支払調書への個人番号の記載

 2016年(平成28年)1月1日以後の金銭等の支払等に係る法定調書に、金銭等の支払を受ける人(受給者)及び法定調書の提出義務者(支払者等)のマイナンバー(個人番号)又は法人番号を記載することが義務付けられました。
 金銭等の支払を受ける人とは「不動産の使用料等の支払調書」では家主や地主など、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」では、弁護士、税理士、司法書士などになります。

1.家主さんが年の途中で死亡した場合

 「不動産の使用料等の支払調書」を作成していたところ、家主さんが平成30年中に死亡していることがわかりました。
 この場合、提出すべき支払調書に亡くなった家主さんのマイナンバー(個人番号)の記載が必要か否かで考え込んでしまいました。
 というのも、平成28年10月以降に提出する相続税申告書には、被相続人のマイナンバーの記載が不要とされたからです。支払調書にもこのような取扱いがあるのかどうか判然としませんでした。

 そこで、税務署に問い合わせたところ、「マイナンバーの記載は不要です。ただし、摘要欄に『平成30年中に死亡のため番号不要』と記載して下さい。」とのことでした。
 相続税申告書への被相続人のマイナンバーの記載が不要とされたのは、「相続開始前において、相続税の申告のために、あらかじめマイナンバーの提供を受けておくことは、親族間であっても抵抗がある。」といった納税者の意見が考慮されたからです。
 このような経緯から、支払調書にもマイナンバー記載不要の取扱いが認められたものと思われます。

2.本人に支払調書を交付した場合

 支払内容の確認などのために弁護士、税理士、司法書士等の受給者本人に対して「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を交付することがあります。
 この場合、マイナンバー(個人番号)の記載は必要でしょうか?

 答えは「否」です。本人に支払調書を交付する行為は、番号法上の特定個人情報の提供制限を受けることとなるため、受給者及び支払者等の個人番号又は法人番号を記載することはできません。

 余談ですが、受給者本人である弁護士、税理士、司法書士等に支払調書を交付する義務はありません。本人への支払調書の交付は商慣習で行われているだけであって、税法上の交付義務はありません。また、本人に交付する支払調書に角印(社印)を押す必要もありません。
 一方、報酬を受け取った弁護士、税理士、司法書士等の確定申告においても、支払調書を確定申告書に添付する必要はありません。

「不動産の使用料等の支払調書」の注意事項

 支払調書を作成していて毎年悩むのが「不動産の使用料等の支払調書」です。以下では、その作成上と提出上の注意点をまとめていきます。

1.不動産管理会社に家賃を支払った場合

 法人が個人に支払った不動産の①地代、②家賃、③権利金、④礼金、⑤更新料は、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が15万円を超えるものについては、支払調書を作成して税務署に提出しなければなりません。
 一方、法人が法人に支払った上記①~⑤のうち、15万円を超える③~⑤については支払調書を税務署に提出しなければなりませんが、①と②は提出不要です。

 では、法人が法人である不動産管理会社に支払った家賃については、支払調書の提出義務はあるのでしょうか?

 例えば、個人から不動産を賃借していても、家賃はその不動産の管理会社である法人に支払っていることがあります。 この場合は、個人に対する支払となるために所有者である個人名を支払調書の「支払を受ける者」の欄に記載し、支払金額合計が15万円を超えるときは税務署に提出しなければなりません。

2.前払家賃の支払調書への記載

 顧問先であるA社が、昨年新たに駐車場の賃貸借契約を結びました。家主さんは個人です。この契約書には、各月分の家賃を前月の末日までに支払う旨が定められています。
 A社は平成30年11月から駐車場の賃借を始めており、契約に基づいて、11月分・12月分・翌年1月分の家賃を平成30年中に支払っています。
 この場合、不動産の使用料等の支払調書の「支払金額」欄に、11月分と12月分の2か月分を記載すればいいのか、平成30年中に支払った3か月分を記載すればいいのか迷いました。 

