決算日が月末以外の会社は社会保険料の会社負担分を未払計上できない

 3月20日を期末(決算日)としているA社の社長から、次のようなご相談がありました。
 「3月分の給与に対する社会保険料の会社負担分を法定福利費として未払計上できるか?」

 A社は、給与計算の締め日を毎月20日、給与支給日を月末としています。3月分の給与は3月31日に支給しますが、決算日が3月20日ですので、3月分の給与は翌期の支給になります。
 そのため、3月分の給与(2月21日~3月20日)は決算時に未払計上していましたが、同時に3月分の社会保険料(4月末納付分)の会社負担分も未払計上できないか、というご相談でした。

1.社会保険料の債務確定時期

 法人税法は債務確定主義を採っており、期末までに債務が確定していたかどうかが重要です(法人税法22条3項2号、法人税基本通達2-2-12、9-3-2)。
 A社の場合、3月分の社会保険料の会社負担分を未払計上するためには、期末である3月20日までに納付義務が確定している必要があります。

 では、3月分の社会保険料の納付義務は、いつ確定するのでしょうか?

 社会保険料は、健康保険法156条3項等の規定により、被保険者が月末まで在職している場合に同者に係る保険料を翌月末日までに納付することとなっています。3月分(3月1日~3月31日分)の社会保険料の納付額は、翌月の4月に発行される納入告知書で明らかになります。
 これは、給与支給月(賞与を含む)の月末まで、被保険者(従業員)が在職していることが要件であることを意味します。例えば、3月30日に従業員が退職した場合は、その従業員の3月分については納付義務はありません。
 つまり、月末にならないと社会保険料の額が確定しないということです。

 A社の3月分の社会保険料の納付義務は、月末の3月31日にならないと確定しませんので、期末である3月20日時点では債務が確定していないことになります。
 したがって、A社の場合、3月分の社会保険料の会社負担分を法定福利費として未払計上することはできません。

 一方、A社の場合、2月分(2月1日~2月28日分)の社会保険料は3月末に納付することになりますが、期末の3月20日時点では未納付となっています。
 この2月分の社会保険料の会社負担分は法定福利費として未払計上することができます。なぜなら、2月分の社会保険料の納付義務は2月末時点で確定しているからです。

2.給与支給日を月末から20日にした場合

 A社の給与支給日を月末から20日に変更した場合、3月分の社会保険料の会社負担分を未払計上することはできるでしょうか?

 答えは「否」です。
 法人税基本通達9-3-2では、法人が負担する社会保険料の額については、当該保険料の計算の対象となった月の末日の属する事業年度において損金算入することができるとされています。
 3月分の給与を20日に支給するとしても、これに対応する社会保険料の納付義務が確定するのは3月31日ですので、3月20日の期末時点で債務が確定していません。よって、未払計上することはできません。

上場株式等の配当所得及び譲渡所得に係る住民税の課税方式は申告不要が得策

 2017年度(平成29年度)税制改正で、上場株式等の配当所得・譲渡所得について、所得税と住民税で異なる課税方式を選択できるようになりました。

※ 2023(令和5)年分の確定申告から、上場株式等の配当所得・譲渡所得に係る課税方式を所得税と一致させることになりました(所得税と住民税で異なる課税方式を選択することはできません)。
 これにより扶養控除や配偶者控除等の適用、非課税判定、国民健康保険税の保険料算定など、各種行政サービスに影響する場合がありますのでご注意下さい。

1.上場株式等の配当所得の課税方式

 上場株式等の配当所得については、所得税及び住民税ともに以下の課税方式を選択することができます。

(1) 申告不要
(2) 総合課税
(3) 申告分離課税

 所得税の確定申告書において、上場株式等の配当所得を総合課税又は申告分離課税として申告した場合は、住民税も同様にその課税方式が適用されます。
 しかし、納税通知書が送達される日までに、所得税の確定申告書とは別に住民税の申告書「上場株式等の配当・譲渡所得等の課税方式選択申告書」を提出することにより、所得税と異なる課税方式(申告不要、総合課税、申告分離課税)を選択することができます(例えば所得税は総合課税、住民税は申告不要など)。

2.上場株式等の譲渡所得の課税方式

 また、上場株式等の譲渡所得については、所得税及び住民税ともに以下の課税方式を選択することができます。

(1) 申告不要
(2) 申告分離課税

 この場合も、納税通知書が送達される日までに、所得税の確定申告書とは別に住民税の申告書を提出することにより、所得税と異なる課税方式(申告不要、申告分離課税)を選択することができます(例えば所得税は申告分離課税、住民税は申告不要など)。

