個人事業主の源泉徴収義務

 法人や個人事業主が、従業員に給与を支払ったり、税理士や司法書士などに報酬を支払ったりした場合には、その給与や報酬から支払金額に応じた所得税及び復興特別所得税を差し引き、従業員や税理士等に代わって国に納めることになっています。
 この所得税及び復興特別所得税を差し引いて、国に納める義務のある者を源泉徴収義務者といいます。
 法人(会社だけではなく、学校や官公庁、人格のない社団・財団を含みます)は、給与や報酬を支払う場合は、必ず源泉徴収義務者になります。従業員を雇っておらず社長だけの「1人会社」であっても、社長に給与を支払っていれば源泉徴収義務者になり、また、「1人会社」において社長に給与を支払っていなくても、税理士等に報酬を支払っていれば源泉徴収義務者になります。
 これに対し、個人事業主は、給与や報酬の支払があっても源泉徴収義務者にならない場合があり、源泉徴収が必要か否かについて判断を迷うこともあります。
 今回は、個人事業主の源泉徴収義務と源泉徴収すべき報酬等の範囲について確認します。

1.源泉徴収義務者となる場合・ならない場合

 個人事業主が給与や報酬を支払う場合は、原則として源泉徴収義務者になります。ただし、次のような場合は源泉徴収義務者にはなりません(下記(1)や(2)に該当する場合でも、ホステス等に報酬・料金等を支払う場合は、源泉徴収をする必要があります)。

(1) 常時2人以下のお手伝いさんや家政婦さんなどのような家事使用人だけに給与を支払っている個人は、その支払う給与や退職金について源泉徴収をする必要はありません。
(2) 源泉徴収義務のない個人が支払う税理士報酬などの報酬・料金については、源泉徴収をする必要はありません。例えば、給与所得者が確定申告などをするために税理士に報酬を支払っても、源泉徴収をする必要はありません。

 したがって、個人が給与等の支払者であっても常時2人以下の家事使用人のみに対する給与の支払者である場合又は従業員を雇っておらず給与等の支払者でない場合は、ホステス等に報酬・料金等を支払うときを除き、源泉徴収する必要はありません。

 ここで注意を要するのは、青色事業専従者給与を支払っている場合は、たとえその給与等について納付すべき税額がない場合であっても、源泉徴収義務者になるということです。上記(1)の家事使用人と青色事業専従者を混同しないように注意してください。

 源泉徴収義務者は、源泉徴収の対象となる報酬・料金等を支払う際に、所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。以下では、源泉徴収が必要となる報酬・料金等についてみていきます。

2.源泉徴収が必要な報酬・料金等

 源泉徴収が必要な報酬・料金等の範囲は、その報酬・料金等の支払を受ける者が、個人であるか法人であるかによって異なります。
 支払を受ける者が法人の場合は、馬主である法人に支払う競馬の賞金以外は、源泉徴収の必要はありません。
 支払を受ける者が個人の場合は、次の報酬・料金等を支払ったときに源泉徴収が必要になります。

(1) 原稿料や講演料など(ただし、懸賞応募作品等の入選者に支払う賞金等については、一人に対して1回に支払う金額が5万円以下であれば、源泉徴収をしなくてもよいことになっています)
(2) 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
(3) 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
(4) プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
(5) 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
(6) ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
(7) プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
(8) 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

 源泉徴収義務者((6)については源泉徴収義務者でなくても)がこれらの報酬・料金等を支払った場合に源泉徴収を怠ると、源泉徴収漏れとして支払った側にペナルティが課されますので、ご注意ください。