1,000万円以上でも高額特定資産に該当しないケースとは?

1.棚卸資産に係る消費税額の調整措置の改正

 消費税法には、免税事業者が課税事業者になった場合や、課税事業者が免税事業者になった場合に、棚卸資産の調整措置という規定があります(消費税法第36条第1項又は第3項)。
 免税事業者が課税事業者になった場合を前提にすると、棚卸資産の調整措置とは、免税事業者が課税事業者となる日の前日に、免税事業者であった期間中に行った課税仕入れ等に係る棚卸資産を有している場合、その棚卸資産の課税仕入れ等に係る消費税額を課税事業者となった課税期間の課税仕入れ等とみなして、仕入税額控除の計算の対象とする制度です。

 この棚卸資産の調整措置について改正が行われ、2020(令和2)年4月1日以後に高額特定資産である棚卸資産について棚卸資産の調整措置の適用を受けた場合は、その適用を受けた課税期間の翌課税期間からその適用を受けた課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、免税事業者になることができないこととされました。
 また、当該3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間は、消費税簡易課税制度選択届出書を提出することができないこととされました。
 なお、高額特定資産とは、一の取引単につき、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)が1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産をいいます。

出所:国税庁ホームページ

2.高額特定資産でない棚卸資産は改正の適用外

 不動産販売業を営むA社が当期から課税事業者になったため、この棚卸資産の調整措置について確認している過程で疑問が生じました。

 A社においては、土地や建物といった不動産は棚卸資産であり、その取得価額は、ほとんどの場合1,000万円以上になります。 
 例えば、A社が建物付き土地を一括で1,000万円(税込1,050万円)で購入し、これを固定資産税評価額(建物:土地=1:1とします)で按分すると、建物の取得価額は500万円(税込550万円)、土地の取得価額は500万円(消費税は非課税)となります。
 購入後、売却までに100万円(税込110万円)のリフォームをして、最終的に棚卸資産の価額が建物600万円(税込660万円)、土地500万円、合計1,100万円(税込1,160万円)になったとします。
 この場合、この棚卸資産が高額特定資産に該当するか否かの判定は、建物だけで判定すると課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)が600万円となるので非該当、建物だけではなく土地も含めて判定すると1,100万円となるので該当、ということになります。
 一の取引単位には、建物付き土地を一括で購入していますので、建物も土地も含まれますが、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)には、非課税である土地は含まれないのではないか?このような疑問が生じました。
 A社については、当期は棚卸資産の調整措置の適用を受け、翌期は簡易課税制度の適用を視野に入れていましたので、都合のいい解釈になっていないかどうか確認する必要があります。
 冷静になって考えると、「課税仕入れ等」とは、課税仕入れ及び課税貨物の引取りをいいますので、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)には非課税である土地は含まれないことになります(当然ですが)。
 したがって、高額特定資産に該当するか否かの判定においては、非課税である土地は含めず課税取引である建物だけで判断することになります。
 つまり、高額特定資産でない棚卸資産は、棚卸資産の調整措置の適用を受けても、免税事業者や簡易課税選択におけるいわゆる3年縛りはないということになります。

 不動産販売業者に限らず、高額特定資産に該当するか否かの判定は、課税取引だけで判断します。高額特定資産の判定は、棚卸資産の調整措置だけではなく、「高額特定資産を取得等した場合の納税義務の免除の特例」や「居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限」にも関わってきます。

個人事業主が開業した年の消費税課税事業者選択届出書の記載例

1.消費税の還付を受けるため

 個人事業主は、開業した年とその翌年については、通常は消費税の納税義務がない免税事業者となります。
 しかし、開業した年において多額の設備投資があった場合などは、課税事業者を選択することにより、課税仕入れ等(課税仕入れ及び課税貨物の引取り)に係る消費税額の還付を受けることができます。
 課税事業者を選択する場合は、「消費税課税事業者選択届出書」を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません(「消費税課税事業者届出書」ではありませんので、ご注意ください)。
 今回は、消費税の還付を受けるために提出する「消費税課税事業者選択届出書」の書き方について確認します。

2.開業年に提出する課税事業者選択届出書

 例えば、令和3年2月1日に居酒屋を開業した「消費太郎」(個人事業主)が、令和3年分の確定申告で消費税の還付を受けるため、令和3年12月14日に提出する課税事業者選択届出書の記載例は次のようになります。