3.住民税は申告不要が得策

 申告した上場株式等の配当所得と譲渡所得は、住民税の非課税判定や社会保険料(国民健康保険料・後期高齢者医療保険料)算定の基準となる総所得金額や合計所得金額に含まれます。社会保険料(国民健康保険料・後期高齢者医療保険料)には、この住民税の課税所得に連動する「所得割」の仕組みがあるため、申告によって所得が増えれば社会保険料も増えるリスクがあります。
 申告することで所得税の負担を軽減できても、社会保険料が増えれば、全体として負担増となる可能性があります。しかし、住民税を申告不要としておけば社会保険料には影響がありません。
 したがって、住民税は申告不要を選択することが得策といえます
 

契約書・領収書の記載金額における消費税の特例

1.消費税の特例

 契約書や領収書は、その記載金額に応じて印紙税が課税されます。
 この記載金額は消費税及び地方消費税の額(以下「消費税額等」といいます)を含んだ金額とされますが、次の条件を満たせば、税抜金額を記載金額として印紙税額の判定を行うことができます(消費税の特例)。

(1) 第1号文書、第2号文書、第17号文書のいずれかであること
(2) 消費税額等が明確になっていること

 「消費税額等が明確になっていること」とは、具体的には次の①②のように記載している場合です。③は消費税額等が明確とはいえず、税込金額が記載金額となります。

① 請負金額1,080万円(うち消費税額等80万円)→記載金額は1,000万円
② 請負金額1,080万円(税抜価格1,000万円)→記載金額は1,000万円
③ 請負金額1,080万円(消費税額等8%を含む)→記載金額は1,080万円

 ①②は記載金額1,000万円の第2号文書となり、印紙税額は1万円となります。③は記載金額1,080万円の第2号文書となり、印紙税額は2万円となります。

2.消費税の特例は課税事業者が前提

 注意しなければならないのは、消費税の特例が適用されるのは、課税文書の作成者が消費税の課税事業者である場合に限られるということです。
 したがって、免税事業者が作成する領収書は、消費税額を明確にして金額を記載しても、税込金額が記載金額となります。
 また、消費税の課税事業者と免税事業者が共同で契約書を作成する場合、例えば、課税事業者であるA株式会社と免税事業者であるB商店との間において、A株式会社を請負人とする「工事請負契約書」を作成する場合は、消費税額等が課される課税資産の譲渡等を行う者は課税事業者であるA株式会社となり、消費税額等を明確にして金額を記載すれば、税抜金額が記載金額となります。

仮契約書と本契約書のどちらに印紙を貼る?

 会計事務所への問い合わせで意外に多いのが「印紙」に関する事項です。税理士試験に「印紙税」の科目は無いため、印紙税に関する知識は実務経験を積んで身に付けることになります。

1.仮契約書と本契約書の両方に印紙を貼る

 昨日、顧問先であるA社(建設業)から、「仮契約書と本契約書のどちらに収入印紙を貼ればいいか?」という質問を受けました。
 A社が建設工事の請負(契約金額を仮に3,000万円とします)をする際に、まず仮契約を結ぶことになったそうです。

 早速調べてみると、国税庁ホームページ・タックスアンサーに次の記載がありました。
 「印紙税は、文書を作成する都度課税される税金です。文書が作成されるかぎり、たとえ1個の取引について数通の契約書が作成される場合でも、また、予約契約や仮契約と本契約の2度にわたって契約書が作成される場合でも、それぞれの契約書に印紙税が課税されます。」

 したがって、今回のように同一の取引について2文書以上の契約書を作成する場合は、仮契約書と本契約書の両方に10,000円の印紙を貼ることになります。
(「不動産譲渡契約書」及び「建設工事請負契約書」について、2014年(平成26年)4月1日から2020年(平成32年)3月31日までに作成されるものについては、印紙税の軽減措置が適用されますので、契約金額が3,000万円の場合は10,000円の印紙税になります。)

