繰延資産の任意償却はいつまで可能か?

 繰延資産の償却方法に任意償却という方法があります。法人でも個人でもこの任意償却により繰延資産を償却することができますが、すべての繰延資産に任意償却が適用できるわけではありません。
 また、任意償却による場合に何年以内に償却をしなければならないか、償却期間の途中で均等償却から任意償却に変更できるのか、ということも気になります。
 今回は、任意償却のこれらの点について確認します。

1.会計上の繰延資産と税法上の繰延資産

 繰延資産とは、支出した費用でその支出の効果が1年以上に及ぶものをいいます。
 繰延資産には、旧商法上の繰延資産(以下「会計上の繰延資産」といいます)と法人税法施行令14条6号資産(以下「税法上の繰延資産」といいます)があります。
 また、所得税法施行令7条にも会計上の繰延資産と税法上の繰延資産が例示されています。
 法人税と所得税で異なるのは、所得税における会計上の繰延資産には、法人に関するもの(創立費、株式交付費、社債等発行費)がない点です。

 法人税法における会計上の繰延資産と税法上の繰延資産の範囲は、以下のとおりです。

法人税法上の繰延資産 会計上の繰延資産 創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債等発行費

税法上の繰延資産

(長期前払費用等)

施設の負担金 公共的施設(道路、堤防、護岸など)
共同的施設(会館、アーケードなど)
資産賃借のための権利金等 建物賃借のための権利金
電子計算機等の賃借に伴う費用
役務の提供を受けるための権利金等 ノウハウの頭金
広告宣伝用資産の贈与費用 看板、ネオン、どん帳など
その他 同業者団体の加入金など

 所得税法における会計上の繰延資産と税法上の繰延資産の範囲は、以下のとおりです。

所得税法上の繰延資産 会計上の繰延資産 開業費、開発費

税法上の繰延資産

(長期前払費用等)

施設の負担金 公共的施設(道路、堤防、護岸など)
共同的施設(会館、アーケードなど)
資産賃借のための権利金等 建物賃借のための権利金
電子計算機等の賃借に伴う費用
役務の提供を受けるための権利金等 ノウハウの頭金
広告宣伝用資産の贈与費用 看板、ネオン、どん帳など
その他 同業者団体の加入金など

2.会計上の繰延資産は任意償却が可能

 繰延資産は、収益との対応関係を考慮して、その支出した費用を原則として償却を通じてその効果の及ぶ期間ににわたって費用配分します。
 ただし、会計上の繰延資産については、均等償却だけではなく任意償却の方法によることもできます。
 任意償却とは、繰延資産の額の範囲内の金額を償却費として認めるもので、その下限が設けられていないことから、支出した年に全額償却してもよく、全く償却しなくてもよいという方法です。
 例えば、開業費(開業準備のために支出した広告宣伝費など)の償却期間は5年とされていますので、その支出した費用を原則として60か月で均等償却(月割償却)することになります。
 一方、任意償却の場合は、その支出した費用を支出した年に全額償却(一時償却)してもよく、全く償却しない(償却額0円)こともできます。
 利益が出ているのなら全額償却することも可能ですし、また、利益が出ていないのであれば、利益が出るまで償却しないことも可能です。

3.任意償却に償却期間の制限はあるか?

 ここで気になるのが、任意償却の場合、何年以内に償却をしなければならないかということです。
 例えば、開業費を均等償却する場合は、その償却期間は5年とされていますが、任意償却による場合も5年以内に償却しなければならないのでしょうか?
 結論を先に述べると、任意償却が可能な会計上の繰延資産の未償却残高は、いつでも償却費として損金算入または必要経費に算入することができます。
 繰延資産となる費用(例えば開業費)を支出した後5年を経過した場合に、償却費を損金算入または必要経費に算入できないとする特段の規定はないことから、繰延資産の未償却残高はいつでも償却費として損金算入または必要経費に算入することができます。
 つまり、何年以内に償却しなければならないというような償却期間の制限はなく、償却期間経過後であっても未償却残高がなくなるまで任意償却することができます。
 なお、会計上の繰延資産(例えば開業費)については、支出した年において5年間で均等償却する方法を選択した場合でも、2年目以降にその未償却残高を任意償却することができます。

「不動産の使用料等の支払調書」に定額の水道代・電気代は含まれるか?

1.支払調書の提出範囲

 「不動産の使用料等の支払調書」は、法人や不動産業者である個人(主として建物の賃貸借の代理や仲介を目的とする事業を営んでいる個人を除く)が、同一人に対して支払った家賃等でその年中の支払金額の合計が15万円を超えるものについては、税務署に提出しなければなりません。
 ただし、法人(人格のない社団等を含みます)に支払う不動産の使用料等については、賃借料を除く権利金、更新料等が対象となります。
 したがって、法人に対して家賃や賃借料のみを支払っている場合は、支払調書の提出は必要ありません。
 不動産の使用料等については下記2で述べますが、事務所や店舗等を賃借する場合に支払う家賃が一般的なケースだと思われます。
 この場合、例えば、法人が個人に対して毎月5万円の家賃を12か月支払った場合は、支払金額の合計が15万円を超えるので支払調書の提出が必要です。
 一方、法人が法人に対して毎月5万円の家賃を12か月支払って支払金額の合計が15万円を超えたとしても、支払調書の提出は必要ありません。

2.不動産の使用料等とは?

