令和2年分から適用される基礎控除の改正と所得金額調整控除の新設

 2020年分(令和2年分)から適用される2018年度(平成30年度)改正事項には、給与所得控除・公的年金等控除・基礎控除の見直しと、所得金額調整控除の新設等があります。

 これらのうち、給与所得控除と公的年金等控除については前回「令和2年分から適用される給与所得控除と公的年金等控除の改正」で確認しましたので、今回は基礎控除の改正と新たに設けられた所得金額調整控除について確認します。

1.基礎控除の改正

 給与所得控除額及び公的年金等控除額を一律10万円引き下げる一方、その分を基礎控除に振り替える形で、基礎控除額が一律10万円引き上げられて48万円(改正前は38万円)とされました。
 ただし、合計所得金額が2,400万円を超える個人についてはその合計所得金額に応じて基礎控除額を逓減し、合計所得金額が2,500万円を超える個人については基礎控除の適用はできないこととされました。

 この改正により、2020年分(令和2年分)以後の基礎控除額は、個人の所得金額に応じて下表のとおりとなります。

合計所得金額 基礎控除額
2,400万円以下 48万円
2,400万円超2,450万円以下 32万円
2,450万円超2,500万円以下 16万円
2,500万円超 0円(適用なし)

 なお、個人の所得金額が給与所得だけの場合は、給与等の収入金額が2,595万円のときに合計所得金額が2,400万円、給与等の収入金額が2,695万円のときに合計所得金額が2,500万円になります。
 したがって、給与等の収入金額が2,595万円を超え2,695万円以下の場合は基礎控除額は32万円又は16万円になり、2,695万円を超える場合には基礎控除の適用を受けることはできません。

 また、年末調整はその年中の給与等の収入金額が2,000万円以下の居住者について行われます。
 したがって、合計所得金額が2,400万円(収入金額2,595万円)を超えることはありませんので、給与所得以外の所得を有しない年末調整の対象者の基礎控除額はすべて48万円となります。

2.所得金額調整控除の新設

 給与所得控除の改正により、850万円を超える給与等の収入金額のある居住者については、給与所得控除額が一律10万円引き下げられたことに加え、その上限額が195万円とされたことにより、その居住者が特別障害者である場合や年齢23歳未満の扶養親族を有する場合等については負担が増加することが見込まれます。

 そのため、これらの者の経済的負担に配慮して一定額を給与所得の金額から控除する以下のような調整措置が設けられました。

(1) 対象者

 給与等の収入金額が850万円を超える居住者で次に掲げる者が対象です。

① その居住者本人が特別障害者に該当する者
② 年齢23歳未満の扶養親族を有する者
③ 特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族を有する者

(2) 控除額

 上記(1)に該当する居住者の総所得金額を計算する場合、給与等の収入金額(その金額が1,000万円を超える場合には1,000万円)から850万円を控除した金額の10%相当額を、給与所得の金額から控除します。
 つまり、給与所得の金額から最高15万円が控除されることになり、給与所得控除額の上限額の引き下げ25万円のうち一律引き下げの10万円を除く15万円に相当します。
 その結果、所得金額調整控除の適用がある場合の総所得金額は、給与所得の金額から所得金額調整控除を控除した残額により計算することになります。

(3) 計算例

 例えば、22歳の扶養親族を有する給与所得者の給与等の収入金額が900万円の場合、給与所得控除額は上限の195万円となり、給与所得控除後の給与等の金額は705万円(900万円-195万円)です。
 一方、所得金額調整控除額は、50万円(900万円-850万円)の10%の5万円となります。これを705万円から控除した700万円が給与所得金額になります。

(4) 留意点

 所得税法の扶養控除は、2以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合には、その者はこれらの居住者のうちいずれか一の居住者の扶養親族にのみ該当するものとみなすこととされています。
 しかし、所得金額調整控除にはそのようなみなし規定はありません。したがって、夫婦のそれぞれがその年の給与等の収入金額が850万円を超える居住者に該当し、その夫婦に23歳未満の扶養親族に該当する子がいるような場合は、その夫婦それぞれが所得金額調整控除の適用を受けることができます。例えば、20歳の子供を共働きの夫婦(どちらも給与収入850万円超)が扶養しているときは、夫婦の両方が所得金額調整控除の適用を受けることができます。

令和2年分から適用される給与所得控除と公的年金等控除の改正

 2018年度(平成30年度)改正で、給与所得控除や公的年金等控除を一律10万円引き下げる一方、その分を基礎控除に振り替える形で基礎控除が一律10万円引き上げられました。

 このような改正が行われた背景には、「特定の働き方等による収入にのみ適用される給与所得控除や公的年金等控除といった『所得計算上の控除』から、どのような働き方等による所得にでも適用される基礎控除等の『人的控除』に、負担調整のウェイトをシフトさせていくことが適当である」(平成29年11月・税制調査会中間報告)という考え方があります。つまり、多様な働き方を後押しするものといえます。

 今回は、2020年分(令和2年分)から適用される給与所得控除と公的年金等控除について確認をします。なお、2020年分(令和2年分)から適用される他の改正項目のうち、主なものは下表のとおりです。

