在職老齢年金制度における年金カットの計算方法(基準額が令和8年4月から62万円に引き上げられます)

 2025(令和7)年6月13日に「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」(以下「年金制度改正法」といいます)が成立しました。

 この年金制度改正法では、社会保険の加入対象者の拡大(いわゆる年収106万円の壁の撤廃)、在職老齢年金制度や遺族年金制度の見直しなどが行われています。

 以下では、これらのうち在職老齢年金制度の見直しについて確認します。

1.日本の公的年金制度の概要

出所:日本年金機構ホームページ

 日本の年金制度は、国民年金と厚生年金の2階建てになっています。

 1階部分は日本に住む20歳以上60歳未満の人全員が加入する国民年金(基礎年金)、2階部分は企業などに勤務している会社員や公務員などが加入する厚生年金です。
 2階部分の厚生年金に加入している人は、同時に1階部分の国民年金にも加入していることになるため、給付される年金額が厚くなります。

 年金は原則として65歳から受給できますが、60歳から65歳までの間に繰上げて減額された年金を受け取る「繰上げ受給」や、66歳から75歳までの間に繰下げて増額された年金を受け取る「繰下げ受給」を選択することができます。

2.現行の在職老齢年金制度と年金カット額の計算例

 在職老齢年金制度は、年金を受給しながら働く高齢者について、賃金と老齢厚生年金の合計額が基準(以下「支給停止調整額」といいます)を超えた場合に年金支給額を減額する仕組みです。

 減額されるのは2階建てのうちの2階部分の厚生年金であり、1階部分の国民年金(基礎年金)は減額されません。

 減額される年金支給額(月額)は、次の計算式で求めることができます(2025(令和7)年度の場合)。

支給停止調整額は毎年4月に見直され、2025(令和7)年度は51万円となっています。

【計算式】
・減額される額=(老齢厚生年金の基本月額+総報酬月額相当額-51万円)÷2

【用語の意味】
・老齢厚生年金の基本月額:老齢厚生年金の年額を12で割った金額で、老齢基礎年金や、配偶者、要件を満たした子どもがいるときに加算される加給年金額を除く。
・総報酬月額相当額:(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計を12で割った金額)

 例えば、令和7年8月の老齢厚生年金受給額が月額10万円で、令和7年8月の賃金月額が35万円(標準報酬月額は36万円になります)、令和6年9月から令和7年8月までの1年間で支給された賞与が合計120万円だった場合、減額される年金額は次のようになります。

 減額される額={10万円+(36万円+120万円÷12)-51万円}÷2=2万5千円

 したがって、本来は10万円もらえるはずだった老齢厚生年金が、2万5千円減額されて7万5千円しかもらえないことになります。

3.在職老齢年金制度の見直し

 上記2の現行の在職老齢年金制度が、2025(令和7)年6月13日に成立した年金制度改正法で見直されました。

 具体的には、2026(令和8)年4月から、支給停止調整額が51万円から62万円に引き上げられ、減額される年金支給額(月額)の計算式が次のように変わります。

減額される額=(老齢厚生年金の基本月額+総報酬月額相当額-62万円)÷2

 上記2における例を用いて減額される年金額を計算すると、

 減額される額={10万円+(36万円+120万円÷12)-62万円}÷2=0円

 したがって、令和7年度には減額されていた2万5千円が支給され、本来もらえるはずの老齢厚生年金10万円が満額支給されることになります。

 支給停止調整額は毎年4月に見直され、令和6年度は前年度の48万円から50万円に引き上げられ、令和7年度はは50万円から51万円に引き上げられています。
 令和8年度は51万円から62万円に引き上げられますので、例年になく大幅な改定となっています。

個人事業主が所得税・社会保険の扶養に入るための要件(令和7年度税制改正)

1.年収の壁

 扶養の範囲内で働きたいパートの方は、収入が一定額を超えないように労働調整をする場合があります。
 例えば、夫が配偶者控除38万円の適用を受けられるように、妻はパート先での収入を123万円以下に抑えようとします
 また、夫の社会保険の扶養の範囲内で働きたい場合は、妻はパート先での収入を130万円未満に抑えようとします(パート先の従業員が50人以下の場合)。
 この所得税と社会保険(健康保険・厚生年金)における年収の壁は、いずれも収入額が基準となっていますので、パートで働く給与所得者の場合はわかりやすいと言えます。

 一方、個人事業主として開業しても、事業が軌道に乗るまでは親や配偶者の扶養の範囲内で仕事をしたいという場合があります。
 ここで、個人事業主が扶養に入るための判定基準はどのように考えたらいいのか、という疑問が生じます。
 所得税と社会保険の年収の壁について、個人事業主も給与所得者と同じように収入(年商)で判定することができるのでしょうか、それとも収入から経費を差し引いた所得で判定するのでしょうか?
 結論を先に述べると、個人事業主の所得税と社会保険の年収の壁は、どちらも収入から経費を差し引いた「所得」で判定します。
 以下において、若干の注意点を踏まえながら確認します。

2025(令和7)年度税制改正で、夫が配偶者控除を受けるための妻の年収は、従前の103万円以下から123万円以下に変わりました。その他の年収の壁も変わりましたが、社会保険の年収の壁は変わっていません。詳細については、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください。

2.所得税の扶養の判定は確定申告書の合計所得金額を見る

 所得税における扶養の範囲(扶養親族)は、所得者と生計を一にする親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で合計所得金額が58万円以下の人をいいます(2025(令和7)年度税制改正で、所得要件が合計所得金額58万円以下に変わりました)。
 給与所得だけの場合は、給与の年間収入が123万円以下であれば、合計所得金額が58万円以下になります

