるみなし仕入率を事業区分にかかわらず一律に80%とすることと同義です。
 したがって、下表の第3種から第6種に該当する事業のうち1種類の事業のみを行う場合は、簡易課税制度よりも「2割特例」の方が納税額が少なくなり有利となります。

事業区分 該当する事業 みなし仕入率
第1種事業 卸売業 90%
第2種事業 小売業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) 80%
第3種事業 製造業、建築業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)など 70%
第4種事業 第1・2・3・5・6種以外の事業(飲食店業など) 60%
第5種事業 運輸・通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く) 50%
第6種事業 不動産業 40%

 第1種から第6種に該当する事業のうち2種類以上の事業を行う場合は、簡易課税制度のみなし仕入率と2割特例の80%を比較して、どちらか有利な方を適用します。つまり、みなし仕入率が80%を上回れば簡易課税制度が有利になり、下回れば2割特例が有利になります。

※ 2024(令和6)年度税制改正により、課税期間の初日において恒久的施設を有しない国外事業者は、簡易課税制度及び2割特例の適用を受けられないことになりました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

2.事務負担は2割特例が有利

 納税額の計算上、2割特例と簡易課税制度のどちらが有利になるかについては上記1のとおりですが、事務負担の軽減という点では、簡易課税制度よりも2割特例の方が有利になります。
 2割特例も簡易課税制度も納税額の計算にインボイスは必要ないという点では同じですが、2種類以上の事業を営む場合でも、2割特例は一律80%の仕入税額控除を行うため、簡易課税制度と異なり事業区分に応じた売上高と消費税額の把握は不要です。したがって、適用税率毎(軽減税率8%、標準税率10%など)の売上税額を把握するだけで納税額の計算が可能となります。
 また、簡易課税制度の適用を受ける場合には事前に簡易課税制度選択届出書の提出が必要ですが、2割特例の場合は事前の届出は不要であり、申告書に設けられる記載欄に適用を受ける旨を付記するだけです。
 さらに、2割特例には2年間の継続適用要件(いわゆる2年縛り)もありません。

出所:財務省ホームページ

「売上税額の2割納税の特例」の適用期間の留意点

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、(1)の「2割特例」の適用期間の留意点について確認します。

※ (1)の「2割特例」の制度概要については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、(2)(3)の制度概要等については「インボイス制度に係る支援措置:R5年4月以降の申請可・少額取引のインボイス保存不要等」を、(4)については「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください。

1.2割特例の適用対象期間

出所:財務省ホームページ

 2割特例は、免税事業者がインボイス発行事業者として課税事業者になる場合の税負担や事務負担を軽減するために設けられ、消費税納税額を売上税額(売ったときに受け取った消費税)の2割とする特例です。
 その適用対象期間は、2023(令和5)年10月1日から2026(令和8)年9月30日までの日の属する各課税期間です。

 具体的には上図のように、免税事業者である個⼈事業者が2023(令和5)年10⽉1⽇から登録を受ける場合は、2023(令和5)年分(令和5年10~12⽉分のみ)の申告から2026(令和8)年分の申告までの計4回の申告が適⽤対象となります。
 また、免税事業者である3⽉決算法⼈が2023(令和5)年10⽉1⽇から登録を受ける場合は、2024(令和6)年3⽉決算分(令和5年10⽉〜翌3⽉分のみ)から2027(令和9)年3⽉決算分までの計4回の申告が適⽤対象となります。

2.基準期間の課税売上高が1,000万円超の場合

出所:財務省ホームページ

 ただし、2割特例の適用対象期間内であっても、基準期間(法人は2期前、個人は2年前)における課税売上高が1,000万円を超える場合は、その課税期間は2割特例の適用を受けることができません。

 例えば、上図において、免税事業者である個⼈事業者が2023(令和5)年10⽉1⽇から登録を受ける場合は、2023(令和5)年分(令和5年10~12⽉分のみ)の申告から2026(令和8)年分の申告までの計4回の申告が適⽤対象となりますが、2026(令和8)年分の申告については、基準期間である2024(令和6)年の課税売上高が1,000万円を超えていますので、2割特例の適用を受けることはできません。

