不動産貸付の事業的規模と業務的規模における経費の取扱いの違い

1.規模により異なる取扱い

 不動産所得の計算上、 不動産の貸付けが事業と称するに足りる規模(事業的規模)で営まれているか否かによって、経費の取扱いに差異が設けられています。差異のある主な項目は、次のとおりです。

(1) 資産損失(取壊し、除却、滅失等)
(2) 資産損失(災害等)
(3) 貸倒損失
(4) 貸倒引当金
(5) 青色事業専従者給与
(6) 事業専従者控除
(7) 青色申告特別控除
(8) 確定申告における延納に係る利子税 など

 これらの取扱いについては、不動産所得を生ずべき業務が事業的規模として行われている場合にのみ認められるものや、事業と称するに足りない規模(業務的規模)で行われている場合には制限がかかるものもあります。
 したがって、事業的規模と業務的規模による取扱いの差異を把握することは、不動産所得の計算上、適用誤りを防ぐためにも必要です。
 なお、事業的規模と業務的規模の判定については、本ブログ記事「土地の貸付けの事業的規模の判定基準」をご参照ください。

2.主な取扱いの差異

 上記1の8項目について、事業的規模と業務的規模における経費の取扱いの差異を一覧表にします。

項目 事業的規模 業務的規模
資産損失(取壊し、除却、滅失等)
※所法51①④
損失の金額(原価ベース)の全額を、損失の生じた年分の必要経費に算入する。 損失の金額(原価ベース)を、損失の生じた年分の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入する。
資産損失(災害等)
※所法70②③、72①
同上
他に被災事業用資産の損失の繰越控除を適用できる。
上記との選択により、雑損控除の対象とすることもできる。
貸倒損失
※所法51②、64①
賃貸料等の貸倒れによる損失は、貸倒れが生じた年分の必要経費に算入する。 賃貸料等の回収不能による損失は、その収入が生じた年分に遡って収入金額がなかったものとみなす。
なかったものとみなされる収入金額は、次のうち最も低い金額となる(所令180②、所基通64-2の2)。
①回収不能額
②所法64条適用前の課税標準の合計額
③②の計算の基礎とされた不動産所得の金額
貸倒引当金
※所法52①②、所令144,145
その年の12月31日において、貸金等に係る損失の見込額として一定の金額を必要経費として算入することができる。 適用なし。
青色事業専従者給与
※所法57①
青色事業専従者に支払った給与のうち労務の対価として相当なものは、その年分の必要経費に算入する。 適用なし。
事業専従者控除
※所法57③
専従者1人につき最高50万円(配偶者である専従者については86万円)を必要経費に算入する。 適用なし。
青色申告特別控除
※措法25の2①③
一定の要件を満たす場合には、最高65万円の控除を受けられる。 最高10万円の控除しか受けることができない。
延納に係る利子税
※所法45①二、所令97①一
不動産所得の金額に対応する部分は、必要経費に算入する。 適用なし。

 事業的規模と業務的規模における経費の取扱いの差異は上表のとおりですが、青色申告者は注意しなければならない点があります。業務的規模の場合の青色申告特別控除額が10万円であることはよく知られていますが、青色事業専従者給与について適用がないことは意外な盲点かもしれません。適用誤りがないようにご注意ください。

※ 不動産貸付けが業務的規模の場合でも、65万円控除を受けられる場合があります。詳しくは、本ブログ記事「建物・土地の貸付けの事業的規模の判定と65万円控除」をご参照ください。

土地の貸付けの事業的規模の判定基準

 不動産所得の計算上、 不動産の貸付けが事業と称するに足りる規模(事業的規模)で営まれているか否かによって、次の経費の取扱いに差異が設けられています。

(1) 資産損失
(2) 貸倒損失
(3) 貸倒引当金
(4) 青色事業専従者給与
(5) 事業専従者控除
(6) 青色申告特別控除
(7) 確定申告における延納に係る利子税 など

 これらの取扱いについては、不動産所得を生ずべき業務が事業的規模として行われている場合は、事業と称するに足りない規模(業務的規模)で行われている場合よりも有利になります(取扱いの差異については、本ブログ記事「不動産貸付の事業的規模と業務的規模における経費の取扱いの違い」をご参照ください)。したがって、不動産の貸付けが事業的規模であるか業務的規模であるかの判定は、不動産所得を計算するうえで非常に重要です。
 今回は、不動産の貸付けが事業的規模であるか否かの判定基準について確認します。

1.建物の貸付けの判定基準(形式基準)

 不動産の貸付けが事業と称するに足りる規模(事業的規模)で営まれているか否かのうち、建物の貸付けについては、所得税基本通達26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)で次のように規定されています。

26-9 建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。


 これは、いわゆる5棟10室基準と呼ばれるもので、この形式基準を満たす場合は不動産の貸付けが事業として行われているものとされます。課税実務上比較的容易に認定し得る貸付の規模を明らかにしたものといえます。

 建物の貸付けについては、上記の所得税基本通達26-9に判定基準が定められていますが、土地の貸付けについては、所得税基本通達に定めがありません。
 しかし、土地の貸付けの判定基準についても、国税庁では下記のような取扱いを公表しています(審理専門官情報第23号 大阪国税局個人課税審理専門官 平成19年1月26日質疑事例0108-1)。

2.土地の貸付けの判定基準(形式基準)

