扶養判定における遺族年金の取扱いは所得税と社会保険で異なる!

 納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合には、その納税者は扶養控除を受けて所得税を節税することができます。
 また、被保険者に社会保険制度上(協会けんぽ)の被扶養者となる人がいる場合には、被保険者だけではなく、その被扶養者についての病気・けが・死亡・出産についても保険給付が行われます。
 所得税法上の控除対象扶養親族の判定には所得基準があり、社会保険制度上の被扶養者の判定には収入基準がありますが、遺族年金の取扱いは両者で異なります。
 以下では、扶養判定の際の遺族年金の取扱いについて確認します。

1.所得税の扶養控除と遺族年金

(1) 控除対象扶養親族となる人の要件

 扶養親族とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡しまたは出国する場合は、その死亡または出国の時)の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人をいいます。

① 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)、または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること
② 納税者と生計を一にしていること
③ 年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
④ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと

 控除対象扶養親族とは、上記の扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が16歳以上の人(一般の控除対象扶養親族といいます)が該当します。

(2) 扶養控除の判定と遺族年金

 控除対象扶養親族に該当する人がいる場合、納税者は扶養控除を受けることができますが、特にお年寄りを扶養している納税者は、所得税の特例を受けることができます。
 例えば、一般の控除対象扶養親族がいる場合は38万円の扶養控除となりますが、老人扶養親族(控除対象扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が70歳以上の方をいいます)がいる場合は48万円の扶養控除となり、さらに同居老親(老人扶養親族のうち、納税者やその配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で、納税者やその配偶者との同居を常としている方をいいます)であれば58万円の扶養控除となります。
 老人扶養親族や同居老親に該当する方の多くは年金を受給されていると思われますが、この年金も含めて合計所得金額が48万円以下でなければなりません。

 では、所得税が非課税とされる遺族年金は、合計所得金額48万円以下の判定にあたって含まれるのでしょうか?
 例えば、遺族厚生年金120万円とパート収入60万円がある同一生計の母(70歳)を扶養控除の対象とすることはできるのでしょうか?

 扶養親族に該当するか否かを判定する場合の合計所得金額には、所得税法やその他の法令の規定によって非課税とされる所得の金額は含まれないことになっています。
 厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金や国民年金法に基づく遺族基礎年金などは非課税所得なので、上記の母の合計所得金額は5万円(給与収入60万円-給与所得控除55万円=給与所得5万円)となり、扶養控除の対象とすることができます(母が他の人の扶養控除の対象になっていないことが前提です)。
 

2.社会保険の被扶養者と遺族年金

(1) 被扶養者となる人の要件

 社会保険(健康保険)の被扶養者に該当する条件は、日本国内に住所(住民票)を有しており、被保険者により主として生計を維持されていること、および次の①と②のいずれにも該当した場合です

① 収入要件
 年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)かつ
 ・同居の場合は収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満
 ・別居の場合は収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満

② 同一世帯の条件
ア.被保険者と同居している必要がない者
 ・配偶者
 ・子、孫および兄弟姉妹
 ・父母、祖父母などの直系尊属
イ.被保険者と同居していることが必要な者
 ・上記ア以外の3親等内の親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者など)
 ・内縁関係の配偶者の父母および子(当該配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む)

※ 協会けんぽ以外の健康保険(健康保険組合など)の被扶養者については、被保険者の勤務先の健康保険組合によって要件が異なります。本記事では、協会けんぽを前提としています。

(2) 被扶養者の判定と遺族年金

 所得税法上は遺族年金は非課税所得であり、扶養控除の判定にあたっても合計所得金額には含まれないことを上記1で確認しました。
 では、社会保険(健康保険)においては、年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)という被扶養者の判定にあたって、遺族年金は収入に含まれるのでしょうか?

 結論を先に述べると、健康保険の被扶養者となる収入要件の判定には、遺族年金も含まれます。
 例えば、遺族厚生年金120万円とパート収入60万円がある同一生計の母(70歳)の場合、合計所得金額が48万円以下ですので所得税では扶養控除の対象となります。
 しかし、遺族年金も合わせた収入合計が180万円ですので年間収入180万円未満という収入要件を満たさず、健康保険では被扶養者の対象にはなりません。

「家内労働者等の必要経費の特例」とは?

 事業所得又は雑所得(公的年金等以外の雑所得)の金額は、総収入金額から実際にかかった必要経費を差し引いて計算することになっています。
 しかし、家内労働者等が事業所得又は雑所得を有する場合において、実際にかかった必要経費の額が55万円(2019(令和元)年分以前は65万円。以下同じ)に満たないときは、これらの所得金額の計算上、必要経費の額を合計で55万円まで算入することが認められています。これを、家内労働者等の必要経費の特例といいます。
 今回は、この特例について確認します。

1.家内労働者等とは?

 家内労働者等とは、家内労働法に規定する家内労働者や、外交員、集金人、電力量計の検針人のほか、特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする者をいいます。
 具体的には、下表のとおりです。

① 家内労働法に規定する家内労働者(家内労働法2条)
 物品の製造、加工、改造、修理、浄洗、選別、包装、解体、販売又はこれらの請負を業とする者から、主として労働の対償を得るために、その業務の目的物たる物品(物品の半製品、製品、附属品又は原材料を含む)について委託を受けて、物品の製造、加工、改造、修理、浄洗、選別、包装又は解体に従事する者であって、その業務について同居の親族以外の者を使用しないことを常態とする者をいいます。
② 外交員、集金人、電力量計の検針人
③ 特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする者
 例えば、クリーニング取次業、写真現像焼付の取次業、宅配便の取次業、損保代理業、シルバー人材センターの業務に就業する者などが一般に該当します。
 ピアノ教師や学習塾については、特定の業者が主宰するものは対象となりますが、自らが営むものは対象となりません。

2.特例の対象となる者

 次のいずれにも該当する者は、家内労働者等の必要経費の特例の対象となります。

(1) 事業所得又は雑所得を有する家内労働者、外交員、集金人、電力量計の検針人又は特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする者
(2) 事業所得の金額及び雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額と給与所得の収入金額との合計額が55万円に満たない者

