令和3年度改正後の中小企業投資促進税制

1.商業・サービス業・農林水産業活性化税制の廃止

 2021(令和3)年度税制改正で、「商業・サービス業・農林水産業活性化税制(特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は特別税額控除制度)」が適用期限(2021(令和3)年3月31日)の到来をもって廃止されました。
 この商業・サービス業・農林水産業活性化税制の対象者(商店街振興組合)や対象事業(不動産業等)を「中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は特別税額控除制度)」に盛り込む形で制度が一本化され、中小企業投資促進税制の適用期限が2年間延長されました。
 中小企業投資促進税制の改正内容は、次のとおりです。

(1) 中小企業者等の範囲

 中小企業者等の範囲について、次の見直しが行われました。

① 本制度の対象となる中小企業者等に商店街振興組合が追加されました。
② 中小企業者の判定における大規模法人から一定の独立行政法人中小企業基盤整備機構を除外する特例が廃止されました。

(2) 指定事業の範囲

 対象となる指定事業に、次の事業が追加されました。

① 不動産業
② 物品賃貸業
③ 料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業(生活衛生同業組合の組合員が行うものに限る)

(3) 特定機械装置等の範囲

 本制度の対象となる減価償却資産から、匿名組合契約その他これに類する一定の契約の目的である事業の用に供するものが除外されました。

(4) 適用期間

 2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に取得等する特定機械装置等について適用されます。

 これらの改正を踏まえて、改正後の制度の内容を以下にまとめます。

2.改正後の中小企業投資促進税制

出所:中小企業庁広報資料「概要」

 中小企業者等※1で青色申告書を提出するものが、2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に新品の特定機械装置等※2の取得又は制作をして、その者の営む指定事業※3の用に供した場合には、基準取得価額(特定機械装置等の取得価額として一定のもの)の30%相当額の特別償却又は7%相当額の税額控除ができます。
 ただし、その事業年度の所得に対する法人税の額(個人事業主の場合は、所得税の額)の20%相当額を限度※4とし、限度を超える部分の金額については1年間の繰越しが認められています。
 なお、中小企業者等のうち特定中小企業者等※5以外の法人については、税額控除はできません。

※1 中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下のイ~ハに該当するものをいいます。
イ.中小企業者(中小企業者については、本ブログ記事「租税特別措置法上の『中小企業者』の定義とその判定時期」をご参照ください。ただし、本制度においては、中小企業者の判定における大規模法人から一定の独立行政法人中小企業基盤整備機構が除外する特例が廃止されています。)
ロ.常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
ハ.農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、商店街振興組合、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

※2 特定機械装置等とは、次のイ~ホの減価償却資産をいいます。ただし、匿名組合契約その他これに類する一定の契約の目的である事業の用に供するものは除外されます
イ.機会及び装置で1台又は1基の取得価額が160万円以上のもの
ロ.製品の品質管理の向上等に資する測定工具及び検査工具で1台又は1基の取得価額が120万円以上のもの(その事業年度の取得価額の合計額が120万円以上のもの(1台又は1基の取得価額が30万円未満のものを除く)を含む)
ハ.一定のソフトウェアで一のソフトウェアの取得価額が70万円以上のもの(その事業年度の取得価額の合計額が70万円以上のもの(少額減価償却資産及び一括償却資産の適用を受けたものを除く)を含む)
ニ.車両重量が3.5トン以上の普通自動車で貨物の運送の用に供するもの
ホ.内航海運業の用に供される船舶

※3 指定事業とは、製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業その他の飲食店業(料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業については生活衛生同業組合の組合員が行うものに限る)、一般旅客自動車運送業、海洋運輸業及び沿海運輸業、内航船舶賃貸業、旅行業、こん包業、郵便業、通信業、損害保険代理業及びサービス業(映画業以外の娯楽業を除く)、不動産業物品賃貸業をいいます。

※4 税額控除額は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制の控除税額の合計で、その事業年度の法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

※5 特定中小企業者等とは、中小企業者等のうち資本金の額若しくは出資金の額が3,000万円以下の法人又は農業協同組合等をいいます。

中小企業者等の所得拡大促進税制の令和3年度改正《令和3年4月1日以後開始事業年度》

 所得拡大促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。
 この所得拡大促進税制について、2021(令和3)年度税制改正において、適用期間の2年間延長と適用要件の見直し(継続雇用要件の撤廃等)が行われました。
 今回は、現行制度の概要と改正内容について確認します。

※ 所得拡大促進税制については、2023(令和5)年3月31日の期限到来前に2022(令和4)年度改正が行われたため、2021(令和3)年4月1日から2022(令和4)年3月31日までの間に開始する事業年度(個人事業主の場合は2022(令和4)年)について適用されることとなりました。

