所得区分に起因する個人事業主特有の仕訳

 法人の場合は預貯金の利子を受け取っても資産を売却してもそれらの所得を分けることはしませんが、個人の場合は所得を10種類(利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得・譲渡所得・一時所得・雑所得)に区分します。このことに起因して、個人事業主の仕訳には法人と異なる特有のものがあります。
 今回は、事業所得・不動産所得を前提として、個人事業主特有の主な仕訳について確認します。

1.預貯金の利子を受け取ったとき

 法人の預貯金口座に利息がついたときの貸方勘定科目は「受取利息」になりますが、個人事業主の場合は「事業主借」で会計処理をします。
 これは、所得税法上は、預貯金の利息は事業所得・不動産所得ではなく「利子所得」に区分されるからです。「受取利息」で仕訳をすると預貯金の利息が事業所得・不動産所得の収入金額となってしまいますので、「事業主借」で仕訳をして事業所得・不動産所得の計算に預貯金利息を反映させないようにします。
 また、個人事業主の事業用預貯金口座の通帳に記載されている利息は、次の税金が差し引かれた後の金額です(法人の場合は(1)だけです)。

(1) 所得税及び復興特別所得税:15.315%
(2) 道府県民税利子割:5%

 例えば、事業用の普通預金口座の通帳に1,000円の利息が記載されている場合は、(1)と(2)の合計20.315%の税金が差し引かれていますので、利息総額は1,000÷(1-0.20315)≒1,254円となり、源泉税は1,254×0.20315≒254円となります。
 したがって、個人事業主の受取利息の仕訳は次のようになります(※貸方・事業主借の消費税課税区分は「非課税売上」です)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 1,000 事業主借※ 1,254
事業主貸 254    

2.事業用資産を売却したとき

 法人が事業用資産を売却して利益が出たときの貸方勘定科目は「固定資産売却益」、損失が出たときの借方勘定科目は「固定資産売却損」になりますが、個人事業主の場合は「事業主借」「事業主貸」で会計処理をします。
 これは上記1と同じ理由で、所得税法上は、資産の売却損益は事業所得・不動産所得ではなく「譲渡所得」に区分されるからです。「固定資産売却益」「固定資産売却損」で仕訳をすると事業所得・不動産所得の損益に影響を及ぼしますので、「事業主借」「事業主貸」で仕訳をして事業所得・不動産所得の計算に資産売却損益を反映させないようにします。
 例えば、事業用の車両(簿価30万円、リサイクル預託金1万円)を現金50万円で売却したときの仕訳は次のようになります(消費税課税区分は、49万円が「課税売上」、1万円が「非課税売上(5%)」、会計ソフトによって入力方法が異なります)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金 500,000 車両運搬具 300,000
    リサイクル預託金 10,000
    事業主借 190,000

3.還付加算金を受け取ったとき

 法人が法人税の還付加算金を受け取ったときは貸方勘定科目は「雑収入」になりますが、個人事業主が所得税の還付加算金を受け取ったときは「事業主借」で会計処理をします。
 これも上記1及び2と同じ理由です。還付加算金は事業所得・不動産所得ではなく「雑所得」に区分されます。「雑収入」で処理すると事業所得・不動産所得の収入金額になってしまいますので、「事業主借」で仕訳をして事業所得・不動産所得の所得計算から還付加算金を除外します。
 例えば、所得税の還付加算金15円が普通預金に入金されたときの仕訳は次のようになります(※貸方・事業主借の消費税課税区分は「不課税(対象外)」です)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 15 事業主借※ 15

所得税還付申告書を提出できる期間とその最終日とは?

1.還付申告書の提出期間は5年間

 所得税の還付申告については、国税庁ホームページ(No.2030 還付申告)に次のように記載されています。

 確定申告書を提出する義務のない人でも、給与等から源泉徴収された所得税額や予定納税をした所得税額が年間の所得金額について計算した所得税額よりも多いときは、確定申告をすることによって、納め過ぎの所得税の還付を受けることができます。この申告を還付申告といいます。
 還付申告書は、確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます。


 還付申告書を提出できる期間が5年間であることは、上記のように国税庁ホームページに明記されています。
 では、例えば2021(令和3)年分の所得税還付申告書を提出できる最終日はいつになるのでしょうか?
 答えは、①2027(令和9)年3月15日、②2027(令和9)年1月1日、③2026(令和8)年12月31日のいずれかです。

2.「期間」の起算日と満了日

 還付申告書を提出できる「期間」は5年間です。「期間」とは、ある時点から別の時点までの継続した時の区分をいいます。
 「期間」においては、それがいつ始まりいつ終わるのかをしっかり認識することが重要です。
 国税に関する法律では、日、月又は年をもって定める「期間」の計算は、次により行うこととされています。

(1) 起算日
 「期間」の計算をする場合、期間の初日は算入しないで、翌日を起算日とするのが原則です(国税通則法10条1項一本文)。ただし、期間が午前0時から始まるとき、又は特に初日を算入する旨の定めがあるときは、初日を起算日とします(国税通則法10条1項一ただし書)。

(2) 満了日
 「期間」が月又は年をもって定められているときは、暦に従って計算します(国税通則法10条1項二)。
 暦に従うとは、1か月を30日とか31日とか、1年を365日というように日に換算して計算することではなく、例えば1か月の場合は翌日の起算日に応当する日(以下「応当日」といいます)の前日を、1年の場合は翌年の起算日の応当日の前日を、それぞれの期間の末日として計算するということです。
 したがって、満了日は次のようになります。