 具体的には、以下のような場合には、この特例の対象となるか否かについて注意が必要です。

自宅で生徒数人を教えている教師が、家内労働者等の特例を適用している。
→ピアノ教師や学習塾経営者などのように、その業務の性質上、不特定の者を対象として人的役務を提供するものは家内労働者等に含まれません。
 ただし、ヤマハ、カワイ等のピアノ教室の専属講師は、家内労働者等の特例の適用があります。
洋服の寸法直し業を一般の多数の人を相手に営んでいるのに、家内労働者等の特例を適用している。
→特定の販売店の専属として洋服の寸法直し業を営んでいる場合には、家内労働者等の特例の適用がありますが、一般の多数の人を相手に営んでいる場合は適用することができません。
ヤクルト販売で、売上、仕入を計上している者が、家内労働者等の特例を適用している。
→売上、仕入を計上している者は販売業となるため、家内労働者等の特例の対象とはなりません。
 ただし、ヤクルト販売会社と販売役務提供契約等を締結して役務提供の対価を得ている場合には、家内労働者等の特例の対象となります。
損保代理業やクリーニング(写真現像焼付、宅配便)の取次業で、役務の提供先が3か所ということで、家内労働者等の特例の適用がないとしている。
→「特定の者」は必ずしも単数の者をいうのではなく、人的役務の提供先が特定している限り、複数の者であっても差し支えありません。
ホステス報酬で、接客した不特定多数の客から支払われたものを経営者が代理受領している場合に、家内労働者等の特例を適用していない。
→家内労働者等の特例を適用できるのは、特定の者に対して人的役務の提供をしている者であることから、ホステスの報酬が時間給による場合等であれば家内労働者等の特例を適用して差し支えありません。

3.特例の計算方法

 冒頭で述べたように、この特例は、家内労働者等が事業所得又は雑所得を有する場合において、実際にかかった必要経費の額が55万円に満たないときは、これらの所得金額の計算上、必要経費の額を合計で55万円まで算入することを認めるというものです。
 ただし、次の点に注意しなければなりません。

(1) 特例の必要経費額は、事業所得や公的年金等以外の雑所得の収入金額が限度です。
(2) 他に給与所得を有する場合には、55万円から給与所得控除額を控除した残額と実際にかかった経費との高い方が必要経費となります。

 これらの注意点を踏まえて、家内労働者等の事業所得又は雑所得とそれ以外の所得がある場合の所得金額の計算方法を、以下の例で確認します。

(1) 公的年金等以外の雑所得が2種類ある場合

① 生命保険契約に基づく年金の収入金額が100万円、必要経費が80万円
② シルバー人材センターからの収入金額が100万円、必要経費が30万円
 生命保険契約に基づく年金及びシルバー人材センターの必要経費の合計が 55万円以上であるため、家内労働者等の特例の適用はありません。
 したがって、所得金額の計算は次のようになります。
① 生命保険契約に基づく年金分:100万円-80万円=20万円
② シルバー人材センター分:100万円-30万円=70万円
∴ 公的年金等以外の雑所得の金額:①+②=90万円

(2) 公的年金等の雑所得と公的年金等以外の雑所得がある場合

① 公的年金等の収入金額が150万円(年齢は70歳)
② 生命保険契約に基づく年金の収入金額が30万円、必要経費が15万円
③ シルバー人材センターからの収入金額が80万円、必要経費が10万円
 生命保険契約に基づく年金及びシルバー人材センターの必要経費の合計が 55万円未満であるため、家内労働者等の特例を適用できます。
 したがって、所得金額の計算は次のようになります。
① 公的年金等分:150万円-公的年金等控除額 110万円=40万円
② 生命保険契約に基づく年金分及び③シルバー人材センター分:30万円+80万円-55万円=55万円
∴公的年金等の雑所得の金額:40万円、公的年金等以外の雑所得の金額:55万円

(3) 給与所得と公的年金等以外の雑所得がある場合

① 給与の収入金額が 40万円
② シルバー人材センターからの収入金額が40万円、必要経費が10万円
 家内労働者等の必要経費の特例で認められる 55万から給与の収入金額 40万円を差し引いた15万円と実際にかかった経費10万円との高い方である15万円が必要経費となります。
 したがって、所得金額の計算は次のようになります。
① 給与分:給与の収入金額 40万円-給与所得控除 40万円=0円
② シルバー人材センター分:40万円-15万円=25万円
∴給与所得の金額0円、公的年金等以外の雑所得の金額:25万円

 

4.青色申告特別控除、更正の請求との関係

 最後に、家内労働者等の特例と青色申告特別控除及び更正の請求との関係について述べます。

(1) 青色申告者が家内労働者等の特例を受ける場合でも、青色申告特別控除の適用を受けることができます。
 家内労働者等の特例により必要経費を計算する場合においては、青色申告特別控除の適用に関し何らかの制限があるわけではありませんので、青色申告特別控除の適用を受けることができます。
(2) 家内労働者等の特例を受けずに確定申告をした場合は、更正の請求をすることができます。
 家内労働者等の事業所得又は雑所得の計算上必要経費に算入される金額が55万円に満たない場合には、所得税法第37条(必要経費)の規定にかかわらず55万円とされることから、家内労働者等の特例を適用しなかったことは、国税通則法第23条第1項第1号に規定する「課税標準額等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあった」ことにあたるため、更正の請求をすることができます。
 なお、家内労働者等の特例については申告要件とされていないことから、この特例を適用して課税所得がなくなる場合は、所得税の申告は不要となります。

事前確定届出給与を支給しなかった場合のリスクを回避するための手続き

 従来は臨時的な役員賞与は損金算入が認められていませんでしたが、事前確定届出給与の制度を利用すれば、役員賞与であっても届出通りの支給をした場合は損金算入が可能です(届出書等の書き方については、本ブログ記事「『事前確定届出給与に関する届出書』等の書き方と記載例」をご参照ください)。
 届出通りの支給をしなかった場合、例えば届出書に記載した支給時期や支給額と異なる時期や金額の支給をした場合は、その役員賞与は損金不算入となります
 事前確定届出給与の届出はしたけれども実際には全く支給しなかった場合は、そもそも支給額が0円なので損金不算入額も0円となり、特段のリスクはないように見えます。
 しかし、事前確定届出給与の支給をしなかった場合のリスクはあります。
 今回は、事前確定届出給与の支給をしなかった場合のリスクと、そのリスクを回避するための手続きについて確認します。

※ 事前確定届出給与を届出通りに支給しなかった場合でも、損金算入できることがあります。詳細については、本ブログ記事「事前確定届出給与(複数回支給)を届出通りに支給しなかった場合」及び「事前確定届出給与(複数人支給)を特定の役員だけ届出通りに支給しなかった場合」をご参照ください。