 国税庁で公表されている質疑事例0108-1各種所得の区分と計算(事例1-8 土地を貸し付けている場合の事業的規模の判定)は次のとおりです。実務上はこれを参考にすることになります。

[質疑内容]
 土地の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかの判定はどのように行うのか。
[回答]
 土地の貸付けが事業として行われているかどうかの判定は、次のように行われる。
① 土地の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうか は、第一義的には、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で土地の貸付けが行われているかどうかにより判定する。
② その判定が困難な場合は、所基通26-9に掲げる建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定の場合の形式基準(これに類する事情があると認められる場合を含む。)を参考として判定する。この場合、①貸室1室及び貸地1件当たりのそれぞれの平均的賃貸料の比、②貸室1室及び貸地1件当たりの維持・管理及び債権管理に関する役務提供の程度等を考慮し、地域の実情及び個々の実態に応じ、1室の貸付けに相当する土地の貸付件数を、「おおむね5」として判定する。
 なお、具体的な判定に当たっては、次の点にも留意する。
・同一の者(その者と生計を一にする親族を含む。以下同じ。)に対して駐車場を2以上貸し付けている場合は、「土地の貸付け1件」として判定する。
・同一の者に対して建物を貸し付けるとともに駐車場を貸し付けている場合(駐車場については2以上貸し付けているときを含む。)は、「建物の貸付け1件」として判定する。また、貸付物件が2以上の者の共有とされている場合等の判定については、共有持分であん分した室数又は棟数によるのではなく、実際の(全体の)室数又は棟数によることにも留意する。


 土地の事業的規模の判定は、1室の貸付けに相当する土地の契約件数をおおむね5件として判定します。
 例えば、貸室数が2室と貸地の契約件数が45件の場合、貸室2室+(貸地45件÷5=9)=11室≧10室となり、事業的規模と判定されます。
 貸家2棟と貸地の契約件数が45件の場合は、 5棟10室基準に満たないので事業的規模ではなく業務的規模と判定されます。

3.実質基準による判定

 不動産の貸付けが事業的規模であるか否かの判定は、形式的には上記のように行います。
 しかし、所得税基本通達26-9の冒頭にあるように、建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、5棟10室という数値基準だけにとらわれず、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で貸付けを行っているかどうかという点(実質基準)からも判定されなければなりません。
 この点については、相続税の事例ではありますが、東京地裁平成7年6月30日判決が参考になります。
 この判決を要約すると、①不動産貸付けが事業といえるためには事業所得を生ずる事業と同程度の役務提供は要求されないこと、②専らその規模の大小(貸付件数)によってのみ事業性の判断がされるべきものとは解し得ないこと、③いわゆる5棟10室基準は一定以上の規模を有することを示す形式的な基準であってこの基準が必要条件ではないこと等の考えを裁判所は示しています。
 そのうえで、不動産貸付けが事業に当たるかどうかは、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における事業遂行性の有無、その取引に費やした精神的肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して社会通念上事業といい得るかどうかによって判断すべきとしています。この考え方は、所得税基本通達26-9にも通ずるものといえます。
 形式基準を満たさなくても、実質基準により事業的規模と判定された裁決例もあります(昭和52年1月27日裁決)。詳しくは本ブログ記事「5棟10室未満でも不動産貸付が事業的規模とされた事例」をご参照ください。

5棟10室未満でも不動産貸付が事業的規模とされた事例

1.実質基準と形式基準

 所得税基本通達 26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定) によると、不動産の貸付けが事業的規模であるか否かの判定は、原則として、社会通念上事業と称する程度の規模で行われているかどうかにより判断しますが(実質基準)、次のいずれかに該当する場合は、特に反証がない限り、事業として行われているものとされます(形式基準)。

(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること

 なお、実質基準として、賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみて、上記の形式基準に準じる事情があると認められる場合には、事業的規模として取り扱われます。
 これは、いわゆる5棟10室基準を満たさなくても、賃貸収入が比較的多額で、かつ、不動産管理に係る役務の提供の事務量を相当要するような場合には、事実認定による判定も可能ということです。
 ところが、この実質基準での判定は、事業所得としての性質として掲げられる営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における事業遂行性の有無、その取引に費やした精神的肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して判断することになりますので、社会通念上事業といい得るためのハードルは高いといえます(平成19年12月4日裁決)。

 しかし、5棟10室基準を満たさなくても、実質基準により不動産の貸付けが事業的規模と判定された裁決事例(昭和52年1月27日裁決)があります。
 争点は、納税者(請求人)の不動産貸付は、不動産の貸付けの規模(貸家2件、貸地45件)及び貸付不動産の維持管理等の状況からみて、事業と称すべき規模に該当するか否かという点です。
 以下で、この裁決事例における納税者と原処分庁の主張、審判所の判断についてそれぞれみていきます。

2.昭和52年1月27日裁決

(1) 納税者の主張

① 請求人(納税者)は、不動産収入(地代45件、家賃2件)を得るために、賃貸料の算定、約定、更新等の折衝及び集金のほか、無断増改築、転貸、境界争い等の問題の処理等、貸付不動産の維持、管理に必要な業務を行っており、その業務は単なる付随業務ではなく、主業としての事業である。
② 請求人は地方公務員であるため、母が上記不動産業務のうち、日常業務を手伝っている。

