インボイス制度導入後の弥生会計・やよいの青色申告の設定と入力方法

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まりました。これに伴い、会計ソフトへ課税仕入取引を入力する際に、本則課税(原則課税)を適用している場合は従前の区分記載請求書等保存方式のときの入力に加えて「請求書区分(適格か区分記載か)」と「仕入税額控除割合(100%か80%(50%)か)」の選択が必要になりました。
 以下では弥生会計・やよいの青色申告を使用する場合を例に、課税仕入取引の入力方法を確認します。

1.会計ソフトの消費税設定

 免税事業者が経過措置を利用して2023(令和5)年10月1日からインボイス発行事業者となる場合は、9月決算法人(事業年度:令和5年10月1日~令和6年9月30日)を除いて、令和5年10月1日を含む課税期間に免税事業者である期間と課税事業者である期間が併存することになります。この場合は、令和5年10月1日から課税期間の末日までを対象期間として消費税申告書を作成します※1
 弥生会計では令和5年10月1日を含む課税期間のデータについて「消費税設定」で課税事業者を選択すると、その右側に「課税期間開始日設定」ボタンが現れます。そのボタンをクリックして開始日を登録すれば、開始日から課税期間の末日までの申告データが作成されます。課税期間短縮特例を選択した場合の申告データ作成手順とは異なりますのでご注意ください。
 また、税込1万円未満の少額取引に係るインボイス保存不要の特例(少額特例)※2の適用を受ける場合は、同じ消費税設定画面で「インボイス少額特例の適用対象に該当する」に✓を入れておきます。
 
※1 申告書に記載する課税期間は、課税期間短縮特例を選択していなければ、個人事業主の場合は「令和5年1月1日~令和5年12月31日」となります(「令和5年10月1日~令和5年12月31日」ではありません)。
※2 少額特例の詳細については、本ブログ記事「インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる『少額特例』とは?」をご参照ください。

 2割特例※3の適用を受ける場合は、「決算・申告」メニューの「消費税事業所設定」をクリックし、「申告書設定」タブの「2割特例(税額控除に係る経過措置)の適用」に✓を入れておきます。

※3 2割特例については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」をご参照ください。

2.帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引の「請求書区分」「仕入税額控除割合」

 2023(令和5)年10月1日以降の課税仕入取引を入力する場合は、「請求書区分」と「仕入税額控除割合」を選択する必要があります。
 弥生会計における「請求書区分」と「仕入税額控除割合」の基本的な選択基準は次のとおりです。

(1) 受け取った請求書がインボイスの場合・・・「適格」「100%」
(2) 受け取った請求書がインボイスではない場合・・・「区分記載」「80%」(ただし令和8年10月1日~令和11年9月30日については「区分記載」「50%」)※4
(3) 受け取った請求書がインボイスではない場合で少額特例を適用するとき・・・「区分記載」「100%」(ただし令和11年9月30日までの期間)

※4 免税事業者からの仕入れでも仕入税額控除できる「経過措置」については、本ブログ記事「インボイス制度導入後の免税事業者からの仕入れに係る仕入税額控除の特例(経過措置)」をご参照ください。

 上記(1)~(3)の基本的な選択基準に加えて、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引(特例9項目)についての「請求書区分」の選択基準は次のとおりです(「仕入税額控除割合」はすべて「100%」です)。

特例9項目 請求書区分
① インボイスの交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(公共交通機関特例) 適格
② 簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(回収特例)
③ 古物営業を営む者のインボイス発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入 区分記載
④ 質屋を営む者のインボイス発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の取得
⑤ 宅地建物取引業を営む者のインボイス発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
⑥ インボイス発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
⑦ インボイスの交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等(自動販売機特例) 適格
⑧ インボイスの交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)
⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当) 区分記載

 上記のうち①、⑦、⑨の入力例を以下に示します。

電子帳簿保存法への対応に困っているなら・・・

 改正電子帳簿保存法は2022(令和4)年1月1日から施行されていましたが、2年間の宥恕措置を経て2024(令和6)年1月1日から本格的に開始されました。
 この電子帳簿保存法は、法人・個人や規模の大小にかかわらず、すべての事業者が対応しなければなりません。
 電子帳簿保存法とは、仕訳帳などの国税関係帳簿や決算書・請求書などの国税関係書類を「紙(書面)」ではなく「電子データ」で保存するための要件を定めた法律です。
 これまでは紙で保存していたけれど電子データで保存しなければならないとなると、令和6年1月1日からどうすればいいのだろうと困っている事業者の方もいるかもしれません。
 結論を先に述べると、電子帳簿保存法への対応を最小限の労力で済ませたい場合は、下記3の「猶予措置」の適用をお勧めします。
 まずは、電子帳簿保存法に関するよくある誤解について紹介します。

1.スキャナ保存のよくある誤解

 事業者の方からよく質問されるのは、「紙で受け取った領収書や請求書をスキャンしてデータで保存しなければならないのか?」ということですが、必ずしもその必要はありません。
 電子帳簿保存法は1つの法律ですが、その内容は次のように電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引データ保存の3つの部分に分かれています。

(1) 電子帳簿等保存
 最初から一貫してパソコン等で作成した国税関係帳簿や国税関係書類を電子データのまま保存するというものです。例えば、会計ソフトで作成した仕訳帳やパソコンで作成した請求書の控え等が対象となります。

