短期前払費用の損金算入の注意点

1.年払い契約と決算月の支払いが必要

 顧問先であるA社(3月決算、5月申告)から、次のような相談がありました。
「契約している駐車場の家賃を2月に1年分(4月分~翌年3月分)前払いして、当期の費用として計上することに問題はないか?」
 A社は、法人税基本通達2-2-14(短期の前払費用)を適用し、その支払額の全額をその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することを考えているようでした。
 短期前払費用は、次の要件を満たす場合は、その支払時に損金算入することが認められています。

(1) 一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるものであること(等質・等量のサービスであることが必要です)

(2) その支払った日から1年以内に提供を受ける役務にかかるものであること

(3) 継続的に支払事業年度において経費処理していること

(4) 収益の計上と対応させる必要があるものでないこと 

 A社の事例を上記要件にあてはめて考えてみると、上記のうち(1)~(3)の要件に該当しない可能性がありました。

(1) A社は契約に基づいて家賃を月払いしているため、貸主の承諾なしに年払いに変えたとしても、要件を満たしません。契約を年払いに変更する必要があります。

(2) 2月に1年分(4月〜翌年3月分)を前払いしても、支払った日から1年を越える期間を対象とする前払費用であるため、要件を満たしません。決算月の3月に1年分を前払いする必要があります。
 なお、4月~翌年3月分を例えば3月20日に前払いする場合、翌年3月20日以降の分は終期が1年を超えるように思われますが、国税庁の質疑応答事例において適用して差し支えない事例として例示されています。

(3) 継続的な経費処理(支払)を前提条件とすることから、利益が出たから今期だけまとめて1年分支払うというような利益操作のための支出は認められません。来期以降も継続して1年分の家賃を前払いして経費処理する必要があります。

 なお、(4)の要件に抵触するのは、例えば賃借しているマンション等を転貸(又貸し)することによって賃貸料収入を得ている場合です。このようなケースで支払う家賃は、収益(賃貸料収入)に直接対応する費用であるため、短期前払費用の特例を受けることはできません。

2.前払対象期間が1年超の場合は不適用

 短期前払費用について、もう1点補足すべき点があります。それは、前払対象期間が1年超となる場合は、1年以内部分と1年超部分に分けたとしても、1年以内部分だけを損金算入することは認められないということです。

 例えば、当期首に火災保険料を360,000円(3年分)支払った場合、当期に対応する保険料は360,000円×12ヶ月/36ヶ月=120,000円となり、これを損金算入できます。
 残りの2年分(360,000円-120,000円=240,000円)については、翌期以降に対応する(前払対象期間が1年超となる)保険料となりますので損金算入することはできず、全額を資産計上しなければなりません。 

 ただし、貸借対照表へは、1年以内部分と1年超部分に分けて表示しなければなりません。
 1年基準(ワン・イヤー・ルール)によって、貸借対照表日(決算日)の翌日から起算して1年以内に費用となる120,000円は「前払費用(流動資産)」、1年を超える期間を経て費用となる120,000円は「長期前払費用(投資その他の資産)」として表示します。