① 月又は年の始めから期間を起算するときは、最後の月又は年の末日の終了時点が満了日となります。
 したがって、例えば1月1日を起算日とした場合の1か月の終了時点は1月31日となりますが、2月1日を起算日とした場合は2月28日(又は29日)が終了時点ということになります。

② 月又は年の始めから期間を起算しないときは、最後の月又は年において起算日の応当日の前日の終了時点が満了日となります(国税通則法10条1項三本文)。この場合、最後の月に応当日がないときは、その月の末日の終了時点が満了日となります(国税通則法10条1項三ただし書)。
 したがって、例えば1月31日を起算日とする場合、応当日は2月31日になり応当日の前日は2月30日ということになりますが、そのような日は存在しませんので2月28日(又は2月29日)が満了日になります。

3.所得税還付申告書を提出できる最終日は?

 では、2021(令和3)年分の所得税還付申告書を提出できる最終日はいつになるのでしょうか?
 国税庁ホームページにあるように、還付申告書は確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます。
 すなわち、5年間という「期間」の起算日は、法定申告期限とは関係なく、申告書を提出できる2022(令和4)年1月1日ということです(国税通則法74条1項)。この点で、解答候補の①2027(令和9)年3月15日は不正解になります。
 また、起算日が2022(令和4)年1月1日ですので5年後の応当日は2027(令和9)年1月1日になりますが、満了日は応当日の前日である2026(令和8)年12月31日になります。この点で、解答候補の②2027(令和9)年1月1日も不正解になります。
 したがって、2021(令和3)年分の所得税還付申告書を提出できる最終日は、2026(令和8)年12月31日になります(③が正解です)。
 なお、申告「期限」ではないので、満了日が土日祝日であってもその翌日とはならない点に注意が必要です。

4.個人の消費税還付申告書を提出できる最終日は?

 個人の消費税及び地方消費税の場合も、還付申告書を提出できる期間は、申告書を提出できる日から起算して5年間です(国税通則法74条1項)。
 したがって、2021(令和3)年分の消費税及び地方消費税の還付申告書は2022(令和4)年1月1日から提出できますので、最終日はその5年後の応当日の前日である2026(令和8)年12月31日になります。

不動産貸付の事業的規模と業務的規模における経費の取扱いの違い

1.規模により異なる取扱い

 不動産所得の計算上、 不動産の貸付けが事業と称するに足りる規模(事業的規模)で営まれているか否かによって、経費の取扱いに差異が設けられています。差異のある主な項目は、次のとおりです。

(1) 資産損失(取壊し、除却、滅失等)
(2) 資産損失(災害等)
(3) 貸倒損失
(4) 貸倒引当金
(5) 青色事業専従者給与
(6) 事業専従者控除
(7) 青色申告特別控除
(8) 確定申告における延納に係る利子税 など

 これらの取扱いについては、不動産所得を生ずべき業務が事業的規模として行われている場合にのみ認められるものや、事業と称するに足りない規模(業務的規模)で行われている場合には制限がかかるものもあります。
 したがって、事業的規模と業務的規模による取扱いの差異を把握することは、不動産所得の計算上、適用誤りを防ぐためにも必要です。
 なお、事業的規模と業務的規模の判定については、本ブログ記事「土地の貸付けの事業的規模の判定基準」をご参照ください。

2.主な取扱いの差異

 上記1の8項目について、事業的規模と業務的規模における経費の取扱いの差異を一覧表にします。

項目 事業的規模 業務的規模
資産損失(取壊し、除却、滅失等)
※所法51①④
損失の金額(原価ベース)の全額を、損失の生じた年分の必要経費に算入する。 損失の金額(原価ベース)を、損失の生じた年分の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入する。
資産損失(災害等)
※所法70②③、72①
同上
他に被災事業用資産の損失の繰越控除を適用できる。
上記との選択により、雑損控除の対象とすることもできる。
貸倒損失
※所法51②、64①
賃貸料等の貸倒れによる損失は、貸倒れが生じた年分の必要経費に算入する。 賃貸料等の回収不能による損失は、その収入が生じた年分に遡って収入金額がなかったものとみなす。
なかったものとみなされる収入金額は、次のうち最も低い金額となる(所令180②、所基通64-2の2)。
①回収不能額
②所法64条適用前の課税標準の合計額
③②の計算の基礎とされた不動産所得の金額
貸倒引当金
※所法52①②、所令144,145
その年の12月31日において、貸金等に係る損失の見込額として一定の金額を必要経費として算入することができる。 適用なし。
青色事業専従者給与
※所法57①
青色事業専従者に支払った給与のうち労務の対価として相当なものは、その年分の必要経費に算入する。 適用なし。
事業専従者控除
※所法57③
専従者1人につき最高50万円(配偶者である専従者については86万円)を必要経費に算入する。 適用なし。
青色申告特別控除
※措法25の2①③
一定の要件を満たす場合には、最高65万円の控除を受けられる。 最高10万円の控除しか受けることができない。
延納に係る利子税
※所法45①二、所令97①一
不動産所得の金額に対応する部分は、必要経費に算入する。 適用なし。

