パート・アルバイトの税制上と社会保険制度上の年収の壁

 年末が近づいてくると、パートやアルバイトで働く人の中には、ある一定の年収を超えないように就業調整をする人が出てきます。
 例えば、年収103万円を超えると配偶者控除や扶養控除の対象から外れるため、労働時間を抑制して103万円というラインを超えないようにします。
 この103万円というラインのことを一般に「年収の壁」と呼びますが、年収の壁は103万円だけではありません。
 以下においては、パートやアルバイトで働く給与所得者を前提として、税制上と社会保険制度上の年収の壁について確認します。

1.100万円の壁(住民税)

 年収の壁としてまず直面するのは、住民税における100万円の壁です。給与収入が年間で100万円を超えると住民税がかかります(兵庫県宝塚市や西宮市の場合)。
 住民税は、所得金額に応じて課税される「所得割と、定額で課税される「均等割」から成りますが、住んでいる地域や家族構成によって住民税が非課税となる所得金額は異なります。
 例えば、宝塚市で均等割が非課税となる所得は、次の算式で算出します。

 35万円×(同一生計配偶者+扶養親族数+本人)+10万円+21万円(同一生計配偶者または扶養親族を有する場合のみ)

 単身の場合は、35万円×1+10万円=45万円が非課税となる所得であり、給与収入に置き換えると100万円(45万円+給与所得控除55万円)となります。
 詳しくは本ブログ記事「住民税非課税世帯とは?」をご参照ください。

2.103万円の壁(所得税)

 年収の壁として広く一般に認識されているのは、所得税における103万円の壁です。
 配偶者控除や扶養控除の対象となるには合計所得金額が48万円以下であることが必要ですが、年収が103万円であれば、給与収入103万円-給与所得控除55万円=48万円となるので、配偶者控除や扶養控除の対象となります。
 また、年収が103万円であれば、給与収入103万円-給与所得控除55万円-基礎控除48万円=0円となるので本人にも所得税はかかりません。

3.106万円の壁(社会保険)

 社会保険制度上の年収の壁として、106万円の壁があります。
 ①従業員が101人以上(2024(令和6)年10月からは51人以上)、②週の労働時間が20時間以上、③月収8.8万円以上(年収106万円以上)、④2か月を超える雇用の見込、⑤学生でない、といった条件を満たす場合は、パートやアルバイト従業員が自ら社会保険被保険者となり社会保険の扶養から外れます(関連記事「従業員51人以上の会社で働くパート・アルバイトの社会保険加入義務(令和6年10月1日~)」)。

4.130万円の壁(社会保険)

 所得税における103万円の壁と同様に広く一般に認識されているのが、社会保険における130万円の壁です。
 130万円の壁とは、社会保険被保険者である給与所得者(例えば夫)が扶養する者(例えば妻)については、夫が負担する社会保険料のみで妻の健康保険料及び国民年金保険料まで賄われるという年収の分岐点のことをいいます。
 従業員が101人以上(2024(令和6)年10月からは51人以上)の企業では106万円、それより規模の小さい企業では130万円が年収の壁となっています(関連記事「年収130万円以上となっても社会保険の扶養のまま働ける?」)。

5.150万円の壁(所得税)

 年収103万円を超えると配偶者控除の対象から外れますが(上記2)、年収150万円以下であれば、配偶者特別控除は満額の38万円が適用されます(ただし、給与所得者の合計所得金額が900万円以下の場合です)。
 年収150万円を超えると、段階的に配偶者特別控除が減っていきます。

6.180万円の壁(社会保険)

 意外と見落とされやすいのが、社会保険における180万円の壁です。
 60歳以上や障がい者の方は、年収130万円ではなく年収180万円までは社会保険の扶養に入ることができます(関連記事「扶養判定における遺族年金の取扱いは所得税と社会保険で異なる!」)。

7.201万円の壁(所得税)

 年収150万円を超えると段階的に配偶者特別控除が減っていきますが(上記5)、年収201万円を超えると配偶者特別控除はゼロとなります。
 201万円の壁とは、配偶者特別控除が適用されるか否かの年収の分岐点のことをいいます。

扶養判定における遺族年金の取扱いは所得税と社会保険で異なる!

