年末調整に必要な書類(各種申告書と証明書等)

1.年末調整とは?

 毎月支給される給与からは所得税が源泉徴収(天引き)されていますが、その源泉徴収された所得税の1年間の合計額は、その人(給与の支払を受ける人)の1年間の給与総額に対する税額(年税額)と基本的には一致しません。
 一致しない理由は、例えば、家族の就職や結婚等により年の中途で控除対象扶養親族の人数に異動があっても、その異動後の支払分から修正するだけで遡って各月の源泉徴収税額を修正することとされていないことや、生命保険料や地震保険料などの所得控除は年末調整の際に控除することとされていることなどが挙げられます。
 このような不一致を精算するため、1年間の給与総額が確定する年末にその年に納めるべき税額(年税額)を計算し、この年税額と毎月の給与から源泉徴収した税額との差額を還付したり追加で徴収したりする手続きを年末調整といいます。
 年末調整では、勤務先に各種申告書と証明書等を提出することで、いろいろな控除が受けられます。
 以下では、年末調整の際に必要な各種申告書と証明書等について確認します。

2.提出が必要な申告書と証明書等

 次のうち、(2)の「扶養控除等(異動)申告書」と(3)の「基礎控除申告書兼配偶者控除申告書兼所得金額調整控除申告書」は基本的には全員が提出する必要がありますが、それ以外については該当する方が提出することになります。

(1) 前職の源泉徴収票

 中途入社の方は、前の勤務先が発行した「給与所得の源泉徴収票」を提出してください(複数枚ある場合はすべて)。

(2) 扶養控除等(異動)申告書

 前年の年末調整時または本年の入社時に提出済みだと思いますが、転居により住所が変わった方、家族の就職や結婚等により扶養親族の人数が減った方、出産により扶養親族の人数が増えた方などは、その事実を記載して再提出してください(異動のない方も再提出をしてください)。

(3) 基礎控除申告書兼配偶者控除申告書兼所得金額調整控除申告書

 基礎控除や配偶者控除等を受ける方は、「基礎控除申告書兼配偶者控除申告書兼所得金額調整控除申告書」を提出してください。

(4) 保険料控除申告書

 生命保険料や地震保険料、社会保険料、小規模企業共済掛金などを支払っている方(下記(5)(6)(7)(8)に該当する方)は、これらの支払を証明する書類と一緒に提出してください。

(5) 生命保険料控除証明書・地震保険料控除証明書

 ご自身が支払った生命保険料・地震保険料がある方は、保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」「地震保険料控除証明書」を提出してください。

(6) 国民健康保険料・後期高齢者医療保険料の領収書等

 ご自身が支払った国民健康保険料・後期高齢者医療保険料がある方は、「領収書」または「保険料控除申告書」に本年中に支払った金額を記載して、提出してください。

(7) 社会保険料(国民年金保険料)控除証明書

 ご自身が支払った国民年金保険料がある方は、日本年金機構から送られてくる「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」を提出してください。

※ 国民年金の保険料と国民年金基金の掛金については、保険料を支払ったことを証明する書類が必要ですが、上記(6)の国民健康保険料や後期高齢者医療保険料については必要ありません。

(8) 小規模企業共済等掛金控除証明書

 ご自身が支払った小規模企業共済等掛金(iDeCoなど)がある方は、「小規模企業共済等掛金控除証明書」を提出してください。

(9) 住宅借入金等特別控除申告書・住宅借⼊⾦の年末残⾼等証明書

 住宅ローン控除を受けるために前年分以前に確定申告をした方は、税務署から送られてくる「住宅借入金等特別控除申告書」と、金融機関から送られてくる「住宅取得資⾦に係る借⼊⾦の年末残⾼等証明書」を提出してください。

労働保険の年度更新の仕組みと会計処理(仕訳)

1.労働保険とは?

 労働保険は、労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険に分かれます。
 労災保険は、従業員が仕事中にけがをしたり通勤途中で事故にあった場合に、その治療費や診療費を負担する保険で、その保険料は事業主が全額負担します。
 雇用保険は、失業した場合に当面の生活費を補償する保険で、その保険料は負担割合に応じて事業主と従業員が負担します。

※ 2023(令和5)年度の雇用保険料率については、本ブログ記事「令和5年度雇用保険料率が改定されます」をご参照ください。

2.労働保険の年度更新とは?

 労働保険料を計算する期間を「保険年度」といい、毎年4月1日から翌年の3月31日までの1年間を単位とします。この1年間に支払われる賃金総額の見込額に事業の種類ごとに定められた保険料率を掛けて算出した概算保険料を、その年度の6月1日から7月10日までに当年度分(4/1~翌3/31)として労働基準監督署(ハローワーク等)へ申告・納付します。

 労働保険料の申告・納付では、当年度分の概算保険料だけではなく、前年度に支給された実際の賃金総額をもとに算定した確定保険料と前年度に納付した概算保険料との差額を精算します。この一連の手続きを「労働保険の年度更新」といいます。
 つまり、年度更新は、前年度の概算保険料の精算と当年度の概算保険料の納付という2つの手続きから成ります。
 概算保険料の精算は、前年度分の確定保険料が前年度に納付した概算保険料より多い場合は前年度の不足分を納付し、前年度分の確定保険料が前年度に納付した概算保険料より少ない場合は当年度の概算保険料の納付額に充当されます(原則として還付金は受け取りません)。

 なお、労働保険の年度更新の際には、労災保険料と雇用保険料の他に一般拠出金も納付します。
 一般拠出金とは、石綿(アスベスト)健康被害者の救済費用にあてるため創設されたもので、全額を事業主が負担します。

3.年度更新の会計処理

 労働保険の会計処理は、前年度の概算保険料を精算する必要があることから、他の社会保険(健康保険・厚生年金)より少し複雑です。
 会計処理上のポイントは、労働保険の手続きの流れと誰が保険料を負担するのかを理解することです。そのうえで、事業主負担分は法定福利費として費用処理し、従業員負担分は立替金などの勘定科目で処理します。

