4月17日(金)以降に個人の確定申告書を提出する際の個別延長の手続き

 新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、申告所得税及び復興特別所得税、贈与税及び個人事業者の消費税及び地方消費税の申告期限・納付期限が2020年(令和2年)4月16日(木)まで延長されましたが、昨今の感染拡大の状況から外出を控えるなど期限内に申告することが困難な方については、期限を区切らずに4月17日(金)以降であっても確定申告書を提出することができるようになりました。
 これに伴い、国税庁ホームページでは、以下の「申告所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の申告・納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」が公表されています。

1.どのような場合に個別延長が認められるか?

 申告・納付期限の個別指定による期限延長(個別延長)が認められるのは、新型コロナウイルス感染症の影響により、以下のように確定申告会場に行くことが困難な方や申告書を作成することが困難な方です。

(1) 新型コロナウイルス感染症に感染した方
(2) 体調不良により外出を控えている方
(3) 平日の在宅勤務を要請している自治体に住んでいる方
(4) 感染拡大により外出を控えている方

2.個別延長の場合の申告・納付期限はいつになるか?

 新型コロナウイルス感染症の影響により、期限内に申告することが困難な方は、4月16日(木)の申告期限にこだわらずに、税務署に行くことが可能になった時点又は申告書を作成することが可能となった時点で申告することができます。
 この場合、申告期限及び納付期限は原則として申告書の提出日となります。

※会計事務所としては、関与先に申告前に納付書をお渡しして、納付が完了してから申告をすることになります。

申告期限・納付期限

  従来 延長後 個別延長後
申告所得税 3月16日(月) 4月16日(木) 申告書の提出日
消費税 3月31日(火)
贈与税 3月16日(月)

 なお、振替納税の振替日については、所轄の税務署から個別に連絡されます。

振替納付日

  従来 延長後 個別延長後
申告所得税 4月21日(火) 5月15日(金) 個別に連絡
消費税 4月23日(木) 5月19日(火)

3.申請や届出など、申告以外の手続きも個別延長の対象となるか?

 申告所得税・贈与税・個人事業者の消費税に係る各種申請や届出など、申告以外の手続きについても、新型コロナウイルス感染症の影響により、届出が困難な場合は、個別に期限延長の取扱いが行われます

4.個別延長する場合には、どのような手続きが必要となるか?

 別途、申請書等を提出する必要はなく、申告書の余白に「新型コロナウイル スによる申告・納付期限延⻑申請」旨を付記することになります。
 具体的な記載方法は、国税庁ホームページ「申告所得税、贈与税及び個人事業者の消費税の申告・納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」を参照してください。

新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の概要

 2020年(令和2年)4月7日、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置(案)」が閣議決定されました。
 本特例の実施については、関係法案が国会で成立すること等が前提となります。

※2020年(令和2年)4月30日に 「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律案」が成立・公布・施行されました。

1.新型コロナウイルス感染拡大に伴う納税猶予の特例

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のための措置に起因して多くの事業者の収入が急減している現下の状況を踏まえて、無担保かつ延滞税なしで1年間、納税を猶予する特例が設けられます。
 この特例は、2020年(令和2年)2月1日から2021年(令和3年)1月31日までに納期限が到来する国税について適用されます。その際、施行日前に納期限が到来している国税についても遡及して適用することができるとされています。

2.欠損金の繰戻しによる還付の特例

 資本金1億円超10億円以下の法人も青色欠損金の繰戻し還付が受けられる特例が設けられます。
 2020年(令和2年)2月1日から2022年(令和4年)1月31日までの間に終了する各事業年度に生じた欠損金額について適用されます。ただし、大規模法人の100%子会社などは除かれます。

3.テレワーク等のための中小企業の設備投資税制

 中小企業経営強化税制の特定経営力向上設備等の対象に、テレワーク等のための設備投資に係る新たな類型としてデジタル化設備が追加されます。
 要件は遠隔操作、可視化、自動制御化のいずれかに該当する設備で、機械装置、工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウエアが対象設備です。

4.中止等されたイベントに係る入場料等の払戻請求権を放棄した者への寄附金控除の適用

 政府の自粛要請を踏まえて文化芸術・スポーツに係る一定のイベント等を中止等した主催者に対し、観客等が入場料等の払戻請求権を放棄した場合には、当該放棄した金額(上限20万円)について、所得税における寄附金控除(所得控除又は税額控除)の対象とされます。

5.住宅ローン控除の適用要件の弾力化

 新型コロナウイルス感染症の影響による住宅建設の遅延等によって住宅への入居が遅れた場合でも、期限内に入居したのと同様の住宅ローン控除を受けることができるに適用要件が弾力化されます。

6.消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例

 新型コロナウイルス感染症の影響で2020年(令和2年)2月1日から2021年(令和3年)1月31日までの期間のうち、任意の期間(1か月以上)の収入が前年同期比おおむね50%以上減少した事業者が、申告期限までに申請書を提出し、税務署長の承認を受けた場合は、課税期間開始後でも消費税の課税事業者を選択又はやめることができる特例が設けられます。
 この特例で課税事業者を選択した課税期間の翌課税期間において、課税事業者の選択をやめることも可能です。