 主な項目について、書き方を確認します。

(1) 提出日
 提出する令和3年12月14日と記載します

※ 消費税の届出書の提出期限については、本ブログ記事「消費税の各種届出書の提出期限と効力」をご参照ください。

(2) 個人番号又は法人番号
 個人事業主は、左端を1マス空けて個人番号を記載します。個人事業主がこの届出書の控えを保管する場合においては、その控えには個人番号を記載しないなど、個人番号の取扱いには注意が必要です。

(3) 適用開始課税期間
 届出書の効力は、通常は提出した課税期間の翌課税期間の初日に発生しますが、事業を開始した課税期間等に提出した場合は、提出した課税期間又はその翌課税期間の初日から効力が発生します(いずれか選択可能です)。
 今回は、令和3年分の確定申告で消費税の還付を受けるため、「自 令和3年1月1日 至 令和3年12月31日」と記載します(開業日は令和3年2月1日ですが、個人事業主の場合は1月1日~12月31日が課税期間となります)。

(4) 上記期間の基準期間
 通常は(3)の適用開始課税期間の2年前の期間を記載しますが、今回は基準期間がありませんので、記載不要です。

(5) 左記期間の総売上高及び左記期間の課税売上高
 今回は基準期間がありませんので、記載不要です。通常は、「総売上高」欄には、課税売上+輸出免税売上+非課税売上を記載し、「課税売上高」欄には、 課税売上+輸出免税売上を記載します。

(6) 生年月日(個人)又は設立年月日(法人)
 個人事業主の場合は、生年月日を記載します。

(7) 事業年度及び資本金
 個人事業主の場合は、記載不要です。

(8) 届出区分
 今回は個人事業主の新規開業ですので、事業開始に〇を付けます。

(9) 参考事項
 この欄の記載は任意です。上記記載例では、開業年月日を記載しています。

(10) 税理士署名
 関与税理士がいる場合は、記載します。

個人事業主の預貯金の受取利息に関する所得税と消費税の取扱い

 預貯金の利息や貸付金の利息を受け取ったときの会計処理は、法人と個人事業主で異なります。
 今回は、個人事業主が受け取る預貯金(事業用)の利息をピックアップして、その会計処理等について所得税法上と消費税法上の取扱いについて確認します。

1.法人は「受取利息」個人は「事業主借」

 例えば、預貯金口座に500円の利息が振り込まれたとします。この場合、法人では貸方の勘定科目を「受取利息」で会計処理をしますが、個人事業主の場合は「事業主借」で会計処理をします。
 これは、所得税法上は、預貯金の利息は事業所得ではなく「利子所得」に区分されるからです。「受取利息」で仕訳をすると預貯金の利息が事業所得の収入金額となってしまいますので、「事業主借」で仕訳をして事業所得の計算に預貯金利息を反映させないようにします。

2.「事業主借」の消費税課税区分

 勘定科目は「事業主借」にしますが、ここで気になるのが、「事業主借」の消費税課税区分(課税、非課税、免税、不課税)です。
 個人事業主が課税事業者で原則課税を適用している場合、課税売上割合を算定しなければなりません。
 受取利息の課税区分は、法人でも個人事業主でも非課税売上です。一般的に、会計ソフトでは「事業主借」勘定は不課税(対象外)で初期設定されていることが多いと思われますが、入力の際には、非課税売上に変更することを忘れないようにしなければなりません。
 所得税法上は「事業主借」として事業所得の計算から除外した預貯金利息ですが、消費税法上は事業付随行為(消費税法基本通達5-1-7)として消費税の計算に反映させなければなりません。

5-1-7 令第2条第3項《付随行為》に規定する「その性質上事業に付随して対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」には、例えば、事業活動の一環として、又はこれに関連して行われる次に掲げるようなものが該当することに留意する。
・・・・・・
(4) 利子を対価とする事業資金の預入れ

3.預貯金利息に係る源泉所得税等

 預貯金の利息が口座に振り込まれる際には、次の税金が差し引かれます。

(1) 所得税及び復興特別所得税:15.315%
(2) 道府県民税利子割:5%

 法人の場合は(1)だけですが、個人事業主の場合は(1)と(2)の合計20.315%が差し引かれます。
 例えば、預金口座に1,000円の利息が振り込まれた場合、差し引かれた税金は次のようになります。

