法人成りにおける個人と法人の税務上の取扱い

 個人事業主が既存事業を法人化することを、法人成りといいます。法人成りの際には、個人事業主時代の棚卸資産や固定資産等を法人に引き継ぐことがあります。
 主な引き継ぎ方法には現物出資と売却がありますが、一般的には売却によることが多いと思われます。
 そこで、以下では、法人成りに際して個人から法人へ棚卸資産や固定資産を売却した場合の税務上の取扱いについて確認します。

1.個人から法人へ棚卸資産を売却した場合

 個人事業主が棚卸資産(商品や原材料など)を法人へ売却した場合は、所得税における所得区分は事業所得になります。したがって、個人の確定申告では、通常の売上に加えて法人成りの際の法人への売上も計上しなければなりません。
 また、棚卸資産が課税資産の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、非課税資産(例えば、不動産販売業における土地など)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から棚卸資産を購入した法人は、その棚卸資産を仕入(商品)として計上します。

2.個人から法人へ減価償却資産を売却した場合

 個人事業主が減価償却資産(建物附属設備、車両運搬具、備品など)を法人へ売却した場合は、所得税法における所得区分は譲渡所得(総合課税)になります。
 また、課税資産の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、非課税資産(例えば、介護タクシー事業における福祉車両など)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から減価償却資産を購入した法人は、その減価償却資産を有形固定資産として計上し、中古資産の取得として見積法又は簡便法による耐用年数で減価償却を行います(中古資産の耐用年数によらずに、法定耐用年数で減価償却することもできます)。
 ただし、取得価額が30万円未満の少額減価償却資産については、損金経理を要件として全額を損金算入することができます(青色申告を行う中小企業者)。

※ 車椅子のまま車に乗るタイプであれば消費税は非課税ですが、助手席や後部座席が回転・昇降するタイプは、消費税の課税対象となります。

3.個人から法人へ事業用建物・土地を売却した場合

 個人事業主が事業用の建物や土地を法人へ売却した場合は、所得税法における所得区分は譲渡所得(分離課税)になります。
 また、建物(課税資産)の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、土地(非課税資産)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から建物や土地を購入した法人は、その建物や土地を有形固定資産として計上し、建物については中古資産の取得として見積法又は簡便法による耐用年数で減価償却を行います(中古資産の耐用年数によらずに、法定耐用年数で減価償却することもできます)。
 仮に、建物の取得価額が30万円未満だった場合は、損金経理を要件として全額を損金算入することができます(青色申告を行う中小企業者)。
 なお、土地は非減価償却資産であるため、減価償却は行いません。

令和5年4月1日から中小企業も月60時間超の残業割増賃金率が50%になります

1.中小企業の割増賃金率も大企業と同じ50%に

 現行の労働基準法では、月60時間以下の時間外労働が発生した場合の割増賃金率は、大企業も中小企業も25%以上となっています。
 また、月60時間を超える時間外労働が発生した場合の割増賃金率は、大企業が50%以上、中小企業が25%以上となっています。
 2023(令和5)年4月1日以降は、大企業に適用されていた月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が中小企業に対しても適用され、現行の25%以上から50%以上に引き上げられます。

出所:厚生労働省ホームページ

2.深夜労働・休日労働との関係

 深夜(22:00~5:00)の時間帯に月60時間を超える法定時間外労働が発生した場合は、深夜割増賃金率25%以上+時間外割増賃金率50%以上=75%以上となります。
 また、月60時間の法定時間外労働の算定には、法定休日(例えば日曜日)に行った労働は含まれませんが、それ以外の休日(例えば土曜日)に行った法定時間外労働は含まれます。
 なお、使用者は1週間に1日または4週間に4回の休日を与えなければなりません。これを「法定休日」といいます。法定休日に労働させた場合は35%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

割増賃金の種類 支払う条件 割増賃金率
時間外手当・残業手当 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき 25%以上
時間外労働が限度時間(月45時間・年360時間等)を超えたとき 25%以上
(努力義務)
時間外労働が月60時間を超えたとき(大企業・中小企業) 50%以上
深夜手当 22時から5時までの間に勤務させたとき

25%以上

休日手当 法定休日(週1日)に勤務させたとき 35%以上

3.法定時間外労働時間・法定休日労働時間の具体的な算定方法

 以下の例によって、法定時間外労働時間と法定休日労働時間の具体的な算定方法を確認します。

出所:厚生労働省ホームページ

 1か月の起算日である1日(月)からの時間外労働時間数を累計して、60時間以下までは25%の割増率で、60時間を超えた時点からは50%の割増率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。なお、法定休日は日曜日、所定休日は土曜日とします。

  時間外労働時間 時間外労働時間累計 割増賃金率
第1週 5時間+5時間+2時間+3時間+5時間=20時間 20時間 25%
第2週 2時間+3時間+5時間+5時間+5時間=20時間 40時間
第3週 3時間+2時間+3時間+3時間+3時間=14時間 54時間
第4週 3時間+3時間=6時間 60時間
第4週 2時間+1時間+2時間+1時間=6時間 66時間 50%
第5週 1時間+1時間+2時間=4時間 70時間

 法定時間外労働時間数が60時間に達する第4週の23日(火)までは割増賃金率25%を適用し、60時間を超える第4週の24日(水)以降の10時間(累計:70時間-60時間)は割増賃金率50%を適用して割増賃金を計算します。
 この法定時間外労働時間数には所定休日(土曜日)の時間は含みますが、法定休日(日曜日)の時間は含みません。