(2) 原処分庁の主張

 不動産の貸付けが、不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかのうち建物については、所得税基本通達26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)に、おおむね5棟以上の貸付けを事業とする旨定めているが、土地の貸付けについては、所得税基本通達に定めがなく、また、地代収入は、いわゆる投資の回収である家賃収入とは異なるものである。
 請求人の場合、建物の貸付けは2棟であり、貸付土地の管理状況からみても、不動産の貸付けが事業として行われているものと認められない。

(3) 審判所の判断

 請求人の不動産貸付けが、所得税法第57条第1項に規定する不動産所得を生ずべき事業に当たるかどうかについては、その業務が社会通念上事業と称するに至る程度の規模、すなわち、賃貸料の収入状況、貸付不動産の管理状況等からみて、客観的に事業と認められる程度の規模かどうかによって判断するのが相当であるので、その実態について調査審理したところ、次のとおりである。

イ 貸付不動産である貸家2件及び貸地45件は、請求人の現住所と離れたB県内のC、D、E、Fの4区に散在しているので、近隣地の不動産貸付けとは、その実態を異にすると認められる。
ロ 当該不動産貸付けの業務の内容をみると、次のとおりである。
(イ) 貸付不動産の賃貸料については、その固定資産税、管理費、減価償却費等所要の経費を償ってなお相当の利益が生じる程度の金額によって契約し、固定資産税の評価額の改訂に伴い、賃貸料の値上交渉をして契約を改訂し、また、大半の貸付先について継続的に賃貸料の集金をしているなどの事実が認められる。
(ロ) 当該貸付不動産に係る名義書換及び契約更新の交渉、無断増改築及び転貸等の問題の処理、不払賃貸料の回収等には、永年の経験と知識が必要であると認められる。
(ハ) 請求人は、当該貸付不動産の維持、管理の状況を明らかにするため、毎月収支明細表を作成した上、資金の収支を具体的に整然、かつ、明瞭に記録して、財務的管理を行っている事実が認められる。

 以上の諸事実によれば、請求人の不動産貸付けは、社会通念上、不動産所得を生ずべき事業に当たると認めるのが相当であるとして、審判所は納税者の主張を認容しました。貸家等の件数が5棟10室基準を下回っていたとしても、貸付不動産の維持管理等の状況から事業性が認められた裁決事例となりました。

株主優待券の所得税の課税関係

 株式を保有する人は、株式の値上がりによる売却益を期待したり、配当を受け取ったりすること以外に、株主の特典である株主優待を受けることができます。中には、株主優待で生活をしている人もいるそうですが、株主が受け取る株主優待券に所得税はかからないのでしょうか?
 今回は、株主優待券の課税関係について確認します。

1.配当所得に株主優待券は含まれる?

 配当所得とは、以下に掲げるように、株主や出資者が法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、投資信託及び投資法人に関する法律第137条の金銭の分配、基金利息並びに投資信託及び特定受益証券発行信託の収益の分配に係る所得をいいます(所得税法第24条第1項)。

① 法人から受ける剰余金の配当(例:決算配当、中間配当金)
② 法人から受ける利益の配当(例:決算配当、中間配当金)
③ 剰余金の分配(例:農業協同組合等から受ける出資に対する剰余金の配当金)
④ 投資法人から受ける金銭の分配
⑤ 基金利息(例:相互保険会社の基金に対する利息)
⑥ 投資信託の収益の分配(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除く)
⑦ 特定受益証券発行信託の収益の分配

 また、配当所得については、所得税基本通達24-1(剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配に含まれるもの)において、次のように規定されています。

24-1 法第24条第1項に規定する「剰余金の配当」、「利益の配当」及び「剰余金の分配」には、剰余金又は利益の処分により配当又は分配をしたものだけでなく、法人が株主等に対しその株主等である地位に基づいて供与した経済的な利益が含まれる。

 ここで気になるのは、この基本通達の「その株主等である地位に基づいて供与した経済的な利益」という部分です。この部分の文言からすぐに思い起こされるのは株主優待券ですが、株主優待券も配当所得に含まれるのでしょうか?

 これに関しては、所得税基本通達24-2(配当等に含まれないもの)で、次のように規定されています。

24-2 法人が株主等に対してその株主等である地位に基づいて供与した経済的な利益であっても、法人の利益の有無にかかわらず供与することとしている次に掲げるようなもの(これらのものに代えて他の物品又は金銭の交付を受けることができることとなっている場合における当該物品又は金銭を含む。)は、法人が剰余金又は利益の処分として取り扱わない限り、配当等(法第24条第1項に規定する配当等をいう。以下同じ。)には含まれないものとする。

(1) 旅客運送業を営む法人が自己の交通機関を利用させるために交付する株主優待乗車券等
(2) 映画、演劇等の興行業を営む法人が自己の興行場等において上映する映画の鑑賞等をさせるために交付する株主優待入場券等
(3) ホテル、旅館業等を営む法人が自己の施設を利用させるために交付する株主優待施設利用券等
(4) 法人が自己の製品等の値引販売を行うことにより供与する利益
(5) 法人が創業記念、増資記念等に際して交付する記念品


 基本通達24-2において、 法人の利益の有無にかかわらず供与される株主優待券は、配当所得に含まれないことが明記されています。配当所得に含まれないのであれば、確定申告は不要でしょうか?