1.現行制度の概要

 中小企業者等※1で青色申告書を提出するものが、2018(平成30)年4月1日から2021(令和3)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主の場合は、2019(令和元)年から2021(令和3)年までの各年)において国内雇用者※2に対して給与等※3を支給する場合において、その事業年度においてその中小企業者等の継続雇用者給与等支給額※4から継続雇用者比較給与等支給額※5を控除した金額のその継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が1.5%以上であるとき(その中小企業者等の雇用者給与等支給額※6が比較雇用者給与等支給額※7以下である場合を除く)は、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の15%※8(下記(1)(2)の要件を満たす場合は25%)相当額の特別税額控除ができることとされています。
 ただし、その事業年度の所得に対する法人税額(個人事業主の場合は、その年の事業所得の金額に係る所得税額)の20%相当額が限度となります。

(1) 継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額のその継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が2.5%以上であること

(2) 次に掲げる要件のいずれかを満たすこと
① その事業年度の損金の額(個人事業主の場合は、その年分の必要経費)に算入される教育訓練費※9の額から中小企業比較教育訓練費※10の額を控除した金額のその中小企業比較教育訓練費に対する割合が10%以上であること
② その中小企業者等が、その事業年度終了の日(個人事業主の場合は、その年の12月31日)までに中小企業等経営強化法に規定する経営力向上計画の認定を受けたものであり、その経営力向上計画に記載された同法に規定する経営力向上が確実に行われたものとして一定の証明がされたこと

※1 中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下に該当するものをいいます。
イ.中小企業者(中小企業者については、本ブログ記事「租税特別措置法上の『中小企業者』の定義とその判定時期」をご参照ください)
ロ.常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
ハ.農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

※2 国内雇用者とは、法人又は個人事業主の使用人のうちその法人又は個人事業主の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者を指します。パート、アルバイト、日雇い労働者も含みますが、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者、個人事業主と特殊の関係のある者は含まれません。
 なお、特殊関係者(特殊の関係のある者)とは、法人の役員又は個人事業主の親族を指します。親族の範囲は6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族までが該当します。また、当該役員又は個人事業主と婚姻関係と同様の事情にある者、当該役員又は個人事業主から生計の支援を受けている者等も特殊関係者に含まれます。

※3 給与等とは、俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与(所得税法第28条第1項に規定する給与所得)をいいます。退職金など、給与所得とならないものについては、原則として給与等に該当しません。
 なお、所得税法上課税されない通勤手当等の額については、給与所得となるので、給与等に含まれます。ただし、賃金台帳に記載された支給額のみを対象に、所得税法上課税されない通勤手当等の額を含めずに計算する等、合理的な方法により継続して国内雇用者に対する給与等の支給額の計算をすることも認められます。

※4 継続雇用者給与等支給額とは、継続雇用者(前年度の期首から適用年度の期末までの全ての月分の給与等の支給を受けた従業員のうち、一定の者)に支払った給与等の総額をいいます。

出所:経済産業省「中小企業向け所得拡大促進税制ご利用ガイドブック-平成30年4月1日以降開始の事業年度用-(個人事業主は令和元年分以降用)」

※5 継続雇用者比較給与等支給額とは、継続雇用者に対する前事業年度の給与等の金額として一定の金額をいいます。

※6 雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額(その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額)をいいます。

※7 比較雇用者給与等支給額とは、前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。

※8 その事業年度において「地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の特別税額控除制度(雇用促進税制)」の適用を受ける場合には、その規定による控除を受ける金額の計算の基礎となった者に対する給与等の支給額として一定の方法により計算した金額を控除した残額となります。

※9 教育訓練費とは、所得の金額の計算上損金の額に算入される、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用で一定のものをいいます。

※10 中小企業比較教育訓練費とは、中小企業者等の適用年度開始の日前1年以内に開始した各事業年度の損金の額に算入される教育訓練費の額(その各事業年度の月数とと適用年度の月数が異なる場合には、教育訓練費の額に適用年度の月数を乗じてこれを各事業年度の月数で除して計算した金額)の合計額をその1年以内に開始した各事業年度の数で除して計算した金額をいいます。

2.令和3年度改正の内容

 所得拡大促進税制について次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長され、2021(令和3)年4月1日から2023(令和5)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主の場合は、2022(令和4)年から2023(令和5)年までの各年)について適用されます。

※ 所得拡大促進税制については、2023(令和5)年3月31日の期限到来前に2022(令和4)年度改正が行われたため、2021(令和3)年4月1日から2022(令和4)年3月31日までの間に開始する事業年度(個人事業主の場合は2022(令和4)年)について適用されることとなりました。

(1) 適用要件のうち、継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額の継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が1.5%以上であることの要件が、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の比較雇用者給与等支給額に対する割合が1.5%以上であることの要件に見直されました。

(2) 特別税額控除率(原則:15%)が25%となる要件(上記1.(1)及び(2)の要件)のうち、継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額の継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が2.5%以上であることの要件が、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額の比較雇用者給与等支給額に対する割合が2.5%以上であることの要件に見直されました。

(3) 給与等の支給額から控除される給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(上記1.※6参照)について、その範囲が明確化されるとともに、次の見直しが行われました。
① 上記(1)及び(2)の要件を判定する場合には、雇用安定助成金額を控除しないこととする
② 特別税額控除率(15%又は25%)を乗ずる基礎となる雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額は、雇用安定助成金額を控除して計算した金額を上限とする