 また、法定休日労働時間数は日曜日の5時間+3時間=8時間となり、この8時間に対して割増賃金率35%を適用して割増賃金を計算します。

 なお、月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の健康を確保するため、引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができます。
 代替休暇制度導入にあたっては、過半数組合、それがない場合は過半数代表者との間で労使協定を結ぶことが必要です。

住民票の住所と現住所が異なる場合の確定申告書の提出先

1.納税地

 確定申告書は、納税地の所轄税務署長に提出します。所得税法では、下表のように納税地を定めています。

判定基準 納税地 納税者
原則 特例
① 国内に住所を有する場合※1 住所地 居所、事業所等を納税地として選択する場合※3 居住者※4
② 国内に住所を有せず、居所を有する場合※2 居所地
③ 国内に恒久的施設(事務所、事業所等)を有する場合 恒久的施設の所在地 非居住者※4
④ かつて住所又は居所を有していた場所に親族等が現在居住している場合 当時の住所地又は居所地
⑤ 上記③④に該当しない場合で、国内にある不動産の貸付け等の対価を受ける場合 貸付資産の所在地
⑥ 上記③④⑤に該当しないで、納税地を選択した場合 その者の選択した場所
⑦ 上記③④⑤⑥に該当しない場合 麴町税務署

※1 住所とは生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実により判定します(所得税基本通達2-1)。
※2 居所とは相当期間継続して居住している場所をいい、住所といえる程度に達していないものをいいます(神戸地裁平14.10.7判決)。
※3 納税地の特例を選択する場合は、変更前の所轄税務署長に対して「納税地の変更に関する届出書」を提出する必要があります(所得税法第16条)。
※4 納税者の区分(居住者・非居住者)は、次のとおりです。

納税者の区分 定義
居住者 永住者 日本国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人
非永住者 居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人
非居住者 居住者以外の個人

 確定申告書は納税地の所轄税務署長に提出しますが、居住者については、国内に住所を有する場合は、原則として住所地が納税地となります。
 住所とは生活の本拠をいい、客観的事実によって判定します。一般的には住民票の登録をしている住所が納税地になりますので、確定申告書は原則として住民票のある住所地の所轄税務署長に提出します。

 会社員等の給与所得者でも、医療費控除やふるさと納税等の寄附金控除を受ける場合などは確定申告をする必要があります。基本的には住民票のある住所地と現住所は一致しますので、確定申告書の提出先を迷うことはありません。
 しかし、引越しや転勤などで住所が変わったにもかかわらず、住民票異動の手続きをしていないため、住民票に記載されている住所と現住所が異なることがあります。
 このような場合は、住民票のある住所地と現住所のどちらに確定申告書を提出すればいいのか疑問が生じますが、現住所の所轄税務署長に確定申告書を提出すればよいことになっています。

 また、個人事業主が住所地や居所地以外の地で事業をしている場合は、事業所の所在地を納税地とすることができます。この納税地の特例を選択する場合は、変更前の所轄税務署長に対して「納税地の変更に関する届出書」を提出する必要があります。

2.住民税は二重課税されないか?

 住民票のある住所と実際の現住所が異なる場合は、現住所の所轄税務署長に確定申告書を提出することになりますが、この場合に心配なのが、住民票のある住所地と現住所で住民税が二重課税されないか、ということです。
 住民税は住民票のある市町村が課税しますが、今回のケースのように住民票のある市町村と現住所の市町村が異なっている場合は、現住所の市町村が課税することになっています(地方税法294条3項・4項)。したがって、住民税が二重課税されるということはありません。

 ただし、市町村内に事業所等を有する個人事業主で当該市町村内に住所(生活の本拠)を有しない者は、原則として住民税の均等割が課税されます。
 しかし、前年の合計所得金額が市町村の条例で定める金額以下の場合は、均等割は非課税となります(地方税法294条1項2号)。

会社・役員間において賃貸物件の原状回復(内部造作の撤去)をしない場合の課税関係

 会社とその役員との間で、建物の賃貸借取引を行う場合があります。例えば、役員所有の建物に、会社が内装工事を行って本店や営業所として賃借する場合などです。
 この賃貸借契約が終了するにあたり、会社が入居時に行った内装工事(内部造作)を撤去せずにそのままの状態で退去する場合があります。
 この場合の会社側の会計処理として、内装工事の簿価(未償却残高)を固定資産除却損として費用計上することが考えられますが、税務上は気をつけなければならないことがあります。
 以下では、会社が原状回復(内部造作の撤去)をせずに賃貸物件を退去する場合の、会社と役員双方の課税関係について確認します。

1.概要

 不動産販売業を営むA社は、社長のB氏が法人成りしてできた会社です。法人成りの際に、B氏の自宅を増築(B氏が費用負担)し、そこに内装工事(A社が費用負担)を行って本店兼営業所として使用していましたが、この度、B氏個人が新たに建築した建物をA社の新社屋(本店兼営業所)として使用することになり、登記も済ませました。
 A社では法人成りの際の内装工事代350万円を建物勘定で資産計上しており、当期首の簿価(未償却残高)は260万円となっています。

 本店移転に伴って、旧本店(B氏自宅の増築部分)は廃止し営業所(支店)としても使用しません。宅建業法では営業所に専任の宅建資格者(宅地建物取引士)を設置しなければなりませんが、A社には宅建資格者がB氏1名しかいませんので、旧本店を営業所(支店)として使用することはできません(B氏は新社屋の専任資格者になります)。