2.仮契約書の契約金額を引用すると節税になる

 このことをA社にお伝えしようと思ったのですが、念のため、さらに調べてみました。
 すると、国税庁ホームページ・質疑応答事例に次の記載がありました。
 「本契約書を作成すれば、その本契約書も第2号文書として課税の対象になりますが、例えば、本契約書に『○年○月○日付の仮請負契約書の内容を本契約とする。』旨を記載して契約金額を記載しない場合には、引用している『○年○月○日付の仮請負契約書』は課税文書ですから、本契約書は記載金額のない第2号文書として取り扱われます。」

 つまり、本契約書に契約金額を記載せずに「仮契約書」の契約金額を引用した場合は、本契約書は記載金額のない第2号文書(請負に関する契約書)として取り扱われ、200円(本来は10,000円)の印紙を貼るだけですみます。

 以上のことをA社にお伝えしました。

中小企業等経営強化法の認定が必要な設備投資税制

 2017(平成29)年度税制改正によって、中小企業投資促進税制の上乗せ措置が改組され、新たに「中小企業経営強化税制」が創設されました。
 この中小企業経営強化税制をはじめ、2019(平成31)年3月31日までに取得した資産に適用される設備投資税制には以下のものがあります。

 ①中小企業投資促進税制
 ②中小企業経営強化税制
 ③固定資産税の特例
 ④商業・サービス業・農林水産業活性化税制

 上記のうち、中小企業等経営強化法の認定が必要な税制は②と③、認定がなくても活用できる税制は①と④です。
 前回は、認定がなくても活用できる①中小企業投資促進税制と④商業・サービス業・農林水産業活性化税制について述べました。今回は、認定が必要な②中小企業経営強化税制と③固定資産税の特例について述べていきます。

※ 2021(令和3)年度税制改正で、中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制の見直しが行われています。改正内容については、本ブログ記事「令和3年度改正後の中小企業投資促進税制」及び「令和3年度改正後の中小企業経営強化税制」をご参照ください。なお、(中小企業経営強化法による)固定資産税の特例と商業・サービス業・農林水産業活性化税制は、適用期限の到来をもって廃止されています。

1.中小企業経営強化税制

 まず、中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)について、その概略を記していきます。

(1) 制度概要

 青色申告書を提出する中小企業者等(従業員1,000人以下の個人事業主を含む)が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき一定の新品設備を取得し指定事業の用に供した場合、即時償却又は10%の税額控除(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)を選択適用するこ とができます。

(2) 適用期間

 2017(平成29)年4月1日~2019(平成31)年3月31日に取得した資産

※2019(平成31)年度税制改正によって、適用期限が2021(平成33)年3月31日まで2年延長されることになりました。

(3) 指定事業

 中小企業投資促進税制の対象事業及び商業・サービス業・農林水産業活性化税制の対象事業

(4) 対象設備

 ① 生産性向上設備(A類型)・・・生産性が旧モデル比年平均1%以上向上する設備
 イ.機械及び装置・・・160万円以上(10年以内に販売開始)
  ロ.測定工具及び検査工具・・・30万円以上(5年以内に販売開始)
 ハ.器具備品・・・30万円以上(6年以内に販売開始)
 ニ.建物附属設備・・・60万円以上(14年以内に販売開始)
 ホ.ソフトウェア(情報を収集・分析・指示する機能)・・・70万円以上(5年以内に販売開始)

 ② 収益力強化設備(B類型)・・・投資利益率が年平均5%以上の投資計画に係る設備
 イ.機械及び装置・・・160万円以上
 ロ.工具・・・30万円以上
 ハ.器具備品・・・30万円以上
 ニ.建物附属設備・・・60万円以上
 ホ.ソフトウェア・・・70万円以上

※2019(平成31)年度税制改正によって、2分の1超の売電を見込む太陽光発電設備を対象設備から除外するとともに、売電を予定している場合には計画の申請時に一定の書類添付が義務付けられることとなりました。

(5) 確認者

 ① A類型・・・工業会等の証明
 ② B類型・・・経済産業局の確認
 なお、A類型・B類型ともにその業種を所轄する主務大臣に対し、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定が必要です。

(6) 措置内容

 即時償却又は税額控除(取得価額×10%)
 税額控除額は、当期の法人税額の20%が上限です。
(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%の税額控除のみ)

(7) 留意事項

 中小企業経営強化税制は、適用できない業種(映画業を除く娯楽業、電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業等)があります。
 太陽光発電などのいわゆる売電は電気業に該当しますので、そのための設備は対象になりません。
 太陽光発電システム自体は対象設備ですので、自社工場用など売電ではないもの等については対象となります。
(太陽光発電設備の優遇税制については、本ブログ記事「中小企業等経営強化法に基づく太陽光発電設備の優遇税制について」を参照)