 そこで調べてみると、国税庁ホームページの質疑応答事例に次のように回答が載っていました。
「『不動産の使用料等の支払調書』の支払金額は、所得税法施行規則第90条第1項第2号において『その年中に支払の確定した対価の金額』と規定されています。この『確定した対価の金額』とは、原則として、相手方にその支払を請求し得ることとなった金額をいうものと解されています。」

 したがって、A社の場合、その年中に支払うべきことが確定している対価の金額は、11月分から翌年1月分の3か月分の家賃の金額となり、その3か月分の家賃に相当する金額を「支払金額」欄に記載することとなります。
 なお、法人の企業会計においては、地代、家賃のような期間収益については、貸付期間の経過に応じて益金に算入することとされ、また、所得税においても、一定の要件の基に企業会計の処理にしたがって所得計算を行うことが認められていますが、支払調書については、上記により作成・提出することとなります。

3.共有持分が不明の場合の記載方法

 共有持分に係る不動産を賃借している場合、不動産の使用料等の支払調書は不動産賃貸借契約書等から共有者ごとに作成することとされています。
 ところが、契約書等を見てもそれぞれの共有持分が不明の場合があります。この
ような場合には、支払った総額を記載した支払調書を共有者の人数分の枚数だけ作成することとなっていますが、支払を受ける者の欄には共有者連名ではなく各人ごとに記載します。
 また、摘要欄には①「共有持分不明につき総額を記載」とし、②他の共有者の数、③他の共有者の氏名及び個人番号を記載します。

使用人兼務役員の年末調整と源泉徴収票の税務署への提出

 企業では、役員が使用人としての職務を兼ねることがあります。このような役員を使用人兼務役員といい、法人税法上は「役員のうち部長、課長、その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事する者」と定義されます(法34⑤)。

1.使用人兼務役員の年末調整

 この使用人兼務役員の給与を、例えば役員部分10万円/月、使用人部分30万円/月とします。会計上は役員部分と使用人部分を分けて、次のように処理します。

(役員報酬) 100,000 (現金預金) 400,000
(給与手当) 300,000

 では、この使用人兼務役員の年末調整は、役員部分と使用人部分に分けて行う必要があるのでしょうか?
 答えは「否」です。この使用人兼務役員に対し年間で役員部分120万円、使用人部分360万円の給与を支給しているとすると、年末調整は役員部分と使用人部分の合計480万円で行い、源泉徴収票も分けずに発行します。

2.使用人兼務役員の源泉徴収票の提出

 ここで新たな疑問が生じます。法定調書合計表と併せて税務署に提出すべき源泉徴収票の範囲に、この使用人兼務役員は含まれるのでしょうか?

 源泉徴収票の提出範囲は、年末調整をした場合は、平成30年中の給与の支給額が役員については150万円を超えるもの、従業員(使用人)については500万円を超えるものとされています。
 この使用人兼務役員の場合、役員部分120万円と使用人部分360万円を分けて考えると、いずれも提出範囲から外れるため提出不要となります。本当にこれでいいのでしょうか?
 答えは「否」です。使用人兼務役員の受給者区分は「法人の役員」に該当し、給与も役員部分と使用人部分を合算して提出の要否を判定しなければなりません。
 したがって、この使用人兼務役員への支給額合計480万円は150万円を超えていますので、源泉徴収票を税務署に提出する必要があります。

支払調書の提出の要否で迷いやすいケース

 会計事務所の1月の主要業務のひとつに支払調書の提出があります。支払調書は、原則として法人・個人を問わず、一定額を超える給与や報酬、家賃などを支払っていれば提出しなければならないものです。
 以下では、支払調書を提出すべきか否か、迷いやすいケースについて述べていきます。

1.行政書士に報酬を支払った場合

 支払調書(「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」)を提出すべき報酬については、所得税法第204条第1項に限定列挙されており、例えば、弁護士、司法書士、税理士、社会保険労務士等に対する報酬がこれに該当します。