 したがって、旧本店を今後事業の用に供することはありませんが、内装はそのままにしています。内装工事の内容は、床を土足仕様にしたり、営業所の入口としてガラス扉を設けたりしたことが主なものです。
 なお、旧本店を事業の用に供することはありませんが、そのままの内装の状態でB氏の自宅として使う可能性はあります(例えば、子供の勉強部屋など)。

 また、これまでA社からB氏に旧本店の家賃を支払っていましたが、新社屋への移転に伴って旧本店との賃貸借契約を解除し、新社屋の家賃をA社からB氏に支払う賃貸借契約を新たに結びました。
 どちらの契約もA社に原状回復義務があり、B氏に造作等の買取義務はありませんが、旧本店との賃貸借契約を解除するにあたって、A社においては内装の撤去工事の費用を節約できること及び撤去工事をしても廃材の売却収入が見込めないこと、B氏においては現状でも自宅として使用可能であることから、内装はそのままにしています。

2.旧本店の内部造作の処理と課税関係

 このような状況の下で、A社で資産計上されている建物:内装工事(期首簿価260万円)の処理方法と、それぞれの場合におけるA社とB氏の課税関係は、次のように考えられます。

(1) A社からB氏へ無償譲渡(賃貸借契約解除時に除却)

 この場合のA社の会計上の仕訳は、次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
固定資産除却損 243万円    

 これに対して、税務上の仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
建物譲渡原価 243万円    
寄附金 243万円 建物譲渡収益 243万円

 減価償却費17万円は、期首から賃貸借契約解除時までの月割額です。A社が内部造作を放棄してそのままの状態で退去するということは、A社からB氏へ内部造作の無償譲渡が行われたということです。このとき、A社では建物の簿価243万円を固定資産除却損として会計処理しています。

 ところが、税務上は、有償譲渡だけではなく無償譲渡に係る収益も益金の額に算入することになります(法人税法第22条第2項)。 つまり、資産の無償譲渡が行われた場合には、原則としてその資産の時価で譲渡されたものとみなされます。
 また、その資産の時価と譲渡対価の額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、寄附金の額に含まれるものとされます(法人税法第37条第8項)。
 したがって、会計上は固定資産除却損を計上していたとしても、税務上は寄附金とみなされ、寄附金とみなされた金額のうち損金不算入部分の金額は課税されます。
 ただし、固定資産除却損は、第三者間の取引であれば造作を放棄する合理的な理由(撤去費用を負担せずにすむ)がある場合(※)は、その無償譲渡は贈与等には該当せず寄附金課税されないと解されています(税務通信3434号)。
 
※ 第三者間取引でも、造作を取り壊すより放棄した方がコストが低いような場合(撤去費用が廃材売却収入より多くかかる場合)は合理的な理由と認められますが、そうでない場合(撤去費用を上回る廃材売却収入がある場合)は寄附金課税されると考えられます。

 A社の無償譲渡が第三者との取引であれば、固定資産除却損は税務上も損金算入されると考えられますので、課税上の特段の問題は生じません。
 しかし、今回のA社の無償譲渡は役員B氏との取引であるため、税務上は次のように考える必要があります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
建物譲渡原価 243万円    
役員給与 243万円 建物譲渡収益 243万円

 会計上は固定資産除却損を計上していたとしても、税務上は損金不算入の役員給与とみなされます。
 したがって、A社については、固定資産除却損243万円が損金不算入とされ法人税等が課税されます。また、役員給与243万円に対して、所得税の源泉徴収が必要になります。

 一方、B氏については、受贈益課税されます。すなわち、契約上は原状回復義務がA社にあるにもかかわらずそれを免除したということは、B氏にとって価値ある資産を譲り受けたものとして捉えられますので、役員給与として受贈益課税されると考えられます。
 したがって、B氏については、役員給与243万円に対して所得税の負担が生じます。

(2) A社からB氏へ有償譲渡(賃貸借契約解除時に売却)

 この場合のA社の会計処理は、次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
現金預金 243万円    

 時価の算定が困難であることから、売却時点の簿価243万円を時価としています(※)。
 この場合、A社においては税務上も売却損益は生じないため、特段の課税関係は生じないと考えられます。
 ただし、A社が消費税の課税事業者である場合は、243万円の課税売上が発生します(上記(1)の場合も同じ)。

※ 時価には再調達価額や売却可能価額などがありますが、時価を見積もるのが困難な場合は基本的には簿価を時価とするのが一般的です。

 一方、B氏においても、特段の課税関係は生じません。

(3) まとめ

 A社としては、固定資産除却損を計上して法人税等の節税を考えたいところですが、会社と役員間の取引においては、固定資産除却損の計上(無償譲渡)を行う場合も結局は時価で譲渡したものとみなされ、A社とB氏に税負担が生じます。
 安易な除却損の計上には、気をつけなければなりません。

賞与(ボーナス)の社会保険料と所得税の計算方法

 社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)と雇用保険料は毎月の給与から控除(天引き)しますが、ボーナス(賞与)に対しても社会保険料・雇用保険料はかかります。
 ボーナスから控除する社会保険料や所得税の計算方法は、毎月の給与から控除する場合と計算方法が異なります(雇用保険料は、ボーナスの場合も毎月の給与の場合も計算方法は同じです)。
 以下では、ボーナスに対する社会保険料・雇用保険料及び所得税の計算方法と、ボーナス支給後の手続きについて確認します。

1.賞与に対する社会保険料の計算方法

出所:全国健康保険協会ホームページ

 毎月の社会保険料は標準報酬月額に基づいて計算しますが、ボーナスから控除する社会保険料は「標準賞与額」に基づいて計算します。
 標準賞与額とは、支給する賞与額の1,000円未満の端数を切り捨てた金額をいいます。この標準賞与額に保険料率を乗じて社会保険料を算出し、算出された社会保険料を事業主と被保険者が労使折半で負担します。