(2) スキャナ保存
 取引先から受領した紙の領収書・請求書等をスマホやスキャナで読み取って、データで保存するというものです。

(3) 電子取引データ保存
 電子取引で受領した電子データ(例えば、メールに添付された請求書のPDF等)をプリントアウトした「紙」ではなく「電子データ(PDF等)」のまま保存するというものです。

 こららのうち改正電子帳簿保存法で義務化されたのは(3)電子取引データ保存だけであり、(1)と(2)に対応するかどうかは事業者の任意とされています。
 紙で受け取った領収書等をスキャンして保存するのは(2)スキャナ保存に該当しますので、必ずしも対応する必要はありません。
 これまで通り紙で受け取ったものは紙で保存していただいて結構です。

 なお、(2)スキャナ保存に対応するためには、単にスキャンするだけではなくタイムスタンプを付すなど保存要件に従った保存が必要ですので、新たなシステムの導入が必要です。
 また、(1)電子帳簿等保存に対応するためには会計ソフトの導入が必要です。

2.電子取引データ保存への最低限の対応

 対応が必要なのは電子取引データ保存ですが、これは「電子取引」を紙ではなくデータで保存することをいいます。
 具体的には次のようなものが電子取引に該当します。

・電子メールで送受信する請求書や領収書などのPDF
・インターネット上のホームページやショッピングサイト(amazon、楽天)でダウンロードした請求書や領収書などのPDF
・インターネット上で表示される請求書や領収書などのスクリーンショット
・クラウドサービス(楽々明細、Misoca)を利用した電子請求書や電子領収書の授受
・クレジットカード(JCB、三井住友カード)の利用明細データ
・交通系ICカード(ICOCA、Suica)による支払データ
・スマートフォンアプリ(PayPay、LINEPay)による決済データ等の受領・・・など

 これらの電子取引を、紙ではなく電子データ(PDF、スクリーンショット等)で保存する必要があります。
 これも単にPDF等で保存するだけではなく、次の保存要件(真実性・可視性)に従った保存が必要です。

(1) 真実性の確保
 保存されたデータが改ざんされていないという「真実性」を確保する必要があります。
 そのためにはタイムスタンプを付与する等の措置がありますが、新たなシステムの導入コスト等がかからず現実的なのは、「正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程」(以下「事務処理規程」といいます)を定め、その規程に沿った運用を行うことです。
 事務処理規程については国税庁ホームページよりひな型(法人用・個人事業者用)をダウンロードできますので、そのひな型を自社用にアレンジすることで真実性の確保に対応できます(事務処理規程の書き方については、本ブログ記事「事務処理規程の書き方と記載例:電子取引データ保存」をご参照ください)。

(2) 可視性の確保
 保存されたデータを検索、表示できるという「可視性」を確保する必要があります。
 保存されたデータの検索については、税務職員によるダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合は高度な検索は不要となり、取引年月日、取引金額、取引先名の3つの項目で簡易な検索ができればよいとされています。
 さらに、2023(令和5)年度税制改正で、ダウンロードの求めに応じることに加えて、法人の場合は2期前(個人事業主の場合は2年前)の売上高が5,000万円以下の場合、又はデータを出力した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものに限ります)を提示・提出できるようにしている場合は、検索できなくてもよいとされました。
 保存されたデータの表示について必要なことは、パソコン、モニター、プリンター、取扱説明書の備付けですので、これについては問題ないと思われます。

 したがって、義務化された電子取引データ保存に対応するために最低限しなければならないことは、真実性を確保するために事務処理規程を整備し、可視性を確保するためにデータをダウンロード可能な状態で簡易な検索ができるように保存しパソコン等を備え付けてそのデータを表示できるようにしておくことです。

3.猶予措置の適用

 義務化された電子取引データ保存に最低限の対応をするためには、上記2の保存要件を満たした保存(真実性と可視性を確保した保存)をすればよいということになりますが、それでもなお対応が難しい場合には2023(令和5)年度税制改正で設けられた「猶予措置」の適用をお勧めします。

 猶予措置とは、次の(1)(2)の要件をいずれも満たしている場合には、2024(令和6)年1月1日以降もこれまで通り紙保存が認められる(保存要件を満たすという対応自体が不要となり、電子データを単に保存しておくことができる)というものです。

(1) 保存要件に従って電子データを保存することができなかったことについて、所轄税務署⻑が相当の理由があると認める場合(事前申請等は不要)
(2) 税務調査等の際に、電子データの「ダウンロードの求め」及びその電子データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合

 (1)における「相当の理由」については、システムの導入や社内のワークフローの整備が間に合わない場合などの他、人手不足や資金繰り(お金が足りない)なども認められるようです。
 仮に税務調査等の際に税務職員から確認等があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを具体的に説明すれば差し支えないとされています。

 ただし、(2)の要件にあるように、電子データの「ダウンロードの求め」に応じなければなりませんので、紙保存に加えて電子データの保存も必要です。
 この場合の電子データの保存は保存要件(真実性・可視性)を満たす必要はなく、単にPDFやスクリーンショットなどで保存するだけで大丈夫です。
 最小限の労力で電子帳簿保存法に対応したい場合は、紙保存に加えて電子データも保存しておいてください(紙保存が認められるからといって、電子データを保存しなくてもいいということではありませんのでご注意ください)。