 労働保険の会計処理には、法人税法で認められている会計処理と期間帰属を重視した会計処理がありますが、ここでは実務的に有用な前者の会計処理について確認します。

【設例】
(1) 前年度(R4年度)の概算保険料329,200円の内訳
労災保険:85,800円
雇用保険:243,400円(事業主負担分162,300円 従業員負担分81,100円

(2) 前年度(R4年度)の確定保険料337,800円の内訳
労災保険:88,400円
雇用保険:249,400円(事業主負担分166,300円 従業員負担分83,100円

(3) 当年度(R5年度)の概算保険料393,200円の内訳
労災保険:88,400円
雇用保険:304,800円(事業主負担分194,000円 従業員負担分110,800円

※ 一般拠出金は省略します

(1) 前年度(R4年度)概算保険料の納付

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法定福利費 248,100 ※2 現金預金 329,200
立替金 ※1 81,100 ※3    

※1 立替金勘定以外に「仮払金」勘定なども可
※2 事業主負担分:85,800+162,300=248,100
※3 従業員負担分:81,100
※4 (参考)R4年度(R4.4.1~R5.3.31)の給与支給時の仕訳(1年間の合計額)

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
給料手当 ××× 現金預金 ×××
    立替金 ※1 83,100 ※2

※1 立替金勘定以外に「預り金」勘定なども可
※2 前年度(R4年度)雇用保険(従業員負担分)の確定保険料

(2) 前年度(R4年度)概算保険料と確定保険料の精算

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法定福利費 6,600 ※1 現金預金 8,600
立替金 2,000 ※2    

※1 事業主負担分:88,400+166,300-248,100=6,600
※2 従業員負担分:83,100-81,100=2,000

(3) 当年度(R5年度)概算保険料の納付

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法定福利費 282,400 ※1 現金預金 393,200
立替金 110,800 ※2    

※1 事業主負担分:88,400+194,000=282,400
※2 従業員負担分:110,800

 年度更新の一連の流れに沿った会計処理(仕訳)を示すと、上記のようになります。あとは保険年度ごとに(2)と(3)の仕訳を繰り返し行っていくことになります。

インボイス制度のよくある質問

 2023(令和5)年10月1日から始まるインボイス制度について、これまでに事業者の皆さんから受けた質問をQ&A形式で紹介します。

1.インボイス制度が始まると、免税事業者は消費税額を請求できない?

Q.免税事業者である当社は、これまで消費税分を加算した金額を相手方に請求していましたが、インボイス制度が始まる令和5年10月1日以降も消費税分を請求すると、消費税法違反になりますか?

A.令和5年10月1日以降の取引においても、免税事業者が消費税相当額を請求してはならないという規定は消費税法にありません。したがって、消費税分を請求しても違法ではありません。

Q.ということは、これまで通り請求書に消費税率や消費税額を記載しても問題はないということですね?

A.税率や税額を記載すること自体は違法ではありませんが、免税事業者がインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)であるとの誤解を招くような書類を発行することは禁じられており、罰則規定もあります。
 また、免税事業者が請求書に税率や税額を記載することは、相手方から値引き交渉の材料とされる可能性もあります。
 したがって、請求金額は税額を別記する外税ではなく税込みの金額である内税で記載し、消費税率や消費税額は記載しないで請求書を作成するのが良いと思います。

2.インボイス発行事業者になれば外税で請求してもよいという提案を受けたが?

Q.当社は免税事業者であることから、これまでは内税で請求をしていましたが、インボイス制度導入を契機に取引先と取引条件の見直しをしていたところ、インボイス発行事業者になれば外税で請求してもよいという提案を受けました。この提案に乗るべきでしょうか?

A.乗ってください。例えば、内税で10万円を請求していたのを外税で11万円を請求できるということは、1万円の収入増加になります。一方で、消費税の納税義務も生じますので、この増えた1万円のうちいくらかは消費税として納付することになりますが、必ず手元に残るお金はあります。これは消費税の計算方法が原則課税でも簡易課税でも、仕入率が0%でない限り必ず手元にお金が残ります。
 ただし、取引先がこの1社だけならこの提案に乗るべきですが、他にも取引先があり、その取引先とは内税での請求が続くのであれば、各取引先との取引量や取引金額などを総合的に勘案して検討しなければなりません(外税請求と内税請求の割合を考慮する必要があります)。

3.事務所家賃を口座振替で支払っており貸主から請求書や領収書を受け取っていない。この場合、インボイス制度が始まると仕入税額控除できなくなる?

Q.当社は事務所の家賃を口座振替で支払っていますが、貸主から請求書や領収書が発行されないため、家賃の支払の記録としては銀行の通帳に口座振替の記録が残るだけです。この場合、インボイス制度が始まると当社は仕入税額控除ができなくなるのでしょうか?

A.契約書に基づき代金決済が行われ、取引の都度、請求書や領収書が交付されない取引であっても、仕入税額控除を受けるためには、原則としてインボイスの保存が必要です。
 そこで、仕入税額控除を受けるためには、次の3つの方法があります。

口座振替の都度、貸主からインボイスの交付を受け、それを保存する。
貸主から一定期間の家賃についてのインボイスの交付を受け、それを保存する(インボイスは、一定期間の取引をまとめて交付することもできます)。
インボイスの記載事項の一部(例えば、口座振替の年月日以外の事項)が記載された契約書とともに通帳(口座振替の年月日の事実を示すもの)を併せて保存する(インボイスとして必要な記載事項は、一の書類だけで全てが記載されている必要はなく、複数の書類で記載事項を満たせば、それらの書類全体でインボイスの記載事項を満たすことになります)。

 上記のうち事務の煩雑さを考慮すると、②か③になると思いますが、③については令和5年9月30日以前からの契約の場合は、契約書にインボイスとして必要な事項(例えば、登録番号)の記載が不足している場合には、別途、記載が不足していた事項(登録番号)の通知を貸主から受け、契約書とともに保存していれば差し支えありません。
 貸主の立場からは、③での対応が一番楽だと思います。

Q.もし、貸主がインボイス発行事業者ではない場合は、当社は仕入税額控除ができないのでしょうか?