 個人事業主の場合は、先に述べたとおり収入から経費を差し引いた所得が58万円以下であれば、扶養に入ることができます。
 58万円以下であるかどうかを判定するにあたっては、次の点に注意が必要です。

(1) 事業所得の他に所得がある場合は、それらの合計額で58万円以下であるかどうかを判定します。
(2) 青色申告者の場合は、青色申告特別控除額を差し引いた後の所得で判定します。
(3) 社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額で判定します。

 つまり、確定申告書第1表の合計所得金額(下図の黄色マーカーを付した⑫欄の数字)が58万円以下であるかどうかを判定します。

2025(令和7)年度税制改正では、基礎控除と給与所得控除が引き上げられたため、扶養親族等の所得要件も変わっています。
 したがって、給与所得だけの場合は、給与の年間収入が123万円以下であれば、合計所得金額が58万円以下になります(給与収入123万円-給与所得控除額65万円=給与所得58万円)。
 詳細については、「扶養親族等の所得要件・住宅借入金等特別控除・生命保険料控除の見直し(令和7年度税制改正)」をご参照ください。
 なお、合計所得金額については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。

3.社会保険の扶養の判定(協会けんぽの場合)

 社会保険(健康保険・厚生年金)の被扶養者に該当する条件は、日本国内に住所(住民票)を有しており、被保険者(扶養する人)により主として生計を維持されていること、および「収入要件」と「同一世帯の条件」のいずれにも該当した場合です(同一世帯の条件の説明は省略します)。

【収入要件】
 年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ
 ・同居の場合は収入が被保険者(扶養する人)の収入の半分未満
 ・別居の場合は収入が被保険者(扶養する人)からの仕送り額未満

 上記の収入要件に関する注意点は、次のとおりです。

(1) 年間収入とは、過去の収入のことではなく、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいいます(給与所得等の収入がある場合は月額108,333円以下、雇用保険等の受給者の場合は日額3,611円以下であれば要件を満たします)。
 また、被扶養者の収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれます。

(2) 収入が被保険者(扶養する人)の収入の半分以上の場合であっても、被保険者(扶養する人)の年間収入を上回らないときで、日本年金機構がその世帯の生計の状況を総合的に勘案して、被保険者(扶養する人)がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認めるときは被扶養者となることがあります。

 このような収入要件がありますが、先に述べたように個人事業主の場合は、収入から経費を差し引いた所得が130万円未満(又は180万円未満)であれば、扶養に入ることができます。
 130万円未満であるかどうかを判定するにあたっては、次の点に注意が必要です。

(1) 事業所得の他に所得がある場合は、それらの合計額で130万円未満であるかどうかを判定します。
(2) 青色申告者の場合は、青色申告特別控除額を差し引く前の所得で判定します。
(3) 社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額で判定します。

 (2)の青色申告特別控除額は、あくまでも税制上の特典ですので、社会保険の扶養を判定する際の所得の算定上は控除できません。それ以外の青色申告決算書に記載した経費は差し引くことができます。

4.社会保険の扶養の判定(健康保険組合の場合)

 上記3で確認した内容は、政府が管掌する全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合です。
 被保険者(扶養する人)の勤め先が、大手企業やグループ企業で構成される健康保険組合に加入している場合は、健康保険組合ごとに収入要件の取扱いが異なります。
 例えば、A健康保険組合の場合は、収入(売上)から差し引ける経費は売上原価のみであるのに対し、B健康保険組合の場合は、売上原価と人件費が差し引ける、などです。
 被保険者(扶養する人)の勤め先が加入しているのは協会けんぽなのか健康保険組合なのか、健康保険組合に加入している場合はどのような扶養条件があるのか、事前に確認しておくことが大事です。

毎年7月10日は事務手続き期限の集中日

 毎年7月10日は、事務手続きの期限が集中します。代表的なものを挙げると、労働 保険(労災保険・雇用保険)の年度更新、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の算定基礎届、納期の特例(源泉所得税)、新年度の特別徴収住民税の納付開始などがあります。

 以下では、これらの手続きの概要について確認します。

1.労働保険の年度更新

 労災保険と雇用保険をあわせて労働保険といいます。

 労働保険の保険料は、前年4月1日から当年3月31日までの1年間を単位として計算し、その額はすべての労働者(雇用保険については被保険者)に支払われる賃金の総額※1に、その事業ごとに定められた保険料率を乗じて算定します※2

 事業主は、新年度の概算 保険料を納付するための申告・納付と、前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付の手続きが必要です。これを年度更新といいます。

 この年度更新の手続きは、毎年6月1日から7月10日までの間(土日祝日を除く)に行わなければなりません。

※1 賃金の総額には、通勤手当等の交通費(非課税分、現物支給の定期代等)を含みます。

※2 2025(令和7)年度の保険料率については、「令和7年度の雇用保険料率が改定されます(労災保険料率・子ども子育て拠出金率は据え置き)」をご参照ください。

2.社会保険の算定基礎届

 健康保険と厚生年金保険をあわせて社会保険といいます。

 事業主は、社会保険の被保険者の実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、7月1日現在で使用している全被保険者の当年3か月間(4月、5月、6月)に支払った給与等を算定基礎届によって届出をする必要があります。

 このように、毎年1回標準報酬月額の見直しを行うことを定時決定といい、見直し後の標準報酬月額は、原則として当年9月から翌年8月までの各月に適用されます。

 算定基礎届(届出用紙)は、6月中旬以降に事業所あてに送付され、5月中旬頃までに届出された被保険者の氏名、生年月日、従前の標準報酬月額等が印字されています※3

 算定基礎届の提出期間は、毎年7月1日から7月10日まで(10日が土曜または日曜の場合は、翌営業日が提出期限)とされています※4

※3 定時決定は、7月1日現在で事業所に在籍している全被保険者(従業員・役員)を対象として行われる標準報酬月額の見直しであるため、6月30日以前に退職・退任した従業員・役員については定時決定の対象外となります。
 したがって、6月30日以前に退職・退任した従業員・役員の情報が印字されている場合には、算定基礎届の「備考」欄の「9 その他」欄に「退職・退任年月」を記入します。