 不動産の使用料等とは、具体的には次のようなものをいいます。

(1) 土地、建物の賃借料
(2) 広告等のための塀や壁面等のように土地、建物の一部を使用する場合の賃借料
(3) 催物の会場を賃借する場合などの一時的な賃借料、陳列ケースの賃借料
(4) 地上権、地役権の設定あるいは不動産の賃借に伴って支払われるいわゆる権利金返還を要しないこととなる保証金、敷金等を含みます)、礼金
(5) 契約期間の満了に伴い、または借地の上にある建物の増改築に伴って支払われるいわゆる更新料、承諾料
(6) 借地権や借家権を譲り受けた場合に地主や家主に支払われるいわゆる名義書換料 

3.定額の水道代・電気代は含まれるか?

 不動産の使用料等は上記のようなものが該当しますが、賃貸借契約書で次のように定められている場合は、不動産の使用料をいくらと考えればいいでしょうか?

・賃料 月額50,000円 ・水道代 月額3,000円 ・電気代 月額5,000円

 この賃貸借契約書では、毎月の賃料(家賃)50,000円以外に、水道代と電気代も毎月3,000円と5,000円を支払うことになっています。つまり、実際の使用量にかかわらず、水道代と電気代は賃料と同様に毎月定額を支払うことになります。
 このような場合、支払調書における不動産の使用料の金額は、賃料50,000円だけでいいのか、賃料に水道代と電気代を含めた58,000円(50,000円+3,000円+5,000円=58,000円)とするのか迷います。
 結論は、毎月定額を支払う水道代・電気代も含めた58,000円を不動産の使用料の金額とします。
 名目は水道代・電気代となっていても、実際の使用量にかかわらず定額を支払うのであれば、実質的に賃料(家賃)といえるからです。

不動産等の譲受けの対価の支払調書の書き方-土地建物の内訳が不明の場合

 例えば、不動産売買業を営む法人が個人の顧客から土地付建物を購入した場合、その金額が100万円を超えるときは「不動産等の譲受けの対価の支払調書」(以下「支払調書」といいます)を税務署に提出しなければなりません。
 この支払調書の書き方は、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」に記載されています。しかし、土地のみを購入した場合の記載例はあるものの、土地付建物を購入した場合の記載例はありません。
 以下では、土地建物を一括購入した場合の支払調書の書き方を確認します。

1.支払調書の提出義務者

 支払調書を提出しなければならないのは、譲り受けた不動産、不動産の上に存する権利、総トン数20トン以上の船舶、航空機の対価の支払をする法人と不動産業者である個人です。
 ただし、不動産業者である個人のうち、主として建物の賃貸借の代理や仲介を目的とする事業を営んでいる方は、提出義務がありません。
 支払調書の提出範囲は、同一人に対するその年中の支払金額の合計が100万円を超えるものです。
 この100万円には、消費税および地方消費税の額を含めて判断しますが、消費税および地方消費税の額が明確に区分されている場合には、その額を含めないで判断しても差し支えありません。
 なお、不動産等の譲受けには、売買のほか、交換、競売、公売、収用、現物出資等による取得も含まれます。

2.支払調書の記載要領と記載例

 支払調書の各欄の書き方は、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」に次のように記載されています。

記載欄名 記載すべき事項
① 支払を受ける者  支払調書を作成する日の現況における不動産等の譲渡者の住所(居所)、本店又は主たる事務所の所在地、氏名(個人名)又は名称(法人名など)を契約書等で確認して記載してください。
 また、【個人番号又は法人番号】欄には、支払を受ける者のマイナンバー又は法人番号を記載してください(マイナンバーを記載する場合は、左端を空白にし、右詰で記載してください)。

