リース資産について中小企業が賃貸借処理した場合の仕入税額控除(新リース会計基準)

 2024(令和6)年9月に企業会計基準委員会より新リース会計基準が公表され、これを受けて2025(令和7)年度税制改正で新リース会計基準を踏まえた税務上の対応がなされています。

 以下では、新リース会計基準の下で、所有権移転外ファイナンス・リース取引について中小企業が「賃貸借取引に準じた会計処理」(以下「賃貸借処理」といいます)をした場合の仕入税額控除について確認します。

1.新リース会計基準で賃貸借処理は認められるか?

 新リース会計基準では、借り手の会計処理について、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分が廃止され、すべてのリースについて使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上する「売買取引に準じた会計処理」(以下「売買処理」といいます)に統一されました(短期リース・少額リースを除きます)。

 そのため、所有権移転外ファイナンス・リース取引やオペレーティング・リース取引については、新リース会計基準の下では賃貸借処理ではなく売買処理をすることになり、会計処理が煩雑になる懸念があります。

 しかし、この懸念に対して結論を述べると、上場企業や会社法上の大企業は新リース会計基準が強制適用されますが、未上場企業や中小企業は新リース会計基準が強制適用されず、従来通りの会計処理を継続することができます

 つまり、所有権移転外ファイナンス・リース取引やオペレーティング・リース取引について、新リース会計基準の下でも中小企業は賃貸借処理をすることが可能です。 

新リース会計基準については、「新リース会計基準の導入が中小企業に及ぼす会計上と税務上の影響(令和7年度税制改正)」をご参照ください。

2.賃貸借処理した場合の仕入税額控除の時期

 上記1のように、新リース会計基準の下でも、中小企業は売買処理によらずに賃貸借処理をすることができます。

 では、所有権移転外ファイナンス・リース取引(以下「移転外リース取引」といいます)について借り手が賃貸借処理をしている場合に、そのリース料を支払うべき日の属する課税期間において仕入税額控除(分割控除)することは認められるでしょうか?
 
 移転外リース取引は、リース資産の引渡し時にリース資産の売買があったものとして取り扱われるため、移転外リース取引について借り手が賃貸借処理をしている場合でも、原則として当該リース資産の引渡しを受けた日の属する課税期間において、そのリース資産の取得価格に係る消費税額を仕入税額控除(一括控除)することになります

 ただし、一括控除を原則としながらも、そのリース料を支払うべき日の属する課税期間に仕入税額控除(分割控除)することも認められます。

 なお、令和7年度税制改正により、リース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例(延払基準)が廃止されましたが、貸し手における処理にかかわらず、借り手において会計上賃貸借処理が可能な場合には、引き続き分割控除することができます。

例えば、会計上賃貸借処理をしている借り手が一括控除する場合など、会計処理の方法と消費税額の計算が異なる場合、帳簿の摘要欄等にリース料総額を記載する方法や、会計上のリース資産の計上価額から消費税における課税仕入れに係る支払対価の額を算出するための資料を作成し、帳簿と合わせて保存する方法などにより、帳簿においてリース料総額(対価の額)を明らかにする必要があります。

3.賃貸借処理に基づいて分割控除している場合の留意点

 移転外リース取引に係るリース資産の仕入税額控除の時期については、そのリース資産の引渡しを受けた日の属する課税期間(リース期間の初年度)において一括控除することが原則であるため、賃貸借処理に基づいて分割控除している場合には、以下の点に留意する必要があります。

(1) 仕入税額控除の時期を変更することの可否

 例えば、賃貸借処理しているリース期間が3年の移転外リース取引(リース料総額660,000円)について、リース期間の初年度にその課税期間に支払うべきリース料(220,000円)について仕入税額控除を行い、2年目にその課税期間に支払うべきリース料と残額の合計額(440,000円)について仕入税額控除を行うといった処理は認められません。

(2) 簡易課税から原則課税に移行した場合等の取扱い

 次に掲げるような場合のリース期間の2年目以降の課税期間については、その課税期間に支払うべきリース料について仕入税額控除することができます。

① リース期間の初年度において簡易課税制度を適用し、リース期間の2年目以降は原則課税に移行した場合

② リース期間の初年度において免税事業者であった者が、リース期間の2年目以降は課税事業者となった場合

税抜経理方式と税込経理方式を併用する場合の問題点とその調整のための会計処理

 消費税(地方消費税を含みます。以下同じ)の会計処理方法には税込経理方式と税抜経理方式があり、どちらの方式を選択してもよいことになっていますが※1、選択した方式は、その事業者が行うすべての取引に適用するのが原則です。

 ところが、税抜経理方式を選択適用している場合は、一定の条件の下で、税込経理方式を併用することができます※2

 しかし、税抜経理方式を選択適用する場合の税込経理方式の併用(以下「併用方式」といいます)には、問題点もあります。

 以下では、併用方式の問題点とそれを調整するための会計処理について確認します。

※1 免税事業者は、税込経理方式しか適用できません。

※2 税抜経理方式を選択適用している場合の税込経理方式の併用条件等については、「税抜経理方式の場合に棚卸資産を税込で計上するときの条件と損益に与える影響」をご参照ください。
 なお、税込経理方式を選択適用している場合は、すべての取引について税込経理方式しか適用できません。

1.併用方式の問題点

 事業者がすべての取引について税抜経理方式を選択適用した場合、消費税等が課される取引については税抜金額で計上し、課税売上げに対する消費税等の額は仮受消費税等とし、また、課税仕入れに対する消費税等の額は仮払消費税等とします。