 事業的規模と業務的規模における経費の取扱いの差異は上表のとおりですが、青色申告者は注意しなければならない点があります。業務的規模の場合の青色申告特別控除額が10万円であることはよく知られていますが、青色事業専従者給与について適用がないことは意外な盲点かもしれません。適用誤りがないようにご注意ください。

※ 不動産貸付けが業務的規模の場合でも、65万円控除を受けられる場合があります。詳しくは、本ブログ記事「建物・土地の貸付けの事業的規模の判定と65万円控除」をご参照ください。

土地の貸付けの事業的規模の判定基準

 不動産所得の計算上、 不動産の貸付けが事業と称するに足りる規模(事業的規模)で営まれているか否かによって、次の経費の取扱いに差異が設けられています。

(1) 資産損失
(2) 貸倒損失
(3) 貸倒引当金
(4) 青色事業専従者給与
(5) 事業専従者控除
(6) 青色申告特別控除
(7) 確定申告における延納に係る利子税 など

 これらの取扱いについては、不動産所得を生ずべき業務が事業的規模として行われている場合は、事業と称するに足りない規模(業務的規模)で行われている場合よりも有利になります(取扱いの差異については、本ブログ記事「不動産貸付の事業的規模と業務的規模における経費の取扱いの違い」をご参照ください)。したがって、不動産の貸付けが事業的規模であるか業務的規模であるかの判定は、不動産所得を計算するうえで非常に重要です。
 今回は、不動産の貸付けが事業的規模であるか否かの判定基準について確認します。

1.建物の貸付けの判定基準(形式基準)

 不動産の貸付けが事業と称するに足りる規模(事業的規模)で営まれているか否かのうち、建物の貸付けについては、所得税基本通達26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)で次のように規定されています。

26-9 建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。


 これは、いわゆる5棟10室基準と呼ばれるもので、この形式基準を満たす場合は不動産の貸付けが事業として行われているものとされます。課税実務上比較的容易に認定し得る貸付の規模を明らかにしたものといえます。

 建物の貸付けについては、上記の所得税基本通達26-9に判定基準が定められていますが、土地の貸付けについては、所得税基本通達に定めがありません。
 しかし、土地の貸付けの判定基準についても、国税庁では下記のような取扱いを公表しています(審理専門官情報第23号 大阪国税局個人課税審理専門官 平成19年1月26日質疑事例0108-1)。

2.土地の貸付けの判定基準(形式基準)

 国税庁で公表されている質疑事例0108-1各種所得の区分と計算(事例1-8 土地を貸し付けている場合の事業的規模の判定)は次のとおりです。実務上はこれを参考にすることになります。

[質疑内容]
 土地の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかの判定はどのように行うのか。
[回答]
 土地の貸付けが事業として行われているかどうかの判定は、次のように行われる。
① 土地の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうか は、第一義的には、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で土地の貸付けが行われているかどうかにより判定する。
② その判定が困難な場合は、所基通26-9に掲げる建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定の場合の形式基準(これに類する事情があると認められる場合を含む。)を参考として判定する。この場合、①貸室1室及び貸地1件当たりのそれぞれの平均的賃貸料の比、②貸室1室及び貸地1件当たりの維持・管理及び債権管理に関する役務提供の程度等を考慮し、地域の実情及び個々の実態に応じ、1室の貸付けに相当する土地の貸付件数を、「おおむね5」として判定する。
 なお、具体的な判定に当たっては、次の点にも留意する。
・同一の者(その者と生計を一にする親族を含む。以下同じ。)に対して駐車場を2以上貸し付けている場合は、「土地の貸付け1件」として判定する。
・同一の者に対して建物を貸し付けるとともに駐車場を貸し付けている場合(駐車場については2以上貸し付けているときを含む。)は、「建物の貸付け1件」として判定する。また、貸付物件が2以上の者の共有とされている場合等の判定については、共有持分であん分した室数又は棟数によるのではなく、実際の(全体の)室数又は棟数によることにも留意する。


 土地の事業的規模の判定は、1室の貸付けに相当する土地の契約件数をおおむね5件として判定します。
 例えば、貸室数が2室と貸地の契約件数が45件の場合、貸室2室+(貸地45件÷5=9)=11室≧10室となり、事業的規模と判定されます。
 貸家2棟と貸地の契約件数が45件の場合は、 5棟10室基準に満たないので事業的規模ではなく業務的規模と判定されます。

3.実質基準による判定

 不動産の貸付けが事業的規模であるか否かの判定は、形式的には上記のように行います。
 しかし、所得税基本通達26-9の冒頭にあるように、建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、5棟10室という数値基準だけにとらわれず、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で貸付けを行っているかどうかという点(実質基準)からも判定されなければなりません。
 この点については、相続税の事例ではありますが、東京地裁平成7年6月30日判決が参考になります。
 この判決を要約すると、①不動産貸付けが事業といえるためには事業所得を生ずる事業と同程度の役務提供は要求されないこと、②専らその規模の大小(貸付件数)によってのみ事業性の判断がされるべきものとは解し得ないこと、③いわゆる5棟10室基準は一定以上の規模を有することを示す形式的な基準であってこの基準が必要条件ではないこと等の考えを裁判所は示しています。
 そのうえで、不動産貸付けが事業に当たるかどうかは、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における事業遂行性の有無、その取引に費やした精神的肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して社会通念上事業といい得るかどうかによって判断すべきとしています。この考え方は、所得税基本通達26-9にも通ずるものといえます。
 形式基準を満たさなくても、実質基準により事業的規模と判定された裁決例もあります(昭和52年1月27日裁決)。詳しくは本ブログ記事「5棟10室未満でも不動産貸付が事業的規模とされた事例」をご参照ください。