 納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合には、その納税者は扶養控除を受けて所得税を節税することができます。
 また、被保険者に社会保険制度上(協会けんぽ)の被扶養者となる人がいる場合には、被保険者だけではなく、その被扶養者についての病気・けが・死亡・出産についても保険給付が行われます。
 所得税法上の控除対象扶養親族の判定には所得基準があり、社会保険制度上の被扶養者の判定には収入基準がありますが、遺族年金の取扱いは両者で異なります。
 以下では、扶養判定の際の遺族年金の取扱いについて確認します。

1.所得税の扶養控除と遺族年金

(1) 控除対象扶養親族となる人の要件

 扶養親族とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡しまたは出国する場合は、その死亡または出国の時)の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人をいいます。

① 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)、または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること
② 納税者と生計を一にしていること
③ 年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
④ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと

 控除対象扶養親族とは、上記の扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が16歳以上の人(一般の控除対象扶養親族といいます)が該当します。

(2) 扶養控除の判定と遺族年金

 控除対象扶養親族に該当する人がいる場合、納税者は扶養控除を受けることができますが、特にお年寄りを扶養している納税者は、所得税の特例を受けることができます。
 例えば、一般の控除対象扶養親族がいる場合は38万円の扶養控除となりますが、老人扶養親族(控除対象扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が70歳以上の方をいいます)がいる場合は48万円の扶養控除となり、さらに同居老親(老人扶養親族のうち、納税者やその配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で、納税者やその配偶者との同居を常としている方をいいます)であれば58万円の扶養控除となります。
 老人扶養親族や同居老親に該当する方の多くは年金を受給されていると思われますが、この年金も含めて合計所得金額が48万円以下でなければなりません。

 では、所得税が非課税とされる遺族年金は、合計所得金額48万円以下の判定にあたって含まれるのでしょうか?
 例えば、遺族厚生年金120万円とパート収入60万円がある同一生計の母(70歳)を扶養控除の対象とすることはできるのでしょうか?

 扶養親族に該当するか否かを判定する場合の合計所得金額には、所得税法やその他の法令の規定によって非課税とされる所得の金額は含まれないことになっています。
 厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金や国民年金法に基づく遺族基礎年金などは非課税所得なので、上記の母の合計所得金額は5万円(給与収入60万円-給与所得控除55万円=給与所得5万円)となり、扶養控除の対象とすることができます(母が他の人の扶養控除の対象になっていないことが前提です)。
 

2.社会保険の被扶養者と遺族年金

(1) 被扶養者となる人の要件

 社会保険(健康保険)の被扶養者に該当する条件は、日本国内に住所(住民票)を有しており、被保険者により主として生計を維持されていること、および次の①と②のいずれにも該当した場合です

① 収入要件
 年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)かつ
 ・同居の場合は収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満
 ・別居の場合は収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満

② 同一世帯の条件
ア.被保険者と同居している必要がない者
 ・配偶者
 ・子、孫および兄弟姉妹
 ・父母、祖父母などの直系尊属
イ.被保険者と同居していることが必要な者
 ・上記ア以外の3親等内の親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者など)
 ・内縁関係の配偶者の父母および子(当該配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む)

※ 協会けんぽ以外の健康保険(健康保険組合など)の被扶養者については、被保険者の勤務先の健康保険組合によって要件が異なります。本記事では、協会けんぽを前提としています。

(2) 被扶養者の判定と遺族年金

 所得税法上は遺族年金は非課税所得であり、扶養控除の判定にあたっても合計所得金額には含まれないことを上記1で確認しました。
 では、社会保険(健康保険)においては、年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)という被扶養者の判定にあたって、遺族年金は収入に含まれるのでしょうか?

 結論を先に述べると、健康保険の被扶養者となる収入要件の判定には、遺族年金も含まれます。
 例えば、遺族厚生年金120万円とパート収入60万円がある同一生計の母(70歳)の場合、合計所得金額が48万円以下ですので所得税では扶養控除の対象となります。
 しかし、遺族年金も合わせた収入合計が180万円ですので年間収入180万円未満という収入要件を満たさず、健康保険では被扶養者の対象にはなりません。

海外転勤者の税金と社会保険

1.国外転出届により国内住所がなくなる

 1年以上の予定で海外転勤となる場合は、居住している自治体に国外転出届を提出します。この届出により国内に住所はなくなりますが、国内に住所がなくなることで、住所を基に課される税金や社会保険の扱いも変わってきます。

※ 国外に居住することとなった者は、国外における在留期間が契約等によりあらかじめ1年未満であることが明らかであると認められる場合を除き、「国外において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する者」として、非居住者として取り扱われます。

2.非居住者の所得税・住民税

 国内に住所がなくなると、所得税法上の納税義務者区分は非居住者となります。
 非居住者は、給与以外の所得がなければ日本での所得税の課税はなく、勤務先国での税法に従った課税となります(駐在期間中の自宅を他人用の賃貸に出すなど、給与以外の日本国内源泉所得がある場合は、日本での確定申告が必要となることもあります)。

