65歳超雇用推進助成金「高年齢者無期雇用転換コース」

 今回は、あまり知られていない助成金を紹介します。昇給がなくても受給できます。対象者がいたら申請してみましょう。

1.50代のパートタイマーを雇用しているなら

 この助成金は、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させた事業主に対して助成されます。
 対象者1人につき中小企業は48万円、中小企業以外は38万円が、支給申請年度で1適用事業所10人まで支給されます。

2.対象となる労働者

 以下すべてに該当する労働者が対象です。

(1) 雇用される期間が無期雇用者に転換する日において通算して6か月以上5年以内で50歳以上かつ定年年齢未満の有期雇用契約労働者である。
(2) 転換日において64歳以上の者ではない。
(3) 派遣労働者でないこと。
(4) 有期契約が繰り返し更新され通算5年を超え、労働者からの申込みにより無期雇用労働者に転換した者でないこと。
(5) 無期雇用労働者として雇入れられた有期雇用労働者でないこと。
(6) 転換日から過去3年以内に当該事業主の事業所において無期雇用労働者として雇用されたことがない者。
(7) 無期雇用労働者に転換した日から支給申請日の前日において当該事業主の事業所の雇用保険被保険者であること。

3.支給要件と申請手続きの流れ

 この助成金は、事前の認定とその後支給申請の2つの手続きが必要になります。

(1) 事前の認定
 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構に「無期雇用転換計画書」を計画開始の3か月前の日までに申請し、計画書の認定を受けてください。
 その後、以下の支給要件を満たす必要があります。

① 有期契約労働者を無期雇用労働者に転換する制度を労働協約又は就業規則その他これに準ずるものに規定していること。
② 上記①の制度に基づき、雇用する50歳以上かつ定年年齢未満の有期雇用労働者を無期雇用労働者に転換すること。
③ 上記により転換された労働者を転換後6か月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して転換後6か月分の賃金を支給すること。

(2) 支給申請 
 対象者に対して転換後賃金を6か月分支給した日の翌日から起算して2か月以内に(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構に申請してください。

個人事業主の家事按分の取扱い

 自宅を事務所として利用している個人事業主の場合、家賃や水道光熱費など、プライベートと事業を兼ねた支出が生じる場合があります。これを家事関連費といいます。
 この家事関連費の事業割合(事業利用分)を計算して、経費として計上することを家事按分といいます。
 以下では、家事按分の取扱いについて確認します。

1.白色申告は事業割合50%超でないとダメ?

 家事関連費の経費算入については、所得税法施行令第96条で次のように定められています。

(家事関連費)
第九十六条 法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費


 つまり、家事関連費については、次の場合は必要経費に算入できます。

(1) 白色申告の場合は、家事関連費の主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合
(2) 青色申告の場合は、業務の遂行上直接必要であったことが取引の記録等で明らかな場合

 ここで気になるのは、白色申告の場合には「主たる部分」という文言が付いていることです。
 この「主たる部分」については、国税庁の法令解釈通達に次のように示されています。

(業務の遂行上必要な部分)
45-2 令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。

 白色申告の場合は、家事関連費のうち業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定しますが、50%以下であっても必要な部分が明らかに区分できる場合は経費算入してかまわないとされています。
 したがって、青色申告でも白色申告でも、プライベートと事業の明確な区分ができれば必要経費に算入できますので、実務的な取扱いに違いはありません。
 なお、上記(1)の白色申告の場合には、「取引の記録等」の文言がありませんが、白色申告でも帳簿書類に基づいた税額を申告しますので、この点においても青色申告との実務的な取扱いに違いはありません。

2.事業割合は変更してもいい

 家事按分の事業割合について、例えば家賃の按分については「この月だけ業務で使用する面積がどうしても増える」といった場合もあると思います。そんな時は明確な理由・記録等があれば、事業割合を変更してもかまいません。
 また、家事関連費の事業支出が少額になる場合などは、計算根拠やそれを証明する資料の整備をするといったコストをかけず、「経費計上しない」という選択をすることも可能です。