 したがって、2割特例の適用対象期間内であっても、申告する課税期間が2割特例の適⽤対象となるか否かについては確認が必要です。

3.課税事業者を選択してインボイス登録した場合

出所:財務省ホームページ

 2割特例は、免税事業者からインボイス発行事業者になった者(基準期間の課税売上高が1,000万円以下等の要件を満たす者で、インボイス発行事業者の登録をしなければ課税事業者にならなかった者)が対象となります。

 この対象者には、課税事業者選択届出書を提出し、登録を受けてインボイス発行事業者となる者も含まれます。
 ただし、2023(令和5)年10月1日前から課税事業者選択届出書を提出していることにより、引き続き事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる同日の属する課税期間については適用されません。

 例えば、免税事業者である個⼈事業者が2022(令和4)年12月に課税事業者選択届出書とインボイス登録申請書を提出して2023(令和5)年10月1日から登録を受け、2023(令和5)年1月1日から同年12月31日までの課税期間について納税義務が生じる場合は、当該課税期間(令和5年分)の申告については2割特例の適用を受けることができません(上図・左の例)。

 ただし、このような場合でも令和5年分の申告について2割特例の適⽤を受けるかどうかを検討できるように、その課税期間中(上記の例では、改正法の施⾏⽇である2023(令和5)年4⽉1⽇から同年12⽉31⽇まで)に、課税事業者選択不適⽤届出書を提出することで、その課税期間(令和5年分)から課税事業者選択届出書の効⼒を失効できることとされます。

 したがって、本⼿続を行うことにより、上記の例では、2023(令和5)年1⽉1日から同年9月30日までの納税義務が改めて免除され、インボイス発⾏事業者として登録を受けた2023(令和5)年10⽉1⽇から同年12⽉31⽇までの期間について納税義務が⽣じることとなり、その期間について2割特例を適⽤することが可能となります(上図・右の例)。

※ 2024(令和6)年度税制改正により、課税期間の初日において恒久的施設を有しない国外事業者は、簡易課税制度及び2割特例の適用を受けられないことになりました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、2023(令和5)年4月1日から改正内容の一部が反映される(4)について確認します。

※ (1)の「2割特例」の制度概要については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、(2)(3)の制度概要等については「インボイス制度に係る支援措置:R5年4月以降の申請可・少額取引のインボイス保存不要等」ご参照ください。

1.インボイス登録手続きの柔軟化

出所:財務省ホームページ

 2023(令和5)年度税制改正では、上述したとおり4つの負担軽減措置が講じられました。
 そのほとんどが、インボイス制度がスタートする2023(令和5)年10月1日から適用されますが、「登録制度の見直しと手続きの柔軟化」のうち「手続きの柔軟化」については、2023(令和5)年4月1日から適用されます。

 改正前は、インボイス制度がスタートする2023(令和5)年10月1日からインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)になるためには同年3月31日までに登録申請しなければならず、同年4月1日以降に登録申請する場合は、同年3月31日までに申請することにつき「困難な事情」を申請書に記載する必要がありました。
 改正後は、2023(令和5)年4月1日以降の登録申請であっても、「困難な事情」の記載は不要となり、同年9月30日までに登録申請すれば同年10月1日からインボイス発行事業者になることができます。

2.インボイス登録制度の見直し

出所:財務省ホームページ

 「登録制度の見直しと手続きの柔軟化」のうち「登録制度の見直し」については、2023(令和5)年10月1日から適用されます。

 免税事業者がインボイス発行事業者の登録申請をして課税期間の初日から登録を受けようとする場合、現行(改正前)では、当該課税期間の初日の前日から起算して1か月前の日までに登録申請書を提出しなければなりません。
 改正後は、当該課税期間の初日の前日から起算して15日前の日までに短縮されます。
 したがって、2023(令和5)年10月1日後にインボイス発行事業者の登録を受けようとする免税事業者は、その登録申請書に、提出日から15日以後の日を登録希望日として記載することとなります。
 この場合、登録希望日後に登録がされたときは、当該登録希望日に登録を受けたものとみなされます。