(1) 法人の場合:1,000÷(1-0.15315)≒1,180 1,180×0.15315≒180
(2)個人の場合:1,000÷(1-0.20315)≒1,254 1,254×0.20315≒254

 ここで新たな疑問が生じます。預貯金利息の勘定科目は「事業主借」、その消費税課税区分は「非課税売上」とすることを確認しましたが、その金額は源泉徴収前と源泉徴収後のどちらにすればいいのでしょうか?
 これについては、消費税法基本通達10-1-13(源泉所得税がある場合の課税標準)に次のように規定されています。

10-1-13 事業者が課税資産の譲渡等に際して収受する金額が、源泉所得税に相当する金額を控除した残額である場合であっても、源泉徴収前の金額によって消費税の課税関係を判定するのであるから留意する。

 この通達から、消費税法上非課税売上として計上すべき受取利息の金額は、源泉徴収前の金額ということになります。
 したがって、個人事業主が預貯金の利息を受け取ったときは、勘定科目は「事業主借」、消費税課税区分は「非課税売上」、金額は「源泉徴収前」で会計処理をします。

 例えば、上記の例(源泉徴収後の利息1,000円が口座に振り込まれたとき)の個人事業主の仕訳を示すと、次のようになります(カッコ内は消費税課税区分)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金
(対象外)
1,000 事業主借
(非課税売上)
1,254
事業主貸
(対象外)
254    

 所得税法上は、次のように源泉徴収後の金額で仕訳しても問題はありません。消費税法上も免税事業者であれば問題ありませんが、課税事業者の場合は、消費税額に与える影響は小さいかもしれませんが、厳密には上記のように仕訳します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金
(対象外)
1,000 事業主借
(非課税売上)
1,000

インボイス制度導入後の個人(消費者)からの仕入れに係る仕入税額控除

1.個人からの仕入れが多い事業者には例外措置あり

 2023(令和5)年10月1日から適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」といいます)が導入されます。インボイス制度が導入されると、免税事業者や消費者など、適格請求書発行事業者以外の者からの仕入れは、原則として仕入税額控除の適用を受けることができません。
 インボイス制度導入から6年間は、区分記載請求書等と同様の記載事項が記載された請求書と帳簿を保存することにより、仕入税額相当額の一定割合を控除することができる経過措置が設けられますが、2029(令和11)年10月1日からは仕入税額控除ができないことになります(経過措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照ください)。
 経過措置があるとはいえ、最終的には免税事業者や消費者からの仕入れは、原則として仕入税額控除の対象外となります。
 もし、取引の相手方である免税事業者が、インボイス制度の下で取引から排除されることを懸念して自ら課税事業者(適格請求書発行事業者)になるとしたら、この仕入税額控除という問題は解消される可能性があります。
 しかし、事業を行っていない消費者は、そもそも課税事業者(適格請求書発行事業者)になることができませんし、なろうともしないと思われます。
 そのため、例えば、個人からマイホームやマイカーを買い取ることが多い不動産業者や中古車販売業者などは、取引の相手方が課税事業者(適格請求書発行事業者)になれば・・・ということを期待できません。
 このような不動産業者や中古車販売業者には、原則課税との有利不利を度外視して簡易課税を選択するという方策も残されていますが、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えてしまうと簡易課税も選択できません。
 そこで、これらのことを踏まえて、個人(消費者)からの仕入れが多い事業者には、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるとする次の例外的な措置が講じられています。

2.帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合

 インボイス制度の下では、帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の要件ですが、以下の取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除の要件を満たすことになります。

(1) 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
(2) 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引((1)に該当するものを除きます)
(3) 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の購入
(4) 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の取得
(5) 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります)の購入
(6) 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産(古紙、空びん、廃自動車、廃家電製品等に該当するものに限ります)の購入
(7) 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等
(8) 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります)
(9) 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

 これらの取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められますが、「一定の事項」とはどのようなものでしょうか?

