扶養判定における遺族年金の取扱いは所得税と社会保険で異なる!

 納税者に所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合には、その納税者は扶養控除を受けて所得税を節税することができます。
 また、被保険者に社会保険制度上(協会けんぽ)の被扶養者となる人がいる場合には、被保険者だけではなく、その被扶養者についての病気・けが・死亡・出産についても保険給付が行われます。
 所得税法上の控除対象扶養親族の判定には所得基準があり、社会保険制度上の被扶養者の判定には収入基準がありますが、遺族年金の取扱いは両者で異なります。
 以下では、扶養判定の際の遺族年金の取扱いについて確認します。

1.所得税の扶養控除と遺族年金

(1) 控除対象扶養親族となる人の要件

 扶養親族とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡しまたは出国する場合は、その死亡または出国の時)の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人をいいます。

① 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)、または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること
② 納税者と生計を一にしていること
③ 年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
④ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと

 控除対象扶養親族とは、上記の扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が16歳以上の人(一般の控除対象扶養親族といいます)が該当します。

(2) 扶養控除の判定と遺族年金

 控除対象扶養親族に該当する人がいる場合、納税者は扶養控除を受けることができますが、特にお年寄りを扶養している納税者は、所得税の特例を受けることができます。
 例えば、一般の控除対象扶養親族がいる場合は38万円の扶養控除となりますが、老人扶養親族(控除対象扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が70歳以上の方をいいます)がいる場合は48万円の扶養控除となり、さらに同居老親(老人扶養親族のうち、納税者やその配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で、納税者やその配偶者との同居を常としている方をいいます)であれば58万円の扶養控除となります。
 老人扶養親族や同居老親に該当する方の多くは年金を受給されていると思われますが、この年金も含めて合計所得金額が48万円以下でなければなりません。

 では、所得税が非課税とされる遺族年金は、合計所得金額48万円以下の判定にあたって含まれるのでしょうか?
 例えば、遺族厚生年金120万円とパート収入60万円がある同一生計の母(70歳)を扶養控除の対象とすることはできるのでしょうか?

 扶養親族に該当するか否かを判定する場合の合計所得金額には、所得税法やその他の法令の規定によって非課税とされる所得の金額は含まれないことになっています。
 厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金や国民年金法に基づく遺族基礎年金などは非課税所得なので、上記の母の合計所得金額は5万円(給与収入60万円-給与所得控除55万円=給与所得5万円)となり、扶養控除の対象とすることができます(母が他の人の扶養控除の対象になっていないことが前提です)。
 

2.社会保険の被扶養者と遺族年金

(1) 被扶養者となる人の要件

 社会保険(健康保険)の被扶養者に該当する条件は、日本国内に住所(住民票)を有しており、被保険者により主として生計を維持されていること、および次の①と②のいずれにも該当した場合です

① 収入要件
 年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)かつ
 ・同居の場合は収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満
 ・別居の場合は収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満

② 同一世帯の条件
ア.被保険者と同居している必要がない者
 ・配偶者
 ・子、孫および兄弟姉妹
 ・父母、祖父母などの直系尊属
イ.被保険者と同居していることが必要な者
 ・上記ア以外の3親等内の親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者など)
 ・内縁関係の配偶者の父母および子(当該配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む)

※ 協会けんぽ以外の健康保険(健康保険組合など)の被扶養者については、被保険者の勤務先の健康保険組合によって要件が異なります。本記事では、協会けんぽを前提としています。

(2) 被扶養者の判定と遺族年金

 所得税法上は遺族年金は非課税所得であり、扶養控除の判定にあたっても合計所得金額には含まれないことを上記1で確認しました。
 では、社会保険(健康保険)においては、年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は年間収入180万円未満)という被扶養者の判定にあたって、遺族年金は収入に含まれるのでしょうか?