 事業割合を明確に区分できない場合は家事按分が認められないケースもありますので、根拠を示してきちんと説明できることが大事です。

必ずしも10月1日以降からインボイスの交付義務が生じるのではない

1.インボイスの交付対象時期は10月1日以降の「取引」から

 2023(令和5)年10月1日から、現行の区分記載請求書等保存方式から新制度である適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」といいます)に切り替わります。

 インボイス制度が始まると、インボイス発行事業者である売り手には、取引の相手方(課税事業者に限ります)の求めに応じ、インボイスを交付する義務が課されます。
 しかし、必ずしも10月1日以降に交付する請求書等からインボイスの交付義務が生じるのではありません。

 インボイスの交付義務が生じるのは10月1日以降の取引からとされており、10月1日以降に交付(発行)する請求書等からインボイスに対応しなければならないわけではありません。

 例えば、令和5年9月中の取引(サービスの提供やモノの販売)について令和5年10月に請求書を交付する場合は、請求書の交付が10月1日以降であってもその請求書に記載されているのは9月中の取引であるため、インボイス対応の必要はありません。もちろん、令和5年9月以前の取引であっても、インボイス対応すること自体に問題はありません。
 
 一方、令和5年9月中に請求書を出し令和5年10月に取引を行う場合は、請求書の交付が9月中であってもその請求書に記載されているのは10月1日以降の取引であるため、インボイス対応の必要があります。
 この場合、サービスの提供やモノの販売の時点で新たにインボイスを交付するか、登録番号を通知して先に交付した請求書と併せて保存してもらうなどの対応が必要です。

 このように、インボイスの交付義務が生じるかどうかは、「交付日」ではなく「取引日」で判断します。

2.売り手の売上計上時期と買い手の仕入計上時期が異なる場合

 上記1の取扱いは、2023(令和5)年10月1日以後に売り手が行う課税資産の譲渡等及び買い手が行う課税仕入れについて適用されます。
 しかし、同じ取引であっても、売り手における売上げの計上時期と買い手における仕入れの計上時期が必ずしも一致しない場合があります。

 例えば、モノの販売において、売り手が出荷基準により令和5年9月に課税売上げを計上し、買い手が検収基準により令和5年10月に課税仕入れを計上するといったことも生じます。

 この場合、売り手においては、インボイス制度の開始前に行った取引であることから、買い手から当該取引についてインボイスの交付を求められたとしても、当該取引に係るインボイスの交付義務はありません。
 このため、買い手においては、原則として売り手における課税売上げの計上時期が令和5年10月1日以後のものとなる取引から、仕入税額控除の適用を受けるためにインボイス等を保存する必要があります。

 なお、上記の例のように、売り手における課税売上げの計上時期が令和5年9月となる取引については、買い手は区分記載請求書等保存方式により仕入税額控除の適用を受けることができます。

令和5年10月1日にインボイス登録通知が未達の場合の売り手の対応と買い手の仕入税額控除

 インボイス制度が始まる2023(令和5)年10月1日から登録を受けようとする事業者は、2023(令和5)年9月30日までに納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出しなければなりません。
 2023(令和5)年9月30日までに登録申請書を提出した場合は、制度開始日の2023(令和5)年10月1日までに登録通知が届かなかったとしても、同日から登録を受けたものとみなされます。
 しかし、登録通知が届かないということは、売り手が発行する請求書等に登録番号を記載できないということであり、インボイスの記載事項を欠くことになります。
 そうすると、登録番号のない請求書等を受け取った買い手がそのまま申告期限を迎えた場合、仕入税額控除を行っていいのかどうかという疑問が生じます
 以下では、登録申請手続を2023(令和5)年9月30日までに行ったものの、同年10月1日までに登録番号の通知が届かなかった場合の売り手のインボイスの交付と買い手の仕入税額控除について確認します。

※ 国税庁が2023(令和5)年8月25日に更新した情報によると、登録申請書を提出してから登録通知が届くまでの期間が1か月~2か月半と想定されていますので、記載事項を満たしたインボイスを受領しないまま申告期限を迎える可能性はあります。
 登録通知時期の目安等については、本ブログ記事「令和5年10月1日(日)からインボイス発行事業者になる場合の登録申請期限と登録通知時期の目安」をご参照ください。