2.株主優待券は雑所得

 上記基本通達24-2には、次のような注意書きがあります。

(注) 上記に掲げる配当等に含まれない経済的な利益で個人である株主等が受けるものは、法第35条第1項《雑所得》に規定する雑所得に該当し、配当控除の対象とはならない。

 つまり、株主優待券は配当所得ではありませんが、雑所得に該当するということです。したがって、原則として確定申告が必要ですが、確定申告が不要の場合もあります。確定申告不要制度については、本ブログ記事「給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度の注意点」をご参照ください。




弁護士が従事する無料法律相談の日当の所得区分は?

1.事業所得か給与所得か

 所得税では、所得が10種類(利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得・譲渡所得・一時所得・雑所得)に区分されています。これら10種類の所得の中には、どの所得に該当するかの判断が実務上難しく、容易に判断がつかないものもあります。
 この所得区分が争われた例として、京都地裁平成20年10月21日判決(税務訴訟資料 第258号-197(順号11055))があります(参考:国税庁ホームページ税務訴訟資料)。
 これは、弁護士である原告が、同人の所属するA弁護士会法律相談センターの行う無料法律相談業務に従事した対価としてA弁護士会から支給された日当を給与所得として確定申告したところ、これを事業所得であるとして右京税務署長(被告)から更正処分を受けたため、その取消しを求めた事案です。
 争点は、本件日当が事業所得に当たるか給与所得に当たるかですが、結論を先に述べると、本件日当は事業所得に該当すると判断されました。
 以下では、被告の主張、原告の主張、裁判所の判断を見ていきます。

2.京都地裁平成20年10月21日判決

(1) 原処分庁(被告)の主張

ア 原告は、直接的にはA弁護士会法律相談センター規程(以下「本件規程」という)に基づく法律相談センターの指定により本件相談業務に従事したものであるが、本件規程はA弁護士会の総会により改廃できるものであり、原告はA弁護士会の会員として本件規程の適用を受けるものであるから、原告は、雇用契約又はこれに類する関係に基づき労務を提供したものではない。

イ 本件規程が定める法律相談に当たっての遵守事項は、一般的な指導監督にすぎず、A弁護士会は、原告に対し、法律相談の内容については何ら指揮命令をしていない。
 また、指定された相談担当日に差支えを生じた場合には交代も可能であり、原告が本件相談業務に従事する際にA弁護士会から受けている空間的、場所的拘束は極めて希薄である。
 したがって、原告は、A弁護士会の指揮命令に従って労務を提供したとはいえない。

ウ 原告は、弁護士としての公益的使命の実現のため、弁護士法並びにこれを受けて定められたA弁護士会会則(以下「本件会則」という)及び本件規程の規定に基づき本件相談業務に従事して、本件日当の支給を受けたものであるから、本件相談業務は、原告の計算と危険において独立して営まれたものであり、本件日当は、事業所得に当たる。

(2) 納税者(原告)の主張

ア 原告が、法律相談名簿への登載を受けた上で法律相談を担当することは、強制加入団体であるA弁護士会の本件会則上の義務として定められており、原告には、原則として諾否の自由はない。
 そして、原告は、本件相談業務に従事するに当たり、A弁護士会から特定の場所・日時を指定され、京都府及び京都市の職員がその設備を用いて運営する会場において、本件規程に定められた遵守事項に従いつつ、1件当たり20分で法律相談に応じることが求められており、その対価として支給される日当は、相談件数にかかわらず、定額である。
 したがって、本件日当は、A弁護士会又は京都府及び京都市から空間的、時間的な拘束を受け、その指揮命令の下に提供した労務の対価として支給されたものというべきである。

イ 所得税基本通達28-9の2(医師又は歯科医師が支給を受ける休日、夜間診療の委嘱料)は、医師又は歯科医師が、地方公共団体等の開設する救急センター、病院等において休日、祭日又は夜間に診療等を行うことにより地方公共団体等から支給を受ける委嘱料等は、給与等に該当するとしている。
 本件日当は、上記の委嘱料等と構造が類似する

ウ 財団法人Bの全国の支部においては、法律相談日当について、給与所得として源泉徴収がされている。

エ したがって、本件日当は、給与所得に当たる。

(3) 裁判所の判断

① 本件日当は、A弁護士会の会員である原告が、同会の会員らの総意により、弁護士の使命を達成するための公益的活動の一環である無料法律相談活動を行うための規律として自治的に定められた本件規程の規定に従い、無料法律相談業務に従事した対価として、A弁護士会から原告に対し支給されたものであると認められるから、その給付の原因であるA弁護士会と原告との間の法律関係は、雇用契約又はこれに類する支配従属関係ではないことが明らかである。
 したがって、本件日当は、「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」に当たらないというべきである。

② 地方公共団体等の開設する休日急病診療所等において休日診療等を担当した医師等に対する報酬の支払者とその支払を受ける診療担当医師等との間の法律関係及び財団法人Bにおいて交通相談業務を担当した弁護士に対する日当の支払者である同財団法人と相談担当弁護士との間の法律関係は、本件相談業務に関する原告とA弁護士会との間の法律関係と異なり、会員間の自治的な取り決めに基礎をおくものであるとは認められないから、これらの報酬又は日当と比較して本件日当の性格を論ずることは、その前提を欠き失当である。

③ 以上によれば、本件日当は、給与所得には当たらず、弁護士がその計算と危険において独立して行う業務から生じた所得であって、・・・事業所得に当たるというべきである。