 例えば、税込330万円の商品を仕入れて、その商品を税込550万円で売った場合の会計処理は次のようになります(税率10%)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 300万円 現金預金 330万円
仮払消費税等 30万円    
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 550万円 売上 500万円
    仮受消費税等 50万円

 

 また、決算において、仮受消費税等の合計額から仮払消費税等の合計額を差し引いて(精算して)、納税額を未払計上します。上記以外の取引が無かったものとすると、決算仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仮受消費税等 50万円 仮払消費税等 30万円
    未払消費税等 20万円

 一方、併用方式においては、売上などの収益に係る取引については必ず税抜経理をしなければなりませんが、次の各グループに関する取引のいずれかについては、グループごとに税込経理を適用することが認められています。

(1) 棚卸資産の取得
(2) 固定資産・繰延資産の取得
(3) 販売費・一般管理費など(以下「経費等」といいます)の支出

 この場合、仮受消費税等の合計額から仮払消費税等の合計額を差し引いた金額は、納税額または還付税額と一致しません。

 例えば、経費等の支出に係る取引について税込経理を適用した場合には、経費等に含まれる消費税等を仮払消費税等としないため、その課税期間の仮受消費税等の合計額から仮払消費税等の合計額を差し引いた金額と納付すべき税額または還付されるべき税額との間に差額が出ます。

 上記の例(税込330万円の商品を仕入れて、その商品を税込550万円で売った場合)を、併用方式(仕入を税込処理)で会計処理すると次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入 330万円 現金預金 330万円
仮払消費税等 0万円    
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 550万円 売上 500万円
    仮受消費税等 50万円
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仮受消費税等 50万円 仮払消費税等 0万円
    未払消費税等 20万円

 上記の決算仕訳においては、仮受消費税等の合計額(50万円)から仮払消費税等の合計額(0円)を差し引いた金額(50万円)と未払消費税等(20万円)との間に差額(30万円)が出ており仕訳が成り立ちません。

 また、所得金額または損益の点から検討すると、この例では、税込経理した仕入に含まれる消費税の額(30万円)だけ経費等の額が多くなります。
 裏を返せば、すべての取引について税抜経理方式を適用した場合に比べて、一部を税込経理する併用方式を適用した場合は、利益が少なく算出されることになります(下図)。

税抜経理方式と併用方式は会計処理(記帳)の方法であって消費税の納税額の計算方法ではありませんので、どちらの方式を適用したとしても納税額(未払消費税等)は同じになります。

2.差額を益金または総収入金額に算入

 併用方式により生じた、仮受消費税等の合計額から仮払消費税等の合計額を差し引いた金額と納付すべき税額または還付されるべき税額との差額については、法人においては、その課税期間を含む事業年度の益金の額に算入し、個人事業者においては、その課税期間を含む年の総収入金額に算入します。

 上記1の例では、併用方式の決算仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仮受消費税等 50万円 仮払消費税等 0万円
    未払消費税等 20万円
    雑収入 30万円

 その結果、すべての取引について税抜経理方式を適用した場合と併用方式を適用した場合の利益は同額となり、所得金額または損益の点からも、併用方式の問題点は解消されます(下図)。

税抜経理方式の場合に棚卸資産を税込で計上するときの条件と損益に与える影響

 消費税(地方消費税を含みます。以下同じ)の会計処理方法には税込経理方式と税抜経理方式があり、どちらの方式を選択してもよいことになっていますが※1、選択した方式は、その事業者が行うすべての取引に適用するのが原則です。

 棚卸資産を例に挙げると、税込経理方式を選択している場合は棚卸資産も税込金額で計上し、税抜経理方式を選択している場合は棚卸資産も税抜金額で計上します。

 ところが、税抜経理方式を選択適用している場合は、一定の条件の下で、棚卸資産を税込金額で計上することもできます※2

 以下では、棚卸資産を中心に、税抜経理方式を選択適用する場合の税込経理方式の併用条件と併用が損益に与える影響について確認します。

※1 免税事業者は、税込経理方式しか適用できません。

※2 税込経理方式を選択適用している場合に、棚卸資産を税抜金額で計上することはできません。

1.税抜経理方式と税込経理方式の併用条件

 税抜経理方式を選択適用する場合は、売上げなどの収益に係る取引については、必ず税抜経理をしなければなりません。

 一方、次の各グループに関する取引のいずれかについては、税抜経理方式を選択適用していても税込経理方式を適用することが認められています。

(1) 棚卸資産の取得
(2) 固定資産・繰延資産の取得
(3) 販売費・一般管理費など(以下「経費等」といいます)の支出

 ただし、以下の条件に留意する必要があります。

イ.売上などの収益に係る取引に加えて、上記(1)(2)(3)のうち、少なくとも1グループについては税抜経理をしなければなりません(例えば、(1)は税込み、(2)と(3)は税抜きなどは認められますが、(1)(2)(3)すべてを税込みとすることはできません)。

ロ.棚卸資産の取得に関する取引については、継続適用を条件として、固定資産・繰延資産の取得に関する取引と異なる経理方式を適用することができます。

ハ.税抜経理方式と税込経理方式を併用して適用する場合でも、個々の棚卸資産、固定資産、繰延資産、または個々の経費等について異なる経理方式を適用することはできません(例えば、棚卸資産のうち、ある棚卸資産は税抜きとし、そのほかの棚卸資産は税込みとする処理は認められません)。

