青色申告決算書の作成上の注意点とチェックポイント

 青色申告をする個人事業者が、所得税の確定申告をするにあたって、まず作成しなければならないものが青色申告決算書です。

 正しい経営判断を行うためにも、正しい税金の計算・申告を行うためにも、青色申告決算書は正確に作成しなければなりません。

 以下では、青色申告決算書の損益計算書の項目を中心に、作成上の注意点を○×形式で解説し、チェックポイントについても確認します。

1.売上(収入)金額

(1)「 12 月に売った商品(あるいは提供したサービス)100,000円の入金が来年1 月になるため、12月の「 売上金額①」に含めていない」 → ×

⇒12月に売った商品の代金が来年の1月に振り込まれるとしても、12月の売上として計上しなければなりません。仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売掛金 100,000 売上 100,000

(2) 「来年1 月に発送する商品の手付金10,000円を12月に現金で受け取ったため、12月の売上に含めた」 → ×

⇒商品の引渡しをしていないため、まだ売上を計上しません。12月に受け取った手付金は前受金として、次のように仕訳します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金 10,000 前受金 10,000

(3) 「定額減税の不足額給付金40,000円が10月に市役所から振り込まれたため、雑収入に含めた」 → ×

不足額給付金に所得税は課税されませんので(非課税)、雑収入として計上する必要はありません。事業専用口座に振り込まれた場合は、次のように仕訳します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 40,000 事業主借 40,000

(4) 「小規模事業者持続化補助金750,000円が振り込まれたので、雑収入に含めた」 → ○

小規模事業者持続化補助金は所得税の課税対象となっていますので、雑収入として計上します。

(5) 「事業専用の普通預金口座に利息1,000円がついていたので、受取利息として雑収入に含めた」 → ×

預貯金の利子は「利子所得」に該当し、口座に入金される際に一律15.315%の所得税・復興特別所得税と5%の道府県民税利子割が源泉徴収され、これにより納税が完結する源泉分離課税の対象となりますので、確定申告をすることはできません。
 事業専用口座の場合は、次のように仕訳します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 1,000 事業主借 1,254
事業主貸 254    

(6) 「事業で使用していた営業車を売ったら売却益が200,000 円出たので、固定資産売却益として雑収入に含めた」 → ×

営業車の売却益は「譲渡所得」に該当し「譲渡所得」として申告しますので、事業所得の計算上は売却益を計上しません。
 簿価300,000円の営業車を500,000円で売って売却益が200,000円出た場合の仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 500,000 車両運搬具 300,000
    事業主借 200,000

チェックポイント:決算書1ページの「売上金額①」は、決算書2ページの「月別売上(収入)金額及び仕入金額」の「 売上(収入)金額」の計の金額、決算書3ページの「売上(収入)金額の明細」の「売上(収入)金額」の計の金額確定申告書第一表アの金額と一致していますか?

2.売上原価

(1) 「12月の仕入代金80,000円の支払いが来年1月のため、12月の仕入金額に含めていない」 → ×

⇒12月に仕入れた商品代金の支払いが来年の1月であったとして、12月の仕入として計上しなければなりません。仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 80,000 買掛金 80,000

チェックポイント:決算書1ページの「仕入金額③」は、決算書2ページの「月別売上(収入)金額及び仕入金額」の「仕入金額」の計の金額、決算書3ページの「仕入金額の明細」の「仕入金額」の計の金額と一致していますか?

3,経費

(1) 「所得税を支払ったので、租税公課として計上した」 → ×
(2) 「住民税を支払ったので、租税公課として計上した」 → ×
(3) 「事業税を支払ったので、租税公課として計上した」 → ○

所得税と住民税は経費になりませんが、事業税は経費になります。所得税と住民税を支払ったときは原則として仕訳不要ですが、事業用の現金や事業専用口座で支払った場合の仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
事業主貸 ××× 現金又は普通預金 ×××

(4) 「国民健康保険料・国民年金保険料を支払ったので、租税公課として計上した」 → ×

国民健康保険料と国民年金保険料は経費になりませんが、所得控除(社会保険料控除)として確定申告書第一表で合計所得から控除します。
 国民健康保険料と国民年金保険料を支払ったときは、原則として仕訳不要ですが、事業用の現金や事業専用口座で支払ったときの仕訳は、次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
事業主貸 ××× 現金又は普通預金 ×××