2.固定資産税の特例

 上記の中小企業経営強化税制と同じく、2017(平成29)年度税制改正により中小企業等経営強化法に係る固定資産税の特例も拡充され、従来は対象設備が機械装置に限定されていたのに対し、高効率の冷蔵陳列棚、省エネ空調等の器具備品、建物附属設備が対象設備に追加されました。
 以下では、固定資産税の特例(経営力向上計画に係る固定資産税の特例措置)について、その概略を記していきます。

(1) 制度概要

 青色申告書を提出する中小企業者等(従業員1,000人以下の個人事業主を含む)が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき一定の新品設備を取得等した場合、固定資産税(償却資産税)が3年間にわたって2分の1に軽減されます。
 要件や手続きは中小企業経営強化税制のA類型とほぼ同じため、一緒に手続きをすることが可能です。

(2) 適用期間

 2016(平成28)年7月1日~2019(平成31)年3月31日に取得した資産

(3) 指定事業

 中小企業投資促進税制の対象事業及び商業・サービス業・農林水産業活性化税制の対象事業

(4) 対象設備

 生産性向上設備(A類型)・・・生産性が旧モデル比年平均1%以上向上する設備
 ① 機械及び装置・・・160万円以上(10年以内に販売開始)
 ② 測定工具及び検査工具・・・30万円以上(5年以内に販売開始)
 ③ 器具備品・・・30万円以上(6年以内に販売開始)
 ④ 建物附属設備・・・60万円以上(14年以内に販売開始)

 中小企業経営強化税制の対象設備であるソフトウェアは、固定資産税(償却資産税)の課税客体ではありません。

 2017(平成29)年度税制改正により対象に追加された設備(2017(平成29)年4月1日以降に取得した測定工具及び検査工具、器具備品、建物附属設備)については、対象地域・対象業種が一部限定されます。
 業種が限定される地域は、最低賃金が全国平均以上の7都府県(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大 阪)です。上記以外の40道県においては全業種が対象です。
 機械装置については、引き続き全国・全業種で対象になります。

(5) 確認者

 工業会等の証明
 なお、その業種を所轄する主務大臣に対し、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定が必要です。

(6) 措置内容

 固定資産税の課税標準が、3年間 2分の1に軽減。

(7) 留意事項

 2017(平成29)年度税制改正により対象に追加された設備(2017(平成29)年4月1日以降に取得した測定工具及び検査工具、器具備品、建物附属設備)については、対象地域・対象業種が一部限定されます。
 いわゆる売電用の太陽光発電システムも対象設備になります。

 なお、経営力向上計画に係る固定資産税の特例措置は、2019(平成31)年3月31日をもって終了します(期限の延長は行われません)。
 2019(平成31)年4月1日以降に取得等をした設備は、この特例措置の対象外となりますのでご注意ください。

※固定資産税の特例の廃止に伴い、2018(平成30)年度税制改正で創設された新固定資産税の特例については、本ブログ記事「生産性向上特別措置法による新固定資産税の特例」を参照してください。

中小企業等経営強化法の認定が不要の設備投資税制

 2017年度(平成29年度)税制改正によって、中小企業投資促進税制の上乗せ措置が改組され、新たに「中小企業経営強化税制」が創設されました。
 この中小企業経営強化税制をはじめ、2019年(平成31年)3月31日までに取得した資産に適用される設備投資税制には以下のものがあります。
 ①中小企業投資促進税制
 ②中小企業経営強化税制
 ③固定資産税の特例
 ④商業・サービス業・農林水産業活性化税制
 上記のうち、中小企業等経営強化法の認定が必要な税制は②と③、認定がなくても活用できる税制は①と④です。
 今回から2回に分けて、①~④の税制の概要を記していきます。今回は、認定がなくても活用できる①中小企業投資促進税制と④商業・サービス業・農林水産業活性化税制について述べていきます。

※ 2021(令和3)年度税制改正で、中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制の見直しが行われています。改正内容については、本ブログ記事「令和3年度改正後の中小企業投資促進税制」及び「令和3年度改正後の中小企業経営強化税制」をご参照ください。なお、固定資産税の特例と商業・サービス業・農林水産業活性化税制は、適用期限の到来をもって廃止されています。