7.特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書の印紙税の非課税

 公的貸付機関等又は銀行等の金融機関が、新型コロナウイルス感染症の発生により、その経営に影響を受けた事業者に対して行う金銭の特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書のうち、2021年(令和3年)1月31日までに作成されるものについては、印紙税を課さないこととされます。
 ここでいう特別貸付けとは、当該機関が行う他の金銭の貸付けの条件に比し特別に有利な条件で行うものをいいます。
 また、施行日の前日までに作成されたものにつき印紙税が納付されている場合には、当該納付された印紙税については、過誤納金とみなして還付されます。

8.中小事業者等が所有する償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税の軽減措置

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のための措置に起因して、厳しい経営環境にある中小事業者等に対して、2021年度(令和3年度)課税の1年分に限り、償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税の負担が2分の1又はゼロとされます。
 原則として業種は限定されず、2021年(令和3年)1月31日までに認定経営革新等支援機関等の認定を受けて各市町村に申告した場合に適用されます。
 なお、この措置による固定資産税及び都市計画税の減収額については、全額国費で補填されます。

住宅の貸付けに係る消費税非課税制度の改正

 2020年度(令和2年度)税制改正で、2020年(令和2年)4月1日から住宅の貸付けに係る消費税の非課税対象が見直されます。

1.居住用の判定は「契約」から「実態」へ

 現行の消費税法では、住宅の貸付けは非課税とされています。住宅(居住用家屋又は家屋のうち居住用部分)の貸付けに該当するかどうかの判定は、これまでは「契約」により行っていました。すなわち、契約で人の居住の用に供することが明らかにされている場合に限り、その賃料は非課税とされていました。

 裏を返せば、「契約」で人の居住の用に供することが明らかにされていない場合は、その賃料は課税とされていました。

 ところが今回の改正で、人の居住の用に供することが契約で明らかにされていない場合であっても、「実態」として人の居住の用に供されていることが明らかであれば、その賃料は非課税とされることになりました。改正後の別表第一13は以下のとおりです(アンダーラインが見直しの箇所)。

 住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合(当該契約において当該貸付けに係る用途が明らかにされていない場合に当該貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかな場合を含む。)に限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)

 この改正は、2020年(令和2年)4月1日以後の貸付けに適用されます。したがって、既存の契約内容や実態に変更がなくても、これまで契約上明らかでなく実態が人の居住の用に供されてきたものは、3月までの賃料は課税ですが、4月からの賃料は非課税に転じることになります。

2.転用した場合の調整計算

 2020年(令和2年)4月前後で賃料が課税から非課税に変わるケースでは、その賃貸建物が課税業務用資産から非課税業務用資産への転用となり、控除対象仕入税額の調整計算が必要となる可能性があります。

 しかし、今回の改正によって、賃料が課税から非課税に変更されたとしても、控除対象仕入税額の調整計算上は、引き続きその賃貸建物を課税業務用資産とみなす経過措置が設けられていますので、この調整計算は免れることになります。

大法人の電子申告(e-Tax)が義務化されます

1.書面により提出した申告書は無効

 2018年度(平成30年度)税制改正により「電子情報処理組織による申告の特例」が創設され、2020年(令和2年)4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から、内国法人のうち事業年度開始時の資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人等は、電子申告(e-Tax)による申告書の提出が義務化されました。

 義務化の対象法人が電子申告により法定申告期限までに申告書を提出せず、書面により提出した場合は、その申告書は無効なものとして取り扱われ、無申告加算税の対象となります。
 また、2期連続で法定申告期限内に申告がない場合は、青色申告の承認の取消対象にもなりますので注意が必要です。

2.電子申告の義務化の概要

 電子申告の義務化の対象となる税目、法人の範囲、手続等は以下のとおりです。

(1) 対象税目

法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税
※地方税の法人住民税、法人事業税も対象です

(2) 対象法人の範囲

① 法人税及び地方法人税
 イ.内国法人のうち、その事業年度開始の時において資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人
 ロ.相互会社、投資法人及び特定目的会社
② 消費税及び地方消費税
 ①に掲げる法人に加え、国及び地方公共団体

(3) 対象手続

確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書

(4) 対象書類

申告書及び申告書に添付すべきものとされている書類の全て

3.e-Taxによる申告の特例に係る届出書

 電子申告の義務化の開始に当たり、2020年(令和2年)4月1日以後、義務化対象法人はすべて所轄税務署長に「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」を提出しなければなりません。
※「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」の様式は国税庁ホームページを参照

 届出書を提出する時期は、次のとおりです。
(1) 2020年(令和2年)3月31日以前に設立された法人で2020年(令和2年)4月1日以後最初に開始する事業年度(課税期間)に対象法人となる場合は同事業年度(課税期間)開始の日以後1か月以内
(2) 2020年(令和2年)4月1日以後に増資により対象法人となる場合は資本金の額又は出資金の額が1億円超となった日から1か月以内
(3) 2020年(令和2年)4月1日以後に設立された法人で設立後最初の事業年度から対象法人となる場合は設立の日から2か月以内
(4) 2020年(令和2年)4月1日以後に対象法人であって消費税の免税事業者から課税事業者となる場合は課税事業者となる課税期間開始の日から1か月以内