【結論】
・「紙」で受け取ったものは紙で保存する(これまで通りです)
・「データ」で受け取ったものは印刷して紙で保存すると同時にデータも保存する(猶予措置を適用した最小限の労力での対応です)

事務所・店舗等を移転した場合の償却資産申告書の記載例

1.償却資産税の申告対象

 償却資産とは、土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産で、所得税法又は法人税法の所得の計算上減価償却の対象となる資産をいいます。
 例えば、飲食店を営む個人事業主であれば、店舗で使用している冷蔵庫やレジスター、エアコン等が該当します。

 償却資産は毎年1月1日現在での所有状況を、1月31日までにその償却資産の所在地の市区町村へ申告することになっています。

 1月1日現在において事業の用に供することができる資産であれば、遊休資産(稼動を休止しているが、維持補修が行われている資産)、未稼働資産(すでに完成しているが、まだ稼働していない資産)、償却済み資産(減価償却を終わり、残存価額のみ帳簿に計上されている資産)なども申告対象となります
 一方、自動車税・軽自動車税の課税対象となる車両無形固定資産(ソフトウェア、鉱業権、漁業権、特許権等)、繰延資産(創立費、開業費、試験研究費等)などは申告対象とはなりません
 また、少額の減価償却資産については、取得価額10万円未満の資産のうち一時に損金算入したもの、取得価額20万円未満の資産のうち3年間で一括償却したものなどは申告対象から除外されますが、中小企業者等が取得価額30万円未満の減価償却資産の合計額 300万円までを損金算入した場合(中小企業者等の少額資産特例)は申告対象となります

※ 取得価額が10万円未満の資産であっても、一時に損金算入せず個別に減価償却しているものは償却資産税の申告対象となります。

2.移転前と移転後の両方の所在地に申告が必要

 先に述べたように、償却資産は毎年1月1日現在での所有状況を、1月31日までにその償却資産の所在地の市区町村へ申告することになっています。
 もし、本店や事務所、店舗等を移転し償却資産の所在地が変わった場合は、移転後の所在地だけではなく移転前の所在地の市区町村に対しても償却資産申告書を提出する必要があります。
 次の設例を用いて、飲食業を行っている法人が店舗を移転した場合の償却資産申告書記載例を示します。

 株式会社ITAMIは、兵庫県伊丹市○○1-2-3に所在する店舗で飲食業を行っていたが、令和5年9月29日にその店舗を廃止し、令和5年9月30日から兵庫県宝塚市○○町4-5-6へ店舗を移転(開設)した。
 令和6年1月26日に、令和6年度償却資産申告書を伊丹市と宝塚市に提出した。

 旧店舗の所在地の伊丹市には、償却資産申告書の「備考」欄(下図の赤枠内)に必要事項を記入して、申告書だけを提出します。
 種類別明細書(増加資産・全資産)は提出する必要はありません(ただし、これは兵庫県伊丹市の例であって、市区町村によっては種類別明細書の提出も求められることがあります)。

 新店舗の所在地の宝塚市には、償却資産申告書と種類別明細書(増加資産・全資産)を提出します。
 償却資産申告書の書き方のポイントは、次のとおりです。

(1) 伊丹市の申告書に記載されている「前年前に取得したもの(イ)」欄の金額を、宝塚市の申告書の「前年中に取得したもの(ハ)」欄に転記します。下図記載例では令和5年1月2日以降に取得した償却資産が無いことを前提としていますが、もし取得した償却資産があればその金額も加算します。

(2) 申告書の「異動事項」欄に異動日の日付を記入し、該当項目を〇で囲みます。今回はア~オに該当する項目がありませんので、「備考」欄に伊丹市より転入と記載します。

 種類別明細書(増加資産・全資産)の書き方のポイントは、次のとおりです。

(1) 「資産の種類」、「資産の名称等」、「数量」、「取得年月」、「取得価額」、「耐用年数」の各欄は、伊丹市の種類別明細書(増加資産・全資産)に記載されている内容を転記します。
 「増加事由」欄は3(移動による受け入れ)を〇で囲み、「摘要」欄に伊丹市よりと記入します。

(2) もし令和5年1月2日以降に取得した償却資産がある場合は、その取得の記入をします。


 

登記簿上の名目本店に均等割はかかるのか?(異動届の記載例あり)

1.名目本店とは?

 法人を設立する際に、代表者の自宅を法人の本店として登記し、事業は本店所在地とは別の場所に設けた店舗で行うことがあります
 本店と店舗の所在地が同一市内(例えばA市とします)にあれば、法人市民税の均等割は本店と店舗が所在するA市に対して納付します。

 しかし、本店の所在地はそのままで、店舗だけを他の市に移転した場合は、均等割は本店と店舗の両方の所在地に対して納付するのでしょうか?
 例えば、代表者の自宅を本店登記地としてA市に残し、店舗だけをB市に移転した場合は、A市とB市の両方に均等割を納付するのでしょうか?

