外貨建預金の為替差益を申告(認識)しなくてもよい場合とは?

 毎年確定申告時期になると、各地に設けられた確定申告相談会場に多くの一般納税者の方が訪れます。
 その相談会場で最近増えてきたのが、外貨建預金が満期等となった場合の為替差益に関するご相談です。
 例えば、外貨建預金を解約して円転した場合に為替差益が生じているときは、これを雑所得として申告する必要があります。
 しかし、以下のように外貨建預金の為替差益を申告しなくてもよいケースもあります。

1.為替差益を認識する必要がないケース

 例えば、次のような取引があった場合、為替差益を認識して雑所得として申告する必要はあるでしょうか?

 A銀行に米ドル建で預け入れていた定期預金(以下「本件預金」という)1万ドルが満期となったため、満期日に全額を払い出した。
 同日、本件預金の元本部分1万ドルをB銀行に預け入れた。

・預入時のレート:1ドル=100円(円からドルへの交換と本件預金の預入は同日)
・払出時のレート:1ドル=125円
・為替差益:(125円-100円)×1万ドル=25万円

 この場合、定期預金をA銀行から払い出してB銀行に預け入れる際に、元本部分について25万円の為替差益が発生していますが、この為替差益を認識する必要はありません。したがって、雑所得として申告する必要もありません。

 外貨建取引とは、外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいい、居住者が外貨建取引を行った場合には、その外貨建取引の金額の円換算額はその外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとされています(所得税法第57条の3第1項)。

 ただし、外国通貨で表示された預貯金を受け入れる金融機関を相手方とする当該預貯金に関する契約に基づき預入が行われる当該預貯金の元本に係る金銭により引き続き同一の金融機関に同一の外国通貨で行われる預貯金の預入は、上記の外貨建取引には該当しないものとされています(所得税法施行令第167条の6第2項)。

 したがって、外貨建預貯金として預け入れていた元本部分の金銭につき、①同一の金融機関に、②同一の外国通貨で、③継続して預け入れる場合の預貯金の預入については、外貨建取引に該当しないこととされていますので、その元本部分に係る為替差損益が認識されることはありません。

2.なぜ認識する必要がないのか?

 上記1のようなケースでは、外貨建預貯金の預入及び払出が行われたとしても、その元本部分に関しては、同一の外国通貨で預入及び払出が行われる限り、その金額に増減はなく、実質的には外国通貨を保有し続けている場合と変わりはないといえます。

 所得税法施行令第167条の6第2項の規定は、このような外貨の保有状態に実質的な変化がない外貨建預貯金の預入及び払出については、その都度これらを外貨建取引として為替差損益を認識することは実情に即さないものであると考えられることから、所得税法第57条の3第1項でいう外貨建取引から除かれることを明らかにした例示規定であると解されています。

 このようなことを踏まえると、本件預金の預入及び払出は、他の金融機関へ預け入れる場合であるとしても、同一の外国通貨で行われる限り、その預入・払出は所得税法施行令第167条の6第2項でいう外国通貨で行われる預貯金の預入に類するものと解され、所得税法第57条の3第1項の外貨建取引に該当しない、すなわち、為替差損益を認識しないとすることが相当と考えられています。

 なお、蛇足ながら、年収2,000万円以下の給与所得者で外貨建預金の為替差益を含めた給与所得以外の所得が年間20万円以下の場合等は、確定申告不要です。