5棟10室未満でも不動産貸付が事業的規模とされた事例

1.実質基準と形式基準

 所得税基本通達 26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定) によると、不動産の貸付けが事業的規模であるか否かの判定は、原則として、社会通念上事業と称する程度の規模で行われているかどうかにより判断しますが(実質基準)、次のいずれかに該当する場合は、特に反証がない限り、事業として行われているものとされます(形式基準)。

(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること

 なお、実質基準として、賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみて、上記の形式基準に準じる事情があると認められる場合には、事業的規模として取り扱われます。
 これは、いわゆる5棟10室基準を満たさなくても、賃貸収入が比較的多額で、かつ、不動産管理に係る役務の提供の事務量を相当要するような場合には、事実認定による判定も可能ということです。
 ところが、この実質基準での判定は、事業所得としての性質として掲げられる営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における事業遂行性の有無、その取引に費やした精神的肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、その取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して判断することになりますので、社会通念上事業といい得るためのハードルは高いといえます(平成19年12月4日裁決)。

 しかし、5棟10室基準を満たさなくても、実質基準により不動産の貸付けが事業的規模と判定された裁決事例(昭和52年1月27日裁決)があります。
 争点は、納税者(請求人)の不動産貸付は、不動産の貸付けの規模(貸家2件、貸地45件)及び貸付不動産の維持管理等の状況からみて、事業と称すべき規模に該当するか否かという点です。
 以下で、この裁決事例における納税者と原処分庁の主張、審判所の判断についてそれぞれみていきます。

2.昭和52年1月27日裁決

(1) 納税者の主張

① 請求人(納税者)は、不動産収入(地代45件、家賃2件)を得るために、賃貸料の算定、約定、更新等の折衝及び集金のほか、無断増改築、転貸、境界争い等の問題の処理等、貸付不動産の維持、管理に必要な業務を行っており、その業務は単なる付随業務ではなく、主業としての事業である。
② 請求人は地方公務員であるため、母が上記不動産業務のうち、日常業務を手伝っている。

(2) 原処分庁の主張

 不動産の貸付けが、不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかのうち建物については、所得税基本通達26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)に、おおむね5棟以上の貸付けを事業とする旨定めているが、土地の貸付けについては、所得税基本通達に定めがなく、また、地代収入は、いわゆる投資の回収である家賃収入とは異なるものである。
 請求人の場合、建物の貸付けは2棟であり、貸付土地の管理状況からみても、不動産の貸付けが事業として行われているものと認められない。

(3) 審判所の判断

 請求人の不動産貸付けが、所得税法第57条第1項に規定する不動産所得を生ずべき事業に当たるかどうかについては、その業務が社会通念上事業と称するに至る程度の規模、すなわち、賃貸料の収入状況、貸付不動産の管理状況等からみて、客観的に事業と認められる程度の規模かどうかによって判断するのが相当であるので、その実態について調査審理したところ、次のとおりである。

イ 貸付不動産である貸家2件及び貸地45件は、請求人の現住所と離れたB県内のC、D、E、Fの4区に散在しているので、近隣地の不動産貸付けとは、その実態を異にすると認められる。
ロ 当該不動産貸付けの業務の内容をみると、次のとおりである。
(イ) 貸付不動産の賃貸料については、その固定資産税、管理費、減価償却費等所要の経費を償ってなお相当の利益が生じる程度の金額によって契約し、固定資産税の評価額の改訂に伴い、賃貸料の値上交渉をして契約を改訂し、また、大半の貸付先について継続的に賃貸料の集金をしているなどの事実が認められる。
(ロ) 当該貸付不動産に係る名義書換及び契約更新の交渉、無断増改築及び転貸等の問題の処理、不払賃貸料の回収等には、永年の経験と知識が必要であると認められる。
(ハ) 請求人は、当該貸付不動産の維持、管理の状況を明らかにするため、毎月収支明細表を作成した上、資金の収支を具体的に整然、かつ、明瞭に記録して、財務的管理を行っている事実が認められる。

 以上の諸事実によれば、請求人の不動産貸付けは、社会通念上、不動産所得を生ずべき事業に当たると認めるのが相当であるとして、審判所は納税者の主張を認容しました。貸家等の件数が5棟10室基準を下回っていたとしても、貸付不動産の維持管理等の状況から事業性が認められた裁決事例となりました。

株主優待券の所得税の課税関係

 株式を保有する人は、株式の値上がりによる売却益を期待したり、配当を受け取ったりすること以外に、株主の特典である株主優待を受けることができます。中には、株主優待で生活をしている人もいるそうですが、株主が受け取る株主優待券に所得税はかからないのでしょうか?
 今回は、株主優待券の課税関係について確認します。

1.配当所得に株主優待券は含まれる?