配偶者控除・扶養控除 配偶者・扶養親族の合計所得金額基準38万円以下を48万円以下にする。
配偶者特別控除 配偶者の合計所得金額基準85万円以下を95万円以下にする。
青色申告特別控除 控除額を65万円から55万円にする。
※電子申告等の要件を満たす場合、控除額を65万円(基礎控除との控除合計額113万円)とする特例あり。
家内労働者等の事業所得の所得計算の特例 必要経費とする額を65万円から55万円とする。

1.給与所得控除の改正

 2020年分(令和2年分)から適用される給与所得控除の改正は次のとおりです。

(1) 給与所得控除額の一律10万円の引き下げ
(2) 給与所得控除額の上限額が適用される給与等の収入金額の850万円(改正前は1,000万円)への引き下げ、及びその上限額の195万円(改正前は220万円)への引き下げ
(3) 上記(1)及び(2)の見直しに伴い、給与所得の源泉徴収税額表の月額表と日額表、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表及び年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表(別表2~5)の改正

 上記(1)及び(2)の改正により、改正後の給与所得控除額は下表のとおりとなります。

給与等の収入金額 改正後 改正前
162.5万円以下 55万円 65万円
162.5万円等180万円以下 収入金額×40%-10万円 収入金額×40%
180万円超360万円以下 収入金額×30%+8万円 収入金額×30%+18万円
360万円超660万円以下 収入金額×20%+44万円 収入金額×20%+54万円
660万円超850万円以下 収入金額×10%+110万円 収入金額×10%+120万円
850万円超1,000万円以下 195万円
1,000万円超 220万円

(留意点)
① 2020年(令和2年)以後、給与等の収入金額が1,195万円を超える給与所得者は、配偶者控除及び配偶者特別控除のいずれも適用が受けられません。
② 給与等の収入金額が660万円未満の場合の給与所得の金額は、給与等の収入金額から上表の算式により計算した給与所得控除額を控除した残額によらず、所得税法別表第5の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」により、その給与等の収入金額に応じて掲げられている給与所得控除後の給与等の金額により求めた金額となります。

2.公的年金等控除の改正

 2020年分(令和2年分)から適用される公的年金等控除の改正は次のとおりです。

(1) 公的年金等控除額の一律10万円の引き下げ
(2) 公的年金等の収入金額が1,000万円を超える場合の控除額について、195万5,000円の上限を設ける
(3) 公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円を超え2,000万円以下である場合の控除額が上記(1)及び(2)の見直し後の控除額から一律10万円引き下げ、公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額2,000万円を超える場合の控除額が上記(1)及び(2)の見直し後の控除額から一律20万円引き下げ

ひとり親控除の新設と寡婦(夫)控除の改正

 2020年度(令和2年度)税制改正で、未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(夫)控除の見直しが行われました。今回は、これらの改正等について整理します。

1.改正の概要

 改正の主な内容は、婚姻歴や性別にかかわらず、生計を一とする子(総所得金額等が48万円以下)を有する単身者については、同一のひとり親控除(控除額35万円)が適用されることとなりました。

 それ以外の寡婦は、引き続き寡婦控除として控除額27万円を適用し、子以外の扶養親族を持つ寡婦も、男性の寡夫と同じように所得制限(合計所得金額が500万円以下)が設けられました。

 また、ひとり親控除、寡婦控除のいずれについても、住民票の続柄に「夫(未届)」「妻(未届)」の記載がある者、いわゆる事実婚は対象外となりました。

2.用語の意義(ひとり親、寡婦)

 改正後のひとり親と寡婦は、次のような者をいいます(改正後、寡夫控除はなくなります)。

(1) ひとり親
 ひとり親とは、現に婚姻をしていない者又は配偶者の生死の明らかでない一定の者のうち、①同一生計の子(総所得金額等が48万円以下)があり、かつ、②本人の合計所得金額が500万円以下で、かつ、③事実婚なしの3要件を満たす者をいいます

(2) 寡婦
 寡婦とは、夫と離婚した後婚姻をしていない者のうち、①本人の合計所得金額が500万円以下で、かつ、②事実婚なしの2要件を満たす者をいいます。
 また、夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない一定の者のうち、①本人の合計所得金額が500万円以下で、かつ、②事実婚なしの2要件を満たす者をいいます

※ 合計所得金額、総所得金額等については、本ブログ記事「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。

3.改正前後の所得控除額

 改正前後の所得控除額は次のようになります。

(1) 本人が女性の場合(改正前)

配偶関係 死別 死別 離別 離別
本人所得 ~500万 500万~ ~500万 500万~
扶養親族 35万 27万 35万 27万
子以外 27万 27万 27万 27万
  27万

 

(2)本人が女性の場合(改正後)

配偶関係 死別 死別 離別 離別 未婚のひとり親
本人所得 ~500万 500万~ ~500万 500万~ ~500万
扶養親族 35万 35万 35万
子以外 27万 27万
  27万

※黄色部分がひとり親控除

(3) 本人が男性の場合(改正前)

配偶関係 死別 死別 離別 離別
本人所得 ~500万 500万~ ~500万 500万~
扶養親族 27万 27万
子以外
 

 

(4) 本人が男性の場合(改正後)

