電子申告(e-Tax) 未対応帳票に注意

1.税倍保険の事故例も・・・

 法人税申告における電子申告(e-Tax) の利用状況は、2021(令和3)年度は87.9%となっており、電子申告は法人税申告における主流となっています。
 かつては、申告期限最終日に決算書や別表等を税務署に配達記録(特定記録)で郵送するため、郵便局が閉まる前に奔走したりすることもありましたが、今はクリック一つで電子申告できますので便利になったといえます。

 電子申告によって便利になった申告書等の提出ですが、注意しなければならないこともあります。
 多くの帳票が電子申告に対応していますが、提出時期によっては電子申告に対応していない別表等もあります。
 別表等を作成して電子申告を済ませたところ、作成した別表の中に電子申告未対応のものが含まれていてそれに気づかなかった場合は、その別表は提出したことになりません

 最近の税務申告ソフトであれば、電子申告未対応の帳票が含まれている場合は、それを知らせるメッセージが表示されると思いますので、電子申告で提出できなかった帳票は「イメージデータ(PDF形式)送信」または「郵送」にて対応することになります。

※ 次のような事例が、株式会社日税連保険サービスの「税理士職業賠償責任保険事故事例」で紹介されています。

 税理士は、法人税の申告において所得拡大促進税制の適用を受けるべく、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類である別表6(25)を作成し、その控除額を加味した法人税額の計算を行い電子申告したものであるが、当該別表が電子申告未対応であったことに気付かず提出を失念し、当該所得拡大促進税制の適用が受けられなくなったことから、過大納付となった税額について依頼法人から損害賠償請求を受けた。 

2.法人税別表等のイメージデータ送信

 国税庁では、法人税確定申告等について、e-Taxにより提出できない別表等(以下「リリース前別表」といいます)は、イメージデータ(PDF形式)による提出を可能としています。
 ただし、「リリース前別表」とは、国税庁のe-Taxソフトが対応していないことを指しますので、仮に、利用している税務申告ソフトに対応していない別表等があるというだけでは、イメージデータ(PDF形式)での提出はできませんのでご注意ください。
 なお、リリース前別表かどうかは、国税庁ホームページの「 リリース前別表検索ツール (EXCEL) 」により確認することができます

※ リリース前別表検索ツールに記載がない年分の申告については、イメージデータ(PDF形式)により提出できません。

出所:国税庁ホームページ

3.電子申告対応予定時期は国税庁HPで確認

 上記2の「リリース前別表検索ツール(EXCEL)」では、「キーワード検索」タブでPDF提出ができる別表かどうかを確認することができますが、「対応(予定)時期別」タブで別表等の電子申告対応(予定)時期を確認することもできます。
 以下は、「リリース前別表検索ツール(EXCEL)」より検索した法人税別表等(2023(令和5)年4月1日以後終了事業年度分)の電子申告対応時期です。

出所:国税庁ホームページ

通勤手当の非課税限度額に注意

 役員や従業員などの給与所得者に対して通常の給与に加算して支給する通勤手当は、月額15万円以下であれば所得税および復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)が非課税となっています
 しかし、この月額15万円というのは、電車やバスなどの交通機関を利用している場合の非課税限度額であり、マイカー等で通勤する場合は非課税限度額が変わります。
 また、交通機関とマイカーを併用して通勤している場合の非課税限度額にも注意が必要です。
 以下では、通勤手当の非課税限度額について確認します。

※ 通勤手当を区分せず給与に含めて支給する場合については、本ブログ記事「交通費込み給与の交通費部分は確定申告でも非課税にできない」をご参照ください。

1.電車やバスなどの交通機関で通勤している場合

 電車やバスなどの交通機関を利用して通勤している場合の非課税限度額は、月額15万円とされています。これは、通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額です。