 本店でも事業を行っているのであれば、本店と店舗が所在するA市とB市に対して均等割を納付しなければなりませんが、本店で事業を行っていない場合は、本店が所在するA市に対して均等割を納付する必要はありません。このような登記簿上のみの本店のことを「名目本店」といいます

 もう少し具体的に言うと、例えば飲食業を行う法人が、代表者の自宅が所在するA市を本店登記地として残したまま店舗だけをB市に移転した場合は、その本店で事業活動(飲食業)を行っていないのであれば、その本店は登記簿上の「名目本店」に該当し、A市に均等割を納める必要はありません。

 名目本店に均等割はかかりませんが、店舗を移転した場合はA市とB市に異動届を提出しなければなりません。

※ 関連記事:「令和6年10月1日から登記申請時に社長の住所を非公開にできます

2.異動届の記載例

 次の設例によって、名目本店の所在地と店舗の移転先に提出する異動届の記載について確認します。

 飲食業を行う株式会社ITAMIは、代表者の自宅がある伊丹市○○1-2-3を本店所在地として登記している。
 本店は登記簿上の名目本店であり、営業は伊丹市△△7-8-9にある店舗で行っている。
 同社は令和5年11月29日に伊丹市△△7-8-9に所在する店舗を廃止し、令和5年12月5日に宝塚市○○町4-5-6へ店舗を移転(開設)した。
 これら店舗の移転に関する異動届を、令和5年12月12日に伊丹市と宝塚市へ提出し、伊丹市と宝塚市を管轄する兵庫県阪神北県税事務所にも同様の異動届を提出した(県税事務所への異動届は記載例省略)。
 なお、登記を伴う異動ではないことから、本店所在地の伊丹市を管轄する伊丹税務署へは異動届を提出していない。

・代表者の自宅の所在地:兵庫県伊丹市〇〇1-2-3
・名目本店の所在地:兵庫県伊丹市〇〇1-2-3
・店舗の元々の所在地:兵庫県伊丹市△△7-8-9
・移転した店舗の所在地:兵庫県宝塚市○○町4-5-6

 上記設例における伊丹市への異動届の記載例は、次のとおりです。異動届の備考欄に、登記簿上の本店が名目本店であり、事業活動を行っていない旨を記載します。

 宝塚市への異動届の記載例は、次のとおりです。登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の写しと定款の写しを異動届に添付します。

消費税還付金の計上時期~必ず未収計上しなければならないか?

 消費税は国内において消費される商品の販売やサービスを課税対象としますので、国外で消費される輸出取引については消費税が免除されます。これを輸出免税といいます。
 輸出免税は、輸出売上げに係る消費税を免除する一方で、その仕入れに係る消費税を仕入税額控除の対象としますので、輸出取引が多い事業者の場合は消費税の還付を受けることができます。
 一例として輸出免税を挙げましたが、消費税は納付するだけではなく還付を受けるケースもあるということです。
 消費税の還付を受ける場合、法人税法や所得税法との関係から、その還付申告となった課税期間を含む事業年度または年の益金または総収入金額に算入しなければならないように思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。
 還付額をどのタイミングでどのように計上するかについては、以下のように消費税の経理方法によって異なります。

1.税抜経理方式の場合

 消費税の経理処理には税抜経理方式と税込経理方式があり、どちらの方法を選択するかは事業者の任意とされており、また、選択した方法によって納付する消費税額や還付を受ける消費税額に差異が生じることは基本的にはありません。
 税抜経理方式を選択した場合の経理処理は、次のようになります(還付申告のケース)。

(1) 仕入時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 3,000 買掛金 3,300
仮払消費税等 300    

(2) 売上時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売掛金 2,200 売上 2,000
    仮受消費税等 200

(3) 決算時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仮受消費税等 200 仮払消費税等 300
未収消費税等 100    

(4) 還付時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 100 未収消費税等 100

 事業者がすべての取引について税抜経理方式を選択した場合、上記のように消費税が課される取引については税抜金額で計上し、課税売上げに対する消費税額は仮受消費税等、課税仕入れに対する消費税額は仮払消費税等とします。 
 決算時には上記(3)のように、その課税期間の仮受消費税等の金額から仮払消費税等の金額を控除し、納付すべき税額は未払消費税等、還付を受ける税額は未収消費税等として計上しますが、原則として法人税または所得税の課税所得金額には影響しません。

2.税込経理方式の場合

 税込経理方式を選択した場合の経理処理は、次のようになります(還付申告のケース)。

(1) 仕入時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 3,300 買掛金 3,300

(2) 売上時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売掛金 2,200 売上 2,200

 事業者がすべての取引について税込経理方式を選択した場合には、上記のように課税売上げに対する消費税額は収益の額または収入金額に含まれ、また、課税仕入れに対する消費税額は仕入金額や経費などの額に含まれます。
 このため、納付すべき消費税額は租税公課として損金の額または必要経費に算入し、還付を受ける消費税額は雑収入などとして益金の額または総収入金額に算入しますので、法人税または所得税の課税所得金額に影響します。
 ということは、消費税の納付税額や還付税額を計上するタイミングによって、法人税額や所得税額が変わるということです。
 では、どのタイミングでこれらを計上すればよいのでしょうか?決算時でしょうか、それとも納付時(還付時)でしょうか?

