「低解約返戻金型逓増定期保険」の節税の仕組みと税務上のリスク

 節税商品として注目されている「低解約返戻金型逓増定期保険」は、契約開始から一定期間(以下、「低解約返戻金期間」といいます)経過すると返戻率が大幅にアップするところに特徴があります。
 例えば、低解約返戻金期間中は解約返戻金を払込保険料の20%程度に抑える一方で、低解約返戻金期間経過後は90%以上に設定されていたりします。
 この返戻率が激変する直前に契約者を法人から個人に名義変更すれば、保険商品で得られる個人の利益に係る所得税額を節税することができます。 以下で、簡単な数値例を使ってその節税の仕組みをみていきます。

1.節税の仕組み

<前提>
契約者・受取人:法人、被保険者:役員、保険期間:20年、年間保険料:1,000万円、返戻率は5年目をピークに徐々に下がる
(1)1年目
保険料累計:1,000万円、返戻金:0円、返戻率:0%
(2)2年目
保険料累計:2,000万円、返戻金:100万円、返戻率:5%
(3)3年目
保険料累計:3,000万円、返戻金:300万円、返戻率:10%
(4)4年目
保険料累計:4,000万円、返戻金:800万円、返戻率:20%
(5)5年目
保険料累計:5,000万円、返戻金:4,750万円、返戻率:95%

 法人契約の保険を個人に名義変更する場合、無償でその権利を移転する又は売却することが考えられますが、いずれにしてもその保険契約に関する権利の評価は「解約返戻金」となります(所得税基本通達36-37)。
 上の例で、低解約返戻金期間最終年である4年目に法人から役員に名義変更(売却の場合)するため、役員が法人に保険の評価額(解約返戻金)である800万円を支払います。
 次に役員が5年目の保険料1,000万円を支払ったうえで同保険を解約し、一時金として解約返戻金4,750万円を受け取ります(一時所得に該当します)。
 すると、役員個人の所得税の課税対象額は次のようになります。

(4,750万円ー800万円ー1,000万円ー特別控除50万円)×1/2=1,450万円

 これは、法人が役員に対して給与や賞与として4,750万円を支給する場合と比べると、明らかに所得税の税負担が軽減されており、節税効果が認められます。  

2.税務上のリスク

 一方で、この節税商品には税務上のリスクも指摘されています。
 名義変更されるまでに法人が支払った保険料4,000万円や、翌年に役員が受け取る解約返戻金4,750万円を踏まえると、形式的には通達に従った処理を行っていても、名義変更時の保険の評価額を解約返戻金800万円とすることに合理性がないとされる可能性があります。