 なお、登録を取り消す場合の届出書の提出期限についても、同様の措置が講じられています。
 すなわち、インボイス発行事業者が登録取消届出書を提出し、その提出があった課税期間の翌課税期間の初日から登録を取り消そうとする場合は、当該翌課税期間の初日から起算して15日前の日(現行(改正前)は、その提出があった課税期間の末日から起算して30日前の日の前日)までに届出書を提出しなければなりません。

インボイス制度に係る支援措置:R5年4月以降の申請可・少額取引のインボイス保存不要等

 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、インボイス制度の円滑な実施に向けて、インボイス制度に係るいくつかの支援措置が講じられました。
 前回の記事では、その支援措置のうち売上税額の2割納税の特例について確認しましたが、今回は、2割納税の特例以外の主な措置について概観します。
 また、令和4年度第2次補正予算におけるインボイス制度への対応に係る支援策についても概観します。

1.令和5年4月以降も申請可能

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度が開始されますが、この制度開始時からインボイス発行事業者の登録を受けるためには、原則として2023(令和5)年3月31日までに申請書を提出する必要があり、2023(令和5)年4月1日以降に申請する場合は「困難な事情」があることを記載する必要がありました。
 しかし、令和5年度税制改正大綱においては、事業者の準備状況を考慮して、「困難な事情」の記載がなくても2023(令和5)年4月1日以降も申請できるように改められ、この場合でも制度開始時の登録が可能となりました。

2.少額取引はインボイスの保存不要

 基準期間の課税売上高が1億円以下の事業者等については、税込1万円未満の課税仕入れであれば、インボイスの保存がなくても帳簿の保存のみで仕入税額控除ができるようになりました。この措置は、2023(令和5)年10月1日から6年間実施されます。

※ 本特例の対象となる1万円未満かどうかの判定は、税込価額で行います。また、その金額の判定単位は、課税仕入に係る1商品ごとの金額ではなく、1回の取引の合計額が1万円未満であるかどうかにより判定します。

(1) 対象になる者
 基準期間(法人は2期前、個人は2年前)の課税売上高が1億円以下または特定期間(法人は前期の上半期、個人は前年の1月~6月))の課税売上高が5,000万円以下の者

※ 特定期間における5,000万円の判定に当たり、課税売上高に代えて給与支払額の合計額の判定によることはできません。

(2) 対象となる期間
 2023(令和5)年10月1日~2029(令和11)年9月30日

3.少額値引・返品は返還インボイスの交付不要

 すべての事業者は、税込1万円未満の値引きや返品等については、返還インボイスを交付する必要がなくなりました。振込手数料分を値引処理する場合も対象となります。
 また、この措置には適用期限はありません。

(1) 対象になる者
 すべての事業者

(2) 対象となる期間
 適用期限がない恒久的措置

4.インボイス制度対応に係る補助金支援

 インボイス制度への対応に係る支援策について、令和4年度第2次補正予算では、商工会・商工会議所及びよろず支援拠点等による講習会の開催や専門家派遣を含む事業者からの相談体制の強化に加え、IT導入補助金における補助下限の撤廃や、小規模事業者持続化補助金における補助上限の一律50万円上乗せ等が実施されます。

(1) IT導入補助金の下限撤廃

 IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)について、安価な会計ソフトも対象となるように、補助下限額が撤廃されました。

① 対象になる者
 中小企業・小規模事業者等

② 補助額(下限額を撤廃)
 ・ITツール:~50万円(補助率3/4以内)、50~350万円(補助率2/3以内)
 ・PC、タブレット等:~10万円(補助率1/2以内)
 ・レジ、券売機等:~20万円(補助率1/2以内)

③ 補助対象
 ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、ハードウェア購入費等

(2) 小規模事業者持続化補助金の50万円上乗せ

 小規模事業者持続化補助金について、免税事業者がインボイス発行事業者に登録した場合、補助上限額が一律50万円加算 されます。

① 対象になる者
 小規模事業者

② 補助上限
 50~200万円(補助率2/3以内、一部の類型は3/4以内)が、100~250万円(インボイス発行事業者の登録で50万円プラス)