 結論を先に述べると、健康保険の被扶養者となる収入要件の判定には、遺族年金も含まれます。
 例えば、遺族厚生年金120万円とパート収入60万円がある同一生計の母(70歳)の場合、合計所得金額が48万円以下ですので所得税では扶養控除の対象となります。
 しかし、遺族年金も合わせた収入合計が180万円ですので年間収入180万円未満という収入要件を満たさず、健康保険では被扶養者の対象にはなりません。

海外転勤者の税金と社会保険

1.国外転出届により国内住所がなくなる

 1年以上の予定で海外転勤となる場合は、居住している自治体に国外転出届を提出します。この届出により国内に住所はなくなりますが、国内に住所がなくなることで、住所を基に課される税金や社会保険の扱いも変わってきます。

※ 国外に居住することとなった者は、国外における在留期間が契約等によりあらかじめ1年未満であることが明らかであると認められる場合を除き、「国外において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する者」として、非居住者として取り扱われます。

2.非居住者の所得税・住民税

 国内に住所がなくなると、所得税法上の納税義務者区分は非居住者となります。
 非居住者は、給与以外の所得がなければ日本での所得税の課税はなく、勤務先国での税法に従った課税となります(駐在期間中の自宅を他人用の賃貸に出すなど、給与以外の日本国内源泉所得がある場合は、日本での確定申告が必要となることもあります)。

 個人住民税は、その年の1月1日時点で市町村(都道府県)に住所がある者に対して課税されます。そのため、住所がなくなった翌年からは、帰国して住所を持つこととなるまで、住民税は課されないことになります。

※ 非居住者(内国法人の役員等一定の者を除きます)の国外勤務に係る給与が、非居住者の国内口座に振り込まれている場合でも、振込額の全額が日本での課税対象とはなりません。日本での課税対象となるものは、非居住者が支払を受ける給与のうち国内勤務に係る給与です。

3.非居住者の社会保険

 赴任前の国内会社から継続して国内払い給与があれば、海外赴任中も各種社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険など)の被保険者資格は継続となります
 厚生年金につき、赴任先国と日本との間で年金協定があれば、2つの国での二重払いを回避できます。

 健康保険が継続していると、海外赴任中に急な病気やけがなどによりやむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合に、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる海外療養費制度が使えます。

 一方、雇用主が駐在先の現地法人となる場合には、現在の日本での被保険者資格を喪失することになります。その場合は厚生年金から国民年金への切り替えや健康保険の任意継続などの手続きが必要となります。

 国民年金は、日本国籍者であれば、海外居住でも任意加入できます。国民年金に任意加入する目的としては、年金をもらう条件として必要な加入期間を充足させることと将来もらえる年金額を減らさないためなどです。
 なお、海外在住者に国民健康保険の任意加入制度はありません。

※ 健康保険および厚生年金保険は、適用事業所に勤務する限り、国内における住所の有無を問わず加入します。なお、社会保障協定を結んでいる国で働く場合、外国の社会保障制度の加入が免除される場合があります。

永年勤続表彰金は社会保険・労働保険・所得税の対象となるか?

1.社会保険の報酬に含まれるか?

 2023(令和5)年6月27日に改正された「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」に、永年勤続表彰金について以下の問答が追加されました。

問3 事業主が長期勤続者に対して支給する金銭、金券又は記念品等(以下「永年勤続表彰金」という。)は、「報酬等」に含まれるか。

(答) 永年勤続表彰金については、企業により様々な形態で支給されるため、その取扱いについては、名称等で判断するのではなく、その内容に基づき判断を行う必要があるが、少なくとも以下の要件を全て満たすような支給形態であれば、恩恵的に支給されるものとして、原則として「報酬等」に該当しない。
 ただし、当該要件を一つでも満たさないことをもって、直ちに「報酬等」と判断するのではなく、事業所に対し、当該永年勤続表彰金の性質について十分確認した上で、総合的に判断すること。
≪永年勤続表彰金における判断要件≫
① 表彰の目的
 企業の福利厚生施策又は長期勤続の奨励策として実施するもの。なお、支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合は、より福利厚生としての側面が強いと判断される。
② 表彰の基準
 勤続年数のみを要件として一律に支給されるもの。
③ 支給の形態
 社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えていないものであって、表彰の間隔が概ね5年以上のもの。


 この問答に示されているように、上記「永年勤続表彰金における判断要件」①②③を満たす永年勤続表彰金は原則として「報酬等」に該当せず、社会保険の対象とはなりません。

2.労働保険の賃金に含まれるか?