1.事前確定届出給与の支給をしなかった場合のリスク

 事前確定届給与は法人の節税対策として用いられる側面がありますが、実際の利益が当初見込んでいた利益よりも少なくなる場合は、事前確定届出給与の支給をやめることがあります。
 例えば、事前確定届出給与100万円の支給時期が到来したけれどもその支給をしなかった場合は、そもそも支給額が0円なので損金不算入額も0円です。
 しかし、この場合は次のようなリスクがあることに留意しなければなりません。

借方 金額 貸方 金額
役員賞与 100万円 未払金 100万円
未払金 100万円 債務免除益 100万円

 届出額100万円と異なる金額を支給した場合は、その全額が損金不算入となりますが、支給額が0円なのでそもそも損金算入する金額がなく、損金不算入額も0円です。
 会社としては株主総会等で役員賞与を支給しないという意思決定をしたため、会計上は役員賞与や未払金を認識(上記1行目の仕訳)することはありません(上記1行目の仕訳をするのは、会社に役員賞与を支払う意思がある場合です)。
 しかし、支給日が到来した段階で役員に報酬請求権が発生するため、会社側には報酬を支給する債務(未払金)が発生します。つまり、税務上は上記1行目の仕訳のように考えます。
 そうすると、税務上は役員賞与100万円を認識することになるので、これに対する所得税の源泉徴収が必要になります
 また、株主総会等の決議の際に役員は辞退届を提出して報酬請求権を放棄したと考えられるため、会社側に生じた報酬を支給する債務(未払金)は消滅しますが、役員賞与の支給義務が免除されたことに対する収益(債務免除益)を会社側では認識することになります(上記2行目の仕訳)。

※ 根拠条文は、次の所得税法第183条第2項(源泉徴収義務)です。
2 法人の法人税法第二条第十五号(定義)に規定する役員に対する賞与については、支払の確定した日から一年を経過した日までにその支払がされない場合には、その一年を経過した日においてその支払があつたものとみなして、前項の規定を適用する。

2.リスクを回避するための手続き

 事前確定届出給与を支給しなかった場合のリスクは、会社側では役員賞与を支払っていないにもかかわらず、①役員賞与に対する所得税の源泉徴収義務が生じる、②債務免除益に対して課税される、役員側では役員賞与をもらっていないにもかかわらず、所得税が課税されることです。
 これらのリスクは、事前確定届出給与の支給日に役員の報酬請求権が発生することに端を発しています。
 つまり、これらのリスクがあるのは、事前確定届出給与の支給日が到来した後(すでに役員の報酬請求権が発生した後)に、役員からの辞退届を受領したり株主総会等で不支給の決議をした場合です。
 したがって、これらのリスクを回避するためには、事前確定届出給与の支給日が到来する前に、役員からの辞退届を受領して株主総会等で不支給の決議をすることが必要です。
 所得税基本通達28-10(給与等の受領を辞退した場合)には、次のように規定されています。

28-10 給与等の支払を受けるべき者がその給与等の全部又は一部の受領を辞退した場合には、その支給期の到来前に辞退の意思を明示して辞退したものに限り、課税しないものとする。

 なお、事前確定届出給与を支給しなかった場合に、支給しなかったことについて税務署へ届出(報告)する必要はありません。

未払計上した決算賞与に係る社会保険料は未払計上できない

1.決算賞与の損金算入の要件

 利益が出ている法人では、決算対策として使用人賞与を未払計上することがあります(いわゆる決算賞与です)。例えば、3月決算法人が3月末の決算仕訳で使用人賞与を未払計上し、実際に支給するのが翌期になる場合です。
 使用人賞与については、実際に支給をした日の属する事業年度に損金算入するのが原則ですが 、その例外として以下の要件を満たせば、未払計上した使用人賞与を損金算入することができます。

(1) 支給額を各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること
(2) その支給額につき(1)の通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に賞与を支給すること
(3) その支給額につき(1)の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること

 上記3要件を満たす使用人賞与については、通知日の属する事業年度に損金算入することができます。
 一般に、賞与はその支給額を通知するのとほぼ同時に支給されるのが慣行となっているものの、事業年度末において各人別に支給額が通知され、たまたま支給が遅れているような場合にまで一切損金算入することを認めないのは適当でないことから、一定範囲で通知をした日の属する事業年度においても損金の額に算入することを認めた上で、取扱いの統一性を確保し恣意性を排除する観点から、上記3要件が規定されています。

2.未払計上した決算賞与に係る社会保険料

 では、さらなる節税対策として、上記1の損金算入要件を満たす未払決算賞与について、その社会保険料を未払計上して損金算入することはできるのでしょうか?
 結論を先に述べると、未払計上した決算賞与に係る社会保険料を未払計上しても、法人の支払債務が確定していないため損金算入することはできない、ということになります。
 社会保険料の損金算入時期については、法人税基本通達9-3-2で次のように規定されています(下線は筆者による)。

9-3-2 法人が納付する次に掲げる保険料等の額のうち当該法人が負担すべき部分の金額は、当該保険料等の額の計算の対象となった月の末日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。
(1) 健康保険法第155条《保険料》又は厚生年金保険法第81条《保険料》の規定により徴収される保険料
(2) 旧効力厚生年金保険法第138条《掛金》の規定により徴収される掛金(同条第5項《設立事業所の減少に係る掛金の一括徴収》又は第6項《解散時の掛金の一括徴収》の規定により徴収される掛金を除く。)又は同法第140条《徴収金》の規定により徴収される徴収金
(注)同法第138条第5項又は第6項の規定により徴収される掛金については、納付義務の確定した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。


 法人税基本通達9-3-2では、当該保険料等の額の計算の対象となった月の末日の属する事業年度の損金の額に算入することができるとされています。
 この「保険料等の額の計算の対象となった月の末日」とは、具体的にはいつを指すのでしょうか?
 健康保険の各月の保険料の計算については、健康保険法156条1項において、各被保険者の標準報酬月額及び標準賞与額にそれぞれ保険料率を乗じる旨が規定されており、同法45条1項において、被保険者が賞与を受けた月において、その月に当該被保険者が受けた賞与額に基づき、これに千円未満の端数を生じたときは、これを切り捨てて、その月における標準賞与額を決定する旨が規定されています。
 すなわち、賞与に係る保険料は標準賞与額に保険料率を乗じて計算しますが、その標準賞与額が決定されるのは被保険者が賞与を受けた月ということになります。
 また、健康保険の保険料の納付義務については、健康保険法161条2項において、事業主がその使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負うことが規定されていますが、同法156条3項では、前月から引き続き被保険者である者がその資格を喪失した場合には、その月分の保険料は算定しない旨が規定されています。
 すなわち、被保険者である従業員等が退職等の理由によりその月に被保険者の資格を喪失した場合には、事業主はその退職した従業員等に係る保険料の納付義務を負わないことになります。
(厚生年金保険の保険料の計算と納付義務についても、厚生年金保険法81条1~3項、19条1項、24条の3第1項に規定されていますが、健康保険と同様の理論構成になりますので、ここでは省略します。)