配偶関係 死別 死別 離別 離別 未婚のひとり親
本人所得 ~500万 500万~ ~500万 500万~ ~500万
扶養親族 35万 35万 35万
子以外
 

※黄色部分がひとり親控除

4.適用開始日

 これらの改正は、2020年(令和2年)分以後の所得税について適用されます。具体的には、2020年(令和2年)分以後の年末調整(令和2年分の年末調整については同年中に支払うべき給与等でその最後に支払をする日が同年4月1日以後であるものに限ります※1)及び確定申告※2において適用されます。
 また、月々の源泉徴収においては、2021年(令和3年)1月1日以後に支払うべき給与等及び公的年金等について適用されます。
 そのため、2020年(令和2年)分の源泉徴収事務においては、月々の給与等及び公的年金等に対する源泉徴収では改正前の控除が適用され、年末調整では改正後の控除が適用されることとなります。

※1 死亡退職等により、2020年(令和2年)中に支払うべき給与等でその最後に支払をする日が同年4月1日前であるものに係る年末調整については、改正前の控除が適用されます。

※2 公的年金等の受給者や※1のように改正前の控除が適用される年末調整の対象者
が、2020年(令和2年)分の所得計算において改正後の控除の適用を受けるためには、確定申告をする必要があります。

個人が年の途中で譲渡した事業用建物の業務供用期間に係る償却費は必要経費に算入できない!?

1.減価償却費の取扱い

(1) 原則的取扱い

 事業所得の計算上、償却費として必要経費に算入できる金額は、その年の12月31日に有する減価償却資産に係る償却費に限られます。
 したがって、年の途中で譲渡した減価償却資産の業務供用期間に係る償却費については、必要経費に算入できないことになります。

(2) 選択的取扱い

 原則的取扱いによると、年の途中で譲渡した減価償却資産の業務供用期間に係る償却費相当額は、その資産の譲渡の時の譲渡所得の金額の計算上、控除する取得費に含めることになります。
 ただし、納税者が譲渡所得の金額の計算上は取得費に含めないで、事業所得の金額の計算上、償却費として必要経費に算入した場合には、その処理も認められます

2.選択上考慮すべき事項

 上述のように、年の途中で譲渡した減価償却資産の業務供用期間に係る償却費相当額を、譲渡所得の計算上控除する取得費に含めるか、事業所得の計算上償却費として必要経費に算入するかについては、納税者の選択によります。
 したがって、以下の点を考慮し、税務上有利な方を選択することになります。

(1) 税率の比較

 譲渡した資産が土地等、建物等の場合で、分離短期譲渡所得に該当する場合は39.63%(所得税30%、復興特別所得税0.63%、住民税9%)の税率が適用されます。
 また、分離長期譲渡所得に該当する場合は20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)の税率が適用されます。

 一方、事業所得の金額は、他の総合課税の対象となる所得と合算した総所得金額に対し、最低15.105%(所得税5%、復興特別所得税0.105%、住民税10%)から最高55.945%(所得税45%、復興特別所得税0.945%、住民税10%)の税率が適用されます。

(2) 損益通算の可否

 土地等、建物等の譲渡により、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額は、土地等、建物等の譲渡による譲渡所得以外の所得との損益通算は認められません
 一方、事業所得の金額の計算上生じた損失の金額は、他の所得との損益通算が認められます。ただし、この場合でも土地等、建物等の譲渡による譲渡所得の金額との通算は認められません。

(3) 事業税との関係

 所得税における事業所得の金額は、個人事業税の計算上、事業税の課税標準となります。ただし、個人が直接事業の用に供する資産を譲渡し譲渡損失が生じた場合には、その譲渡損失は事業所得の金額から控除します。
 この場合の直接事業の用に供する資産とは、機械装置、車両運搬具、工具器具備品等をいい、土地等、建物等は含まないとされています。
 したがって、事業税の計算上は、土地等、建物等を譲渡して譲渡損失が生じる場合には、建物の業務供用期間に係る償却費を事業所得の必要経費とした方が有利となります。

未分割の相続財産から生じた不動産所得の帰属は?

 2019年(平成31年)1月31日にAさんが亡くなり、相続税の申告を同年11月中に行いました。
 Aさんの相続財産には賃貸物件(事務所)があり、その賃貸物件からの家賃収入が毎月25万円ありました。Aさんの法定相続人は2人(甲さんと乙さん)であり、遺産分割は2019年(令和元年)8月31日に成立しています。賃貸物件は相続開始後から甲さんが管理していたこともあり、遺産分割協議の結果、甲さんが相続することになりました。

 この場合、賃貸物件から生じる家賃収入について所得税の確定申告をしなければならないのは甲さんでしょうか、それとも乙さんでしょうか?