A.免税事業者や消費者から物を買ったりサービスを受けたりした場合でも、一定の要件のもとに6年間は仕入税額控除をしてもいいという経過措置が設けられています。
 令和5年10月1日から令和8年9月30日までは免税事業者に支払った消費税相当額の80%を、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは50%を仕入税額控除できます。

※ 一定の要件とは、「区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等及びこの経過措置の規定の適用を受ける旨を記載した帳簿を保存していること」です。

4.インボイス制度開始前に請求書に登録番号を記載しても大丈夫?

Q.当社はインボイス登録申請書を提出し、令和4年10月に登録番号が通知されました。インボイス制度が始まる前に、この登録番号を請求書に記載しても問題ないでしょうか?

A.問題ありません。請求書等に登録番号を記載したとしても、取引の相手方は現行制度(区分記載請求書等保存方式)の仕入税額控除の要件を確保できますので、インボイス制度開始前に請求書に登録番号を記載しても差し支えありません。

5.電子インボイスとデジタルインボイスの違いとは?

Q.取引の相手方から、電子帳簿保存法に対応するために電子インボイスを発行してほしいという要望がありましたが、電子インボイスとデジタルインボイスの違いがわかりません。

A.電子インボイスとデジタルインボイスは似ていますが、それぞれ異なるものです。
 「電子インボイス」とは、例えば、紙の請求書を「画像データ化(PDF)」してメール送信したものをいいます。Excelで作成した請求書をプリントアウトせずにPDFに変換し、メールに添付して送信したものも電子インボイスです。
 電子インボイスは、紙やExcelデータなどを電子化(PDF)したものであり、人がそれを処理することが前提となっています。
 これに対し「デジタルインボイス」とは、請求に関する情報について、売り手のシステムから買い手のシステムへ人を介さずにデータ連携する仕組みです。
 売り手のシステムが生成したインボイスデータ(電子データ)を買い手のシステムで読み取り、受発注や決済まで自動処理させることを前提としています。
 業務の効率化という点では、デジタルインボイスの方が利便性が高いといえます。

免税事業者がインボイス発行事業者となる場合の事前準備

 2023(令和5)年10月1日から適格請求書等保存方式(インボイス制度)がスタートします。
 現在課税事業者で今後も課税事業者が続くと見込まれる場合や、現在は免税事業者だけど2023(令和5)年10月1日時点では課税事業者であり、それ以降も課税事業者であることが見込まれる場合は、インボイス発行事業者の登録をしない理由はないと言えます。
 一方、現在免税事業者で今後も免税事業者であることが見込まれる場合は、インボイス発行事業者の登録をすべきか否かについて、免税事業者の方は非常に悩ましい判断を迫られています。
 今回は、いろいろと検討した結果、インボイス制度のスタートに合わせてインボイス発行事業者になるという決断をした免税事業者の、事前に必要な準備について述べていきます。

1.消費税を意識した記帳を今から始める

 免税事業者がインボイス発行事業者の登録をするということは、当然のことながら課税事業者になることを意味します。つまり、消費税の申告納税義務が生じます。
 この場合、個人事業主と12月決算法人を前提(以下2、3において同じ)とすると、消費税の申告対象となる期間は2023(令和5)年1月1日~同年12月31日の1年間ではなく、2023(令和5)年10月1日~同年12月31日までの3か月間になります。
 免税事業者の方は、会計ソフトを使用している場合も手書きや表計算ソフト等で帳簿を作成している場合も、これまでは消費税を意識した記帳は行っていなかったと思われます。
 しかし、課税事業者になると、消費税についてもきっちり記帳をしなければ消費税の申告納税をすることができません。免税事業者である今のうちから、消費税を意識した記帳を行って、申告納税に備える必要があります(今のうちに練習をしておくということです)。
 また、下記3で述べるように、課税事業者になったときの納税額の有利不利をシミュレーションするためにも、免税事業者のうちから消費税を意識した記帳を行う必要があります。

2.棚卸資産に係る調整措置を適用する

 消費税の納税額は、売上に係る消費税(売ったときに受け取った消費税)から仕れに係る消費税(買ったときに支払った消費税)を差引いて計算します。例えば、税率を10%とすると、77,000円で仕入れた商品を110,000円で売った場合、納税額は10,000円(受け取った消費税)から7,000円(支払った消費税)を差引いた3,000円になります。この支払った消費税を差引くことを「仕入税額控除」といいます。
 しかし、免税事業者のときに仕入れた商品等を課税事業者になってから販売すると、消費税納税額の計算上、売上に係る消費税(課税事業者になってから受け取った消費税)は計上されますが、仕入れに係る消費税(免税事業者のときに支払った消費税)は差引くこと(仕入税額控除)ができません。
 このような不合理を調整するために、免税事業者が課税事業者になった場合に、免税事業者時代の棚卸資産(商品や原材料などの在庫)に含まれる消費税を仕入税額控除できる「棚卸資産に係る調整措置」が設けられています。
 免税事業者が今回のインボイス制度導入に合わせて課税事業者になった場合に当てはめると、2023(令和5)年9月30日時点の棚卸資産に含まれる消費税を、課税事業者になった2023(令和5)年10月1日~同年12月31日の期間で仕入税額控除できることになります。
 今回この調整措置を適用するためには、棚卸し(在庫の確認)を決算期の12月31日だけではなく、免税事業者最終日の9月30日にも行う必要があります。
 この調整措置は納税者有利の規定ですから、卸売業や小売業、飲食店業など、棚卸資産のある業種の事業者の方は、忘れずに適用してください。ただし、下記3の簡易課税制度を選択する場合は適用できません。