 では、これらと同じ士業である行政書士に報酬を支払った場合は、支払調書の提出は必要なのでしょうか?
 答は、「原則として提出不要」です。一般的に行政書士の業務に関する報酬は、所得税法第204条第1項に規定する報酬には該当しませんので、支払調書を提出する必要はありません。

 ところが、国税庁ホームページの質疑応答事例には次のような記載があります。
「依頼した業務が建築基準法第6条等に定める『建築に関する申請若しくは届出』の書類の作成のような場合には、その業務が建築代理士の行う業務に含まれるため、支払調書の提出が必要になります。」

 ここでいう「建築に関する申請若しくは届出」とは何でしょうか?
 建築基準法第6条(建築物の建築等に関する申請及び確認)を見ると、行政書士が行う建築確認申請のような建築そのものの申請であればこれに該当するものと考えられるため、支払調書の提出が必要となります。
 しかし、単に建設業の許可申請経営事項審査などはこれに該当しないものと考えられるため、支払調書の提出は不要となります。
 行政書士に依頼した業務の内容によって、支払調書の提出の要否が異なりますので、注意が必要です。

2.個人事業者に提出義務のない支払調書

 先に述べたように、支払調書は法人・個人を問わず、一定額を超える報酬や家賃などを支払っていれば提出しなければならないものです。しかし、なかには個人事業者に提出義務がない支払調書もあります。

 例えば、「不動産の使用料等の支払調書」は法人のみに提出義務があり、個人事業者には提出義務がありません。ただし、不動産業者である個人事業者には提出義務があるのですが、主として建物の賃貸借の代理や仲介を目的とする事業を営んでいる方は提出義務がありません。

 また、個人事業者で「給与支払事務所等の開設届出書」を税務署に提出していない場合(つまり、源泉徴収義務者でない場合)は、報酬の源泉徴収と「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出は不要です。

役員に社宅を貸す場合の家賃はいくらが妥当か?

 役員に社宅を貸す場合は、役員から一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」といいます)を徴収していれば、給与課税されません。
 賃貸料相当額は、貸与する社宅の床面積により小規模住宅とそれ以外の住宅とに分け、以下のように計算します。
 ただし、この社宅が、社会通念上一般に貸与されている社宅と認められないいわゆる豪華社宅である場合は、次の計算式の適用はなく、時価(実勢価額)が賃貸料相当額になります。
 いわゆる豪華社宅であるかどうかは、床面積が240平方メートルを超えるもののうち、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況等各種の要素を総合勘案して判定します。
 なお、床面積が240平方メートル以下のものについては、原則として、プール等や役員個人のし好を著しく反映した設備等を有するものを除き、次の算式によることとなります。

1.小規模住宅の場合

 賃貸料相当額は、次の①~③の合計額になります(従業員に社宅を貸す場合の計算式と同じです)。
 ①その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
 ②12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
 ③その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
 なお、小規模住宅とは、建物の耐用年数が30年以下の場合には床面積が132平方メートル以下である住宅、建物の耐用年数が30年を超える場合には床面積が99平方メートル以下(区分所有の建物は共用部分の床面積をあん分し、専用部分の床面積に加えたところで判定します。)である住宅をいいます。

2.小規模住宅でない場合

 役員に貸与する社宅が小規模住宅に該当しない場合には、その社宅が自社所有の社宅か、他から借り受けた住宅等を役員へ貸与しているのかで、賃貸料相当額の算出方法が異なります。

(1) 自社所有の社宅の場合

 次の①と②の合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
  ①その年度の建物の固定資産税の課税標準額×12%
  (建物の耐用年数が30年を超える場合は12%ではなく10%を乗じます)
  ②その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×6%

(2) 他から借り受けた住宅等を貸与する場合

 会社が家主に支払う家賃の50%の金額と、上記(1)で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。

3.注意点

 役員に無償で社宅を貸す場合には、この賃貸料相当額の全額が給与課税されます。
 役員から賃貸料相当額より低い家賃を徴収している場合には、賃貸料相当額と徴収している家賃との差額が、給与課税されます。
 現金で支給する住宅手当や、役員が直接契約している場合に会社が負担する家賃は、社宅の貸与とは認められないので給与課税されます。

従業員に社宅を貸す場合の家賃はいくらが妥当か?