1.中小企業投資促進税制

 まず、中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)について、その概略を記していきます。

※ 2021(令和3)年度税制改正で、中小企業投資促進税制に商業・サービス業・農林水産業活性化税制を盛り込む形で制度を一本化した上で、中小企業投資促進税制の適用期限が2023(令和5)年3月31日まで延長されました。改正内容等については、本ブログ記事「令和3年度改正後の中小企業投資促進税制」をご参照ください。

(1) 制度概要

 青色申告書を提出する中小企業者等(従業員数1,000人以下の個人事業主を含む)が、新品の機械装置等を取得等し指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除が選択適用できます。
 ただし、資本金3,000万円超1億円以下の法人は、税額控除の適用はありません。
 なお、従来の上乗せ措置(生産性向上設備等を取得した場合の即時償却又は10%(7%)税額控除)が改組されて、中小企業経営強化税制が創設されました。

(2) 適用期間

 1998年(平成10年)6月1日~2019年(平成31年)3月31日に取得した資産

※2019年度(平成31年度)税制改正によって、適用期限が2021年(平成33年)3月31日まで2年延長されることになりました。

(3) 指定事業

 製造業、建設業、農業、卸売業、小売業、サービス業等の一定の事業
不動産業、物品賃貸業、電気業、水道業、娯楽業(映画業を除く)、飲食店業のうち料亭・バー・キャバレー・ナイトクラブその他これらに類する事業、等は対象になりません。
 また、性風俗関連特殊営業に該当する事業も対象となりません。

(4) 対象設備

 ① 機械及び装置・・・1台160万円以上
 ② 測定工具及び検査工具・・・1台120万円以上、1台30万円以上かつ複数合計120万円以上
 ③ 一定のソフトウェア・・・一のソフトウェアが70万円以上、複数合計70万円以上
 ④ 貨物自動車(車両総重量3.5トン以上)
 ⑤ 内航船舶(取得価格の75%が対象)

(5) 措置内容

 特別償却(取得価額×30%)又は税額控除(取得価額×7%)
 税額控除額は、当期の法人税額の20%が上限です。
 (資本金3,000万円超1億円以下の法人は、税額控除の適用はありません)

(6) 留意事項

 中小企業等経営強化法の認定がなくても活用できます。

2.商業・サービス業・農林水産業活性化税制

 次に、商業・サービス業・農林水産業活性化税制(特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は税額控除)について、その概要を記していきます。

※ 2021(令和3)年度税制改正で、商業・サービス業・農林水産業活性化税制は適用期限の到来をもって廃止され、中小企業投資促進税制に一本化されました。改正内容等については、本ブログ記事「令和3年度改正後の中小企業投資促進税制」をご参照ください。

(1) 制度概要

 認定経営革新等支援機関等(認定を受けた税理士、公認会計士、商工会議所等)から経営改善に関する指導及び助言を受けた青色申告書を提出する中小企業者等(従業員数1,000人以下の個人事業主を含む)が、新品の経営改善に資する器具備品や建物附属設備を導入した場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除が選択適用できます。
 なお、資本金3,000万円超1億円以下の法人は、税額控除の適用はありません。

(2) 適用期間

 2013年(平成25年)4月1日~2019年(平成31年)3月31日に取得した資産

※2019年度(平成31年度)税制改正によって、適用期限が2021年(平成33年)3月31日まで2年延長されることになりました。

(3) 指定事業

 卸売業、小売業、農林水産業、サービス業等
製造業、建設業、医療業、娯楽業(映画業を除く)、等は対象になりません。
 また、風俗営業法上の風俗営業に該当する料亭・バー・キャバレー・ナイトクラブその他これらに類する事業については、生活衛生同業組合の組合員が事業を行う場合に限り対象となります。
 なお、性風俗関連特殊営業に該当する事業については対象となりません。

(4) 対象設備

 ① 器具備品・・・1台の取得価額が30万円以上
 ② 建物附属設備・・・一の取得価額が60万円以上

(5) 確認者

 認定経営革新等支援機関等(認定を受けた税理士、公認会計士、商工会議所等)

※2019年度(平成31年度)税制改正で、経営改善設備の投資計画の実施を含む経営改善により、売上高又は営業利益の伸び率が年2%以上となる見込みであることについて認定経営革新等支援機関等の確認を受けることが適用要件に加わりました。
 この改正は、2019年(平成31年)4月1日以後に取得等をする経営改善設備に適用されます。
 なお、同日前に交付を受けた経営改善指導助言書類に係る経営改善設備のうち同年9月30日までに取得等をしたものについては、上記の確認を受けることを不要とする経過措置が講じられます。