※4 算定基礎届送付時に同封されている返信用封筒により事務センターへ郵送する場合は、7月1日より前に郵送すると事務センターに届かずに戻ってくることがあるようですので、算定基礎届は提出期間内に提出する必要があります。

3.納期の特例

 事業主は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)を、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。

 ただし、給与の支給人員が常時10人未満である事業主は、源泉徴収した所得税等を半年分まとめて納めることができる特例があります。これを納期の特例といいます※5

 この特例の適用を受けていると、その年の1月から6月までに源泉徴収した所得税等は7月10日、7月から12月までに源泉徴収した所得税等は翌年1月20日が、それぞれ納付期限となります。

 ただし、この特例の適用対象となるのは、給与や退職金から源泉徴収をした所得税等と、税理士、弁護士、司法書士などの一定の報酬から源泉徴収をした所得税等に限られています※6

※5 納期の特例については、「納期の特例の要件である「常時10人未満」とは?」、「納期の特例はいつから適用される?」、「納期の特例の要件に該当しなくなった場合の届出と納期限」をご参照ください。

※6 納期の特例の対象とならない外交員報酬などについては、報酬を支払った月の翌月10日までに、源泉徴収した所得税等を納めなければなりません(関連記事:「外交員報酬に係る源泉徴収税額の計算方法」、「ホステス等に支払う報酬・料金の源泉徴収税額の計算方法」、「セミナー講師料を支払った場合の源泉徴収」)。

4.特別徴収した新年度の住民税の納付開始

 特別徴収とは、毎月の給与から差し引いた個人住民税を、事業主(給与支払者)が従業員(納税義務者)に代わり納付する制度で、所得税等の源泉徴収と同じ仕組みのものです。

 特別徴収義務者である事業主は、従業員の給与から個人住民税を毎月天引きして、翌月10日までに納付しなければなりません。

 新年度の個人住民税は6月に支給する給与から特別徴収を開始し、その特別徴収した新年度の個人住民税は、7月10日までに納付しなければなりません。年度が変わって特別徴収する個人住民税の額が変わりますので、注意が必要です。

 なお、毎月納付する手間を減らす方法として、源泉徴収した所得税等と同様に、従業員が常時10人未満である事業主には納期を年2回とする納期の特例が個人住民税にも認められています。

 源泉徴収した所得税等の納期限は7月10日(1月~6月徴収分)と1月20日(7月~12月徴収分)ですが、個人住民税の納期限は6月10日(12月~5月徴収分)と12月10日(6月~11月徴収分)となり、所得税等と個人住民税では納期限が異なります※7

※7 個人住民税を毎月納付する手間を減らすには、納期の特例を受けることになりますが、所得税等と納期限がズレていますので、それを煩雑に感じる場合もあります。
 そのような場合は、1年分(当年6月分~翌年5月分)の納付書を持参して一括納付することができる市区町村もあります。
 特に届出は必要ありませんが、市区町村によって取扱いが異なりますので、事前に市区町村に相談・確認する必要があります。

令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!

 2025(令和7)年度税制改正において、物価上昇局面における税負担の調整や就業調整対策の観点から、所得税の基礎控除や給与所得控除の引き上げ、特定親族特別控除の創設等が行われました※。

 以下では、これらの税制改正により、従前からあった給与所得者の年収の壁がどのように変わったのかについて確認します。

※ 令和7年度税制改正の内容については、「基礎控除・給与所得控除の引き上げと源泉徴収事務・年収の壁への影響(令和7年度税制改正)」、「特定親族特別控除の創設と源泉徴収事務への影響(令和7年度税制改正)」、「扶養親族等の所得要件・住宅借入金等特別控除・生命保険料控除の見直し(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

1.110万円の壁(住民税)

 改正で給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられたことにより、住民税が非課税となる年収が、従前の100万円から110万円に変わりました。

 住民税は、所得金額に応じて課税される「所得割と、定額で課税される「均等割」から成りますが、住んでいる地域や家族構成によって住民税が非課税となる所得金額は異なります。

 例えば、兵庫県宝塚市で均等割が非課税となる所得は、次の算式で算出します。

 35万円×(同一生計配偶者+扶養親族数+本人)+10万円+21万円(同一生計配偶者または扶養親族を有する場合のみ)

 単身の場合は、35万円×1+10万円=45万円が非課税となる所得であり、給与収入に置き換えると110万円(45万円+給与所得控除65万円)となります。

2.123万円の壁(所得税)

 従前の103万円の壁は、年収の壁として広く一般に認識されていたものと思われます。

 改正で基礎控除と給与所得控除最低保障額がそれぞれ10万円ずつ引き上げられたことにより、この103万円の壁が123万円の壁に変わりました。

 また、改正により、配偶者控除や扶養控除の対象となる合計所得金額が48万円以下から58万円以下に変わりましたので、配偶者や扶養親族の年収が123万円以下であれば、配偶者控除や扶養控除の対象となります(給与収入123万円-給与所得控除65万円=58万円)。

 ただし、123万円の壁は配偶者控除や扶養控除の対象となる給与収入を意味するものであり、従前の103万円の壁が持っていた納税者本人に所得税がかからない給与収入という意味はありません。