③ 補助対象
 税理士相談費用、機械装置導入、広報費、展示会出展費、開発費、委託費等
 

インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税

 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、インボイス制度の円滑な実施に向けて、インボイス制度に係る支援措置がいくつか講じられました。
 以下では、その支援措置のうち、売上税額の2割納税の特例について概観します。

1.売上に係る消費税の2割の納税でよい

 消費税の納税額は、売上に係る消費税(売ったときに受け取った消費税)から仕入れに係る消費税(買ったときに支払った消費税)を差引いて計算します。
 例えば、税率が10%の場合、77,000円で仕入れた商品を110,000円で売ったとすると、納税額は10,000円(受け取った消費税)から7,000円(支払った消費税)を差引いた3,000円になります。この支払った消費税を差引くことを「仕入税額控除」といいます。

 今回の令和5年度税制改正大綱では、免税事業者がインボイス発行事業者になった場合の税負担と事務負担を軽減するために、仕入れに係る消費税(買ったときに支払った消費税)がいくらであろうと、売上に係る消費税(売ったときに受け取った消費税)の2割だけを納税すればよいという特例が設けられました。
 先の例でいうと、実際には仕入に係る消費税が7,000円だったとしても、売上に係る消費税10,000円の2割である2,000円を納税すればよいことになり、1,000円分の税負担が軽減されます。

 また、消費税の申告を行うためには、通常、経費等の集計やインボイスの保存などが必要となりますが、この特例を適用すれば、所得税・法人税の申告で必要となる売上高を税率毎(軽減税率8%と標準税率10%など)に把握するだけで、申告書の作成(納税額の計算)ができるようになります。
 さらに、事前の届出も不要ですので、申告時に適用するかどうかの選択が可能です。

 この特例をまとめると、次のようになります。

(1) 特例の対象となる者
 免税事業者からインボイス発行事業者になった者(基準期間の課税売上高が1,000万円以下等の要件を満たす者で、インボイス発行事業者の登録をしなければ課税事業者にならなかった者)が対象

(2) 特例の対象となる期間
 ・法人は、2023(令和5)年10月1日~2026(令和8)年9月30日を含む課税期間
 ・個人事業者は、2023(令和5)年10~12月の申告から2026(令和8)年分の申告まで

 なお、課税期間の特例の適用を受ける課税期間等については適用されません(2割納税の特例の適用期間については、本ブログ記事「『売上税額の2割納税の特例』の適用期間の留意点」をご参照ください)。

(3) 事前の届出
 この特例を適用するにあたって、事前の届出は不要(確定申告書に特例の適用を受ける旨を付記するだけ)

2.簡易課税制度との関係

 令和5年度税制改正大綱で設けられた上記の売上税額の2割納税の特例は、従来の簡易課税制度におけるみなし仕入率を、業種にかかわりなく一律に80%とすることと同義であるといえます。
 免税事業者がインボイス発行事業者になる場合に、仕入税額控除の方法を原則課税ではなく簡易課税にするという選択肢もありましたが、今回設けられた2割納税の特例との有利不利を考慮したうえで判断しなければなりません(2割納税の特例と簡易課税の有利不利については、本ブログ記事「売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?」をご参照ください)。

※ 免税事業者がインボイス発行事業者となる場合の簡易課税制度の選択については、本ブログ記事「免税事業者がインボイス発行事業者となる場合の事前準備」をご参照ください。

※ 2024(令和6)年度税制改正により、課税期間の初日において恒久的施設を有しない国外事業者は、簡易課税制度及び2割特例の適用を受けられないことになりました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

法人成りにおける個人と法人の税務上の取扱い

 個人事業主が既存事業を法人化することを、法人成りといいます。法人成りの際には、個人事業主時代の棚卸資産や固定資産等を法人に引き継ぐことがあります。
 主な引き継ぎ方法には現物出資と売却がありますが、一般的には売却によることが多いと思われます。
 そこで、以下では、法人成りに際して個人から法人へ棚卸資産や固定資産を売却した場合の税務上の取扱いについて確認します。

1.個人から法人へ棚卸資産を売却した場合

 個人事業主が棚卸資産(商品や原材料など)を法人へ売却した場合は、所得税における所得区分は事業所得になります。したがって、個人の確定申告では、通常の売上に加えて法人成りの際の法人への売上も計上しなければなりません。
 また、棚卸資産が課税資産の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、非課税資産(例えば、不動産販売業における土地など)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から棚卸資産を購入した法人は、その棚卸資産を仕入(商品)として計上します。