1.売り手の対応①:インボイスの事後交付・再交付・登録番号の別途通知

 インボイスを交付しなければならないタイミングまでに登録番号の通知が届かない場合、売り手は例えば次のように対応することが考えられます。

(1) 事前にインボイスの交付が遅れる旨を取引先に伝え、通知後にインボイスを交付する。
(2) 取引先に対して、通知を受けるまでは登録番号のない請求書等を交付し、通知後に改めてインボイスを交付し直す。
(3) 取引先に対して、通知を受けるまでは登録番号のない請求書等を交付し、その請求書等との関連性を明らかにした上で、インボイスに不足する登録番号を書類やメール等でお知らせする。

2.売り手の対応②:小売業等の事後交付等が困難な場合

 小売業等の不特定かつ多数の者に対して事業を行う場合には、上記1の事後交付等の対応が困難な場合があると考えられます。
 そのため、小売店などを営む事業者が不特定かつ多数の者に登録番号のないレシート等を交付している場合、売り手は事前にインボイスの交付が遅れる旨を事業者のHPや店頭にてお知らせした上で、例えば次のように対応することが考えられます。

(1) 当該事業者のHP等において、以下のように掲示する。
「弊社の登録番号は『T1234・・・』となります。令和5年10月1日から令和5年○月○日(通知を受けた日)までの間のレシート等をお持ちの方で仕入税額控除を行う方におきましては、当ページを印刷するなどの方法により、レシート等と併せて保存してください。」
(2) 買い手側から電話等を受け、その際に登録番号をお知らせし、買い手側においてその登録番号の記録とレシート等とを併せてインボイスとして保存してもらう。

 なお、これらの取扱いは、登録申請手続を令和5年9月30日までに行ったものの、令和5年10月1日までに登録番号の通知が届かなかった場合における経過的な取扱いとなります。
 したがって、登録番号の通知が届き、登録番号を記載したインボイスを交付できるようになった日以降は、記載事項を満たしたインボイスを交付する必要があります。

3.売り手が登録申請中であることを以って買い手は仕入税額控除できるか?

 売り手の対応は上記1及び2のとおりですが、いずれにしても登録番号の通知が届くまでは、登録番号を記載したインボイスを交付することができません。
 そうすると、登録番号のない請求書等を受け取った買い手がそのまま申告期限を迎えた場合、仕入税額控除を行っていいのかどうかという疑問が生じます。

 この点については、事前に売り手からインボイス発行事業者の登録を受ける旨の連絡等があったときは、申告期限後に記載事項を満たすインボイスを受領する又は登録番号のお知らせを受けることとなった場合であっても、登録番号のない請求書等に記載された金額を基礎として仕入税額控除を行うこととして差し支えないとされています。
 この場合には、事後的に交付されたインボイスや登録番号のお知らせを保存することが必要となります。
 なお、事後的にインボイスの交付等を受けることができなかった場合には、仕入税額控除を行った翌課税期間において、本来の控除税額との差額を調整することとして差し支えないとされています。

※ 基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても帳簿の保存のみで仕入税額控除が可能とされています(少額特例)。
 そのため、この少額特例の適用対象となる買い手においては、こうした課税仕入れについて上記のような対応は必要ありません。

令和5年10月1日(日)からインボイス発行事業者になる場合の登録申請期限と登録通知時期の目安

 国税庁は、2023(令和5)年8月25日にインボイスの登録件数等の情報を更新しました。
 これによると、2023(令和5)年7月末現在の登録件数は3,420,017件となっており、申請ベースでは約370万件の登録申請書の提出があったようです。
 インボイス制度がスタートする2023(令和5)年10月1日まで約1か月の期間となりましたので、今後は駆け込みで登録申請をする事業者もいるものと思われます。
 今回は、2023(令和5)年10月1日からインボイス発行事業者になる場合の、登録申請期限の注意点と登録通知が届くまでの期間の目安について確認します。