3.帳簿への一定の記載事項

 帳簿及び請求書等の保存を要せず帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる場合には、帳簿について、通常必要な記載事項に加え、次の事項の記載が必要となります。

(1) 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨
 例えば、上記2(1)に該当する場合は「3万円未満の鉄道料金」、上記2(2)に該当する場合は「入場券等」など。
(2) 仕入れの相手方の住所又は所在地
 ただし、次の者からの仕入れについては、「 仕入れの相手方の住所又は所在地 」を記載する必要はありません。

① 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送について、その運送を行った者
② 適格請求書の交付義務が免除される郵便役務の提供について、その郵便役務の提供を行った者
③ 課税仕入れに該当する出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)を支払った場合の当該出張旅費等を受領した使用人等
④ 上記2(3)の古物の購入の相手方(古物営業法により、業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限ります)
⑤ 上記2(4)の質物の取得の相手方(質屋営業法により、業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限ります)
⑥ 上記2(5)の建物の購入の相手方(宅地建物取引業法により、業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限ります)
⑦ 上記2(6)の再生資源及び再生部品の購入の相手方(事業者以外の者から受けるものに限ります)

 例えば、古物営業を営む場合、古物営業法において、商品を仕入れた際の対価の総額が1万円以上(税込み)の場合には、帳簿(いわゆる「古物台帳」)に「①取引年月日、②古物の品目及び数量、③古物の特徴、④相手方の住所、氏名、職業及び年齢、⑤相手方の確認方法」を記載し、保存しなければならないこととされています。
 一方、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合の帳簿の記載事項は、「①課税仕入れの相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地、②課税仕入れを行った年月日、③課税仕入れに係る資産又は役務の内容、④課税仕入れに係る支払対価の額、⑤帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨」ですが、古物台帳には①から④の事項が記載されていることになります。
 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合の帳簿の記載事項としては、⑤の事項も必要となるため、古物台帳と⑤の事項について記載した帳簿(総勘定元帳等)を合わせて保存することで、帳簿の保存要件を満たすことができます。


インボイス制度導入で課税事業者の17%が免税事業者との取引を見直す意向

 2023(令和5)年10月1日にインボイス制度が導入されます。インボイス制度導入時に想定される免税事業者の取引への影響等について日本商工会議所が調査を行い、その結果を「中小企業における新型コロナウイルス感染拡大・消費税率引上げの影響調査結果」として2020(令和2)年10月9日に公表しています。
 今回は、その内容について見ていきます。

1.調査概要・回答企業の属性

 今回の調査の概要と回答企業の属性は次のとおりです。

出所:日本商工会議所『中小企業における新型コロナウイルス感染拡大・消費税率引上げの影響調査結果』

2.インボイス制度導入への準備状況

 導入までまだ時間があるためか(調査は2020(令和2)年6月29日~7月22日に実施)、全体の約66%の事業者がインボイス制度導入に向けて特に準備を行っていない状況です。
 特に「売上高1,000万円以下の事業者」については約77%で準備を行っておらず、小規模な事業者ほど準備が進んでいない傾向があります。

出所;日本商工会議所『中小企業における新型コロナウイルス感染拡大・消費税率引上げの影響調査結果』

3.インボイス制度導入後の免税事業者との取引

 インボイス制度導入後の対応予定(免税事業者との取引)については、課税事業者の約17%が「免税事業者との取引は(一切または一部)行わない」「経過措置の間は取引を行う」と回答し、免税事業者との取引を見直す意向を示しています(経過措置については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照ください)。
 課税事業者への転換については、免税事業者の約20%は「課税事業者になる予定(経過措置後を含む)」と回答し、前回調査結果(2019(令和1)年5月)の約10%より倍増しています。一方、約58%の事業者は「まだ分からない」と回答し、対応を決めかねている状態です。
 また、「要請があれば課税事業者になる予定」の免税事業者は約11%であるのに対し、課税事業者になるよう「要請を受けた」ことがあったり、課税事業者か「確認された」ことがある免税事業者は約7%となっています。

出所:日本商工会議所『中小企業における新型コロナウイルス感染拡大・消費税率引上げの影響調査結果』

4.免税事業者が課税転換する際の課題等

 インボイス制度導入を機に免税事業者が課税事業者に転換する際の課題については、「売上が確保できるか分からない」が約50%、次いで「制度が複雑で事務負担に対応できない」が約39%、「資金繰りが難しい」が約36%となっています。
 また、免税事業者の約42%は直近1年前の税引前利益が収支均衡以下となっており、さらに免税事業者の受注・販売先数は約37%が5社(者)未満であることから、取引先の減少は経営に与える影響が大きいと言えます。

