講師契約書に貼る印紙代と節税方法

1.課税文書の判定と文書の所属

 次の講師契約書は実務上よく見る文書ですが、この契約書に貼る印紙はいくらになるでしょうか?

                講師契約書

 委任者○○(以下、甲という)と講師△△(以下、乙という)は、下記のとおり甲の専属講師として契約する。

第1条 乙は甲の依頼により、企業や官公庁、大学などで実務的な簿記会計や税務に関する講義、検定試験の受験指導にかかる講義を行うものとする。

第2条 甲が乙に講義を依頼する際は、実施場所、講義日数、講義料等を別表により通知する。依頼を受けた乙は、1週間以内に承諾の可否を甲に連絡するものとする。

第3条 講義等にかかる交通費は実費を支給する。

第4条 甲の依頼により、教材、資料などを作成する場合は、別途教材作成料を支払うものとし、その料金は別途協議する。

第5条 契約期間は、令和3年11月1日~令和4年10月31日の1年間とする。

 答えは「印紙は不要」です。
 この契約書に書かれているのは、甲の依頼により乙は講師の仕事を1年間行うということだけで、実際に企業等での講師の仕事を依頼されたわけではありません。第1条や第2条の文言から、この契約書の作成段階において、乙は甲から何も仕事を請け負っていない(具体的には何も取引が発生していない)ので、この契約書は不課税文書になります。したがって、印紙の貼付けは不要です。

 では、上記契約書以外に次のような別表がある場合は、印紙代はいくらになるでしょうか?

                  別表

実施場所:◇◇大学
講  座  名:簿記検定試験直前対策
開  催  日:令和3年11月6日(土)
開催時間:13:00~16:00
開催条件:最小開催人数を5人とする
講師謝礼:受講料(税込)の35%

 答えは「200円」です。
 最初の契約書だけなら、具体的な取引が発生していないので、印紙の貼付けは不要でしたが、今回は甲から乙に実際に仕事の依頼があり、別表にその具体的な内容が記載されています。乙が1週間以内に承諾する旨を甲に連絡すれば、本件については契約成立となり、別表は課税文書になります。
 文書の所属については、この講座が3か月を超えて複数回行われるものであれば、第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当する可能性がありますが、開催日が令和3年11月6日の1日だけですので、第2号文書(請負に関する契約書)となります。
 印紙税額を決める記載金額については、別表に「最小開催人数5人、講師謝礼は受講料(税込)の35%」と書かれていることから、記載金額(講師謝礼)を計算する際の元となる受講料は、受講者数によって変わります。別表からは実際の参加人数がわかりませんので、記載金額を計算することができません。したがって、この文書は記載金額のない第2号文書となり、印紙税額は200円となります。
 なお、契約を結んだときには別表がなく、後になって具体的な仕事が決まってから別表を作成する場合は、最初の契約書に印紙を貼る必要はありません。契約時には何も請け負っていないので、その契約書は不課税文書です。後日、別表が作成された時点で第2号の課税文書となり、別表に印紙を貼る必要があります。

2.印紙税の節税方法

 本事例は、別表がなければ不課税文書となり、印紙税はかかりません。とはいえ、甲が乙に仕事を依頼するには別表が必要です。
 そこで、別表を文書として作成するのではなく、別表の記載内容をメールでやり取りすれば、印紙税を納める必要はありません。

※ 印紙税の節税については、本ブログ記事「印紙税の節税方法5選」をご参照ください。

変更契約書に貼る印紙はいくら?

 建設業を営むA社から、次のような問い合わせがありました。

「請負契約の金額を減額することになり覚書を交わすことになったが、この覚書に印紙を貼らなければならないか?」

 すでに成立している契約の内容を変更する場合には、A社のように覚書や念書を作成して後々のトラブルを未然に防ぐ必要があります。その際、印紙を貼るべきか、また、貼るならいくらの印紙を貼らなければならないか、という疑問が生じます。
 そこで、このような事例における印紙の取扱いについて述べていきます。

1.印紙税法上の契約書とは

 今回のように「覚書」や「念書」等の表題を用いて原契約書の内容を変更する文書を作成する場合がありますが、これらの文書は印紙税法上の「契約書」にあたるのでしょうか?
 印紙税法上の契約書とは、契約の成立、更改、内容の変更又は補充の事実を証明する目的で作成する文書をいいます。したがって、文書のタイトルが「覚書」や「念書」となっていても、そこに内容の変更(請負契約金額の変更)に関する事項が書かれているのであれば、印紙税法上は「契約書」と判断されます。
 収入印紙が必要かどうかは、あくまでも文書の内容によって判断されますので、タイトルは関係ないということです。

2.変更契約書に印紙を貼るのはどんな場合?

 A社が今回作成する覚書は、印紙税法上の契約書(以下、「変更契約書」といいます)にあたります。では、変更契約書であれば必ず印紙を貼らなければならないのでしょうか?
 印紙を貼るべき文書を課税文書といいますが、変更契約書が課税文書に該当するかどうかは、その変更契約書に「重要な事項」が含まれているかどうかにより判定します。
 つまり、原契約書により証されるべき事項のうち、重要な事項を変更するために作成した変更契約書は課税文書となり、印紙を貼る必要があります。重要な事項を含まない場合は課税文書に該当しませんので、印紙を貼る必要はありません。

3.重要な事項とは

 請負に関する契約書(第2号文書)の変更についての重要な事項は以下のとおりです。

(1) 請負の内容
(2) 請負の期日または期限
(3) 契約金額(消費税額を含む)
(4) 取扱数量
(5) 単価
(6) 契約金額の支払方法又は支払期日
(7) 割戻金等の計算方法又は支払方法
(8) 契約期間
(9) 契約に付される停止条件又は解除条件
(10) 債務不履行の場合の損害賠償の方法