3.簡易課税の選択を検討する

 消費税の仕入税額控除の方法には、原則課税と簡易課税があります。
 原則課税は、商品等を購入した際の領収書等から実際に支払った消費税を集計し、これを受け取った消費税から差し引いて納税額を計算します。
 一方、簡易課税は、業種ごとに決められた「みなし仕入率※1」という一定の割合を、受け取った消費税に乗じて(掛け算して)支払った消費税を算出します。
 例えば、小売業の場合、77,000円で仕入れた商品を110,000円で売ったとき、原則課税で計算した「支払った消費税」は7,000円(納税額は3,000円)になりますが、簡易課税では、小売業のみなし仕入率は80%ですので、「支払った消費税」は受け取った消費税10,000円に80%を乗じた8,000円(納税額は2,000円)になります。
 この計算例でわかるように、簡易課税は、原則課税のように実際に支払った消費税を領収書等から集計する必要がありません(売上高がわかれば納税額の計算ができます)。つまり、インボイス制度が導入されてもインボイスを保存する必要がないので、経理事務負担が軽減されるということです※2
 また、上記の計算例のように、実際の仕入率(支払った消費税7,000円÷受け取った消費税10,000円=70%)よりみなし仕入率(小売業80%)の方が高い場合は、簡易課税の方が原則課税よりも納税額が少なくなります。逆に、実際の仕入率がみなし仕入率より高い場合は、納税額が原則課税より増えます。
 このように、実際の仕入率とみなし仕入率の関係によっては、簡易課税の方が税負担が軽減される場合があるということです。
 うまくいけば、事務負担も税負担も軽減されますので、簡易課税の選択は検討する価値があります※3

 ただし、簡易課税を選択する場合には、次の点に留意しなければなりません。

(1) 基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること。
 この制限に関しては、今回は免税事業者(基準期間の課税売上高1,000万円以下)が課税事業者になる場合を述べていますので、クリアしています。

(2) 簡易課税を選択する場合は、「簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要がある。
 通常は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出しなければなりませんが、今回のインボイス制度導入に合わせて免税事業者が課税事業者になる場合は、2023(令和5)年12月31日までに提出すればよいことになっています。

(3) 簡易課税を選択した場合は、2年間継続適用しなければならない。
 簡易課税を初めて選択した次の年度に原則課税の方が有利になる場合でも、簡易課税を継続適用しなければなりません。

※1 みなし仕入率

事業区分 該当する事業 みなし仕入率
第1種 卸売業 90%
第2種 小売業 80%
第3種 農業、林業、漁業、建設業、製造業など 70%
第4種 飲食店業など 60%
第5種 金融・保険業、運輸通信業、サービス業 50%
第6種 不動産業 40%

※2 所得税法・法人税法上は、受領した請求書等は保存しなければなりません。

※3 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、売上税額の2割納税の特例が設けられました。簡易課税制度の選択にあたっては、この2割納税の特例との有利不利を考慮する必要がありますので、ご注意ください。2割納税の特例については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、2割納税の特例と簡易課税制度の有利不利については「売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?」をご参照ください。

改正電子帳簿保存法:最低限どんな対応をしたらいいのか?

1.なぜ今回の改正が注目されているのか?

 電子帳簿保存法とは、帳簿や決算書、請求書などの国税関係帳簿・書類を電子データで保存するための要件を定めた法律です。この法律自体は1998(平成10)年に施行されており、その後に何度か改正されていますが、これまではあまり注目されることはなかったように思います。
 ところが、2022(令和4)年1月1日から施行されている今回の改正法が注目されているのは、「電子取引」については電子データ保存が義務化されたためです。
 この改正法により、電子取引については、これまでのようにプリントアウトして「紙」で保存することは認められなくなり、「電子データ」で保存しなければならなくなりました。この改正は、法人・個人や規模の大小にかかわらず、すべての事業者が対応しなければならないため、過去の改正に比べて注目度が上がっています。
 なお、2022(令和4)年1月1日からの対応が難しい場合は、2024(令和6)年1月1日からの対応でもよいことになっています。

※ 電子取引とは、例えば、次のようなものが該当します(詳細については、本ブログ記事「改正電子帳簿保存法~電子取引と電子データの具体例」をご参照ください)。
・電子メールに添付されている請求書や領収書等のPDFを授受する
・ショッピングサイトで商品を購入した際に、そのWEBサイトから請求書や領収書等のPDFをダウンロードする
・クレジットカードの利用明細データやスマートフォンアプリの決済データ等をクラウドサービスなどから受領する

2.すべてが電子化されるわけではない

出所:国税庁ホームページ

 「電子データ」での保存が必要ということは、何か専用のシステムを導入しないといけないのでは?と考えがちですが、必ずしもそうとは言えません。
 この点に関しては、改正された電子帳簿保存法が次の3つに区分されていることを理解し、それぞれ別個に対応を考えることが重要です。

 (1) 電子帳簿等保存
 (2) スキャナ保存
 (3) 電子取引データ保存

 これらのうち、端的に言うと、(1)と(2)に対応するためには専用のシステム(会計ソフトや証票管理システムなど)の導入が必要ですが、(3)については専用のシステムがなくても対応することができます。
 また、今回の改正法では、(1)と(2)について対応するかどうかは任意とされていますので、この制度を利用したい事業者(対応可能な事業者)のみが対応すればいいことになっています。したがって、今回の改正法で全ての事業者が対応しなければならないのは(3)です。
 (3)だけに対応する場合、これまでと何が変わるのかと言えば、電子取引で受領した電子データ(例えば、メールに添付された請求書のPDF)は「紙」ではなく「電子データ(PDF)」のまま保存するということです。言い換えれば、電子取引に該当しない「紙」で受け取った請求書は、これまで通り「紙」で保存するということです。すべてが電子化されるわけではありません。

3.最低限必要な対応とは?

