同一生計親族からの住宅取得でも住宅ローン控除を受けられる?

1.親族間の取引には制限がかかる

 住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、住宅ローン等を利用して住宅を新築、取得、増改築等をした場合に、住宅ローン等の年末残高の一定額を所得税等から控除できるという制度です。
 住宅ローン控除は新築住宅から中古住宅、増改築まで幅広く適用がありますが、その適用を受けるためには、それぞれに定められた一定の要件を満たしている必要があります。
 例えば、新築住宅や中古住宅を取得した場合の主な要件は次のとおりです(認定住宅等については、認定長期優良住宅や低炭素建築物などの区分に応じて要件が異なりますので、ここでは共通の要件を挙げます)。

(1) 住宅の新築等の日から6か月以内に居住の用に供していること

(2) この控除を受ける年分の12月31日まで引き続き居住の用に供していること

(3) 次に該当すること※1
① 住宅の床面積が50平方メートル以上であり、かつ、床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること
② この控除を受ける年分の合計所得金額が2,000万円以下であること

※1 特例居住用家屋または特例認定住宅等の場合は次に該当すること
① 住宅の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満であり、かつ、床面積の2分の1以上を専ら自己の居住の用に供していること
② この控除を受ける年分の合計所得金額が1,000万円以下であること

(4) 10年以上にわたり分割して返済する方法になっている新築等のための一定の借入金または債務(住宅とともに取得するその住宅の敷地の用に供される土地等の取得のための借入金等を含む)があること※2

※2 一定の借入金または債務とは、銀行等の金融機関、独立行政法人住宅金融支援機構、勤務先などからの借入金や独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社、建設業者などに対する債務をいいます。
 ただし、勤務先からの借入金の場合で無利子または0.2パーセント未満の利率による借入金や、親族や知人からの借入金は住宅ローン控除の対象にはなりません。

(5) 2以上の住宅を所有している場合には、主として居住の用に供すると認められる住宅であること

(6) 居住年およびその前2年の計3年間に、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の特例など譲渡所得の課税の特例(全5項目)の適用を受けていないこと

(7) 居住年の翌年以後3年以内に居住した住宅(住宅の敷地を含む)以外の一定の資産を譲渡し、当該譲渡について上記(6)の譲渡所得の課税の特例を受けていないこと

(8) 住宅の取得(その敷地の用に供する土地等の取得を含む)は、その取得時および取得後も引き続き生計を一にする親族や特別な関係のある者からの取得でないこと

(9) 贈与による住宅の取得でないこと

 上記要件(1)~(9)のうち、(4)や(8)のように親族との取引には、住宅ローン控除の適用を受けるにあたって制限がかかります。
 つまり、住宅を取得するための借入金が親族から借りたものであったり、住宅の取得が取得時・取得後を通じて引き続き生計を一にする親族からの取得であった場合は、住宅ローン控除を受けることができません。

2.取得後生計を別にすれば適用可能

 生計を一にする親族からの住宅取得については住宅ローン控除の適用を受けることができないと考えがちですが、上記1.(8)の要件をよく見ると、そうでないことがわかります。
 上記1.(8)は、「住宅の取得がその取得時および取得後も引き続き生計を一にする親族からの取得でないこと」が適用要件であることを示しています。
 ということは、生計を一にする親族から住宅を取得した場合であっても、取得後生計を別にしていれば、他の要件を満たす限り住宅ローン控除の適用を受けることができるということです。

3.離婚に伴う財産分与の場合も適用可能

 離婚に伴う財産分与により取得した住宅については、贈与により取得したものではなく、既に生計を一にする親族等からの既存住宅の取得にも該当しないことから、その他の要件を満たしていれば住宅ローン控除を受けることができます。
 なお、財産分与により取得した住宅がすでに住宅ローン控除の適用を受けている共有家屋の持ち分である場合には、当初から保有していた共有部分と追加取得した共有部分(既存住宅の取得となります)のいずれについても住宅ローン控除を受けることができます。

文書料は医療費控除の対象となるか?