 以上から、法人が納付する健康保険及び厚生年金保険の保険料は、その保険料の額の計算の対象となった月の末日において、その時点で使用している被保険者(従業員等)に係るものについて、その納付義務が確定する性質と解されるものであるから、法人税基本通達9-3-2は、その納付告知又は実際の納付を待たずに、損金算入することができる旨を明らかにしています。そして、賞与に係る保険料は、被保険者が賞与を受けた月に、その受領額を基に標準賞与額を決定し、その標準賞与額に保険料率を乗じて計算されるのであるから、同通達に定める「保険料の額の計算の対象となった月の末日」とは、被保険者が賞与を受けた月(雇用者である法人側からみれば、賞与を支払った月)の末日をいうものと認められます。
 つまり、「保険料等の額の計算の対象となった月の末日」(債務の確定する日)とは、実際に賞与を支給した月の末日を指します。
 したがって、 未払計上した決算賞与に係る社会保険料を未払計上しても、法人の支払債務が確定していないため損金算入することはできないことになります。

令和3年度改正後の中小企業経営強化税制

1.令和3年度改正の内容

出所:経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」

 2021(令和3)年度税制改正で、中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は特別税額控除制度)の見直しが行われ、従前の対象設備(A類型・B類型・C類型)に「経営資源集約化設備(D類型)」が追加された上で、その適用期限が2年間延長されました。
 中小企業経営強化税制の改正内容は、次のとおりです。

(1) 中小企業者等の範囲

 中小企業者の判定における大規模法人から一定の独立行政法人中小企業基盤整備機構を除外する特例が廃止されました。

(2) 特定経営力向上設備等の範囲

 特定経営力向上設備等の対象に、計画終了年度に修正ROA又は有形固定資産回転率が一定以上上昇する経営力向上計画を実施するために必要不可欠な設備が加えられました。

(3) 適用期間

 2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に取得等する特定経営力向上設備等について適用されます。

 これらの改正を踏まえて、改正後の制度の内容を以下にまとめます。

2.改正後の中小企業経営強化税制

 中小企業者等※1で青色申告書を提出するもののうち、中小企業等経営強化法の認定を受けた同法の中小企業者等に該当するもの※2が、2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に新品の特定経営力向上設備等※3の取得又は制作をして、その者の営む指定事業※4の用に供した場合には、即時償却又はその取得価額の7%(一定の中小企業者等※5の場合は10%)相当額の税額控除ができます。
 ただし、その事業年度の所得に対する法人税の額(個人事業主の場合は、所得税の額)の20%相当額を限度※6とし、限度を超える部分の金額については1年間の繰越しが認められています。
 なお、中小企業者等のうち特定中小企業者等※4以外の法人については、税額控除はできません。

※1 中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下のイ~ハに該当するものをいいます。
イ.中小企業者(中小企業者については、本ブログ記事「租税特別措置法上の『中小企業者』の定義とその判定時期」をご参照ください。ただし、本制度においては、中小企業者の判定における大規模法人から一定の独立行政法人中小企業基盤整備機構が除外する特例が廃止されています。)
ロ.常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
ハ.農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、商店街振興組合、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

※2 本税制の適用対象法人は、租税特別措置法に定める中小企業者、農業協同組合等又は商店街振興組合で、青色申告書を提出するものに該当することに加え、中小企業等経営強化法の中小企業者等にも該当して同法の認定を受けることが必要です。ただ、措置法の中小企業者及び商店街振興組合は基本的に経営強化法の中小企業者等にも該当しますが、措置法の農業協同組合等は経営強化法の中小企業者等に該当するものとしないものがありますので、それぞれの根拠法令の確認が必要です。

租税特別措置法の中小企業者等の範囲(青色申告書を提出するもの) 左のうち、中小企業等経営強化法の中小企業者等にも該当して同法の認定を受けることができる法人
中小企業者
農業協同組合等 △(組合ごとに要確認)
※ 農業協同組合は非該当
商店街振興組合

※3 特定経営力向上設備等とは、中小企業等経営強化法に規定する次の設備をいいます。
イ.生産性向上設備(A類型)
 下表の対象設備のうち、以下の2つの要件を満たすもの
(イ) 一定期間内に販売されたモデル(最新モデルである必要はありません)
(ロ) 経営力の向上に資するものの指標(生産効率、エネルギー効率、精度など)が旧モデルと比較して年平均1%以上向上している設備(ソフトウェアについては、情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの)

設備の種類 用途又は細目 最低価額(1台1基又は一の取得価額) 販売開始時期
機械装置 全て 160万円以上 10年以内
工具 測定工具及び検査工具 30万円以上 5年以内
器具備品 全て 30万円以上 6年以内
建物附属設備 全て 60万円以上 14年以内
ソフトウェア 設備の稼働状況等に係る情
報収集機能及び分析・指示
機能を有するもの
70万円以上 5年以内

(注) 以下の㋑~㋥は、B類型、C類型についても同様です。
㋑ 機械装置のうち、発電の用に供する設備にあっては、主として電気の販売を行うために取得又は製作をするもの(経営力向上計画の実施時期のうちで発電した電気の販売を行う期間中の発電量のうち、販売を行うことが見込まれる電気の量が占める割合が2分の1を超える発電設備等。以下同じ)を除きます。
㋺ 器具備品のうち、医療機器にあっては、医療保健業を行う事業者が取得又は製作をするものを除きます。
㋩ 建物附属設備のうち、医療保健業を行う事業者が取得又は建設をするものを除くものとし、発電の用に供する設備にあっては主として電気の販売を行うために取得又は建設をするものを除きます。
㋥ ソフトウェアのうち、複写して販売するための原本、開発研究用のもの、サーバー用OSのうち一定のものなどは除きます(中小企業投資促進税制と同様)。