4.e-Taxによる申告の特例の適用がなくなった旨の届出書

 一方、減資等により資本金の額又は出資金の額が1億円以下となった場合等により義務化対象法人でなくなった場合には、所轄税務署長に対し、速やかに「e-Taxによる申告の特例の適用がなくなった旨の届出書」を提出します。
※「e-Taxによる申告の特例の適用がなくなった旨の届出書」の様式は国税庁ホームページを参照

5.例外的に書面申告が認められる場合

 電子申告義務化後において、電気通信回線の故障、災害その他の理由によって、e-Taxにより法定申告期限までに申告書を提出することが困難な場合には、所轄税務署長の承認を得た上で、書面により提出することで、例外的に申告義務が履行されたものとみなされ、その書面による申告書は有効なものとして取り扱われます。

 当該承認を得るためには、事前に「e-Taxによる申告が困難である場合の特例の申請書(取りやめの届出書)」及びe-Taxを使用することが困難であることを明らかにする書類を所轄税務署長に提出する必要があります。
※「e-Taxによる申告が困難である場合の特例の申請書(取りやめの届出書)」の様式は国税庁ホームページを参照

ロータリークラブ、ライオンズクラブの会費は法人と個人で経理処理が異なる!

 9月決算・11月申告法人の決算書・申告書のチェックをしていた際に、ロータリークラブの入会金と会費が決算書の「諸会費」に計上されていることに気づきました。
 ロータリークラブやライオンズクラブの入会金と通常会費については、その経理処理が法人と個人で異なります。経費(法人税法上の損金、所得税法上の必要経費)として認められるか否かについて、以下述べていきます。

1.法人の場合は交際費として損金算入

 法人が支出したロータリークラブやライオンズクラブの入会金・通常(経常)会費は、次の法人税基本通達9-7-15の2(1)より交際費となります。

「9-7-15の2 法人がロータリークラブ又はライオンズクラブに対する入会金又は会費等を負担した場合には、次による。(昭55年直法2-15「十六」により追加)

(1) 入会金又は経常会費として負担した金額については、その支出をした日の属する事業年度の交際費とする。
(2) (1)以外に負担した金額については、その支出の目的に応じて寄附金又は交際費とする。ただし、会員たる特定の役員又は使用人の負担すべきものであると認められる場合には、当該負担した金額に相当する金額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。」

 (2)は、入会金・経常会費以外に負担した金額、例えば懇親会参加費用などは交際費となりますが、本来個人が負担すべき金額を法人で支払った場合は、その個人に対する給与となることをいっています。

 なお、ロータリークラブやライオンズクラブの入会金・通常会費の消費税の課税区分は不課税です。

2.個人の場合は必要経費不算入

 一方、個人事業主が支出したロータリークラブやライオンズクラブの入会金・通常会費は、必要経費として認められません。所得税基本通達に規定はありませんが、過去の裁決例、例えば2016年(平成28年)7月19日裁決において、個人事業主である弁護士がロータリークラブの会費の必要経費性を主張したところ、国税不服審判所は次のように判断しています。

「本件ロータリークラブは、定款に従って、各種の奉仕活動を行うとともに、会員同士の親睦を深めたり、講演や卓話を通じて教養を高めるなどの活動をしていたものと認められる。そして、請求人の本件クラブの会員としての活動の主なものは、①例会への出席、②親睦会への出席、③奉仕活動への参加及び④講演会への出席であり、請求人がこれらの活動を行うことで報酬を得ていたなどの事情は特に見当たらない。 」

「本件クラブの活動内容を踏まえ、請求人が本件クラブの会員として行う以上のような活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動はいずれも営利性、有償性を有しておらず、請求人が弁護士としてその計算と危険において報酬を得ることを目的として継続的に法律事務を行う経済活動に該当するものではないというべきである。」

「そうすると、本件各会費は、請求人が本件クラブの会員であることに伴って支出したものであるから、請求人の所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ、当該事業の遂行上必要であるとは認められない。したがって、本件各会費は、事業所得の金額の計算上必 要経費に算入されない。」

「請求人は、弁護士業においては、顧客獲得のための積極的な営業・広報動等を広く展開することが重要であり、本件クラブの会員であることは、業務遂行上必要かつ極めて有益な要因である旨主張する。しかしながら、本件クラブの会員であることで、請求人が主張するような側面があったとしても、これは、会費を支出することの直接の目的ではなく、飽くまでも間接的、副次的に生ずる効果にすぎないとみるのが相当であるから、会費を支出することが、弁護士業務の遂行上必要であるということはできない。したがって、請求人の上記主張には理由がない。」

 また、この裁決の中で、ロータリークラブの会費を法人が支出した場合は経費になるのに対し、個人が支出した場合は経費にならない理由について、国税不服審判所は次のように述べています。

「さらに、請求人は、法人が支出するロータリークラブの会費は、法人税基本通達において、クラブ加入の実質的目的を根拠に経費性が認められており、実態として全く変わりのない個人としての弁護士に関しても当然経費性が肯定されるべきである旨主張する。しかしながら、私的な消費生活を行う個人と、それを観念できない法人とでは、支出に関する取扱いを異にすることは、所得税法及び法人税法におけるそれぞれの課税所得の計算構造をみても当然に予定されているものというべきであるから、この点に関する請求人の主張にも理由がない。」