 なお、上記(1)棚卸資産の取得について税込経理をする場合に、「棚卸資産の取得」という文言から、期末棚卸資産だけでなく、その仕入時(棚卸資産の取得時)も税込経理する必要があるのかというとそうではなく、仕入時は税抜金額で計上し、決算時は期末棚卸資産を税込金額で計上します。

 したがって、決算書の当期仕入高は税抜金額で、期末棚卸高は税込金額で表示されることになります。

2.併用方式が損益に与える影響

 税抜経理方式と税込経理方式は会計処理の方法であって消費税の納税額の計算方法ではありませんので、どちらの方式を選択適用したとしても納税額に差異はなく、算出される利益は原則として同じになります。

 しかし、税抜経理方式を選択適用している場合に棚卸資産を税込金額で計上するとき(以下「併用方式」といいます)は、税抜経理方式のみで会計処理する場合と比べて、利益は大きくなります。

 例えば、税込110万円分(税率10%)の期末在庫(期末棚卸資産)があったとすると、税抜経理方式のみで会計処理する場合の期末在庫が100万円であるのに対し、併用方式の場合の期末在庫は110万円となるので、消費税10万円分だけ期末在庫が大きくなり、その分売上原価が小さくなります。
 売上原価が10万円小さくなると、売上総利益が10万円大きく算出されることになります。
 その結果、課税される法人税(個人の場合は所得税)も多くなります。

 上図は、説明を簡略化するため、期首在庫(期首棚卸資産)を無いものとしていますが、税抜経理方式から税込経理方式に、税込経理方式から税抜経理方式に変更した場合でも、期首在庫の価額について、仕入時に計上した金額を修正する必要はありません。
 会計処理を変更した場合でも、前期の期末在庫の金額をそのまま当期の期首在庫の金額として引き継ぎます。

2割特例が適用できなくなる翌課税期間の簡易課税制度選択届出書はいつまでに提出すればいいか?

 消費税の申告方法には、仕入控除税額について実額で計算する「本則課税」、業種ごとに決められたみなし仕入率を用いて仕入控除税額を計算する「簡易課税」、売上税額の2割を納税額として計算する「2割特例」による方法があります。

 このうち2割特例は、インボイス制度導入の際の経過措置により免税事業者からインボイス発行事業者となった事業者が対象となっています。

 2割特例については、事前の届出が不要で、適用を受ける旨を確定申告書に付記することで適用できますが、簡易課税は、原則として、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。

 しかし、経過措置により免税事業者から課税事業者になった事業者には、「消費税簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例」が設けられており、必ずしも適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出する必要はありません。

 以下では、経過措置により免税事業者から課税事業者になった2つのケースについて、簡易課税制度選択届出書をいつまでに提出すればいいかを確認します。

 免税事業者が、2023(令和5)年10月1日から2029(令和11)年9月30日までの日の属する課税期間中にインボイス発行事業者の登録を受けることとなった場合には、登録日から課税事業者となる経過措置が設けられています。

1.インボイス登録日の属する課税期間の簡易課税

 経過措置により免税事業者から課税事業者になった事業者が、インボイス登録日の属する課税期間について、簡易課税制度選択届出書を事前(インボイス登録日の属する課税期間の初日の前日まで)に提出していない状況において、2割特例より簡易課税の方が有利であることが判明した場合は、2割特例(又は本則課税)を適用するしかないのでしょうか?

 答えは「否」です。

 経過措置の適用を受ける事業者が、インボイス登録日の属する課税期間中に、その課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した簡易課税制度選択届出書を提出した場合には、その課税期間の初日の前日に簡易課税制度選択届出書を提出したものとみなされます(消費税簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例)。

 例えば、免税事業者である個人事業者が令和7年9月1日からインボイス登録を受けた場合で、令和7年分の申告において簡易課税制度の適用を受けたいときは、令和7年分から適用を受ける旨を記載した簡易課税制度選択届出書を課税期間の末日(令和7年12月31日)までに提出すれば、令和7年分は簡易課税制度の適用を受けることができます。

参考記事:「売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?

2.2割特例を適用した課税期間後の簡易課税

 2割特例の適用を受けていた事業者が、翌課税期間から2割特例が適用できなくなる場合に、簡易課税制度選択届出書を事前(翌課税期間の初日の前日まで)に提出していなければ、翌課税期間は本則課税しか適用できないのでしょうか?

 答えは「否」です。

 2割特例の適用を受けた事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間中に、その課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した簡易課税制度選択届出書を提出した場合には、その課税期間の初日の前日に簡易課税制度選択届出書を提出したものとみなされます(消費税簡易課税制度選択届出書の提出に係る特例)。

 例えば、、令和8年分まで2割特例により申告を行った個人事業者が、翌年分(令和9年分)から簡易課税制度の適用を受けようとする場合には、令和9年分から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した簡易課税制度選択届出書を課税期間の末日(令和9年12月31日)までに提出すれば、令和9年分から簡易課税制度の適用を受けることができます。

参考記事:「個人事業者が令和7年分と令和8年分で2割特例を適用する際の注意点

3.課税期間の末日に関する注意点

 上記1と2のケースともに、簡易課税制度の適用を受けたい課税期間の末日までに簡易課税制度選択届出書を提出すれば、簡易課税制度を適用することができます。

 ただし、課税期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他一般の休日、土曜日又は12月29日、同月30日若しくは同月31日であったとしても、提出期限はこれらの日の翌日とはなりませんのでご注意ください。

インボイス発行事業者の登録後に課税事業者届出書の提出は必要か?