出所;日本商工会議所『中小企業における新型コロナウイルス感染拡大・消費税率引上げの影響調査結果』

賃貸用マンションの修繕積立金は支払期日に必要経費算入可、意外な盲点は管理費の消費税の取扱い

 分譲マンションのオーナー(区分所有者)が、転勤等のため長期間自室を留守にする場合、賃貸に出して家賃収入を得ることがあります。
 賃貸に出した場合でも、修繕積立金と管理費をマンション管理組合に支払うのは、オーナーである区分所有者です(家賃に転嫁して賃借人の負担とするかどうかは別として)。
 今回は、修繕積立金を必要経費に算入する時期の確認と、意外な盲点である(間違った処理が多い)管理費の消費税の取扱いを確認します。

1.原則は修繕完了時に必要経費算入

 修繕積立金は、原則として、実際に修繕等が行われその修繕等が完了した日の属する年分の必要経費になります。
 修繕積立金は、マンションの共用部分について行う将来の大規模修繕等の費用の額に充てられるために長期間にわたって計画的に積み立てられるものであり、実際に修繕等が行われていない限りにおいては、具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していないことから、原則的には、管理組合への支払期日の属する年分の必要経費には算入されず(所得税基本通達37-2)、実際に修繕等が行われ、その費用の額に充てられた部分の金額について、その修繕等が完了した日の属する年分の必要経費に算入されることになります。

2.一定の場合は支払期日に必要経費算入可

 しかしながら、修繕積立金は区分所有者となった時点で、管理組合へ義務的に納付しなければならないものであるとともに、管理規約において、納入した修繕積立金は、管理組合が解散しない限り区分所有者へ返還しないこととしているのが一般的です(マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省)第60条第6項)。
 そこで、修繕積立金の支払がマンション標準管理規約に沿った適正な管理規約に従い、次の事実関係の下で行われている場合には、その修繕積立金について、その支払期日の属する年分の必要経費に算入しても差し支えないものとされています。

(1) 区分所有者となった者は、管理組合に対して修繕積立金の支払義務を負うことになること
(2) 管理組合は、支払を受けた修繕積立金について、区分所有者への返還義務を有しないこと
(3) 修繕積立金は、将来の修繕等のためにのみ使用され、他へ流用されるものでないこと
(4) 修繕積立金の額は、長期修繕計画に基づき各区分所有者の共有持分に応じて、合理的な方法により算出されていること

3.管理費の消費税課税区分は不課税!

 不動産所得の計算上、修繕積立金を必要経費に算入する時期については上記のとおりです。また、管理費については、支払期日に必要経費に算入することに関して疑義は生じません。
 しかし、マンション管理組合に支払う管理費の消費税課税区分には要注意です。支払った管理費の課税区分を「課税仕入」としているケースが多いのですが、これは間違いです。
 マンション管理組合は、その居住者である区分所有者を構成員とする組合であり、その組合員との間で行う取引は営業に該当しません。したがって、マンション管理組合に支払う管理費の消費税課税区分は「不課税(課税対象外)」となります。
 区分所有者が支払う管理費が、マンション管理組合を介して、マンションを管理する不動産業者に渡るとしても、現行の消費税法では不課税となります。

登記情報提供サービスの利用料に消費税は含まれる!

1.登記情報提供サービスとは?

 登記情報提供サービスは,登記所が保有する登記情報をインターネットを使用してパソコンの画面上で確認できる有料サービスです。
 ここで提供される登記情報には、①不動産登記情報(全部事項、所有者事項)、②地図情報、③図面情報、④商業・法人登記情報、⑤動産譲渡登記事項概要ファイル情報及び債権譲渡登記事項概要ファイル情報があり、利用者が請求した時点において登記所が保有する登記情報と同じ情報です。
 しかし,このサービスは「閲覧」と同等のサービスであり,登記事項証明書とは異なり,証明文や公印等は付加されません。したがって、ここで取得した登記情報には証明力がないため、金融機関や税務署に対して提出することはできません。
 とはいえ、信用調査やM&Aの財務デューデリジェンスの調査を行う場合や、不動産会社が物件調査を行う場合など、証明力はなくてもいいのですぐに情報が欲しい際にはよく利用されます。