 今回は、相続財産から生じた所得の帰属について述べていきます。

1.遺産分割成立前

 相続について遺産分割が成立していない場合は、相続財産は各相続人の共有に属するものとされます。これは民法898条において「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」とされているからであり、その未分割の相続財産から生じた所得は、各相続人にそれぞれの相続分に応じて帰属するものとなります。

 したがって、遺産分割が成立していない場合に、共同相続人のうち特定の者がその未分割の相続財産から生じた収益等を管理しているようなときにおいても、その未分割の相続財産から生じた所得については法定相続分に応じて各相続人に帰属することとなります。
 その収益等を管理している者にだけ帰属する所得として所得税の確定申告をすることがないようにしなければなりません。

2.遺産分割成立後

 遺産分割が成立した場合は、相続財産は実際にその相続財産を相続により取得した相続人に帰属することとなり、その効力は相続開始時に遡って生ずることとなります。これは民法909条において「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる」とされているからです。

 相続財産から生ずる所得についても、遺産分割の成立によって実際にその相続財産を相続により取得した相続人に帰属することとなりますが、遺産分割の効力は遺産分割成立前の未分割の相続財産から生じた所得の帰属に影響を及ぼすものではないとされています。

 すなわち、遺産分割が成立した場合においても、その遺産分割成立前の未分割の期間における相続財産から生じた所得については、法定相続分に応じて各相続人に帰属したままということです。

 これについては最高裁判決において、未分割の相続財産から生じた収入債権は遺産とは別個の財産であって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものであることから、その未分割の相続財産から生じた収入債権の帰属は後にされた遺産分割の影響を受けないものとされています。

3.各法定相続人に申告の可能性あり

 以上のことから、今回の事例における家賃収入については、1月分はAさんに帰属し、2月分から8月分については甲さんと乙さんに法定相続分(各1/2)が帰属し、9月分から12月分は甲さんに帰属します。

 甲さん乙さんともにサラリーマンですので、給与所得以外の所得(不動産所得)が20万円以下の場合は確定申告は不要です。試算すると乙さんは不動産所得が20万円以下ですので確定申告不要、甲さんは20万円を超えますので確定申告必要という結果になりました。
※確定申告不要制度については、本ブログ記事「給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度の注意点」を参照してください。

 なお、遺産分割が成立する前でも、各相続人は青色申告の承認を受けることにより青色申告特別控除を受けることができます。
 この場合の青色申告承認申請書の提出は、原則として青色申告の承認を受けようとする年の3月15日までとされていますが、被相続人が青色申告の承認を受けていた場合にはその死亡の日が1月1日から8月31日までであるときは死亡の日から4か月以内とされ、その死亡の日が9月1日から10月31日までであるときはその年の12月31日までとされ、その死亡の日が11月1日から12月31日までであるときはその年の翌年の2月15日までとされています。
※青色申告承認申請書の提出期限等については、本ブログ記事「青色申告特別控除と青色申告承認申請書の提出期限の注意点」を参照してください。

譲渡所得の各種の特例における「居住用家屋」の判定基準

1.税務調査の際の判定基準

 譲渡所得に係る居住用財産の特例措置には、「3,000万円特別控除の特例(措法35①)」、「軽減税率の特例(措法31の3)」、「買換え特例(措法36の2)」、「空き家の3,000万円特別控除の特例(措法35③)」などがあります。

 これらの特例措置の適用にあたってポイントとなるのが、「居住用家屋」に該当するかどうかという点です。居住用家屋とは、その者が生活の拠点として利用している家屋をいい、税務調査の際には、次に掲げるような状況を総合的に勘案して判断されます。

(1) その者及び配偶者等の日常生活状況
(2) その家屋への入居目的
(3) その家屋の構造及び設備の状況
(4) その他の事情

2.総合的に勘案した判断とは?

 上記1(1)~(4)の判定基準を税務署が「総合的に勘案した判断」について、以下で具体的に述べていきます。

(1) その者及び配偶者等の日常生活状況

 日常生活を行うにあたり、その家屋で寝起きし、食事をとるなど、特別な事情がない限り配偶者や扶養親族と起居をともにしているか否かが判断のポイントになります。
 また、郵便物がどこに届くかも日常生活状況を判断するポイントになります。
さらに、光熱費の利用状況が近隣のその者と同様の家族がいる家庭と比べて、その利用が著しく少ない場合には日常生活をその場所で行っていなかったのではないかと疑問を持たれる可能性があります。

(2) 家屋への入居目的

 税務署が入居目的を確認する場合は、その家屋を購入して入居した経緯や、その家屋を選んだ理由などが問われます。
 特に入居後に短期間で譲渡した場合は、居住用財産の譲渡の特例を使うことを目的として入居したものか否かを判断するために確認がされます。
 しかし、この内容は事実認定によるため、何かしらの立証をすることは難しいものと思われます。

(3) その家屋の構造及び設備の状況

 日常生活を送るうえで、電気・水道・ガスが整備されており、家屋には風呂・トイレ・台所の設備があるのが通常です。しかし、事務所のみの利用を目的にしている家屋は、風呂や台所の設備は設置されていないか、設置されていたとしても光熱費の利用状況などから使用の痕跡が認められない場合があります。このような場合に、居住用財産の譲渡であることを主張しても認められない可能性があります。

(4) その他の事情

 家屋の所有者が、単身赴任転地療養などにより自分で所有する家屋以外の家屋で家族と離れて生活を送るような場合であっても、その事情が解消した時には家族が住んでいる家屋で家族と起居をともにすることとなると認められる場合には、その家族が住んでいる家屋は、その者にとっての居住用家屋として認められます。
 この場合、休日や正月など、その者と家族のプライベートな時間をどのように過ごしているかなどが確認されます。