 新幹線や特急列車を利用した場合の運賃等の額も、その通勤方法や経路が「最も経済的かつ合理的な経路および方法」に該当する場合は非課税の通勤手当に含まれますが、グリーン料金は最も経済的かつ合理的な通勤経路および方法のための料金とは認められないため、非課税の通勤手当に含まれません。
 したがって、通勤手当が月額15万円以内だったとしても、そこにグリーン料金が含まれている場合は、グリーン料金部分については給与として課税されます。
 つまり、給与の額にグリーン料金を合算して所得税等の源泉徴収を行うことになります。

2.マイカーや自転車などで通勤している場合

 マイカーや自転車などを使用して通勤している場合の1か月当たりの非課税限度額は、片道の通勤距離(通勤経路に沿った長さです)に応じて、次のように定められています。

片道の通勤距離 1か月当たりの非課税限度額
2キロメートル未満 全額課税
2キロメートル以上10キロメートル未満 4,200円
10キロメートル以上15キロメートル未満 7,100円
15キロメートル以上25キロメートル未満 12,900円
25キロメートル以上35キロメートル未満 18,700円
35キロメートル以上45キロメートル未満 24,400円
45キロメートル以上55キロメートル未満 28,000円
55キロメートル以上  31,600円

 上表の1か月当たりの非課税限度額を超えて通勤手当を支給する場合は、超える部分の金額が給与として課税されます。
 したがって、その超える部分の金額は、通勤手当を支給した月の給与の額に上乗せして、所得税等の源泉徴収を行います。

3.交通機関とマイカー等を併用して通勤している場合

 電車やバスなどの交通機関とマイカーや自転車などを併用して通勤している場合は、両者の合計額が月額15万円までなら所得税等が非課税となります。
 具体的には、次の(1)と(2)を合計した金額が月額15万円以内であれば、非課税の通勤手当となります。

(1) 電車やバスなどの交通機関を利用する場合の1か月間の通勤定期券などの金額
(2) マイカーや自転車などを使用して通勤する片道の距離で決まっている1か月当たりの非課税となる限度額(上記2参照)

 例えば、自宅から自宅の最寄駅まではマイカーを使用し(片道距離3キロメートル)、自宅の最寄駅から勤務先の最寄駅までは電車を利用する(1か月定期券15,000円)場合は、4,200円+15,000円=19,200円が非課税の通勤手当となります。

白色申告法人は貸倒引当金を設定することができるか?

1.個人事業主の場合

 貸倒引当金は、決算日における売掛金や貸付金などの金銭債権について、次期以降に貸倒れが生じると予想される金額を見積って設定します。
 貸倒引当金には、「個別評価による貸倒引当金(個別評価金銭債権に係る貸倒引当金)」と「一括評価による貸倒引当金(一括評価金銭債権に係る貸倒引当金)」があります。
 個人事業主については、「個別評価による貸倒引当金」は青色申告者、白色申告者を問わず適用できますが※1、「一括評価による貸倒引当金」は青色申告者だけが適用できます※2つまり、白色申告者は「一括評価による貸倒引当金」を設定することができません。
 では、法人についても、青色申告法人と白色申告法人で貸倒引当金の取扱いが異なるのでしょうか?

※1 白色申告者は、事業的規模の所得において個別評価のみ認められます。
※2 青色申告者は、事業的規模の所得において個別評価、一括評価が認められます。ただし、青色申告者であっても一括評価が認められるのは事業所得だけであり、不動産所得については認められません。

2.法人の場合

 法人についても、貸倒引当金は個別評価金銭債権と一括評価金銭債権とに区分して設定します。
 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の適用対象法人は、次のとおりです(法法第52条第1項)。

① 期末資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等による完全支配関係がある子法人等を除く)
② 公益法人等又は協同組合等
③ 人格のない社団等
④ 銀行、保険会社その他これらに準ずる法人
⑤ 金融に関する取引に係る金銭債権を有する一定の法人(上記①から④までに掲げる法人を除く)

 また、一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定には、貸倒実績率を用いる方法(原則)と法定繰入率を用いる方法(特例)があります。
 前者の適用対象法人は上記①~⑤と同じですが、後者の適用対象法人は次のようになっています(措法57の9)。