ロ.収益力強化設備(B類型)
 下表の対象設備のうち、年平均の投資利益率が5%以上となることが見込まれることにつき、経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に記載された投資の目的を達成するために必要不可欠な設備

設備の種類 用途又は細目 最低価額(1台1基又は一の取得価額)
機械装置 全て 160万円以上
工具 全て 30万円以上
器具備品 全て 30万円以上
建物附属設備 全て 60万円以上
ソフトウェア 全て 70万円以上

ハ.デジタル化設備(C類型)
 下表の対象設備のうち、事業プロセスの①遠隔操作、②可視化、③自動制御化のいずれかを可能にする設備として、経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に記載された投資の目的を達成するために必要不可欠な設備

設備の種類 用途又は細目 最低価額(1台1基又は一の取得価額)
機械装置 全て 160万円以上
工具 全て 30万円以上
器具備品 全て 30万円以上
建物附属設備 全て 60万円以上
ソフトウェア 全て 70万円以上

ニ.経営資源集約化設備(D類型)
 修正ROA又は有形固定資産回転率が一定以上上昇する設備

※4 指定事業とは、製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、採石業、砂利採取業、卸売業、小売業、一般旅客自動車運送業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、料理店業その他の飲食店業(一定の類型を除き(注㋥参照)、料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブ、その他これらに類する事業を除きます。)、海洋運輸業及び沿海運輸業、内航船舶貸渡業、旅行業、こん包業、郵便業、損害保険代理
業、情報通信業、駐車場業、学術研究、専門・技術サービス業、不動産業、物品賃貸業、広告業、宿泊業、洗濯・理容・美容・浴場業、その他の生活関連サービス業、医療、福祉業、社会保険・社会福祉・介護事業、教育、学習支援業、映画業、協同組合(他に分類されないもの)、サービス業(他に分類されないもの)をいいます。

(注)㋑ 中小企業投資促進税制の対象事業に該当する全ての事業が、中小企業経営強化税制の指定事業となります。
㋺ 電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、娯楽業(映画業を除く)等は対象になりません。
㋩ 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条第5項に規定する性風俗関連特殊営業に該当するものを除きます。
㋥ 風俗営業に該当するものは、①料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する飲食店業で生活衛生同業組合の組合員が営むもの、②宿泊業のうち旅館業、ホテル業で風俗営業の許可を受けているもの、以外は指定事業から除かれます。

※5 一定の中小企業者等とは、中小企業者等のうち資本金の額若しくは出資金の額が3,000万円以下の法人、農業協同組合等又は商店街振興組合をいいます。

※6 税額控除額は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制の控除税額の合計で、その事業年度の法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

令和3年度改正後の中小企業投資促進税制

1.商業・サービス業・農林水産業活性化税制の廃止

 2021(令和3)年度税制改正で、「商業・サービス業・農林水産業活性化税制(特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は特別税額控除制度)」が適用期限(2021(令和3)年3月31日)の到来をもって廃止されました。
 この商業・サービス業・農林水産業活性化税制の対象者(商店街振興組合)や対象事業(不動産業等)を「中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は特別税額控除制度)」に盛り込む形で制度が一本化され、中小企業投資促進税制の適用期限が2年間延長されました。
 中小企業投資促進税制の改正内容は、次のとおりです。

(1) 中小企業者等の範囲

 中小企業者等の範囲について、次の見直しが行われました。

① 本制度の対象となる中小企業者等に商店街振興組合が追加されました。
② 中小企業者の判定における大規模法人から一定の独立行政法人中小企業基盤整備機構を除外する特例が廃止されました。

(2) 指定事業の範囲

 対象となる指定事業に、次の事業が追加されました。

① 不動産業
② 物品賃貸業
③ 料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業(生活衛生同業組合の組合員が行うものに限る)

(3) 特定機械装置等の範囲

 本制度の対象となる減価償却資産から、匿名組合契約その他これに類する一定の契約の目的である事業の用に供するものが除外されました。

(4) 適用期間

 2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に取得等する特定機械装置等について適用されます。

 これらの改正を踏まえて、改正後の制度の内容を以下にまとめます。

2.改正後の中小企業投資促進税制

出所:中小企業庁広報資料「概要」

 中小企業者等※1で青色申告書を提出するものが、2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に新品の特定機械装置等※2の取得又は制作をして、その者の営む指定事業※3の用に供した場合には、基準取得価額(特定機械装置等の取得価額として一定のもの)の30%相当額の特別償却又は7%相当額の税額控除ができます。
 ただし、その事業年度の所得に対する法人税の額(個人事業主の場合は、所得税の額)の20%相当額を限度※4とし、限度を超える部分の金額については1年間の繰越しが認められています。
 なお、中小企業者等のうち特定中小企業者等※5以外の法人については、税額控除はできません。

※1 中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下のイ~ハに該当するものをいいます。
イ.中小企業者(中小企業者については、本ブログ記事「租税特別措置法上の『中小企業者』の定義とその判定時期」をご参照ください。ただし、本制度においては、中小企業者の判定における大規模法人から一定の独立行政法人中小企業基盤整備機構が除外する特例が廃止されています。)
ロ.常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
ハ.農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、商店街振興組合、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

※2 特定機械装置等とは、次のイ~ホの減価償却資産をいいます。ただし、匿名組合契約その他これに類する一定の契約の目的である事業の用に供するものは除外されます
イ.機会及び装置で1台又は1基の取得価額が160万円以上のもの
ロ.製品の品質管理の向上等に資する測定工具及び検査工具で1台又は1基の取得価額が120万円以上のもの(その事業年度の取得価額の合計額が120万円以上のもの(1台又は1基の取得価額が30万円未満のものを除く)を含む)
ハ.一定のソフトウェアで一のソフトウェアの取得価額が70万円以上のもの(その事業年度の取得価額の合計額が70万円以上のもの(少額減価償却資産及び一括償却資産の適用を受けたものを除く)を含む)
ニ.車両重量が3.5トン以上の普通自動車で貨物の運送の用に供するもの
ホ.内航海運業の用に供される船舶

※3 指定事業とは、製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業その他の飲食店業(料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業については生活衛生同業組合の組合員が行うものに限る)、一般旅客自動車運送業、海洋運輸業及び沿海運輸業、内航船舶賃貸業、旅行業、こん包業、郵便業、通信業、損害保険代理業及びサービス業(映画業以外の娯楽業を除く)、不動産業物品賃貸業をいいます。

※4 税額控除額は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制の控除税額の合計で、その事業年度の法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