(注)支払を受ける者等に支払調書の写しを交付する場合には、マイナンバーを記載して交付することはできませんので、ご注意ください。
② 物件の種類  その譲り受けた不動産等の種類に応じ、土地、借地権、建物、船舶、航空機のように記載してください。
③ 物件の所在地  その譲受けの対価の支払の基礎となった物件の所在地を記載してください。
 この場合、船舶又は航空機については、船籍又は航空機の登録をした機関の所在地を記載してください。
④ 細目  土地の地目(宅地、田畑、山林等)、建物の構造、用途等を記載してください。
⑤ 数量  土地の面積、建物の戸数、建物の延べ面積等を記載してください。
⑥ 取得年月日  不動産等の所有権、その他の財産権の移転のあった年月日を記載してください。
⑦ 支払金額  その年中に支払の確定した金額(未払の金額を含む)を記載してください。
 なお、不動産等の移転に伴い、各種の損失の補償金(次の⑧(摘要)の(4)参照)を支払った場合には、「物件の所在地」欄の最初の行に「支払総額」と記載した上、これらの損失の補償金を含めた支払総額を記載してください(記載例2 を参照)。
⑧(摘要) (1) 譲受けの態様(売買、競売、公売、交換、収用、現物出資等の別)を記載してください。
(2) 譲受けの態様が売買である場合には、その代金の支払年月日、支払年月日ごとの支払方法(現金、小切手、手形等の別)及び支払金額を記載してください。
(3) 譲受けの態様が交換である場合には、相手方に交付した資産の種類、所在地、数量等その資産の内容を記載してください。
(4) 不動産等の譲受けの対価のほかに支払われる補償金については、次の区分による補償金の種類と金額を記載してください。
・建物等移転費用補償金
・動産移転費用補償金
・立木移転費用補償金
・仮住居費用補償金
・土地建物等使用補償金
・収益補償金
・経費補償金
・残地等工事費補償金
・その他の補償金
(5) 不動産等の譲受けに当たってその年中にあっせん手数料を支払った方が、「不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書」の作成・提出を省略する場合には、「あっせんをした者」欄にあっせんをした方の住所(居所)、本店又は主たる事務所の所在地、氏名又は名称、マイナンバー又は法人番号、あっせん手数料の「支払確定年月日」、「支払金額」を記載してください(マイナンバーを記載する場合は、左端を空白にし、右詰で記載してください)。

(注)支払を受ける者等に支払調書の写しを交付する場合には、マイナンバーを記載して交付することはできませんので、ご注意ください。
⑨ 支払者  不動産等の譲受けの対価を支払った方の住所(居所)又は所在地、氏名又は名称、電話番号及びマイナンバー又は法人番号を記載してください(マイナンバーを記載する場合は、左端を空白にし、右詰で記載してください)。

(注)支払を受ける者等に支払調書の写しを交付する場合には、マイナンバーを記載して交付することはできませんので、ご注意ください。

 また、以下2つのケースについて、記載例が掲載されています。

出所:国税庁ホームページ

 記載例1と記載例2は、いずれも土地を購入した場合のものであって、土地付建物を購入した場合(土地と建物を一括購入した場合)の記載例は掲載されていません。
 しかし、不動産販売業を営む法人にとって、土地付建物を購入するケースは頻繁に起こります。
 以下において、土地付建物を購入した場合の支払調書の記載例を確認します。

3.土地付建物を購入した場合の支払調書の記載例

(1) 土地と建物の対価の内訳がわかる場合

 土地付建物を購入した場合の支払金額が、売買契約書で土地と建物に分かれている場合は、それぞれの金額を支払調書に記載します。
 また、土地と建物の金額の内訳は明示されていないものの、売買契約書に消費税額の記載がある場合は、その消費税額から建物の金額を逆算し、支払総額を土地と建物に分けることができます。
 例えば、土地付建物の支払金額が3,000万円で、そのうち消費税額が100万円と売買契約書に記載されている場合は、100万円÷10%×1.1=1,100万円が建物の支払金額になり、3,000万円-1,100万円=1,900万円が土地の支払金額になります。

(2) 土地と建物の対価の内訳が不明の場合

 土地付建物を購入した場合の支払金額が、売買契約書で土地と建物に分かれておらず、消費税額も記載されていない場合は、どのように支払調書に記入すればよいでしょうか?
 もし、支払金額を合理的に土地と建物に分けることができる場合は、その分けた金額を支払調書に記載します。
 しかし、支払金額を合理的に土地と建物に分けることができない、あるいはその作業が煩雑である場合は、上記2の記載例2に準じて、次のように記入しても差し支えありません。

返還されない敷金・保証金と「不動産の使用料等の支払調書」

1.返還されない敷金等は支払調書を提出

 法人が個人に支払った不動産の①地代、②家賃、③権利金、④礼金、⑤更新料は、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が15万円を超えるものについては、不動産の使用料等の支払調書(以下「支払調書」といいます)を作成して税務署に提出しなければなりません。
 一方、法人が法人に支払った上記①~⑤のうち、15万円を超える③~⑤については支払調書を税務署に提出しなければなりませんが、①と②は提出不要です。

※ 提出範囲の金額基準の15万円は、原則として消費税および地方消費税の額を含めて判断しますが、消費税および地方消費税の額が明確に区分されている場合には、その額を含めないで判断しても差し支えありません。

 なお、上記の③権利金とは、地上権、地役権の設定あるいは不動産の賃借に伴って支払われる権利金をいい、敷金、保証金等の名目のものであっても返還を要しない部分の金額及び月又は年の経過により返還を要しないこととなる部分の金額を含みます。
 したがって、返還されない敷金・保証金については支払調書の提出が必要です。
 例えば、法人が個人に対して建物の賃借に伴い300万円の保証金を支払いましたが、その保証金の50%相当額については、賃貸借契約上、返還されないことが明らかだとします。この場合は、その保証金の50%相当額である150万円と、その年中に支払われる家賃の金額を支払調書の「支払金額」欄に記載して税務署に提出します。