譲渡所得の各種の特例における「居住用家屋」の範囲

 居住用財産(マイホーム)を売却した場合の特例には、「3,000万円特別控除の特例(措法35①)」、「軽減税率の特例(措法31の3)」、「買換え特例(措法36の2)」など従来から存在する規定と、2016年度(平成28年度)税制改正で創設された「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例(措法35③)」があります。
 従来から存在する規定と税制改正で新たに創設された規定では、居住用家屋の範囲が一部異なります。
 今回は、譲渡所得の特例における居住用家屋の範囲について確認します。

1.「3,000万円特別控除の特例」等における居住用家屋の範囲

 「3,000万円特別控除の特例」など従来から存在する規定における居住用家屋とは、生活の拠点として利用している家屋をいい、2棟以上の建築物から成る一構えの家屋も含まれます。例えば、母屋の他に単独で居住の用に供するに足りる機能を備えない離れ、隠居部屋、子供の勉強部屋、茶室、あずまや、土蔵等の別棟が該当します。 

 「3,000万円特別控除の特例」等は、個人が居住用家屋を譲渡した場合には、これに代わる新たな家屋を取得するのが通常であり、一般の資産の譲渡に比べて特殊な事情があり、担税力も高くないことを考慮して設けられた特例措置です。

 したがって、上述した建築物は譲渡者の生活の根幹に関わるものであり、別棟であってもその生活に不可欠な家屋は居住用家屋として特例の対象になります。

 なお、特例の対象となるかどうかは、日常生活の状況、入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定することとされています。

2.「空き家の3,000万円特別控除の特例」の被相続人居住用家屋の範囲

 これに対し、「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」における居住用家屋については、家屋が2以上の建築物から成る場合は、被相続人が主として居住の用に供していたと認められる一の建築物のみが該当することとされています。

 すなわち、母屋とは別棟の離れ、倉庫、蔵、車庫などがある場合には、その母屋と一体として居住の用に供していたときであっても、その母屋部分のみが特例の対象となる被相続人居住用家屋に該当することになります。

 また、被相続人居住用家屋の敷地等についても同様に考え、その敷地の面積に、2以上の建築物(母屋と離れなど)の床面積の合計のうちに一の建築物である被相続人居住用家屋(母屋)の床面積の占める割合を乗じた部分が被相続人居住用家屋の敷地等になります。

 「空き家の譲渡所得に係る3,000万円特別控除の特例」は、毎年増加している空き家の発生を抑制することで、地域住民の生活環境への悪影響を未然に防ぐために設けられた特例措置です。

 つまり、この特例は譲渡者の生活の根幹に関わるものではなく、家屋の耐震改修費又は解体工事費などが必要になるとはいえ、担税力は高いと考えられます。このような理由から、一の建築物(母屋)のみに特例が適用されます。

空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例

 被相続人の空き家を売却した際の3,000万円特別控除の特例制度は、相続開始直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋が対象とされていました。
 2019年度(平成31年度)税制改正では、被相続人が対象家屋から転居し、相続開始直前に老人ホーム等に入所していた場合でも、一定の要件に該当すればこの特例制度の適用が受けられることになり、適用期限も延長されました。
 今回は、改正点も踏まえてこの特例制度について整理します。

1.制度の概要

 被相続人の居住の用に供されていた家屋及びその敷地等を、相続又は遺贈によって取得した相続人が、2016年(平成28年)4月1日から2023年(令和5年)12月31日までに譲渡した場合は、相続時から譲渡時まで空き家であったことなど一定の要件を満たせば、譲渡益から最高3,000万円を控除することができます。

2.特例対象となる家屋とその敷地等

(1) 家屋(被相続人居住用家屋)

 特例の対象となる家屋(被相続人居住用家屋)とは、相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋で、次の3つの要件すべてに当てはまるものをいいます(主として被相続人の居住の用に供されていた一の建築物に限ります(注))。

1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたこと
  昭和56年5月31日以前に建築された家屋は、現行の耐震基準を満たしていません。
区分所有建物登記がされている建物でないこと
  区分所有建物登記がされている建物とは、分譲マンションのことです。
相続の開始直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
  被相続人が当該家屋に一人暮らしをしていたということです。

(注)「一の建築物に限る」とは、家屋が複数の建築物(例えば、母屋と離れなど)から成る場合は、被相続人が主として居住の用に供していたと認められる一の建築物(母屋)のみが特例の対象となることをいいます。
 ※関連記事「譲渡所得の各種の特例における『居住用家屋』の範囲

 なお、2019年度(平成31年度)税制改正で、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で一定の要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋(以下「従前居住用家屋」といいます)は被相続人居住用家屋に該当することとなりました。平成31年度税制改正については、下記(3)で述べます。

(2) 敷地等(被相続人居住用家屋の敷地等)

 特例の対象となる敷地等(被相続人居住用家屋の敷地等)とは、相続の開始直前(従前居住用家屋の敷地の場合は、被相続人の居住の用に供されなくなる直前)において被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地又はその土地の上に存する権利をいいます。

(3) 平成31年度税制改正(老人ホーム等に入所していた場合)

① 従前居住用家屋

 この特例制度では、相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった家屋及びその敷地等であっても、次のイからハの要件を満たす場合は、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋(従前居住用家屋)及びその敷地等は、特例の対象になります。