 配当所得とは、以下に掲げるように、株主や出資者が法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、投資信託及び投資法人に関する法律第137条の金銭の分配、基金利息並びに投資信託及び特定受益証券発行信託の収益の分配に係る所得をいいます(所得税法第24条第1項)。

① 法人から受ける剰余金の配当(例:決算配当、中間配当金)
② 法人から受ける利益の配当(例:決算配当、中間配当金)
③ 剰余金の分配(例:農業協同組合等から受ける出資に対する剰余金の配当金)
④ 投資法人から受ける金銭の分配
⑤ 基金利息(例:相互保険会社の基金に対する利息)
⑥ 投資信託の収益の分配(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除く)
⑦ 特定受益証券発行信託の収益の分配

 また、配当所得については、所得税基本通達24-1(剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配に含まれるもの)において、次のように規定されています。

24-1 法第24条第1項に規定する「剰余金の配当」、「利益の配当」及び「剰余金の分配」には、剰余金又は利益の処分により配当又は分配をしたものだけでなく、法人が株主等に対しその株主等である地位に基づいて供与した経済的な利益が含まれる。

 ここで気になるのは、この基本通達の「その株主等である地位に基づいて供与した経済的な利益」という部分です。この部分の文言からすぐに思い起こされるのは株主優待券ですが、株主優待券も配当所得に含まれるのでしょうか?

 これに関しては、所得税基本通達24-2(配当等に含まれないもの)で、次のように規定されています。

24-2 法人が株主等に対してその株主等である地位に基づいて供与した経済的な利益であっても、法人の利益の有無にかかわらず供与することとしている次に掲げるようなもの(これらのものに代えて他の物品又は金銭の交付を受けることができることとなっている場合における当該物品又は金銭を含む。)は、法人が剰余金又は利益の処分として取り扱わない限り、配当等(法第24条第1項に規定する配当等をいう。以下同じ。)には含まれないものとする。

(1) 旅客運送業を営む法人が自己の交通機関を利用させるために交付する株主優待乗車券等
(2) 映画、演劇等の興行業を営む法人が自己の興行場等において上映する映画の鑑賞等をさせるために交付する株主優待入場券等
(3) ホテル、旅館業等を営む法人が自己の施設を利用させるために交付する株主優待施設利用券等
(4) 法人が自己の製品等の値引販売を行うことにより供与する利益
(5) 法人が創業記念、増資記念等に際して交付する記念品


 基本通達24-2において、 法人の利益の有無にかかわらず供与される株主優待券は、配当所得に含まれないことが明記されています。配当所得に含まれないのであれば、確定申告は不要でしょうか?

2.株主優待券は雑所得

 上記基本通達24-2には、次のような注意書きがあります。

(注) 上記に掲げる配当等に含まれない経済的な利益で個人である株主等が受けるものは、法第35条第1項《雑所得》に規定する雑所得に該当し、配当控除の対象とはならない。

 つまり、株主優待券は配当所得ではありませんが、雑所得に該当するということです。したがって、原則として確定申告が必要ですが、確定申告が不要の場合もあります。確定申告不要制度については、本ブログ記事「給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度の注意点」をご参照ください。




弁護士が従事する無料法律相談の日当の所得区分は?

1.事業所得か給与所得か

 所得税では、所得が10種類(利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得・譲渡所得・一時所得・雑所得)に区分されています。これら10種類の所得の中には、どの所得に該当するかの判断が実務上難しく、容易に判断がつかないものもあります。
 この所得区分が争われた例として、京都地裁平成20年10月21日判決(税務訴訟資料 第258号-197(順号11055))があります(参考:国税庁ホームページ税務訴訟資料)。
 これは、弁護士である原告が、同人の所属するA弁護士会法律相談センターの行う無料法律相談業務に従事した対価としてA弁護士会から支給された日当を給与所得として確定申告したところ、これを事業所得であるとして右京税務署長(被告)から更正処分を受けたため、その取消しを求めた事案です。
 争点は、本件日当が事業所得に当たるか給与所得に当たるかですが、結論を先に述べると、本件日当は事業所得に該当すると判断されました。
 以下では、被告の主張、原告の主張、裁判所の判断を見ていきます。

2.京都地裁平成20年10月21日判決

(1) 原処分庁(被告)の主張

ア 原告は、直接的にはA弁護士会法律相談センター規程(以下「本件規程」という)に基づく法律相談センターの指定により本件相談業務に従事したものであるが、本件規程はA弁護士会の総会により改廃できるものであり、原告はA弁護士会の会員として本件規程の適用を受けるものであるから、原告は、雇用契約又はこれに類する関係に基づき労務を提供したものではない。

イ 本件規程が定める法律相談に当たっての遵守事項は、一般的な指導監督にすぎず、A弁護士会は、原告に対し、法律相談の内容については何ら指揮命令をしていない。
 また、指定された相談担当日に差支えを生じた場合には交代も可能であり、原告が本件相談業務に従事する際にA弁護士会から受けている空間的、場所的拘束は極めて希薄である。
 したがって、原告は、A弁護士会の指揮命令に従って労務を提供したとはいえない。

ウ 原告は、弁護士としての公益的使命の実現のため、弁護士法並びにこれを受けて定められたA弁護士会会則(以下「本件会則」という)及び本件規程の規定に基づき本件相談業務に従事して、本件日当の支給を受けたものであるから、本件相談業務は、原告の計算と危険において独立して営まれたものであり、本件日当は、事業所得に当たる。