※5 特定中小企業者等とは、中小企業者等のうち資本金の額若しくは出資金の額が3,000万円以下の法人又は農業協同組合等をいいます。

中小企業者等の所得拡大促進税制の令和3年度改正《令和3年4月1日以後開始事業年度》

 所得拡大促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。
 この所得拡大促進税制について、2021(令和3)年度税制改正において、適用期間の2年間延長と適用要件の見直し(継続雇用要件の撤廃等)が行われました。
 今回は、現行制度の概要と改正内容について確認します。

※ 所得拡大促進税制については、2023(令和5)年3月31日の期限到来前に2022(令和4)年度改正が行われたため、2021(令和3)年4月1日から2022(令和4)年3月31日までの間に開始する事業年度(個人事業主の場合は2022(令和4)年)について適用されることとなりました。

1.現行制度の概要

 中小企業者等※1で青色申告書を提出するものが、2018(平成30)年4月1日から2021(令和3)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主の場合は、2019(令和元)年から2021(令和3)年までの各年)において国内雇用者※2に対して給与等※3を支給する場合において、その事業年度においてその中小企業者等の継続雇用者給与等支給額※4から継続雇用者比較給与等支給額※5を控除した金額のその継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が1.5%以上であるとき(その中小企業者等の雇用者給与等支給額※6が比較雇用者給与等支給額※7以下である場合を除く)は、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の15%※8(下記(1)(2)の要件を満たす場合は25%)相当額の特別税額控除ができることとされています。
 ただし、その事業年度の所得に対する法人税額(個人事業主の場合は、その年の事業所得の金額に係る所得税額)の20%相当額が限度となります。

(1) 継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額のその継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が2.5%以上であること

(2) 次に掲げる要件のいずれかを満たすこと
① その事業年度の損金の額(個人事業主の場合は、その年分の必要経費)に算入される教育訓練費※9の額から中小企業比較教育訓練費※10の額を控除した金額のその中小企業比較教育訓練費に対する割合が10%以上であること
② その中小企業者等が、その事業年度終了の日(個人事業主の場合は、その年の12月31日)までに中小企業等経営強化法に規定する経営力向上計画の認定を受けたものであり、その経営力向上計画に記載された同法に規定する経営力向上が確実に行われたものとして一定の証明がされたこと

※1 中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下に該当するものをいいます。
イ.中小企業者(中小企業者については、本ブログ記事「租税特別措置法上の『中小企業者』の定義とその判定時期」をご参照ください)
ロ.常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
ハ.農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

※2 国内雇用者とは、法人又は個人事業主の使用人のうちその法人又は個人事業主の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者を指します。パート、アルバイト、日雇い労働者も含みますが、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者、個人事業主と特殊の関係のある者は含まれません。
 なお、特殊関係者(特殊の関係のある者)とは、法人の役員又は個人事業主の親族を指します。親族の範囲は6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族までが該当します。また、当該役員又は個人事業主と婚姻関係と同様の事情にある者、当該役員又は個人事業主から生計の支援を受けている者等も特殊関係者に含まれます。

※3 給与等とは、俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与(所得税法第28条第1項に規定する給与所得)をいいます。退職金など、給与所得とならないものについては、原則として給与等に該当しません。
 なお、所得税法上課税されない通勤手当等の額については、給与所得となるので、給与等に含まれます。ただし、賃金台帳に記載された支給額のみを対象に、所得税法上課税されない通勤手当等の額を含めずに計算する等、合理的な方法により継続して国内雇用者に対する給与等の支給額の計算をすることも認められます。

※4 継続雇用者給与等支給額とは、継続雇用者(前年度の期首から適用年度の期末までの全ての月分の給与等の支給を受けた従業員のうち、一定の者)に支払った給与等の総額をいいます。

出所:経済産業省「中小企業向け所得拡大促進税制ご利用ガイドブック-平成30年4月1日以降開始の事業年度用-(個人事業主は令和元年分以降用)」

※5 継続雇用者比較給与等支給額とは、継続雇用者に対する前事業年度の給与等の金額として一定の金額をいいます。

※6 雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額(その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額)をいいます。

※7 比較雇用者給与等支給額とは、前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。

※8 その事業年度において「地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の特別税額控除制度(雇用促進税制)」の適用を受ける場合には、その規定による控除を受ける金額の計算の基礎となった者に対する給与等の支給額として一定の方法により計算した金額を控除した残額となります。

※9 教育訓練費とは、所得の金額の計算上損金の額に算入される、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用で一定のものをいいます。

※10 中小企業比較教育訓練費とは、中小企業者等の適用年度開始の日前1年以内に開始した各事業年度の損金の額に算入される教育訓練費の額(その各事業年度の月数とと適用年度の月数が異なる場合には、教育訓練費の額に適用年度の月数を乗じてこれを各事業年度の月数で除して計算した金額)の合計額をその1年以内に開始した各事業年度の数で除して計算した金額をいいます。

2.令和3年度改正の内容

 所得拡大促進税制について次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長され、2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主の場合は、2022(令和4)年から2023(令和5)年までの各年)について適用されます。

※ 所得拡大促進税制については、2023(令和5)年3月31日の期限到来前に2022(令和4)年度改正が行われたため、2021(令和3)年4月1日から2022(令和4)年3月31日までの間に開始する事業年度(個人事業主の場合は2022(令和4)年)について適用されることとなりました。

(1) 適用要件のうち、継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額の継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が1.5%以上であることの要件が、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の比較雇用者給与等支給額に対する割合が1.5%以上であることの要件に見直されました。

(2) 特別税額控除率(原則:15%)が25%となる要件(上記1.(1)及び(2)の要件)のうち、継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額の継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が2.5%以上であることの要件が、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の比較雇用者給与等支給額に対する割合が2.5%以上であることの要件に見直されました。

(3) 給与等の支給額から控除される給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(上記1.※6参照)について、その範囲が明確化されるとともに、次の見直しが行われました。
① 上記(1)及び(2)の要件を判定する場合には、雇用安定助成金額を控除しないこととする
② 特別税額控除率(15%又は25%)を乗ずる基礎となる雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額は、雇用安定助成金額を控除して計算した金額を上限とする

※ 給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額には、以下のものが該当します。
イ.その補助金、助成金、給付金又は負担金その他これらに準ずるもの(以下「補助金等」といいます)の要綱、要領又は契約において、その補助金等の交付の趣旨又は目的がその交付を受ける法人の給与等の支給額に係る負担を軽減させることが明らかにされている場合のその補助金等の交付額