(4) 論点整理

 事業所得と給与所得の区分については、最高裁が「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示しています(最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁)。

 原告は、この最高裁判決における「空間的、時間的な拘束」を論拠として本件日当を給与所得であると主張しました。
 これに対し裁判所は、弁護士会会則に基づく法律相談等への従事義務は雇用契約又はこれに類する支配従属関係ではないとして、原告の主張を認めませんでした。「空間的、時間的な拘束」の前提である「雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価」に該当するかどうかの検討が必要であったと思われます。
 また、「空間的、時間的な拘束」については、控訴審(大阪高裁平成21年4月22日判決)において、「無料法律相談の執行方法や態様の決定、対価額の決定については、その主催者等が一定の枠組みを設ける必要があるため、担当弁護士の随意が制限されていることは間違いないけれども、自治体が住民に無料法律相談サービスを提供するには、相談の日時、場所、時間、相談内容の範囲等の大枠を設けることは不可欠であり、この枠踏みに従って担当弁護士が執務すべきことは当然のことであるから、この枠組みが設定されていることが、無料法律相談所で弁護士の行う法律相談業務の事業性を損なうものとはいえない。」と補足しています。
 
 原告の主張のもう一つの論拠は、 所得税基本通達28-9の2(医師又は歯科医師が支給を受ける休日、夜間診療の委嘱料) の取扱いが本件日当についても類似例として当てはまる、というものでした。
 これに対し裁判所は、休日診療等に対する報酬の支払者とその支払いを受ける医師等との間の法律関係は、本件相談業務に関する原告と弁護士会との間の法律関係とは異なるとして、 原告の主張を認めませんでした。
 裁判所が認定した事実を基に、弁護士会の法律相談センターにおける弁護士の法律相談と、地方公共団体等の開設する休日診療所等における医師等の休日診療等の法律関係を比較すると、次のようになります。

 原告が類似例として主張の論拠とした所得税基本通達28-9の2(医師又は歯科医師が支給を受ける休日、夜間診療の委嘱料等)には、次のように給与所得に当たるものが例示されています。

28-9の2 医師又は歯科医師が、地方公共団体等の開設する救急センター、病院等において休日、祭日又は夜間に診療等を行うことにより地方公共団体等から支給を受ける委嘱料等は、給与等に該当する。(昭55直所3-19、直法6-8追加)

 医師又は歯科医師が、 地方公共団体等の開設する救急センター 等において行う休日診療等には、以下の特徴があります。

① これらの救急センター等備付けの人的、物的施設を使用する。
② 救急センター等の医薬品を投与する。
③ 当該診療等に係る報酬は当該救急センター等に帰属する。
④ 当該診療等に従事する医師又は歯科医師には、当該救急センター等から一定の報酬が支給されることが多い。
⑤ 派遣契約においては、被派遣者は派遣先の指揮命令に服することとなる。

 上記通達は、このような休日、夜間診療等の委嘱料の実態を前提に、当該委嘱料は給与所得に該当することを明らかにしています。
 本件における原告の主張には、弁護士会の無料法律相談と医師等の休日診療等との異同につき、従事者と主催団体との法律関係など業務の具体的態様に対する検討が必要であったと思われます。

※ 参考:本ブログ記事「外注費か給与か・・・国税庁の判断基準

1,000万円以上でも高額特定資産に該当しないケースとは?

1.棚卸資産に係る消費税額の調整措置の改正

 消費税法には、免税事業者が課税事業者になった場合や、課税事業者が免税事業者になった場合に、棚卸資産の調整措置という規定があります(消費税法第36条第1項又は第3項)。
 免税事業者が課税事業者になった場合を前提にすると、棚卸資産の調整措置とは、免税事業者が課税事業者となる日の前日に、免税事業者であった期間中に行った課税仕入れ等に係る棚卸資産を有している場合、その棚卸資産の課税仕入れ等に係る消費税額を課税事業者となった課税期間の課税仕入れ等とみなして、仕入税額控除の計算の対象とする制度です。

 この棚卸資産の調整措置について改正が行われ、2020(令和2)年4月1日以後に高額特定資産である棚卸資産について棚卸資産の調整措置の適用を受けた場合は、その適用を受けた課税期間の翌課税期間からその適用を受けた課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、免税事業者になることができないこととされました。
 また、当該3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間は、消費税簡易課税制度選択届出書を提出することができないこととされました。
 なお、高額特定資産とは、一の取引単につき、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)が1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産をいいます。