1.登録申請期限の注意点

 インボイス制度が始まる2023(令和5)年10月1日から登録を受けようとする事業者は、2023(令和5)年9月30日までに納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出しなければなりません。
 2023(令和5)年9月30日までに登録申請書を提出した場合は、制度開始日の2023(令和5)年10月1日までに登録通知が届かなかったとしても、同日から登録を受けたものとみなされます。

 登録申請書を提出する際に注意しなければならないのは、申請期限である9月30日が土曜日であるという点です。
 この場合、インボイスの登録申請期限はあくまでも9月30日(土)であって、消費税の申告期限のように10月2日(月)に延長されることはありません。

 また、登録申請書の提出方法によっては、次のように申請期限が異なります。

(1) e-Taxの場合は、9月30日(土)の23:59:59までの受付となります。
(2)郵送の場合は、9月30日(土)の通信日付印のあるものまでとなります。
(3)窓口提出の場合は、9月29日(金)の閉庁時間(17:00)までとなります。

 なお、郵送により提出する場合の送付先は、各国税局のインボイス登録センターとなります(参考:国税庁ホームページ「郵送による提出先のご案内」)。

2.登録通知が届くまでの期間

 国税庁が2023(令和5)年8月25日に更新した情報によると、登録通知が届くまでの期間の目安は次のようになっています。

(1) e-Tax提出の場合は、提出から約1か月
(2) 書面提出の場合は、提出から約2か月半

 また、登録通知時期の目安は次のようになっています。

提出時期 登録通知までの目安
e-Tax提出分 書面提出分
5月16日~5月31日 登録通知は送付済みです 8月下旬
6月1日~6月15日 9月上旬
6月16日~6月30日 9月下旬
7月1日~7月15日 登録通知の送付が10月以降になる場合があります
7月16日~7月31日 8月下旬
8月1日~8月15日 9月上旬
8月16日~8月31日 9月下旬

インボイス制度後の免税事業者との取引は独占禁止法・下請法違反に注意

1.免税事業者のジレンマと相談事例

 インボイス制度の施行が近づき、免税事業者の方からインボイス発行事業者として登録すべきか否かというご相談が増えています。
 多くの免税事業者の方は、取引先には迷惑をかけたくないという意思がある一方で、インボイスの登録をするとご自身に消費税の納税義務が生じるという点でジレンマに陥っています。
 ご相談の中には、取引先から「インボイスの登録をして課税事業者になれば請求額に消費税分を上乗せしてもよいという提案を受けた」事例※1もありますが、「インボイスの登録をしない場合は従前の契約単価を引き下げることを文書で通知された」事例もあります。
 また、「インボイスの登録をしたら従前の契約単価を引き上げるという提案を受けてインボイスの登録をしたが、ふたを開けてみれば、その取引先との主要な業務の単価は据え置かれていて、これまでほとんど実績のない業務の方の単価だけが引き上げられていた」という事例もあります。
 これらの事例の中には、独占禁止法や下請法上問題となるケースも含まれています。今回は、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者との取引において課税事業者側が注意すべき点を確認します。

※1 詳しくは、本ブログ記事「インボイス登録すれば外税請求できると提案され・・・」をご参照ください。

2.独占禁止法上又は下請法上の考え方

 事業者がどのような条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものですが、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者との間で取引条件について情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすい場合も想定されます。
 したがって、取引上優越した地位にある事業者が、経過措置※2により一定の範囲で仕入税額控除が認められているにもかかわらず、取引先の免税事業者に対し、インボイス制度の実施後も課税事業者に転換せず免税事業者を選択する場合に、消費税相当額を取引価格から引き下げるなどと一方的に通告することは、独占禁止法上問題となるおそれがあります※3
 また、下請法上の親事業者が、経過措置※2により一定の範囲で仕入税額控除が認められているにもかかわらず、取引先の免税事業者である下請事業者に対し、インボイス制度の実施後も課税事業者に転換せず免税事業者を選択する場合に、消費税相当額を取引価格から引き下げるなどと一方的に通告することは、下請法上問題となるおそれがあります※4