 したがって、A社が作成する覚書(請負契約金額の減額)は上記(3)の重要な事項を含むため、印紙を貼らなければなりません。
 なお、第2号文書以外の文書に関する「重要な事項」については、本ブログ記事「変更契約書における『重要な事項』の変更とは?」をご参照ください。

4.記載金額を変更する場合の印紙

 では、A社はいくらの印紙を貼ればいいのでしょうか?これについては、変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていること、及び変更契約書において変更金額が明らかであるか否かによって、次のようなルールがあります。

(1) 変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかな場合

①変更金額が明らかである場合

 変更金額が明らかで増額変更の場合は、増額した金額が記載金額になり、その増額した金額に応じた印紙を貼ります。例えば、次のような変更契約書を作成した場合です。

               変更契約書

 注文者甲と請負者Aは、令和元年11月25日に締結した建築工事請負契約について、以下のように変更する。

 既定金額   5,000万円
 変更金額   6,000万円
 増額     1,000万円

 この変更契約書には、変更前契約書の締結年月日(令和元年11月25日)が記載されていますので、変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかであり、かつ、変更金額(6,000万円)の記載があることから変更金額も明らかです。したがって、増額した金額(1,000万円)が記載金額となり、貼る印紙は5,000円となります。

 また、変更金額が明らかで減額変更の場合は、記載金額なしとなり、契約金額の記載のないもの(第2号文書)として200円の印紙を貼ります。例えば、次のような変更契約書を作成した場合です。

               変更契約書

 注文者甲と請負者Aは、令和元年11月25日に締結した建築工事請負契約について、以下のように変更する。

 既定金額   5,000万円
 変更金額   4,000万円
 減額     1,000万円

 この変更契約書には、変更前契約書の締結年月日(令和元年11月25日)が記載されていますので、変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかであり、かつ、変更金額(4,000万円)の記載があることから変更金額も明らかです。したがって、減額(1,000万円)した場合は記載金額なしとなり、貼る印紙は200円となります。
 A社はこのケースに該当しますので、A社の貼るべき印紙は200円になります。

②変更金額が明らかでない場合

 変更金額が明らかでない場合は、変更後の契約金額が記載金額となり、その変更後の金額に応じた印紙を貼ります。例えば、次のような変更契約書を作成した場合です。

               変更契約書

 注文者甲と請負者Aは、令和元年11月25日に締結した建築工事請負契約について、仕様変更に伴い契約金額を6,000万円に変更する。

 この変更契約書には、仕様を変更したことに伴い契約金額を6,000万円に変更したことが記載されています。
 先の2つの例のように、原契約書に記載された契約金額がわかれば6,000万円との差額がこの変更契約書の記載金額となります。しかし、この契約書からは変更前の金額がわからないため、増減額が明らかではありません。したがって、この変更契約書の記載金額は6,000万円と判断され、貼る印紙は30,000円となります。

(2) 変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかでない場合

①変更金額のみが記載されている場合

 増額・減額を問わず、その変更金額が記載金額となります。

②契約金額の記載がある場合

 変更後の契約金額が記載金額となります。

仮契約書と本契約書のどちらに印紙を貼る?

 会計事務所への問い合わせで意外に多いのが「印紙」に関する事項です。税理士試験に「印紙税」の科目は無いため、印紙税に関する知識は実務経験を積んで身に付けることになります。

1.仮契約書と本契約書の両方に印紙を貼る

 昨日、顧問先であるA社(建設業)から、「仮契約書と本契約書のどちらに収入印紙を貼ればいいか?」という質問を受けました。
 A社が建設工事の請負(契約金額を仮に3,000万円とします)をする際に、まず仮契約を結ぶことになったそうです。

 早速調べてみると、国税庁ホームページ・タックスアンサーに次の記載がありました。
 「印紙税は、文書を作成する都度課税される税金です。文書が作成されるかぎり、たとえ1個の取引について数通の契約書が作成される場合でも、また、予約契約や仮契約と本契約の2度にわたって契約書が作成される場合でも、それぞれの契約書に印紙税が課税されます。」

 したがって、今回のように同一の取引について2文書以上の契約書を作成する場合は、仮契約書と本契約書の両方に10,000円の印紙を貼ることになります。
(「不動産譲渡契約書」及び「建設工事請負契約書」について、2014年(平成26年)4月1日から2020年(平成32年)3月31日までに作成されるものについては、印紙税の軽減措置が適用されますので、契約金額が3,000万円の場合は10,000円の印紙税になります。)

2.仮契約書の契約金額を引用すると節税になる

 このことをA社にお伝えしようと思ったのですが、念のため、さらに調べてみました。
 すると、国税庁ホームページ・質疑応答事例に次の記載がありました。
 「本契約書を作成すれば、その本契約書も第2号文書として課税の対象になりますが、例えば、本契約書に『○年○月○日付の仮請負契約書の内容を本契約とする。』旨を記載して契約金額を記載しない場合には、引用している『○年○月○日付の仮請負契約書』は課税文書ですから、本契約書は記載金額のない第2号文書として取り扱われます。」

 つまり、本契約書に契約金額を記載せずに「仮契約書」の契約金額を引用した場合は、本契約書は記載金額のない第2号文書(請負に関する契約書)として取り扱われ、200円(本来は10,000円)の印紙を貼るだけですみます。

 以上のことをA社にお伝えしました。