 改正電子帳簿保存法の全て(上記2.(1)~(3))に対応しようとすると、専用システムの導入などにコストがかかります。現時点でそこまで考えていない事業者の方(コストをかけないで改正法に対応したい事業者の方)は、最低限、(3)電子取引データ保存への対応を考えて下さい。
 具体的な対応方法は、次のとおりです。

 ① 不当な訂正削除の防止に関する「事務処理規程」の制定・遵守
 ② モニター・操作説明書等の備付け
 ③ 検索要件の充足

 ①については、国税庁ホームページから事務処理規定のひな型(法人の例と個人事業者の例)をダウンロードすることができますので、それを参考に自社の業務内容に合わせて作成してください。
 ③については、電子データのファイル名に規則性を持たせて(「日付・金額・相手方」を記載して)検索可能な状態で電子データを保存する方法と、表計算ソフト等で索引簿を作成し、その索引簿を使用して電子データを検索できるようにする方法があります。

出所:国税庁ホームページ

4.将来のDXを見据えて電子帳簿保存法に対応

 電子帳簿保存法に対応することによって、業務のデジタル化が進み、業務の効率化や生産性の向上などを図ることができます。また、業務のデジタル化は、ビジネスモデルを変革して新たな価値を生み出すDX(デジタルトランスフォーメーション)にもつながります。
 いきなり電子帳簿保存法のすべてに対応する必要はありませんので、まずは「電子取引データ保存」に対応し、その後はできるところから始めていきましょう。

扶養控除等申告書に障害者等の記載があった場合の源泉徴収税額

1.扶養控除等申告書の用途は年末調整だけではない

 年末調整では、勤務先に各種申告書(扶養控除等申告書、基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書、保険料控除申告書、住宅借入金等特別控除申告書)を提出することで、いろいろな控除を受けることができます。
 これらの申告書のうち、令和4年分扶養控除等申告書については、昨年(令和3年)の年末調整時に勤務先に提出(令和4年中に途中入社した方は入社時に提出)していると思いますが、今年(令和4年)の年末調整時に修正事項(結婚や出産により扶養者が増えた等)の有無を確認するため、勤務先より再度配布されます。
 また、令和5年分扶養控除等申告書は、来年(令和5年)1月から支払う給与の計算に使用するため、今年(令和4年)の年末調整時に勤務先に提出します。
 年末調整のタイミングで扶養控除等申告書を提出することが多いので、なんとなく扶養控除等申告書は年末調整で所得控除を受けるために提出するものと思われがちですが、そうではありません。
 扶養控除等申告書の用途は年末調整だけではなく、毎月の給与から天引きする所得税額(源泉徴収税額)を計算する際にも使用します。つまり、源泉徴収税額は扶養控除等申告書に記載された内容を反映するものでなければなりません。
 以下では、扶養控除等申告書に障害者等の記載があった場合の源泉徴収税額の求め方について確認します。

2.甲欄の「扶養親族等の数」

 扶養控除等申告書の提出があった人の源泉徴収税額は、源泉徴収税額表より次のステップで求めます。

(1) まず、その人のその月の給与等の金額から、その給与等の金額から控除される社会保険料等の金額を控除した金額を求めます。

(2) 次に、上記(1)により求めた金額に応じて「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」欄の該当する行を求め、その行と扶養控除等申告書により申告された扶養親族等の数に応じた甲欄の「扶養親族等の数(0人~7人)」欄との交わるところに記載されている金額を求めます。この金額が源泉徴収税額です。

 ここで注意しなければならないのが、源泉徴収税額表における「扶養親族等」の意味です。
 源泉徴収税額表における「扶養親族等」とは、控除対象扶養親族※1だけではなく源泉控除対象配偶者※2も含みます。つまり「扶養親族等の数」とは、源泉控除対象配偶者と控除対象扶養親族(老人扶養親族又は特定扶養親族を含みます)との合計数をいいます。

※1 控除対象扶養親族とは、扶養親族のうち、年齢16歳以上の人をいいます。
 扶養親族とは、給与等の支払を受ける人と生計を一にする親族等(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者(以下「青色事業専従者等」といいます)を除きます)で、令和 4年中の所得の見積額が48万円以下の人をいいます。
 ここにいう親族等には、児童福祉法の規定により養育を委託されたいわゆる里子や、老人福祉法の規定により養護を委託されたいわゆる養護老人も含まれます。

※2 源泉控除対象配偶者とは、給与等の支払を受ける人(合計所得金額が900万円以下である人に限ります)と生計を一にする配偶者(青色事業専従者等を除きます)で、令和 4 年中の所得の見積額が95万円以下の人をいいます。

 また、提出された扶養控除等申告書に障害者等の記載がある場合は、その内容を次のように源泉徴収税額表の「扶養親族等の数」に反映させなければなりません。

(3) 扶養控除等申告書に、給与等の支払を受ける人本人が障害者(特別障害者を含みます)、寡婦、ひとり親又は勤労学生に該当する旨の記載があるときは、扶養親族等の数にこれらの一に該当するごとに1人を加算した数を、上記(2)における「扶養親族等の数」とします。

(4) 扶養控除等申告書に、給与等の支払を受ける人の同一生計配偶者※3や扶養親族(年齢16歳未満の人を含みます)のうちに障害者(特別障害者を含みます)又は同居特別障害者に該当する旨の記載があるときは、扶養親族等の数にこれらの一に該当するごとに1人を加算した数を、上記(2)における「扶養親族等の数」とします。

※3 同一生計配偶者とは、給与等の支払を受ける人と生計を一にする配偶者(青色事業専従者等を除きます)で、令和 4 年中の所得の見積額が48万円以下の人をいいます。

 したがって、提出された扶養控除等申告書に障害者等の記載があった場合は、(年末調整で過不足の精算が行われるとはいえ)毎月の給与の源泉徴収税額にも影響がありますのでご注意下さい。


FM宝塚でインボイス制度の解説をします

 2023(令和5)年10月1日から始まるインボイス制度について、FM宝塚で解説をさせていただくことになりました(提供:宝塚商工会議所)。

 インボイス制度が始まるとどうなるのか?
 免税事業者はインボイス発行事業者として登録した方がいいのか?
 登録するかどうかは何を基準に判断すればいいのか?
 課税事業者が免税事業者との取引を見直す際の注意点は?