(5) 「店舗兼住宅の固定資産税200,000円を現金で支払ったので、全額を租税公課として計上した」 → ×

⇒店舗兼住宅の固定資産税のうち、事業割合に応じた金額を計上しなければなりません。
 例えば、面積比で家事按分した事業割合が50%の場合は、次のように仕訳します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
租税公課 100,000 現金 100,000

(6) 「ライオンズクラブの会費を支払ったので、接待交際費として計上した」 → ×

個人事業者が支払ったライオンズクラブやロータリークラブの会費は、経費になりません(法人の場合は、交際費として経費になります)。※ 関連記事「ロータリークラブ、ライオンズクラブの会費は法人と個人で経理処理が異なる!

(7) 「12月10日に車両(新車)を2,400,000円で購入して営業車として使用しているので、全額を車両費として計上した」 → ×

⇒車両は資産として計上し、耐用年数にわたって減価償却することによって費用化していきます。
 この例では、減価償却費の計算は次のようになります。

 減価償却費=2,400,000円×0.167×1か月/12か月=33,400円

 0.167は、耐用年数6年の場合の定額法の償却率です。また、年内の使用期間は12/10から12/31までの22日間ですが、日割計算はせずに月割計算をしますので、1か月/12か月を掛けます。仕訳は次のようになります。※ 関連記事「自家用車を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却費の計算

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 33,400 車両運搬具 33,400

チェックポイント:決算書1ページの「減価償却費⑱」は、決算書3ページの「減価償却費の計算」の「(リ)本年分の必要経費算入額」の計の金額と一致していますか?

(8) 「同一生計の夫が所有者である自宅(一戸建て)の一室を事業用に使用しているため、自宅の固定資産税のうち事業割合に応じた金額を租税公課として計上した」 → ○

⇒上記(5)と同じパターンです。

(9) 「同一生計の夫が所有者である自宅(一戸建て)の一室を事業用に使用しているため、夫に事業割合に応じた家賃を支払って地代家賃として計上した」 → ×

⇒同一生計の夫が所有している自宅(一戸建て)の一室を事業用に使用していることを理由に、夫に家賃を支払ったとしても、経費にはなりません。夫の方でも不動産収入になりません。家計の中で資金が移動したに過ぎません。※ 関連記事「個人事業主が同一生計親族に支払う家賃は必要経費にできない

チェックポイント:決算書1ページの「地代家賃㉓」は、決算書2 ページの「地代家賃の内訳」の「左の賃借料のうち必要経費算入額」の計の金額と一致していますか?

(10) 「『青色申告特別控除前の所得金額㊸』が50,000 円で青色申告特別控除額が650,000円(確定申告をe-Tax で行うため)だったので、所得金額㊺を△600,000 円とした」 → ×

⇒青色申告特別控除額は「青色申告特別控除前の所得金額㊸」を上限として控除しますので、青色申告特別控除を引くことにより、所得がマイナス(損失)となることはありません。この例では、所得金額㊺は0円となります。

チェックポイント:決算書1ページの「所得金額㊺」は、確定申告書第一表①の金額と一致していますか?

(12) その他のチェックポイント

チェックポイント:決算書1ページの「給料賃金⑳」は、決算書2ページの「 給料賃金の内訳」の「 支給額合計」の計の金額と一致していますか?

チェックポイント:決算書1ページの「 専従者給与㊳」は、決算書2ページの「 専従者給与の内訳」の「 支給額合計」の計の金額と一致していますか?

 以上、青色申告決算書の作成上の注意点とチェックポイントを確認しました。

 この青色申告決算書を基に、確定申告書第一表と第二表を作成して確定申告を行いますが、個人事業者が令和7年分の確定申告をするにあたっては、令和7年度税制改正の内容を押さえておく必要があります。

 次回は、個人事業者が押さえておきたい令和7年度税制改正の内容について確認します。

定額減税額を追加するための「予定納税額の減額申請書」の書き方と記載例

1.同一生計配偶者等の分は申請により予定納税額より控除

 給与所得者については2024(令和6)年6月1日以後最初に支払われる給与等から、公的年金等の受給者についても令和6年6月1日以後最初に支払われる公的年金等から、それぞれ所得税の定額減税が開始されます※1
 所得税の定額減税額は、次の金額の合計額です。