(2) 納税者(原告)の主張

ア 原告が、法律相談名簿への登載を受けた上で法律相談を担当することは、強制加入団体であるA弁護士会の本件会則上の義務として定められており、原告には、原則として諾否の自由はない。
 そして、原告は、本件相談業務に従事するに当たり、A弁護士会から特定の場所・日時を指定され、京都府及び京都市の職員がその設備を用いて運営する会場において、本件規程に定められた遵守事項に従いつつ、1件当たり20分で法律相談に応じることが求められており、その対価として支給される日当は、相談件数にかかわらず、定額である。
 したがって、本件日当は、A弁護士会又は京都府及び京都市から空間的、時間的な拘束を受け、その指揮命令の下に提供した労務の対価として支給されたものというべきである。

イ 所得税基本通達28-9の2(医師又は歯科医師が支給を受ける休日、夜間診療の委嘱料)は、医師又は歯科医師が、地方公共団体等の開設する救急センター、病院等において休日、祭日又は夜間に診療等を行うことにより地方公共団体等から支給を受ける委嘱料等は、給与等に該当するとしている。
 本件日当は、上記の委嘱料等と構造が類似する

ウ 財団法人Bの全国の支部においては、法律相談日当について、給与所得として源泉徴収がされている。

エ したがって、本件日当は、給与所得に当たる。

(3) 裁判所の判断

① 本件日当は、A弁護士会の会員である原告が、同会の会員らの総意により、弁護士の使命を達成するための公益的活動の一環である無料法律相談活動を行うための規律として自治的に定められた本件規程の規定に従い、無料法律相談業務に従事した対価として、A弁護士会から原告に対し支給されたものであると認められるから、その給付の原因であるA弁護士会と原告との間の法律関係は、雇用契約又はこれに類する支配従属関係ではないことが明らかである。
 したがって、本件日当は、「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」に当たらないというべきである。

② 地方公共団体等の開設する休日急病診療所等において休日診療等を担当した医師等に対する報酬の支払者とその支払を受ける診療担当医師等との間の法律関係及び財団法人Bにおいて交通相談業務を担当した弁護士に対する日当の支払者である同財団法人と相談担当弁護士との間の法律関係は、本件相談業務に関する原告とA弁護士会との間の法律関係と異なり、会員間の自治的な取り決めに基礎をおくものであるとは認められないから、これらの報酬又は日当と比較して本件日当の性格を論ずることは、その前提を欠き失当である。

③ 以上によれば、本件日当は、給与所得には当たらず、弁護士がその計算と危険において独立して行う業務から生じた所得であって、・・・事業所得に当たるというべきである。

(4) 論点整理

 事業所得と給与所得の区分については、最高裁が「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示しています(最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁)。

 原告は、この最高裁判決における「空間的、時間的な拘束」を論拠として本件日当を給与所得であると主張しました。
 これに対し裁判所は、弁護士会会則に基づく法律相談等への従事義務は雇用契約又はこれに類する支配従属関係ではないとして、原告の主張を認めませんでした。「空間的、時間的な拘束」の前提である「雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価」に該当するかどうかの検討が必要であったと思われます。
 また、「空間的、時間的な拘束」については、控訴審(大阪高裁平成21年4月22日判決)において、「無料法律相談の執行方法や態様の決定、対価額の決定については、その主催者等が一定の枠組みを設ける必要があるため、担当弁護士の随意が制限されていることは間違いないけれども、自治体が住民に無料法律相談サービスを提供するには、相談の日時、場所、時間、相談内容の範囲等の大枠を設けることは不可欠であり、この枠踏みに従って担当弁護士が執務すべきことは当然のことであるから、この枠組みが設定されていることが、無料法律相談所で弁護士の行う法律相談業務の事業性を損なうものとはいえない。」と補足しています。
 
 原告の主張のもう一つの論拠は、 所得税基本通達28-9の2(医師又は歯科医師が支給を受ける休日、夜間診療の委嘱料) の取扱いが本件日当についても類似例として当てはまる、というものでした。
 これに対し裁判所は、休日診療等に対する報酬の支払者とその支払いを受ける医師等との間の法律関係は、本件相談業務に関する原告と弁護士会との間の法律関係とは異なるとして、 原告の主張を認めませんでした。
 裁判所が認定した事実を基に、弁護士会の法律相談センターにおける弁護士の法律相談と、地方公共団体等の開設する休日診療所等における医師等の休日診療等の法律関係を比較すると、次のようになります。

 原告が類似例として主張の論拠とした所得税基本通達28-9の2(医師又は歯科医師が支給を受ける休日、夜間診療の委嘱料等)には、次のように給与所得に当たるものが例示されています。

28-9の2 医師又は歯科医師が、地方公共団体等の開設する救急センター、病院等において休日、祭日又は夜間に診療等を行うことにより地方公共団体等から支給を受ける委嘱料等は、給与等に該当する。(昭55直所3-19、直法6-8追加)

 医師又は歯科医師が、 地方公共団体等の開設する救急センター 等において行う休日診療等には、以下の特徴があります。

① これらの救急センター等備付けの人的、物的施設を使用する。
② 救急センター等の医薬品を投与する。
③ 当該診療等に係る報酬は当該救急センター等に帰属する。
④ 当該診療等に従事する医師又は歯科医師には、当該救急センター等から一定の報酬が支給されることが多い。
⑤ 派遣契約においては、被派遣者は派遣先の指揮命令に服することとなる。

 上記通達は、このような休日、夜間診療等の委嘱料の実態を前提に、当該委嘱料は給与所得に該当することを明らかにしています。
 本件における原告の主張には、弁護士会の無料法律相談と医師等の休日診療等との異同につき、従事者と主催団体との法律関係など業務の具体的態様に対する検討が必要であったと思われます。

※ 参考:本ブログ記事「外注費か給与か・・・国税庁の判断基準

所得税の修正申告をした場合の予定納税

1.所得税の予定納税とは?