※ 給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額には、以下のものが該当します。
イ.その補助金、助成金、給付金又は負担金その他これらに準ずるもの(以下「補助金等」といいます)の要綱、要領又は契約において、その補助金等の交付の趣旨又は目的がその交付を受ける法人の給与等の支給額に係る負担を軽減させることが明らかにされている場合のその補助金等の交付額

該当する補助金等の例
業務改善助成金

ロ.イ以外の補助金等の交付額で、資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供に係る反対給付としての交付額に該当しないもののうち、その算定方法が給与等の支給実績又は支給単価(雇用契約において時間、日、月、年ごとにあらかじめ定められている給与等の支給額をいいます)を基礎として定められているもの

該当する補助金等の例

雇用調整助成金、緊急雇用安定助成金、産業雇用安定助成金、労働移動支援助成金(早期雇い入れコース)、キャリアアップ助成金(正社員化コース)、特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

ハ.イ及びロ以外の補助金等の交付額で、法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向した使用人(以下「出向者」といいます)に対する給与を出向元法人(出向者を出向させている法人をいいます)が支給することとしているときに、出向元法人が出向先法人(出向元法人から出向者の出向を受けている法人をいいます)から支払を受けた出向先法人の負担すべき給与に相当する金額

 なお、出向先法人は、賃金台帳に出向者と給与負担金を記載することで、集計対象となる給与総額に含めることが可能となります。
(出向先法人の負担すべき給与に相当する金額については、本ブログ記事「出向先法人が支出する給与負担金の取扱い」をご参照ください)

租税特別措置法上の「中小企業者」の定義とその判定時期

 中小企業には様々な優遇税制(例えば、所得拡大促進税制や中小企業投資促進税制など)が用意されていますが、一口に中小企業と言っても、その範囲は各税制によって異なります。中小企業の優遇税制には、それぞれ根拠となる法律があり、各制度を規律する法律によって中小企業の定義は変わります。
 今回は中小企業の優遇税制と関連の深い租税特別措置法上の中小企業者の定義と、中小企業者に該当するか否かの判定は事業年度のどの時点で行うのかについて確認します。

1.中小企業者の定義

 租税特別措置法における中小企業者の定義は、2019(平成31)年度税制改正により見直しが行われ、2019(平成31)年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。
 改正後の中小企業者とは、次の(1)(2)に掲げる法人をいいます。ただし、中小企業者のうち適用除外事業者※1に該当するものは除かれます。

(1) 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人のうち次に掲げる法人以外の法人

① その発行済株式又は出資(自己の株式又は出資を除く。以下同じ。)の総数又は総額の2分の1以上を同一の大規模法人※2に所有されている法人
② 上記①のほか、その発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上を複数の大規模法人に所有されている法人
③ 受託法人

(2) 資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下※4の法人(受託法人を除く)

※1 適用除外事業者とは、基準年度(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度)の所得金額の合計額を各基準年度の月数の合計数で除し、これに12を乗じて計算した金額(設立後3年を経過していないことなどの一定の事由がある場合には、一定の調整を加えた金額)が15億円を超える法人をいいます。

※2 大規模法人とは、次に掲げる法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます。
(1) 資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人
(2) 資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人
(3) 大法人※3との間にその大法人による完全支配関係がある法人
(4) 普通法人との間に完全支配関係がある全ての大法人が有する株式及び出資の全部をその全ての大法人のうちいずれか一の法人が有するものとみなした場合においてそのいずれか一の法人とその普通法人との間にそのいずれか一の法人による完全支配関係があることとなるときのその普通法人(上記(3)に掲げる法人を除く。)

※3 大法人とは、次に掲げる法人をいいます。
(1) 資本金の額又は出資金の額が5億円以上の法人
(2) 相互会社及び外国相互会社のうち、常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人
(3)  受託法人

※4 「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」においては、2020(令和2)年度改正で、常時使用する従業員の数が500人(改正前:1,000人)以下に引き下げられました(措令39の28①)。

 上記のとおり、中小企業者とは、資本金・出資金の額が1億円以下の法人、又は資本・出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下※4の法人をいいます。
 ただし、資本金・出資金が1億円以下であっても、大規模法人にその発行済株式・出資の総数・総額の2分の1以上を所有されていたり、複数の大規模法人にその3分の2以上を所有されている法人は、中小企業者に該当しません。
 また、2019(平成31)年度税制改正により大規模法人の定義が変更され、大法人(資本金5億円以上)による完全支配関係がある法人が加えられたため、この大法人により間接保有される法人等がみなし大企業に該当することになり、中小企業者の範囲から除外されることになりました。

2.中小企業者の判定時期

 各種の優遇税制の適用を受けるためには中小企業者であることが必要ですが、例えば、期中に増資を行ったために資本金が1億円を超えることとなった場合は、その時点で中小企業者ではなくなります。
 しかし、増資が行われるまでは中小企業者であったので、もし、中小企業者であるか否かの判定が事業年度開始の時の現況で行われるのであれば、中小企業者に該当することになります。
 このように、どの時点で中小企業者の判定を行うかは、優遇税制の適用があるかどうかを判断する上で大変重要です。
 以下では、主な優遇税制について、中小企業者の判定時期を確認します。