2.返還されない敷金等に係る支払調書の提出時期

 また、返還されない敷金、保証金等については、返還されないことが確定した都度、その年分の支払調書を提出することになります。
 敷金や保証金として賃貸人に提供される金額は、本来は賃借人の債務を担保するものであり、それ自体は賃貸人の収入となるものではありませんが、敷金や保証金などの名目で授受されるものの中には、当初から、あるいは一定期間が経過すれば、その全部又は一部が賃貸人に帰属することが契約書上で取り決められているものもあります。
 このようなものは、その実質が権利金や更新料等と何ら変わらないものであり、不動産所得の収入金額となりますが、その収入金額の計上時期は、必ずしもその賃貸借契約の終了時ではなく、返還を要しないことが確定した都度、その確定した金額を収入金額として計上することになっています。
 したがって、支払調書についても返還されないことが確定した日の翌年の1月31日までに、その確定した金額を支払金額として記載して提出することになります。

所得金額調整控除における「23歳未満の扶養親族」とは?

1.所得金額調整控除(子ども等)の適用対象者

 所得金額調整控除は2020年分(令和2年分)から適用されており、子ども・特別障害者等を有する者等の場合と給与所得と年金所得の双方を有する者の場合の2種類の控除があります。
 このうち、子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除は、年末調整において適用することができます。
 一方、給与所得と年金所得の双方を有する者の所得金額調整控除については年末調整では適用を受けることができませんので、適用を受けようとする場合は確定申告をする必要があります。

 子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受けることができる人は、その年中の給与の収入金額が850万円を超える給与所得者で、次の(1)から(3)のいずれかに該当する人です。

(1) 本人が特別障害者に該当する人
(2) 年齢23歳未満の扶養親族を有する人
(3) 特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族を有する人

 この控除は扶養控除と異なり、同一生計内のいずれか一方のみの所得者に適用するという制限がありません。したがって、例えば夫婦ともに給与の収入金額が850万円を超えており、夫婦の間に1人の年齢23歳未満の扶養親族である子がいるような場合には、その夫婦双方がこの控除の適用を受けることができます。

2.生まれたての子も23歳未満の扶養親族に含まれる!

 この所得金額調整控除(子ども等)の適用を受けるにあたって、上記1の「年齢23歳未満の扶養親族」は、控除対象扶養親族である16歳以上を年齢の下限とするのか(つまり16歳以上23歳未満)、特定扶養親族である19歳以上を年齢の下限とするのか(つまり19歳以上23歳未満)、あるいは年齢23歳未満であれば年齢の下限はないのか(つまり0歳以上23歳未満)について疑問が生じます。

 結論を先に述べると、所得金額調整控除(子ども等)における「年齢23歳未満の扶養親族」に年齢の下限はありません。したがって、0歳以上23歳未満であれば「年齢23歳未満の扶養親族を有する人」に該当します。
 用語の定義を考えると、扶養親族とは「所得者と生計を一にする親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、合計所得金額が48万円以下の人」をいいます。これに「年齢23歳未満」という要件が加わるだけですので、所得金額調整控除(子ども等)における「年齢23歳未満の扶養親族」に年齢の下限はないことになります。
 例えば、年末の12月31日に子が生まれた場合でも、年齢 23 歳未満の扶養親族を有するという要件を満たすことになりますので、所得金額調整控除(子ども等)の適用を受けることができます。

3.所得金額調整控除(子ども等)の再計算

 年末調整において所得金額調整控除(子ども等)の適用を受けようとする場合、年齢23歳未満の扶養親族を有するかどうかなどの判定は、所得金額調整控除申告書を提出する日の現況により判定することとなります。
 年末調整後、その年12月31日までの間に従業員等に子が生まれ、所得金額調整控除(子ども等)の適用要件を満たして年末調整による年税額が減少することとなる場合、その年分の源泉徴収票を給与等の支払者が作成するまでに、その異動があったことについて従業員等から申出があったときは、年末調整の再計算の方法でその減少することとなる税額を還付してもよいこととされています。
 なお、年末調整の再計算によらず、従業員等が確定申告をすることによって、その減少することとなる税額の還付を受けることもできます。

 また、例えば、20歳の子を23歳未満の扶養親族に該当するものとして所得金額調整控除(子ども等)の適用を受けていたところ、その子のアルバイト収入が当初の見積額よりも多くなり、結果的に合計所得金額が48万円を超えることとなったため年末調整による年税額が増加する場合にも、年末調整の再計算を行います。
 ただし、その従業員等が他の年齢23歳未満の扶養親族を有するなど所得金額調整控除(子ども等)の適用要件を満たしている場合には、所得金額調整控除申告書について、当初申告された子以外の要件に該当する者に訂正されるのであれば、所得金額調整控除(子ども等)については年末調整の再計算を行う必要はありません。

法人成りにおける個人と法人の税務上の取扱い

 個人事業主が既存事業を法人化することを、法人成りといいます。法人成りの際には、個人事業主時代の棚卸資産や固定資産等を法人に引き継ぐことがあります。
 主な引き継ぎ方法には現物出資と売却がありますが、一般的には売却によることが多いと思われます。
 そこで、以下では、法人成りに際して個人から法人へ棚卸資産や固定資産を売却した場合の税務上の取扱いについて確認します。