イ.次に掲げる事由(以下「特定事由」といいます)により、相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合であること。

(イ) 介護保険法第19条第1項に規定する要介護認定若しくは同条第2項に規定する要支援認定を受けていた被相続人又は介護保険法施行規則第140条の62の4第2号に該当していた被相続人が、次に掲げる住居又は施設に入居又は入所をしていたこと。

㋑ 老人福祉法第5条の2第6項に規定する認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、同法第20条の4に規定する養護老人ホーム、同法第20条の5に規定する特別養護老人ホーム、同法第20条の6に規定する軽費老人ホーム又は同法第29条第1項に規定する有料老人ホーム
㋺ 介護保険法第8条第28項に規定する介護老人保健施設又は同条第29項に規定する介護医療院
㋩ 高齢者の居住の安定確保に関する法律第5条第1項に規定するサービス付き高齢者向け住宅(㋑の有料老人ホームを除きます)

(ロ) 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第21条第1項に規定する障害支援区分の認定を受けていた被相続人が同法第5条第11項に規定する障害者支援施設(同条第10項に規定する施設入所支援が行われるものに限ります)又は同条第17項に規定する共同生活援助を行う住居に入所又は入居をしていたこと。

(注)被相続人が、上記(イ)の要介護認定若しくは要支援認定又は上記(ロ)の障害支援区分の認定を受けていたかどうかは、特定事由により被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなる直前において、被相続人がその認定を受けていたかにより判定します。

ロ.次に掲げる要件を満たしていること。

(イ) 特定事由によりその家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始直前まで、引き続きその家屋がその被相続人の物品の保管その他の用に供されていたこと。
(ロ) 特定事由によりその家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始直前まで、その家屋が事業の用、貸付けの用又は被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。
(ハ) 被相続人が上記イ(イ)又は(ロ)の住居又は施設(以下「老人ホーム等」といいます)に入所をした時から相続の開始直前までの間において、被相続人が主としてその居住の用に供していたと認められる家屋がその老人ホーム等であること。

ハ.その家屋が次の3つの要件すべてに当てはまるもの(特定事由によりその家屋が被相続人の居住の用に供されなくなる直前において、主として被相続人の居住の用に供されていた一の建築物に限ります)であること。

(イ) 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたこと
(ロ) 区分所有建物登記がされている建物でないこと
(ハ) 特定事由により被相続人の居住の用に供されなくなる直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと

② 適用期限の延長

 この特例制度の適用期限が、2023年(令和5年)12月31日(改正前:2019年(令和元年)12月31日)まで4年延長されました。

③ 適用関係

 上記①②の改正は、2019年(平成31年)4月1日以後に行う被相続人居住用家屋又はその敷地等の譲渡について適用されます。

3.適用を受けるための要件

 この特例の適用を受けるためには、次の(1)から(7)の要件を満たす必要があります。

(1) 売った人が、相続又は遺贈により被相続人居住用家屋及びその敷地等を取得したこと。

(2) 次の①又は②の売却をしたこと。

① 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋を売るか、被相続人居住用家屋とともにその敷地等を売ること。

(注)被相続人居住用家屋は次のイとロの2つの要件に、被相続人居住用家屋の敷地等は次のイの要件に当てはまることが必要です。

イ.相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ロ.譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること。

② 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の全部の取壊し等をした後に被相続人居住用家屋の敷地等を売ること。

(注)被相続人居住用家屋は次のイの要件に、被相続人居住用家屋の敷地等は次のロ及びハの要件に当てはまることが必要です。

イ.相続の時から取壊し等の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ロ.相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ハ.取壊し等の時から譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。

(3) 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。

(4) 売却代金が1億円以下であること。

(5) 売った家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。

(6) 同一の被相続人から相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又はその敷地等について、この特例の適用を受けていないこと。

(7) 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと。
 特別の関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。

4.適用を受けるための手続

 この特例の適用を受けるためには、次に掲げる(1)、(2)の区分に応じて、それぞれ次に掲げる書類を添えて確定申告をすることが必要です。

(1) 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋を売るか、被相続人居住用家屋とともにその敷地等を売った場合

譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)〔土地・建物用〕

② 売った資産の登記事項証明書等で次の3つの事項を明らかにするもの

イ.売った人が被相続人居住用家屋及びその敷地等を被相続人から相続又は遺贈により取得したこと
ロ.被相続人居住用家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたこと
ハ.被相続人居住用家屋が区分所有建物登記がされている建物でないこと

③ 売った資産の所在地を管轄する市区町村長から交付を受けた「被相続人居住用家屋等確認書

(注)ここでいう「被相続人居住用家屋等確認書」とは、市区町村長が次のイからヘまでの6つの事項(被相続人居住用家屋が従前居住用家屋以外の場合は、イ及びロに掲げる事項)を確認した旨を記載した書類をいいます。