(1) 研究開発税制(中小企業者等が試験研究を行った場合の法人税額の特別控除)

 中小企業者等に該当するか否かについては、事業年度終了の時の現況によって判定します。

(2) 所得拡大促進税制(中小企業者等が給与等の引上げを行った場合の税額控除)

 中小企業者等に該当するか否かについては、事業年度終了の時の現況によって判定します。

※ 所得拡大促進税制については、本ブログ記事「中小企業者等の所得拡大促進税制の令和3年度改正」をご参照ください。

(3) 中小企業投資促進税制(中小企業等が機械等を取得した場合の特別償却又は特別控除)

 法人が事業年度の中途で中小企業者等に該当しなくなった場合において、その該当しないこととなった日前に取得等をして事業の用に供した機械等については適用があります

※ 税額控除は資本金3,000万円以下の中小企業者に限ります。
※ 中小企業者投資促進税制については、本ブログ記事「令和3年度改正後の中小企業投資促進税制」をご参照ください。

(4) 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例

 法人が事業年度の中途で中小企業者等に該当しなくなった場合において、その該当しないこととなった日前に取得等をして事業の用に供した機械等については適用があります。

※ 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例については、本ブログ記事「30万円未満の少額減価償却資産の損金算入制度と別表16(7)の記載例」をご参照ください。

(5) 欠損金の繰戻しによる還付の不適用措置について、中小企業者等の各事業年度において生じた欠損金額は、不適用措置から除外する特例

 中小企業者等に該当するか否かについては、事業年度終了の時の現況によって判定します。

印紙税の節税方法5選

 印紙税は契約書などに課される税金ですが、印紙を貼っていなくても、その文書の法的な効力がなくなるわけではありません
 とはいえ、正式な契約の成立の証しとして作成する契約書に印紙を貼っていないと、契約の相手方が不安や物足りなさを感じるかもしれません。たとえ、合法的に印紙の貼り付けを不要にできる方法があったとしてもです。しかし、親子会社間や同族会社間の取引であれば、活用できる余地はあると思われます。
 そこで今回は、親子会社間や同族会社間で活用できる印紙税の節税方法について確認します(以下の方法は、親子会社間や同族会社間に限定した節税方法ではなく、双方の合意があれば、契約の相手方が誰であっても有効な方法です)。

1.コピーに印紙は不要

 契約書の文面に、「甲はこの契約書の原本を保有し、乙はそのコピーを保有する」と記載すれば、乙の保有するコピーに印紙を貼る必要はありません。これで、印紙代は半分に節約できます。
※ 詳しくは、本ブログ記事「契約書のコピーに印紙は必要?不要?」をご参照ください。

2.契約書を電子メール、ファックスで送る

 印紙税は、相手に渡したり、双方で取り決めをした「紙」の文書に課される税金です。電子メールやファックスは紙の文書を送っているわけではなく、電子データ(電子メール)や通信データ(ファックス)を送っています。
 したがって、電子メールやファックスでデータを送信しても課税文書を作成したことにはならず、印紙税の課税原因は発生しません
 例えば、注文請書に記名押印した後にPDFファイル等の電磁的記録に変換し、そのPDFファイルを注文先に電子メールで送信したとしても、現物を注文者に交付しなければ、それは課税文書に該当しません。送信用の現物(原本)を相手に交付せずに社内で保管する場合は、印紙税の課税対象外となります。
 ただし、電子メールで送信した後に注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課されます
 一方、受信者側が送信された注文請書をプリンタで印刷しても、現物の交付がなされない場合は、コピーした文書と同様のものと認められるため、印紙税は課税されません

3.記載金額を分割する

 例えば、親子会社間あるいは同族会社間で金銭の貸し借りをする場合に、金銭消費貸借契約書を1枚にせず、金額を分割します。
 仮に、金額が1,000万円なら、500万円の金銭消費貸借契約書を2枚作成します。記載金額が1,000万円なら印紙税は1万円ですが、500万円なら印紙税は2,000円です。500万円の金銭消費貸借契約書を2枚作っても、合計で4,000円の印紙税で済みます。

4.消費税、源泉所得税は区分表示する

 第1号文書(不動産等の譲渡等に関する契約書)、第2号文書(請負に関する契約書)、第17号文書(売上得代金等に係る金銭又は有価証券の受取書)は、消費税を区分表示した場合は消費税抜きの金額を記載金額とするという規定(消費税の特例)があります。
 また、第17号文書については、源泉所得税も区分表示すれば、税抜きの金額が記載金額とされます
※ 消費税の特例については、本ブログ記事「契約書・領収書の記載金額における消費税の特例」をご参照ください。

5.印紙を金券ショップや格安チケット屋で購入する

 郵便局で購入する収入印紙には、消費税が課税されません。消費税では、日本郵便株式会社や簡易郵便局等で譲渡される収入印紙は非課税とされています(消費税基本通達6-4-1)。
 一方、郵便局以外の場所、例えば金券ショップや格安チケット屋などで譲渡される収入印紙には、消費税が課税されます。
 金券ショップ等を利用すれば、額面金額よりもわずかながら安く購入することができ、さらに消費税の課税事業者で本則課税を採用している事業者であれば、印紙の購入額を課税仕入れとして処理できます
 印紙税の節税というよりは消費税の節税ですが、特に印紙の購入額が大きい不動産業や建設業の方には、活用していただきたい節税方法です。

契約書のコピーに印紙は必要?不要?