外注費か給与か…国税庁の判断基準

1.国税庁法令解釈通達に一定の判断基準あり

 その業務を他の事業者に委託(外注)することが多い建設業や運送業を営む事業者の税務調査では、外注先に支払った経費が外注費なのか給与なのかで争いが起きることがあります。
 外注先に支払った経費が給与とされると、源泉所得税の徴収漏れを指摘されるとともに消費税の仕入税額控除が否認されます。
 外注費と給与のいずれに該当するかについては判然としないことが多く、明確な線引きも難しいのですが、2009年(平成21年)12月17日の「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて(法令解釈通達)」において次の判断基準が示されており、実務上はこれらを総合的に勘案して、外注費か給与かを判断することになります。

(1) 他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうか。
(2) 報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束(業務の性質上当然に存在する拘束を除く。)を受けるかどうか。
(3) 作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く。)を受けるかどうか。
(4) まだ引渡しを完了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるかどうか。
(5) 材料又は用具等(くぎ材等の軽微な材料や電動の手持ち工具程度の用具等を除く。)を報酬の支払者から供与されているかどうか。

 以下では、これら5点の判断基準について解説します。

2.実務上の判断基準となる5つの観点

(1) 代替性の有無

 他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうかという観点から、外注費と給与を区分します。
 
 雇用契約に基づく役務の提供の場合、雇用された者は自分自身が仕事をすることで、その役務の対価(給与)を受け取ることができます。
 一方、請負契約に基づく役務の提供の場合、依頼主との間で仕事の期限や代金等を決定すれば、実際の仕事は必ずしも請け負った者自身に限らず、自己が雇用する第三者に任せることで、その役務の対価(外注費)を受け取ることができます。
 つまり、役務提供者が契約当事者に限定され、他の者が当事者に代わり役務の提供をできない場合や、本人が自らの判断で第三者を使うことが認められていない場合は代替性が無いといえ、給与の該当性を強めるといえます。 

(2) 拘束性の有無

 報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束(業務の性質上当然に存在する拘束を除く。)を受けるかどうかという観点から、外注費と給与を区分します。

 勤務する日や就業時間が決められていたり、出勤簿、タイムカード又は本人からの報告等で就業時間が管理されていたりする場合には、時間的拘束があるといえ、給与の該当性を強めるといえます。

(3) 指揮監督の有無

 作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く。)を受けるかどうかという観点から、外注費と給与を区分します。

 雇用契約の場合、雇用主が定める就業規則に従わなければならず、作業現場では監督者等が個々の作業について指揮命令をするのが一般的です。
 一方、請負契約の場合、仕事の期限さえ守れば途中における進行度合いや手順等について、依頼主から特に指図を受けることがないのが通常です。
 つまり、仕様書、設計図、指示書等の交付により作業の具体的内容や方法が指示されており、業務の遂行が使用者の具体的な指揮命令を受けて行われている場合は、給与の該当性を強めるといえます。

 なお、「業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く」とは、例えば運送業の場合、運送物品、運送先及び納入時間の指定は業務の性質上当然であり、これらが指定されているからといって指揮監督の有無に関係するものではないことをいいます。

(4) 報酬請求権の有無

 まだ引渡しを完了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるかどうかという観点から、外注費と給与を区分します。

 請負契約の場合、引渡しを終えていない完成品が不可抗力(災害等)のため滅失して期限までに依頼主に納品できない場合は、一般的には報酬の支払を受けることができません。
 一方、雇用契約の場合、労務の提供を行えば結果に関係なく報酬を請求できます。
 給与が労務の提供自体に支払われるのに対し、外注費は労務の提供ではなく仕事の完成に対して支払われます。
 つまり、役務提供の結果による較差が少なく、業務の量に応じて報酬が支払われる場合は、給与の該当性を強めるといえます。 

(5) 材料又は用具等の供与の有無

 材料又は用具等(くぎ材等の軽微な材料や電動の手持ち工具程度の用具等を除く。)を報酬の支払者から供与されているかどうかという観点から、外注費と給与を区分します。

 雇用契約の場合は雇用主が材料や用具等を役務提供者に支給しますが、請負契約の場合は役務提供者が材料や用具等を自分で用意するのが一般的です。
 つまり、職務遂行に当たり必要な旅費、設備、備品等の費用について、原則として役務提供者が負担する場合は、外注費の該当性を強めるといえます。

 なお、「くぎ材等の軽微な材料や電動の手持ち工具程度の用具等を除く」とは、例えば据え置き式の工具など高価な器具を所有するなど、その経費の多寡も判定要素となることをいいます。

土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の適用

 運送業を営む顧問先のA社が、所有していた土地(遊休地)を当期中に売却することになりました。土地の譲渡は消費税の非課税売上ですが、土地の譲渡によりA社の当期の課税売上割合は、例年より大きく減少する見込みです(A社は仕入控除税額を個別対応方式で計算しています)。
 そこで、当期の消費税の申告に備えて、「課税売上割合に準する割合」の適用を検討することになりました。