① 期末資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等による完全支配関係がある子法人等を除く)
※ ただし、適用除外事業者(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等をいいます)を除きます。
② 公益法人等又は協同組合等
③ 人格のない社団等

 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金と一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の適用対象法人は以上のとおりですが、その適用対象法人が青色申告法人であることを要求するものとはなっていません。
 つまり、白色申告法人でも貸倒引当金を設定することができるということです。
 

外貨建預金の為替差益を申告(認識)しなければならない場合

 前回の記事(「外貨建預金の為替差益を申告(認識)しなくてもよい場合とは?」)で、外貨建預金を払い出しても為替差損益を認識しなくてもよいケースについて確認しましたが、今回は外貨建預金を払い出して為替差損益を認識しなければならないケースについて確認します。

1.為替差益を認識しなければならないケース

 例えば、次のような取引があった場合、建物の購入時点で預金A及び預金Bに係る為替差益を認識して雑所得として申告する必要はあるでしょうか?

 米ドル建で預け入れていた預金10万ドル(以下「預金A」という)と5万ドル(以下「預金B」という)を払い出し、これらの資金を用いて米国内にある貸付用の建物を12万ドルで購入し、残りの3万ドルは引き続き米ドルで保有している。

・預金Aの預入時のレート:1ドル=100円(円からドルへの交換と預金Aの預入は同日)
預金Bの預入時のレート:1ドル=112円(円からドルへの交換と預金Bの預入は同日)
預金の払出時のレート:1ドル=115円
建物購入時のレート:1ドル=120円

※ 便宜上、預金の利子は考慮しない。

 この場合、建物の購入時点で為替差益を認識する必要があります。したがって、雑所得として申告する必要があります。

 外貨建取引とは、外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいい、居住者が外貨建取引を行った場合には、その外貨建取引の金額の円換算額はその外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとされています(所得税法第57条の3第1項)。

 上記の例のように、外貨建の預金をもって貸付用の建物を外貨建取引により購入した場合には、新たな経済的価値(その購入時点における評価額)を持った資産が外部から流入したことにより、それまでは評価差額にすぎなかった為替差損益に相当するものが所得税法第36条の「収入すべき金額」として実現したものと考えられますので、当該建物の購入価額の円換算額とその購入に充てた外国通貨を取得した時の為替レートにより円換算した金額との差額(為替差損益)を所得として認識する必要があります。

 つまり、資産の種類が変わった場合(預金から現金、預金から有価証券など)や外貨の種類が変わった場合(ドルから円など)には、為替差損益を認識する必要があります。

2.為替差損益の計算方法

 上記1の例のように、建物の購入に充てた外国通貨の取得が複数回ある場合の為替差損益の計算については、所得税法施行令第118条第1項(譲渡所得の基因となる有価証券の取得費等)の規定に準じて、次のとおり計算するのが相当です。

(1) 保有するドルの1ドル当たりのレートの計算
 預金A:100円×10万ドル=10,000,000円
 預金B:112円×5万ドル=5,600,000円
 1ドル当たりのレート:(10,000,000円+5,600,000円)÷15万ドル=104円

(2) 為替差益の計算
 (120円-104円)×12万ドル=1,920,000円

 なお、購入した建物は、その購入時の為替レートによる円換算額を取得価額として、その後の不動産所得の金額を計算する際に減価償却費が計算されるほか、当該建物を譲渡した場合の取得費も当該取得価額を基に計算されることになります(所得税法第57条の3第1項)。

外貨建預金の為替差益を申告(認識)しなくてもよい場合とは?

 毎年確定申告時期になると、各地に設けられた確定申告相談会場に多くの一般納税者の方が訪れます。
 その相談会場で最近増えてきたのが、外貨建預金が満期等となった場合の為替差益に関するご相談です。
 例えば、外貨建預金を解約して円転した場合に為替差益が生じているときは、これを雑所得として申告する必要があります。
 しかし、以下のように外貨建預金の為替差益を申告しなくてもよいケースもあります。

1.為替差益を認識する必要がないケース

 例えば、次のような取引があった場合、為替差益を認識して雑所得として申告する必要はあるでしょうか?