 一般的な商取引では、同じ契約書を2通作成し、契約当事者がそれぞれ1通づつを保管します。その契約書は、契約の成立を証明するために作成された文書であり、契約当事者の署名や押印がありますので、それぞれの契約書に収入印紙を貼る必要があります。
 では、契約当事者の一方が原本を持っていて、他の者がその原本のコピーを持っている場合、そのコピーに収入印紙を貼る必要はあるのでしょうか?
 今回は、この点について確認します。

1.コピーに印紙が不要となる場合

 一般的な契約書には、「契約成立の証として本書2通を作成し、甲乙各自署名押印のうえ、各自1通を保管する。」などの文言が記載されています。
 このような文言のある契約書でも、例えば、役所などに提出するために契約書をコピーする場合や、弁護士や税理士などに契約書のコピーを渡す場合などは、印紙は不要です。
 つまり、契約書のコピーが単に複写しただけのもの(原本をコピーしたままのもので署名押印もコピーされているもの)の場合は、そのコピーに印紙は不要です。

 また、契約書の作成段階で、上記文言を「契約成立の証として本書1通を作成し、甲が保管する」や「甲はこの契約書の原本を保有し、乙はそのコピーを保有する」に変えて記載すれば、乙の保有するコピーに印紙を貼る必要はありません。
 この方法で印紙代は半分に節約できます。親子会社間、同族会社間での契約に活用できると思います。

2.コピーに印紙が必要となる場合

 ただし、次の場合は契約の成立を証明する文書に該当しますので、コピーであっても印紙を貼る必要があります(契約当事者の一方(甲)が原本を所持し、他の者(乙)がコピーを所持しているケース)。

(1) 契約当事者の署名押印があるもの(コピー後の用紙に署名押印しているもの)
(2) コピーに「原本と相違ない」「正本と相違ない」と記述しているもの
(3) 原本とコピー(副本)に割り印のあるもの
(4) 「契約成立の証として本書2通を作成し、甲乙各自が1通を保管する」という文言があるもの

※上記1において、このような文言のある契約書でも、単に複写しただけのものは印紙は不要であることを確認しました。
 これは、契約段階で契約書原本が2通作成されており、甲も乙もそれぞれ原本を1通づつ所持していることが前提です。そのうえで、その契約書のコピーをとっても、コピーに印紙を貼る必要はないということです。
 それに対し、上記2(4)は、契約段階で作成された契約書2通のうち1通がコピーであり、甲が原本を所持し、乙はそのコピーを所持していることが前提です。この場合、乙の所持するコピーは契約の成立を証明する文書に該当しますので、コピーであっても印紙を貼る必要があります。

オープンイノベーション促進税制

 自社にないハイテクノロジーやビジネスモデルを持つベンチャー企業と提携し、相乗効果を高め、より利益の源泉となるイノベーションを起こしやすくするようにするオープンイノベーション促進税制が創設されました。
 既存企業が従前の閉鎖的でコストの高い自己開発にこだわることなく、自社の持つ技術等とベンチャー企業が持つ技術やノウハウを組み合わせ、新分野に進出するなど事業構造を転換できる見通しがついていることが条件となります。

1.概要

 青色申告書を提出する法人で特定事業活動を行うもの(以下「対象法人」といいます)が、2020年(令和2年)4月1日から2022年(令和4年)3月31日までの間に、設立10年未満の非上場ベンチャー企業などに出資(大企業は1億円以上、中小企業は1,000万円以上の出資が対象。海外のベンチャー企業への出資は5億円以上が対象。)することにより特定株式を取得し、かつ、これをその取得した日を含む事業年度末までに有している場合において、その特定株式の取得価額の25%以下の金額を特別勘定の金額として経理したときは、その事業年度の所得の金額を上限として、その経理した金額の合計額を損金算入できるというものです。

2.適用要件

(1) 出資を行う事業会社の要件

① 国内事業会社又は国内事業会社によるCVC

※「CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)」とは、事業会社又はその子会社が運営し、持分の過半数以上を所有するファンドなどのことです。

② 1件当たり1億円以上の大規模出資(中小企業が出資する場合は1,000万円以上。海外ベンチャー企業への出資は5億円以上。)

③ 5年間の株式保有

④ 1年間の出資案件に関して、「各出資が事業会社、ベンチャー企業双方の事業革新に有効であり、制度を濫用するものでないこと」を、決算期にまとめて経済産業省に報告すること

(2) 出資を受けるベンチャー企業の要件

① 新規性・成長性のある設立10年未満の非上場ベンチャー企業(新設企業は対象外)