 A社のように、たまたま土地の譲渡があったことにより課税売上割合が減少する場合において、課税売上割合を適用して控除対象仕入税額を計算すると、その事業者の事業の実態を反映しないと認められるときは、課税売上割合に代えて課税売上割合に準ずる割合を適用することができます。

 今回は、土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の適用について紹介します。

1.要件

 A社のようなケースで課税売上割合に準ずる割合を適用するためには、つぎの要件を満たす必要があります。

(1) 土地の譲渡が単発であること
(2) その土地の譲渡がなかったとした場合には、事業の実態に変動がないと認められること(具体的には、事業者の営業の実態に変動がなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合の差が5%以内であることをいいます)

 以下の数値例を使用して、要件や課税売上割合に準ずる割合の算定方法を確認していきます。

   土地の譲渡があった当期と過去3年間の課税売上割合等  (単位:円)

課税期間 課税売上高 非課税売上高 総売上高 課税売上割合
当期 589,391,004 211,570,080 800,961,084 73.58%
前期 668,809,034 1,348,360 670,157,394 99.79%
前々期 588,936,478 1,176,152 590,112,630 99.80%
前々前期 557,889,004 568,435 558,457,439 99.89%

 運送業を営むA社にとって今回の土地の売却は単発ですので、要件(1)を満たします。
 また、A社の営業の実態に変動はなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合99.89%(前々前期)と最も低い課税売上割合99.79%(前期)との差(0.10%)が5%以内ですので、要件(2)も満たします。
 したがって、当期のA社の消費税の申告において、課税売上割合に準ずる割合を適用することができます。

2.課税売上割合に準ずる割合の算定

 課税売上割合に準ずる割合の適用要件を満たしましたので、次の(1)又は(2)の割合のいずれか低い方を課税売上割合に準ずる割合として適用することができます。

(1) 土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合
(2) 土地の譲渡があった課税期間の課税期間の課税売上割合

 (1)については、次のように計算します。

 課税売上高÷総売上高=(668,809,034+588,936,478+557,889,004)÷(670,157,394+590,112,630+558,457,439)=1,815,634,516÷1,818,727,463=99.82%

 (2)は、前期の99.79%です。

 したがって、(1)>(2)ですので、99.79%が課税売上割合に準ずる割合になります。

3.消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書

 課税売上割合に準ずる割合を適用する場合は、その土地を譲渡した課税期間内に「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を所轄税務署長に提出し、その承認を受けなければなりません

※ 2021(令和3)年度税制改正により、課税売上割合に準ずる割合の適用開始時期の見直しが行われました。これまでは、課税売上割合に準ずる割合の適用を受ける場合、税務署長の承認を受けた日の属する課税期間から適用することとされていましたが、2021(令和3)年4月1日以後に終了する課税期間から、適用を受けようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出し、同日(課税期間の末日)の翌日から同日以後1月を経過する日までの間に税務署長の承認を受けた場合、当該承認申請書を提出した日の属する課税期間から適用されることとなりました(2021(令和3)年4月1日更新)。

4.課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書

 この課税売上割合に準ずる割合の承認は、たまたま土地の譲渡があった場合に行うものですから、翌課税期間において「消費税課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書」を提出しなければなりません。

 その提出がない場合は、課税売上割に準ずる割合の承認の取消しが行われますので注意しなければなりません。

課税売上割合に準ずる割合の算定方法と注意点

 課税売上げに係る消費税の額から控除する仕入控除税額を個別対応方式により計算する場合は、課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等に係る消費税額に、原則として課税売上割合を乗じて計算します。
 しかし、課税売上割合により計算した仕入控除税額がその事業の実態を反映していないなど、課税売上割合により仕入控除税額を計算するよりも、課税売上割合に準ずる割合によって計算する方が合理的である場合には、課税売上割合に代えて課税売上割合に準ずる割合によって仕入控除税額を計算することができます。

1.適用と不適用の手続き

(1) 適用の承認申請

 課税売上割合に準ずる割合を適用するには、納税地の所轄税務署長に「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出して、適用しようとする課税期間の末日までに税務署長の承認を受ける必要があります

※ 2021(令和3)年度税制改正により、課税売上割合に準ずる割合の適用開始時期の見直しが行われました。これまでは、課税売上割合に準ずる割合の適用を受ける場合、税務署長の承認を受けた日の属する課税期間から適用することとされていましたが、2021(令和3)年4月1日以後に終了する課税期間から、適用を受けようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出し、同日(課税期間の末日)の翌日から同日以後1月を経過する日までの間に税務署長の承認を受けた場合、当該承認申請書を提出した日の属する課税期間から適用されることとなりました(2021(令和3)年4月1日更新)。

(2) 不適用の届出

 納税地の所轄税務署長に「消費税課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書」を提出すれば、提出した日の属する課税期間から、課税売上割合に準ずる割合の適用をやめることができます。