1.医療費控除とは

 自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合、その年中に支払った医療費の金額から保険金等により補填される金額を控除した金額が年間10万円(総所得金額等が200万円未満の場合は、その金額の5%)を超える場合は、その超える部分の金額を所得金額から控除できます(最高200万円まで)。これを医療費控除といいます。

 病院で支払った医療費がすべて医療費控除の対象となるわけではなく、例えばインフルエンザの予防接種や健康診断の費用などは医療費控除の対象にはなりません。
 医療費控除を受けるときは、その医療費が控除の対象になるかどうかに気をつけなければなりませんが、一般的には控除の対象とならないと思われているものでも内容によっては控除の対象となるものもあります。
 以下では、医療費の領収書に記載されている「文書料」の医療費控除について確認します。

※ 総所得金額等については、本ブログ記事「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。

2.医師による診断書料

 病院の領収書には様々な様式のものがありますが、その領収書をよく見ると、「文書料」という項目が記載されているものがあります。
 この「文書料」とは、病気やケガなどで入院したり手術をした場合などに保険会社に保険金を請求するため、あるいは会社や役所などへ提出するために、医師に執筆してもらう証明書の作成費用をいい、一般的には「診断書」と呼ばれるものです。
 領収書によっては、「文書料」とは別に、この診断書作成費用を「診断書料」という項目で表示しているものもありますが、「文書料」という項目でまとめて表示しているケースが多いと思われます。

 一般的に文書料は医療費控除の対象にならないと認識されていますが、この「診断書料(診断書作成に係る文書料)」は医療費控除の対象にはなりません。

 医療費控除の対象となる医療費は、医師による診療や治療の対価のうち通常必要であると認められるものとされています。
 そうすると、診断書作成に係る文書料は医師が診療又は治療した内容を記載した文書の発行手数料であり、その発行された診断書は生命保険会社へ給付金を請求する場合等の提出書類として使用されることから、医師等の診療又は治療の対価に該当せず医療費控除の対象にはなりません。

3.医師による紹介状

 一方、領収書の「文書料」の項目で表示されるもののうち、いわゆる「紹介状(診療情報提供に係る文書料)」は医療費控除の対象となります。

 例えば、ケガをした際に当初診療を受けたA市民病院の医師からそれまでの診療状況を記した紹介状の交付を受け、紹介先のB整形外科医院にその紹介状を渡して引き続き治療を受ける場合があります。

 このような場合の「紹介状」は、A市民病院の医師がその診療に基づきB整形外科医院での診療の必要性を認めて交付したものであり、この紹介状の作成費用はB整形外科医院による診療を受けるために直接必要な費用であり通常必要なものと考えられることから、医療費控除の対象となります。

確定申告書の還付口座の記載方法と留意点

 令和5年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書の受付は、令和6年2月16日(金)から同年3月15日(金)までです。
 確定申告の必要がない方でも、ふるさと納税等の寄附金控除や医療費控除などにより、源泉徴収された税金の還付を受けるための申告(還付申告)をすることができます。
 この還付申告については、令和6年2月16日(金)以前でも行えます。令和5年分であれば、令和6年1月1日から令和10年12月31日まで申告することができます
 今回は、還付申告する際の確定申告書の還付口座(還付される税金の受取口座)の記載方法と留意点を確認します。

※還付申告書を提出できる期間については、本ブログ記事「所得税還付申告書を提出できる期間とその最終日とは?」をご参照ください。

1.還付金の受取方法

 還付金の受取りには、「預貯金口座への振込みによる方法」と「最寄りのゆうちょ銀行各店舗又は郵便局に出向いて受け取る方法」とがあります。
 後者の受取方法の場合は、後日、国庫金送金通知書が送付されますので、指定したゆうちょ銀行の各店舗や郵便局窓口に国庫金送金通知書と身分証明書(運転免許証又は国民健康保険被保険者証など、本人であることを証するもの)を持参して還付金を受け取ります。
 前者の受取方法の場合は、指定した金融機関の預貯金口座に還付金が直接振り込まれます。

2.還付口座の記載方法と留意点

 還付金の受取りに預貯金口座への振込みを希望する場合は、確定申告書第一表の「還付される税金の受取場所」欄に、申告者本人の取引している金融機関名、預貯金の種別及び口座番号を記載します。
 具体的には、次のように記載します。