1.個人から法人へ棚卸資産を売却した場合

 個人事業主が棚卸資産(商品や原材料など)を法人へ売却した場合は、所得税における所得区分は事業所得になります。したがって、個人の確定申告では、通常の売上に加えて法人成りの際の法人への売上も計上しなければなりません。
 また、棚卸資産が課税資産の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、非課税資産(例えば、不動産販売業における土地など)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から棚卸資産を購入した法人は、その棚卸資産を仕入(商品)として計上します。

2.個人から法人へ減価償却資産を売却した場合

 個人事業主が減価償却資産(建物附属設備、車両運搬具、備品など)を法人へ売却した場合は、所得税法における所得区分は譲渡所得(総合課税)になります。
 また、課税資産の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、非課税資産(例えば、介護タクシー事業における福祉車両など)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から減価償却資産を購入した法人は、その減価償却資産を有形固定資産として計上し、中古資産の取得として見積法又は簡便法による耐用年数で減価償却を行います(中古資産の耐用年数によらずに、法定耐用年数で減価償却することもできます)。
 ただし、取得価額が30万円未満の少額減価償却資産については、損金経理を要件として全額を損金算入することができます(青色申告を行う中小企業者)。

※ 車椅子のまま車に乗るタイプであれば消費税は非課税ですが、助手席や後部座席が回転・昇降するタイプは、消費税の課税対象となります。

3.個人から法人へ事業用建物・土地を売却した場合

 個人事業主が事業用の建物や土地を法人へ売却した場合は、所得税法における所得区分は譲渡所得(分離課税)になります。
 また、建物(課税資産)の場合は消費税における課税区分は課税売上に該当しますが、土地(非課税資産)の場合は非課税売上に該当します。
 一方、個人から建物や土地を購入した法人は、その建物や土地を有形固定資産として計上し、建物については中古資産の取得として見積法又は簡便法による耐用年数で減価償却を行います(中古資産の耐用年数によらずに、法定耐用年数で減価償却することもできます)。
 仮に、建物の取得価額が30万円未満だった場合は、損金経理を要件として全額を損金算入することができます(青色申告を行う中小企業者)。
 なお、土地は非減価償却資産であるため、減価償却は行いません。

令和5年4月1日から中小企業も月60時間超の残業割増賃金率が50%になります

1.中小企業の割増賃金率も大企業と同じ50%に

 現行の労働基準法では、月60時間以下の時間外労働が発生した場合の割増賃金率は、大企業も中小企業も25%以上となっています。
 また、月60時間を超える時間外労働が発生した場合の割増賃金率は、大企業が50%以上、中小企業が25%以上となっています。
 2023(令和5)年4月1日以降は、大企業に適用されていた月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が中小企業に対しても適用され、現行の25%以上から50%以上に引き上げられます。

出所:厚生労働省ホームページ

2.深夜労働・休日労働との関係

 深夜(22:00~5:00)の時間帯に月60時間を超える法定時間外労働が発生した場合は、深夜割増賃金率25%以上+時間外割増賃金率50%以上=75%以上となります。
 また、月60時間の法定時間外労働の算定には、法定休日(例えば日曜日)に行った労働は含まれませんが、それ以外の休日(例えば土曜日)に行った法定時間外労働は含まれます。
 なお、使用者は1週間に1日または4週間に4回の休日を与えなければなりません。これを「法定休日」といいます。法定休日に労働させた場合は35%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

割増賃金の種類 支払う条件 割増賃金率
時間外手当・残業手当 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき 25%以上
時間外労働が限度時間(月45時間・年360時間等)を超えたとき 25%以上
(努力義務)
時間外労働が月60時間を超えたとき(大企業・中小企業) 50%以上
深夜手当 22時から5時までの間に勤務させたとき

25%以上

休日手当 法定休日(週1日)に勤務させたとき 35%以上

3.法定時間外労働時間・法定休日労働時間の具体的な算定方法

 以下の例によって、法定時間外労働時間と法定休日労働時間の具体的な算定方法を確認します。

出所:厚生労働省ホームページ

 1か月の起算日である1日(月)からの時間外労働時間数を累計して、60時間以下までは25%の割増率で、60時間を超えた時点からは50%の割増率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。なお、法定休日は日曜日、所定休日は土曜日とします。

  時間外労働時間 時間外労働時間累計 割増賃金率
第1週 5時間+5時間+2時間+3時間+5時間=20時間 20時間 25%
第2週 2時間+3時間+5時間+5時間+5時間=20時間 40時間
第3週 3時間+2時間+3時間+3時間+3時間=14時間 54時間
第4週 3時間+3時間=6時間 60時間
第4週 2時間+1時間+2時間+1時間=6時間 66時間 50%
第5週 1時間+1時間+2時間=4時間 70時間