 例えば、2022(令和4)年12月にAさん(兵庫県在住の38歳の従業員で扶養親族は1人)に400,800円のボーナスを支給する場合、ボーナスから控除する社会保険料と雇用保険料は次のように計算します。

標準賞与額400,000円×健康保険料率10.13%×1/2=20,260円(健康保険料)
標準賞与額400,000円×厚生年金保険料率18.3%×1/2=36,600円(厚生年金保険料)
実際支給額400,800円×雇用保険料率5/1000=2,004円(雇用保険料)※
控除合計額20,260円+36,600円+2,004円=58,864円

※社会保険料計算では、1,000円未満の端数を切り捨てた標準賞与額に保険料率を乗じますが、雇用保険料計算の際は1,000円未満の端数を切り捨てずに保険料率を乗じます。

 また、2022(令和4)年12月にBさん(兵庫県在住の41歳の従業員で扶養親族は1人)に400,800円のボーナスを支給する場合、ボーナスから控除する社会保険料と雇用保険料は次のように計算します。

標準賞与額400,000円×健康保険料率11.77%×1/2=23,540円(健康保険料・介護保険料)
標準賞与額400,000円×厚生年金保険料率18.3%×1/2=36,600円(厚生年金保険料)
実際支給額400,800円×雇用保険料率5/1000=2,004円(雇用保険料)
控除合計額23,540円+36,600円+2,004円=62,144円

2.賞与に対する所得税の計算方法

出所:国税庁ホームページ

 ボーナスに対する社会保険料と雇用保険料の計算ができたら、次は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いて、所得税(源泉徴収税額)の計算をします。
 所得税の計算方法は次のとおりです。

(1) まず、「前月の社会保険料等控除後の給与等の金額」を求めます。具体的には、その人の前月の給与額から前月の給与額に対する社会保険料・雇用保険料を差し引いた金額になります。
(2) 次に、その人の扶養親族等(源泉控除対象配偶者及び控除対象扶養親族)の数に応じて、(1)で求めた金額が記載されている行の「賞与の金額に乗ずべき率」を求めます。
(3) (2)で求めた率を、ボーナスの金額からボーナスにかかる社会保険料・雇用保険料を控除した金額に乗じて所得税を算出します。

 例えば、前月のAさんの給与が260,000円、社会保険料が37,102円、雇用保険料が1,300円だった場合、ボーナス400,800円に対する所得税は次のように計算します。

(1) 前月の給与額260,000円-前月の社会保険料37,102円-前月の雇用保険料1,300円=221,598円
(2) 扶養親族等の数が1人なので、(1)の金額は「94千以上243千円未満」の区分に該当し、賞与に乗ずべき率は2.042%。
(3) 所得税=(400,800円-58,864円)×2.042%=6,982円(円未満切捨て)

3.被保険者賞与支払届の提出

 事業主が被保険者および70歳以上被用者へ賞与を支給した場合は、支給日より5日以内に「被保険者賞与支払届」により支給額等を届出します。
 この届出内容により標準賞与額が決定され、これにより賞与の保険料額が決定されるとともに、被保険者が受給する年金額の計算の基礎となるものですので、忘れずに届出をしなければなりません。
 また、賞与にかかる保険料は、毎月の保険料と合算されて賞与支払月の翌月の「納入告知書(口座振替の場合は、納入告知額通知書)」で通知されます。

年末調整に必要な書類(各種申告書と証明書等)

1.年末調整とは?

 毎月支給される給与からは所得税が源泉徴収(天引き)されていますが、その源泉徴収された所得税の1年間の合計額は、その人(給与の支払を受ける人)の1年間の給与総額に対する税額(年税額)と基本的には一致しません。
 一致しない理由は、例えば、家族の就職や結婚等により年の中途で控除対象扶養親族の人数に異動があっても、その異動後の支払分から修正するだけで遡って各月の源泉徴収税額を修正することとされていないことや、生命保険料や地震保険料などの所得控除は年末調整の際に控除することとされていることなどが挙げられます。
 このような不一致を精算するため、1年間の給与総額が確定する年末にその年に納めるべき税額(年税額)を計算し、この年税額と毎月の給与から源泉徴収した税額との差額を還付したり追加で徴収したりする手続きを年末調整といいます。
 年末調整では、勤務先に各種申告書と証明書等を提出することで、いろいろな控除が受けられます。
 以下では、年末調整の際に必要な各種申告書と証明書等について確認します。

2.提出が必要な申告書と証明書等

 次のうち、(2)の「扶養控除等(異動)申告書」と(3)の「基礎控除申告書兼配偶者控除申告書兼所得金額調整控除申告書」は基本的には全員が提出する必要がありますが、それ以外については該当する方が提出することになります。

(1) 前職の源泉徴収票

 中途入社の方は、前の勤務先が発行した「給与所得の源泉徴収票」を提出してください(複数枚ある場合はすべて)。

(2) 扶養控除等(異動)申告書

 前年の年末調整時または本年の入社時に提出済みだと思いますが、転居により住所が変わった方、家族の就職や結婚等により扶養親族の人数が減った方、出産により扶養親族の人数が増えた方などは、その事実を記載して再提出してください(異動のない方も再提出をしてください)。