 基準期間における課税売上高が1,000万円を超えたことにより消費税の課税事業者となる事業者は、「消費税課税事業者届出書」(以下「課税事業者届出書」といいます)を提出することとされています。

 課税事業者届出書の提出先は「納税地を所轄する税務署長」、提出時期は「事由が生じた場合、速やかに」とされています。

 例えば、免税事業者のX年における課税売上高が1,000万円を超えると、(X+2)年からその免税事業者は課税事業者になりますので、X年の課税売上高が確定した後、速やかに課税事業者届出書を提出します。

 このように課税事業者届出書は、免税事業者が課税事業者になることを税務署に届け出る手続きです。

 ところで、事業者の中には、課税売上高が1,000万円以下で本来は免税事業者であっても、取引先等との関係でインボイス発行事業者として登録し、消費税の課税事業者となった者もいます。

 では、このようなインボイス発行事業者の基準期間における課税売上高が1,000万円を超えることとなった場合、課税事業者届出書の提出は必要でしょうか?

 答えは「不要」です。 

 インボイス発行事業者は、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えるか否かにかかわらず課税事業者となることから、「消費税課税事業者選択届出書」を提出した事業者と同様にインボイス発行事業者の登録を受けている課税期間(登録日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間に限ります)については、課税事業者届出書を提出しなくても差し支えないこととされています。 

 つまり、インボイス発行事業者は既に課税事業者ですので、登録後も引き続いて課税事業者である限り、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えることとなっても、そのことを税務署に届け出る必要はないということです。

「消費税課税事業者選択届出書」を提出している事業者においても、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間については、その基準期間における課税売上高が1,000万円を超えるかどうかにかかわらず課税事業者となることから、課税事業者届出書は提出しなくても差し支えないこととされています(消費税法基本通達17-1-1)。

キャッシュレス納付の類型と手続きの概要

 国税庁では効率化とコスト抑制の観点から「納付書」の送付対象者を見直し、2024(令和6)年5月よりe-Taxで申告書を提出した法人などには納付書が送付されなくなりました。

 これまで通り納付書で税金の納付を行いたい場合は、税務署に送付依頼の電話をかければ納付書を入手することができますが、近年は納付書を使わない納付方法(以下「キャッシュレス納付」といいます)も多様化して選択肢が増えています。

 キャッシュレス納付は、納税者の事務手続きや現金処理業務の効率化(現金管理に伴うコスト削減)に資する面もありますので、今すぐではなくとも将来的に活用することも検討されてはいかがでしょうか。

 以下では、国税に関するキャッシュレス納付の類型と手続きについて概観します

地方税についても地方税統一QRコードにより多くの地方自治体でキャッシュレス納付ができるようになりましたが、自治体によっては対応していない場合や対応している税目等が異なりますので、納付先の自治体にご確認ください。

1.振替納税

 振替納税は、納税者名義の預貯金口座からの自動引落しにより国税を納付する方法です。古くからある制度ですので、納税者にとってはなじみ深いものだと思われます。

 振替納税を利用するにあたっては、事前(国税の納期限まで)に所轄税務署または希望する預貯金口座のある金融機関へ振替依頼書を書面またはe-Taxにより提出する必要があります。

 利用できる税目は、申告所得税及び復興特別所得税消費税及び地方消費税(個人事業者)であり、個人に限られます。

 利用にあたって、手数料はかかりません。

2.ダイレクト納付

 ダイレクト納付は、e-Taxにより申告書を提出した後、納税者名義の預貯金口座から即時または振替日を指定して口座引き落としにより納付する方法です。

 事前に振替を行う預貯金口座の届け出が必要で、届け出から利用開始までに約1か月程度かかります。

 2024(令和6)年4月からはe-Taxによる申告と同時に法定納期限当日に自動的に口座引き落としされる「自動ダイレクト」が機能として追加されました

 すべての税目で利用でき、利用にあたって手数料はかかりません。

法定納期限当日に手続きをした場合は、その翌取引日に自動引落しされます。この場合、法定納期限から引落しの日までの延滞税や加算税はかかりません。

3.インターネットバンキング納付

 インターネットバンキング納付は、e-Taxにより申告書を提出した際に受け取った納付情報を基に、金融機関のインターネットバンキングやATMを利用して納付をする方法です。

 事前に金融機関に対してインターネットバンキングの契約が必要ですが、ATMから納付する場合は不要です。

 上記2のダイレクト納付と異なり、振替日の指定はできず、即時の納付となります。

 すべての税目で利用でき、利用にあたって手数料はかかりません

インターネットバンキングやATMの利用手数料がかかる場合があります。

4.クレジットカード納付

 クレジットカード納付は、事前の手続きなしでパソコンやスマホから国税クレジットカードお支払いサイトを通じて税金を納付する方法です。

 納付情報を直接入力して納付する方法以外に、e-Taxにより申告書を提出した際に受け取った納付情報を基に納付することも可能です。

 クレジットカード納付はインターネット上のみの手続きであり、金融機関やコンビニ、税務署の窓口ではクレジットカード納付はできません。

 すべての税目で利用できますが、利用にあたっては納付税額に応じた決済手数料がかかります。

5.スマホアプリ納付

 スマホアプリ納付は、e-Taxにより申告書を提出した際に格納される受信通知(納付区分番号通知)からスマートフォン決済専用サイトへアクセスし、Pay払いで納付する方法です。