2.課税売上割合に準する割合の適用範囲と算定方法

(1) 適用範囲

 課税売上割合に準ずる割合を適用する場合、すべての事業について同一の割合を使うこともできますが、次のように一定の単位ごと異なる割合を適用することができます。

① 事業の種類の異なるごと
② 事業所の単位ごと
③ 販売費一般管理費、その他の費用の種類ごと

 また、課税売上割合に準ずる割合は、通常の課税売上割合と併用することもできます。

(2) 算定方法

 課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等の性質に応じた合理的な基準(使用人(従業員)の数又は従事日数、消費又は使用する資産の価額、使用数量、使用面積の割合など)により算定します。
 具体的な計算方法と注意点は次のとおりです。

① 従業員割合

 従業員割合は、従業員数に比例して支出されると認められるものについて適用でき、次の計算式で算定します。

 従業員割合=課税業務従業員数÷(課税業務従業員数+非課税業務従業員数)

イ.従業員数を課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に係る業務ごとに区分できることが前提です。
 課税業務従業員数とは課税資産の譲渡等のみに従事する従業員数をいい、非課税業務従業員数とは非課税資産の譲渡等のみに従事する従業員数をいいます。

ロ.従業員数は、原則として課税期間の末日の現況によります。課税期間の末日における従業員数が課税期間における実態と異なるなど、事業の実態を反映しないものであるときは、課税期間中の各月末の平均数値等によることができます。

ハ.課税・非課税の双方の業務に従事する従業員については、原則として、この割合の計算上、分母・分子のいずれにも含めません
 ただし、事務日報等により課税・非課税の双方の業務に従事する従業員全員の従事日数が記録されていて、この記録により従業員ごとの従事日数の割合が計算できる場合は、その割合により各業務に按分することは認められます。

ニ.例えば、建設会社の海外工事部門の従業員など国外取引のみに従事する従業員については、この割合の計算上、分母・分子のいずれにも含めません。

ホ.法人の役員(非常勤役員を除きます)も従業員に含めて取扱います。アルバイト等についても、従業員と同等の勤務状況にある場合には、従業員に含めて取扱います。

ヘ.本店・支店ごと又は事業部門ごとにそれぞれの従業員割合を適用することは認められます。

② 事業部門ごとの割合

 独立採算制の対象となっている事業部門や独立した会計単位となっている事業部門や支店については、事業部門ごと、支店ごとの割合を課税売上割合に準ずる割合とすることができます。

 事業部門ごとの割合=事業部門ごとの課税売上高÷(事業部門ごとの課税売上高+事業部門ごとの非課税売上高)

イ.事業部門ごとに、その事業部門に係る課税売上高と非課税売上高を基礎として、課税売上割合と同様の方法により割合を求めます。

ロ.総務、経理部門等の事業を行う部門以外の部門については、この割合の適用は認められません。

ハ.経理、総務部門等の共通対応分の消費税額すべてを各事業部門の従業員数比率等適宜の比率により事業部門に振り分けた上で、事業部門ごとの課税売上割合に準ずる割合により按分する方法も認められます。

③ 床面積割合

 床面積割合は、専用床面積に比例して支出されると認められるものについて適用でき、次の計算式で算定します。

 床面積割合=課税業務専用床面積÷(課税業務専用床面積+非課税業務専用床面積)

イ.床面積を課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に係る業務ごとに区分できることが前提です。

ロ.計算の基礎となる床面積は、原則として課税期間の末日の現況によります。課税期間の末日における床面積が課税期間における実態と異なるなど事業の実態を反映しないものであるときは、課税期間中の各月末の平均数値等によることができます。

ハ.課税・非課税の双方の業務で使用する専用床面積については、原則として、この割合の計算上、分母・分子のいずれにも含めません

ニ.本店・支店ごと又は事業部門ごとにそれぞれの床面積割合を適用することは認められます。

④ 取引件数割合

 取引件数割合は、取引件数に比例して支出されると認められるものについて適用でき、次の計算式で算定します。

 取引件数割合=課税資産の譲渡等に係る取引件数÷(課税資産の譲渡等に係る取引件数+非課税資産の譲渡等に係る取引件数)

イ.取引件数を課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に係る件数に区分できることが前提です。

ロ.本店・支店ごと又は事業部門ごとにそれぞれの取引件数割合を適用することは認められます。

3.適用上の注意点

(1) 課税売上割合に準ずる割合は、個別対応方式により仕入控除税額を計算している場合のみ適用することができます。

(2) 適用を受けるときは、適用しようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出するだけではなく、税務署長による承認を受けておく必要があります(みなし承認はありません)。承認審査には一定の時間が必要ですので、当該申請書は余裕をもって提出してください。

※ 2021年度(令和3年度)税制改正により、課税売上割合に準ずる割合の適用開始時期の見直しが行われ、次のようになります。
「消費税の仕入控除税額の計算について、課税売上割合に準ずる割合を用いようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出し、同日の翌日以後1月を経過する日までに税務署長の承認を受けた場合には、当該承認申請書を提出した日の属する課税期間から課税売上割合に準ずる割合を用いることができることとする。」(2021年(令和3年)1月25日更新)