2.個人から法人へ減価償却資産を売却した場合

 個人事業主が減価償却資産(建物附属設備、車両運搬具、備品など)を法人へ売却した場合は、所得税法における所得区分は譲渡所得(総合課税)になります。
 また、課税資産の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、非課税資産(例えば、介護タクシー事業における福祉車両など)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から減価償却資産を購入した法人は、その減価償却資産を有形固定資産として計上し、中古資産の取得として見積法又は簡便法による耐用年数で減価償却を行います(中古資産の耐用年数によらずに、法定耐用年数で減価償却することもできます)。
 ただし、取得価額が30万円未満の少額減価償却資産については、損金経理を要件として全額を損金算入することができます(青色申告を行う中小企業者)。

※ 車椅子のまま車に乗るタイプであれば消費税は非課税ですが、助手席や後部座席が回転・昇降するタイプは、消費税の課税対象となります。

3.個人から法人へ事業用建物・土地を売却した場合

 個人事業主が事業用の建物や土地を法人へ売却した場合は、所得税法における所得区分は譲渡所得(分離課税)になります。
 また、建物(課税資産)の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、土地(非課税資産)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から建物や土地を購入した法人は、その建物や土地を有形固定資産として計上し、建物については中古資産の取得として見積法又は簡便法による耐用年数で減価償却を行います(中古資産の耐用年数によらずに、法定耐用年数で減価償却することもできます)。
 仮に、建物の取得価額が30万円未満だった場合は、損金経理を要件として全額を損金算入することができます(青色申告を行う中小企業者)。
 なお、土地は非減価償却資産であるため、減価償却は行いません。

会社・役員間において賃貸物件の原状回復(内部造作の撤去)をしない場合の課税関係

 会社とその役員との間で、建物の賃貸借取引を行う場合があります。例えば、役員所有の建物に、会社が内装工事を行って本店や営業所として賃借する場合などです。
 この賃貸借契約が終了するにあたり、会社が入居時に行った内装工事(内部造作)を撤去せずにそのままの状態で退去する場合があります。
 この場合の会社側の会計処理として、内装工事の簿価(未償却残高)を固定資産除却損として費用計上することが考えられますが、税務上は気をつけなければならないことがあります。
 以下では、会社が原状回復(内部造作の撤去)をせずに賃貸物件を退去する場合の、会社と役員双方の課税関係について確認します。

1.概要

 不動産販売業を営むA社は、社長のB氏が法人成りしてできた会社です。法人成りの際に、B氏の自宅を増築(B氏が費用負担)し、そこに内装工事(A社が費用負担)を行って本店兼営業所として使用していましたが、この度、B氏個人が新たに建築した建物をA社の新社屋(本店兼営業所)として使用することになり、登記も済ませました。
 A社では法人成りの際の内装工事代350万円を建物勘定で資産計上しており、当期首の簿価(未償却残高)は260万円となっています。

 本店移転に伴って、旧本店(B氏自宅の増築部分)は廃止し営業所(支店)としても使用しません。宅建業法では営業所に専任の宅建資格者(宅地建物取引士)を設置しなければなりませんが、A社には宅建資格者がB氏1名しかいませんので、旧本店を営業所(支店)として使用することはできません(B氏は新社屋の専任資格者になります)。

 したがって、旧本店を今後事業の用に供することはありませんが、内装はそのままにしています。内装工事の内容は、床を土足仕様にしたり、営業所の入口としてガラス扉を設けたりしたことが主なものです。
 なお、旧本店を事業の用に供することはありませんが、そのままの内装の状態でB氏の自宅として使う可能性はあります(例えば、子供の勉強部屋など)。

 また、これまでA社からB氏に旧本店の家賃を支払っていましたが、新社屋への移転に伴って旧本店との賃貸借契約を解除し、新社屋の家賃をA社からB氏に支払う賃貸借契約を新たに結びました。
 どちらの契約もA社に原状回復義務があり、B氏に造作等の買取義務はありませんが、旧本店との賃貸借契約を解除するにあたって、A社においては内装の撤去工事の費用を節約できること及び撤去工事をしても廃材の売却収入が見込めないこと、B氏においては現状でも自宅として使用可能であることから、内装はそのままにしています。