該当する補助金等の例
業務改善助成金

ロ.イ以外の補助金等の交付額で、資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供に係る反対給付としての交付額に該当しないもののうち、その算定方法が給与等の支給実績又は支給単価(雇用契約において時間、日、月、年ごとにあらかじめ定められている給与等の支給額をいいます)を基礎として定められているもの

該当する補助金等の例

雇用調整助成金、緊急雇用安定助成金、産業雇用安定助成金、労働移動支援助成金(早期雇い入れコース)、キャリアアップ助成金(正社員化コース)、特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

ハ.イ及びロ以外の補助金等の交付額で、法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向した使用人(以下「出向者」といいます)に対する給与を出向元法人(出向者を出向させている法人をいいます)が支給することとしているときに、出向元法人が出向先法人(出向元法人から出向者の出向を受けている法人をいいます)から支払を受けた出向先法人の負担すべき給与に相当する金額

 なお、出向先法人は、賃金台帳に出向者と給与負担金を記載することで、集計対象となる給与総額に含めることが可能となります。
(出向先法人の負担すべき給与に相当する金額については、本ブログ記事「出向先法人が支出する給与負担金の取扱い」をご参照ください)

租税特別措置法上の「中小企業者」の定義とその判定時期

 中小企業には様々な優遇税制(例えば、所得拡大促進税制や中小企業投資促進税制など)が用意されていますが、一口に中小企業と言っても、その範囲は各税制によって異なります。中小企業の優遇税制には、それぞれ根拠となる法律があり、各制度を規律する法律によって中小企業の定義は変わります。
 今回は中小企業の優遇税制と関連の深い租税特別措置法上の中小企業者の定義と、中小企業者に該当するか否かの判定は事業年度のどの時点で行うのかについて確認します。

1.中小企業者の定義

 租税特別措置法における中小企業者の定義は、2019(平成31)年度税制改正により見直しが行われ、2019(平成31)年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。
 改正後の中小企業者とは、次の(1)(2)に掲げる法人をいいます。ただし、中小企業者のうち適用除外事業者※1に該当するものは除かれます。

(1) 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人のうち次に掲げる法人以外の法人

① その発行済株式又は出資(自己の株式又は出資を除く。以下同じ。)の総数又は総額の2分の1以上を同一の大規模法人※2に所有されている法人
② 上記①のほか、その発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上を複数の大規模法人に所有されている法人
③ 受託法人

(2) 資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下※4の法人(受託法人を除く)

※1 適用除外事業者とは、基準年度(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度)の所得金額の合計額を各基準年度の月数の合計数で除し、これに12を乗じて計算した金額(設立後3年を経過していないことなどの一定の事由がある場合には、一定の調整を加えた金額)が15億円を超える法人をいいます。

※2 大規模法人とは、次に掲げる法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます。
(1) 資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人
(2) 資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人
(3) 大法人※3との間にその大法人による完全支配関係がある法人
(4) 普通法人との間に完全支配関係がある全ての大法人が有する株式及び出資の全部をその全ての大法人のうちいずれか一の法人が有するものとみなした場合においてそのいずれか一の法人とその普通法人との間にそのいずれか一の法人による完全支配関係があることとなるときのその普通法人(上記(3)に掲げる法人を除く。)

※3 大法人とは、次に掲げる法人をいいます。
(1) 資本金の額又は出資金の額が5億円以上の法人
(2) 相互会社及び外国相互会社のうち、常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人
(3)  受託法人

※4 「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」においては、2020(令和2)年度改正で、常時使用する従業員の数が500人(改正前:1,000人)以下に引き下げられました(措令39の28①)。

 上記のとおり、中小企業者とは、資本金・出資金の額が1億円以下の法人、又は資本・出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下※4の法人をいいます。
 ただし、資本金・出資金が1億円以下であっても、大規模法人にその発行済株式・出資の総数・総額の2分の1以上を所有されていたり、複数の大規模法人にその3分の2以上を所有されている法人は、中小企業者に該当しません。
 また、2019(平成31)年度税制改正により大規模法人の定義が変更され、大法人(資本金5億円以上)による完全支配関係がある法人が加えられたため、この大法人により間接保有される法人等がみなし大企業に該当することになり、中小企業者の範囲から除外されることになりました。

2.中小企業者の判定時期

 各種の優遇税制の適用を受けるためには中小企業者であることが必要ですが、例えば、期中に増資を行ったために資本金が1億円を超えることとなった場合は、その時点で中小企業者ではなくなります。
 しかし、増資が行われるまでは中小企業者であったので、もし、中小企業者であるか否かの判定が事業年度開始の時の現況で行われるのであれば、中小企業者に該当することになります。
 このように、どの時点で中小企業者の判定を行うかは、優遇税制の適用があるかどうかを判断する上で大変重要です。
 以下では、主な優遇税制について、中小企業者の判定時期を確認します。

(1) 研究開発税制(中小企業者等が試験研究を行った場合の法人税額の特別控除)

 中小企業者等に該当するか否かについては、事業年度終了の時の現況によって判定します。

(2) 所得拡大促進税制(中小企業者等が給与等の引上げを行った場合の税額控除)

 中小企業者等に該当するか否かについては、事業年度終了の時の現況によって判定します。

※ 所得拡大促進税制については、本ブログ記事「中小企業者等の所得拡大促進税制の令和3年度改正」をご参照ください。

(3) 中小企業投資促進税制(中小企業等が機械等を取得した場合の特別償却又は特別控除)

 法人が事業年度の中途で中小企業者等に該当しなくなった場合において、その該当しないこととなった日前に取得等をして事業の用に供した機械等については適用があります

※ 税額控除は資本金3,000万円以下の中小企業者に限ります。
※ 中小企業者投資促進税制については、本ブログ記事「令和3年度改正後の中小企業投資促進税制」をご参照ください。

(4) 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例

 法人が事業年度の中途で中小企業者等に該当しなくなった場合において、その該当しないこととなった日前に取得等をして事業の用に供した機械等については適用があります。

※ 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例については、本ブログ記事「30万円未満の少額減価償却資産の損金算入制度と別表16(7)の記載例」をご参照ください。