※2 免税事業者からの課税仕入れについては、インボイス制度の実施後3年間は、仕入税額相当額の8割、その後の3年間は同5割の控除ができることとされています。詳しくは本ブログ記事「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照ください。

※3 独占禁止法上問題となるのは、行為者の地位が相手方に優越していること、また、免税事業者が今後の取引に与える影響等を懸念して、行為者による要請等を受け入れざるを得ないことが前提となります。

※4 事業者(買手)と免税事業者である仕入先との取引が、下請法にいう親事業者と下請事業者の取引に該当する場合であって、下請法第2条第1項から第4項までに規定する①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託に該当する場合には、下請法の規制の対象となります。
 なお、下請法と独占禁止法のいずれも適用可能な行為については、通常、下請法が適用されます。

3.独占禁止法・下請法上問題となる事例

 財務省ホームページには、独占禁止法や下請法に違反する又は違反するおそれがある行為として、以下の事例が掲載されています。

出所;財務省ホームページ

コンサル業等のインボイスに具体的な「取引年月日」の記載は必要か?

1.インボイスの記載事項に誤りがあった場合

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。
 インボイス制度の下では、原則としてインボイスの保存及び帳簿の保存が仕入税額控除の要件となっています。したがって、インボイスの保存が必要であることは言うまでもありませんが、インボイスには記載事項が定められており、その記載事項を欠くものはインボイスとは認められませんので、「正しい」インボイスを保存しなければなりません。
 もし、交付を受けたインボイスの記載事項に誤りがあった場合は、そのインボイスの発行者(売り手)から修正したインボイスの交付を受けなければ、買い手は仕入税額控除をすることができません。自ら修正や追記を行うことはできませんので、ご注意ください。
 一方、インボイスの発行者である売り手は、買い手に対して修正したインボイスを再交付しなければなりません。

2.インボイスの記載事項の確認が必要

 インボイス制度がスタートすると、買い手側では交付を受けたインボイスが正しく記載されているかどうかを確認しなければなりません。インボイスの記載事項に誤りがあれば、修正したインボイスの発行・受領が必要になりますので、売り手側にも買い手側にも追加的な作業が発生し、事務が煩雑になります。
 そのようなことが無いように、まずは売り手側において自ら発行するインボイスの記載事項に漏れ等が無いように点検しておくことが大事です。
 インボイスの記載事項は、次のとおりです。

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

 下図は、飲食料品や日用雑貨の卸売業者が取引先に対して発行するインボイスの記載例です(図中の①~⑥の番号は上記①~⑥に対応しています)。

出所:国税庁ホームページ

3.コンサル業務の取引年月日を特定できない場合

 インボイスの記載事項は、業種にかかわりなく上記2のように定められていますが、ここで若干の疑問が生じます。
 上記2の記載例は卸売業のものでしたが、例えばコンサル業を営む事業者の場合、上記2の記載例における②取引年月日はどのように記載すればいいのでしょうか?
 卸売業の場合は、実際の納品日を取引年月日として記載することに疑問の余地はありませんが、コンサル業においては取引年月日を明確に示すことはできるのでしょうか?

 コンサルタントは、専門知識や経験を活かしてクライアントの問題点を解決するための方策を提示することを業務としています。
 例えば社員研修などの案件単位の依頼であれば、社員研修を実施した日を取引年月日として記載すれば問題ありません。
 しかし、案件単位ではなく継続的なコンサルティング業務を依頼された場合は、取引内容を「顧問料」や「相談料」などとして報酬を請求しますが、明確にコンサル業務を行った日を特定することが難しい場合もあります。
 このような場合には、具体的な年月日を記載しなくても、「○年△月分」(例えば、2023年11月分など)と記載すれば問題はありません。3か月分をまとめて請求するのであれば、2023年10月分~12月分などと記載します。

電子申告(e-Tax) 未対応帳票に注意

1.税倍保険の事故例も・・・

 法人税申告における電子申告(e-Tax) の利用状況は、2021(令和3)年度は87.9%となっており、電子申告は法人税申告における主流となっています。
 かつては、申告期限最終日に決算書や別表等を税務署に配達記録(特定記録)で郵送するため、郵便局が閉まる前に奔走したりすることもありましたが、今はクリック一つで電子申告できますので便利になったといえます。