(1) 本人(居住者に限ります)・・・3万円
(2) 同一生計配偶者及び扶養親族(居住者に限ります)※2・・・1人につき3万円

 一方、個人事業主については原則として令和6年分の所得税確定申告で定額減税を行うことになりますが、予定納税の対象者については、令和6年分確定申告を待たずに、令和6年6月以後に通知される令和6年分の所得税に係る第1期分予定納税額(7月)※3から本人分の定額減税額3万円が控除されています

 また、予定納税額の減額申請の手続により、本人分に加えて同一生計配偶者及び扶養親族分の定額減税額を予定納税額から控除することもできます(令和6年分の合計所得金額の見積額が1,805万円以下の居住者に限ります)。

※1 給与所得者の定額減税については「給与支払者の定額減税の方法(月次減税事務:計算から納付まで)」を、公的年金等受給者の定額減税については「定額減税を受ける公的年金等の受給者は確定申告の要否に注意」をご参照ください。

※2 青色申告者の事業専従者としてその年に給与の支払を受けている人または白色申告者の事業専従者を除きます。
 したがって、個人事業主本人の定額減税額の計算においては、これらの者を計算対象人数としてカウントしません。
 なお、青色事業専従者自身が定額減税を受けることができるか否かについては、「青色事業専従者自身の定額減税について」をご参照ください。

※3 特別農業所得者(その年において農業所得の金額が総所得金額の7割を超え、かつ、その年9月1日以後に生じる農業所得の金額がその年の農業所得の金額の7割を超える者)については、第2期分予定納税額(11月)から控除されます。

2.予定納税額の減額申請書の書き方と記載例

 同一生計配偶者及び扶養親族分の定額減税額の追加のみが減額申請書の提出理由となる場合は、簡易的な記載方法で申請することが認められています。
 以下では、次の家族構成(いずれも居住者)を前提として、本人が同一生計配偶者及び扶養親族分の定額減税額を追加する場合の減額申請書の書き方について確認します。

・給付 椎名(本人 合計所得金額の見積額は1,805万円以下)
・給付 瀬名(妻 平成7年7月7日生まれ パート給与収入見積額は100万円)
・給付 瀬世(子 令和3年3月3日生まれ 所得なし)


① 提出先の税務署、提出年月日、住所、氏名、職業、電話番号を記入します。

② 「通知を受けた金額」欄及び「申請金額」欄は、次のように記入します。


 「通知を受けた金額」欄のa、b、cは、税務署から通知された「令和6年分の所得税及び復興特別所得税の予定納税額の通知書」から転記します。

 参考までにb、cの金額は次のように計算されています。
 b=a予定納税基準額181,800円÷3-本人分の定額減税額30,000円=30,600円
 c=a予定納税基準額181,800円÷3=60,600円

 「申請金額」欄のA、B、Cは、次のとおり記入します。

 Aは、aと同額を記入します。

 Bは、b第1期分30,600円-同一生計配偶者・扶養親族分の定額減税額60,000円=△29,400円となるので0と記入します(計算結果が0円以下となる場合は0と記入します)。

 Cは、c第2期分60,600円-Bで引ききれなかった29,400円=31,200円を記入します(計算結果が0円以下となる場合は0と記入します)。

③ 「減額申請の理由」は、予定納税特別控除額を〇で囲みます。
 「減税申請の具体的理由」には、同一生計配偶者等の氏名、続柄、生年月日を記入します。

④ 「本人分㊵」欄は、30,000と記入します。
 「同一生計配偶者等分㊶」欄は、同一生計配偶者・扶養親族1人につき3万円の金額を記入します(記載例では、30,000円×2人=60,000円)。
 「合計㊷」欄は、㊵欄と㊶欄の合計額を記入します。
 ㊴欄、㊸欄、㊹欄は、上記②で計算した「申請金額」欄のA、B、Cの金額を記入します。

3.減額申請書の提出期間

 令和6年分所得税の定額減税の実施に伴い、7月減額申請(第1期分及び第2期分の減額申請)の期限が変更され、令和6年7月1日(月)から同年7月31日(水)までとなっています(通常であれば、その年の7月1日から7月15日までに減額申請書を提出します)。