 労働保険における賃金総額とは、事業主がその事業に使用する労働者(年度途中の退職者を含みます)に対して賃金、手当、賞与、その他名称のいかんを問わず労働の対償として支払うすべてのもので、税金その他社会保険料等を控除する前の支払総額をいいます。
 永年勤続表彰金の労働保険における取扱いは、「行政手引50502(2)賃金と解されないものの例」に次のように記載されています。

ヌ 勤続褒賞金
 勤続年数に応じて支給される 勤続褒賞金は、一般的には、賃金とは認められない。


 したがって、永年勤続表彰金は一般的には「賃金」に該当せず、労働保険の対象とはなりません。

3.所得税における給与となるか?

 永年勤続表彰金の所得税における取扱いは、「国税庁タックスアンサーNo.2591創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき」によると、次に掲げる要件をすべて満たしていれば、給与として課税しなくてもよいことになっています。

(1) 創業記念などの記念品の場合
① 支給する記念品が社会一般的にみて記念品としてふさわしいものであること。
② 記念品の処分見込価額による評価額が10,000円(消費税および地方消費税の額を除きます。)以下であること。
③ 創業記念のように一定期間ごとに行う行事で支給をするものは、おおむね5年以上の間隔で支給するものであること。

(2) 永年勤続者に支給する記念品や旅行や観劇への招待費用の場合
① その人の勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること。
② 勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること。
③ 同じ人を2回以上表彰する場合には、前に表彰したときからおおむね5年以上の間隔があいていること。

 なお、記念品の支給や旅行や観劇への招待費用の負担に代えて現金、商品券などを支給する場合には、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。
 また、本人が自由に記念品を選択できる場合にも、その記念品の価額が給与として課税されます。

令和5年度地域別最低賃金が10月1日~中旬にかけて引き上げられます

1.最低賃金とは?

 最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。
 仮に、最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。
 また、使用者が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、使用者は労働者に対してその差額を支払わなくてはなりません。
 地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められています※1
 なお、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています※2

※1 「地域別最低賃金」とは、産業や職種にかかわりなく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金です。各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。

※2 「特定(産業別)最低賃金」は、特定の産業について設定されている最低賃金です。関係労使が基幹的労働者を対象として、「地域別最低賃金」よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定されており、全国で227件の最低賃金が定められています(令和4年3月31日時点現在)。

2.最高額は東京都の時給1,113円

 厚生労働省は、都道府県労働局に設置されている地方最低賃金審議会が答申した2023(令和5)年度の地域別最低賃金の改定額(以下「改定額」)を取りまとめました。改定額及び発効予定年月日は、次の別紙のとおりです。

出所:厚生労働省ホームページ

 この「令和5年度地域別最低賃金答申状況」は、厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会が示した「令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について」などを参考として、各地方最低賃金審議会が調査・審議して答申した結果を取りまとめたものです。
 答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの異議申出に関する手続を経た上で、都道府県労働局長の決定により、10月1日から10月中旬までの間に順次発効される予定です。

 地域別最低賃金の全国整合性を図るため目安額のランクを設けていますが、4区分だったランクが今年度から3区分に変更となり、改定額を見ていくとAからCの47都道府県すべてで39円以上引き上げられ、東京都は時給1,113円と最高です。
 最高額1,113円(東京都)と最低額893円(岩手県)の金額差は220円です。差の割合は80.2%(893円÷1,113円≒80.2%)と8割を超えており、地域格差は少しずつ改善しています。

3.物価上昇に賃金上昇が追いつかず

 近年は最低賃金引き上げの流れが続いており、全国加重平均は時給1,004円と初めて千円を超え、引き上げ幅43円も過去最高となっています。
 しかし、消費者物価の上昇が大きく、昨年10月~今年6月までの消費者物価指数は対前年同期比4.3%で、最低賃金引き上げ率3.3%を大きく上回っています。

4.令和5年度の引き上げ幅は39円~47円

 また、地域経済の活性化や若年層の流出を防ぎ労働人口を確保するには、目安より高い金額の上乗せが必至とした回答が24県あり、目安を上回る引き上げが賃金の低い地方で相次ぎました。
 下表は、2023(令和5)年度の改定額を引き上げ幅ごとに見たものです。

引き上げ幅 改定額
39円 岩手893円
40円

北海道960円 宮城 923円 群馬 935円 富山948円
山梨938円 長野 948円 岐阜950円 静岡984円
三重 973円 滋賀967円 京都1008円 奈良 936円
岡山932円 和歌山929円 広島 970円 山口928円
香川918円

41円

栃木 954円  埼玉1028円 東京1113円 神奈川1112円
新潟931円 愛知1027円 大阪1064円 兵庫1001円
徳島896円 福岡941円

42円

福島900円 茨城 953円 千葉1026円 石川 933円

43円

福井931円  沖縄896 円

44円

秋田897円  愛媛 897円 高知897円 宮崎897円
鹿児島897円

45円

青森898円 大分899円 長崎898円 熊本898円

46円

山形900円 鳥取900円

47円

島根 904円 佐賀900円

7月10日期限の労働保険・社会保険・納期特例の給与集計は発生ベース?支払ベース?