イ.相続の開始直前(従前居住用家屋の場合は、被相続人の居住の用に供されなくなる直前)において、被相続人が被相続人居住用家屋を居住の用に供しており、かつ、被相続人居住用家屋に被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。
ロ.被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋及びその敷地等が相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ハ.被相続人居住用家屋が、被相続人が要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかったこと。
ニ.被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始直前まで引き続き被相続人の物品の保管その他の用に供されていたこと。
ホ.被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始直前まで事業の用、貸付けの用又は被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。
ヘ.被相続人が老人ホーム等に入所した時から相続の開始の直前までの間において被相続人の居住の用に供する家屋が2以上ある場合には、これらの家屋のうちその老人ホーム等が、被相続人が主として居住の用に供していた一の家屋であること。

耐震基準適合証明書又は建設住宅性能評価書の写し

売買契約書の写しなどで売却代金が1億円以下であることを明らかにするもの

(2) 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の全部の取壊し等をした後に被相続人居住用家屋の敷地等を売った場合

① 上記(1)の①、②及び⑤に掲げる書類

② 売った資産の所在地を管轄する市区町村長から交付を受けた「被相続人居住用家屋等確認書

(注)ここでいう「被相続人居住用家屋等確認書」とは、市区町村長が次のイからニの4つの事項(被相続人居住用家屋が従前居住用家屋以外の場合は、イからハに掲げる事項)を確認した旨を記載した書類をいいます。

イ.上記(1)の③のイの事項。
ロ.被相続人居住用家屋が相続の時から取壊し等の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ハ.被相続人居住用家屋の敷地等が次の2つの要件を満たすこと。

(イ) 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
(ロ) 取壊し等の時から譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。

ニ.上記(1)の③のハからヘの事項。

5.留意点

 この空き家の譲渡所得の特例と取得費加算の特例は、いずれかの選択適用となります。
 取得費加算の特例とは、相続後3年10か月以内に相続財産を売却した場合は、相続税額の一部を取得費に加算することにより譲渡所得にかかる所得税を軽減する制度です。
 なお、例えば、相続で取得した被相続人(親)の自宅(空き家)の売却と、相続人(子)のマイホーム取得が同一年となった場合など、空き家の譲渡所得の特例と他の譲渡所得や所得税の特例との併用は制限されていません。ただし、マイホームの3,000万円控除とは同一年合計で控除限度額3,000万円となります。

太陽光発電設備による売電収入の所得区分と必要経費

 個人が太陽光発電設備の設置によって得られる売電収入は、次の場合は確定申告が必要になります。

・売電収入が雑所得に該当する場合は所得が20万円を超えるとき
・売電収入が事業所得又は不動産所得に該当する場合は所得が38万円を超えるとき

 このように、売電収入の所得区分によって確定申告の要否が異なります。以下では、太陽光発電設備の設置場所と売電方法という観点から、売電収入の所得区分と必要経費について述べていきます。

1.自宅に設置した場合

(1) 余剰売電

 太陽光発電は設置容量10kWを境に売電方法が変わります。10kW未満(住宅用)の場合は、その設備の中で発電した電力のうち、実際に使用して余った分を売電する「余剰売電」になります。10kW以上(産業用)の場合は、「余剰売電」又は発電した電気を全て売電する「全量売電」のうち任意の方法を選択できます。

 太陽光発電設備を自宅(自宅の屋根や駐車場スペースなど)に設置して売電方法が余剰売電の場合、売電収入の所得区分は大規模なものを除き「雑所得」になります。
 大規模なものは「事業所得」となりますが、例えば発電量が50kW以上であったり、太陽光発電設備に対してフェンスを設置するなど一定の管理を行ったりしている場合などが該当します。

 また、売電収入を得るための必要経費として以下のものが考えられます。

①減価償却費
②ローン利息
③固定資産税
④遠隔監視システムや通信などにかかる管理費
⑤太陽光発電設備に対する損害保険料
⑥メンテナンス費用
⑦パワーコンディショナーの電気代

 余剰売電の場合は、これらの経費の全額を必要経費にすることはできません。例えば、減価償却費については本年分の普通償却費の全額ではなく、全発電量のうち売却した電力量の占める割合に対応する部分に限られます。これは、太陽光発電設備を家事の用にも同時に供していることから、事業供用割合として「電力量」を基準とするためです。

減価償却費の必要経費算入額=本年分の普通償却費×売電した電力量/全発電量

(2) 全量売電

 太陽光発電設備を自宅に設置して売電方法が全量売電の場合、売電収入の所得区分は大規模なものは「事業所得」、それ以外のものは「雑所得」になります。

 全量売電の場合は、減価償却費等の経費は全額が必要経費に算入されます。全量売電の場合は自家消費分がなく、事業供用割合が100%となるからです。

2.賃貸物件に設置した場合

(1) 余剰売電

 太陽光発電設備を賃貸物件(賃貸物件の屋根や外壁など)に設置して余剰売電の場合、売電収入の所得区分は「不動産所得」(付随所得)になります。

 余剰売電ですが、上記1.(1)と異なり、減価償却費等の経費は全額が必要経費に算入されます。これは、消費された電力量についても不動産事業の用に供されているため、按分の必要がないからです。

(2) 全量売電

 太陽光発電設備を賃貸物件に設置して全量売電の場合、不動産所得の付随所得となることはなく、自宅に設置した場合と同様に規模に応じて「事業所得」又は「雑所得」になります。

 全量売電の場合は、上記1.(2)と同様に、減価償却費等の経費は全額が必要経費に算入されます。全量売電の場合は自家消費分がなく、事業供用割合が100%となるからです。