 結論を先に述べると、納付すべき消費税額および還付を受ける消費税等額の計上時期は、原則として「納付時(還付時)」です。
 納付税額または還付税額の計上時期については、申告に係るものはその申告書が提出された日の属する事業年度または年(更正または決定に係るものはその更正または決定があった日の属する事業年度または年)とされています。
 したがって、決算時と還付時の経理処理は、原則として次のようになります。

(3) 決算時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕訳なし      

(4) 還付時

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 100 雑収入 100

 しかし、税込経理方式を選択していても、実務では消費税の納付税額または還付税額を未払計上・未収計上することはよくあります。
 これについては、法人が申告期限未到来の納税申告書に記載すべき消費税額を損金経理により未払金に計上した場合または収益の額として未収入金に計上した場合には、その計上した事業年度の損金の額または益金の額に算入することができるとされており、個人事業者が申告期限未到来の納税申告書に記載すべき消費税額を未払金または未収入金に計上した場合には、その計上した年の必要経費または総収入金額に算入することができるとされているためです。

 したがって、税込経理方式を選択した場合は、消費税還付金を還付時に雑収入として経理処理するのが原則であり、決算時に必ずしも未収計上する必要はないということです。

ストックオプションの課税関係と計算例

1.税制適格SOと税制非適格SO

 ストックオプションとは、会社が自社または子会社の従業員・役員等に対して付与する自社株式を、一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で購入することができる権利(新株予約権)をいいます。
 このストックオプションについては、ストックオプション税制の適用を受けて取得する「税制適格ストックオプション」と、その適用を受けないで取得する「税制非適格ストックオプション」があります。

 税制適格ストックオプションは、ストックオプションの付与契約において、次に掲げる要件が定められているものをいいます。

(1) 当該ストックオプションは、発行会社の取締役等に付与されたものであること。
(2) 当該ストックオプションの行使は、その契約の基となった付与決議の日後2年を経過した日からその付与決議の日後10年を経過する日(発行会社が設立の日以後の期間が5年未満の株式会社で、金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社以外の会社であることその他の要件を満たす会社である場合には15年)までの間に行わなければならないこと。
 なお、付与決議の日とは、新株予約権の割当に関する決議の日をいいます。
(3) 当該ストックオプションの行使の際の権利行使価額の年間の合計額が1,200万円を超えないこと。
(4) 当該ストックオプションの行使に係る1株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の当該契約の締結の時における1株当たりの価額相当額以上であること。
(5) 当該ストックオプションについて、譲渡が禁止されていること。
(6) 当該ストックオプションの行使に係る株式の交付が、会社法第 238 条第1項に定める事項に反しないで行われるものであること(無償ストックオプションの発行(会238条1項2号)は、労働モチベーションの向上等、適正な便益を受領しているものと評価できる場合は、有利発行には該当しないものとされています(会238条3項1号))。
(7) 発行会社と金融商品取引業者等との間であらかじめ締結された取決めに従い、金融商品取引業者等において、当該ストックオプションの行使により取得した株式の保管の委託がされること。

2.ストックオプションの課税時期

 勤務先から支給を受ける現物支給の給与については、支給時の給与所得として所得税の課税対象とされますが、その現物支給の給与が、譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)である場合には、そのストックオプションを譲渡して所得を実現させることができないことから、ストックオプションの付与時に所得を認識せず、そのストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得として所得税の課税対象とされます。

 また、勤務先から適正な時価で有償取得したストックオプション(税制非適格ストックオプション)の課税関係は、次のとおりとなります。

(1) 税制非適格ストックオプション(有償型)は、当該ストックオプションを適正な時価で購入していることから、ストックオプションの購入時は経済的利益は発生せず、課税関係は生じません。
(2) 当該ストックオプションの行使時の経済的利益(ストックオプションの値上がり益)については、所得税法上、認識しないこととされています。
(3) 当該ストックオプションを行使して取得した株式を売却した場合、株式譲渡益課税の対象となります。

 一方、税制適格ストックオプションに該当する場合には、当該ストックオプションを行使して株式を取得した日の給与課税を繰り延べ、その株式を売却した日の属する年分の株式譲渡益として所得税の課税対象とされます。

 以上をまとめると、ストックオプションの課税時期は下表のようになります(×は課税されない、○は課税されることを示します)。

ストックオプションの類型 権利付与時 権利行使時 株式売却時
税制非適格ストックオプション(無償) × ○(給与所得) ○(譲渡所得・分離課税)
税制非適格ストックオプション(有償) × ×(認識しない) ○(譲渡所得・分離課税)
税制適格ストックオプション(無償) × ×(課税の繰延) ○(譲渡所得・分離課税)

 また、権利行使時と株式売却時の所得の計算方法は次のとおりです。

権利行使時 (権利行使時株価-権利行使価格)×株式数=所得金額
株式売却時 (売却価格-権利行使時株価)×株式数=所得金額

3.計算例

 以下では、税制非適格ストックオプション(無償型・有償型)と税制適格ストックオプションの課税関係を、簡単な数値例で確認します。

(1) 税制非適格ストックオプション(無償・有利発行型)の課税関係

勤務先から譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)を無償で取得した場合の課税関係は、次のとおりです。
【発行会社の株価等】
・ ストックオプションの付与時 : 200
・ ストックオプションの行使時 : 800(権利行使価額 200)
・ 権利行使により取得した株式の売却時:1,000
① 権利付与時:課税されない
② 権利行使時:800-200=600が給与所得として課税される
③ 株式売却時:1,000-800=200が譲渡所得として課税される