出所:国税庁ホームページ

2.高額特定資産でない棚卸資産は改正の適用外

 不動産販売業を営むA社が当期から課税事業者になったため、この棚卸資産の調整措置について確認している過程で疑問が生じました。

 A社においては、土地や建物といった不動産は棚卸資産であり、その取得価額は、ほとんどの場合1,000万円以上になります。 
 例えば、A社が建物付き土地を一括で1,000万円(税込1,050万円)で購入し、これを固定資産税評価額(建物:土地=1:1とします)で按分すると、建物の取得価額は500万円(税込550万円)、土地の取得価額は500万円(消費税は非課税)となります。
 購入後、売却までに100万円(税込110万円)のリフォームをして、最終的に棚卸資産の価額が建物600万円(税込660万円)、土地500万円、合計1,100万円(税込1,160万円)になったとします。
 この場合、この棚卸資産が高額特定資産に該当するか否かの判定は、建物だけで判定すると課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)が600万円となるので非該当、建物だけではなく土地も含めて判定すると1,100万円となるので該当、ということになります。
 一の取引単位には、建物付き土地を一括で購入していますので、建物も土地も含まれますが、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)には、非課税である土地は含まれないのではないか?このような疑問が生じました。
 A社については、当期は棚卸資産の調整措置の適用を受け、翌期は簡易課税制度の適用を視野に入れていましたので、都合のいい解釈になっていないかどうか確認する必要があります。
 冷静になって考えると、「課税仕入れ等」とは、課税仕入れ及び課税貨物の引取りをいいますので、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)には非課税である土地は含まれないことになります(当然ですが)。
 したがって、高額特定資産に該当するか否かの判定においては、非課税である土地は含めず課税取引である建物だけで判断することになります。
 つまり、高額特定資産でない棚卸資産は、棚卸資産の調整措置の適用を受けても、免税事業者や簡易課税選択におけるいわゆる3年縛りはないということになります。

 不動産販売業者に限らず、高額特定資産に該当するか否かの判定は、課税取引だけで判断します。高額特定資産の判定は、棚卸資産の調整措置だけではなく、「高額特定資産を取得等した場合の納税義務の免除の特例」や「居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限」にも関わってきます。

個人事業主が開業した年の消費税課税事業者選択届出書の記載例

1.消費税の還付を受けるため

 個人事業主は、開業した年とその翌年については、通常は消費税の納税義務がない免税事業者となります。
 しかし、開業した年において多額の設備投資があった場合などは、課税事業者を選択することにより、課税仕入れ等(課税仕入れ及び課税貨物の引取り)に係る消費税額の還付を受けることができます。
 課税事業者を選択する場合は、「消費税課税事業者選択届出書」を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません(「消費税課税事業者届出書」ではありませんので、ご注意ください)。
 今回は、消費税の還付を受けるために提出する「消費税課税事業者選択届出書」の書き方について確認します。

2.開業年に提出する課税事業者選択届出書

 例えば、令和3年2月1日に居酒屋を開業した「消費太郎」(個人事業主)が、令和3年分の確定申告で消費税の還付を受けるため、令和3年12月14日に提出する課税事業者選択届出書の記載例は次のようになります。

 主な項目について、書き方を確認します。

(1) 提出日
 提出する令和3年12月14日と記載します

※ 消費税の届出書の提出期限については、本ブログ記事「消費税の各種届出書の提出期限と効力」をご参照ください。

(2) 個人番号又は法人番号
 個人事業主は、左端を1マス空けて個人番号を記載します。個人事業主がこの届出書の控えを保管する場合においては、その控えには個人番号を記載しないなど、個人番号の取扱いには注意が必要です。

(3) 適用開始課税期間
 届出書の効力は、通常は提出した課税期間の翌課税期間の初日に発生しますが、事業を開始した課税期間等に提出した場合は、提出した課税期間又はその翌課税期間の初日から効力が発生します(いずれか選択可能です)。
 今回は、令和3年分の確定申告で消費税の還付を受けるため、「自 令和3年1月1日 至 令和3年12月31日」と記載します(開業日は令和3年2月1日ですが、個人事業主の場合は1月1日~12月31日が課税期間となります)。

(4) 上記期間の基準期間
 通常は(3)の適用開始課税期間の2年前の期間を記載しますが、今回は基準期間がありませんので、記載不要です。

(5) 左記期間の総売上高及び左記期間の課税売上高
 今回は基準期間がありませんので、記載不要です。通常は、「総売上高」欄には、課税売上+輸出免税売上+非課税売上を記載し、「課税売上高」欄には、 課税売上+輸出免税売上を記載します。

(6) 生年月日(個人)又は設立年月日(法人)
 個人事業主の場合は、生年月日を記載します。

(7) 事業年度及び資本金
 個人事業主の場合は、記載不要です。

(8) 届出区分
 今回は個人事業主の新規開業ですので、事業開始に〇を付けます。

(9) 参考事項
 この欄の記載は任意です。上記記載例では、開業年月日を記載しています。

(10) 税理士署名
 関与税理士がいる場合は、記載します。

個人事業主の預貯金の受取利息に関する所得税と消費税の取扱い

 預貯金の利息や貸付金の利息を受け取ったときの会計処理は、法人と個人事業主で異なります。
 今回は、個人事業主が受け取る預貯金(事業用)の利息をピックアップして、その会計処理等について所得税法上と消費税法上の取扱いについて確認します。

1.法人は「受取利息」個人は「事業主借」

 例えば、預貯金口座に500円の利息が振り込まれたとします。この場合、法人では貸方の勘定科目を「受取利息」で会計処理をしますが、個人事業主の場合は「事業主借」で会計処理をします。
 これは、所得税法上は、預貯金の利息は事業所得ではなく「利子所得」に区分されるからです。「受取利息」で仕訳をすると預貯金の利息が事業所得の収入金額となってしまいますので、「事業主借」で仕訳をして事業所得の計算に預貯金利息を反映させないようにします。