(1) 銀行等の預金口座の場合の記載方法

「預金種類」欄は、該当する預金種類に印を付けます(総合口座の場合は「普通」に印を付けます)。
「口座番号記号番号」欄は、口座番号のみを左詰めで記入します。

(2) ゆうちょ銀行の貯金口座の場合の記載方法

「口座番号記号番号」欄は、貯金総合通帳の記号番号のみを左詰めで記入します。その際、以下の点に注意してください。
① 他の金融機関との振込用の「店名(店番)」「口座番号」は記入しません。
② 記号部分と番号部分の間に1桁の数字(通帳再発行時に表示される「-2」などの枝番)がある場合は、その数字の記入は不要です。例えば、「12340 - 2 - 12345671」の「-2」は不要です。

※ ゆうちょ銀行の各店舗又は郵便局窓口での受取りを希望する場合は、受取りを希望する郵便局名等を記入します。

(3) 還付口座の留意点

 預貯金口座への振込みを希望する場合は、原則として、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合、漁業協同組合及びゆうちょ銀行の預貯金口座を指定することができます。
 ただし、以下の点に留意する必要があります。
① 還付金の振込みに指定できる預貯金口座は、申告者本人名義のものに限られます。申告者本人の氏名のほかに店名、事務所名などの名称(屋号)が含まれる場合は振込みできないことがありますので、申告者本人の氏名のみの口座を指定します。
旧姓のままの名義である場合には、振込みできないことがあります。
③ 公金受取口座への振込みを希望し(既に公金受取口座の登録が済んでいる人に限ります)、「公金受取口座の利用」欄に〇を記入する場合は、「還付される税金の受取場所」を記入する必要はありません。
④ 納税管理人の指定をしている場合は、その納税管理人の名義の預貯金口座となります(公金受取口座として登録・利用はできません)。
一部のインターネット専用銀行については還付金の振込みができませんので、振込みの可否について、あらかじめ利用しているインターネット専用銀行に確認する必要があります。

個人住民税(市・県民税)の申告の要否について

 2024(令和6)年度の個人住民税(市・県民税)は、2023(令和5)年中の所得等により計算され、2024(令和6)年1月1日に居住していた市区町村で課税されます。
 2023(令和5)年分の所得税確定申告期間は、2024(令和6)年2月16日(金)から3月15日(金)までとなっています。
 この間に所得税の確定申告をした人は、原則として個人住民税の申告をする必要はありません。
 一方、所得税の確定申告をする必要のない人(例えば、公的年金等の収入金額が400万円以下で公的年金等以外の所得金額が20万円以下の人)でも、個人住民税の申告はしなければなりません(確定申告不要制度については、本ブログ記事「給与所得者と公的年金等受給者の確定申告不要制度の注意点」をご参照ください)。
 以下では、個人住民税の申告の要否について確認します。

1.住民税の申告が必要な人

 以下の人は、2024(令和6)年度個人住民税の申告が必要です。

(1) 賦課期日(令和6年1月1日)現在において市内に在住し、かつ前年(令和5年)中の合計所得金額が43万円を超える人
(2) 賦課期日(令和6年1月1日)現在において市内に在住し、前年(令和5年)中の合計所得金額が43万円以下の人のうち課税(所得)証明書が必要な人
(3) 賦課期日(令和6年1月1日)現在において市外に在住し、市内に事業所や事務所がある個人事業者

※ 例えば、宝塚市に住んでいる人が西宮市の事業所で事業を行っている個人事業者である場合は、宝塚市には均等割と所得割を納付し、西宮市には均等割を納付することになります。

出所:西宮市ホームページ

2.住民税の申告が不要な人

 以下の人は、2024(令和6)年度個人住民税の申告は不要です。

(1) 所得税の確定申告をする人※1
(2) 前年(令和5年)中に所得がなかった人※2
(3) 前年(令和5年)中の所得が給与のみで、勤務先から市役所に給与支払報告書が提出されている人
(4) 前年(令和5年)中の所得が公的年金のみで、扶養・配偶者などの控除が前年(令和5年)分の公的年金などの源泉徴収票に記載されている内容どおりの人※2

※1 所得税の確定申告をする場合でも、確定申告書第2表の住民税に関する事項に記入もれ等があると、所得税額に影響がなくても個人住民税額等に影響する場合がありますので注意が必要です。