 納税者本人に所得税がかからない年収の壁については、下記4をご参照ください。

3.150万円の壁(所得税):2つの意味

 従前からあった150万円の壁は、配偶者特別控除について満額の38万円を適用できる年収の壁でしたが、改正により、150万円の壁の意味は以下のように変わりました。

 扶養親族の年収が123万円を超えると扶養控除の対象から外れますので(上記2)、年齢19歳以上23歳未満の扶養親族(以下「大学生年代」といいます)についても、年収が123万円を超えると63万円の扶養控除を適用することができません。

 しかし、大学生年代については、年収が123万円を超えても、令和7年度税制改正で新設された特定親族特別控除を適用することができ、年収が150万円以下であれば、特定親族特別控除について満額の63万円を適用することができます。

 また、大学生年代の年収が150万円を超えても188万円以下であれば、納税者本人は段階的に逓減する特定親族特別控除を受けることができます。

 なお、勤労学生本人が受けられる勤労学生控除の合計所得金額の要件が、改正により従前の75万円以下から85万円以下に変わりましたので、勤労学生本人の給与収入が150万円以下であれば、勤労学生控除27万円を受けることができます(給与収入150万円-給与所得控除65万円=85万円)。

4.160万円の壁(所得税):2つの意味

 改正後の年収160万円の壁については、以下の二つの意味があります。

 第一に、納税者本人に所得税がかからない従前の103万円の壁が、160万円の壁に変わりました。

 改正により基礎控除の10万円の引き上げが行われましたが、さらに低~中所得者層の税負担への配慮から、特例として最大95万円の基礎控除が設けられました。

 したがって、給与所得控除最低保障額65万円と合わせて、年収160万円以下であれば、納税者本人に所得税はかかりません(給与収入160万円-給与所得控除65万円-基礎控除95万円=給与所得0円)。

 第二に、配偶者特別控除について満額の38万円を適用できる年収の壁が、従前の150万円から160万円に変わりました。

 満額の38万円を適用できる合計所得金額の上限は従前どおりの95万円ですが、給与所得控除最低保障額が10万円引き上げられたことにより、配偶者の年収が160万円以下であれば、納税者本人は配偶者特別控除38万円の適用を受けることができます(ただし、納税者の合計所得金額が900万円以下の場合です)。

 また、配偶者の年収が160万円を超えても201万円以下(正確には201万5,999円以下)であれば、納税者本人は段階的に逓減する配偶者特別控除を受けることができます。

5.188万円の壁(所得税)

 大学生年代の年収が150万円を超えると段階的に特定親族特別控除が減っていきますが、年収188万円を超えると特定親族特別控除はゼロとなります(上記3)。

 188万円の壁とは、特定親族特別控除が適用されるか否かの年収の分岐点のことをいい、改正後に新しくできた年収の壁です。

6.201万円の壁(所得税)

 配偶者の年収が160万円を超えると段階的に配偶者特別控除が減っていきますが、年収201万円(正確には201万5,999円)を超えると配偶者特別控除はゼロとなります(上記4)。

 201万円の壁とは、配偶者特別控除が適用されるか否かの年収の分岐点のことをいいますが、改正後もこの部分は変わっていません。

7.106万円の壁(社会保険)

 令和7年度税制改正は社会保険制度には影響がありませんので、社会保険制度上の年収の壁である106万円の壁は従前と変わっていません。

 ①従業員が51人以上(2024(令和6)年10月以降)、②週の労働時間が20時間以上、③月収8.8万円以上(年収106万円以上)、④2か月を超える雇用の見込、⑤学生でない、といった条件を満たす場合は、パートやアルバイトで働く人が自ら社会保険被保険者となり社会保険の扶養から外れます(関連記事「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」)。

8.130万円の壁(社会保険)

 令和7年度税制改正は社会保険制度には影響がありませんので、社会保険制度上の年収の壁である130万円の壁についても従前と変わっていません。

 130万円の壁とは、社会保険被保険者である給与所得者(例えば夫)が扶養する者(例えば妻)については、夫が負担する社会保険料のみで妻の健康保険料及び国民年金保険料まで賄われるという年収の分岐点のことをいいます。

 従業員が51人以上(2024(令和6)年10月以降)の企業では106万円、それより規模の小さい企業では130万円が年収の壁となっています。

令和7年度の雇用保険料率が改定されます(労災保険料率・子ども子育て拠出金率は据え置き)

 2025(令和7)年4月から厚生労働省関係の制度変更が実施されますので、給与計算ソフトを使用している場合等はその設定を見直す必要があります。
 以下では、2025(令和7)年度の雇用保険料率、労災保険料率、子ども・子育て拠出金率について確認します。

1.令和7年度の雇用保険料率

 雇用保険法等の一部を改正する法律の施行により、2025(令和7)年度の雇用保険料率が改定されます(適用開始:2025(令和7)年4月1日)。
 改定前(2025(令和7)年3月まで)と改定後(2025(令和7)年4月~2026(令和8)年3月)の雇用保険料率は、以下のとおりです。

(1) 改定前

事業の種類 一般事業 農林水産業・清酒製造業 建設業
被保険者負担率 6.0/1000 7.0/1000 7.0/1000
事業主負担率 9.5/1000 10.5/1000 11.5/1000
合計負担率 15.5/1000 17.5/1000 18.5/1000

(2) 改定後

事業の種類 一般事業 農林水産業・清酒製造業 建設業
被保険者負担率 5.5/1000 6.5/1000 6.5/1000
事業主負担率 9.0/1000 10.0/1000 11.0/1000
合計負担率 14.5/1000 16.5/1000 17.5/1000


 園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚、内水面養殖及び特定の船員を雇用する事業については、一般事業の率が適用されます。

2.令和7年度の労災保険料率

 労働保険は労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険に分かれますが、改定されるのは雇用保険料率であり、労災保険料率は前年度(2024(令和6)年度)の料率から改定されていません。
 2025(令和7)年度の業種ごとの労災保険料率は、次のとおりです(単位:1/1,000)。