② 出資を行う事業会社又は他の企業グループに属さないベンチャー企業

3.出資から5年以内に株式を手放した場合

 出資した事業会社が出資から5年以内に株式を手放した場合は、優遇税制の適用によって受けた税優遇分を国に返還する措置が盛り込まれています。これは企業が税優遇を得ることだけを目的に出資するのを防ぐためです。

4.特別勘定の取崩し

(1) 特別勘定の取崩し事由

 特別勘定の金額は、次に掲げる特定株式の譲渡その他の取崩し事由に該当することとなった場合には、その事由に応じた金額を取崩して益金算入します。ただし、その特定株式の取得から5年を経過した場合は、この限りではありません。

① 特定株式につき経済産業大臣の証明が取り消された場合

② 特定株式の全部又は一部を有しなくなった場合

③ 特定株式につき配当を受けた場合

④ 特定株式の帳簿価額を減額した場合

⑤ 特定株式を組合財産とする投資事業有限責任組合等の出資額割合の変更があった場合

⑥ 特定株式に係る特別新事業開拓事業者が解散した場合

⑦ 対象法人が解散した場合

⑧ 特別勘定の金額を任意に取り崩した場合

(2) 特別勘定の経理処理

 例えば、出資額(特定株式の取得価額)が1億円の場合は、所得金額からの控除額は1億円×25%=2,500万円となりますが、これを仕訳で表すと次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
特別勘定繰入額 2,500万円 特別勘定 2,500万円

 また、特定株式を売却したなどの取崩し事由に該当した場合の仕訳は次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
特別勘定 2,500万円 特別勘定取崩益 2,500万円

期限後申告でも中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業等活性化税制の適用はある!

 中小企業の投資促進を後押しする既存の制度には、中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制があり、2019年度(令和元年度)税制改正で適用期限がいずれも2021年(令和3年)3月31日まで延長されました。

 これらの3税制について、期限後申告であっても各要件を具備している場合は、その適用を受けることができます。

 今回は、意外と知られていない期限後申告と投資促進3税制との関係について確認します。

※ 2021(令和3)年度税制改正で、商業・サービス業・農林水産業活性化税制が適用期限(2021(令和3)年3月31日)の到来をもって廃止されました。
 この商業・サービス業・農林水産業活性化税制の対象者(商店街振興組合)や対象事業(不動産業等)を、中小企業投資促進税制に盛り込む形で制度が一本化され、中小企業投資促進税制の適用期限が2年間延長されました。
 改正内容については、本ブログ記事「令和3年度改正後の中小企業投資促進税制」をご参照ください。

1.中小企業投資促進税制の適用手続

 中小企業投資促進税制の特別償却と税額控除の適用を受けるためには、確定申告書等に下記の書類を添付する必要があります(特別償却と税額控除を重複適用することはできません)。

特別償却の場合 税額控除の場合
適用額明細書 同左
別表16(1)又は(2) 別表6(15)
特別償却の付表(3)

2.中小企業経営強化税制の適用手続

 中小企業経営強化税制の特別償却と税額控除の適用を受けるためには、確定申告書等に下記の書類を添付する必要があります(特別償却と税額控除を重複適用することはできません)。

特別償却の場合 税額控除の場合
適用額明細書 同左
別表16(1)又は(2) 別表6(24)
特別償却の付表(9)
経営力向上計画の写し 同左
経営力向上計画に係る認定書の写し 同左

3.商業・サービス業・農林水産業活性化税制の適用手続

 商業・サービス業・農林水産業活性化税制の特別償却と税額控除の適用を受けるためには、確定申告書等に下記の書類を添付する必要があります(特別償却と税額控除を重複適用することはできません)。

特別償却の場合 税額控除の場合
適用額明細書 同左
別表16(1)又は(2) 別表6(23)
特別償却の付表(8)
経営改善指導助言書類の写し 同左

4.確定申告書等は期限後申告書を含む

 上記1~3で見たように、投資促進3税制の適用を受けるためには、確定申告書等にそれぞれの税制で定められた書類を添付しなければなりません。
 ところで、この確定申告書等とは、仮決算をした場合の中間申告書と確定申告書(期限後申告書を含む)をいいます(下記条文参照)。

確定申告書(租税特別措置法第2条第27号)

法人税法第2条第30号に規定する中間申告書で同法第72条第1項各号に掲げる事項を記載したもの及び同法第144条の4第1項各号又は第2項各号に掲げる事項を記載したもの並びに同法第2条第31号に規定する確定申告書をいう。

確定申告書(法人税法第2条第31号)

第74条第1項(確定申告)又は第144条の3第1項若しくは第2項(中間申告)の規定による申告書(当該申告書に係る期限後申告書を含む。)をいう。

 したがって、何らかの事情により確定申告書の提出が期限後申告となった場合であっても、それぞれの税制で定められた書類を添付して提出した場合にはその適用を受けることができます。

医療機器は中小企業経営強化税制の適用対象外!