 A銀行に米ドル建で預け入れていた定期預金(以下「本件預金」という)1万ドルが満期となったため、満期日に全額を払い出した。
 同日、本件預金の元本部分1万ドルをB銀行に預け入れた。

・預入時のレート:1ドル=100円(円からドルへの交換と本件預金の預入は同日)
・払出時のレート:1ドル=125円
・為替差益:(125円-100円)×1万ドル=25万円

 この場合、定期預金をA銀行から払い出してB銀行に預け入れる際に、元本部分について25万円の為替差益が発生していますが、この為替差益を認識する必要はありません。したがって、雑所得として申告する必要もありません。

 外貨建取引とは、外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいい、居住者が外貨建取引を行った場合には、その外貨建取引の金額の円換算額はその外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとされています(所得税法第57条の3第1項)。

 ただし、外国通貨で表示された預貯金を受け入れる金融機関を相手方とする当該預貯金に関する契約に基づき預入が行われる当該預貯金の元本に係る金銭により引き続き同一の金融機関に同一の外国通貨で行われる預貯金の預入は、上記の外貨建取引には該当しないものとされています(所得税法施行令第167条の6第2項)。

 したがって、外貨建預貯金として預け入れていた元本部分の金銭につき、①同一の金融機関に、②同一の外国通貨で、③継続して預け入れる場合の預貯金の預入については、外貨建取引に該当しないこととされていますので、その元本部分に係る為替差損益が認識されることはありません。

2.なぜ認識する必要がないのか?

 上記1のようなケースでは、外貨建預貯金の預入及び払出が行われたとしても、その元本部分に関しては、同一の外国通貨で預入及び払出が行われる限り、その金額に増減はなく、実質的には外国通貨を保有し続けている場合と変わりはないといえます。

 所得税法施行令第167条の6第2項の規定は、このような外貨の保有状態に実質的な変化がない外貨建預貯金の預入及び払出については、その都度これらを外貨建取引として為替差損益を認識することは実情に即さないものであると考えられることから、所得税法第57条の3第1項でいう外貨建取引から除かれることを明らかにした例示規定であると解されています。

 このようなことを踏まえると、本件預金の預入及び払出は、他の金融機関へ預け入れる場合であるとしても、同一の外国通貨で行われる限り、その預入・払出は所得税法施行令第167条の6第2項でいう外国通貨で行われる預貯金の預入に類するものと解され、所得税法第57条の3第1項の外貨建取引に該当しない、すなわち、為替差損益を認識しないとすることが相当と考えられています。

 なお、蛇足ながら、年収2,000万円以下の給与所得者で外貨建預金の為替差益を含めた給与所得以外の所得が年間20万円以下の場合等は、確定申告不要です。

源泉所得税納付書の左上の数字は何を表す?

 給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(以下「源泉所得税納付書」といいます)は、居住者に対して支払う給与や退職手当、税理士・弁護士・司法書士などに支払う報酬について、源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税を納付するときに使用します。
 源泉所得税納付書は、納期の特例の適用を受けている場合と受けていない場合とでは様式が異なっています。ここでは、前者を納期特例用、後者を一般用と呼ぶことにします。