(3) 承認又は届出のあった課税期間から適用又は不適用となります。また、継続適用は強制されませんので、一課税期間でやめることができます。

(4) 課税売上割合に準ずる割合の承認を受けると、課税売上割合を適用した方が有利となる場合でも、不適用の届出書を提出しない限り、必ず課税売上割合に準ずる割合を適用しなければなりません。ただし、承認を受けた課税仕入れ等以外のものについては、課税売上割合を使用します。

(5) 課税売上割合に準ずる割合の承認を受けている場合でも、全額控除できるかどうかの95%以上の判定は、課税売上割合によって行わなければなりません(準ずる割合が95%以上であっても、課税売上割合が95%未満なら全額控除はできません)。

(6) たまたま土地を譲渡したことにより、その課税期間の課税売上割合が低くなった場合には、前課税期間の課税売上割合と前3年の課税期間の通算課税売上割合を比較して、小さい方を課税売上割合に準ずる割合として用いることができます。

土地建物を一括譲渡した場合の対価の区分方法

 土地と建物を一括で譲渡した場合は、土地の譲渡は消費税の非課税売上となり、建物の譲渡は課税売上となります。
 このように土地と建物を一括譲渡した場合、両者を合理的に区分した対価の額が契約書に記載されているときは、その区分によりそれぞれの売上高とします。
 合理的な区分が行われていない場合は、その譲渡代金について、土地の対価部分と建物の対価部分に区分する必要があります。
 

1.譲渡対価の区分方法

 土地付建物を一括譲渡した場合の課税売上高と非課税売上高に計上する金額は、それぞれ次のとおりです。

(1) 契約書の記載金額の区分が合理的な場合

① 契約書に土地と建物の価額が区分されている場合は、その価額によります。
② 契約書に建物に係る消費税等の額が記載されている場合は、その消費税率から割返して建物の対価の額を区分します。
〈消費税税率10%の場合〉
  イ. 建物の価額=契約書に記載された消費税等の額÷10%×110%
  ロ. 土地の価額=取引総額―建物の価額

(2) 契約書の記載金額の区分が合理的でない場合

① 近隣の取引事例を参考に計算した建物及び土地の時価の比により按分計算します。
② 不動産鑑定評価額により区分します。
③ 相続税評価額や固定資産税評価額をもとに按分計算します。
④ 土地や建物の原価をもとに按分計算します。
⑤ 建物の標準的な建築価額表により区分します。
  イ.「建物の標準的な建築価額表」により建物の取得価額を算出
  ロ. 建物の価額=建物の取得価額―減価償却費
  ハ. 土地の価額=取引総額―建物の価額

※ 建物と土地を一括譲渡した場合に、租税特別措置法に規定する法人税の土地の譲渡等に係る課税の特例の計算における取扱いによって建物と土地の価格を区分しているときには、消費税の計算においてもその区分したところによらなければなりません(消費税法基本通達10-1-5)。
〈参考〉
 法人税の土地の譲渡等に係る課税の特例について規定している租税特別措置法第62条の3及び第63条は、1998年(平成10年)1月1日から2020年(令和2年)3月31日までに行う土地の譲渡等について適用しないこととされています。

2.区分方法の計算例

 簡単な数値を用いて、譲渡対価の主な区分方法の計算例を以下に示します。

(1) 契約書に建物の消費税額の記載がある場合(記載金額の区分が合理的な場合)

土地建物譲渡契約書
第1条 土地付建物を5,000万円(うち消費税200万円)で譲渡する。

① 建物の価額:200万円÷10%×110%=2,200万円
② 土地の価額:5,000万円―2,200万円=2,800万円

(2) 契約書に取引総額のみの記載がある場合(記載金額の区分が合理的な場合)

土地建物譲渡契約書
第1条 土地付建物を5,000万円で譲渡する。
固定資産税課税明細書
固定資産税評価額
土地1,000万円
建物1,500万円

 ここでは固定資産税評価額をもとに按分します。
① 建物の価額:5,000万円×1,500万円÷(1,000万円+1,500万円)=3,000万円
② 土地の価額:5,000万円×1,000万円÷(1,000万円+1,500万円)=2,000万円

(3) 契約書の記載金額の区分が合理的でない場合

土地建物譲渡契約書
第1条 土地付建物を下記のとおり譲渡する。
(1) 土地の譲渡代金 4,000万円
(2) 建物の譲渡代金 1,000万円
固定資産税課税明細書
固定資産税評価額
土地1,000万円
建物1,500万円

 契約書記載金額が合理的に区分されていない場合は、譲渡時の時価の比(ここでは固定資産税評価額)で按分します。
① 建物の価額:5,000万円×1,500万円÷(1,000万円+1,500万円)=3,000万円
② 土地の価額:5,000万円×1,000万円÷(1,000万円+1,500万円)=2,000万円

適格請求書発行事業者登録制度と免税事業者

 2023年(令和5年)10月1日以降は、区分記載請求書等の保存に代えて、「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となります。
 適格請求書とは、売手が買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段であり、一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類する書類をいいます。

1.適格請求書発行事業者の登録

 適格請求書を交付できるのは、適格請求書発行事業者に限られます。適格請求書発行事業者となるためには、税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書(以下、「登録申請書」といいます)」を提出し、登録を受ける必要があります。
 なお、課税事業者でなければ登録を受けることはできません。