などについて、パーソナリティーの芦田純子さんと一緒に解説をしていきます。

 自分は関係ないと思っていても、取引先などからインボイス対応について聞かれたときに、知識がなければ答えることができませんので、この放送を通してインボイス制度の概要をつかんでいただければと思います。

 番組名は「インボイス制度ってな~に?」、初回放送は2022(令和4)年10月8日(土)8時15分~8時30分で、2022(令和4)年12月24日(土)までの全12回(再放送を含みます)の放送です。

放送スケジュール
2022/10/8(土) 8:15~8:30 ①本放送
2022/10/15(土) 8:15~8:30 ①再放送
2022/10/22(土) 8:15~8:30 ②本放送
2022/10/29(土) 8:15~8:30 ②再放送
2022/11/5(土) 8:15~8:30 ③本放送
2022/11/12(土) 8:15~8:30 ③再放送
2022/11/19(土) 8:15~8:30 ④本放送
2022/11/26(土) 8:15~8:30 ④再放送
2022/12/3(土) 8:15~8:30 ⑤本放送
2022/12/10(土) 8:15~8:30 ⑤再放送
2022/12/17(土) 8:15~8:30 ⑥本放送
2022/12/24(土) 8:15~8:30 ⑥再放送

令和4年分給与所得者の保険料控除申告書の書き方と記載例

 保険料控除申告書は、給与の支払を受ける人(給与所得者)が、その年の年末調整において生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除を受けるために給与の支払者(勤務先)に提出するものです。
 今回は、生命保険料控除申告書の書き方について確認します。なお、令和4年分扶養控除等申告書については、本ブログ記事「令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」を、令和4年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書については「令和4年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書の書き方と記載例」を、年末調整で勤務先に提出する書類については「年末調整に必要な書類(各種申告書と証明書等)」をご参照ください。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長
 給与の支払者の所在地等の所轄税務署長を記入します。

(2) 給与の支払者の法人番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の法人番号を付記します。

2.生命保険料控除の記入

(1) 控除証明書の内容を記入(転記) 
 保険会社から送られてきた生命保険料控除証明書や契約証書などを参考に、下記項目を記入します。

項目 記入内容
保険会社等の名称 保険会社等の名称(略称可)
保険等の種類 控除証明書の「保険種類」
保険期間又は年金支払期間 控除証明書の「保険期間」
保険等の契約者の氏名 控除証明書に記載されている人の「氏名」
保険金等の受取人 控除証明書に記載されている「保険金受取人名」(控除証明書に記載が無い場合は、契約証書等を参照)
あなたとの続柄 自分の場合は「本人」、それ以外の場合は「妻、夫、配偶者、父、母、子」など
新・旧の区分 控除証明書に記載されている「適用制度」の新旧の区分
あなたが本年中に支払った保険料等の金額 控除証明書に記載されている参考欄の「12月末時点の申告予定額
給与の支払者の確認印 勤務先の記入欄なので記入不要

 なお、保険料控除を受けるためには、保険金等の受取人があなた又はあなたの配偶者や親族(個人年金保険料については親族を除きます)であることが必要です(参考:本ブログ記事「妻が契約者でも夫の生命保険料控除の対象にできるか?」)。
 また、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する際は、旧生命保険料で一契約の保険料の金額が9,000円以下であるものを除き、証明書類の添付等が必要です。

(2) 控除額の計算
 保険料控除申告書の下部に記載されている「計算式Ⅰ(新保険料等用)」「計算式Ⅱ(旧保険料等用)」に当てはめて控除額を計算します。控除額の計算において算出した金額に1円未満の端数があるときは、その端数を切り上げます。

3.地震保険料控除の記入

 地震保険料控除についても生命保険料控除と同じように、保険会社から送られてきた地震保険料控除証明書の内容を記入(転記)して、地震保険料控除額の計算式に当てはめて控除額を計算します。
 なお、保険等の対象となった家屋等に居住又は家財を利用している人は、あなた又はあなたと生計を一にする親族であることが必要です(参考:本ブログ記事「賃貸住宅に住んでいる場合に地震保険料控除の適用はあるか?」)(同一生計を要件とする所得控除については、本ブログ記事「所得控除における『生計を一にする』の判定基準」をご参照ください)。
 また、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する際は、証明書類の添付等が必要です。

4.社会保険料控除の記入

 国民年金保険料など、あなたが直接支払った社会保険料を記入します。給与から差し引かれた社会保険料は記入しません。
 具体的には、次のような場合に記入が必要です。
(1) 勤務先が社会保険に未加入で、国民年金保険料・国民健康保険料を自分で支払っている場合
(2) 年の途中で就職し、それまでは国民年金保険料・国民健康保険料を支払っていた場合
(3) 配偶者、親、子の代わりに国民年金保険料・国民健康保険料を支払っている場合

 これらに該当する場合は、下記項目を記入します。

項目 記入内容
社会保険の種類 国民年金、国民年金基金、国民健康保険など
保険料支払先の名称 日本年金機構、市区町村名など
保険料を負担することになっている人 あなたや家族の氏名
あなたとの続柄 自分の場合は「本人」、それ以外の場合は「妻、夫、配偶者、父、母、子」など
あなたが本年中に支払った保険料の金額 ①国民年金や国民年金基金の場合
控除証明書に記載されている「合計額(納付済額+見込額)
②国民健康保険料(税)の場合
控除証明書がないので、領収書等から支払額を集計
合計(控除額) すべての額の合計

 なお、国民年金と国民年金基金については控除証明書の添付等が必要ですが、国民健康保険は控除証明書がありません(勤務先から「市町村の支払額の通知書」の提出を求められる場合があります)。

5.小規模企業共済等掛金控除の記入

iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金など、あなたが直接支払った小規模企業共済等掛金を記入します。給与から差し引かれた掛金は記入しません。
 独立行政法人中小企業基盤整備機構や国民年金基金連合会、地方公共団体から送付された証明書をもとに下記項目の金額を記入します。
 なお、「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する際は、証明書類の添付等が必要です。 