 個人住民税は、その年の1月1日時点で市町村(都道府県)に住所がある者に対して課税されます。そのため、住所がなくなった翌年からは、帰国して住所を持つこととなるまで、住民税は課されないことになります。

※ 非居住者(内国法人の役員等一定の者を除きます)の国外勤務に係る給与が、非居住者の国内口座に振り込まれている場合でも、振込額の全額が日本での課税対象とはなりません。日本での課税対象となるものは、非居住者が支払を受ける給与のうち国内勤務に係る給与です。

3.非居住者の社会保険

 赴任前の国内会社から継続して国内払い給与があれば、海外赴任中も各種社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険など)の被保険者資格は継続となります
 厚生年金につき、赴任先国と日本との間で年金協定があれば、2つの国での二重払いを回避できます。

 健康保険が継続していると、海外赴任中に急な病気やけがなどによりやむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合に、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる海外療養費制度が使えます。

 一方、雇用主が駐在先の現地法人となる場合には、現在の日本での被保険者資格を喪失することになります。その場合は厚生年金から国民年金への切り替えや健康保険の任意継続などの手続きが必要となります。

 国民年金は、日本国籍者であれば、海外居住でも任意加入できます。国民年金に任意加入する目的としては、年金をもらう条件として必要な加入期間を充足させることと将来もらえる年金額を減らさないためなどです。
 なお、海外在住者に国民健康保険の任意加入制度はありません。

※ 健康保険および厚生年金保険は、適用事業所に勤務する限り、国内における住所の有無を問わず加入します。なお、社会保障協定を結んでいる国で働く場合、外国の社会保障制度の加入が免除される場合があります。

猶予措置は電子取引データ保存の最後の手段!

 電子取引データの保存要件が緩和されたとはいえ、対応に四苦八苦している事業者や既にあきらめている事業者の方もいます。そのような方には、究極の緩和策である猶予措置の適用をお勧めします。
 今回は、FM宝塚「インボイス制度ってな~に?パート2」の最終回で本日の8:15からオンエアした内容を、Q&A形式でお伝えします。

※ 番組の概要については、本ブログ記事「FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします」をご参照ください。

1.どうしても対応できない場合は猶予措置

Q.前回の放送で、税務職員のダウンロードの求めに応じることができて2年前の売上高が5,000万円以下の事業者などは、検索機能を確保しなくてもいいという話がありました。その場合でも、保存要件に従った電子データの保存が必要ということでしたが、どうしても対応できないという声もあります。そんな場合はどうしたらいいでしょうか?

A.2023(令和5)年度の改正で猶予措置が設けられ、この猶予措置の要件に該当する場合は保存要件を満たさなくてもよく、電子データを単に保存しておくことができるとされました。

Q.猶予措置の要件とは?

A.次の2つのいずれにも該当することが必要です。

(1) 保存要件を満たせなかったことについて、所轄税務署⻑が「相当の理由」があると認める場合

(2) 税務調査の際に、電子データのダウンロードの求め及びその電子データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合

この2つの要件を満たせば、2024(令和6)年1月1日以降も電子データを印刷して紙で保存することができますので、対応に困っている事業者の方は猶予措置の適用を検討してみてください。

2.猶予措置における「相当の理由」とは?

Q.猶予措置は検討する価値があると思いますが、「相当の理由」の内容が気になります。どんな場合に「相当の理由」があると認められるのでしょうか?

A.この「相当の理由」については、電子帳簿保存法取扱通達7-12に記載されています。要約しますと、例えば、保存要件に適合したシステムの導入や社内でのワークフローの整備が間に合わない場合などは相当の理由があると認められます。また、資金繰りや人手不足等も相当の理由として認められるようです。

Q.「準備が間に合わない」とか「資金や人手が足りない」など、自己の責任だと思われるような理由でも認められるのですね?

A.そうですね。ただし、単に経営者の信条のみに基づく理由である場合は認められません。例えば、電子データは一瞬で失われる可能性があるので、我が社では電子データを紙で保存することを信条としている、といった場合です。

Q.相当の理由について、税務署への事前の申請は必要ですか?

A.事前申請は必要ありません。仮に税務調査の際に、相当の理由について税務職員から確認があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを具体的に説明すれば差し支えないとされています。

Q.電子帳簿保存法は令和4年1月1日から始まっていますが、令和5年12月31日までの2年間に限り、電子データを紙で保存してもいいとされています。今回の改正で設けられた猶予措置にも期限はありますか?