 先日、半年分の給与や士業報酬等を集計して、関与先様へ源泉所得税納付書(納期特例用)の記載例(転記用)をメールでお送りしたところ、次のような質問がありました。

 「先生が送ってくれた納付書と手元にある納付書をよく見ると、納付書の左上の数字が違っているけど、手元にある納付書を使用しても問題ないですか?」

 下図の左側が当事務所がお送りした納付書で番号は「32399」と印字されています。一方、右側が関与先様の手元にある納付書で番号は「32391」と印字されています。

 どちらも納期特例用の納付書ですが、このように番号が異なることがあります。
 
 源泉所得税納付書の左上に印字されている5桁の番号は納付書の種類を表す番号で、国税庁ホームページでは次のように案内されています。

「32309」・・・一般用
「32399」・・・納期特例用

 ところが、税務署から送付される納付書には、今回のように以下の番号が印字されている場合があります。

「32301」・・・一般用
「32391」・・・納期特例用

 一般用と納期特例用のそれぞれについて、番号の末尾が9のものと1のものがありますが、どちらの番号の納付書を使用しても問題はありません

 当事務所がお送りした納付書記載例(32399)と関与先様の手元にある納付書(32391)の番号の違いについて上記の説明を行い、関与先様の手元にある納付書(納期特例用)で納付していただきました。

7月10日期限の労働保険・社会保険・納期特例の給与集計は発生ベース?支払ベース?

1.毎年7月10日は事務手続き期限の集中日

 毎年7月10日は、事務手続きの期限が集中します。代表的なものを挙げると、労働保険(労災保険・雇用保険)の年度更新、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の算定基礎届、納期の特例(源泉所得税)があります。

 これらの事務手続きに共通する作業として、給与と賞与(以下「給与等」といいます)の集計があります。
 給与等の集計期間は、労働保険の年度更新では前年4月1日から当年3月31日まで、社会保険の算定基礎届では当年4月から6月まで、納期特例では当年1月から6月までとされています。
 それぞれの集計期間において給与等を集計することになりますが、その給与等の集計を発生ベースで行うのか、支払ベースで行うのかについては、それぞれの制度によって異なります。

 ここでいう発生ベースとは、実際に給与等が支払われていなくても支払が確定したもの、言い換えれば、給与等の支払日ではなく給与計算期間(締め日)を基準として集計することをいいます。例えば、4月末日締・翌月支払の給与の場合は4月の給与として集計します。
 これに対して支払ベースとは、給与計算期間(締め日)ではなく給与の支払日を基準として集計することをいいます。例えば、4月末日締・翌月支払の給与の場合は5月の給与として集計します。
 以下では、次のA社とB社を例として、制度ごとの給与等の集計方法について確認します。

A社:給与末日締、当月末日支払(月給)
B社:給与末日締、翌月10日支払(月給)

 

2.労働保険年度更新の場合

 事業主は、新年度の概算保険料を納付するための申告・納付と、前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付の手続きが必要です。これを年度更新といいます。
 年度更新の手続きには、前年4月1日から当年3月31日までの給与等を集計する必要があります。
 この集計に関して「労働保険 年度更新 申告書の書き方」では次のように記載されており、発生ベースで行うことが読み取れます(下線部は筆者編集)。

 賃金集計表には、前年4月1日から当年3月31日までに使用した全ての労働者に支払った賃金(当年3月31日までに支払いが確定しているが、実際の支払いは同年4月1日以降になる場合も含みます。)の総額を記入してください。

 したがって、年度更新では前年4月1日から当年3月31日までに発生した給与等が集計対象となり、A社の場合は前年4月から当年3月に支払った給与等を集計し、B社の場合は前年5月から当年4月に支払った給与等を集計することになります。

※ 労働保険の年度更新については、本ブログ記事「労働保険の年度更新の仕組みと会計処理(仕訳)」をご参照ください。

3.社会保険算定基礎届の場合

 事業主は、健康保険及び厚生年金保険の被保険者の実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、当年4月~6月に支払った給与等を算定基礎届によって届出をする必要があります。これを定時決定といいます。
 算定基礎届は、当年4月、5月、6月の給与等を集計しますが、「算定基礎届の記入・提出ガイドブック」には次のように記載されており、支払ベースで集計することが読み取れます。