出所:宝塚市ホームページ

※2 上記(2)に該当する人でも健康保険の手続きなどで所得申告が必要な場合や、上記(4)に該当する人でも生命保険料控除や医療費控除などを追加する場合は、申告が必要となることがあります。

ストックオプションの課税関係と計算例

1.税制適格SOと税制非適格SO

 ストックオプションとは、会社が自社または子会社の従業員・役員等に対して付与する自社株式を、一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で購入することができる権利(新株予約権)をいいます。
 このストックオプションについては、ストックオプション税制の適用を受けて取得する「税制適格ストックオプション」と、その適用を受けないで取得する「税制非適格ストックオプション」があります。

 税制適格ストックオプションは、ストックオプションの付与契約において、次に掲げる要件が定められているものをいいます。

(1) 当該ストックオプションは、発行会社の取締役等に付与されたものであること。
(2) 当該ストックオプションの行使は、その契約の基となった付与決議の日後2年を経過した日からその付与決議の日後10年を経過する日(発行会社が設立の日以後の期間が5年未満の株式会社で、金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社以外の会社であることその他の要件を満たす会社である場合には15年)までの間に行わなければならないこと。
 なお、付与決議の日とは、新株予約権の割当に関する決議の日をいいます。
(3) 当該ストックオプションの行使の際の権利行使価額の年間の合計額が1,200万円を超えないこと。
(4) 当該ストックオプションの行使に係る1株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の当該契約の締結の時における1株当たりの価額相当額以上であること。
(5) 当該ストックオプションについて、譲渡が禁止されていること。
(6) 当該ストックオプションの行使に係る株式の交付が、会社法第 238 条第1項に定める事項に反しないで行われるものであること(無償ストックオプションの発行(会238条1項2号)は、労働モチベーションの向上等、適正な便益を受領しているものと評価できる場合は、有利発行には該当しないものとされています(会238条3項1号))。
(7) 発行会社と金融商品取引業者等との間であらかじめ締結された取決めに従い、金融商品取引業者等において、当該ストックオプションの行使により取得した株式の保管の委託がされること。

2.ストックオプションの課税時期

 勤務先から支給を受ける現物支給の給与については、支給時の給与所得として所得税の課税対象とされますが、その現物支給の給与が、譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)である場合には、そのストックオプションを譲渡して所得を実現させることができないことから、ストックオプションの付与時に所得を認識せず、そのストックオプションを行使した日の属する年分の給与所得として所得税の課税対象とされます。

 また、勤務先から適正な時価で有償取得したストックオプション(税制非適格ストックオプション)の課税関係は、次のとおりとなります。

(1) 税制非適格ストックオプション(有償型)は、当該ストックオプションを適正な時価で購入していることから、ストックオプションの購入時は経済的利益は発生せず、課税関係は生じません。
(2) 当該ストックオプションの行使時の経済的利益(ストックオプションの値上がり益)については、所得税法上、認識しないこととされています。
(3) 当該ストックオプションを行使して取得した株式を売却した場合、株式譲渡益課税の対象となります。

 一方、税制適格ストックオプションに該当する場合には、当該ストックオプションを行使して株式を取得した日の給与課税を繰り延べ、その株式を売却した日の属する年分の株式譲渡益として所得税の課税対象とされます。

 以上をまとめると、ストックオプションの課税時期は下表のようになります(×は課税されない、○は課税されることを示します)。

ストックオプションの類型 権利付与時 権利行使時 株式売却時
税制非適格ストックオプション(無償) × ○(給与所得) ○(譲渡所得・分離課税)
税制非適格ストックオプション(有償) × ×(認識しない) ○(譲渡所得・分離課税)
税制適格ストックオプション(無償) × ×(課税の繰延) ○(譲渡所得・分離課税)