2.利用料の一部に消費税が含まれる

 この登記情報提供サービスの利用料は、行政サービスに係る手数料として、消費税は非課税となります。
 ところが、厳密に区分すると、この利用料には民事法務協会の手数料(14円)が含まれており、この協会手数料は非課税ではなく課税取引となります(つまり、消費税が含まれています)。
 課税部分の金額が僅少なこともあり、また、課税部分と非課税部分に分ける煩雑さを考えると、全額を非課税として経理(勘定科目は「支払手数料」など)されていることが多いと思われます。
 ちなみに、2019(令和1)年10月1日以降の登記情報提供サービスの利用料金は、以下のようになっています。

提供される情報の名称 内容 利用料金※
不動産登記情報 全部事項 334円(333円)
所有者事項 144円(143円)
地図 364円(363円)
図面 364円(363円)
商業・法人登記情報 全部事項 334円(333円)
動産譲渡登記事項概要ファイル情報 現在事項・閉鎖事項 144円(143円)
債権譲渡登記事項概要ファイル情報 現在事項・閉鎖事項 144円(143円)

※ 利用料金は,国に納める登記手数料と協会手数料(14円)の合計額です。登記手数料は、登記手数料令第13条により定められた金額で消費税はかかりません。協会手数料は,消費税及び地方消費税込みです。
 (  )内の料金は,消費税不課税対象者(利用者の住所等が日本国外にある場合に,消費税法の課税対象外となり消費税が課されない方)の利用料金です。

控除対象外消費税額等の処理

1.控除対象外消費税額等とは

 法人又は個人事業者が、消費税等の経理方法として税抜経理方式を採用している場合、原則として納付すべき消費税額は、仮受消費税等から仮払消費税等を控除した金額となります(いわゆる消費税差額は、原則的には生じません)。
 しかし、その課税期間の課税売上高が5億円超又は課税売上割合が95%未満である場合には、仮払消費税等のうち控除対象とされない部分の消費税額(消費税差額)が発生します。これを控除対象外消費税額等といいます。
 控除対象外消費税額等が生じるのは、仕入控除税額が課税仕入れ等に係る消費税額の全額ではなく、課税売上割合に対応した部分に限られるからです。
 例えば、建物を5,500万円(うち消費税額等500万円)で取得し、その課税期間の課税売上割合が60%だとしたら、500万円×(1-60%)=200万円が控除対象外消費税額等になります。
 この控除対象外消費税額等については、以下に掲げる方法により処理します。なお、税込経理方式を採用している場合は、消費税等は資産の取得価額又は経費の額に含まれますので、控除対象外消費税額等の調整は必要ありません。

2.資産に係る控除対象外消費税額等

 資産に係る控除対象外消費税額等は、次のいずれかの方法により損金の額又は必要経費に算入します。

(1) 資産の取得価額に算入します。

(2) 次のいずれかに該当する場合は、法人については損金経理を要件としてその事業年度の損金の額に、個人事業者はその年分の必要経費に算入します。

① その事業年度又は年分の課税売上割合が80%以上であること
② 棚卸資産に係る控除対象外消費税額等であること
③ 一の資産に係る控除対象外消費税額等が20万円未満であること

(3) 上記に該当しない場合は「繰延消費税額等」として資産計上し、5年以上の期間で償却します。

① 繰延消費税額等が生じた事業年度
 損金算入限度額=繰延消費税額等×その事業年度の月数/60×1/2

②その後の事業年度
 損金算入限度額=繰延消費税額等×その事業年度の月数/60

 例えば、200万円の繰延消費税額等が生じた場合、その生じた事業年度の損金算入限度額は、200万円×12/60×1/2=20万円となります(資産を取得した事業年度は2分の1が損金となります)。
 この場合、会計上は消費税差額200万円を全額雑損失(又は租税公課)で処理することは可能ですが、法人税の計算においては別表十六(十)で損金算入限度額20万円を計算し、限度額20万円を超える額180万円については別表四で加算します。そして、次期以降5年間にわたり180万円を認容していく必要があります。