 電子申告によって便利になった申告書等の提出ですが、注意しなければならないこともあります。
 多くの帳票が電子申告に対応していますが、提出時期によっては電子申告に対応していない別表等もあります。
 別表等を作成して電子申告を済ませたところ、作成した別表の中に電子申告未対応のものが含まれていてそれに気づかなかった場合は、その別表は提出したことになりません

 最近の税務申告ソフトであれば、電子申告未対応の帳票が含まれている場合は、それを知らせるメッセージが表示されると思いますので、電子申告で提出できなかった帳票は「イメージデータ(PDF形式)送信」または「郵送」にて対応することになります。

※ 次のような事例が、株式会社日税連保険サービスの「税理士職業賠償責任保険事故事例」で紹介されています。

 税理士は、法人税の申告において所得拡大促進税制の適用を受けるべく、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類である別表6(25)を作成し、その控除額を加味した法人税額の計算を行い電子申告したものであるが、当該別表が電子申告未対応であったことに気付かず提出を失念し、当該所得拡大促進税制の適用が受けられなくなったことから、過大納付となった税額について依頼法人から損害賠償請求を受けた。 

2.法人税別表等のイメージデータ送信

 国税庁では、法人税確定申告等について、e-Taxにより提出できない別表等(以下「リリース前別表」といいます)は、イメージデータ(PDF形式)による提出を可能としています。
 ただし、「リリース前別表」とは、国税庁のe-Taxソフトが対応していないことを指しますので、仮に、利用している税務申告ソフトに対応していない別表等があるというだけでは、イメージデータ(PDF形式)での提出はできませんのでご注意ください。
 なお、リリース前別表かどうかは、国税庁ホームページの「 リリース前別表検索ツール (EXCEL) 」により確認することができます

※ リリース前別表検索ツールに記載がない年分の申告については、イメージデータ(PDF形式)により提出できません。

出所:国税庁ホームページ

3.電子申告対応予定時期は国税庁HPで確認

 上記2の「リリース前別表検索ツール(EXCEL)」では、「キーワード検索」タブでPDF提出ができる別表かどうかを確認することができますが、「対応(予定)時期別」タブで別表等の電子申告対応(予定)時期を確認することもできます。
 以下は、「リリース前別表検索ツール(EXCEL)」より検索した法人税別表等(2023(令和5)年4月1日以後終了事業年度分)の電子申告対応時期です。

出所:国税庁ホームページ

通勤手当の非課税限度額に注意

 役員や従業員などの給与所得者に対して通常の給与に加算して支給する通勤手当は、月額15万円以下であれば所得税および復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)が非課税となっています
 しかし、この月額15万円というのは、電車やバスなどの交通機関を利用している場合の非課税限度額であり、マイカー等で通勤する場合は非課税限度額が変わります。
 また、交通機関とマイカーを併用して通勤している場合の非課税限度額にも注意が必要です。
 以下では、通勤手当の非課税限度額について確認します。

※ 通勤手当を区分せず給与に含めて支給する場合については、本ブログ記事「交通費込み給与の交通費部分は確定申告でも非課税にできない」をご参照ください。

1.電車やバスなどの交通機関で通勤している場合

 電車やバスなどの交通機関を利用して通勤している場合の非課税限度額は、月額15万円とされています。これは、通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額です。

 新幹線や特急列車を利用した場合の運賃等の額も、その通勤方法や経路が「最も経済的かつ合理的な経路および方法」に該当する場合は非課税の通勤手当に含まれますが、グリーン料金は最も経済的かつ合理的な通勤経路および方法のための料金とは認められないため、非課税の通勤手当に含まれません。
 したがって、通勤手当が月額15万円以内だったとしても、そこにグリーン料金が含まれている場合は、グリーン料金部分については給与として課税されます。
 つまり、給与の額にグリーン料金を合算して所得税等の源泉徴収を行うことになります。