事業の種類の分類 番号 事業の種類 令和7年度料率
林業 02・03 林業 52
漁業 11 海面漁業 18
12 定置網漁業又は海面魚類養殖業 37
鉱業 21 金属鉱業、非金属鉱業又は石炭鉱業 88
23 石灰石鉱業又はドロマイト鉱業 13
24 原油又は天然ガス鉱業 2.5
25 採石業 37
26 その他の鉱業 26
建設事業 31 水力発電施設、ずい道等新設事業 34
32 道路新設事業 11
33 舗装工事業 9
34 鉄道又は軌道新設事業 9
35 建築事業 9.5
38 既設建築物設備工事業 12
36 機械装置の組立て又は据付けの事業 6
37 その他の建設事業 15
製造業 41 食料品製造業 5.5
42 繊維工業又は繊維製品製造業 4
44 木材又は木製品製造業 13
45 パルプ又は紙製造業 7
46 印刷又は製本業 3.5
47 化学工業 4.5
48 ガラス又はセメント製造業 6
66 コンクリート製造業 13
62 陶磁器製品製造業 17
49 その他の窯業又は土石製品製造業 23
50 金属精錬業 6.5
51 非鉄金属精錬業 7
52 金属材料品製造業 5
53 鋳物業 16
54 金属製品製造業又は金属加工業 9
63 洋食器、刃物、手工具又は一般金属製造業 6.5
55 めつき業 6.5
56 機械器具製造業 5
57 電気機械器具製造業 3
58 輸送用機械器具製造業 4
59 船舶製造又は修理業 23
60 計量器、光学機械、時計等製造業 2.5
64 貴金属製品、装身具、皮革製品等製造業 3.5
61 その他の製造業 6
運輸業 71 交通運輸事業 4
72 貨物取扱事業 8.5
73 港湾貨物取扱事業 9
74 港湾荷役業 12
電気、ガス、水道又は熱供給の事業 81 電気、ガス、水道又は熱供給の事業 3
その他の事業 95 農業又は海面漁業以外の漁業 13
91 清掃、火葬又はと畜の事業 13
93 ビルメンテナンス業 6
96 倉庫業、警備業、消毒又は害虫駆除の事業又はゴルフ場の事業 6.5
97 通信業、放送業、新聞業又は出版業 2.5
98 卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業 3
99 金融業、保険業又は不動産業 2.5
94 その他の各種事業 3
船舶所有者の事業 90 船舶所有者の事業 42

3.令和7年度の子ども・子育て拠出金率

 2025(令和7)年度の子ども・子育て拠出金率は据え置きとなり、2024(令和6)年度の拠出金率(3.600/1000)から改定はありません。

令和7年3月分(4月納付分)から健康保険料率と介護保険料率が改定されます(協会けんぽ)

 2025(令和7)年度の全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険料率および介護保険料率が3月分(4月納付分)から改定されますので、以下で確認します

※ 組合管掌健康保険については、健康保険組合ごとに改定時期・保険料率が決定されていますので、詳細は加入している健康保険組合にご確認ください。

1.健康保険料率

 全国健康保険協会(協会けんぽ)の健康保険料率は、都道府県ごとに異なります。

 2025(令和7)年度の保険料率の全国平均は10.00%であり、保険料率の高い都道府県は、佐賀県(10.78%)、徳島県(10.47%)、長崎県(10.41%)、保険料率の低い都道府県は、沖縄県(9.44%)、新潟県(9.55%)、岩手県・福島県(9.62%)となっています。

出所:全国健康保険協会ホームページ















 令和7年度と前年度(令和6年度)の各都道府県の保険料率は下表のようになっており、3月分(4月納付分)から適用されます。

  令和7年度 令和6年度
北海道 10.31% 10.21%
青森県 9.85% 9.49%
岩手県 9.62% 9.63%
宮城県 10.11% 10.01%
秋田県 10.01% 9.85%
山形県 9.75% 9.84%
福島県 9.62% 9.59%
茨城県 9.67% 9.66%
栃木県 9.82% 9.79%
群馬県 9.77& 9.81%
埼玉県 9.76% 9.78%
千葉県 9.79% 9.77%
東京都 9.91% 9.98%
神奈川県 9.92% 10.02%
新潟県 9.55% 9.35%
富山県 9.65% 9.62%
石川県 9.88% 9.94%
福井県 9.94% 10.07%
山梨県 9.89% 9.94%
長野県 9.69% 9.55%
岐阜県 9.93% 9.91%
静岡県 9.80% 9.85%
愛知県 10.03% 10.02%
三重県 9.99% 9.94%
滋賀県 9.97% 9.89%
京都府 10.03% 10.13%
大阪府 10.24% 10.34%
兵庫県 10.16% 10.18%
奈良県 10.02% 10.22%
和歌山県 10.19% 10.00%
鳥取県 9.93% 9.68%
島根県 9.94% 9.92%
岡山県 10.17% 10.02%
広島県 9.97% 9.95%
山口県 10.36% 10.20%
徳島県 10.47% 10.19%
香川県 10.21% 10.33%
愛媛県 10.18% 10.03%
高知県 10.13% 9.89%
福岡県 10.31% 10.35%
佐賀県 10.78% 10.42%
長崎県 10.41% 10.17%
熊本県 10.12% 10.30%
大分県 10.25% 10.25%
宮崎県 10.09% 9.85%
鹿児島県 10.31% 10.13%
沖縄県 9.44% 9.52%