(5) 欠損金の繰戻しによる還付の不適用措置について、中小企業者等の各事業年度において生じた欠損金額は、不適用措置から除外する特例

 中小企業者等に該当するか否かについては、事業年度終了の時の現況によって判定します。

印紙税の節税方法5選

 印紙税は契約書などに課される税金ですが、印紙を貼っていなくても、その文書の法的な効力がなくなるわけではありません
 とはいえ、正式な契約の成立の証しとして作成する契約書に印紙を貼っていないと、契約の相手方が不安や物足りなさを感じるかもしれません。たとえ、合法的に印紙の貼り付けを不要にできる方法があったとしてもです。しかし、親子会社間や同族会社間の取引であれば、活用できる余地はあると思われます。
 そこで今回は、親子会社間や同族会社間で活用できる印紙税の節税方法について確認します(以下の方法は、親子会社間や同族会社間に限定した節税方法ではなく、双方の合意があれば、契約の相手方が誰であっても有効な方法です)。

1.コピーに印紙は不要

 契約書の文面に、「甲はこの契約書の原本を保有し、乙はそのコピーを保有する」と記載すれば、乙の保有するコピーに印紙を貼る必要はありません。これで、印紙代は半分に節約できます。
※ 詳しくは、本ブログ記事「契約書のコピーに印紙は必要?不要?」をご参照ください。

2.契約書を電子メール、ファックスで送る

 印紙税は、相手に渡したり、双方で取り決めをした「紙」の文書に課される税金です。電子メールやファックスは紙の文書を送っているわけではなく、電子データ(電子メール)や通信データ(ファックス)を送っています。
 したがって、電子メールやファックスでデータを送信しても課税文書を作成したことにはならず、印紙税の課税原因は発生しません
 例えば、注文請書に記名押印した後にPDFファイル等の電磁的記録に変換し、そのPDFファイルを注文先に電子メールで送信したとしても、現物を注文者に交付しなければ、それは課税文書に該当しません。送信用の現物(原本)を相手に交付せずに社内で保管する場合は、印紙税の課税対象外となります。
 ただし、電子メールで送信した後に注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課されます
 一方、受信者側が送信された注文請書をプリンタで印刷しても、現物の交付がなされない場合は、コピーした文書と同様のものと認められるため、印紙税は課税されません

3.記載金額を分割する

 例えば、親子会社間あるいは同族会社間で金銭の貸し借りをする場合に、金銭消費貸借契約書を1枚にせず、金額を分割します。
 仮に、金額が1,000万円なら、500万円の金銭消費貸借契約書を2枚作成します。記載金額が1,000万円なら印紙税は1万円ですが、500万円なら印紙税は2,000円です。500万円の金銭消費貸借契約書を2枚作っても、合計で4,000円の印紙税で済みます。

4.消費税、源泉所得税は区分表示する

 第1号文書(不動産等の譲渡等に関する契約書)、第2号文書(請負に関する契約書)、第17号文書(売上得代金等に係る金銭又は有価証券の受取書)は、消費税を区分表示した場合は消費税抜きの金額を記載金額とするという規定(消費税の特例)があります。
 また、第17号文書については、源泉所得税も区分表示すれば、税抜きの金額が記載金額とされます
※ 消費税の特例については、本ブログ記事「契約書・領収書の記載金額における消費税の特例」をご参照ください。

5.印紙を金券ショップや格安チケット屋で購入する

 郵便局で購入する収入印紙には、消費税が課税されません。消費税では、日本郵便株式会社や簡易郵便局等で譲渡される収入印紙は非課税とされています(消費税基本通達6-4-1)。
 一方、郵便局以外の場所、例えば金券ショップや格安チケット屋などで譲渡される収入印紙には、消費税が課税されます。
 金券ショップ等を利用すれば、額面金額よりもわずかながら安く購入することができ、さらに消費税の課税事業者で本則課税を採用している事業者であれば、印紙の購入額を課税仕入れとして処理できます
 印紙税の節税というよりは消費税の節税ですが、特に印紙の購入額が大きい不動産業や建設業の方には、活用していただきたい節税方法です。

契約書のコピーに印紙は必要?不要?

 一般的な商取引では、同じ契約書を2通作成し、契約当事者がそれぞれ1通づつを保管します。その契約書は、契約の成立を証明するために作成された文書であり、契約当事者の署名や押印がありますので、それぞれの契約書に収入印紙を貼る必要があります。
 では、契約当事者の一方が原本を持っていて、他の者がその原本のコピーを持っている場合、そのコピーに収入印紙を貼る必要はあるのでしょうか?
 今回は、この点について確認します。

1.コピーに印紙が不要となる場合

 一般的な契約書には、「契約成立の証として本書2通を作成し、甲乙各自署名押印のうえ、各自1通を保管する。」などの文言が記載されています。
 このような文言のある契約書でも、例えば、役所などに提出するために契約書をコピーする場合や、弁護士や税理士などに契約書のコピーを渡す場合などは、印紙は不要です。
 つまり、契約書のコピーが単に複写しただけのもの(原本をコピーしたままのもので署名押印もコピーされているもの)の場合は、そのコピーに印紙は不要です。

 また、契約書の作成段階で、上記文言を「契約成立の証として本書1通を作成し、甲が保管する」や「甲はこの契約書の原本を保有し、乙はそのコピーを保有する」に変えて記載すれば、乙の保有するコピーに印紙を貼る必要はありません。
 この方法で印紙代は半分に節約できます。親子会社間、同族会社間での契約に活用できると思います。

2.コピーに印紙が必要となる場合

 ただし、次の場合は契約の成立を証明する文書に該当しますので、コピーであっても印紙を貼る必要があります(契約当事者の一方(甲)が原本を所持し、他の者(乙)がコピーを所持しているケース)。

(1) 契約当事者の署名押印があるもの(コピー後の用紙に署名押印しているもの)
(2) コピーに「原本と相違ない」「正本と相違ない」と記述しているもの
(3) 原本とコピー(副本)に割り印のあるもの
(4) 「契約成立の証として本書2通を作成し、甲乙各自が1通を保管する」という文言があるもの

※上記1において、このような文言のある契約書でも、単に複写しただけのものは印紙は不要であることを確認しました。
 これは、契約段階で契約書原本が2通作成されており、甲も乙もそれぞれ原本を1通づつ所持していることが前提です。そのうえで、その契約書のコピーをとっても、コピーに印紙を貼る必要はないということです。
 それに対し、上記2(4)は、契約段階で作成された契約書2通のうち1通がコピーであり、甲が原本を所持し、乙はそのコピーを所持していることが前提です。この場合、乙の所持するコピーは契約の成立を証明する文書に該当しますので、コピーであっても印紙を貼る必要があります。