A.期限はありません。猶予措置は経過措置ではなく本則として規定された恒久的措置ですので、猶予措置が適用される限り、電子データを紙で保存することができます。

3.紙保存に加えてデータの保存も必要

Q.猶予措置を適用している間は紙保存ができるということですが、電子データを保存しなくてもいいということになりますか?

A.いいえ。この点については誤解する事業者の方もいるかもしれませんので念を押しておきますと、先ほど言いましたように、猶予措置には「電子データのダウンロードの求めに応じることができる」という要件があります。ダウンロードの求めに応じるためには、電子データの保存が必要になります。つまり、電子帳簿保存法が定める保存要件に従った保存は不要ですが、電子データを保存しなくてもいいということではありません。

Q.ということは、猶予措置を適用する場合でも、紙保存に加えて電子データの保存も必要ということですね。でも、保存要件を満たす必要がなくなるだけでだいぶん負担が減りますね。

A.そうですね。これまでの紙保存と何が変わるかといえば、電子データをとりあえず保存するだけですからね。この猶予措置ができたことによって電子帳簿保存法が骨抜きにされたという意見もありますが、対応に困っていた事業者の方は助かると思います。

電子取引データ保存の具体的な対応方法

 2024(令和6)年1月1日から、すべての事業者は電子取引を電子データのまま保存しなければなりませんが、単に保存するのではなく保存要件に従った保存をしなければなりません。
 今回は、FM宝塚「インボイス制度ってな~に?パート2」で本日の8:15からオンエアした内容を、Q&A形式でお伝えします。

※ 番組の概要については、本ブログ記事「FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします」をご参照ください。

1.保存要件―真実性の確保

Q.保存要件とは?

A.電子データの保存要件には、真実性の確保と可視性の確保があります。真実性の確保とは「保存されたデータが改ざんされていないこと」をいい、可視性の確保とは「保存されたデータを検索・表示できること」をいいます。

Q.真実性を確保するためには、どのような方法がありますか?

A.真実性確保(改ざん防止)のためには、3つの方法があります。1つ目は「電子データにタイムスタンプを付与する方法」、2つ目は「訂正・削除の履歴を確認できるシステム又は訂正・削除を行うことができないシステムで保存を行う方法」、3つ目が「改ざん防止に関する事務処理規程に沿った運用を行う方法」です。

Q.タイムスタンプとは何でしょうか?

A.例えば、書類を社内で回覧する場合のような紙での手続きでは、正式に処理された証として印鑑が利用されてきましたが、その印鑑に代わって電子データに付与されるものがタイムスタンプです。

Q.タイムスタンプは誰でも付与できますか?

A.タイムスタンプは保存されたデータの正当性を裏付けるものとなりますので、事業者が勝手に付与することはできません。第三者機関である「時刻認証局」を通じてタイムスタンプを付与する仕組みとなっています。そのため、タイムスタンプを付与するためには、新たなシステムの導入が必要です。

Q.2つ目の「訂正・削除の履歴を確認できるシステム又は訂正・削除を行うことができないシステムで保存を行う方法」もタイムスタンプが必要ですか?

A.こちらについてはタイムスタンプは不要ですが、そもそもこのような要件を満たしたシステムの導入が必要です。

Q.ということは、改ざん防止策の1つ目と2つ目の方法は新たなシステムの導入が必要になりますので、導入コストやランニングコストなどを考えると、中小企業や個人事業主には対応し難い面がありますね。

A.その通りです。そこでお勧めしたいのが3つ目の「改ざん防止に関する事務処理規程に沿った運用を行う方法」です。この方法でしたら現状のシステムで対応可能ですので、新たなコストもかかりません。ただし、改ざん等の不正をどうすれば防止できるのかについて社内で検討し、事務処理規程を作成する必要があります。

Q.事務処理規程の作成は難しそうなので、専門家に依頼した方がいいですか?

A.いいえ。国税庁ホームページに法人用と個人用のひな型が用意されていますので、それを自社用にアレンジすることで容易に作成できます

※ 事務処理規程の作成については、本ブログ記事「事務処理規程の書き方と記載例:電子取引データ保存」をご参照ください。

2.保存要件―可視性の確保

Q.もう1つの保存要件である可視性を確保するためには、どうすればいいですか?