2.マイカーや自転車などで通勤している場合

 マイカーや自転車などを使用して通勤している場合の1か月当たりの非課税限度額は、片道の通勤距離(通勤経路に沿った長さです)に応じて、次のように定められています。

片道の通勤距離 1か月当たりの非課税限度額
2キロメートル未満 全額課税
2キロメートル以上10キロメートル未満 4,200円
10キロメートル以上15キロメートル未満 7,100円
15キロメートル以上25キロメートル未満 12,900円
25キロメートル以上35キロメートル未満 18,700円
35キロメートル以上45キロメートル未満 24,400円
45キロメートル以上55キロメートル未満 28,000円
55キロメートル以上  31,600円

 上表の1か月当たりの非課税限度額を超えて通勤手当を支給する場合は、超える部分の金額が給与として課税されます。
 したがって、その超える部分の金額は、通勤手当を支給した月の給与の額に上乗せして、所得税等の源泉徴収を行います。

3.交通機関とマイカー等を併用して通勤している場合

 電車やバスなどの交通機関とマイカーや自転車などを併用して通勤している場合は、両者の合計額が月額15万円までなら所得税等が非課税となります。
 具体的には、次の(1)と(2)を合計した金額が月額15万円以内であれば、非課税の通勤手当となります。

(1) 電車やバスなどの交通機関を利用する場合の1か月間の通勤定期券などの金額
(2) マイカーや自転車などを使用して通勤する片道の距離で決まっている1か月当たりの非課税となる限度額(上記2参照)

 例えば、自宅から自宅の最寄駅まではマイカーを使用し(片道距離3キロメートル)、自宅の最寄駅から勤務先の最寄駅までは電車を利用する(1か月定期券15,000円)場合は、4,200円+15,000円=19,200円が非課税の通勤手当となります。

白色申告法人は貸倒引当金を設定することができるか?

1.個人事業主の場合

 貸倒引当金は、決算日における売掛金や貸付金などの金銭債権について、次期以降に貸倒れが生じると予想される金額を見積って設定します。
 貸倒引当金には、「個別評価による貸倒引当金(個別評価金銭債権に係る貸倒引当金)」と「一括評価による貸倒引当金(一括評価金銭債権に係る貸倒引当金)」があります。
 個人事業主については、「個別評価による貸倒引当金」は青色申告者、白色申告者を問わず適用できますが※1、「一括評価による貸倒引当金」は青色申告者だけが適用できます※2つまり、白色申告者は「一括評価による貸倒引当金」を設定することができません。
 では、法人についても、青色申告法人と白色申告法人で貸倒引当金の取扱いが異なるのでしょうか?

※1 白色申告者は、事業的規模の所得において個別評価のみ認められます。
※2 青色申告者は、事業的規模の所得において個別評価、一括評価が認められます。ただし、青色申告者であっても一括評価が認められるのは事業所得だけであり、不動産所得については認められません。

2.法人の場合

 法人についても、貸倒引当金は個別評価金銭債権と一括評価金銭債権とに区分して設定します。
 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の適用対象法人は、次のとおりです(法法第52条第1項)。

① 期末資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等による完全支配関係がある子法人等を除く)
② 公益法人等又は協同組合等
③ 人格のない社団等
④ 銀行、保険会社その他これらに準ずる法人
⑤ 金融に関する取引に係る金銭債権を有する一定の法人(上記①から④までに掲げる法人を除く)

 また、一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定には、貸倒実績率を用いる方法(原則)と法定繰入率を用いる方法(特例)があります。
 前者の適用対象法人は上記①~⑤と同じですが、後者の適用対象法人は次のようになっています(措法57の9)。

① 期末資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等による完全支配関係がある子法人等を除く)
※ ただし、適用除外事業者(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等をいいます)を除きます。
② 公益法人等又は協同組合等
③ 人格のない社団等

 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金と一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の適用対象法人は以上のとおりですが、その適用対象法人が青色申告法人であることを要求するものとはなっていません。
 つまり、白色申告法人でも貸倒引当金を設定することができるということです。