 利用可能なPay払いは、次の6つです(LINE Payの取扱いは2025(令和7)年4月14日で終了しました)。

出所:国税庁ホームページ

 アカウント残高を利用した支払方法のみ利用可能なため、事前に利用するPay払いへのアカウント登録と残高チャージが必要です。なお、納付しようとする金額が30万円以下の場合に利用可能です。

 すべての税目で利用でき、利用にあたって手数料はかかりません。

amazon payの場合はamazonギフトカードで残高チャージができるため、amazonギフトカードをクレジットカードで購入すれば、通常の買い物と同様にクレジットカードのポイントも貯まりますのでお得な方法です。
 amazon payによるスマホアプリ納付の詳細については、「Amazon Payでスマホアプリ納付をする方法(決済手数料0円)」をご参照ください。

購入者が受けるキャッシュバックの消費税の取扱い(課税・不課税)

 事業者が物品を購入した後に、その購入先からキャッシュバックを受ける場合があります。

 また、物品をクレジットカードで購入した後、その代金決済高に応じてクレジットカード会社や金融機関からキャッシュバックを受ける場合もあります。

 キャッシュバックはキャンペーンの一環として行われることが多く、その目的は販売促進にあります(自社製品の購入や自社のクレジットカードの利用を促すなど)。

 一口にキャッシュバックと言ってもいろんなケースがありますが、以下では代表的な例について、キャッシュバックが消費税の課税取引になるのか、それとも不課税取引(課税対象外)となるのかについて、購入者の立場から確認します。

1.課税取引となるキャッシュバック

 課税取引となるキャッシュバックについて、国税庁ホームページの質疑応答事例(消費者に対するキャッシュバックサービスの課税関係)に以下の例が示されています(下線は筆者による)。

【照会要旨】
 ソフトウェアメーカーであるM社は、新製品キャンペーンの一環として、製品を購入した消費者に対して次のとおりキャッシュバックサービスを行うことにしました。

(1) 消費者は、小売店で製品のパッケージを購入します。

(2) 購入者は製品のパッケージに同梱されている「ユーザー登録はがき」と「キャッシュバックサービス申込書」をソフトウェアメーカーへ返送します。

(3) ソフトウェアメーカーは、「キャッシュバックサービス申込書」に記載されている消費者の預金口座にキャッシュバックサービス対象となる現金を振り込みます。
 なお、このキャッシュバックサービスは、「キャッシュバックサービス申込書」をソフトウェアメーカーへ返送した購入者全員に対して行われるもので、懸賞として行われるものではありません。
 このとき、ソフトウェアメーカーが購入者に対してキャッシュバックした金銭の消費税の課税関係はどうなるのでしょうか。

【回答要旨】
 ソフトウェアメーカーが製品の購入者に対してキャッシュバックする金銭は、売上げに係る対価の返還等に該当します。

(理由)
  消費税法基本通達14-1-2において「事業者が販売促進の目的で販売奨励金等の対象とされる課税資産の販売数量、販売高等に応じて取引先(課税資産の販売の直接の相手方としての卸売業者等のほか販売先である小売業者等の取引関係者を含む。)に対して金銭により支払う販売奨励金等は、売上げに係る対価の返還等に該当する。」旨規定されていますが、ソフトウェアメーカーの製品の購入者は、当該ソフトウェアメーカーの取引先に当然含まれるものです。
 したがって、照会のような方法で、ソフトウェアメーカーが当該製品の購入者に対し、もれなくキャッシュバックする金銭は、売上げに係る対価の返還等に該当することになります。

 上記の質疑応答事例では、売手側であるソフトウェアメーカーの立場から、このキャッシュバックが課税取引(売上げに係る対価の返還等)であることが示されています。

 この質疑応答事例の下線部から、購入者側の立場からも、次の消費税法基本通達12-1-2(事業者が収受する販売奨励金等)により、このキャッシュバックが課税取引(仕入れに係る対価の返還等)であることは明白です。

12-1-2 事業者が販売促進の目的で販売奨励金等の対象とされる課税資産の販売数量、販売高等に応じて取引先(課税仕入れの相手方のほか、その課税資産の製造者、卸売業者等の取引関係者を含む。)から金銭により支払を受ける販売奨励金等は、仕入れに係る対価の返還等に該当する。

 したがって、購入者側では製品購入時の課税仕入れの修正が必要となり、仕入れに係る消費税額からキャッシュバックの消費税額を控除する(控除対象仕入税額を減額する)ことになります。

2.不課税取引となるキャッシュバック

 クレジットカードの利用者が、支払高に応じてクレジットカード会社や金融機関から受けるキャッシュバックは、不課税取引(消費税の課税対象外)となります。

 例えば、クレジットカードの利用による支払高が50,000円だった場合、翌月にその1%である500円が口座に振り込まれる場合などです。

 このキャッシュバックが不課税である理由は、次の消費税法基本通達12-1-7(債務免除)にあります。

12-1-7 事業者が課税仕入れの相手方に対する買掛金その他の債務の全部又は一部について債務免除を受けた場合における当該債務免除は、仕入れに係る対価の返還等に該当しないことに留意する。

 クレジットカード会社等から受けるキャッシュバックはクレジットカード会社等から受ける債務免除になりますので、上記通達にあるとおり、仕入れに係る対価の返還等には該当しません。

 したがって、その債務が課税仕入れに係る債務であったとしても、購入者側では課税仕入れを修正する必要はありません。

3.なぜ課税と不課税に分かれるのか?