1.毎年7月10日は事務手続き期限の集中日

 毎年7月10日は、事務手続きの期限が集中します。代表的なものを挙げると、労働保険(労災保険・雇用保険)の年度更新、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の算定基礎届、納期の特例(源泉所得税)があります。

 これらの事務手続きに共通する作業として、給与と賞与(以下「給与等」といいます)の集計があります。
 給与等の集計期間は、労働保険の年度更新では前年4月1日から当年3月31日まで、社会保険の算定基礎届では当年4月から6月まで、納期特例では当年1月から6月までとされています。
 それぞれの集計期間において給与等を集計することになりますが、その給与等の集計を発生ベースで行うのか、支払ベースで行うのかについては、それぞれの制度によって異なります。

 ここでいう発生ベースとは、実際に給与等が支払われていなくても支払が確定したもの、言い換えれば、給与等の支払日ではなく給与計算期間(締め日)を基準として集計することをいいます。例えば、4月末日締・翌月支払の給与の場合は4月の給与として集計します。
 これに対して支払ベースとは、給与計算期間(締め日)ではなく給与の支払日を基準として集計することをいいます。例えば、4月末日締・翌月支払の給与の場合は5月の給与として集計します。
 以下では、次のA社とB社を例として、制度ごとの給与等の集計方法について確認します。

A社:給与末日締、当月末日支払(月給)
B社:給与末日締、翌月10日支払(月給)

 

2.労働保険年度更新の場合

 事業主は、新年度の概算保険料を納付するための申告・納付と、前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付の手続きが必要です。これを年度更新といいます。
 年度更新の手続きには、前年4月1日から当年3月31日までの給与等を集計する必要があります。
 この集計に関して「労働保険 年度更新 申告書の書き方」では次のように記載されており、発生ベースで行うことが読み取れます(下線部は筆者編集)。

 賃金集計表には、前年4月1日から当年3月31日までに使用した全ての労働者に支払った賃金(当年3月31日までに支払いが確定しているが、実際の支払いは同年4月1日以降になる場合も含みます。)の総額を記入してください。

 したがって、年度更新では前年4月1日から当年3月31日までに発生した給与等が集計対象となり、A社の場合は前年4月から当年3月に支払った給与等を集計し、B社の場合は前年5月から当年4月に支払った給与等を集計することになります。

※ 労働保険の年度更新については、本ブログ記事「労働保険の年度更新の仕組みと会計処理(仕訳)」をご参照ください。

3.社会保険算定基礎届の場合

 事業主は、健康保険及び厚生年金保険の被保険者の実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、当年4月~6月に支払った給与等を算定基礎届によって届出をする必要があります。これを定時決定といいます。
 算定基礎届は、当年4月、5月、6月の給与等を集計しますが、「算定基礎届の記入・提出ガイドブック」には次のように記載されており、支払ベースで集計することが読み取れます。

 算定基礎届は4、5,6月に支払われた給与を報酬月額として届出しますが、給与計算の締切日と支払日の関係によって支払基礎日数が異なります。

(例)月給制の場合
給与末日締 当月末日支払

暦日 支払基礎日数
4月 4月1日~30日 30
5月 5月1日~31日 31
6月 6月1日~30日 30

(例)月給制の場合
給与25日締 当月末日支払

暦日 支払基礎日数
4月 3月26日~4月25日 31
5月 4月26日~5月25日 30
6月 5月26日~6月25日 31

(例)月給制の場合
給与末日締 翌月10日支払

暦日 支払基礎日数
4月 3月1日~31日 31
5月 4月1日~30日 30
6月 5月1日~31日 31

 したがって、集計対象となる給与の給与計算期間(締め日)は異なりますがA社もB社も当年4月から6月に支払った給与等を支払ベースで集計することになります。

※ 例えば「4月」の給与については、A社の場合は給与計算期間が4月1日~4月30日であるのに対し、B社の場合は3月1日~3月31日となります。

4.納期の特例の場合

 事業主は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)を、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。
 ただし、給与の支給人員が常時10人未満である事業主は、源泉徴収した所得税等を半年分まとめて納めることができる特例があります。これを納期の特例といいます。