※ 発行会社は源泉所得税を徴収して納付する必要あり

(2) 税制非適格ストックオプション(有償型)の課税関係

勤務先からストックオプションを適正な時価(50)で有償取得した場合の課税関係は、次のとおりです。
【発行会社の株価等】
・ ストックオプションの付与時 : 200
・ ストックオプションの行使時 : 800(権利行使価額 200)
・ 権利行使により取得した株式の売却時:1,000
① 権利付与時:課税されない
② 権利行使時:課税されない(経済的利益を認識しない)
③ 株式売却時:1,000-50-200=750が譲渡所得として課税される

※ 株式譲渡益は、売却時の株価(1,000)から、当該ストックオプションの購入価額(50)と権利行使価額(200)の合計額(250)を差し引いた 750 となる

(3) 税制適格ストックオプションの課税関係

勤務先から税制適格ストックオプションを取得した場合の課税関係は、次のとおりです。
【発行会社の株価等】
・ ストックオプションの付与時 : 200
・ ストックオプションの行使時 : 800(権利行使価額 200)
・ 権利行使により取得した株式の売却時:1,000
① 権利付与時:課税されない
② 権利行使時:課税されない(課税が繰り延べられる)
③ 株式売却時:1,000-800=200が譲渡所得として課税される

給与所得者(サラリーマン)の確定申告の要否

1.給与所得者で確定申告をしなければならない人

 給与所得者のうち大部分の人は、年末調整によって所得税及び復興特別所得税の精算が完了しますので、確定申告をする必要がありません。
 しかし、給与所得者であっても次のいずれかに当てはまる人は、確定申告をしなければなりません。

(1) 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
(2) 1か所から給与の支払を受けている人で、給与所得および退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える人
(3) 2か所以上から給与の支払を受けている人のうち、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整されなかった給与(従たる給与等)の収入金額と給与所得および退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える人
(4) 同族会社の役員やその親族などで、その同族会社から給与の他に貸付金の利子や不動産の賃貸料などを受け取っている人
(5) 災害を受けた人で、給与について災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている人
(6) 源泉徴収の規定が適用されない給与(家事使用人給与、在日外国公館から支払を受ける給与など)の支払を受けている人
(7) 退職所得について正規の方法で税額を計算した場合に、その税額が源泉徴収された金額よりも多くなる人

2.給与所得者で確定申告をすれば税金が還付される人

 確定申告をする必要がない給与所得者の人でも、年末調整で適用できない所得控除や税額控除を適用して還付を受けるための確定申告(還付申告)をすることができます。
 還付申告書は、翌年の1月1日から税務署に提出することができます。例えば、令和5年分であれば令和6年1月1日から提出することができます。
 また、還付申告書は3月15日を過ぎても提出することができますが、その提出期間は5年間とされています。例えば、令和5年分の還付申告であれば令和10年12月31日まで提出することができます。
 還付申告をすることができるのは、次のような人です。

(1) 医療費が10万円(または所得金額の合計額の5%)を超えたために医療費控除を受ける人
(2) セルフメディケーション税制で医療費控除の特例を受ける人(上記(1)の医療費控除との選択適用)
(3) 災害や盗難、横領により、住宅や家財などの資産に受けた損害について雑損控除を受ける人(詐欺による被害は雑損控除の対象外)
(4) ふるさと納税などの寄附を行い、寄附金控除を受ける人
(5) 住宅ローンで住宅の新築や購入、増改築等をして、住宅借入金等特別控除を受ける人(入居した最初の年)
(6) 配当所得を申告して配当控除を受ける人
(7) 政党や政治団体に寄附をして政党等寄附金特別控除を受ける人
(8) 災害により住宅や家財に損害を受けたため、災害減免法を適用して所得税及び復興特別所得税の軽減または免除を受ける人
(9) 給与所得者の特定支出控除を受ける人
(10) 年の中途で退職して年末調整を受けなかった人のうち、その年中に再就職しなかった人
(11) 退職金の支払を受ける際に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかったため、20.42%の税率で源泉徴収された人

3.年末調整が間違っていた場合等の確定申告

 給与所得者で扶養親族等の異動や保険料の追加払いによる年末調整の再調整ができなかった人や年末調整に間違いがあった人は、確定申告により所得税及び復興特別所得税の精算をすることになります。

※ 参考記事「交通費込み給与の交通費部分は確定申告でも非課税にできない

パート・アルバイトの税制上と社会保険制度上の年収の壁

 年末が近づいてくると、パートやアルバイトで働く人の中には、ある一定の年収を超えないように就業調整をする人が出てきます。
 例えば、年収103万円を超えると配偶者控除や扶養控除の対象から外れるため、労働時間を抑制して103万円というラインを超えないようにします
 この103万円というラインのことを一般に「年収の壁」と呼びますが、年収の壁は103万円だけではありません。
 以下においては、パートやアルバイトで働く給与所得者を前提として、税制上と社会保険制度上の年収の壁について確認します。

※ 2025(令和7)年度税制改正により、年収の壁となる給与収入金額が変わっています。詳細については、「令和7年度税制改正で年収の壁はこのように変わった!」をご参照ください。

1.100万円の壁(住民税)