3.自宅兼賃貸物件に設置した場合

(1) 余剰売電

 太陽光発電設備を自宅兼賃貸物件(自宅兼アパートの屋根など)に設置して余剰売電(自宅・賃貸物件の使用分の余りを売却)の場合、売電収入の所得区分は「不動産所得」(付随所得)になります。

 経費については、全発電量のうち売電した電力量及び賃貸物件で消費した電力量の合計に対応する部分を必要経費に算入します。自宅で消費した電力量に対応する部分は必要経費に算入できません。

(2) 全量売電

 太陽光発電設備を自宅兼賃貸物件に設置して全量売電の場合、不動産所得の付随所得となることはなく、自宅に設置した場合と同様に規模に応じて「事業所得」又は「雑所得」になります。

 経費についても、上記2.(2)と同様に、減価償却費等の経費は全額が必要経費に算入されます。

 最後に太陽光発電による売電収入の所得区分をまとめると次のようになります。

売電方法 設置場所 所得区分
余剰売電 自宅 事業所得又は雑所得
賃貸物件 不動産所得
自宅兼賃貸物件

全量売電

自宅 事業所得又は雑所得
賃貸物件
自宅兼賃貸物件



所得税から引ききれなかった住宅ローン控除額の住民税からの控除

1.住宅ローン控除の概要

 住宅ローンを使って住宅の取得、新築、増改築等をして、2021年(令和3年)12月31日までに居住を開始した場合は、居住開始年以後10年間(注)の各年分の所得税において、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用を受けることができます。
 控除額は、その年の12月31日現在の住宅ローン等の残高の1.0%とされ、新築等した居住用家屋の区分に応じて、年間最大控除額は40万円又は50万円となります。

(注)2019年(令和1年)10月1日からの消費税率引き上げに際し、消費税等の税率が10%である住宅の取得等をして2019年(令和1年)10月1日から2020年(令和2年)12月31日までの間に居住した場合、住宅ローン等の所得税額の控除期間を13年間(3年間延長)とする特例が創設されました。
 住宅ローン等の年末残高×1%と、住宅の税抜購入価格×2%÷3のうち、いずれか少ない金額を11年目から13年目までの各年に控除することができます。
 なお、1年目から10年目までは現行と同様の金額が控除可能です。

区分 居住年 住宅ローン等年末残高 控除率 年間最大控除額 控除期間
一般住宅 ~令和2年12月 最大4,000万円 1.0% 40万円 10年間
認定住宅 ~令和2年12月 最大5,000万円 1.0% 50万円 10年間

 住宅ローン控除可能額のうち、所得税から控除しきれなかった残額がある場合は、翌年度分の住民税から、その残額相当額が控除されます。

2.住民税からの控除額の計算方法

(1) 住民税からの控除額の上限

 住宅ローン控除前の所得税額が住宅ローン控除額より少ない場合は、所得税から住宅ローン控除額が引ききれません。このように、所得税から控除しきれなかった残額がある場合は、翌年度分の住民税からその残額相当額が控除されます。
 ただし、住民税から控除する額には上限があり、上限額は住宅を取得等したときに課された消費税率によって異なります。
 消費税率が5%又は非課税のときは、所得税の課税総所得金額等×5%(最高9.75万円)が上限とされ、消費税率が8%のときは、所得税の課税総所得金額等×7%(最高13.65万円)とされます。
 なお、2014年(平成26年)4月以降でも経過措置により5%の消費税率が適用される場合や消費税が非課税とされている中古住宅の個人間売買などは2014年(平成26年)3月までの措置が適用されます。

居住年 上限額
~平成26年3月 9.75万円(課税総所得金額等×5%)
平成26年4月~令和3年12月 13.65万円(課税総所得金額等×7%)

(2) 所得税の控除可能額

 以下の簡単な設例を使って、所得税で引ききれなかった住宅ローン控除額の住民税からの控除額の計算方法を確認していきます。

【設例】
 2018年(平成30年)中に取得した土地に認定住宅である建物を新築して居住を開始しました。取得価額は土地建物合計で5,000万円、2019年(令和1年)12月31日現在の住宅ローン残高は4,000万円でした。なお、2019年(令和1年)分の所得税の課税総所得金額等は350万円、所得税額は25万円です。

所得税の控除可能額は、次のようになります。
 住宅ローン年末残高4,000万円<取得価額5,000万円→低い方4,000万円
 4,000万円×1.0%=40万円  ∴40万円

(3) 所得税からの控除額

所得税からの控除額は、次のようになります。
 控除可能額40万円≧所得税額25万円  ∴25万円

(4) 住民税からの控除額

住民税からの控除額は、次のようになります。
 控除可能額40万円-所得税の控除額25万円=控除しきれなかった金額15万円
 所得税の総所得金額等350万円×7%=24.5万円≧住民税の控除上限額13.65万円
 控除しきれなかった金額15万円≧住民税の控除上限額13.65万円  
 ∴翌年度分(令和2年度分)の住民税から13.65万円が控除されます。

(5) 控除額合計

住宅ローン控除可能額40万円のうち、所得税から25万円、住民税から13.65万円、合計38.65万円が控除されることになります。