(3) 基礎控除申告書兼配偶者控除申告書兼所得金額調整控除申告書

 基礎控除や配偶者控除等を受ける方は、「基礎控除申告書兼配偶者控除申告書兼所得金額調整控除申告書」を提出してください。

(4) 保険料控除申告書

 生命保険料や地震保険料、社会保険料、小規模企業共済掛金などを支払っている方(下記(5)(6)(7)(8)に該当する方)は、これらの支払を証明する書類と一緒に提出してください。

(5) 生命保険料控除証明書・地震保険料控除証明書

 ご自身が支払った生命保険料・地震保険料がある方は、保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」「地震保険料控除証明書」を提出してください。

(6) 国民健康保険料・後期高齢者医療保険料の領収書等

 ご自身が支払った国民健康保険料・後期高齢者医療保険料がある方は、「領収書」または「保険料控除申告書」に本年中に支払った金額を記載して、提出してください。

(7) 社会保険料(国民年金保険料)控除証明書

 ご自身が支払った国民年金保険料がある方は、日本年金機構から送られてくる「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」を提出してください。

※ 国民年金の保険料と国民年金基金の掛金については、保険料を支払ったことを証明する書類が必要ですが、上記(6)の国民健康保険料や後期高齢者医療保険料については必要ありません。

(8) 小規模企業共済等掛金控除証明書

 ご自身が支払った小規模企業共済等掛金(iDeCoなど)がある方は、「小規模企業共済等掛金控除証明書」を提出してください。

(9) 住宅借入金等特別控除申告書・住宅借⼊⾦の年末残⾼等証明書

 住宅ローン控除を受けるために前年分以前に確定申告をした方は、税務署から送られてくる「住宅借入金等特別控除申告書」と、金融機関から送られてくる「住宅取得資⾦に係る借⼊⾦の年末残⾼等証明書」を提出してください。

改正電子帳簿保存法:最低限どんな対応をしたらいいのか?

1.なぜ今回の改正が注目されているのか?

 電子帳簿保存法とは、帳簿や決算書、請求書などの国税関係帳簿・書類を電子データで保存するための要件を定めた法律です。この法律自体は1998(平成10)年に施行されており、その後に何度か改正されていますが、これまではあまり注目されることはなかったように思います。
 ところが、2022(令和4)年1月1日から施行されている今回の改正法が注目されているのは、「電子取引」については電子データ保存が義務化されたためです。
 この改正法により、電子取引については、これまでのようにプリントアウトして「紙」で保存することは認められなくなり、「電子データ」で保存しなければならなくなりました。この改正は、法人・個人や規模の大小にかかわらず、すべての事業者が対応しなければならないため、過去の改正に比べて注目度が上がっています。
 なお、2022(令和4)年1月1日からの対応が難しい場合は、2024(令和6)年1月1日からの対応でもよいことになっています。

※ 電子取引とは、例えば、次のようなものが該当します(詳細については、本ブログ記事「改正電子帳簿保存法~電子取引と電子データの具体例」をご参照ください)。
・電子メールに添付されている請求書や領収書等のPDFを授受する
・ショッピングサイトで商品を購入した際に、そのWEBサイトから請求書や領収書等のPDFをダウンロードする
・クレジットカードの利用明細データやスマートフォンアプリの決済データ等をクラウドサービスなどから受領する

2.すべてが電子化されるわけではない

出所:国税庁ホームページ

 「電子データ」での保存が必要ということは、何か専用のシステムを導入しないといけないのでは?と考えがちですが、必ずしもそうとは言えません。
 この点に関しては、改正された電子帳簿保存法が次の3つに区分されていることを理解し、それぞれ別個に対応を考えることが重要です。

 (1) 電子帳簿等保存
 (2) スキャナ保存
 (3) 電子取引データ保存

 これらのうち、端的に言うと、(1)と(2)に対応するためには専用のシステム(会計ソフトや証票管理システムなど)の導入が必要ですが、(3)については専用のシステムがなくても対応することができます。
 また、今回の改正法では、(1)と(2)について対応するかどうかは任意とされていますので、この制度を利用したい事業者(対応可能な事業者)のみが対応すればいいことになっています。したがって、今回の改正法で全ての事業者が対応しなければならないのは(3)です。
 (3)だけに対応する場合、これまでと何が変わるのかと言えば、電子取引で受領した電子データ(例えば、メールに添付された請求書のPDF)は「紙」ではなく「電子データ(PDF)」のまま保存するということです。言い換えれば、電子取引に該当しない「紙」で受け取った請求書は、これまで通り「紙」で保存するということです。すべてが電子化されるわけではありません。

3.最低限必要な対応とは?

 改正電子帳簿保存法の全て(上記2.(1)~(3))に対応しようとすると、専用システムの導入などにコストがかかります。現時点でそこまで考えていない事業者の方(コストをかけないで改正法に対応したい事業者の方)は、最低限、(3)電子取引データ保存への対応を考えて下さい。
 具体的な対応方法は、次のとおりです。

 ① 不当な訂正削除の防止に関する「事務処理規程」の制定・遵守
 ② モニター・操作説明書等の備付け
 ③ 検索要件の充足

 ①については、国税庁ホームページから事務処理規定のひな型(法人の例と個人事業者の例)をダウンロードすることができますので、それを参考に自社の業務内容に合わせて作成してください。
 ③については、電子データのファイル名に規則性を持たせて(「日付・金額・相手方」を記載して)検索可能な状態で電子データを保存する方法と、表計算ソフト等で索引簿を作成し、その索引簿を使用して電子データを検索できるようにする方法があります。