 算定基礎届は4、5,6月に支払われた給与を報酬月額として届出しますが、給与計算の締切日と支払日の関係によって支払基礎日数が異なります。

(例)月給制の場合
給与末日締 当月末日支払

暦日 支払基礎日数
4月 4月1日~30日 30
5月 5月1日~31日 31
6月 6月1日~30日 30

(例)月給制の場合
給与25日締 当月末日支払

暦日 支払基礎日数
4月 3月26日~4月25日 31
5月 4月26日~5月25日 30
6月 5月26日~6月25日 31

(例)月給制の場合
給与末日締 翌月10日支払

暦日 支払基礎日数
4月 3月1日~31日 31
5月 4月1日~30日 30
6月 5月1日~31日 31

 したがって、集計対象となる給与の給与計算期間(締め日)は異なりますがA社もB社も当年4月から6月に支払った給与等を支払ベースで集計することになります。

※ 例えば「4月」の給与については、A社の場合は給与計算期間が4月1日~4月30日であるのに対し、B社の場合は3月1日~3月31日となります。

4.納期の特例の場合

 事業主は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)を、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。
 ただし、給与の支給人員が常時10人未満である事業主は、源泉徴収した所得税等を半年分まとめて納めることができる特例があります。これを納期の特例といいます。

 納期の特例では、当年1月から6月までの給与等を集計しますが、国税庁ホームページの「給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。」や「納付書の記載のしかた」の「実際の支払年月日を記載してください。」などの文言から、支払ベースで集計することが読み取れます。

 したがって、集計対象となる給与の給与計算期間(締め日)は異なりますがA社もB社も当年1月から6月に支払った給与等を支払ベースで集計することになります。

※ 例えば「1月」の給与については、A社の場合は給与計算期間が当年1月1日~1月31日であるのに対し、B社の場合は前年12月1日~12月31日となります。
 なお、当月締め・翌月払いの給与の年末調整については、本ブログ記事「翌月に支給する給与の年末調整と会計処理」をご参照ください。

FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします

 2023(令和5)年10月1日から始まるインボイス制度と2024年(令和6)年1月1日から全面的に施行される電子帳簿保存法について、今年もFM宝塚で解説をさせていただくことになりました(提供:宝塚商工会議所)。

 令和5年度税制改正でインボイス制度と電子帳簿保存法の何が変わったのか?
 免税事業者はインボイス発行事業者として登録した方がいいのか?
 登録するかどうかは何を基準に判断すればいいのか?
 電子帳簿保存法で最低限対応しなければならないのは何か?
 猶予措置によって電子帳簿保存法への対応を焦らなくてもよくなった?

などについて、パーソナリティーの芦田純子さんと一緒に解説をしていきます。

 インボイス制度や電子帳簿保存法への対応を「そのうちに考えよう」と先延ばしにしてきた事業者の方も、制度開始が間近に迫っていますので、本腰を入れて考えなければなりません。
 どのように対応したらいいのか、あるいは対応しなくてもいいのかについて、この放送を判断材料にしていただければと思います。

 番組名は「インボイス制度ってな~に?パート2」で、2023(令和5)年7月2日(日)より毎週日曜日の8:15~8:30に放送します(第5週目の日曜日は放送はありません)。放送回数は全20回です(再放送を含みます)。

放送日 内容
7月 2日 インボイス制度の基本をおさらい
9日 インボイス制度の基本をおさらい(再)
16日 登録制度の見直しと手続きの柔軟化
23日 登録制度の見直しと手続きの柔軟化(再)
8月 6日 2割納税の特例!
13日 2割納税の特例!(再)
20日 2割納税の特例と簡易課税はどちらが有利?
27日 2割納税の特例と簡易課税はどちらが有利?(再)
9月 3日 少額特例と少額返還インボイスの交付義務免除
10日 少額特例と少額返還インボイスの交付義務免除(再)
17日 インボイスなしで仕入税額控除する!?
24日 インボイスなしで仕入税額控除する!?(再)
10月 1日 あなたの質問にお答えします
8日 あなたの質問にお答えします(再)
15日 電子帳簿保存法のよくある誤解
22日 電子帳簿保存法のよくある誤解(再)
11月 5日 電子データ保存の鍵
12日 電子データ保存の鍵(再)
19日 あなたの質問にお答えします
26日 あなたの質問にお答えします(再)

ふるさと納税返礼品を一時所得で申告する際の収入金額(時価)とは?