 年収の壁としてまず直面するのは、住民税における100万円の壁です。給与収入が年間で100万円を超えると住民税がかかります(兵庫県宝塚市や西宮市の場合)。
 住民税は、所得金額に応じて課税される「所得割と、定額で課税される「均等割」から成りますが、住んでいる地域や家族構成によって住民税が非課税となる所得金額は異なります。
 例えば、宝塚市で均等割が非課税となる所得は、次の算式で算出します。

 35万円×(同一生計配偶者+扶養親族数+本人)+10万円+21万円(同一生計配偶者または扶養親族を有する場合のみ)

 単身の場合は、35万円×1+10万円=45万円が非課税となる所得であり、給与収入に置き換えると100万円(45万円+給与所得控除55万円)となります。
 詳しくは本ブログ記事「住民税非課税世帯とは?」をご参照ください。

2.103万円の壁(所得税)

 年収の壁として広く一般に認識されているのは、所得税における103万円の壁です。
 配偶者控除や扶養控除の対象となるには合計所得金額が48万円以下であることが必要ですが、年収が103万円であれば、給与収入103万円-給与所得控除55万円=48万円となるので、配偶者控除や扶養控除の対象となります。
 また、年収が103万円であれば、給与収入103万円-給与所得控除55万円-基礎控除48万円=0円となるので本人にも所得税はかかりません。

3.106万円の壁(社会保険)

 社会保険制度上の年収の壁として、106万円の壁があります。
 ①従業員が101人以上(2024(令和6)年10月からは51人以上)、②週の労働時間が20時間以上、③月収8.8万円以上(年収106万円以上)、④2か月を超える雇用の見込、⑤学生でない、といった条件を満たす場合は、パートやアルバイト従業員が自ら社会保険被保険者となり社会保険の扶養から外れます(関連記事「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」)。

4.130万円の壁(社会保険)

 所得税における103万円の壁と同様に広く一般に認識されているのが、社会保険における130万円の壁です。
 130万円の壁とは、社会保険被保険者である給与所得者(例えば夫)が扶養する者(例えば妻)については、夫が負担する社会保険料のみで妻の健康保険料及び国民年金保険料まで賄われるという年収の分岐点のことをいいます。
 従業員が101人以上(2024(令和6)年10月からは51人以上)の企業では106万円、それより規模の小さい企業では130万円が年収の壁となっています(関連記事「年収130万円以上となっても社会保険の扶養のまま働ける?」)。

5.150万円の壁(所得税)

 年収103万円を超えると配偶者控除の対象から外れますが(上記2)、年収150万円以下であれば、配偶者特別控除は満額の38万円が適用されます(ただし、給与所得者の合計所得金額が900万円以下の場合です)。
 年収150万円を超えると、段階的に配偶者特別控除が減っていきます。

6.180万円の壁(社会保険)

 意外と見落とされやすいのが、社会保険における180万円の壁です。
 60歳以上や障がい者の方は、年収130万円ではなく年収180万円までは社会保険の扶養に入ることができます(関連記事「扶養判定における遺族年金の取扱いは所得税と社会保険で異なる!」)。

7.201万円の壁(所得税)

 年収150万円を超えると段階的に配偶者特別控除が減っていきますが(上記5)、年収201万円を超えると配偶者特別控除はゼロとなります。
 201万円の壁とは、配偶者特別控除が適用されるか否かの年収の分岐点のことをいいます。

扶養判定における遺族年金の取扱いは所得税と社会保険で異なる!

 納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合には、その納税者は扶養控除を受けて所得税を節税することができます。

 また、被保険者に社会保険制度上(協会けんぽ)の被扶養者となる人がいる場合には、被保険者だけではなく、その被扶養者についての病気・けが・死亡・出産についても保険給付が行われます。

 所得税法上の控除対象扶養親族の判定には所得基準があり、社会保険制度上の被扶養者の判定には収入基準がありますが、遺族年金の取扱いは両者で異なります。

 以下では、扶養判定の際の遺族年金の取扱いについて確認します。

1.所得税の扶養控除と遺族年金

(1) 控除対象扶養親族となる人の要件

 扶養親族とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡しまたは出国する場合は、その死亡または出国の時)の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人をいいます。

① 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)、または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること
② 納税者と生計を一にしていること
年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
④ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと

 控除対象扶養親族とは、上記の扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が16歳以上の人(一般の控除対象扶養親族といいます)が該当します。

※ 2025(令和7)年度税制改正で、③の要件は「年間の合計所得金額が58万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が123万円以下)」に変わりました。
 なお、2025(令和7)年度税制改正の内容については、「
基礎控除・給与所得控除の引き上げと源泉徴収事務・年収の壁への影響(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

(2) 扶養控除の判定と遺族年金

 控除対象扶養親族に該当する人がいる場合、納税者は扶養控除を受けることができますが、特にお年寄りを扶養している納税者は、所得税の特例を受けることができます。

 例えば、一般の控除対象扶養親族がいる場合は38万円の扶養控除となりますが、老人扶養親族(控除対象扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が70歳以上の方をいいます)がいる場合は48万円の扶養控除となり、さらに同居老親(老人扶養親族のうち、納税者やその配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で、納税者やその配偶者との同居を常としている方をいいます)であれば58万円の扶養控除となります。

 老人扶養親族や同居老親に該当する方の多くは年金を受給されていると思われますが、この年金も含めて合計所得金額が48万円以下※1でなければなりません。

 では、所得税が非課税とされる遺族年金は、合計所得金額48万円以下※1の判定にあたって含まれるのでしょうか?
 例えば、遺族厚生年金120万円とパート収入60万円がある同一生計の母(70歳)を扶養控除の対象とすることはできるのでしょうか?