出所:国税庁ホームページ

4.将来のDXを見据えて電子帳簿保存法に対応

 電子帳簿保存法に対応することによって、業務のデジタル化が進み、業務の効率化や生産性の向上などを図ることができます。また、業務のデジタル化は、ビジネスモデルを変革して新たな価値を生み出すDX(デジタルトランスフォーメーション)にもつながります。
 いきなり電子帳簿保存法のすべてに対応する必要はありませんので、まずは「電子取引データ保存」に対応し、その後はできるところから始めていきましょう。

扶養控除等申告書に障害者等の記載があった場合の源泉徴収税額

1.扶養控除等申告書の用途は年末調整だけではない

 年末調整では、勤務先に各種申告書(扶養控除等申告書、基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書、保険料控除申告書、住宅借入金等特別控除申告書)を提出することで、いろいろな控除を受けることができます。
 これらの申告書のうち、令和4年分扶養控除等申告書については、昨年(令和3年)の年末調整時に勤務先に提出(令和4年中に途中入社した方は入社時に提出)していると思いますが、今年(令和4年)の年末調整時に修正事項(結婚や出産により扶養者が増えた等)の有無を確認するため、勤務先より再度配布されます。
 また、令和5年分扶養控除等申告書は、来年(令和5年)1月から支払う給与の計算に使用するため、今年(令和4年)の年末調整時に勤務先に提出します。
 年末調整のタイミングで扶養控除等申告書を提出することが多いので、なんとなく扶養控除等申告書は年末調整で所得控除を受けるために提出するものと思われがちですが、そうではありません。
 扶養控除等申告書の用途は年末調整だけではなく、毎月の給与から天引きする所得税額(源泉徴収税額)を計算する際にも使用します。つまり、源泉徴収税額は扶養控除等申告書に記載された内容を反映するものでなければなりません。
 以下では、扶養控除等申告書に障害者等の記載があった場合の源泉徴収税額の求め方について確認します。

2.甲欄の「扶養親族等の数」

 扶養控除等申告書の提出があった人の源泉徴収税額は、源泉徴収税額表より次のステップで求めます。

(1) まず、その人のその月の給与等の金額から、その給与等の金額から控除される社会保険料等の金額を控除した金額を求めます。

(2) 次に、上記(1)により求めた金額に応じて「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」欄の該当する行を求め、その行と扶養控除等申告書により申告された扶養親族等の数に応じた甲欄の「扶養親族等の数(0人~7人)」欄との交わるところに記載されている金額を求めます。この金額が源泉徴収税額です。

 ここで注意しなければならないのが、源泉徴収税額表における「扶養親族等」の意味です。
 源泉徴収税額表における「扶養親族等」とは、控除対象扶養親族※1だけではなく源泉控除対象配偶者※2も含みます。つまり「扶養親族等の数」とは、源泉控除対象配偶者と控除対象扶養親族(老人扶養親族又は特定扶養親族を含みます)との合計数をいいます。

※1 控除対象扶養親族とは、扶養親族のうち、年齢16歳以上の人をいいます。
 扶養親族とは、給与等の支払を受ける人と生計を一にする親族等(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者(以下「青色事業専従者等」といいます)を除きます)で、令和 4年中の所得の見積額が48万円以下の人をいいます。
 ここにいう親族等には、児童福祉法の規定により養育を委託されたいわゆる里子や、老人福祉法の規定により養護を委託されたいわゆる養護老人も含まれます。

※2 源泉控除対象配偶者とは、給与等の支払を受ける人(合計所得金額が900万円以下である人に限ります)と生計を一にする配偶者(青色事業専従者等を除きます)で、令和 4 年中の所得の見積額が95万円以下の人をいいます。

 また、提出された扶養控除等申告書に障害者等の記載がある場合は、その内容を次のように源泉徴収税額表の「扶養親族等の数」に反映させなければなりません。

(3) 扶養控除等申告書に、給与等の支払を受ける人本人が障害者(特別障害者を含みます)、寡婦、ひとり親又は勤労学生に該当する旨の記載があるときは、扶養親族等の数にこれらの一に該当するごとに1人を加算した数を、上記(2)における「扶養親族等の数」とします。

(4) 扶養控除等申告書に、給与等の支払を受ける人の同一生計配偶者※3や扶養親族(年齢16歳未満の人を含みます)のうちに障害者(特別障害者を含みます)又は同居特別障害者に該当する旨の記載があるときは、扶養親族等の数にこれらの一に該当するごとに1人を加算した数を、上記(2)における「扶養親族等の数」とします。

※3 同一生計配偶者とは、給与等の支払を受ける人と生計を一にする配偶者(青色事業専従者等を除きます)で、令和 4 年中の所得の見積額が48万円以下の人をいいます。

 したがって、提出された扶養控除等申告書に障害者等の記載があった場合は、(年末調整で過不足の精算が行われるとはいえ)毎月の給与の源泉徴収税額にも影響がありますのでご注意下さい。


令和4年分給与所得者の保険料控除申告書の書き方と記載例

 保険料控除申告書は、給与の支払を受ける人(給与所得者)が、その年の年末調整において生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除を受けるために給与の支払者(勤務先)に提出するものです。
 今回は、生命保険料控除申告書の書き方について確認します。なお、令和4年分扶養控除等申告書については、本ブログ記事「令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」を、令和4年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書については「令和4年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書の書き方と記載例」を、年末調整で勤務先に提出する書類については「年末調整に必要な書類(各種申告書と証明書等)」をご参照ください。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長
 給与の支払者の所在地等の所轄税務署長を記入します。