1.返礼品が一時所得となる根拠

 一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の臨時・偶発的な所得で、労務やその他の役務又は資産の譲渡による対価としての性質を有しないものをいい、例えば、次のようなものが該当します。

・福引や懸賞の当選金品(業務に関して受けるものを除く)
・競馬や競輪の払戻金(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く)
・生命保険契約等の一時金(業務に関して受けるものを除く)
・損害保険契約や建物更生共済等と満期返戻金、解約返戻金
・法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除く)
・売買契約の解除に伴い取得する違約金(業務に関して受けるものを除く)
・ 逸失物拾得者や埋蔵物発見者が受ける報奨金や新たに所有権を取得する資産
・時効により取得した土地等

 ふるさと納税をした人が地方公共団体から受ける特産品等の返礼品は、一時所得に該当します。
 所得税法上、各種所得の金額の計算上収入すべき金額には、金銭以外の物又は権利その他経済的利益の価額も含まれますが、ふるさと納税の謝礼として受ける特産品等に係る経済的利益については、所得税法第9条に規定する非課税所得のいずれにも該当せず、また、地方公共団体は法人とされていますので(地方自治法第2条第1項)、法人からの贈与により取得するものと考えられます。
 したがって、特産品等に係る経済的利益は一時所得に該当します。

2.返礼品の時価は「返礼品調達価格」だけど・・・

 一時所得の金額は次のように計算しますので、ふるさと納税以外に一時所得に該当するものがないときは、受け取った返礼品の価格が50万円までなら課税関係は生じません。

 一時所得の金額=一時所得に係る総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(50万円が上限)

 この算式において、一時所得に係る総収入金額に算入すべき金額は受け取った返礼品の価格になりますが、返礼品の価格とはいかなるものをいうのでしょうか?
 一時所得の総収入金額には、金銭によるもののほか金銭以外の物又は権利その他経済的利益の価額も含まれ、経済的利益の価額は時価により計算します。
 では、返礼品という経済的利益の時価は、どのように算出するのでしょうか?

 国税不服審判所の令和2年8月6日裁決や令和4年2月7日裁決では、返礼品の時価は「地方公共団体が返礼品の調達に当たって現に支出した金額(返礼品調達価格)」とされています(令和4年2月7日裁決は公表裁決事例(裁決事例集No.126)で閲覧できます)。

 以下は、返礼品の時価を争点とする令和4年2月7日裁決の要約です。

(1) 返礼品は、ふるさと納税を受けた地方公共団体が、その謝礼として当該ふるさと納税をした個人に送付するものであるから、当該地方公共団体は、募集に要する費用の額や当該返礼品について、予算計画、返礼品の選定、調達個数、市場調査、事業者との折衝などを踏まえて、ふるさと納税の金額に応じた返礼品を選定し調達するものと推測することができる。このため、当該返礼品を選定し調達を行う地方公共団体が、当該返礼品の価値を最も理解しているものと考えられる。

(2) また、ふるさと納税をした個人は、地方公共団体からの贈与により返礼品を取得するのであるが、ふるさと納税制度における返礼品の提供が当該個人に対する謝礼であることからすれば、当該贈与による当該個人に供与されることとなる経済的利益の価額は、地方公共団体が謝礼(返礼品の調達・提供)のために支出した返礼品調達価格をその算定の基礎とすることが相当である(以下、ふるさと納税を受けた地方公共団体が返礼品の調達に当たって現に支出した金額を「返礼品調達価格」といい、当該調達先の事業者を「調達事業者」という)。
 そして、返礼品調達価格については、地方公共団体と調達事業者との合意により成立したものであり、地方公共団体がふるさと納税の金額に応じた返礼品をホームページ等で公開していることを踏まえると、当該合意された金額について、地方公共団体と調達事業者との間に特別な動機を挟む余地はなく、通常、地方公共団体が当該返礼品をその調達時における時価を超える金額で調達することはないと考えられる。
 なお、返礼品について、地方公共団体と調達事業者との間で不当に高額又は低額で取引されたといった事情は見受けられない。