2.「事業主借」の消費税課税区分

 勘定科目は「事業主借」にしますが、ここで気になるのが、「事業主借」の消費税課税区分(課税、非課税、免税、不課税)です。
 個人事業主が課税事業者で原則課税を適用している場合、課税売上割合を算定しなければなりません。
 受取利息の課税区分は、法人でも個人事業主でも非課税売上です。一般的に、会計ソフトでは「事業主借」勘定は不課税(対象外)で初期設定されていることが多いと思われますが、入力の際には、非課税売上に変更することを忘れないようにしなければなりません。
 所得税法上は「事業主借」として事業所得の計算から除外した預貯金利息ですが、消費税法上は事業付随行為(消費税法基本通達5-1-7)として消費税の計算に反映させなければなりません。

5-1-7 令第2条第3項《付随行為》に規定する「その性質上事業に付随して対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」には、例えば、事業活動の一環として、又はこれに関連して行われる次に掲げるようなものが該当することに留意する。
・・・・・・
(4) 利子を対価とする事業資金の預入れ

3.預貯金利息に係る源泉所得税等

 預貯金の利息が口座に振り込まれる際には、次の税金が差し引かれます。

(1) 所得税及び復興特別所得税:15.315%
(2) 道府県民税利子割:5%

 法人の場合は(1)だけですが、個人事業主の場合は(1)と(2)の合計20.315%が差し引かれます。
 例えば、預金口座に1,000円の利息が振り込まれた場合、差し引かれた税金は次のようになります。

(1) 法人の場合:1,000÷(1-0.15315)≒1,180 1,180×0.15315≒180
(2)個人の場合:1,000÷(1-0.20315)≒1,254 1,254×0.20315≒254

 ここで新たな疑問が生じます。預貯金利息の勘定科目は「事業主借」、その消費税課税区分は「非課税売上」とすることを確認しましたが、その金額は源泉徴収前と源泉徴収後のどちらにすればいいのでしょうか?
 これについては、消費税法基本通達10-1-13(源泉所得税がある場合の課税標準)に次のように規定されています。

10-1-13 事業者が課税資産の譲渡等に際して収受する金額が、源泉所得税に相当する金額を控除した残額である場合であっても、源泉徴収前の金額によって消費税の課税関係を判定するのであるから留意する。

 この通達から、消費税法上非課税売上として計上すべき受取利息の金額は、源泉徴収前の金額ということになります。
 したがって、個人事業主が預貯金の利息を受け取ったときは、勘定科目は「事業主借」、消費税課税区分は「非課税売上」、金額は「源泉徴収前」で会計処理をします。

 例えば、上記の例(源泉徴収後の利息1,000円が口座に振り込まれたとき)の個人事業主の仕訳を示すと、次のようになります(カッコ内は消費税課税区分)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金
(対象外)
1,000 事業主借
(非課税売上)
1,254
事業主貸
(対象外)
254    

 所得税法上は、次のように源泉徴収後の金額で仕訳しても問題はありません。消費税法上も免税事業者であれば問題ありませんが、課税事業者の場合は、消費税額に与える影響は小さいかもしれませんが、厳密には上記のように仕訳します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金
(対象外)
1,000 事業主借
(非課税売上)
1,000

所得税の修正申告をした場合の予定納税

1.所得税の予定納税とは?

 その年の5月15日現在において確定している前年分の所得金額や税額などを基に計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上である場合、その年の所得税及び復興特別所得税の一部をあらかじめ納付するという制度があります。この制度を予定納税といいます。
 予定納税は、予定納税基準額の3分の1の金額を、第1期分として7月1日から7月31日までに、第2期分として11月1日から11月30日までに納めることになっています(特別農業所得者以外)。
 例えば、予定納税基準額が15万円の場合は、第1期分5万円を7月31日までに、第2期分5万円を11月30日までに納付しなければなりません。予定納税基準額が15万円未満の場合は、予定納税の必要はありません。
 なお、予定納税額は、所轄の税務署長から、原則としてその年の6月15日までに書面で通知されます。

2.修正申告により予定納税基準額が15万円以上になった場合は?

 当初の確定申告では、予定納税基準額が15万円未満だったために予定納税の必要が無かったところ、その後に修正申告をしたために予定納税基準額が15万円以上になったとします。この場合は、新たに予定納税をする必要があるのでしょうか?
 例えば、その年の9月に修正申告をした結果、予定納税基準額が15万円になったとします。この場合、第1期分5万円の納期限は過ぎていますので、第1期分と第2期分の合計額10万円を第2期分の納期限である11月30日までに納付するのでしょうか?
 それとも、第1期分を無視して第2期分5万円だけを11月30日までに納付するのでしょうか?
 また、その年の12月に修正申告をして予定納税基準額が15万円以上になった場合は、すでに第1期分と第2期分の納期限が過ぎていますので、予定納税は修正申告後に速やかに行うのでしょうか?