※ 40歳から64歳までの方(介護保険第2号被保険者)は、これに全国一律の介護保険料率(1.59%)が加わります。
 
 これらの料率改定を反映した令和7年度の各都道府県ごとの「保険料額表」については、全国健康保険協会ホームページをご参照ください。

2.介護保険料率

 介護保険料率は、16.0/1000(1.60%)から15.9/1000(1.59%)に改定されます。

  令和7年度 令和6年度
介護保険料率 15.9/1000(1.59%)
従業員:7.950/1000
事業主:7.950/1000
16.0/1000(1.60%)
従業員:8.000/1000
事業主:8.000/1000

3.給与計算ソフトの保険料率改定時期

 給与計算ソフトの健康保険料と介護保険料の料率を改定(変更)するタイミングは、事業所によって異なります。

 その事業所が新しい保険料率で徴収する給与の支給月に、保険料率の変更を行います。具体的には次のとおりです。

(1) 当月徴収の場合
 3月分保険料を「3月支給給与」で徴収する「当月徴収」の場合は、3月に支給する給与から保険料率を変更します。

(2) 翌月徴収の場合
 3月分保険料を「4月支給給与」で徴収する「翌月徴収」の場合は、4月に支給する給与から保険料率を変更します。

(3) 翌々月徴収の場合
 3月分保険料を「5月支給給与」で徴収する「翌々月徴収」の場合は、5月に支給する給与から保険料率を変更します。

後期高齢者の医療費の自己負担割合(1割・2割・3割)の判定基準となる所得額はいくら?

 後期高齢者医療制度は、75歳(一定の障害があり申請により認定を受けた65歳)以上の人が対象となる医療保険制度です。

 75歳以上の後期高齢者は、病気やケガで診療を受けるときは、被保険者証を医療機関の窓口で提示して、かかった医療費の1割・2割・3割のいずれかを負担します。

 この窓口での自己負担割合は、毎年8月1日に当該年度の住民税課税所得額に基づき判定されます。

 令和7年度(令和7年8月~令和8年7月)の医療費自己負担割の場合は、令和7年度の住民税課税所得額と令和6年中の収入金額で判定されますので、令和6年分の所得税確定申告の内容が大きくかかわってきます。

 例えば、配当所得のある後期高齢者が、配当から源泉徴収された所得税の還付を受けるため配当所得を総合課税で申告したら、医療費の自己負担割合が1割から2割に上がってしまったという事例をよく耳にします。

 配当所得は課税方法(総合課税・申告分離課税・申告不要)の選択ができますので、所得税だけではなく医療費の自己負担割合も考慮すると、結局は確定申告しない方がよかったということもあります(関連記事:「配当所得に係る総合課税・申告分離課税・申告不要制度の選択上の注意点」)。

 このような事態を避けるため、後期高齢者の医療費の自己負担割合を決定する所得ライン(所得の判定基準)がどれくらいであるのかについて知っておくことは有意義だと思われますので、以下で確認します。

1.住民税課税所得額とは?

 先述したように、後期高齢者の医療費の自己負担割合は、毎年8月1日に当該年度の住民税課税所得額に基づき決定されます。

 住民税課税所得額とは、年金や給与、配当などの「収入金額」からそれぞれ公的年金等控除額や給与所得控除額、必要経費などを差し引いて各「所得金額」(給与所得、雑所得、配当所得など)を求め、その合計である「総所得金額」から「所得から差し引かれる金額」(社会保険料控除、医療費控除、扶養控除、基礎控除などの所得控除)を差し引いた後の金額をいいます(総所得金額については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください)。
 
 この住民税課税所得額(課税標準の合計)は、住民税を自分で納めている人(普通徴収の人)の場合は、市(区)町から送付される「納税通知書」で確認できます。

 また、給与所得者のうち給与天引きで納税している人(特別徴収の人)の場合は、会社などを通じて交付される「給与所得等に係る市・県民税特別徴収税額決定通知書」で確認することができます。

 なお、所得税と住民税で基礎控除額などが異なるため(令和6年度基礎控除:所得税48万円、住民税43万円など)、確定申告書に記載されている「課税される所得金額」と住民税の課税所得額の金額が異なりますので注意が必要です。

2.自己負担割合を決定する所得基準

 後期高齢者の医療費の自己負担割合が1割・2割・3割となる所得区分と判定基準(所得基準)は、次のとおりです。

負担割合 所得区分 判定基準
3割 現役並み所得者 同一世帯に住民税課税所得額145万円以上の後期高齢者医療の被保険者がいる人
2割 一般Ⅱ 以下の(1)(2)の両方に該当する人
(1)同一世帯に住民税課税所得額が28万円以上145万円未満の後期高齢者医療の被保険者がいる人
(2)「年金収入」+「その他の合計所得金額」の合計額が
・被保険者が1人……………200万円以上
・被保険者が2人以上………合計320万円以上
1割 一般Ⅰ・低所得 同一世帯の後期高齢者医療の被保険者全員が住民税課税所得額28万円未満の場合、または上記(1)に該当するが(2)には該当しない人

 なお、住民税課税所得額が145万円以上の人でも、下に記載している基準収入額適用申請により条件を満たす人は、3割負担の対象外となります。

3.基準収入額適用申請で3割負担の対象外

 自己負担割合が3割と判定された人であっても、収入額が一定の基準に満たない場合は、申請により3割負担の対象外となります。

 収入基準に該当するかどうかについては、下表をご参照ください。

同一世帯の被保険者数 収入額による判定基準
被保険者が1人 以下の条件のうち、どちらかにあてはまる人
(1)被保険者の前年の収入額が383万円未満
(2)同一世帯に70歳以上75歳未満の人がいる場合は、被保険者と70歳以上75歳未満の人全員の前年の収入合計額が520万円未満
被保険者が2人以上 本人及び同一世帯の被保険者の前年の収入合計額が520万円未満