(2) 給与の支払者の法人番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の法人番号を付記します。

2.生命保険料控除の記入

(1) 控除証明書の内容を記入(転記) 
 保険会社から送られてきた生命保険料控除証明書や契約証書などを参考に、下記項目を記入します。

項目 記入内容
保険会社等の名称 保険会社等の名称(略称可)
保険等の種類 控除証明書の「保険種類」
保険期間又は年金支払期間 控除証明書の「保険期間」
保険等の契約者の氏名 控除証明書に記載されている人の「氏名」
保険金等の受取人 控除証明書に記載されている「保険金受取人名」(控除証明書に記載が無い場合は、契約証書等を参照)
あなたとの続柄 自分の場合は「本人」、それ以外の場合は「妻、夫、配偶者、父、母、子」など
新・旧の区分 控除証明書に記載されている「適用制度」の新旧の区分
あなたが本年中に支払った保険料等の金額 控除証明書に記載されている参考欄の「12月末時点の申告予定額
給与の支払者の確認印 勤務先の記入欄なので記入不要

 なお、保険料控除を受けるためには、保険金等の受取人があなた又はあなたの配偶者や親族(個人年金保険料については親族を除きます)であることが必要です(参考:本ブログ記事「妻が契約者でも夫の生命保険料控除の対象にできるか?」)。
 また、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する際は、旧生命保険料で一契約の保険料の金額が9,000円以下であるものを除き、証明書類の添付等が必要です。

(2) 控除額の計算
 保険料控除申告書の下部に記載されている「計算式Ⅰ(新保険料等用)」「計算式Ⅱ(旧保険料等用)」に当てはめて控除額を計算します。控除額の計算において算出した金額に1円未満の端数があるときは、その端数を切り上げます。

3.地震保険料控除の記入

 地震保険料控除についても生命保険料控除と同じように、保険会社から送られてきた地震保険料控除証明書の内容を記入(転記)して、地震保険料控除額の計算式に当てはめて控除額を計算します。
 なお、保険等の対象となった家屋等に居住又は家財を利用している人は、あなた又はあなたと生計を一にする親族であることが必要です(参考:本ブログ記事「賃貸住宅に住んでいる場合に地震保険料控除の適用はあるか?」)(同一生計を要件とする所得控除については、本ブログ記事「所得控除における『生計を一にする』の判定基準」をご参照ください)。
 また、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する際は、証明書類の添付等が必要です。

4.社会保険料控除の記入

 国民年金保険料など、あなたが直接支払った社会保険料を記入します。給与から差し引かれた社会保険料は記入しません。
 具体的には、次のような場合に記入が必要です。
(1) 勤務先が社会保険に未加入で、国民年金保険料・国民健康保険料を自分で支払っている場合
(2) 年の途中で就職し、それまでは国民年金保険料・国民健康保険料を支払っていた場合
(3) 配偶者、親、子の代わりに国民年金保険料・国民健康保険料を支払っている場合

 これらに該当する場合は、下記項目を記入します。

項目 記入内容
社会保険の種類 国民年金、国民年金基金、国民健康保険など
保険料支払先の名称 日本年金機構、市区町村名など
保険料を負担することになっている人 あなたや家族の氏名
あなたとの続柄 自分の場合は「本人」、それ以外の場合は「妻、夫、配偶者、父、母、子」など
あなたが本年中に支払った保険料の金額 ①国民年金や国民年金基金の場合
控除証明書に記載されている「合計額(納付済額+見込額)
②国民健康保険料(税)の場合
控除証明書がないので、領収書等から支払額を集計
合計(控除額) すべての額の合計

 なお、国民年金と国民年金基金については控除証明書の添付等が必要ですが、国民健康保険は控除証明書がありません(勤務先から「市町村の支払額の通知書」の提出を求められる場合があります)。

5.小規模企業共済等掛金控除の記入

iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金など、あなたが直接支払った小規模企業共済等掛金を記入します。給与から差し引かれた掛金は記入しません。
 独立行政法人中小企業基盤整備機構や国民年金基金連合会、地方公共団体から送付された証明書をもとに下記項目の金額を記入します。
 なお、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する際は、証明書類の添付等が必要です。 

項目 記入内容
独立行政法人中小企業基盤整備機構の共済契約の掛金 小規模企業共済
※フリーランスの退職金の準備のための掛金。
確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金 企業型DC(企業型確定拠出年金)
※企業が掛金を拠出し、従業員が運用する。通常は、給与から差し引かれるため記入不要。
確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金 iDeCo(個人型確定拠出年金)
※自分で加入する。
心身障害者扶養共済制度に関する契約の掛金 心身障害者扶養共済掛金
※障害者を扶養している保護者が毎月一定の掛金を支払うことで、保護者に万一のことがあったときに障害者に年金が支給される。

令和4年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書の書き方と記載例

 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書は、基礎控除申告書、配偶者控除等申告書、所得金額調整控除申告書の3つが一体の書式になっています。
 今回は、令和4年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書の書き方を確認します。なお、令和4年分扶養控除等申告書については、本ブログ記事「令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」を、令和4年分保険料控除申告書については「令和4年分給与所得者の保険料控除申告書の書き方と記載例」を、年末調整で勤務先に提出する書類については「年末調整に必要な書類(各種申告書と証明書等)」をご参照ください。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長
 給与の支払者(勤務先)の所在地等の所轄税務署長を記入します。

(2) 給与の支払者の法人番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の法人番号を付記しますので、あなた(給与所得者)が記入する必要はありません。

2.給与所得者の基礎控除申告書の記入

(1) あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算
 給与所得については、令和4年中の給与の収入金額(給与を2か所以上から受けている場合は、その合計額)の見積額を「収入金額」欄に記入し、その給与の収入金額を基に下表を使用して「所得金額」を計算します。