(6) 措置内容

 特別償却(取得価額×30%)又は税額控除(取得価額×7%)
 税額控除額は、当期の法人税額の20%が上限です。
 (資本金3,000万円超1億円以下の法人は、税額控除の適用はありません)

(7) 留意事項

 中小企業等経営強化法の認定がなくても活用できます。

短期前払費用の損金算入の注意点

1.年払い契約と決算月の支払いが必要

 顧問先であるA社(3月決算、5月申告)から、次のような相談がありました。
「契約している駐車場の家賃を2月に1年分(4月分~翌年3月分)前払いして、当期の費用として計上することに問題はないか?」
 A社は、法人税基本通達2-2-14(短期の前払費用)を適用し、その支払額の全額をその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することを考えているようでした。
 短期前払費用は、次の要件を満たす場合は、その支払時に損金算入することが認められています。

(1) 一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるものであること(等質・等量のサービスであることが必要です)

(2) その支払った日から1年以内に提供を受ける役務にかかるものであること

(3) 継続的に支払事業年度において経費処理していること

(4) 収益の計上と対応させる必要があるものでないこと 

 A社の事例を上記要件にあてはめて考えてみると、上記のうち(1)~(3)の要件に該当しない可能性がありました。

(1) A社は契約に基づいて家賃を月払いしているため、貸主の承諾なしに年払いに変えたとしても、要件を満たしません。契約を年払いに変更する必要があります。

(2) 2月に1年分(4月〜翌年3月分)を前払いしても、支払った日から1年を越える期間を対象とする前払費用であるため、要件を満たしません。決算月の3月に1年分を前払いする必要があります。
 なお、4月~翌年3月分を例えば3月20日に前払いする場合、翌年3月20日以降の分は終期が1年を超えるように思われますが、国税庁の質疑応答事例において適用して差し支えない事例として例示されています。

(3) 継続的な経費処理(支払)を前提条件とすることから、利益が出たから今期だけまとめて1年分支払うというような利益操作のための支出は認められません。来期以降も継続して1年分の家賃を前払いして経費処理する必要があります。

 なお、(4)の要件に抵触するのは、例えば賃借しているマンション等を転貸(又貸し)することによって賃貸料収入を得ている場合です。このようなケースで支払う家賃は、収益(賃貸料収入)に直接対応する費用であるため、短期前払費用の特例を受けることはできません。

2.前払対象期間が1年超の場合は不適用

 短期前払費用について、もう1点補足すべき点があります。それは、前払対象期間が1年超となる場合は、1年以内部分と1年超部分に分けたとしても、1年以内部分だけを損金算入することは認められないということです。

 例えば、当期首に火災保険料を360,000円(3年分)支払った場合、当期に対応する保険料は360,000円×12ヶ月/36ヶ月=120,000円となり、これを損金算入できます。
 残りの2年分(360,000円-120,000円=240,000円)については、翌期以降に対応する(前払対象期間が1年超となる)保険料となりますので損金算入することはできず、全額を資産計上しなければなりません。 

 ただし、貸借対照表へは、1年以内部分と1年超部分に分けて表示しなければなりません。
 1年基準(ワン・イヤー・ルール)によって、貸借対照表日(決算日)の翌日から起算して1年以内に費用となる120,000円は「前払費用(流動資産)」、1年を超える期間を経て費用となる120,000円は「長期前払費用(投資その他の資産)」として表示します。

「低解約返戻金型逓増定期保険」の節税の仕組みと税務上のリスク

 節税商品として注目されている「低解約返戻金型逓増定期保険」は、契約開始から一定期間(以下、「低解約返戻金期間」といいます)経過すると返戻率が大幅にアップするところに特徴があります。
 例えば、低解約返戻金期間中は解約返戻金を払込保険料の20%程度に抑える一方で、低解約返戻金期間経過後は90%以上に設定されていたりします。
 この返戻率が激変する直前に契約者を法人から個人に名義変更すれば、保険商品で得られる個人の利益に係る所得税額を節税することができます。 以下で、簡単な数値例を使ってその節税の仕組みをみていきます。