3.経費に係る控除対象外消費税額等

 経費に係る控除対象外消費税額等は、その全額をその事業年度の損金の額又はその年分の必要経費に算入します。
 ただし、法人税の計算において、交際費等に係る控除対象外消費税額等については、消費税の計算後、会計上は経費に係る分として雑損失(又は租税公課)で処理され損金経理されますが、科目は交際費とはならなくても支出した交際費等として把握し、交際費等の損金不算入の計算が必要になります。
 この場合、交際費等に係る控除対象外消費税額等の金額を、別表十五(交際費等の損金算入に関する明細書)の「支出交際費等の額の明細」欄に、交際費自体の額とは別に記載しなければなりません。
 また、課税資産を購入して寄附した場合の控除対象外消費税額等については、支出寄附金等の額として、寄附金等の損金不算入額を計算しなければなりません。
 なお、交際費等に係る控除対象外消費税額等は、以下のようになります。

(1) 個別対応方式で計算している場合

① 課税売上対応の交際費に係る税額については、控除対象外消費税額等は生じません。
② 非課税売上対応の交際費に係る税額については、その全額が控除対象外消費税額等になります。
③ 共通対応の交際費に係る税額については、交際費等のうち次の算式で計算した金額が控除対象外消費税額等になります。
 控除対象外消費税額等=共通対応の交際費に係る税額×(1-課税売上割合)

(2) 一括比例配分方式で計算している場合

 交際費等のうち、次の算式で計算した金額が控除対象外消費税額等になります。
 控除対象外消費税額等=交際費に係る税額×(1-課税売上割合)

事業者が経費支払時にポイントを使用した場合の経理処理

 VISAやJCBなどのクレジットカードで買い物をすると、利用金額に応じてポイントが付与されます。このポイントは、次回以降の買い物の際に購入代金に充てることができます。
 今回は、事業者(法人、個人)が経費支払時にこのようなポイントを使用した場合の経理処理について確認します。
 なお、一般消費者である個人がポイントを使用したときの課税関係については、本ブログ記事「個人が商品購入時に取得又は使用したポイントは所得税の課税対象となるか?」をご覧ください。
 

1.事業者が法人の場合

 法人がポイントで経費を支払った場合の経理処理は、次のいずれかの方法によります(消費税の会計処理は税込方式とします)。

(1) 値引処理(ポイント使用後の支払金額を経費算入する処理)

〇月〇日 消耗品11,000円をクレジットカードで購入した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 11,000 未払金 11,000

△月△日 〇月〇日の購入代金11,000円が決済され、110円分のポイントが付与された。

借方 金額 貸方 金額
未払金 11,000 現金預金 11,000

◇月◇日 消耗品5,500円をクレジットカードで購入し、△月△日に付与された110円分のポイントを使用した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 5,390 未払金 5,390

※ ポイント使用後の金額(5,500-110=5,390)を経費算入します。

(2) 両建処理(ポイント使用前の支払金額を経費算入し、ポイント使用額を雑収入に計上する処理)

〇月〇日 消耗品11,000円をクレジットカードで購入した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 11,000 未払金 11,000

△月△日 〇月〇日の購入代金11,000円が決済され、110円分のポイントが付与された。

借方 金額 貸方 金額
未払金 11,000 現金預金 11,000

◇月◇日 消耗品5,500円をクレジットカードで購入し、△月△日に付与された110円分のポイントを使用した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 5,500 未払金 5,390
    雑収入 110

※ ポイント使用前の金額(5,500)を経費算入し、ポイント使用額(110)を雑収入に計上します。雑収入の消費税課税区分は不課税です。

2.事業者が個人(個人事業主)の場合

 個人事業主がポイントで経費を支払った場合の経理処理は、法人より少し複雑です。
 個人事業主には一般消費者としての側面と事業者としての側面がありますが、クレジットカードの利用で貯まったポイントも、プライベートで貯まったものと事業で貯まったものがあります。
 事業で貯まったポイントを使用した場合の経理処理は、法人の場合と同様に値引処理と両建処理のいずれかの方法によります(両建処理における雑収入の所得区分は事業所得、消費税課税区分は不課税となります)。
 プライベートで貯まったポイントを事業で使用した場合の経理処理は、次のようになります。

〇月〇日 消耗品11,000円をクレジットカードで購入した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 11,000 未払金 11,000