 その年の5月15日現在において確定している前年分の所得金額や税額などを基に計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上である場合、その年の所得税及び復興特別所得税の一部をあらかじめ納付するという制度があります。この制度を予定納税といいます。
 予定納税は、予定納税基準額の3分の1の金額を、第1期分として7月1日から7月31日までに、第2期分として11月1日から11月30日までに納めることになっています(特別農業所得者以外)。
 例えば、予定納税基準額が15万円の場合は、第1期分5万円を7月31日までに、第2期分5万円を11月30日までに納付しなければなりません。予定納税基準額が15万円未満の場合は、予定納税の必要はありません。
 なお、予定納税額は、所轄の税務署長から、原則としてその年の6月15日までに書面で通知されます。

2.修正申告により予定納税基準額が15万円以上になった場合は?

 当初の確定申告では、予定納税基準額が15万円未満だったために予定納税の必要が無かったところ、その後に修正申告をしたために予定納税基準額が15万円以上になったとします。この場合は、新たに予定納税をする必要があるのでしょうか?
 例えば、その年の9月に修正申告をした結果、予定納税基準額が15万円になったとします。この場合、第1期分5万円の納期限は過ぎていますので、第1期分と第2期分の合計額10万円を第2期分の納期限である11月30日までに納付するのでしょうか?
 それとも、第1期分を無視して第2期分5万円だけを11月30日までに納付するのでしょうか?
 また、その年の12月に修正申告をして予定納税基準額が15万円以上になった場合は、すでに第1期分と第2期分の納期限が過ぎていますので、予定納税は修正申告後に速やかに行うのでしょうか?

 答えは「その年の5月15日後(5月16日以後)に行った修正申告により予定納税基準額が15万円以上になったとしても、予定納税の必要はない」ということです。

 冒頭で述べたように、 その年の5月15日現在において確定している前年分の所得金額や税額などを基に計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上である場合に、予定納税が必要です。
 国税庁ホームページ法令解釈通達105-1では、予定納税基準額の計算の基準日について、次のように定めています。

105-1 所得税法第105条に規定する「その年5月15日において確定しているところ」とは、確定申告若しくは修正申告又は更正若しくは決定等の処分によりその年5月15日において定まっているところをいうのであるから、確定申告に対して更正の請求がされ、又は更正若しくは決定等の処分に対して再調査の請求若しくは審査請求等がされている場合においても、その判定をすべき日までにあった確定申告若しくは修正申告又は更正若しくは決定等のうち、最終のものにより定まっているところによるべきことに留意する。

 つまり、その年の5月15日までに行った修正申告については予定納税基準額の計算に反映されますが、5月15日を過ぎて行った修正申告については予定納税基準額の計算に 反映されないということです。

中古建物を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却費の計算

 勤め先の転勤辞令により、それまで住んでいた自宅を賃貸に出すことがあります。この場合、賃貸人には不動産所得が生じることになりますが、不動産所得の計算上、賃貸している自宅の減価償却費は必要経費に算入することができます。
 今回は、自身の居住用(非業務用)から賃貸用(業務用)へ転用した場合の減価償却費の計算方法を確認しますが、その中でも複雑な計算を要する中古で取得した建物を非業務用から業務用に転用した場合を例に挙げます。

※ 新規取得資産のケースについては、本ブログ記事「自家用車を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却費の計算」をご参照ください。

1.中古取得資産を業務用に転用した場合の減価償却費の計算

 中古で取得した建物を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却費の計算には、2つのステップが必要です。次の設例により、計算方法を確認します。

【設例】
 2014(平成26)年1月10日に中古の建物(木造)を購入し居住の用に供していましたが、転勤のため、当該建物を2021(令和3)年4月1日から賃貸(住宅用)することにしました。この場合の2021(令和3)年分の減価償却費の計算はどうなりますか。

 ・中古の建物は、2007(平成19)年6月10日に新築されたものである。
 ・中古の建物の取得価額は2,000万円
 ・木造(住宅用)の法定耐用年数 22年

 

(1) 業務用に転用した日における未償却残高

① 非業務用期間中の耐用年数と償却率
法定耐用年数の1.5倍に相当する年数※1及び償却率※2を求めます。
 22年×1.5=33年→0.031
※1 1年未満の端数があるときは切り捨てます。
※2 償却率は、旧定額法の償却率を適用します(非業務用資産の減価の額の計算 は、2007(平成19)年4月1日以後に取得した資産であっても、旧定額法により計算することとなります)

② 非業務用期間中の減価の額
非業務用期間における減価の額を旧定額法で計算します。
2014(平成26)年1月10日から2021(令和3)年3月31日まで→7年2か月と22日→7年
 20,000,000円×0.9×0.031×7年=3,906,000円
※ 非業務用期間に係る年数に1年未満の端数があるときは、6月以上の端数は1年とし、6月に満たない端数は切り捨てます。

③ 業務用に転用した日における未償却残高
 20,000,000円-3,906,000円=16,094,000円

(2) 業務用に転用後の減価償却費の計算

① 業務用に転用後の耐用年数と償却率
業務用に転用後の耐用年数は、今後の使用可能期間の年数を合理的に見積もることができれば、その見積年数を耐用年数として計算しますが、今後の使用可能期間の年数を合理的に見積もることが困難な場合には、次のように簡便法により計算します。