1.節税の仕組み

<前提>
契約者・受取人:法人、被保険者:役員、保険期間:20年、年間保険料:1,000万円、返戻率は5年目をピークに徐々に下がる
(1)1年目
保険料累計:1,000万円、返戻金:0円、返戻率:0%
(2)2年目
保険料累計:2,000万円、返戻金:100万円、返戻率:5%
(3)3年目
保険料累計:3,000万円、返戻金:300万円、返戻率:10%
(4)4年目
保険料累計:4,000万円、返戻金:800万円、返戻率:20%
(5)5年目
保険料累計:5,000万円、返戻金:4,750万円、返戻率:95%

 法人契約の保険を個人に名義変更する場合、無償でその権利を移転する又は売却することが考えられますが、いずれにしてもその保険契約に関する権利の評価は「解約返戻金」となります(所得税基本通達36-37)。
 上の例で、低解約返戻金期間最終年である4年目に法人から役員に名義変更(売却の場合)するため、役員が法人に保険の評価額(解約返戻金)である800万円を支払います。
 次に役員が5年目の保険料1,000万円を支払ったうえで同保険を解約し、一時金として解約返戻金4,750万円を受け取ります(一時所得に該当します)。
 すると、役員個人の所得税の課税対象額は次のようになります。

(4,750万円ー800万円ー1,000万円ー特別控除50万円)×1/2=1,450万円

 これは、法人が役員に対して給与や賞与として4,750万円を支給する場合と比べると、明らかに所得税の税負担が軽減されており、節税効果が認められます。  

2.税務上のリスク

 一方で、この節税商品には税務上のリスクも指摘されています。
 名義変更されるまでに法人が支払った保険料4,000万円や、翌年に役員が受け取る解約返戻金4,750万円を踏まえると、形式的には通達に従った処理を行っていても、名義変更時の保険の評価額を解約返戻金800万円とすることに合理性がないとされる可能性があります。

中小企業倒産防止共済掛金の損金算入要件等

 企業や個人事業者の節税対策として、中小企業倒産防止共済が利用されることがあります。
 決算間近になって利益が予想よりも多く出ていた場合、中小企業倒産防止共済に加入し1年分の掛金を前納することで、最大で240万円の経費を計上することができます。

1.損金算入要件

 ただし、この掛金は本来は積立金ですので、経費にするためには明細書の添付が必要です。
 法人の場合は、「別表10(6)」と「適用額明細書」の添付が必要です。具体的には、別表10(6)の「Ⅲ 特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」欄 に、次のように記載します。

① 基金に係る法人名 → 独立行政法人中小企業基盤整備機構
② 基金の名義 → 中小企業倒産防止共済
③ 告示番号 → 記入しません
④ 当期に支出した負担金等の額 → 掛金の支出金額
⑤ 同上のうち損金の額に算入した金額 → 掛金の支出金額

 個人事業者の場合は、中小企業基盤整備機構ホームページにある様式例「中小企業倒産防止共済掛金の必要経費算入に関する明細書」を任意の用紙で作成し、確定申告書に添付する必要があります。

2.前納申出書の提出期限

 この節税対策は加入初年度のみ効果がありますが、次年度以降も前納を希望する場合は、事前に前納申出書の提出が必要です。
 この前納申出書は、前納を希望する月の5日(土曜・日曜・祝日の場合は翌営業日)までに中小機構に届くように提出しないといけないのですが、委託団体を通して中小機構に提出する場合は、前納希望月の前月中に委託団体に提出する必要がありますので注意して下さい。
 なお、前納申出書を提出しない場合や残高不足で口座振替できなかった場合は、月払いになります。

3.個人事業の場合の注意点

 このように中小企業倒産防止共済の掛金は、法人の場合は「損金」に、個人事業の場合は「必要経費」に算入できます。
 ただし、個人事業の場合は、事業所得以外の収入(不動産所得等)は必要経費としての算入が認められていません。

4.解約手当金

 掛金の一部を引き出すことはできませんが、解約はいつでもできます。解約の手続きをすることで、掛金の納付月数と掛金総額に応じた解約手当金(最大で800万円)を受け取ることができます。
 ただし、納付月数が12か月未満の場合、解約手当金は受け取れません。また、納付月数が40か月未満の場合は、受け取れる金額が掛金総額を下回りますのでご注意ください。
 なお、解約手当金は税法上、法人の場合は益金の額、個人の場合は事業所得の収入金額となります。