A.可視性を確保するためには、概ね2点の対応が必要です。1点目はパソコンやディスプレイ、プリンタを設置し、これらの操作マニュアルと概要書を備え付けて、データを画面上や書面で確認できるようにしておくことです。

Q.パソコン等の周辺に説明書を置いておくだけで簡単に対応できそうですね。もう1点の対応とは何ですか?

A.保存したデータの検索機能を確保することです。この検索機能の確保には3つの要件がありすべてを満たす必要があったのですが、令和5年度の改正で大幅に緩和されました。

Q.どのように緩和されたのですか?

A.詳細な説明は省略して結論だけを言いますと、税務調査の際に税務職員によるダウンロードの求めに応じることができて2年前の売上高が5,000万円以下の場合は、検索機能の確保自体が不要(つまり3つの要件すべてが不要)とされました。さらにダウンロードの求めに応じることを前提に、整然かつ明瞭な状態で印刷され日付と取引先ごとに整理された書面を提示・提出できる場合も検索機能の確保が不要となりました。

Q.要件を満たせば検索機能の確保が不要になるということですが、ダウンロードの求めには応じないといけないのですね。ということは、電子データの保存は必要ということですね?

A.その通りです。あくまでも可視性の要件の1つである検索機能の確保が不要となるだけであって、真実性と可視性が確保された状態で電子データを保存しなければなりません。具体的には、事務処理規程を作成・運用して真実性を確保し、パソコン等の周辺に説明書を置いて可視性を確保します。

電子帳簿保存法の猶予措置における「相当の理由」とは?

1.宥恕措置は令和5年12月31日までの経過措置

 電子帳簿保存法とは、これまで紙で保存していた帳簿や決算書、請求書などの国税関係帳簿・書類を電子データで保存するための要件を定めた法律で、電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引データ保存の3つに区分されています。

 2022(令和4)年1月1日施行の改正電子帳簿保存法では、電子帳簿等保存とスキャナ保存への対応は任意とされていますが、電子取引データ保存への対応は義務化されています。
 そのため、2022(令和4)年1月1日からは、電子取引データは電子データのまま保存しなければなりませんが、単に保存するのではなく一定の要件(真実性・可視性)に従った保存をする必要があります。

 しかし、電子データを保存するときに満たすべき一定の要件への対応が困難な事業者の実情に配意して、2022(令和4)年1月1日以降も紙による保存を可能とする宥恕措置が講じられましたが、この宥恕措置も適用期限である2023(令和5)年12月31日の到来をもって廃止されます。

2.猶予措置は恒久的措置

 宥恕措置により、電子取引データ保存への対応準備期間が設けられましたが、事業者の対応が進んでいないことから、2023(令和5)年度税制改正で猶予措置が講じられ、以下の(1)(2)をいずれも満たしている場合には、真実性や可視性など保存時に満たすべき一定の要件に沿った対応は不要となり、電子データを単に保存しておくことができることとされました。

(1) 保存時に満たすべき要件に従って電子データを保存することができなかったことについて、所轄税務署⻑が相当の理由があると認める場合(事前申請等は不要)
(2) 税務調査等の際に、電子データの「ダウンロードの求め」及びその電子データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合

 したがって、この猶予措置により、上記の(1)(2)を満たせば2024(令和6)年1月1日以降も電子データの紙保存が認められることになります。
 ただし、猶予措置の適用を受ける場合には、上記(2)のとおり、電子データ自体を保存するとともに、その電子データ及び出力書面について提示又は提出をすることができる必要があることに留意しなければなりません。
 なお、宥恕措置は2年間の経過措置でしたが、猶予措置は本則として規定された恒久的措置ですので、猶予措置の適用を受けることができる限り、電子データの紙保存がいつまでも認められることになります。

3.猶予措置における「相当の理由」の意義

 猶予措置により、保存要件に従った保存ができない「相当の理由」があれば、保存要件を満たさなくても法律違反とみなされないこととなりました。
 この「相当の理由」については、電子帳簿保存法取扱通達7-12に次のように記載されています。

(猶予措置における「相当の理由」の意義)
7-12 規則第4条第3項((電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に関する猶予措置等))に規定する「相当の理由」とは、事業者の実情に応じて判断するものであるが、例えば、システム等や社内でのワークフローの整備が間に合わない場合等がこれに該当する。