項目 記入内容
独立行政法人中小企業基盤整備機構の共済契約の掛金 小規模企業共済
※フリーランスの退職金の準備のための掛金。
確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金 企業型DC(企業型確定拠出年金)
※企業が掛金を拠出し、従業員が運用する。通常は、給与から差し引かれるため記入不要。
確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金 iDeCo(個人型確定拠出年金)
※自分で加入する。
心身障害者扶養共済制度に関する契約の掛金 心身障害者扶養共済掛金
※障害者を扶養している保護者が毎月一定の掛金を支払うことで、保護者に万一のことがあったときに障害者に年金が支給される。

令和4年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書の書き方と記載例

 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書は、基礎控除申告書、配偶者控除等申告書、所得金額調整控除申告書の3つが一体の書式になっています。
 今回は、令和4年分基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書の書き方を確認します。なお、令和4年分扶養控除等申告書については、本ブログ記事「令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」を、令和4年分保険料控除申告書については「令和4年分給与所得者の保険料控除申告書の書き方と記載例」を、年末調整で勤務先に提出する書類については「年末調整に必要な書類(各種申告書と証明書等)」をご参照ください。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長
 給与の支払者(勤務先)の所在地等の所轄税務署長を記入します。

(2) 給与の支払者の法人番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の法人番号を付記しますので、あなた(給与所得者)が記入する必要はありません。

2.給与所得者の基礎控除申告書の記入

(1) あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算
 給与所得については、令和4年中の給与の収入金額(給与を2か所以上から受けている場合は、その合計額)の見積額を「収入金額」欄に記入し、その給与の収入金額を基に下表を使用して「所得金額」を計算します。

給与の収入金額(A) 給与所得の金額
1円以上    550,999円以下 0円
551,000円以上 1,618,999円以下 A-550,000円
1,619,000円以上 1,619,999円以下 1,069,000円
1,620,000円以上 1,621,999円以下 1,070,000円
1,622,000円以上 1,623,999円以下 1,072,000円
1,624,000円以上 1,627,999円以下 1,074,000円
1,628,000円以上 1,799,999円以下 A÷4(千円未満切捨て)…B
B×2.4+100,000円
1,800,000円以上 3,599,999円以下 A÷4(千円未満切捨て)…B
B×2.8-80,000円
3,600,000円以上 6,599,999円以下 A÷4(千円未満切捨て)…B
B×3.2-440,000円
6,600,000円以上 8,499,999円以下 A×0.9-1,100,000円
   8,500,000円以上 A-1,950,000円

 ただし、所得金額調整控除の適用を受ける人は、上の表に従って求めた給与所得の金額から所得金額調整控除の控除額を差し引いた額を記入してください。
 所得金額調整控除の額の計算方法は、次のとおりです(①②の両方がある場合は、その合計額)。
① (給与の収入金額※1-850万円)×10%
 ※1 1,000万円を超える場合は1,000万円
② 給与所得控除後の給与等の金額※2+公的年金等に係る雑所得の金額※2-10万円
 ※2 10万円を超える場合は10万円

 例えば、給与の収入金額が8,970,000円の場合、上の表より給与所得の金額は8,970,000円-1,950,000円=7,020,000円と計算されますが、所得金額調整控除の額(8,970,000円-8,500,000円)×10%=47,000円を差し引いた6,973,000円を「所得金額」欄に記入します。

(2) 控除額の計算
 上記(1) の「あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算」の表で計算した合計額を基に「判定」欄の該当箇所に✓を付け、判定結果に対応する控除額を「基礎控除の額」欄に記入します。

(3) 区分Ⅰ
 配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けようとする人は、「控除額の計算」の「判定」欄の判定結果に対応する記号(A~C)を記入します。

3.給与所得者の配偶者控除等申告書の記入

(1) 配偶者の氏名、個人番号など
 一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください(本ブログ記事「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書のマイナンバー記載を省略する方法」をご参照ください)。
 また、配偶者が非居住者である場合には、「非居住者である配偶者」欄に○を付け、「生計を一にする事実」欄にその年に送金等をした金額の合計額を記入します。この場合、親族関係書類及び送金関係書類の添付等が必要ですが、親族関係書類については、扶養控除等(異動)申告書を提出した際に添付等をしているときは必要ありません。

(2) 配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算
 上記 2.(1)を参考に、配偶者の収入金額、所得金額を記入して下さい。例えば、給与収入の見積額が920,000円でかつ、所得金額調整控除が適用されない人の場合には、所得金額は920,000円-550,000円=370,000円となります。

(3) 判定及び区分Ⅱ
 上記3.(2)で計算した合計所得金額及び配偶者の生年月日を基に、「判定」欄の該当箇所に✓を付け、判定結果に対応する記号(①~④)を「区分Ⅱ」欄に記入します。

(4) 配偶者控除の額又は配偶者特別控除の額
 区分Ⅱが①又は②の場合は「配偶者控除の額 」欄に、区分Ⅱが③又は④の場合は「 配偶者特別控除の額 」欄に、「控除額の計算」の表で求めた配偶者控除額又は配偶者特別控除額を記入します。

4.所得金額調整控除申告書の記入

(1) 要件
 該当する要件に✓を付けます。複数の項目に該当する場合は、いずれか1つを選んで✓を付けます。
 「特別障害者」とは、障害者のうち身体障碍者手帳に身体上の障害の程度が一級又は二級である者として記載されている人など、精神又は身体に重度の障害のある人をいいます。
 「同一生計配偶者」とは、あなたと生計を一にする配偶者(青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和4年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人をいいます。
 「扶養親族」とは、あなたと生計を一にする親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和4年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人をいいます。 なお、児童福祉法の規定により養育を委託されたいわゆる里子や老人福祉法の規定により養護を委託されたいわゆる養護老人で、あなたと生計を一にし、令和4年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人も扶養親族に含まれます。