給与の収入金額(A) 給与所得の金額
1円以上    550,999円以下 0円
551,000円以上 1,618,999円以下 A-550,000円
1,619,000円以上 1,619,999円以下 1,069,000円
1,620,000円以上 1,621,999円以下 1,070,000円
1,622,000円以上 1,623,999円以下 1,072,000円
1,624,000円以上 1,627,999円以下 1,074,000円
1,628,000円以上 1,799,999円以下 A÷4(千円未満切捨て)…B
B×2.4+100,000円
1,800,000円以上 3,599,999円以下 A÷4(千円未満切捨て)…B
B×2.8-80,000円
3,600,000円以上 6,599,999円以下 A÷4(千円未満切捨て)…B
B×3.2-440,000円
6,600,000円以上 8,499,999円以下 A×0.9-1,100,000円
   8,500,000円以上 A-1,950,000円

 ただし、所得金額調整控除の適用を受ける人は、上の表に従って求めた給与所得の金額から所得金額調整控除の控除額を差し引いた額を記入してください。
 所得金額調整控除の額の計算方法は、次のとおりです(①②の両方がある場合は、その合計額)。
① (給与の収入金額※1-850万円)×10%
 ※1 1,000万円を超える場合は1,000万円
② 給与所得控除後の給与等の金額※2+公的年金等に係る雑所得の金額※2-10万円
 ※2 10万円を超える場合は10万円

 例えば、給与の収入金額が8,970,000円の場合、上の表より給与所得の金額は8,970,000円-1,950,000円=7,020,000円と計算されますが、所得金額調整控除の額(8,970,000円-8,500,000円)×10%=47,000円を差し引いた6,973,000円を「所得金額」欄に記入します。

(2) 控除額の計算
 上記(1) の「あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算」の表で計算した合計額を基に「判定」欄の該当箇所に✓を付け、判定結果に対応する控除額を「基礎控除の額」欄に記入します。

(3) 区分Ⅰ
 配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けようとする人は、「控除額の計算」の「判定」欄の判定結果に対応する記号(A~C)を記入します。

3.給与所得者の配偶者控除等申告書の記入

(1) 配偶者の氏名、個人番号など
 一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください(本ブログ記事「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書のマイナンバー記載を省略する方法」をご参照ください)。
 また、配偶者が非居住者である場合には、「非居住者である配偶者」欄に○を付け、「生計を一にする事実」欄にその年に送金等をした金額の合計額を記入します。この場合、親族関係書類及び送金関係書類の添付等が必要ですが、親族関係書類については、扶養控除等(異動)申告書を提出した際に添付等をしているときは必要ありません。

(2) 配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算
 上記 2.(1)を参考に、配偶者の収入金額、所得金額を記入して下さい。例えば、給与収入の見積額が920,000円でかつ、所得金額調整控除が適用されない人の場合には、所得金額は920,000円-550,000円=370,000円となります。

(3) 判定及び区分Ⅱ
 上記3.(2)で計算した合計所得金額及び配偶者の生年月日を基に、「判定」欄の該当箇所に✓を付け、判定結果に対応する記号(①~④)を「区分Ⅱ」欄に記入します。

(4) 配偶者控除の額又は配偶者特別控除の額
 区分Ⅱが①又は②の場合は「配偶者控除の額 」欄に、区分Ⅱが③又は④の場合は「 配偶者特別控除の額 」欄に、「控除額の計算」の表で求めた配偶者控除額又は配偶者特別控除額を記入します。

4.所得金額調整控除申告書の記入

(1) 要件
 該当する要件に✓を付けます。複数の項目に該当する場合は、いずれか1つを選んで✓を付けます。
 「特別障害者」とは、障害者のうち身体障碍者手帳に身体上の障害の程度が一級又は二級である者として記載されている人など、精神又は身体に重度の障害のある人をいいます。
 「同一生計配偶者」とは、あなたと生計を一にする配偶者(青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和4年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人をいいます。
 「扶養親族」とは、あなたと生計を一にする親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和4年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人をいいます。 なお、児童福祉法の規定により養育を委託されたいわゆる里子や老人福祉法の規定により養護を委託されたいわゆる養護老人で、あなたと生計を一にし、令和4年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人も扶養親族に含まれます。

(2) ☆扶養親族等
 「要件」欄で「同一生計配偶者が特別障害者」、「扶養親族が特別障害者」、「扶養親族が年齢23歳未満」の項目に✓を付けた場合、その要件に該当する同一生計配偶者又は扶養親族の氏名、個人番号及び生年月日等を記入します。
 なお、「扶養親族が特別障害者」、「扶養親族が年齢23歳未満」の項目に✓を付けた場合でその扶養親族が2人以上いる場合は、いずれか1人の氏名、個人番号及び生年月日を記入します(扶養親族が年齢23歳未満の場合については、本ブログ記事「所得金額調整控除における『23歳未満の扶養親族』とは?」をご参照ください)。
 また、 一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください (上記3.(1)参照)。

(3) ★特別障害者
 「特別障害者に該当する事実」欄には、障害の状態又は交付を受けている手帳などの種類と交付年月日、障害の程度(障害の等級)などの特別障害者に該当する事実を記入します。
 なお、特別障害者に該当する人が「扶養控除等(異動)申告書」に記載している特別障害者と同一である場合には、特別障害者に該当する事実の代わりに「扶養控除等申告書のとおり」と記載することも認められています。

※所得金額調整控除については、本ブログ記事「令和2年分から適用される基礎控除の改正と所得金額調整控除の新設」をご参照ください。