 また、国税庁「電子帳簿保存法一問一答」問61の回答で次のように記載されています。

 令和5年度の税制改正において創設された新たな猶予措置の「相当の理由」とは、例えば、その電磁的記録そのものの保存は可能であるものの、保存時に満たすべき要件に従って保存するためのシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わない等といった、自己の責めに帰さないとは言い難いような事情も含め、要件に従って電磁的記録の保存を行うための環境が整っていない事情がある場合については、この猶予措置における「相当の理由」があると認められ、保存時に満たすべき要件に従って保存できる環境が整うまでは、そうした保存時に満たすべき要件が不要となります。
 ただし、システム等や社内のワークフローの整備が整っており、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存時に満たすべき要件に従って保存できるにもかかわらず、資金繰りや人手不足等の理由がなく、そうした要件に従って電磁的記録を保存していない場合には、この猶予措置の適用は受けられないことになります(取扱通達7-12)。

 これらの記載から、システム等や社内のワークフローの整備が間に合わない場合だけではなく、資金繰りや人手不足等も相当の理由として認められるようです。

 なお、この猶予措置の適用にあたっては、保存時に満たすべき要件に従って保存をすることができなかったことに関する相当の理由を確認される場合がありますが、仮に税務調査等の際に、税務職員から確認等があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを具体的に説明すれば差し支えないとされています。



電子帳簿保存法のよくある誤解

 インボイスの次に待ち受けているのは、電子帳簿保存法への対応です。何もかも対応しなければならないと誤解している事業者の方も多いのですが、電子帳簿保存法のことを理解すればその誤解も解けます。
 今回は、FM宝塚「インボイス制度ってな~に?パート2」で本日の8:15からオンエアした内容を、Q&A形式でお伝えします。

※ 番組の概要については、本ブログ記事「FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします」をご参照ください。

1.電子帳簿保存法とは?

Q.電子帳簿保存法とは?

A.電子帳簿保存法とは、これまで紙で保存していた帳簿や決算書、請求書などの国税関係帳簿・書類を電子データで保存するための要件を定めた法律です。

Q.紙の保存から電子データの保存に変わるということですね。いつから始まるのですか?

A.実は2022(令和4)年1月1日からすでに始まっているのですが、事業者の準備が進んでいない状況を考慮して、2024(令和6)年1月1日からの対応でもいいということになっています(宥恕措置)。

Q.対象となるのはどのような事業者ですか?

A.法人・個人や規模の大小にかかわらず、すべての事業者が対象となります。

2.スキャンして保存?

Q.紙の保存から電子データの保存に変わるということは、紙で受け取った請求書や領収書をスキャンして電子データで保存しなければならないということですか?

A.これは事業者の皆さんからよく聞かれる質問であり、多くの方が誤解しているところでもあります。電子帳簿保存法が最終的に目指すのは、スキャンして保存ということになりますが、現時点ではそこまで求められていません。

Q.電子帳簿保存法なのに電子データで保存しなくてもいい?

A.電子帳簿保存法というのは1つの法律ですが、その内容は3つの部分に分かれています。1つ目が「電子帳簿等保存」、2つ目が「スキャナ保存」、3つ目が「電子取引データ保存」です。これらのうち、1つ目の電子帳簿等保存と2つ目のスキャナ保存については、対応するかどうかは事業者の任意とされています。

Q.任意ということは、対応できる事業者や利用したい事業者だけが対応すればいいということですね?

A.そうです。先ほどの紙で受け取った領収書などをスキャンして保存するのは、任意とされている「スキャナ保存」に該当しますので、現時点では必ずしも対応する必要はありません。これまで通り紙で保存していただいて結構です。また、「電子帳簿等保存」への対応には会計ソフトの導入が必要ですが、これも対応は任意とされています。すべてが電子化されるわけではありません。

Q.ということは、今回対応しなければならないのは、3つ目の「電子取引データ保存」ですか?

A.はい。現時点で義務化されているのは3つ目の電子取引データ保存だけであり、あとの2つは任意とされていますので、来年1月1日からすべての事業者が対応しなければならないのは、「電子取引データ保存」です。

3.電子取引とは?

Q.「電子取引データ保存」の「電子取引」という言葉が抽象的であまりイメージできません。具体的にはどのようなものが「電子取引」に該当しますか?

A.「電子取引データ保存」とは、「電子取引」を紙ではなくデータで保存することをいいますが、言葉が抽象的過ぎて何が電子取引に該当するのかわかりにくいという声が多いです。
 具体的には、次のようなものが電子取引に該当します。
㋑電子メールで送受信する請求書や領収書などのPDF
㋺インターネット上のホームページやショッピングサイト(amazon、楽天)でダウンロードした請求書や領収書などのPDF
㋩インターネット上で表示される請求書や領収書などのスクリーンショット
㋥クラウドサービス(楽々明細、Misoca)を利用した電子請求書や電子領収書の授受
㋭クレジットカード(JCB、三井住友カード)の利用明細データ
㋬交通系ICカード(ICOCA、Suica)による支払データ
㋣スマートフォンアプリ(PayPay、LINEPay)による決済データ等の受領・・・など

Q.これらの電子取引を紙ではなく電子データのまま保存するということですね。PDFやスクリーンショットを撮ってパソコンに保存しておけばいいですか?