イ.経過年数
2007(平成19)年6月10日から2014(平成26)年1月9日まで→6年7か月→79か月
※ 経過年数には、2014(平成26)年1月10日から2021(令和3)年3月31日までの期間(非業務用期間)は含めません。

ロ.転用後の耐用年数(簡便法による耐用年数)
(264か月(法定耐用年数22年)-79か月(経過年数))+79か月(経過年数)×0.2=200.8か月→16.7年→16年
※ 1年未満の端数の切捨ては、最後に行います。

ハ.転用後の償却率
16年→0.063
※ 2014(平成26)年1月10日取得のため定額法の償却率となります。

② 業務用に転用後の減価償却費
 20,000,000円×0.063×9/12=945,000円
なお、2021(令和3)年12月31日の未償却残高は次のとおりです。
 16,094,000円-945,000円=15,149,000円

2.中古取得資産を業務用に転用した場合の減価償却の注意点

(1) 中古住宅の築後経過年数を計算するときの「取得の日」は、売買契約の締結の日ではなく引渡しの日をいいます。

(2) すぐ貸せる状態の貸家について、未入居という理由で減価償却費を計上できないことはありません。貸家をいつでも入居できる状態に整備し、入居者募集の広告も出して入居者にいつでも引き渡せる状態であれば、その年中に結果として入居者がいなかったとしても、業務の用に供したとして減価償却費を計上することができます。

(3) 今回は中古で取得した住宅を例に減価償却費の計算方法を確認しましたが、例えば、自家用車(非業務用)を事業用(業務用)に転用した場合なども同様の計算となります。

築年数20年超の中古住宅は耐震基準適合証明書でローン控除を受ける

 住宅借入金等特別控除(いわゆる住宅ローン控除)は、中古住宅の購入でも適用があります。しかし、築年数が20年(マンションなどの耐火建築物の建物の場合には25年)を超えているという理由で、住宅ローン控除の適用をあきらめる人もいます。
 築年数が20年を超えていても住宅ローン控除の適用を受ける方法はあり、その一つが耐震基準適合証明書を取得するというものです。
 耐震基準適合証明書を取得するメリットは住宅ローン控除だけではなく、登録免許税や不動産取得税、地震保険料などが安くなる等のメリットもありますので、耐震基準適合証明書の取得を検討する価値はあると思います。
 以下では、耐震基準適合証明書を取得して住宅ローン控除を受ける手続きについて確認します。

1.手続きの流れ

 耐震基準適合証明書とは、建物の耐震性が基準を満たすことを建築士等が証明する書類です。築年数が20年を超えている中古住宅について住宅ローン控除の適用を受けるにあたっては、この耐震基準適合証明書を取得するタイミングを間違うと住宅ローン控除を受けることができなくなりますので、注意しなければなりません。
 築年数20年超の木造一戸建ての場合、耐震基準適合証明書の取得には耐震改修工事が必要になる可能性が高いので、上図の手続きの流れA又はBになるものと思われます。
 以下、手続きの流れを説明します。

【手続きの流れA】
① 現行の耐震基準に適合しない中古住宅の売買契約を締結します。
② 当該中古住宅について、建築士、指定確認検査機関、登録住宅性能評価機関等に対して、耐震基準適合証明の仮申請(耐震改修工事を行う事業者が確定していない等の理由により、所有権移転登記までに申請が困難な場合)をします。
③ 仮申請をした後、当該中古住宅の所有権移転登記をします。
④ 当該家屋の耐震改修工事を行います。
⑤ 耐震改修工事が完了した当該家屋が現行の耐震基準に適合することについて、居住の用に供する日までに、耐震基準適合証明書の発行により証明を受けます。
⑥ 実際に当該中古住宅の引渡しを受けて居住開始した後に、住民票を移します

【手続きの流れB】
① 現行の耐震基準に適合しない中古住宅の売買契約を締結します。
所有権移転登記の前に耐震改修工事が可能な場合は、当該家屋の耐震改修工事を行います。
③ 耐震改修工事が完了した当該家屋について、建築士、指定確認検査機関、登録住宅性能評価機関等に対して、耐震基準適合証明の申請 をします。
④ 当該家屋が現行の耐震基準に適合することについて、所有権移転登記の前に、耐震基準適合証明書の発行により証明を受けます。
⑤ 当該中古住宅の所有権移転登記をします。
⑥ 実際に当該中古住宅の引渡しを受けて居住開始した後に、住民票を移します

 手続きの流れAにおいてもBにおいても、重要なことは、必ず所有権移転登記の前に耐震基準適合証明の申請又は仮申請を行うということです。所有権移転登記の後で申請又は仮申請を行っても、住宅ローン控除の適用を受けることはできませんのでご注意ください。
 また、住民票の移動は、実際に物件の引渡しを受けて居住開始した後に行ってください。

2.令和3年11月末までの契約が必要

 築年数20年超の中古住宅を購入した場合の住宅ローン控除を受けるための手続きは以上ですが、2021(令和3)年分の所得税で中古住宅のローン控除を受けるためには、2021(令和3)年11月末までに売買契約を締結する必要があります。詳細は、本ブログ記事「住宅借入金等特別控除の適用要件等の見直し」をご参照ください。