 法定時間外労働時間数が60時間に達する第4週の23日(火)までは割増賃金率25%を適用し、60時間を超える第4週の24日(水)以降の10時間(累計:70時間-60時間)は割増賃金率50%を適用して割増賃金を計算します。
 この法定時間外労働時間数には所定休日(土曜日)の時間は含みますが、法定休日(日曜日)の時間は含みません。

 また、法定休日労働時間数は日曜日の5時間+3時間=8時間となり、この8時間に対して割増賃金率35%を適用して割増賃金を計算します。

 なお、月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の健康を確保するため、引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができます。
 代替休暇制度導入にあたっては、過半数組合、それがない場合は過半数代表者との間で労使協定を結ぶことが必要です。

住民票の住所と現住所が異なる場合の確定申告書の提出先

1.納税地

 確定申告書は、納税地の所轄税務署長に提出します。所得税法では、下表のように納税地を定めています。

判定基準 納税地 納税者
原則 特例
① 国内に住所を有する場合※1 住所地 居所、事業所等を納税地として選択する場合※3 居住者※4
② 国内に住所を有せず、居所を有する場合※2 居所地
③ 国内に恒久的施設(事務所、事業所等)を有する場合 恒久的施設の所在地 非居住者※4
④ かつて住所又は居所を有していた場所に親族等が現在居住している場合 当時の住所地又は居所地
⑤ 上記③④に該当しない場合で、国内にある不動産の貸付け等の対価を受ける場合 貸付資産の所在地
⑥ 上記③④⑤に該当しないで、納税地を選択した場合 その者の選択した場所
⑦ 上記③④⑤⑥に該当しない場合 麴町税務署

※1 住所とは生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実により判定します(所得税基本通達2-1)。
※2 居所とは相当期間継続して居住している場所をいい、住所といえる程度に達していないものをいいます(神戸地裁平14.10.7判決)。
※3 納税地の特例を選択する場合は、変更前の所轄税務署長に対して「納税地の変更に関する届出書」を提出する必要があります(所得税法第16条)。
※4 納税者の区分(居住者・非居住者)は、次のとおりです。

納税者の区分 定義
居住者 永住者 日本国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人
非永住者 居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人
非居住者 居住者以外の個人

 確定申告書は納税地の所轄税務署長に提出しますが、居住者については、国内に住所を有する場合は、原則として住所地が納税地となります。
 住所とは生活の本拠をいい、客観的事実によって判定します。一般的には住民票の登録をしている住所が納税地になりますので、確定申告書は原則として住民票のある住所地の所轄税務署長に提出します。

 会社員等の給与所得者でも、医療費控除やふるさと納税等の寄附金控除を受ける場合などは確定申告をする必要があります。基本的には住民票のある住所地と現住所は一致しますので、確定申告書の提出先を迷うことはありません。
 しかし、引越しや転勤などで住所が変わったにもかかわらず、住民票異動の手続きをしていないため、住民票に記載されている住所と現住所が異なることがあります。
 このような場合は、住民票のある住所地と現住所のどちらに確定申告書を提出すればいいのか疑問が生じますが、現住所の所轄税務署長に確定申告書を提出すればよいことになっています。

 また、個人事業主が住所地や居所地以外の地で事業をしている場合は、事業所の所在地を納税地とすることができます。この納税地の特例を選択する場合は、変更前の所轄税務署長に対して「納税地の変更に関する届出書」を提出する必要があります。

2.住民税は二重課税されないか?

 住民票のある住所と実際の現住所が異なる場合は、現住所の所轄税務署長に確定申告書を提出することになりますが、この場合に心配なのが、住民票のある住所地と現住所で住民税が二重課税されないか、ということです。
 住民税は住民票のある市町村が課税しますが、今回のケースのように住民票のある市町村と現住所の市町村が異なっている場合は、現住所の市町村が課税することになっています(地方税法294条3項・4項)。したがって、住民税が二重課税されるということはありません。

 ただし、市町村内に事業所等を有する個人事業主で当該市町村内に住所(生活の本拠)を有しない者は、原則として住民税の均等割が課税されます。
 しかし、前年の合計所得金額が市町村の条例で定める金額以下の場合は、均等割は非課税となります(地方税法294条1項2号)。

会社・役員間において賃貸物件の原状回復(内部造作の撤去)をしない場合の課税関係

 会社とその役員との間で、建物の賃貸借取引を行う場合があります。例えば、役員所有の建物に、会社が内装工事を行って本店や営業所として賃借する場合などです。
 この賃貸借契約が終了するにあたり、会社が入居時に行った内装工事(内部造作)を撤去せずにそのままの状態で退去する場合があります。
 この場合の会社側の会計処理として、内装工事の簿価(未償却残高)を固定資産除却損として費用計上することが考えられますが、税務上は気をつけなければならないことがあります。
 以下では、会社が原状回復(内部造作の撤去)をせずに賃貸物件を退去する場合の、会社と役員双方の課税関係について確認します。