法人成りにおける個人と法人の税務上の取扱い

 個人事業主が既存事業を法人化することを、法人成りといいます。法人成りの際には、個人事業主時代の棚卸資産や固定資産等を法人に引き継ぐことがあります。
 主な引き継ぎ方法には現物出資と売却がありますが、一般的には売却によることが多いと思われます。
 そこで、以下では、法人成りに際して個人から法人へ棚卸資産や固定資産を売却した場合の税務上の取扱いについて確認します。

1.個人から法人へ棚卸資産を売却した場合

 個人事業主が棚卸資産(商品や原材料など)を法人へ売却した場合は、所得税における所得区分は事業所得になります。したがって、個人の確定申告では、通常の売上に加えて法人成りの際の法人への売上も計上しなければなりません。
 また、棚卸資産が課税資産の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、非課税資産(例えば、不動産販売業における土地など)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から棚卸資産を購入した法人は、その棚卸資産を仕入(商品)として計上します。

2.個人から法人へ減価償却資産を売却した場合

 個人事業主が減価償却資産(建物附属設備、車両運搬具、備品など)を法人へ売却した場合は、所得税法における所得区分は譲渡所得(総合課税)になります。
 また、課税資産の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、非課税資産(例えば、介護タクシー事業における福祉車両など)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から減価償却資産を購入した法人は、その減価償却資産を有形固定資産として計上し、中古資産の取得として見積法又は簡便法による耐用年数で減価償却を行います(中古資産の耐用年数によらずに、法定耐用年数で減価償却することもできます)。
 ただし、取得価額が30万円未満の少額減価償却資産については、損金経理を要件として全額を損金算入することができます(青色申告を行う中小企業者)。

※ 車椅子のまま車に乗るタイプであれば消費税は非課税ですが、助手席や後部座席が回転・昇降するタイプは、消費税の課税対象となります。

3.個人から法人へ事業用建物・土地を売却した場合

 個人事業主が事業用の建物や土地を法人へ売却した場合は、所得税法における所得区分は譲渡所得(分離課税)になります。
 また、建物(課税資産)の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、土地(非課税資産)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から建物や土地を購入した法人は、その建物や土地を有形固定資産として計上し、建物については中古資産の取得として見積法又は簡便法による耐用年数で減価償却を行います(中古資産の耐用年数によらずに、法定耐用年数で減価償却することもできます)。
 仮に、建物の取得価額が30万円未満だった場合は、損金経理を要件として全額を損金算入することができます(青色申告を行う中小企業者)。
 なお、土地は非減価償却資産であるため、減価償却は行いません。

インボイス登録すれば外税請求できると提案され・・・

 2023(令和5)年10月1日から適格請求書等保存方式(以下、「インボイス制度」といいます)がスタートします。最近は、このインボイス制度に関するご質問・ご相談を受けることが多くなっています。
 前回は、免税事業者である任意団体がインボイス対応を求められた例を挙げました(本ブログ記事「任意団体が主催する公募展の協賛金とインボイス対応」をご参照ください)。
 今回は、免税事業者である家電取付業者からのご相談を例に挙げます。

1.取引先からインボイス対応を打診された

 家電取付業者であるAさんは個人事業主で、現在は消費税の免税事業者です。Aさんのお仕事の流れは上図のようになっています。
 まず一般消費者Dが家電量販店Cでエアコン等の電気製品を購入し、その取り付けを家電量販店Cに依頼します。家電量販店Cは電気製品の取り付けを下請業者Bに依頼し、下請業者Bは契約のある家電取付業者のAさんに取り付けを委託します。取引先Bから委託を受けたAさんは、消費者D宅で電気製品の取り付けをし、その作業に係る報酬の請求書をBに発行すると、Bから報酬が支払われます。
 この度Aさんは、取引先Bからインボイス対応を打診されたのですが、その内容は「インボイス登録事業者になる場合は、現在の内税による請求を令和5年10月1日から外税による請求にしてもかまわない」というものでした。この打診に対してどう対応したらいいのか、Aさんからご相談がありました。

2.外税請求できるのならインボイス登録もあり

 現在の内税による請求が外税による請求に変わるとAさんにどのような影響があるかを考えてみます。
 例えばBに対して30万円の請求をする場合、現在の内税(30万円に消費税が含まれる)による請求をしたときのBからの領収書は次のようになっています。なお、下記領収書における「控除額」とは、Bが支給した部材代や機器使用料、振込手数料などですが、話を単純化するためにここでは0円としています。