(2) ☆扶養親族等
 「要件」欄で「同一生計配偶者が特別障害者」、「扶養親族が特別障害者」、「扶養親族が年齢23歳未満」の項目に✓を付けた場合、その要件に該当する同一生計配偶者又は扶養親族の氏名、個人番号及び生年月日等を記入します。
 なお、「扶養親族が特別障害者」、「扶養親族が年齢23歳未満」の項目に✓を付けた場合でその扶養親族が2人以上いる場合は、いずれか1人の氏名、個人番号及び生年月日を記入します(扶養親族が年齢23歳未満の場合については、本ブログ記事「所得金額調整控除における『23歳未満の扶養親族』とは?」をご参照ください)。
 また、 一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください (上記3.(1)参照)。

(3) ★特別障害者
 「特別障害者に該当する事実」欄には、障害の状態又は交付を受けている手帳などの種類と交付年月日、障害の程度(障害の等級)などの特別障害者に該当する事実を記入します。
 なお、特別障害者に該当する人が「扶養控除等(異動)申告書」に記載している特別障害者と同一である場合には、特別障害者に該当する事実の代わりに「扶養控除等申告書のとおり」と記載することも認められています。

※所得金額調整控除については、本ブログ記事「令和2年分から適用される基礎控除の改正と所得金額調整控除の新設」をご参照ください。

法人設立や本店移転があった事業年度の均等割の計算方法

1.1月に満たないときは1月とし、1月に満たない端数があるときは端数を切り捨て

 法人が地方団体に納めるべき税金として、法人住民税(都道府県民税と市町村民税)があります。
 法人住民税は、都道府県及び市町村に事務所、事業所(以下「事務所等※1」といいます)又は寮等※2を有する法人等に課税され、法人の規模に応じて決まる「均等割」と法人税(国税)の額に応じて決まる「法人税割」とがあります。
 法人税割は、黒字で国に法人税を納めている法人に課税されるのに対して、均等割は赤字の法人でも課税されます。
 均等割は、事業年度末日現在の資本金等の金額等と従業者数により、都道府県ごと・市町村ごとに年税額が決められており、事務所等又は寮等を有していた月数に応じて計算します。通常は12か月で計算しますが、事業年度中に法人設立や本店移転があった場合等は、暦に従って月数を計算し、これが1月に満たないときは1月とし、1月に満たない端数があるときは端数を切り捨てます。
 「1月に満たないときは1月とし」とは、例えばその事業年度における事務所等又は寮等を有していた月数が25日間の場合は、これを1か月とカウントすることをいいます。
 「1月に満たない端数があるときは端数を切り捨てます」とは、例えばその事業年度における事務所等又は寮等を有していた月数が11か月と25日の場合は、11か月とカウントすることをいいます。
 以下において、事例ごとに均等割の計算方法を確認します。

※1 自己が所有するものか否かにかかわらず、事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって、そこで継続して事業が行われる場所をいいます。
※2 宿泊所・クラブ・保養所・集会所その他これらに類するもので、法人が従業者の宿泊・慰安・娯楽等の便宜を図るために常時設けている施設をいいます。したがって、寮等とよばれるものであっても、その実質が独身寮・社員住宅などのように特定の従業者が居住するための施設は含まれません。

2.法人設立事業年度の均等割

 例えば、兵庫県神戸市でx1年4月5日に設立した3月決算法人の設立事業年度(x2年3月期)の均等割は、次のように計算します(均等割の年額を、法人県民税22,000円、法人市民税50,000円とします)。

(1) 法人県民税の均等割

 22,000円×11か月÷12か月=20,166円→20,100円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月からx2年3月までの11か月と26日ですが、4月の26日(4/5~4/30)は切捨てて11か月となります。

(2) 法人市民税の均等割

 50,000円×11か月÷12か月=45,833円→45,800円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月からx2年3月までの11か月と26日ですが、4月の26日(4/5~4/30)は切捨てて11か月となります。

3.本店移転があった事業年度の均等割

 例えば、大阪府東大阪市の3月決算法人が、x1年6月25日に本店を大阪府枚方市に移転した場合のx2年3月期の均等割は、次のように計算します(均等割の年額を、法人府民税20,000円、法人市民税は東大阪市・枚方市ともに50,000円とします)。

(1) 法人府民税の均等割

 20,000円×12か月÷12か月=20,000円→20,000円
※ 大阪府内に事務所等を有していた月数は、x1年4月からx2年3月までの12か月です。

(2) 法人市民税の均等割

① 東大阪市の均等割
 50,000円×2か月÷12か月=8,333円→8,300円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月からx1年6月までの2か月と25日ですが、6月の25日(6/1~6/25)は切捨てて2か月となります。

②枚方市の均等割
 50,000円×9か月÷12か月=37,500円→37,500円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年6月からx2年3月までの9か月と5日ですが、6月の5日(6/26~6/30)は切捨てて9か月となります。

 法人府民税計算の月数は12か月でしたが、法人市民税計算の月数は2か月+9か月=11か月となります。

4.法人設立と本店移転が同一事業年度の場合の均等割

 例えば、大阪府東大阪市でx1年4月5日に設立した3月決算法人が、x1年6月25日に本店を大阪府枚方市に移転した場合のx2年3月期の均等割は、次のように計算します(均等割の年額を、法人府民税20,000円、法人市民税は東大阪市・枚方市ともに50,000円とします)。

(1) 法人府民税の均等割

 20,000円×11か月÷12か月=18,333円→18,300円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月からx2年3月までの11か月と26日ですが、4月の26日(4/5~4/30)は切捨てて11か月となります。

(2) 法人市民税の均等割

① 東大阪市の均等割
 50,000円×1か月÷12か月=4,166円→4,100円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年4月は26日(4/5~4/30)、5月は31日、6月は25日(6/1~6/25)になりますが、4月の26日と6月の25日は1月未満の端数ですので切捨てて1か月となります。

②枚方市の均等割
 50,000円×9か月÷12か月=37,500円→37,500円
※ 月数は、暦に従って計算するとx1年6月からx2年3月までの9か月と5日ですが、6月の5日(6/26~6/30)は切捨てて9か月となります。

 法人府民税計算の月数は11か月でしたが、法人市民税計算の月数は1か月+9か月=10か月となります。