 上記1のケースも2のケースも、キャッシュバックとして金銭を受け取っている点は同じですが、なぜ課税と不課税に分かれるのでしょうか?

 消費税法では、消費税の課税対象となる取引は、次の4つの要件をすべて満たす取引とされています。

① 国内取引であること
② 事業者が事業として行うものであること
③ 対価を得て行われるものであること
④ 資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供であること

 上記1の購入者が、自身の事業のために製品を購入した場合は、この4要件を満たすので、購入者がソフトウェアメーカーから受けたキャッシュバックは課税取引となります。

 一方、上記2のクレジットカード会社等から購入者が受けたキャッシュバックは、この4要件を満たさないので、課税取引とはならずに不課税取引となります。

 両者で課税と不課税を分けるポイントとなったのは、4要件のうち③④(特に③の対価性)を満たすかどうかです(下図参照)。


 上図におけるソフトウェアメーカーは、小売店を通して製品を販売しており、購入者に製品を直接販売していませんが、上記1の質疑応答事例にあるとおり、製品の購入者はソフトウェアメーカーの取引先に含まれます。

 したがって、製品の購入とソフトウェアメーカーが行ったキャッシュバックとの間には対応関係(対価性)が認められ、購入者側では金銭による販売奨励金を受け取ったものとして、このキャッシュバックは課税取引(仕入れに係る対価の返還等)となります。

 これに対して、上図におけるクレジットカード会社は、製品の販売には関わっておらず、小売店から請求されて立替払いした製品代金を購入者から回収しているに過ぎません。

 したがって、製品の購入とクレジットカード会社が行ったキャッシュバックとの間には対応関係(対価性)が認められず、購入者側では債務免除を受けたものとして、このキャッシュバックは不課税取引となります。

 この場合、購入者と小売店との間で行われた製品売買は課税取引になりますが、購入者側では課税仕入れから生じた債務であっても課税仕入れの修正は行いません。

 なお、クレジットカード会社が、消費者(会員)から受け取るクレジットカードの年会費は、クレジットカード会社が消費者に提供する「クレジットカードの利用」という役務と明確な対応関係(対価性)が認められますので課税取引となります。

 この年会費についてクレジットカード会社がキャッシュバックを行った場合は、消費者側でもそのキャッシュバックは課税取引(仕入れに係る対価の返還等)となります。

Amazon Payでスマホアプリ納付をする方法(決済手数料0円)

 スマホアプリ納付とは、e-Taxで申告等データを送信した後に、スマートフォン決済専用のWebサイト「国税スマートフォン決済専用サイト」から、「○○Pay」といったスマホ決済アプリを使用して納付する方法です(税額は30万円以下に限られます)。

 クレジットカード納付の場合は、納付税額に応じた決済手数料(税抜き76円+税額10,000円を超えるごとに税抜き76円)がかかりますが、スマホアプリ納付の場合は決済手数料はかかりません。

 また、スマホアプリ納付という名称のとおりスマホアプリ納付には「○○Pay」のインストールが必要ですが、Amazon Payの場合はアプリのインストールは不要で、Amazonアカウントがあればスマホアプリ納付が利用できます。
 
 今回は、Amazon Payを使用してスマホアプリ納付をする具体的な方法等を以下に記します。

※ スマホアプリ納付以外のキャッシュレス納付については、「キャッシュレス納付の類型と手続きの概要」をご参照ください。

1.アクセス方法がe-Tax経由に一本化された

 2025(令和7)年2月1日から、スマホアプリ納付のアクセス方法が変更されています。

 2025(令和7)年1月までは、国税スマートフォン決済専用サイトへのアクセスは、次の3つの方法がありました。

(1) 国税庁ホームページからのアクセス
(2) 確定申告書等作成コーナーで出力されるQRコードからのアクセス
(3) e-Tax受信通知からのアクセス

 2025(令和7)年2月からは、スマホ又はパソコンからe-Taxでの申告等の手続を行った上で、e-Taxを経由して「国税スマートフォン決済専用サイト」へアクセスする(3)の方法に1本化されています。

 以下では(3)の方法の具体的手順をみていきます。

2.スマホアプリ納付の具体的手順(Amazonギフトカード利用)

 スマホアプリ納付の手続きの流れは次のようになります。

(1) e-Taxで電子申告
(2) ○○Pay(Pay払い)へのアカウント登録及び残高へのチャージ
(3) スマホアプリ納付

 以下、手順を確認していきます(本記事では(3)について具体的にみていきます)。

(1) e-Taxで電子申告

 スマホアプリ納付の前提として、e-Taxで電子申告しておく必要があります。

 書面で申告をした場合でも、税額が30万円以下であれば、スマートフォンやパソコンを利用して、税目や金額などの納付内容をe-Taxに登録すること(納付情報登録依頼)により、スマホアプリ納付を行うことができます。

 しかし、e-Taxで電子申告した場合には、申告から納付までの一連の手続をデジタルでシームレスに行うことができますので、e-Taxで電子申告することをお勧めします。