A.単にPDFやスクリーンショットをパソコンに残すだけではダメで、一定の要件に従った保存をしなければなりません。これについては、次回放送でお話しします。

※ 一定の要件については、本ブログ記事「事務処理規程と検索機能が実務対応の鍵:電子取引データ保存」をご参照ください。

日払い給料と即日払い給料について

1.日払い給料と即日払い給料の違い

 最低賃金額の改定により、給料水準を見直す機会が多くなりますが、特に大きな影響を受けるのは、時給計算が主流となるパート・アルバイト等の非正規雇用者の給料です※1
 また、昨今の人手不足の影響もあり、自社への応募が増えるように他社との差別化を図るため、各企業は給料水準を引き上げることの他、給料の支払い方法を柔軟にするなどの見直しをするようになりました。その代表例が「日払い給料」と「即日払い給料」です。
 ところで「日払い給料」と「即日払い給料」の違いは何でしょうか?
 「日払い給料」とは給料計算の締めが1日単位である支払い方法をいいますが、必ずしも働いたその日に給料を支払う必要はありません
 これに対して日払い給料の一形態である「即日払い給料」は、働いたその日に当日分の給料を支払う必要があります
 働いたその日に給料を支払う必要があるかどうかという点において両者は異なりますが、いずれにせよ日払い給料と即日払い給料は、月払い給料に比べて事務処理負担が増える傾向にあります※2

※1 令和5年度の最低賃金額の改定については、本ブログ記事「令和5年度地域別最低賃金が10月1日~中旬にかけて引き上げられます」をご参照ください。

※2 月給制、日給制、日雇労働制の源泉徴収については、本ブログ記事「源泉徴収税額表の『月額表』『日額表』の使い方と『甲欄』『乙欄』『丙欄』」をご参照ください。

2.即日払い給料の注意点

 即日払い給料は働いた当日にその支払いをする必要があるため、基本的には現金払いとなります。そのため、パート・アルバイト等の人から領収証への捺印をしてもらうなど、給料を受取ったことの確認が必要になります。もし、これらの人が印鑑を忘れた場合などは、その場での給料の支払いはできないことを事前に伝えておくことが重要です。
 また、その場合の給料の支払い方法(後日に振り込むなど)によって、例えば郵送等で領収証等のやり取りが行われる場合には、郵便代等の諸経費をどちらが負担するかの取り決めも予めしておくことが必要です。
 さらに、交通費の取扱いについても注意が必要です。仮に交通費を支給しない場合には、パート・アルバイト等の人たちは即日払いの給料から交通費を負担することになるため、当初の想定より低い手取りとなる場合があります。交通費の支給の有無も併せて事前に伝えておくことが重要です。
 このように「即日払い給料」の支払いには、月払いとは異なる事務処理負担が企業にかかることがあります。

永年勤続表彰金は社会保険・労働保険・所得税の対象となるか?

1.社会保険の報酬に含まれるか?

 2023(令和5)年6月27日に改正された「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」に、永年勤続表彰金について以下の問答が追加されました。

問3 事業主が長期勤続者に対して支給する金銭、金券又は記念品等(以下「永年勤続表彰金」という。)は、「報酬等」に含まれるか。

(答) 永年勤続表彰金については、企業により様々な形態で支給されるため、その取扱いについては、名称等で判断するのではなく、その内容に基づき判断を行う必要があるが、少なくとも以下の要件を全て満たすような支給形態であれば、恩恵的に支給されるものとして、原則として「報酬等」に該当しない。
 ただし、当該要件を一つでも満たさないことをもって、直ちに「報酬等」と判断するのではなく、事業所に対し、当該永年勤続表彰金の性質について十分確認した上で、総合的に判断すること。
≪永年勤続表彰金における判断要件≫
① 表彰の目的
 企業の福利厚生施策又は長期勤続の奨励策として実施するもの。なお、支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合は、より福利厚生としての側面が強いと判断される。
② 表彰の基準
 勤続年数のみを要件として一律に支給されるもの。
③ 支給の形態
 社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えていないものであって、表彰の間隔が概ね5年以上のもの。


 この問答に示されているように、上記「永年勤続表彰金における判断要件」①②③を満たす永年勤続表彰金は原則として「報酬等」に該当せず、社会保険の対象とはなりません。

2.労働保険の賃金に含まれるか?