 また、権利行使時と株式売却時の所得の計算方法は次のとおりです。

権利行使時 (権利行使時株価-権利行使価格)×株式数=所得金額
株式売却時 (売却価格-権利行使時株価)×株式数=所得金額

3.計算例

 以下では、税制非適格ストックオプション(無償型・有償型)と税制適格ストックオプションの課税関係を、簡単な数値例で確認します。

(1) 税制非適格ストックオプション(無償・有利発行型)の課税関係

勤務先から譲渡制限の付されたストックオプション(税制非適格ストックオプション)を無償で取得した場合の課税関係は、次のとおりです。
【発行会社の株価等】
・ ストックオプションの付与時 : 200
・ ストックオプションの行使時 : 800(権利行使価額 200)
・ 権利行使により取得した株式の売却時:1,000
① 権利付与時:課税されない
② 権利行使時:800-200=600が給与所得として課税される
③ 株式売却時:1,000-800=200が譲渡所得として課税される

※ 発行会社は源泉所得税を徴収して納付する必要あり

(2) 税制非適格ストックオプション(有償型)の課税関係

勤務先からストックオプションを適正な時価(50)で有償取得した場合の課税関係は、次のとおりです。
【発行会社の株価等】
・ ストックオプションの付与時 : 200
・ ストックオプションの行使時 : 800(権利行使価額 200)
・ 権利行使により取得した株式の売却時:1,000
① 権利付与時:課税されない
② 権利行使時:課税されない(経済的利益を認識しない)
③ 株式売却時:1,000-50-200=750が譲渡所得として課税される

※ 株式譲渡益は、売却時の株価(1,000)から、当該ストックオプションの購入価額(50)と権利行使価額(200)の合計額(250)を差し引いた 750 となる

(3) 税制適格ストックオプションの課税関係

勤務先から税制適格ストックオプションを取得した場合の課税関係は、次のとおりです。
【発行会社の株価等】
・ ストックオプションの付与時 : 200
・ ストックオプションの行使時 : 800(権利行使価額 200)
・ 権利行使により取得した株式の売却時:1,000
① 権利付与時:課税されない
② 権利行使時:課税されない(課税が繰り延べられる)
③ 株式売却時:1,000-800=200が譲渡所得として課税される

給与所得者(サラリーマン)の確定申告の要否

1.給与所得者で確定申告をしなければならない人

 給与所得者のうち大部分の人は、年末調整によって所得税及び復興特別所得税の精算が完了しますので、確定申告をする必要がありません。
 しかし、給与所得者であっても次のいずれかに当てはまる人は、確定申告をしなければなりません。

(1) 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
(2) 1か所から給与の支払を受けている人で、給与所得および退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える人
(3) 2か所以上から給与の支払を受けている人のうち、給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整されなかった給与(従たる給与等)の収入金額と給与所得および退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える人
(4) 同族会社の役員やその親族などで、その同族会社から給与の他に貸付金の利子や不動産の賃貸料などを受け取っている人
(5) 災害を受けた人で、給与について災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている人
(6) 源泉徴収の規定が適用されない給与(家事使用人給与、在日外国公館から支払を受ける給与など)の支払を受けている人
(7) 退職所得について正規の方法で税額を計算した場合に、その税額が源泉徴収された金額よりも多くなる人

2.給与所得者で確定申告をすれば税金が還付される人

 確定申告をする必要がない給与所得者の人でも、年末調整で適用できない所得控除や税額控除を適用して還付を受けるための確定申告(還付申告)をすることができます。
 還付申告書は、翌年の1月1日から税務署に提出することができます。例えば、令和5年分であれば令和6年1月1日から提出することができます。
 また、還付申告書は3月15日を過ぎても提出することができますが、その提出期間は5年間とされています。例えば、令和5年分の還付申告であれば令和10年12月31日まで提出することができます。
 還付申告をすることができるのは、次のような人です。

(1) 医療費が10万円(または所得金額の合計額の5%)を超えたために医療費控除を受ける人
(2) セルフメディケーション税制で医療費控除の特例を受ける人(上記(1)の医療費控除との選択適用)
(3) 災害や盗難、横領により、住宅や家財などの資産に受けた損害について雑損控除を受ける人(詐欺による被害は雑損控除の対象外)
(4) ふるさと納税などの寄附を行い、寄附金控除を受ける人
(5) 住宅ローンで住宅の新築や購入、増改築等をして、住宅借入金等特別控除を受ける人(入居した最初の年)
(6) 配当所得を申告して配当控除を受ける人
(7) 政党や政治団体に寄附をして政党等寄附金特別控除を受ける人
(8) 災害により住宅や家財に損害を受けたため、災害減免法を適用して所得税及び復興特別所得税の軽減または免除を受ける人
(9) 給与所得者の特定支出控除を受ける人
(10) 年の中途で退職して年末調整を受けなかった人のうち、その年中に再就職しなかった人
(11) 退職金の支払を受ける際に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかったため、20.42%の税率で源泉徴収された人