(3) さらに、地方公共団体は、通常、調達事業者による返礼品の発送をもって、当該調達事業者へその代金(返礼品調達価格)を支払っているものと考えられ、当該代金は当該発送により確定するものと認められる。そうすると、地方公共団体が返礼品を調達した時期とふるさと納税をした者が当該返礼品を取得する時期は、近接していると認められ、この二つの時期を同時期であるとみても特段不合理ではない。

(4) これらのことからすると、返礼品に係る返礼品調達価格は、地方公共団体が返礼品を調達した時における当該返礼品の客観的交換価値(時価)を示すものと評価することができる。

 裁決では返礼品調達価格を時価としていますが、この返礼品調達価格を一般の納税者が知るのは困難であると思われます。
 税務署の調査担当職員だからこそ、地方公共団体に対して返礼品に係る照会を行って回答を得ることができるのであり、同様の照会を一般の納税者が行ったとしても、対応してくれる地方公共団体があるのかどうかは疑問です。

少額な返還インボイスの交付義務の免除

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、(3)の「少額な返還インボイスの交付義務の免除」の内容を確認します。

1.返還インボイスとは?

 インボイス制度がスタートすると、値引きや返品等があった場合に、インボイス発行事業者である売り手に返還インボイス(適格返還請求書)の交付義務が課せられます。
 返還インボイスの記載事項と記載例は次のとおりです。

① インボイス発行事業者のの氏名又は名称及び登録番号
② 値引・返品等を行う年月日及びその値引・返品等の基となった売上を行った年月日
③ 値引・返品等の基となる売上の内容
④ 値引・返品等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
⑤ 値引・返品等の金額に係る消費税額等又は適用税率

出所:国税庁ホームページ

2.値引等が税込1万円未満であれば交付義務免除

 インボイス発行事業者である売り手が値引をしたり返品を受けたりする場合には、原則として上記1のような返還インボイスを発行する必要があります。

 しかし、売り手が負担する振込手数料(買い手からの売上代金の振込時に差し引かれる振込手数料)について売り手が値引として処理する場合に、振込手数料という少額な値引にまで返還インボイスの交付義務が課される点については、事務負担などの懸念が示されていました。

 そのため、2023(令和5)年度税制改正で返還インボイスの交付義務の見直しが行われ、値引や返品等の税込価額が1万円未満である場合は、返還インボイスの交付義務が免除されることとなりました。

出所:国税庁ホームページ

 この見直しにより、振込手数料は通常1万円未満と考えられるため、売り手負担の振込手数料に係る事務負担が解消されます。
 なお、この措置(少額な返還インボイスの交付義務の免除)は「2割特例」や「少額特例」と異なり、すべての事業者が対象(適用対象者に制限なし)であり、適用期限のない恒久的な措置となっています。

※ 「2割特例」については本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、「少額特例」については「インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる「少額特例」とは?」をご参照ください。

3.売り手負担の振込手数料を支払手数料で処理する場合

 上記のように、売り手負担の振込手数料を「売上値引(売上げに係る対価の返還等)」として処理する場合は、返還インボイスの交付義務は免除されます。

 では、売り手負担の振込手数料を「支払手数料(課税仕入)」として処理する場合も交付義務免除の対象となるのでしょうか?

 この場合は、値引(対価の返還等)ではなく支払手数料(課税仕入)として処理していますので、そもそも返還インボイスの交付は必要ありません。
 ただし、支払手数料として仕入税額控除を行うためには、金融機関や取引先等からの支払手数料に係るインボイスが必要ですが、振込手数料は通常1万円未満と考えられるため、「少額特例」の対象にはなります。