 収入額とは、所得税法上の収入額(退職所得に係る収入額を除く)であり、必要経費や特別控除を差し引く前の金額です。
 不動産や上場株式等の譲渡損失を損益通算又は繰越控除するために確定申告した場合の売却金額は、収入額に含まれます。

配当所得に係る総合課税・申告分離課税・申告不要制度の選択上の注意点

 配当金を受け取ると、受け取った配当金は所得税法では配当所得に分類されます。

 確定申告期間が近づいてくると、この配当所得について、確定申告する方がいいのかしない方がいいのか、確定申告するなら総合課税と分離課税のどちらがいいのかなど、いろいろと考えた上で最も有利になるような判断をしなければなりません。

 ところが、配当所得(に限ったことではありませんが)には普段聞き慣れない用語が登場しますので、このことが原因で配当所得を難解に感じる人もいると思われます。

 今回は、用語の意味も含めて、配当所得に係る3つの課税方法である総合課税制度、申告分離課税制度、申告不要制度について概要を確認し、これらの課税方法の選択にあたって注意すべき点を述べます。

1.用語の意味と課税方法の概要

 国税庁ホームページには、2016(平成28)年以後の上場株式等の配当等の課税関係について、以下の図が示されています。
 この図に沿って、主な用語の意味を確認していきます。

出所:国税庁ホームページ

 
 上から順に見ていくと、まず「上場株式等の配当等」という用語が出てきます。

 上場株式等の配当等とは、上場株式の配当(配当所得)、公募株式投資信託の収益の分配(配当所得)、特定公社債の利子(利子所得)、公募公社債投資信託の収益の分配(利子所得)などをいいます。

 用語が上場株式「等」となっているのは、上場株式だけではなく公社債なども含むためであり、配当「等」となっているのは、配当だけではなく利子も含むためです。

 次に「大口株主を除く」という文言がありますが、大口株主とは上場会社等の発行済株式等の3%以上を保有する株主をいいます。

 「源泉徴収」については、次の①②のようになっています。

① 上場株式等の配当等に係る配当所得・利子所得については、支払金額に対して所得税等15.315%(国税)、住民税5%(地方税)が源泉徴収されています。
② 非上場株式等の配当等や大口株主が支払を受ける上場株式等の配当等に係る配当所得については、支払金額に対して所得税等20.42%(国税)のみが源泉徴収されており、住民税(地方税)は源泉徴収されていません。

 「課税方法の選択」では、「総合課税」へ向かう矢印のところに「利子所得は不可」という文言があります。
 これは、上場株式等の配当等に係る利子所得を申告する場合は、申告分離課税の対象となり、総合課税を選択することができないことを示しています。
 なお、申告不要制度は選択できます。

 「配当控除」とは、総合課税を選択した配当所得については、一定の方法で計算した金額の税額控除を受けることができるというものです。

 「上場株式等の譲渡損失との損益通算」の内容は、上場株式等に係る譲渡損失の金額がある場合またはその年の前年以前3年内の各年に生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額のうち、前年以前で控除されていないものがある場合には、一定の要件の下、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得等の金額から控除することができるというものです(当該上場株式等の配当所得等の金額を限度とします)。

 「申告不要」は、確定申告をしないで源泉徴収だけで課税関係を済ませる制度です。
 この制度を選択した利子等・配当等の金額は、合計所得金額に含まれません(合計所得金額については、「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください)。

 ここまで上図に出てくる主な用語の意味を確認しましたが、この図を踏まえて上場株式等の配当等の課税方法を選択する上での注意点を次に述べます。

2.課税方法の選択上の注意点

 上記1の図に、上場株式等の配当等に係る総合課税制度、申告分離課税制度、申告不要制度を選択する上での注意点は概ね記載されています。
 重複する部分もありますが、以下に選択上の注意点を挙げていきます。

① 上場株式等の配当等に係る利子所得については、総合課税を選択することができません(申告分離課税または申告不要は選択できます)。

② 上場株式等の配当等に係る配当所得については、総合課税、申告分離課税、申告不要を選択することができます。

③ 上場株式等の配当等に係る配当所得について申告する場合は、そのすべてについて総合課税と申告分離課税のいずれかを選択しなければなりません。
 例えば、A株式の配当所得は総合課税で申告し、B株式の配当所得は申告分離課税で申告するというような選択はできません。

④ 配当控除は、総合課税を選択した場合のみ適用することができます。ただし、配当控除は内国法人の配当所得を対象とするため、外国法人から受ける配当所得については適用されません。

⑤ 申告分離課税を選択した場合は配当控除を適用することはできませんが、その年分に生じた上場株式等の譲渡損失の金額と損益通算ができます。
 また、当該配当所得から前年以前3年以内に生じた上場株式等の譲渡損失を繰越控除することもできます(繰越控除するためには確定申告をしなければなりません)。
 なお、申告分離課税と申告不要を併用して損益通算することもできます(詳細は、「上場株式等の配当の申告不要制度は損益通算時も適用可能」をご参照ください)。

⑥ 申告不要制度は、1銘柄1回に支払われる配当等ごと(源泉徴収口座(特定口座)内で受け入れた配当等については口座ごと)に選択することができます。

⑦ 配当控除の適用によって配当金から源泉徴収された所得税等の還付を受けるため、上場株式等の配当等に係る配当所得を総合課税で申告することがあります。
 しかし、申告することによって配当所得が合計所得金額に含まれることになるため、所得が増えて扶養控除や配偶者控除などが適用除外となったり、国民健康保険料や医療費の自己負担割合が上がったりする可能性があるので注意が必要です(後期高齢者の医療費の自己負担割合が1割・2割・3割となる所得額については、「後期高齢者の医療費の自己負担割合(1割・2割・3割)の判定基準となる所得額はいくら?」をご参照ください)。

⑧ 2017(平成29)年度税制改正で、上場株式等の配当所得・譲渡所得について、所得税と住民税で異なる課税方法を選択できるようになっていましたが、2023(令和5)年分の確定申告から、上場株式等の配当所得・譲渡所得に係る課税方法を所得税と住民税で一致させることになりました。
 そのため、所得税と住民税で異なる課税方法を選択することはできなくなっていますのでご注意ください(関連記事:「2024(令和6)年度から改正される個人住民税」)。

賞与不支給報告書は必ず提出しないといけないか?