1.概要

 不動産販売業を営むA社は、社長のB氏が法人成りしてできた会社です。法人成りの際に、B氏の自宅を増築(B氏が費用負担)し、そこに内装工事(A社が費用負担)を行って本店兼営業所として使用していましたが、この度、B氏個人が新たに建築した建物をA社の新社屋(本店兼営業所)として使用することになり、登記も済ませました。
 A社では法人成りの際の内装工事代350万円を建物勘定で資産計上しており、当期首の簿価(未償却残高)は260万円となっています。

 本店移転に伴って、旧本店(B氏自宅の増築部分)は廃止し営業所(支店)としても使用しません。宅建業法では営業所に専任の宅建資格者(宅地建物取引士)を設置しなければなりませんが、A社には宅建資格者がB氏1名しかいませんので、旧本店を営業所(支店)として使用することはできません(B氏は新社屋の専任資格者になります)。

 したがって、旧本店を今後事業の用に供することはありませんが、内装はそのままにしています。内装工事の内容は、床を土足仕様にしたり、営業所の入口としてガラス扉を設けたりしたことが主なものです。
 なお、旧本店を事業の用に供することはありませんが、そのままの内装の状態でB氏の自宅として使う可能性はあります(例えば、子供の勉強部屋など)。

 また、これまでA社からB氏に旧本店の家賃を支払っていましたが、新社屋への移転に伴って旧本店との賃貸借契約を解除し、新社屋の家賃をA社からB氏に支払う賃貸借契約を新たに結びました。
 どちらの契約もA社に原状回復義務があり、B氏に造作等の買取義務はありませんが、旧本店との賃貸借契約を解除するにあたって、A社においては内装の撤去工事の費用を節約できること及び撤去工事をしても廃材の売却収入が見込めないこと、B氏においては現状でも自宅として使用可能であることから、内装はそのままにしています。

2.旧本店の内部造作の処理と課税関係

 このような状況の下で、A社で資産計上されている建物:内装工事(期首簿価260万円)の処理方法と、それぞれの場合におけるA社とB氏の課税関係は、次のように考えられます。

(1) A社からB氏へ無償譲渡(賃貸借契約解除時に除却)

 この場合のA社の会計上の仕訳は、次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
固定資産除却損 243万円    

 これに対して、税務上の仕訳は次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
建物譲渡原価 243万円    
寄附金 243万円 建物譲渡収益 243万円

 減価償却費17万円は、期首から賃貸借契約解除時までの月割額です。A社が内部造作を放棄してそのままの状態で退去するということは、A社からB氏へ内部造作の無償譲渡が行われたということです。このとき、A社では建物の簿価243万円を固定資産除却損として会計処理しています。

 ところが、税務上は、有償譲渡だけではなく無償譲渡に係る収益も益金の額に算入することになります(法人税法第22条第2項)。 つまり、資産の無償譲渡が行われた場合には、原則としてその資産の時価で譲渡されたものとみなされます。
 また、その資産の時価と譲渡対価の額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、寄附金の額に含まれるものとされます(法人税法第37条第8項)。
 したがって、会計上は固定資産除却損を計上していたとしても、税務上は寄附金とみなされ、寄附金とみなされた金額のうち損金不算入部分の金額は課税されます。
 ただし、固定資産除却損は、第三者間の取引であれば造作を放棄する合理的な理由(撤去費用を負担せずにすむ)がある場合(※)は、その無償譲渡は贈与等には該当せず寄附金課税されないと解されています(税務通信3434号)。
 
※ 第三者間取引でも、造作を取り壊すより放棄した方がコストが低いような場合(撤去費用が廃材売却収入より多くかかる場合)は合理的な理由と認められますが、そうでない場合(撤去費用を上回る廃材売却収入がある場合)は寄附金課税されると考えられます。

 A社の無償譲渡が第三者との取引であれば、固定資産除却損は税務上も損金算入されると考えられますので、課税上の特段の問題は生じません。
 しかし、今回のA社の無償譲渡は役員B氏との取引であるため、税務上は次のように考える必要があります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
建物譲渡原価 243万円    
役員給与 243万円 建物譲渡収益 243万円

 会計上は固定資産除却損を計上していたとしても、税務上は損金不算入の役員給与とみなされます。
 したがって、A社については、固定資産除却損243万円が損金不算入とされ法人税等が課税されます。また、役員給与243万円に対して、所得税の源泉徴収が必要になります。

 一方、B氏については、受贈益課税されます。すなわち、契約上は原状回復義務がA社にあるにもかかわらずそれを免除したということは、B氏にとって価値ある資産を譲り受けたものとして捉えられますので、役員給与として受贈益課税されると考えられます。
 したがって、B氏については、役員給与243万円に対して所得税の負担が生じます。

(2) A社からB氏へ有償譲渡(賃貸借契約解除時に売却)

 この場合のA社の会計処理は、次のようになります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 17万円 建物 260万円
現金預金 243万円    

 時価の算定が困難であることから、売却時点の簿価243万円を時価としています(※)。
 この場合、A社においては税務上も売却損益は生じないため、特段の課税関係は生じないと考えられます。
 ただし、A社が消費税の課税事業者である場合は、243万円の課税売上が発生します(上記(1)の場合も同じ)。