支払金額 300,000円
請求額300,000円(内消費税27,272円)-控除額0円=支払金額300,000円

 Aさんがインボイス登録事業者になり、外税(30万円+消費税3万円)による請求をすると、Bからの領収書は次のようになります。

支払金額 330,000円
請求額330,000円(内消費税30,000円)-控除額0円=支払金額330,000円

 支払金額だけを見ると、当然のことながら、内税よりも外税による請求の方がAさんの受取金額は多くなります。しかし、インボイス登録事業者になるということは消費税の課税事業者になるということですので、Aさんには消費税の申告納税義務が生じます。この度のBからの打診に対しては、この消費税の申告納税も考慮して対応する必要があります。
 上記の例(外税請求)におけるAさんの納税額を試算してみます。この試算では、申告に不慣れなAさんは簡易課税を選択するものとし(Aさんが自分で申告をします)、事業区分は第5種とします。

①売上に係る消費税額 30,000円
②控除対象仕入税額(①×50%) 15,000円
③納税額(①-②) 15,000円

 試算の結果、Aさんの消費税納税額は15,000円となりました。この納税額も考慮したAさんの実質的な受取額(手取額)は330,000円-15,000円=315,000円となり、インボイス対応しない場合(免税事業者のまま内税請求する場合)の手取額300,000円よりも多くなります。
 したがって、Aさんはインボイス登録事業者になって外税請求をする方が有利になります。
 消費税の納税は、本体の30万円に加算された消費税3万円を全額納付するのではなく、仕入税額控除ができます(上記試算の②)。つまり、受け取った消費税のうち、いくらかは手元に残ることになります。これは、原則課税で消費税の納税額を計算しても同じ結果になります。

 仮に、Bが価格を据え置いたまま(現在の内税請求のまま)Aさんにインボイス登録を求めてきた場合、それに応じることはAさんにとって不利な選択になります。

①売上に係る消費税額 27,272円
②控除対象仕入税額(①×50%) 13,636円
③納税額(①-②) 13,636円

 Aさんの消費税納税額は、上記のとおり13,636円となります。この場合のAさんの実質的な受取額は300,000円-13,636円=286,364円となり、従来の手取額300,000円よりも少なくなります。
 多くの免税事業者は、価格を据え置かれたままインボイス登録事業者(課税事業者)になることを要請される可能性があり、その対応に苦慮しています。その点を踏まえると、この度のBの提案は検討するに値するものと言えます。

※ 免税事業者のインボイス登録については、本ブログ記事「適格請求書発行事業者の登録申請書の書き方と記載例(R3.10.1~R5.9.30提出分)」をご参照ください。



事業復活支援金の申請期限・事前確認期限の延長と差額給付

1.申請ID発行期限・事前確認期限・申請期限

 中小企業庁は、2022(令和4)年5月31日(火)までにアカウント(申請ID)を発行した申請希望者に限り、事業復活支援金の申請期限を2022(令和4)年6月17日(金)まで延長することを発表しました(従来の申請期限は2022(令和4)年5月31日(火))。
 申請期限延長に伴って、登録確認機関による事前確認の実施期限も2022(令和4)年6月14日(火)まで延長されます(従来の実施期限は2022(令和4)年5月26日(木))。
 申請希望者は早めに申請IDを発行し、必要書類を準備して登録確認機関の事前確認を受けた上で、申請をしてください。

アカウント発行期限
2022(令和4)年5月31日(火)24:00
延長後の事前確認の実施期限
2022(令和4)年6月14日(火)24:00
延長後の申請期限
2022(令和4)年6月17日(金)24:00 

2.事業復活支援金の差額給付の申請

 2022(令和4)年6月1日(水)から事業復活支援金の差額給付※1の申請が開始されます。
 差額給付は、事業復活支援金を受給した方のうち特定の要件※2を満たす一部の方が申請可能です。対象となる可能性のある方は、マイページ上に差額給付の申請ボタンが表示されます。
 申請期間は、2022(令和4)年6月1日(水)~2022(令和4)年6月30日(木)です。ただし、6月1日以降に初回給付分を受給された方は、受給した日※3の翌日から30日間になります。
 なお、差額給付の申請でも、原則として事業復活支援金の申請IDをそのまま活用することができますので、改めての事前確認は不要です。
 事業形態・事業主体に変更があった場合は、改めてアカウントを発行する必要がありますが、その場合は事務局の設置する登録確認機関での事前確認が必要となりますのでご注意ください。