(1) 登録申請のスケジュール

 登録申請書は2021年(令和3年)10月1日から提出できます。適格請求書等保存方式が導入される2023年(令和5年)10月1日に登録を受けようとする事業者は、2023年(令和5年)3月31日(特定期間における課税売上高が1,000万円を超えたことにより課税事業者となる事業者については同年6月30日。以下同じ)までに登録申請書を所轄税務署長に提出する必要があります。

 ただし、2023年(令和5年)3月31日までに登録申請書を提出できなかったことにつき困難な事情がある場合において、2023年(令和5年)9月30日までの間に登録申請書にその困難な事情を記載して提出し、税務署長により適格請求書発行事業者の登録を受けたときは、2023年(令和5年)10月1日に登録を受けたこととみなされます。
 なお、「困難な事情」については、その困難の度合いは問いません(インボイス通達5-2)

※ 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、事業者の準備状況を考慮して、「困難な事情」の記載がなくても2023(令和5)年4月以降の申請ができるようになりました(詳細については、本ブログ記事「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください)。

(2) 登録拒否要件

 消費税法の規定に違反して罰金以上の刑に処せられ、その執行が終わり、又は執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者は、登録を受けることができません。

(3) 登録と通知

 事業者から登録申請書の提出を受けた税務署長は、その事業者が登録拒否要件に該当しない場合には、適格請求書発行事業者登録簿に法定事項を記載して登録を行い、登録を受けた事業者に対して、その旨を書面で通知します。

(4) 登録の効力

 登録の効力は、通知の日にかかわらず、適格請求書発行事業者登録簿に登載された日(登録日)に発生します。

(5) 登録の取消し

 税務署長は、次の場合に適格請求書発行事業者の登録を取り消すことができます。

① 1年以上所在不明であること
② 事業を廃止したと認められること
③ 合併により消滅したと認められること
④ 消費税法の規定に違反して罰金以上の刑に処せられたこと

(6) 登録の取りやめ

 適格請求書発行事業者には、事業者免税点制度は適用されません。したがって、適格請求書発行事業者は、基準期間における課税売上高及び特定期間における課税売上高が1,000万円以下となっても、取りやめの手続きを行わない限り免税事業者となることはできません。

 適格請求書発行事業者が、納税地を所轄する税務署長に「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書(以下、「登録取消届出書」といいます)」を提出すると、適格請求書発行事業者の登録の効力は消滅します。
 登録の効力が消滅する日は、次のとおりです。

登録取消届出書の提出日 登録の効力が失効する日
課税期間の末日から起算して30日前の日まで 登録取消届出書の提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日
課税期間の末日から起算して30日前の日から、その課税期間の末日までの間 その提出があった日の属する課税期間の翌々課税期間の初日


※ 適格請求書発行事業者が事業を廃止し、「適格請求書発行事業者の事業廃止届出書」を提出した場合は、事業を廃止した日の翌日に登録の効力が失われます。

※ 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、上表の30日前とあるのは15日前に改められました(詳細については、本ブログ記事「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください)。

2.免税事業者の登録手続き

(1) 登録日が令和5年10月1日の属する課税期間の場合(経過措置の適用がある場合)

 免税事業者は適格請求書発行事業者となることはできません。免税事業者が適格請求書発行事業者としての登録を受けるためには、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となる必要があります
 ただし、免税事業者が2023年(令和5年)10月1日の属する課税期間中に登録を受ける場合には、消費税課税事業者選択届出書を提出する必要はありません※1
 2023年(令和5年)3月31日までに登録申請書を提出すれば、登録拒否要件に該当しない限り2023年(令和5年)10月1日に登録され、適格請求書発行事業者である課税事業者となります※2
 なお、免税事業者の登録申請書の記載方法については、本ブログ記事「適格請求書発行事業者の登録申請書の書き方と記載例(R3.10.1~R5.9.30提出分)」をご参照ください。

※1 2022(令和4)年度税制改正で経過措置期間が延長され、2023(令和5)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合も登録申請書の提出のみで手続きが完了するため、消費税課税事業者選択届出書の提出は不要となりました。 

※2 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、2023(令和5)年4月以降の申請でも制度開始時に登録が可能となりました(詳細については、本ブログ記事「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください)。

(2) 登録日が令和5年10月1日の属する課税期間の翌課税期間以降の場合

 免税事業者が2023年(令和5年)10月1日の属する課税期間の翌課税期間以後に登録を受ける場合には、消費税課税事業者選択届出書及び登録申請書を提出する必要があります※1
 免税事業者が翌課税期間から課税事業者となることを選択し登録を受けようとする場合は、その翌課税期間の初日の前日から起算して1月前の日(登録日が1月1日であればその前年の11月30日)までに※2、消費税課税事業者選択届出書及び登録申請書を提出しなければなりません※1

※1 2022(令和4)年度税制改正で経過措置期間が延長され、2023(令和5)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合も登録申請書の提出のみで手続きが完了するため、消費税課税事業者選択届出書の提出は不要となりました。

※2 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、1月前の日が15日前の日に改められました(詳細については、本ブログ記事「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください)。