※ 時価には再調達価額や売却可能価額などがありますが、時価を見積もるのが困難な場合は基本的には簿価を時価とするのが一般的です。

 一方、B氏においても、特段の課税関係は生じません。

(3) まとめ

 A社としては、固定資産除却損を計上して法人税等の節税を考えたいところですが、会社と役員間の取引においては、固定資産除却損の計上(無償譲渡)を行う場合も結局は時価で譲渡したものとみなされ、A社とB氏に税負担が生じます。
 安易な除却損の計上には、気をつけなければなりません。

賞与(ボーナス)の社会保険料と所得税の計算方法

 社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)と雇用保険料は毎月の給与から控除(天引き)しますが、ボーナス(賞与)に対しても社会保険料・雇用保険料はかかります。
 ボーナスから控除する社会保険料や所得税の計算方法は、毎月の給与から控除する場合と計算方法が異なります(雇用保険料は、ボーナスの場合も毎月の給与の場合も計算方法は同じです)。
 以下では、ボーナスに対する社会保険料・雇用保険料及び所得税の計算方法と、ボーナス支給後の手続きについて確認します。

1.賞与に対する社会保険料の計算方法

出所:全国健康保険協会ホームページ

 毎月の社会保険料は標準報酬月額に基づいて計算しますが、ボーナスから控除する社会保険料は「標準賞与額」に基づいて計算します。
 標準賞与額とは、支給する賞与額の1,000円未満の端数を切り捨てた金額をいいます。この標準賞与額に保険料率を乗じて社会保険料を算出し、算出された社会保険料を事業主と被保険者が労使折半で負担します。

 例えば、2022(令和4)年12月にAさん(兵庫県在住の38歳の従業員で扶養親族は1人)に400,800円のボーナスを支給する場合、ボーナスから控除する社会保険料と雇用保険料は次のように計算します。

標準賞与額400,000円×健康保険料率10.13%×1/2=20,260円(健康保険料)
標準賞与額400,000円×厚生年金保険料率18.3%×1/2=36,600円(厚生年金保険料)
実際支給額400,800円×雇用保険料率5/1000=2,004円(雇用保険料)※
控除合計額20,260円+36,600円+2,004円=58,864円

※社会保険料計算では、1,000円未満の端数を切り捨てた標準賞与額に保険料率を乗じますが、雇用保険料計算の際は1,000円未満の端数を切り捨てずに保険料率を乗じます。

 また、2022(令和4)年12月にBさん(兵庫県在住の41歳の従業員で扶養親族は1人)に400,800円のボーナスを支給する場合、ボーナスから控除する社会保険料と雇用保険料は次のように計算します。

標準賞与額400,000円×健康保険料率11.77%×1/2=23,540円(健康保険料・介護保険料)
標準賞与額400,000円×厚生年金保険料率18.3%×1/2=36,600円(厚生年金保険料)
実際支給額400,800円×雇用保険料率5/1000=2,004円(雇用保険料)
控除合計額23,540円+36,600円+2,004円=62,144円

2.賞与に対する所得税の計算方法

出所:国税庁ホームページ

 ボーナスに対する社会保険料と雇用保険料の計算ができたら、次は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いて、所得税(源泉徴収税額)の計算をします。
 所得税の計算方法は次のとおりです。

(1) まず、「前月の社会保険料等控除後の給与等の金額」を求めます。具体的には、その人の前月の給与額から前月の給与額に対する社会保険料・雇用保険料を差し引いた金額になります。
(2) 次に、その人の扶養親族等(源泉控除対象配偶者及び控除対象扶養親族)の数に応じて、(1)で求めた金額が記載されている行の「賞与の金額に乗ずべき率」を求めます。
(3) (2)で求めた率を、ボーナスの金額からボーナスにかかる社会保険料・雇用保険料を控除した金額に乗じて所得税を算出します。

 例えば、前月のAさんの給与が260,000円、社会保険料が37,102円、雇用保険料が1,300円だった場合、ボーナス400,800円に対する所得税は次のように計算します。

(1) 前月の給与額260,000円-前月の社会保険料37,102円-前月の雇用保険料1,300円=221,598円
(2) 扶養親族等の数が1人なので、(1)の金額は「94千以上243千円未満」の区分に該当し、賞与に乗ずべき率は2.042%。
(3) 所得税=(400,800円-58,864円)×2.042%=6,982円(円未満切捨て)

3.被保険者賞与支払届の提出

 事業主が被保険者および70歳以上被用者へ賞与を支給した場合は、支給日より5日以内に「被保険者賞与支払届」により支給額等を届出します。
 この届出内容により標準賞与額が決定され、これにより賞与の保険料額が決定されるとともに、被保険者が受給する年金額の計算の基礎となるものですので、忘れずに届出をしなければなりません。
 また、賞与にかかる保険料は、毎月の保険料と合算されて賞与支払月の翌月の「納入告知書(口座振替の場合は、納入告知額通知書)」で通知されます。