 扶養親族に該当するか否かを判定する場合の合計所得金額には、所得税法やその他の法令の規定によって非課税とされる所得の金額は含まれないことになっています。

 厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金や国民年金法に基づく遺族基礎年金などは非課税所得なので、上記の母の合計所得金額は5万円(給与収入60万円-給与所得控除55万円=給与所得5万円)※2となり、扶養控除の対象とすることができます(母が他の人の扶養控除の対象になっていないことが前提です)。

※1 2025(令和7)年度税制改正で、合計所得金額が48万円以下から58万円以下に変わりました。
※2 2025(令和7)年度税制改正で、給与所得控除額の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられましたので、下線部は「上記の母の合計所得金額は0万円(給与収入60万円-給与所得控除65万円=給与所得0万円)」となります。

2.社会保険の被扶養者と遺族年金

(1) 被扶養者となる人の要件

 社会保険(健康保険)の被扶養者に該当する条件は、日本国内に住所(住民票)を有しており、被保険者により主として生計を維持されていること、および次の①と②のいずれにも該当した場合です

① 収入要件
 年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)かつ
 ・同居の場合は収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満
 ・別居の場合は収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満

② 同一世帯の条件
ア.被保険者と同居している必要がない者
 ・配偶者
 ・子、孫および兄弟姉妹
 ・父母、祖父母などの直系尊属
イ.被保険者と同居していることが必要な者
 ・上記ア以外の3親等内の親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者など)
 ・内縁関係の配偶者の父母および子(当該配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む)

※ 協会けんぽ以外の健康保険(健康保険組合など)の被扶養者については、被保険者の勤務先の健康保険組合によって要件が異なります。本記事では、協会けんぽを前提としています。

(2) 被扶養者の判定と遺族年金

 所得税法上は遺族年金は非課税所得であり、扶養控除の判定にあたっても合計所得金額には含まれないことを上記1で確認しました。
 では、社会保険(健康保険)においては、年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)という被扶養者の判定にあたって、遺族年金は収入に含まれるのでしょうか?

 結論を先に述べると、健康保険の被扶養者となる収入要件の判定には、遺族年金も含まれます。

 例えば、遺族厚生年金120万円とパート収入60万円がある同一生計の母(70歳)の場合、合計所得金額が48万円以下(2025(令和7)年度税制改正後は58万円以下ですので所得税では扶養控除の対象となります。

 しかし、遺族年金も合わせた収入合計が180万円ですので年間収入180万円未満という収入要件を満たさず、健康保険では被扶養者の対象にはなりません。

海外転勤者の税金と社会保険

1.国外転出届により国内住所がなくなる

 1年以上の予定で海外転勤となる場合は、居住している自治体に国外転出届を提出します。この届出により国内に住所はなくなりますが、国内に住所がなくなることで、住所を基に課される税金や社会保険の扱いも変わってきます。

※ 国外に居住することとなった者は、国外における在留期間が契約等によりあらかじめ1年未満であることが明らかであると認められる場合を除き、「国外において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する者」として、非居住者として取り扱われます。

2.非居住者の所得税・住民税

 国内に住所がなくなると、所得税法上の納税義務者区分は非居住者となります。
 非居住者は、給与以外の所得がなければ日本での所得税の課税はなく、勤務先国での税法に従った課税となります(駐在期間中の自宅を他人用の賃貸に出すなど、給与以外の日本国内源泉所得がある場合は、日本での確定申告が必要となることもあります)。

 個人住民税は、その年の1月1日時点で市町村(都道府県)に住所がある者に対して課税されます。そのため、住所がなくなった翌年からは、帰国して住所を持つこととなるまで、住民税は課されないことになります。

※ 非居住者(内国法人の役員等一定の者を除きます)の国外勤務に係る給与が、非居住者の国内口座に振り込まれている場合でも、振込額の全額が日本での課税対象とはなりません。日本での課税対象となるものは、非居住者が支払を受ける給与のうち国内勤務に係る給与です。

3.非居住者の社会保険

 赴任前の国内会社から継続して国内払い給与があれば、海外赴任中も各種社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険など)の被保険者資格は継続となります
 厚生年金につき、赴任先国と日本との間で年金協定があれば、2つの国での二重払いを回避できます。

 健康保険が継続していると、海外赴任中に急な病気やけがなどによりやむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合に、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる海外療養費制度が使えます。

 一方、雇用主が駐在先の現地法人となる場合には、現在の日本での被保険者資格を喪失することになります。その場合は厚生年金から国民年金への切り替えや健康保険の任意継続などの手続きが必要となります。

 国民年金は、日本国籍者であれば、海外居住でも任意加入できます。国民年金に任意加入する目的としては、年金をもらう条件として必要な加入期間を充足させることと将来もらえる年金額を減らさないためなどです。
 なお、海外在住者に国民健康保険の任意加入制度はありません。

※ 健康保険および厚生年金保険は、適用事業所に勤務する限り、国内における住所の有無を問わず加入します。なお、社会保障協定を結んでいる国で働く場合、外国の社会保障制度の加入が免除される場合があります。