 2017年度(平成29年度)改正で、2019年(平成29年)3月末で廃止された生産性向上設備投資促進税制(B類型)では、医療機器を含むすべての器具及び備品が適用対象となっていました。
 しかし、新設された中小企業経営強化税制では、医療保健業を行う事業者(医療法人や個人開業医等)が取得する医療機器は、A類型及びB類型ともに適用対象外となりました
 今回は、医療業と中小企業経営強化税制との関係について述べていきます。

1.「医療保健業を行う事業者」とは?

 「医療保健業を行う事業者」とは、医療業及び保健衛生業を行う事業者、すなわち、医療業(日本標準産業分類の「大分類P-医療、福祉」・「中分類83-医療業」医師又は歯科医師等が患者に対して医業又は医業類似行為を行う事業所及びこれに直接関連するサービスを提供する事業所)及び保健衛生業(日本標準産業分類の「大分類P-医療、福祉」・「中分類84-保健衛生」保健所、健康相談施設、検疫所(動物検疫所、植物防疫所を除く)など保健衛生に関するサービスを提供する事業所)を行う事業者のことをいいます。

2.適用対象資産

 医療保険業を行う事業者(医療法人や個人開業医等)が取得又は制作をする医療機器、建物附属設備は経営力向上設備等から除外されています

 中小企業経営強化税制の適用対象資産は、中小企業等経営強化法施行規則第8条第2項の経営力向上設備等に該当することが必要ですが、その経営力向上設備等の「器具及び備品」と「建物附属設備」では、生産性向上設備(A類型)・収益力強化設備(B類型)ともに、「医療保険業を行う事業者が取得又は制作をする器具及び備品中の医療機器と建物附属設備」は除かれています(中小企業等経営強化法第19条第3項、中小企業等経営強化法施行規則第8条第2項)。

 したがって、医療法人や個人開業医が取得する医療機器(器具及び備品に該当)及び建物附属設備は、中小企業経営強化税制の適用対象とはなりません。

3.医療機器とは?

 ここで、医療機器とは、耐用年数省令別表第一の「器具及び備品」「8医療機器」に掲げられる消毒殺菌用機器、手術機器、血液透析又は血しょう交換用機器、ハバードタンクその他の作動部分を有する機能回復訓練機器、調剤機器、歯科診療用ユニット、光学検査機器及びレントゲンその他の電子装置を使用する機器等が該当し、病院、診療所等における診療用又は治療用の器具及び備品をいいます(耐用年数取扱通達2-7-13)。

 また、建物附属設備は、耐用年数省令別表第一の「建物附属設備」に掲げられているものが該当します。

 なお、医療保健業を営む者が取得する医療用の機械及び装置並びに器具及び備品については、別途、医療用機器の特別償却(租税特別措置法45の2)の検討が必要です。

変更契約書に貼る印紙はいくら?

 建設業を営むA社から、次のような問い合わせがありました。

「請負契約の金額を減額することになり覚書を交わすことになったが、この覚書に印紙を貼らなければならないか?」

 すでに成立している契約の内容を変更する場合には、A社のように覚書や念書を作成して後々のトラブルを未然に防ぐ必要があります。その際、印紙を貼るべきか、また、貼るならいくらの印紙を貼らなければならないか、という疑問が生じます。
 そこで、このような事例における印紙の取扱いについて述べていきます。

1.印紙税法上の契約書とは

 今回のように「覚書」や「念書」等の表題を用いて原契約書の内容を変更する文書を作成する場合がありますが、これらの文書は印紙税法上の「契約書」にあたるのでしょうか?
 印紙税法上の契約書とは、契約の成立、更改、内容の変更又は補充の事実を証明する目的で作成する文書をいいます。したがって、文書のタイトルが「覚書」や「念書」となっていても、そこに内容の変更(請負契約金額の変更)に関する事項が書かれているのであれば、印紙税法上は「契約書」と判断されます。
 収入印紙が必要かどうかは、あくまでも文書の内容によって判断されますので、タイトルは関係ないということです。

2.変更契約書に印紙を貼るのはどんな場合?

 A社が今回作成する覚書は、印紙税法上の契約書(以下、「変更契約書」といいます)にあたります。では、変更契約書であれば必ず印紙を貼らなければならないのでしょうか?
 印紙を貼るべき文書を課税文書といいますが、変更契約書が課税文書に該当するかどうかは、その変更契約書に「重要な事項」が含まれているかどうかにより判定します。
 つまり、原契約書により証されるべき事項のうち、重要な事項を変更するために作成した変更契約書は課税文書となり、印紙を貼る必要があります。重要な事項を含まない場合は課税文書に該当しませんので、印紙を貼る必要はありません。

3.重要な事項とは

 請負に関する契約書(第2号文書)の変更についての重要な事項は以下のとおりです。

(1) 請負の内容
(2) 請負の期日または期限
(3) 契約金額(消費税額を含む)
(4) 取扱数量
(5) 単価
(6) 契約金額の支払方法又は支払期日
(7) 割戻金等の計算方法又は支払方法
(8) 契約期間
(9) 契約に付される停止条件又は解除条件
(10) 債務不履行の場合の損害賠償の方法