 答えは「その年の5月15日後(5月16日以後)に行った修正申告により予定納税基準額が15万円以上になったとしても、予定納税の必要はない」ということです。

 冒頭で述べたように、 その年の5月15日現在において確定している前年分の所得金額や税額などを基に計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上である場合に、予定納税が必要です。
 国税庁ホームページ法令解釈通達105-1では、予定納税基準額の計算の基準日について、次のように定めています。

105-1 所得税法第105条に規定する「その年5月15日において確定しているところ」とは、確定申告若しくは修正申告又は更正若しくは決定等の処分によりその年5月15日において定まっているところをいうのであるから、確定申告に対して更正の請求がされ、又は更正若しくは決定等の処分に対して再調査の請求若しくは審査請求等がされている場合においても、その判定をすべき日までにあった確定申告若しくは修正申告又は更正若しくは決定等のうち、最終のものにより定まっているところによるべきことに留意する。

 つまり、その年の5月15日までに行った修正申告については予定納税基準額の計算に反映されますが、5月15日を過ぎて行った修正申告については予定納税基準額の計算に 反映されないということです。

未払計上した決算賞与に係る社会保険料は未払計上できない

1.決算賞与の損金算入の要件

 利益が出ている法人では、決算対策として使用人賞与を未払計上することがあります(いわゆる決算賞与です)。例えば、3月決算法人が3月末の決算仕訳で使用人賞与を未払計上し、実際に支給するのが翌期になる場合です。
 使用人賞与については、実際に支給をした日の属する事業年度に損金算入するのが原則ですが 、その例外として以下の要件を満たせば、未払計上した使用人賞与を損金算入することができます。

(1) 支給額を各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること
(2) その支給額につき(1)の通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に賞与を支給すること
(3) その支給額につき(1)の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること

 上記3要件を満たす使用人賞与については、通知日の属する事業年度に損金算入することができます。
 一般に、賞与はその支給額を通知するのとほぼ同時に支給されるのが慣行となっているものの、事業年度末において各人別に支給額が通知され、たまたま支給が遅れているような場合にまで一切損金算入することを認めないのは適当でないことから、一定範囲で通知をした日の属する事業年度においても損金の額に算入することを認めた上で、取扱いの統一性を確保し恣意性を排除する観点から、上記3要件が規定されています。

2.未払計上した決算賞与に係る社会保険料

 では、さらなる節税対策として、上記1の損金算入要件を満たす未払決算賞与について、その社会保険料を未払計上して損金算入することはできるのでしょうか?
 結論を先に述べると、未払計上した決算賞与に係る社会保険料を未払計上しても、法人の支払債務が確定していないため損金算入することはできない、ということになります。
 社会保険料の損金算入時期については、法人税基本通達9-3-2で次のように規定されています(下線は筆者による)。

9-3-2 法人が納付する次に掲げる保険料等の額のうち当該法人が負担すべき部分の金額は、当該保険料等の額の計算の対象となった月の末日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。
(1) 健康保険法第155条《保険料》又は厚生年金保険法第81条《保険料》の規定により徴収される保険料
(2) 旧効力厚生年金保険法第138条《掛金》の規定により徴収される掛金(同条第5項《設立事業所の減少に係る掛金の一括徴収》又は第6項《解散時の掛金の一括徴収》の規定により徴収される掛金を除く。)又は同法第140条《徴収金》の規定により徴収される徴収金
(注)同法第138条第5項又は第6項の規定により徴収される掛金については、納付義務の確定した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。


 法人税基本通達9-3-2では、当該保険料等の額の計算の対象となった月の末日の属する事業年度の損金の額に算入することができるとされています。
 この「保険料等の額の計算の対象となった月の末日」とは、具体的にはいつを指すのでしょうか?
 健康保険の各月の保険料の計算については、健康保険法156条1項において、各被保険者の標準報酬月額及び標準賞与額にそれぞれ保険料率を乗じる旨が規定されており、同法45条1項において、被保険者が賞与を受けた月において、その月に当該被保険者が受けた賞与額に基づき、これに千円未満の端数を生じたときは、これを切り捨てて、その月における標準賞与額を決定する旨が規定されています。
 すなわち、賞与に係る保険料は標準賞与額に保険料率を乗じて計算しますが、その標準賞与額が決定されるのは被保険者が賞与を受けた月ということになります。
 また、健康保険の保険料の納付義務については、健康保険法161条2項において、事業主がその使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負うことが規定されていますが、同法156条3項では、前月から引き続き被保険者である者がその資格を喪失した場合には、その月分の保険料は算定しない旨が規定されています。
 すなわち、被保険者である従業員等が退職等の理由によりその月に被保険者の資格を喪失した場合には、事業主はその退職した従業員等に係る保険料の納付義務を負わないことになります。
(厚生年金保険の保険料の計算と納付義務についても、厚生年金保険法81条1~3項、19条1項、24条の3第1項に規定されていますが、健康保険と同様の理論構成になりますので、ここでは省略します。)

 以上から、法人が納付する健康保険及び厚生年金保険の保険料は、その保険料の額の計算の対象となった月の末日において、その時点で使用している被保険者(従業員等)に係るものについて、その納付義務が確定する性質と解されるものであるから、法人税基本通達9-3-2は、その納付告知又は実際の納付を待たずに、損金算入することができる旨を明らかにしています。そして、賞与に係る保険料は、被保険者が賞与を受けた月に、その受領額を基に標準賞与額を決定し、その標準賞与額に保険料率を乗じて計算されるのであるから、同通達に定める「保険料の額の計算の対象となった月の末日」とは、被保険者が賞与を受けた月(雇用者である法人側からみれば、賞与を支払った月)の末日をいうものと認められます。
 つまり、「保険料等の額の計算の対象となった月の末日」(債務の確定する日)とは、実際に賞与を支給した月の末日を指します。
 したがって、 未払計上した決算賞与に係る社会保険料を未払計上しても、法人の支払債務が確定していないため損金算入することはできないことになります。