(2) 「○○Pay」(Pay払い)へのアカウント登録及び残高へのチャージ

 スマホアプリ納付はアカウント残高を利用した支払方法のみ利用可能なため、事前に利用するPay払いへのアカウント登録及び残高へのチャージが必要です。

 Amazon Payの場合は、アカウント残高へのチャージにAmazonギフトカードが利用できます。

 Amazonギフトカードをクレジットカードで購入し、その金額がAmazonアカウントに登録されたら、Amazon Payの残高への反映(チャージ)は完了です。

 なお、「○○Pay」で納税する際のポイント付与については、利用する「○○Pay」によって取扱いが異なりますが、Amazon Payでは、Amazonギフトカードをクレジットカードで購入する際に、通常の買い物と同様にクレジットカードのポイントが貯まります。

(3) スマホアプリ納付

 上記1で述べたように、2025年2月からは、スマホ又はパソコンからe-Taxでの申告等を行った上で、e-Tax受信通知から国税スマートフォン決済専用サイトへアクセスする方法に1本化されています。

 具体的な手順について国税庁ホームページに記載がありますので、それに従って一部を補完する形で確認していきます。

① e-Taxにスマホ又はパソコンでログインし、メッセージボックス「お知らせ・受信通知」を開きます(下図はスマホでログインしている場合の画面です)。


② 納付する「納付情報登録依頼」を選択します。

出所:国税庁ホームページ


③ 画面をスクロールし、「スマホアプリ納付」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


④ 「国税スマートフォン決済専用サイト」にアクセスします。
・パソコンでログインしている場合は、表示されたQRコードをスマホで読み取ります。
・スマホでログインしている場合は、表示された「専用サイトへ」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑤ 下図の画面が表示されますので、「国税スマートフォン決済専用サイト」をタップします。


⑥ 「国税スマートフォン決済専用サイト」が表示されたら注意事項を確認し、チェック欄に✓を入れて「次へ」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑦ 支払方法の選択画面が表示されたら「amazon pay」を選択し、チェックを入れて「次へ」をタップします

出所:国税庁ホームページ


⑧ 納付情報の確認画面が表示されたら、メールアドレスを入力します(任意です)。
 メールアドレスを入力すると「納付手続き完了メール」を受け取ることができますので、国税庁は入力を推奨しています。
 メールアドレスを入力したら、「次へ」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑨ Amazonへログインする画面が表示されたら、「amazon pay」をタップします。


⑩ Amazonアカウントでログインします。メールアドレスまたは携帯電話番号を入力して「次へ進む」をタップします。


⑪ Amazonアカウントでログインするためのパスワードを入力して「ログイン」をタップします。


⑫ 支払い方法の画面が表示されたら、ギフトカード残高を確認して「続行」をタップします。


⑬ 納付情報の確認画面が表示されます。表示された内容をよく確認し、「納付」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑭ 納付手続の完了画面が表示されたら、手続き完了です。
 手続き完了と同時に、上記⑧で入力したメールアドレスに「国税のスマホアプリ納付手続き完了のお知らせ」と「税務署からのお知らせ【スマホアプリ納付手続完了に関するお知らせ】」が届きますので、そちらも確認します。

 最後に「納付内容をダウンロード」をタップします。

出所:国税庁ホームページ


⑮ 「納付内容をダウンロード」をタップすると、納付情報が表示されます。
 納付情報は再表示できませんので、国税庁では保存を推奨しています。スマホアプリ納付では領収書が発行されませんので、納付情報の保存は必須だといえます。

出所:国税庁ホームページ

個人事業者が令和7年分と令和8年分で2割特例を適用する際の注意点

 消費税のインボイス制度導入を機に、本来は免税事業者であったのにインボイス発行事業者として登録して課税事業者になった事業者には、仕入税額の実額を計算せずに売上に係る消費税額の8割を差し引いて納付税額を計算する「2割特例」が認められています。

 したがって、インボイス発行事業者の登録と関係なく事業者免税点制度の適用を受けないこととなる場合(例えば、基準期間における課税売上高が1千万円を超える事業者、資本金1千万円以上の新設法人、調整対象固定資産や高額特定資産を取得して仕入税額控除を行った事業者など)や、課税期間を1か月または3か月に短縮する特例の適用を受ける場合などは、2割特例の対象とはなりません。

 この2割特例の適用期間は、現行制度上は2023(令和5)年10月1日から2026(令和8)年9月30日までの日の属する各課税期間となっています。
 国税庁ホームページには、2割特例の適用期間について以下の図が掲載されています。

出所:国税庁ホームページ

 上図のように、2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間まで適用できますが、その課税期間が2割特例の適用対象となることを確認しなければなりません。

 例えば、個人事業者が令和7年分の申告で2割特例を適用する場合、基準期間である令和5年の課税売上高が1千万以下であることを確認する必要があります。

 ところが、令和5年10月1日からインボイス発行事業者として課税事業者になった場合は、令和5年中に免税事業者であった期間(1月1日~9月30日)と課税事業者であった期間(10月1日~12月31日)が混在しますので、課税売上高の計算にあたっては免税期間と課税期間を分けて計算する必要があります(令和5年の課税売上高の計算については、「免税事業者がインボイス登録した場合の『基準期間の課税売上高』の計算方法」をご参照ください)。

 また、個人事業者は令和5年分から令和8年分の申告までの4回の申告が2割特例の適用対象になりますが、令和8年分の申告で2割特例を適用する場合に、令和8年9月30日まで2割特例で計算し、10月1日以降は原則課税または簡易課税で計算するのかどうかが気になります。

 この点については、2割特例の適用対象期間は令和8年9月30日を含む「課税期間」とされていますので、令和8年を9月30日までと10月1日以降に分けて納付税額を計算するのではなく、令和8年1月1日から12月31日までの1年間について2割特例を適用して納付税額を計算することになります。

課税売上がなくても消費税の還付申告はできる!