 労働保険における賃金総額とは、事業主がその事業に使用する労働者(年度途中の退職者を含みます)に対して賃金、手当、賞与、その他名称のいかんを問わず労働の対償として支払うすべてのもので、税金その他社会保険料等を控除する前の支払総額をいいます。
 永年勤続表彰金の労働保険における取扱いは、「行政手引50502(2)賃金と解されないものの例」に次のように記載されています。

ヌ 勤続褒賞金
 勤続年数に応じて支給される 勤続褒賞金は、一般的には、賃金とは認められない。


 したがって、永年勤続表彰金は一般的には「賃金」に該当せず、労働保険の対象とはなりません。

3.所得税における給与となるか?

 永年勤続表彰金の所得税における取扱いは、「国税庁タックスアンサーNo.2591創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき」によると、次に掲げる要件をすべて満たしていれば、給与として課税しなくてもよいことになっています。

(1) 創業記念などの記念品の場合
① 支給する記念品が社会一般的にみて記念品としてふさわしいものであること。
② 記念品の処分見込価額による評価額が10,000円(消費税および地方消費税の額を除きます。)以下であること。
③ 創業記念のように一定期間ごとに行う行事で支給をするものは、おおむね5年以上の間隔で支給するものであること。

(2) 永年勤続者に支給する記念品や旅行や観劇への招待費用の場合
① その人の勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること。
② 勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること。
③ 同じ人を2回以上表彰する場合には、前に表彰したときからおおむね5年以上の間隔があいていること。

 なお、記念品の支給や旅行や観劇への招待費用の負担に代えて現金、商品券などを支給する場合には、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。
 また、本人が自由に記念品を選択できる場合にも、その記念品の価額が給与として課税されます。

ふるさと納税の一足早い駆け込み需要

 例年であれば、年末に集中するふるさと納税ですが、今年(2023(令和5)年)は9月中に駆け込みでふるさと納税をする人が増えているようです。その背景には、総務省が今年の6月に行ったふるさと納税の自治体側のルールの見直しが影響しているものと思われます。
 今回は、ふるさと納税についてどのような改正があったのかを確認します。

1.自治体側のルール改正

 ふるさと納税をしようとする人は、ふるさと納税ポータルサイトなどでその年の自分の所得に応じた「ふるさと納税限度額」を確認した上で、ふるさと納税をしています。
 今回総務省が見直しを行ったのは、ふるさと納税をする寄附側のルールではなく、寄附を募る自治体側のルールです。

 これまでもふるさと納税を受ける自治体側には、「返礼品は寄附額の3割以内でなければならない」とか「地場産品でなければならない」などの他に、「返礼品を含む必要経費は寄附額の5割以下」というルールがありました。
 このルールは、ふるさと納税の過度な返礼品競争を防ぐため、返礼品の調達費用や送料など、自治体が寄附を募る経費の総額を寄附額の5割以下とする基準です。

 ところが、総務省によると、寄附を受領したことを示す書類の発送費用などを含めると5割を超えるケースが相次いで確認されたことから、今回の改正(基準の厳格化)に至りました。
 改正内容は次のとおりで、2023(令和5)年10月1日から2024(令和6)年9月30日まで適用されます。

(1) 募集に要する費用について、ワンストップ特例事務や寄附金受領証の発行などの付随費用も含めて寄付金額の5割以下とする(募集適正基準の改正)
(2) 加工品のうち熟成肉と精米について、原材料がふるさと納税の対象となる地方団体と同一の都道府県産であるものに限り、返礼品として認める(地場産品基準の改正)

※ 熟成肉などを返礼品としていながら、原料は別の都道府県から仕入れ、その自治体で熟成させたケースなどがあったため、熟成肉と精米については原材料がその都道府県で生産されたものに限るとしています。

2.返礼品の実質的な値上げ

 上記1.(1)の改正により、返礼品だけではなく、送料、書類代、送付の人件費や広告宣伝費なども含めて寄付額の5割以下にするには、寄附額に占める返礼品の割合を下げたり、寄附額を引き上げるなどの方策が考えられますが、いずれにしても返礼品の実質的な値上げと言えそうです。
 このような事情を背景に、9月中にふるさと納税をしようとする人が増えたため、一足早い駆け込み需要につながっているものと思われます。