 納期の特例では、当年1月から6月までの給与等を集計しますが、国税庁ホームページの「給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。」や「納付書の記載のしかた」の「実際の支払年月日を記載してください。」などの文言から、支払ベースで集計することが読み取れます。

 したがって、集計対象となる給与の給与計算期間(締め日)は異なりますがA社もB社も当年1月から6月に支払った給与等を支払ベースで集計することになります。

※ 例えば「1月」の給与については、A社の場合は給与計算期間が当年1月1日~1月31日であるのに対し、B社の場合は前年12月1日~12月31日となります。
 なお、当月締め・翌月払いの給与の年末調整については、本ブログ記事「翌月に支給する給与の年末調整と会計処理」をご参照ください。

青色事業専従者給与は国民健康保険税の節税になるか?

1.月額8万円の専従者給与は所得税・住民税・事業税の節税になる

 生計を一にしている配偶者その他の親族が個人事業主の経営する事業に従事している場合、個人事業主がこれらの人に給与を支払うことがありますが、これらの給与は原則として必要経費にはなりません。
 しかし、青色申告を行っている個人事業主の場合は、これらの人に実際に支払った給与の額を一定の要件の下に必要経費とすることができます。これを青色事業専従者給与の特例といいます。

 青色事業専従者給与は青色申告の特典の一つであり、個人事業主自身の所得税・住民税・事業税の節税になりますが、その一方で気になるのが、給与の支払いを受けた青色事業専従者には、その支払いを受けた給与の分だけ給与所得が生じ、所得税負担がかかる可能性があるということです。

 この点については、例えば青色事業専従者給与の額を月額8万円にすれば、青色事業専従者自身に所得税・住民税負担がかかることはありません。
 つまり、月額8万円の青色事業専従者給与を支給することは、個人事業主自身の節税になり、青色事業専従者自身の税負担もないということです。

 ところが、ここでさらに気になるのが、月額8万円の青色事業専従者給与の支給が国民健康保険税に及ぼす影響です。所得税・住民税・事業税の節税にはなっても、その分国民健康保険税が上がりはしないかという懸念があります。
 以下では、青色事業専従者給与が国民健康保険税に及ぼす影響を検討します。

2.国民健康保険税の計算の仕組み

 国民健康保険税の計算の仕組みは各自治体で異なるため、以下では兵庫県宝塚市の2023(令和5)年度の例を挙げます。

A.基礎課税額  
(1) 平等割額(1世帯あたり) 23,900円
(2) 均等割額(被保険者1人あたり) 31,600円
(3) 所得割額の税率(被保険者全員の所得に対して) 8.40%
(4) 課税限度額 65万円
B.後期高齢者支援金等課税額  
(1) 平等割額(1世帯あたり) 6,200円
(2) 均等割額(被保険者1人あたり) 8,900円
(3) 所得割額の税率(被保険者全員の所得に対して) 2.20%
(4) 課税限度額 22万円
C.介護納付金課税額  
(1) 平等割額(1世帯あたり) 6,200円
(2) 均等割額(介護保険第2号被保険者1人あたり) 12,100円
(3) 所得割額の税率(介護保険第2号被保険者全員の所得に対して) 2.70%
(4) 課税限度額 17万円

 国民健康保険税額は、上記のA~C の合計額です。A~Cをそれぞれ別々に納付することはできません。また、納税義務者は被保険者の属する世帯の世帯主です。
 C の介護納付金課税額は介護保険第2号被保険者(40歳~64歳の被保険者)がいる世帯に対してかかります。
 A~Cにおける(3) の所得割額は、被保険者ごとに前年中の総所得金額等から地方税法上の基礎控除額(43万円)を控除した後の金額(算定基礎額)に税率をかけて算出します。例えば、総所得金額が120万円の場合は、120万円-43万円=77万円が算定基礎額となり、これに税率をかけて所得割額を算出します。