3.年末調整が間違っていた場合等の確定申告

 給与所得者で扶養親族等の異動や保険料の追加払いによる年末調整の再調整ができなかった人や年末調整に間違いがあった人は、確定申告により所得税及び復興特別所得税の精算をすることになります。

※ 参考記事「交通費込み給与の交通費部分は確定申告でも非課税にできない

扶養判定における遺族年金の取扱いは所得税と社会保険で異なる!

 納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合には、その納税者は扶養控除を受けて所得税を節税することができます。
 また、被保険者に社会保険制度上(協会けんぽ)の被扶養者となる人がいる場合には、被保険者だけではなく、その被扶養者についての病気・けが・死亡・出産についても保険給付が行われます。
 所得税法上の控除対象扶養親族の判定には所得基準があり、社会保険制度上の被扶養者の判定には収入基準がありますが、遺族年金の取扱いは両者で異なります。
 以下では、扶養判定の際の遺族年金の取扱いについて確認します。

1.所得税の扶養控除と遺族年金

(1) 控除対象扶養親族となる人の要件

 扶養親族とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡しまたは出国する場合は、その死亡または出国の時)の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人をいいます。

① 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)、または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること
② 納税者と生計を一にしていること
③ 年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
④ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと

 控除対象扶養親族とは、上記の扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が16歳以上の人(一般の控除対象扶養親族といいます)が該当します。

(2) 扶養控除の判定と遺族年金

 控除対象扶養親族に該当する人がいる場合、納税者は扶養控除を受けることができますが、特にお年寄りを扶養している納税者は、所得税の特例を受けることができます。
 例えば、一般の控除対象扶養親族がいる場合は38万円の扶養控除となりますが、老人扶養親族(控除対象扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が70歳以上の方をいいます)がいる場合は48万円の扶養控除となり、さらに同居老親(老人扶養親族のうち、納税者やその配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で、納税者やその配偶者との同居を常としている方をいいます)であれば58万円の扶養控除となります。
 老人扶養親族や同居老親に該当する方の多くは年金を受給されていると思われますが、この年金も含めて合計所得金額が48万円以下でなければなりません。

 では、所得税が非課税とされる遺族年金は、合計所得金額48万円以下の判定にあたって含まれるのでしょうか?
 例えば、遺族厚生年金120万円とパート収入60万円がある同一生計の母(70歳)を扶養控除の対象とすることはできるのでしょうか?

 扶養親族に該当するか否かを判定する場合の合計所得金額には、所得税法やその他の法令の規定によって非課税とされる所得の金額は含まれないことになっています。
 厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金や国民年金法に基づく遺族基礎年金などは非課税所得なので、上記の母の合計所得金額は5万円(給与収入60万円-給与所得控除55万円=給与所得5万円)となり、扶養控除の対象とすることができます(母が他の人の扶養控除の対象になっていないことが前提です)。
 

2.社会保険の被扶養者と遺族年金

(1) 被扶養者となる人の要件

 社会保険(健康保険)の被扶養者に該当する条件は、日本国内に住所(住民票)を有しており、被保険者により主として生計を維持されていること、および次の①と②のいずれにも該当した場合です

① 収入要件
 年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)かつ
 ・同居の場合は収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満
 ・別居の場合は収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満

② 同一世帯の条件
ア.被保険者と同居している必要がない者
 ・配偶者
 ・子、孫および兄弟姉妹
 ・父母、祖父母などの直系尊属
イ.被保険者と同居していることが必要な者
 ・上記ア以外の3親等内の親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者など)
 ・内縁関係の配偶者の父母および子(当該配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む)

※ 協会けんぽ以外の健康保険(健康保険組合など)の被扶養者については、被保険者の勤務先の健康保険組合によって要件が異なります。本記事では、協会けんぽを前提としています。

(2) 被扶養者の判定と遺族年金

 所得税法上は遺族年金は非課税所得であり、扶養控除の判定にあたっても合計所得金額には含まれないことを上記1で確認しました。
 では、社会保険(健康保険)においては、年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)という被扶養者の判定にあたって、遺族年金は収入に含まれるのでしょうか?