 輸出取引の多い事業者や多額の設備投資を行った事業者などは、消費税の申告によって消費税の還付を受けることができます。
 
 還付を受ける際は、課税売上(輸出免税売上や国内における課税売上)がある場合が一般的だと思われますが、課税売上がない場合でも消費税の還付を受けることができる場合があります。

 今回は、この点について確認します。

1.仕入税額控除と課税売上割合

 会計の世界では、商品を販売したりサービスを提供したりすることを「売上」と呼びますが、消費税の世界では、商品の販売やサービスの提供だけではなく、建物や車両などの事業用資産を売却することも「売上」といいます。

 また、会計の世界では、商品を購入することを「仕入」と呼びますが、消費税の世界では、商品の購入以外に、事業用資産を購入することも「仕入」といいます。

 消費税の納税額計算の仕組みを考えるとき、消費税では「売上」や「仕入」の概念が会計よりも広くなっていることに留意する必要があります。

 このことを踏まえて消費税の納税額計算の仕組みを簡潔に説明すると、消費税の納税額は、売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を控除して求めます。これを仕入税額控除といいます。

 通常は、売上に係る消費税額が仕入に係る消費税額よりも多いため消費税を納税することになりますが、輸出取引の多い事業者や多額の設備投資を行った事業者などのように、売上に係る消費税額より仕入に係る消費税額の方が多い場合は、消費税が還付されます。

 この仕入税額控除ですが、「課税売上割合」によって全額控除、個別対応方式、一括比例配分方式という3つの方法に分かれます。
 全額控除は仕入れに係る消費税額の全額を控除できますが、個別対応方式と一括比例配分方式では、仕入に係る消費税額を課税売上割合によって按分する必要があります。

 課税売上割合は総売上高に占める課税売上高の割合をいい、次の算式により算出します。

 課税売上割合=課税売上高/総売上高=課税売上高/(課税売上高+非課税売上高)

 この課税売上割合が95%以上かつ課税売上高が5億円以下の場合は、仕入税額控除の方法は全額控除となります。
 課税売上割合が95%未満または課税売上高が5億円超の場合は、個別対応方式か一括比例配分方式のどちらかになります。

2.課税売上がない場合の仕入税額控除

 課税売上がない場合の課税売上割合は、上記1の計算式の分子が0円となるため、0%(95%未満)として取り扱われます。
 したがって、仕入税額控除の方法は、個別対応方式か一括比例配分方式のどちらかになります。

 個別対応方式と一括比例配分方式は、仕入に係る消費税額を課税売上割合によって「控除できる税額」と「控除できない税額」に按分する必要があります。

 個別対応方式では、仕入に係る消費税額を次の3つに区分します。

 A:課税売上のみに対応(課税売上対応分)
 B:非課税売上のみに対応(非課税売上対応分)
 C:AとBに共通して対応(共通対応分)

 そのうえで、仕入に係る消費税額のうち控除できる税額(控除対象仕入税額といいます)を次のように計算します。

 控除対象仕入税額=A+C×課税売上割合

 一方、一括比例配分方式では、仕入に係る消費税額を区分する必要はなく、次のように控除対象仕入税額を計算します(一括比例配分方式は、個別対応方式における区分の煩雑さを考慮して区分不要とし、すべての仕入に係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算する簡便的な方法です)。

 控除対象仕入税額=仕入に係る消費税額×課税売上割合

 上記の個別対応方式と一括比例配分方式の控除対象仕入税額の計算式を見比べると、課税売上がない(課税売上割合が0%)場合でも、個別対応方式ではA(課税売上対応分)の税額が控除できることがわかります。
 それに対して、一括比例配分方式では控除対象仕入税額は0となります。

 つまり、課税売上がない(課税売上割合が0%)場合でも、個別対応方式を適用すれば消費税の還付を受けることができます。

3.課税売上がないのに課税売上対応?

 上記2のように、課税売上がない(課税売上割合が0%)場合でも、個別対応方式を適用すれば、仕入に係る消費税額のうち課税売上対応分については還付を受けることができます。

 しかし、ここで疑問が生じます。課税売上がないのに、仕入に係る消費税額を「課税売上対応分」として区分することに問題はないのか?ということです。

 これに関しては、消費税法基本通達11-2-10(課税資産の譲渡等にのみ要するものの意義)において、次のように規定されています(下線は筆者による)。

11-2-10 法30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」という。)とは、課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等をいい、例えば、次に掲げるものの課税仕入れ等がこれに該当する。
 なお、当該課税仕入れ等を行った課税期間において当該課税仕入れ等に対応する課税資産の譲渡等があったかどうかは問わないことに留意する。(令5課消2-9により改正)

(1) そのまま他に譲渡される課税資産
(2) 課税資産の製造用にのみ消費し、又は使用される原材料、容器、包紙、機械及び装置、工具、器具、備品等
(3) 課税資産に係る倉庫料、運送費、広告宣伝費、支払手数料又は支払加工賃等

 上記通達の下線部にあるように、課税売上がない場合でも、仕入に係る消費税額を「課税売上対応分」として区分することに問題はありません。