 次の設例を用いて、2023(令和5)年度の国民健康保険税の計算をしてみます。

事業主:健康太郎 1977(昭和52)年4月23日生 前年の事業所得120万円
配偶者:健康花子 1980(昭和55)年1月23日生 専業主婦
A.基礎課税額(課税限度額650,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):23,900円/年
(2) 均等割額(1人あたり):31,600円×2人=63,200円/年
(3) 所得割額の税率:770,000円×8.40%=64,680円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒151,700円/年(百円未満切捨)
B.後期高齢者支援金等課税額(課税限度額220,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):6,200円/年
(2) 均等割額(1人あたり):8,900円×2人=17,800円/年
(3) 所得割額の税率:770,000円×2.20%=16,940円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒40,900円/年(百円未満切捨)
C.介護納付金課税額(課税限度額170,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):6,200円/年
(2) 均等割額(1人あたり):12,100円×2人=24,200円/年
(3) 所得割額の税率:770,000円×2.70%=20,790円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒51,100円/年(百円未満切捨)
D.国民健康保険税額
国民健康保険税額:A+B+C=243,700円/年

3.専従者給与は国民健康保険税の節税になる

 上記2の設例では、事業主の総所得金額(事業所得)が120万円で配偶者の所得が0円の場合の国民健康保険税を試算しました。
 次に上記2の設例において、配偶者に月額8万円(年額96万円)の青色事業専従者給与を支給する場合の国民健康保険税を以下で試算します。
 この場合、事業主の事業所得は120万円-96万円=24万円になり、配偶者の給与所得は96万円-55万円(給与所得控除額)=41万円となります。

事業主:健康太郎 1977(昭和52)年4月23日生 前年の事業所得24万円
配偶者:健康花子 1980(昭和55)年1月23日生 前年の給与所得41万円
A.基礎課税額(課税限度額650,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):23,900円/年
(2) 均等割額(1人あたり):31,600円×2人=63,200円/年
(3) 所得割額の税率:0円×8.40%=0円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒87,100円/年(百円未満切捨)
B.後期高齢者支援金等課税額(課税限度額220,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):6,200円/年
(2) 均等割額(1人あたり):8,900円×2人=17,800円/年
(3) 所得割額の税率:0円×2.20%=0円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒24,000円/年(百円未満切捨)
C.介護納付金課税額(課税限度額170,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):6,200円/年
(2) 均等割額(1人あたり):12,100円×2人=24,200円/年
(3) 所得割額の税率:0円×2.70%=0円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒30,400円/年(百円未満切捨)
D.国民健康保険税額
国民健康保険税額:A+B+C=141,500円/年

 上記の試算より、配偶者に青色事業専従者給与を支給する場合の国民健康保険税は141,500円/年となり、支給しない場合の243,700円/年より減額されています。
 つまり、月額8万円の青色事業専従者給与の支給は、所得税・住民税・事業税だけではなく、国民健康保険税にも節税効果があることがわかります。また、青色事業専従者の税負担も生じていません。

 上記の試算では、青色事業専従者である配偶者に税負担を生じさせないという前提で、所得税・住民税・事業税・国民健康保険税の節税効果を狙って月額8万円の給与としました。
 どの程度の給与を支給するかについては、個人事業主と青色事業専従者の年齢やそれぞれに適用される所得税率を考慮しながら最適解を探ることになります。

 なお、青色事業専従者として給与を支給された配偶者は、国民年金保険料の免除申請等を行う際の「扶養親族等」には含まれなくなります。
 国民年金保険料は所得にかかわらず一律ですが、もし免除申請等を行う際は不利になる場合もありますのでご注意ください(国民年金保険料の免除ラインについては、本ブログ記事「国民年金保険料が免除される所得基準の計算方法~確定申告書との違いに注意!」をご参照ください)。
 

令和5年度雇用保険料率が改定されます

1.厚生労働省関係の制度変更

 2023(令和5)年4月に実施される厚生労働省関係の制度変更には、中小企業等の雇用・労働関係に影響を与える事項も含まれています。
 例えば、「中小企業の月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の25%から50%への引上げ」や「雇用保険料率の引上げ」などの事項です。
 以下では、雇用保険法等の一部を改正する法律の施行により改定される2023(令和5)年度の雇用保険料率を確認します。

※ 中小企業の月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引上げの詳細については、本ブログ記事「令和5年4月から中小企業も月60時間超の残業割増賃金率が50%になります」をご参照ください。