 結論を先に述べると、健康保険の被扶養者となる収入要件の判定には、遺族年金も含まれます。
 例えば、遺族厚生年金120万円とパート収入60万円がある同一生計の母(70歳)の場合、合計所得金額が48万円以下ですので所得税では扶養控除の対象となります。
 しかし、遺族年金も合わせた収入合計が180万円ですので年間収入180万円未満という収入要件を満たさず、健康保険では被扶養者の対象にはなりません。

ふるさと納税の一足早い駆け込み需要

 例年であれば、年末に集中するふるさと納税ですが、今年(2023(令和5)年)は9月中に駆け込みでふるさと納税をする人が増えているようです。その背景には、総務省が今年の6月に行ったふるさと納税の自治体側のルールの見直しが影響しているものと思われます。
 今回は、ふるさと納税についてどのような改正があったのかを確認します。

1.自治体側のルール改正

 ふるさと納税をしようとする人は、ふるさと納税ポータルサイトなどでその年の自分の所得に応じた「ふるさと納税限度額」を確認した上で、ふるさと納税をしています。
 今回総務省が見直しを行ったのは、ふるさと納税をする寄附側のルールではなく、寄附を募る自治体側のルールです。

 これまでもふるさと納税を受ける自治体側には、「返礼品は寄附額の3割以内でなければならない」とか「地場産品でなければならない」などの他に、「返礼品を含む必要経費は寄附額の5割以下」というルールがありました。
 このルールは、ふるさと納税の過度な返礼品競争を防ぐため、返礼品の調達費用や送料など、自治体が寄附を募る経費の総額を寄附額の5割以下とする基準です。

 ところが、総務省によると、寄附を受領したことを示す書類の発送費用などを含めると5割を超えるケースが相次いで確認されたことから、今回の改正(基準の厳格化)に至りました。
 改正内容は次のとおりで、2023(令和5)年10月1日から2024(令和6)年9月30日まで適用されます。

(1) 募集に要する費用について、ワンストップ特例事務や寄附金受領証の発行などの付随費用も含めて寄付金額の5割以下とする(募集適正基準の改正)
(2) 加工品のうち熟成肉と精米について、原材料がふるさと納税の対象となる地方団体と同一の都道府県産であるものに限り、返礼品として認める(地場産品基準の改正)

※ 熟成肉などを返礼品としていながら、原料は別の都道府県から仕入れ、その自治体で熟成させたケースなどがあったため、熟成肉と精米については原材料がその都道府県で生産されたものに限るとしています。

2.返礼品の実質的な値上げ

 上記1.(1)の改正により、返礼品だけではなく、送料、書類代、送付の人件費や広告宣伝費なども含めて寄付額の5割以下にするには、寄附額に占める返礼品の割合を下げたり、寄附額を引き上げるなどの方策が考えられますが、いずれにしても返礼品の実質的な値上げと言えそうです。
 このような事情を背景に、9月中にふるさと納税をしようとする人が増えたため、一足早い駆け込み需要につながっているものと思われます。

個人事業主の家事按分の取扱い

 自宅を事務所として利用している個人事業主の場合、家賃や水道光熱費など、プライベートと事業を兼ねた支出が生じる場合があります。これを家事関連費といいます。
 この家事関連費の事業割合(事業利用分)を計算して、経費として計上することを家事按分といいます。
 以下では、家事按分の取扱いについて確認します。

1.白色申告は事業割合50%超でないとダメ?