1.妥当な家賃

 従業員(使用人)に社宅を貸す場合は、従業員から一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」といいます)を徴収していれば、給与課税されません。
 賃貸料相当額とは、次の(1)~(3)の合計額をいいます。
 (1)その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
 (2)12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
 (3)その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%

2.注意点

 従業員に無償で社宅を貸す場合には、この賃貸料相当額の全額が給与課税されます。
 従業員から賃貸料相当額より低い家賃を徴収している場合には、賃貸料相当額と徴収している家賃との差額が、給与課税されます。
 しかし、賃貸料相当額の50%以上の家賃を従業員から徴収している場合は、賃貸料相当額と徴収している家賃との差額は、給与課税されません。
 現金で支給する住宅手当や、従業員が直接契約している場合に会社が負担する家賃は、社宅の貸与とは認められないので給与課税されます。

特別償却と割増償却の違い

 減価償却は、大きく分けると「普通償却」と「特別償却」があります。
 法人税法で定める定額法や定率法で計算する通常の減価償却を「普通償却」といいます。
 この償却とは別に、租税政策的な目的などから通常の計算をした償却費に加えて余分に減価償却することが認められています。これを「特別償却」といいます。
 さらに、この特別償却は「初年度特別償却」と「割増償却」に分かれます。実務上、特別償却というときは初年度特別償却を指す場合が多いことから、ここでは初年度特別償却のことを特別償却と呼びます。
 この特別償却と割増償却ですが、よく似た制度なので両者を混同してしまうケースも見受けられます。
 以下では、両者の相違点について整理してみます。

1.メリット

 特別償却も割増償却も、早期に費用化することによる固定資産の陳腐化リスクに備えるメリットがあります。

2.計算方法

 特別償却は、特別償却限度額(取得価額×特別償却率)が、普通償却に上乗せされます。割増償却は、割増償却限度額(普通償却限度額×割増償却率)が、普通償却に上乗せされます。
  特別償却限度額=取得価額×特別償却率
  割増償却限度額=普通償却限度額×割増償却率
 つまり、特別償却は取得価額を基礎として計算するのに対し、割増償却は普通償却を基礎として計算します。

3.計算例

 次の簡単な数値を使って両者の計算例を示します。
  取得価額100万円
  耐用年数4年(償却率0.25)
  特別償却率20%
  割増償却率20%(適用期間2年)

(1) 特別償却を行った場合

 ①1年目
  普通償却限度額=100万円×0.25=25万円
  特別償却限度額=100万円×20%=20万円
  合計=25万円+20万円=45万円
 ②2年目
  普通償却限度額=100万円×0.25=25万円
  特別償却限度額=0(適用があるのは初年度だけです
  合計=25万円+0=25万円
 ③3年目
  普通償却限度額=100万円×0.25=25万円
 ④4年目
  普通償却限度額=100万円-(45万円+25万円+25万円)=5万円

(2) 割増償却を行った場合

 ①1年目
  普通償却限度額=100万円×0.25=25万円
  割増償却限度額=25万円×20%=5万円
  合計=25万円+5万円=30万円
 ②2年目
  普通償却限度額=100万円×0.25=25万円
  割増償却限度額=25万円×20%=5万円
  合計=25万円+5万円=30万円
 ③3年目
  普通償却限度額=100万円×0.25=25万円
  割増償却限度額=0(計算例では適用期間を2年としています
  合計=25万円+0=25万円
 ④4年目
  普通償却限度額=100万円-(30万円+30万円+25万円)=15万円

4.適用期間

 特別償却は初年度だけですが、割増償却は一定期間の適用があります。

5.減価償却費の総額

 特別償却も割増償却も、減価償却費の総額は普通償却の場合と同じです。