 したがって、A社が作成する覚書(請負契約金額の減額)は上記(3)の重要な事項を含むため、印紙を貼らなければなりません。
 なお、第2号文書以外の文書に関する「重要な事項」については、本ブログ記事「変更契約書における『重要な事項』の変更とは?」をご参照ください。

4.記載金額を変更する場合の印紙

 では、A社はいくらの印紙を貼ればいいのでしょうか?これについては、変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていること、及び変更契約書において変更金額が明らかであるか否かによって、次のようなルールがあります。

(1) 変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかな場合

①変更金額が明らかである場合

 変更金額が明らかで増額変更の場合は、増額した金額が記載金額になり、その増額した金額に応じた印紙を貼ります。例えば、次のような変更契約書を作成した場合です。

               変更契約書

 注文者甲と請負者Aは、令和元年11月25日に締結した建築工事請負契約について、以下のように変更する。

 既定金額   5,000万円
 変更金額   6,000万円
 増額     1,000万円

 この変更契約書には、変更前契約書の締結年月日(令和元年11月25日)が記載されていますので、変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかであり、かつ、変更金額(6,000万円)の記載があることから変更金額も明らかです。したがって、増額した金額(1,000万円)が記載金額となり、貼る印紙は5,000円となります。

 また、変更金額が明らかで減額変更の場合は、記載金額なしとなり、契約金額の記載のないもの(第2号文書)として200円の印紙を貼ります。例えば、次のような変更契約書を作成した場合です。

               変更契約書

 注文者甲と請負者Aは、令和元年11月25日に締結した建築工事請負契約について、以下のように変更する。

 既定金額   5,000万円
 変更金額   4,000万円
 減額     1,000万円

 この変更契約書には、変更前契約書の締結年月日(令和元年11月25日)が記載されていますので、変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかであり、かつ、変更金額(4,000万円)の記載があることから変更金額も明らかです。したがって、減額(1,000万円)した場合は記載金額なしとなり、貼る印紙は200円となります。
 A社はこのケースに該当しますので、A社の貼るべき印紙は200円になります。

②変更金額が明らかでない場合

 変更金額が明らかでない場合は、変更後の契約金額が記載金額となり、その変更後の金額に応じた印紙を貼ります。例えば、次のような変更契約書を作成した場合です。

               変更契約書

 注文者甲と請負者Aは、令和元年11月25日に締結した建築工事請負契約について、仕様変更に伴い契約金額を6,000万円に変更する。

 この変更契約書には、仕様を変更したことに伴い契約金額を6,000万円に変更したことが記載されています。
 先の2つの例のように、原契約書に記載された契約金額がわかれば6,000万円との差額がこの変更契約書の記載金額となります。しかし、この契約書からは変更前の金額がわからないため、増減額が明らかではありません。したがって、この変更契約書の記載金額は6,000万円と判断され、貼る印紙は30,000円となります。

(2) 変更前の契約金額を記載した契約書が作成されていることが明らかでない場合

①変更金額のみが記載されている場合

 増額・減額を問わず、その変更金額が記載金額となります。

②契約金額の記載がある場合

 変更後の契約金額が記載金額となります。

ピーク時の解約返戻率が50%超の定期保険等の税務取扱いの見直し

 2019年(平成31年)2月13日に国税庁から各生命保険会社に対して、「法人契約の定期保険等の税務取扱について見直しを検討している」旨の連絡がありました。
 これを受けて、翌14日から大手生命保険会社をはじめ、他の生命保険会社も当該商品の販売を一斉に停止しました。

1.見直しの具体的な内容は?

 今回、税務取扱の見直しの対象になったのは、「ピーク時の解約返戻率が50%超」の法人契約の定期保険等です。
 これに該当する保険商品は、支払保険料の全額又は一部が損金算入でき、かつ、ピーク時の解約返戻率が80%超に設定されており、中途解約すれば、払込保険料の多くを解約返戻金として受け取ることができるタイプのものです(今回の見直しの対象となった保険商品による節税と税務上のリスクについては、本ブログ記事「『低解約返戻金型逓増定期保険』の節税の仕組みと税務上のリスク」を参照)。

 現時点では検討段階であるため、具体的な改正内容や改正時期については未定とのことですが、これらの保険契約にかかる支払保険料の経理処理について、損金算入できる金額が縮小される方向性が示されています。 

2.既契約の保険料の経理処理は?

 今回の見直しが、既契約の保険商品の経理処理にも及ぶのかどうかについては、現時点では不明です。

 2008年(平成20年)の逓増定期保険、2012年(平成24年)のがん保険の改正の際は、通達改正日以降の新契約が対象となっており、既契約については従来の経理処理が認められました。

 しかし、1996年(平成8年)の逓増定期保険に関する通達改正の際は、既契約であっても通達改正日以降に払い込む保険料から影響する取扱いとなりました。

※国税庁は2019年(平成31年)4月11日に、節税保険に対応した法人税基本通達の改正案を公表しました。改正案については、本ブログ記事「法人向け節税保険の改正後の税務取扱い」を参照してください。