 役員や従業員に賞与を支給したときは、支給日より5日以内に「賞与支払届」を提出しなければなりません。

 この届出により標準賞与額および賞与の保険料額が決定されるとともに、役員や従業員が将来に受給する年金額の計算の基礎にもなりますので、賞与支払届の提出を失念しないようにしなければなりません。

 一方、賞与を支給しなかった場合は、「賞与不支給報告書」を提出します。

 例えば、毎年12月20日に賞与を支給していた会社が、今年は不況のあおりで賞与を支給しなかったという場合は、賞与不支給報告書を提出することになります。

 ところが、賞与を支給しなかった場合に、賞与不支給報告書を必ず提出しなければいけないかというと、そうでもありません。

 以下では、賞与不支給報告書の提出の要否について確認します。

1.賞与支払予定月を登録している場合

 社会保険(健康保険・厚生年金)の加入時に、新規適用届に賞与支払予定月を記入して提出している場合は、支払予定月の前月に日本年金機構から「賞与支払届」および「賞与不支給報告書」が送付されてきます。

 賞与を支給した場合は賞与支払届(賞与支払届に印字されていても賞与の支給がなかった人については、該当者欄に斜線を引きます)を提出し、誰にも支給しなかった場合は賞与不支給報告書を提出します。

 このように日本年金機構に賞与支払予定月を登録している場合に、いずれの被保険者にも賞与を支給しなかったときは、賞与不支給報告書を提出することになります。

 なお、登録している賞与支払予定月の翌月までに報告書を提出しなかった場合は、翌々月に日本年金機構から催告状が送付されてきます。

2.賞与支払予定月を登録していない場合

 社会保険加入時等に賞与支払予定月を登録していなくても、賞与を支給することができます。
 この場合は、日本年金機構から賞与支払届は送付されませんので、賞与を支給したときは自社で賞与支払届を作成して提出する必要があります。

 賞与支払予定月を登録していない場合は、賞与不支給報告書も日本年金機構から送付されませんが、この場合は、賞与を支給しなかったとしても賞与不支給報告書を提出する必要はありません。

 賞与不支給報告書は、あくまでも賞与支払予定月を登録している場合に賞与を支給しなかったときに提出するものなので、賞与支払予定月を登録していない場合に賞与を支給しなかったとしても、賞与不支給報告書を提出する必要はありません。

 なお、賞与支払予定月を登録していない場合に、毎年同じ時期に賞与を支給してきたからといって、賞与支払予定月を日本年金機構が勝手に登録するということはありません。
 賞与支払予定月の登録は、新規適用届または事業所関係変更(訂正)届の提出等により行われます。

※ 役員賞与を支給しなかった場合の税務上の手続きについては、本ブログ記事「事前確定届出給与を支給しなかった場合のリスクを回避するための手続き」をご参照ください。

産前産後期間は国民年金保険料が免除されます(届出必要)!

 次世代育成支援の観点から、国民年金第1号被保険者が出産を行った際には、出産前後の一定期間の国民年金保険料が免除される制度があります。
 今回は、国民年金保険料の産前産後期間の免除制度について確認します。

※ 国民年金第1号被保険者とは、20歳以上60歳未満の自営業者・農林漁業者とその家族、学生、無職の人をいいます。

1.届出時期

 産前産後期間の国民年金保険料の免除を受けるためには、住民登録をしている市(区)役所・町村役場の国民年金担当窓口へ届書を提出しなければなりません。

 この届出は出産予定日の6か月前から可能であり、出産後でも届出することができます。

 すでに国民年金保険料免除・納付猶予、学生納付特例が承認されている場合でも、届出は可能です。

 また、すでに保険料を納付していても届出はできます。保険料を納付している場合は、産前産後期間の保険料は還付されます。

※ 国民年金保険料免除・納付猶予については、本ブログ記事「国民年金保険料の免除・納付猶予の申請について」をご参照ください。

2.対象者

 この免除制度の対象となるのは、国民年金第1号被保険者です。ただし、国民年金の任意加入期間は対象になりません。

3.免除される期間(産前産後期間)

 出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月間の国民年金保険料が免除されます。
 例えば、出産予定日が属する月が9月の場合は、その前月の8月から11月までの4か月間が免除期間となります。

 多胎妊娠(双子等)の場合は、出産予定日または出産日が属する月の3か月前から6か月間の国民年金保険料が免除されます。
 例えば、出産予定日が属する月が9月の場合は、その3か月前の6月から11月までの6か月間が免除期間となります。

※ 「出産予定日が属する月」と実際の「出産日が属する月」が乖離した場合でも、原則として変更は行われません。出産後に届け出た場合は、「出産日が属する月」が基準となります。
 なお、出産とは、妊娠85日(4か月)以上の出産をいいます(早産、死産、流産及び人工妊娠中絶を含みます)。 

4.将来の年金受給額は?

 産前産後期間は国民年金保険料が免除されますが、気になるのは、将来の年金受給額にどのような影響があるかということです。

 この点については、産前産後期間に係る保険料免除期間は、保険料納付済期間に算入されることになっています。
 したがって、「保険料が免除された期間」も保険料を納付したものとして老齢基礎年金の受給額に反映されます。