2.旧本店の内部造作の処理と課税関係

 このような状況の下で、A社で資産計上されている建物:内装工事(期首簿価260万円)の処理方法と、それぞれの場合におけるA社とB氏の課税関係は、次のように考えられます。

(1) A社からB氏へ無償譲渡(賃貸借契約解除時に除却)

 この場合のA社の会計上の仕訳は、次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
固定資産除却損 243万円    

 これに対して、税務上の仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
建物譲渡原価 243万円    
寄附金 243万円 建物譲渡収益 243万円

 減価償却費17万円は、期首から賃貸借契約解除時までの月割額です。A社が内部造作を放棄してそのままの状態で退去するということは、A社からB氏へ内部造作の無償譲渡が行われたということです。このとき、A社では建物の簿価243万円を固定資産除却損として会計処理しています。

 ところが、税務上は、有償譲渡だけではなく無償譲渡に係る収益も益金の額に算入することになります(法人税法第22条第2項)。 つまり、資産の無償譲渡が行われた場合には、原則としてその資産の時価で譲渡されたものとみなされます。
 また、その資産の時価と譲渡対価の額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、寄附金の額に含まれるものとされます(法人税法第37条第8項)。
 したがって、会計上は固定資産除却損を計上していたとしても、税務上は寄附金とみなされ、寄附金とみなされた金額のうち損金不算入部分の金額は課税されます。
 ただし、固定資産除却損は、第三者間の取引であれば造作を放棄する合理的な理由(撤去費用を負担せずにすむ)がある場合(※)は、その無償譲渡は贈与等には該当せず寄附金課税されないと解されています(税務通信3434号)。
 
※ 第三者間取引でも、造作を取り壊すより放棄した方がコストが低いような場合(撤去費用が廃材売却収入より多くかかる場合)は合理的な理由と認められますが、そうでない場合(撤去費用を上回る廃材売却収入がある場合)は寄附金課税されると考えられます。

 A社の無償譲渡が第三者との取引であれば、固定資産除却損は税務上も損金算入されると考えられますので、課税上の特段の問題は生じません。
 しかし、今回のA社の無償譲渡は役員B氏との取引であるため、税務上は次のように考える必要があります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
建物譲渡原価 243万円    
役員給与 243万円 建物譲渡収益 243万円

 会計上は固定資産除却損を計上していたとしても、税務上は損金不算入の役員給与とみなされます。
 したがって、A社については、固定資産除却損243万円が損金不算入とされ法人税等が課税されます。また、役員給与243万円に対して、所得税の源泉徴収が必要になります。

 一方、B氏については、受贈益課税されます。すなわち、契約上は原状回復義務がA社にあるにもかかわらずそれを免除したということは、B氏にとって価値ある資産を譲り受けたものとして捉えられますので、役員給与として受贈益課税されると考えられます。
 したがって、B氏については、役員給与243万円に対して所得税の負担が生じます。

(2) A社からB氏へ有償譲渡(賃貸借契約解除時に売却)

 この場合のA社の会計処理は、次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
現金預金 243万円    

 時価の算定が困難であることから、売却時点の簿価243万円を時価としています(※)。
 この場合、A社においては税務上も売却損益は生じないため、特段の課税関係は生じないと考えられます。
 ただし、A社が消費税の課税事業者である場合は、243万円の課税売上が発生します(上記(1)の場合も同じ)。

※ 時価には再調達価額や売却可能価額などがありますが、時価を見積もるのが困難な場合は基本的には簿価を時価とするのが一般的です。

 一方、B氏においても、特段の課税関係は生じません。

(3) まとめ

 A社としては、固定資産除却損を計上して法人税等の節税を考えたいところですが、会社と役員間の取引においては、固定資産除却損の計上(無償譲渡)を行う場合も結局は時価で譲渡したものとみなされ、A社とB氏に税負担が生じます。
 安易な除却損の計上には、気をつけなければなりません。