※1 差額給付とは、基準月の月間事業収入と比較して、対象月の月間事業収入の減少が30%以上50%未満の区分で事業復活支援金の給付(初回給付)を受けた申請者に対して、対象期間(2021年11月から2022年3月まで)のうち、「初回給付の対象月の翌月以降」かつ「初回給付の申請を行った日を含む月以降」のいずれかの月であって、初回給付の申請を行った時点で予見されていなかった新型コロナウイルス感染症影響を受けたことにより、自らの事業判断によらず、基準期間の同じ月と比較して、月間の事業収入等が50%以上減少した月が存在する場合に限り、その月を対象月とした支援金を給付するものです。
 事業復活支援金の差額給付の受給は、同一の申請者(同一の申請者が異なる屋号・雅号を用いて複数の事業を行っている場合を含む)につき、それぞれ一回限り申請することができます。

※2 以下の全ての要件を満たす場合、差額給付を申請することができます。
(1) 事業復活支援金の初回給付を受けたこと(ただし、初回給付に係る支援金を全額返還した者を除く)
(2) 初回給付において、対象月の月間事業収入が、基準月の月間事業収入と比較して30%以上50%未満の減少であったこと
(3) 差額給付において、対象月の月間事業収入が、基準月の月間事業収入と比較して50%以上減少していること
(4) 差額給付において、月間事業収入の減少が、初回給付の申請を行った時点で予見されなかった新型コロナウイルス感染症影響を受けたことにより、自らの事業判断によらないで生じたものであること
(5) 差額給付において、対象期間のうち、初回給付の対象月の翌月以降かつ初回給付の「申請日」を含む月以降のいずれかの月を対象月とすること

※3 マイページ上のステータスが振込完了となった日を指します。実際に口座に着金があってから振込完了のステータスになるまでに2日ほどかかる場合があります。また、申請期限はマイページ上に表示されます。

令和3年分確定申告・納付期限の簡易な方法による個別延長

1.令和4年3月16日~4月15日は簡易な方法で申請可、4月16日以降は延長申請書を提出

 2021(令和3)年分の申告所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の確定申告については、オミクロン株による感染の急速な拡大状況に鑑み、2022(令和4)年3月15日(個人事業者の消費税の確定申告については2022(令和4)年3月31 日)の期限までに、新型コロナウイルス感染症の影響により申告することが困難である納税者については、同年4月15日までの間、「簡易な方法」により申告・納付期限の延長を申請することができることとなりました。
 簡易な方法による延長とは、別途、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」(以下、「延長申請書」といいます)を作成して提出する必要はなく、申告書を提出する際に、その余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」といった文言を付記するか、e-Tax を利用する場合は所定の欄にその旨を入力するなどの方法をいいます。
 なお、2022(令和4)年4月16日以降に期限の延長申請を行う場合は、「延長申請書」を提出する必要があります。

2.簡易な方法による個別延長の具体的記載例

(1) 申告書を書面で提出する場合の記載方法

 申告書の右上の余白に、「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と記載します。具体的な記載例は次のとおりです。

出所:国税庁ホームページ
出所:国税庁ホームページ
出所:国税庁ホームページ

(2) 各種会計ソフトを利用して e-Taxで提出する場合の入力方法

 具体的な入力例は次のとおりです。

出所:国税庁ホームページ
出所:国税庁ホームページ

(3) 国税庁確定申告書等作成コーナーを利用して e-Tax で提出する場合の入力方法

 具体的な入力例は次のとおりです。

出所:国税庁ホームページ
出所:国税庁ホームページ
出所:国税庁ホームページ

3.簡易な方法による延長後の申告・納付期限は?

 2022(令和4)年4月15 日までの簡易な方法により申告と同時に延長を申請した場合は、原則として、申告書を提出した日が申告・納付期限となります。そのため、申告・納付が可能となった時点で申告書を提出します。
 同年4月 16日以降も新型コロナウイルス感染症の影響が続き、申告等ができなかった場合は、申告等ができるようになった日から2か月以内に「延長申請書」を所轄の税務署に提出します。この場合は、所轄の税務署長が指定した日が申告・納付期限となります。