 家事関連費の経費算入については、所得税法施行令第96条で次のように定められています。

(家事関連費)
第九十六条 法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費


 つまり、家事関連費については、次の場合は必要経費に算入できます。

(1) 白色申告の場合は、家事関連費の主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合
(2) 青色申告の場合は、業務の遂行上直接必要であったことが取引の記録等で明らかな場合

 ここで気になるのは、白色申告の場合には「主たる部分」という文言が付いていることです。
 この「主たる部分」については、国税庁の法令解釈通達に次のように示されています。

(業務の遂行上必要な部分)
45-2 令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。

 白色申告の場合は、家事関連費のうち業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定しますが、50%以下であっても必要な部分が明らかに区分できる場合は経費算入してかまわないとされています。
 したがって、青色申告でも白色申告でも、プライベートと事業の明確な区分ができれば必要経費に算入できますので、実務的な取扱いに違いはありません。
 なお、上記(1)の白色申告の場合には、「取引の記録等」の文言がありませんが、白色申告でも帳簿書類に基づいた税額を申告しますので、この点においても青色申告との実務的な取扱いに違いはありません。

2.事業割合は変更してもいい

 家事按分の事業割合について、例えば家賃の按分については「この月だけ業務で使用する面積がどうしても増える」といった場合もあると思います。そんな時は明確な理由・記録等があれば、事業割合を変更してもかまいません。
 また、家事関連費の事業支出が少額になる場合などは、計算根拠やそれを証明する資料の整備をするといったコストをかけず、「経費計上しない」という選択をすることも可能です。

 事業割合を明確に区分できない場合は家事按分が認められないケースもありますので、根拠を示してきちんと説明できることが大事です。

外貨建預金の為替差益を申告(認識)しなければならない場合

 前回の記事(「外貨建預金の為替差益を申告(認識)しなくてもよい場合とは?」)で、外貨建預金を払い出しても為替差損益を認識しなくてもよいケースについて確認しましたが、今回は外貨建預金を払い出して為替差損益を認識しなければならないケースについて確認します。

1.為替差益を認識しなければならないケース

 例えば、次のような取引があった場合、建物の購入時点で預金A及び預金Bに係る為替差益を認識して雑所得として申告する必要はあるでしょうか?

 米ドル建で預け入れていた預金10万ドル(以下「預金A」という)と5万ドル(以下「預金B」という)を払い出し、これらの資金を用いて米国内にある貸付用の建物を12万ドルで購入し、残りの3万ドルは引き続き米ドルで保有している。

・預金Aの預入時のレート:1ドル=100円(円からドルへの交換と預金Aの預入は同日)
預金Bの預入時のレート:1ドル=112円(円からドルへの交換と預金Bの預入は同日)
預金の払出時のレート:1ドル=115円
建物購入時のレート:1ドル=120円

※ 便宜上、預金の利子は考慮しない。

 この場合、建物の購入時点で為替差益を認識する必要があります。したがって、雑所得として申告する必要があります。

 外貨建取引とは、外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいい、居住者が外貨建取引を行った場合には、その外貨建取引の金額の円換算額はその外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとされています(所得税法第57条の3第1項)。

 上記の例のように、外貨建の預金をもって貸付用の建物を外貨建取引により購入した場合には、新たな経済的価値(その購入時点における評価額)を持った資産が外部から流入したことにより、それまでは評価差額にすぎなかった為替差損益に相当するものが所得税法第36条の「収入すべき金額」として実現したものと考えられますので、当該建物の購入価額の円換算額とその購入に充てた外国通貨を取得した時の為替レートにより円換算した金額との差額(為替差損益)を所得として認識する必要があります。

 つまり、資産の種類が変わった場合(預金から現金、預金から有価証券など)や外貨の種類が変わった場合(ドルから円など)には、為替差損益を認識する必要があります。

2.為替差損益の計算方法

 上記1の例のように、建物の購入に充てた外国通貨の取得が複数回ある場合の為替差損益の計算については、所得税法施行令第118条第1項(譲渡所得の基因となる有価証券の取得費等)の規定に準じて、次のとおり計算するのが相当です。

(1) 保有するドルの1ドル当たりのレートの計算
 預金A:100円×10万ドル=10,000,000円
 預金B:112円×5万ドル=5,600,000円
 1ドル当たりのレート:(10,000,000円+5,600,000円)÷15万ドル=104円

(2) 為替差益の計算
 (120円-104円)×12万ドル=1,920,000円

 なお、購入した建物は、その購入時の為替レートによる円換算額を取得価額として、その後の不動産所得の金額を計算する際に減価償却費が計算されるほか、当該建物を譲渡した場合の取得費も当該取得価額を基に計算されることになります(所得税法第57条の3第1項)。