△月△日 〇月〇日の購入代金11,000円が決済され、110円分のポイントが付与された。

借方 金額 貸方 金額
未払金 11,000 現金預金 11,000

◇月◇日 消耗品5,500円をクレジットカードで購入し、△月△日に付与された110円分のポイントを使用した。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 5,500 未払金 5,390
    事業主借 110

プライベートで貯まったポイントを使用したときは、使用前の金額(5,500)を経費算入し、ポイント使用額を事業主借とします。ポイント使用額は一時所得の課税対象になることもありますので、雑収入ではなく事業主借で処理して事業所得の収入金額に算入しないようにします。

 プライベートで貯まったポイントを事業で使用した場合の経理処理は、上記のようになります。このような処理は、プライベート用と事業用のクレジットカードを分けるなどして、ポイントが区分できることが前提です。
 しかし、現実的にはプライベートで貯まったポイントなのか事業で貯まったポイントなのかを区分することは煩雑であり、ポイント使用額を雑収入とするのか事業主借とするのか判断しかねることもあります。また、雑収入とすべきものを事業主借とすると、税務調査の際にポイント使用額分の課税漏れを指摘される懸念もあります。
 このような場合は、簡易的な処理として、ポイント使用後の金額を経費に算入する次の処理でも問題ありません(値引処理と同じになります)。

借方 金額 貸方 金額
消耗品費 5,390 未払金 5,390

インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)

 消費税のインボイス制度は、適格請求書等保存方式として、2023年(令和5年)10月1日から導入されます。
 インボイス制度の下では、適格請求書等の保存と帳簿の保存が仕入税額控除の要件とされているため、適格請求書発行事業者になることができない免税事業者が取引から排除される可能性があることが懸念されています。
 そこで、激変緩和の趣旨から、インボイス制度導入後6年間は、免税事業者からの仕入れであっても一定割合の仕入税額控除が認められる措置が講じられています。
 今回は、免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)について確認します。

1.区分記載請求書等保存方式と適格請求書等保存方式の異同点

 次の表は、区分記載請求書等保存方式と適格請求書等保存方式の記載事項等の異同点を比較したものです。

  区分記載請求書等保存方式 適格請求書等保存方式
期間 令和元年10月1日~令和5年9月30日 令和5年10月1日以降
帳簿 ①課税仕入れの相手方の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容(軽減対象資産の譲渡等である旨)
④対価の額
同左

請求書等 ①請求書発行者の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容(軽減対象資産の譲渡等である旨)
④税率ごとに区分して合計した税込対価の額
⑤請求書受領者の氏名又は名称
①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
②取引年月日
③取引の内容(軽減対象資産の譲渡等である旨)
④税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
税率ごとに区分した消費税額等
⑥請求書受領者の氏名又は名称
税額控除 免税事業者からの仕入れも控除可 免税事業者からの仕入れは控除不可

2.免税事業者からの仕入れは控除不可

 現行の区分記載請求書等保存方式の下では事業者登録制度がないため、取引相手が課税事業者であるか免税事業者であるかを知ることはできません。そのため、免税事業者や消費者からの仕入れであっても、その取引が課税仕入れに該当するのであれば仕入税額控除が認められています。
 一方、適格請求書等保存方式は事業者登録制度を基礎としているため、適格請求書発行事業者になることができない免税事業者は、請求書等に登録番号を記載することができません。そのため、課税仕入れを行った事業者は、登録番号の記載のない請求書等を受け取ることによって、取引相手が免税事業者であることを知ります。
 適格請求書等が交付されない課税仕入れは、仕入税額控除の対象から除外しなければなりませんので、課税事業者は消費税の計算上不利となる免税事業者との取引を控える可能性があります。

3.免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)

 上記のように、インボイス制度導入後は免税事業者が取引から排除される可能性がありますが、激変緩和の趣旨から、導入後6年間は適格請求書等保存方式において仕入税額控除が認められない課税仕入れであっても、区分記載請求書等保存方式において仕入税額控除の対象となるものについては、次の割合で仕入税額控除が認められます。

期間 割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日までの3年間 仕入税額相当額の 80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日までの3年間 仕入税額相当額の 50%

 この経過措置の適用を受けるためには、帳簿に経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載しておかなければなりません。また、区分記載請求書等と同様の記載事項が記載された請求書等の保存が必要です。
 なお、この経過措置はあくまでも激変緩和措置であって、免税事業者が取引から排除される懸念は残ります。