2.令和5年度の雇用保険料率

 雇用保険法等の一部を改正する法律の施行により、2023(令和5)年度の雇用保険料率が改定されます(適用開始:2023(令和5)年4月1日)。
 改定前(2023(令和5)年3月まで)と改定後(2023(令和5)年4月~2024(令和6)年3月)の雇用保険料率は、以下のとおりです。

(1) 改定前(2023(令和5)年3月まで)

事業の種類 一般事業 農林水産業・清酒製造業 建設業
被保険者負担率 5.0/1000 6.0/1000 6.0/1000
事業主負担率 8.5/1000 9.5/1000 10.5/1000
合計負担率 13.5/1000 15.5/1000 16.5/1000

(2) 改定後(2023(令和5)年4月~2024(令和6)年3月)

事業の種類 一般事業 農林水産業・清酒製造業 建設業
被保険者負担率 6.0/1000 7.0/1000 7.0/1000
事業主負担率 9.5/1000 10.5/1000 11.5/1000
合計負担率 15.5/1000 17.5/1000 18.5/1000

 なお、労働保険は労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険に分かれますが、改定されるのは雇用保険料率であり、労災保険料率は前年(2022(令和4)年度)の料率から改定されていません。
 また、令和5年度雇用保険料は、2023(令和5)年4月1日以降に到来する給与締め日を基準に改定を行います。給与支払日ではありませんので、改定のタイミングにご注意ください。

※ 労働保険の年度更新については、本ブログ記事「労働保険の年度更新の仕組みと会計処理(仕訳)」をご参照ください。



令和5年4月1日から中小企業も月60時間超の残業割増賃金率が50%になります

1.中小企業の割増賃金率も大企業と同じ50%に

 現行の労働基準法では、月60時間以下の時間外労働が発生した場合の割増賃金率は、大企業も中小企業も25%以上となっています。
 また、月60時間を超える時間外労働が発生した場合の割増賃金率は、大企業が50%以上、中小企業が25%以上となっています。
 2023(令和5)年4月1日以降は、大企業に適用されていた月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が中小企業に対しても適用され、現行の25%以上から50%以上に引き上げられます。

出所:厚生労働省ホームページ

2.深夜労働・休日労働との関係

 深夜(22:00~5:00)の時間帯に月60時間を超える法定時間外労働が発生した場合は、深夜割増賃金率25%以上+時間外割増賃金率50%以上=75%以上となります。
 また、月60時間の法定時間外労働の算定には、法定休日(例えば日曜日)に行った労働は含まれませんが、それ以外の休日(例えば土曜日)に行った法定時間外労働は含まれます。
 なお、使用者は1週間に1日または4週間に4回の休日を与えなければなりません。これを「法定休日」といいます。法定休日に労働させた場合は35%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

割増賃金の種類 支払う条件 割増賃金率
時間外手当・残業手当 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき 25%以上
時間外労働が限度時間(月45時間・年360時間等)を超えたとき 25%以上
(努力義務)
時間外労働が月60時間を超えたとき(大企業・中小企業) 50%以上
深夜手当 22時から5時までの間に勤務させたとき

25%以上

休日手当 法定休日(週1日)に勤務させたとき 35%以上

3.法定時間外労働時間・法定休日労働時間の具体的な算定方法

 以下の例によって、法定時間外労働時間と法定休日労働時間の具体的な算定方法を確認します。

出所:厚生労働省ホームページ

 1か月の起算日である1日(月)からの時間外労働時間数を累計して、60時間以下までは25%の割増率で、60時間を超えた時点からは50%の割増率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。なお、法定休日は日曜日、所定休日は土曜日とします。

  時間外労働時間 時間外労働時間累計 割増賃金率
第1週 5時間+5時間+2時間+3時間+5時間=20時間 20時間 25%
第2週 2時間+3時間+5時間+5時間+5時間=20時間 40時間
第3週 3時間+2時間+3時間+3時間+3時間=14時間 54時間
第4週 3時間+3時間=6時間 60時間
第4週 2時間+1時間+2時間+1時間=6時間 66時間 50%
第5週 1時間+1時間+2時間=4時間 70時間

 法定時間外労働時間数が60時間に達する第4週の23日(火)までは割増賃金率25%を適用し、60時間を超える第4週の24日(水)以降の10時間(累計:70時間-60時間)は割増賃金率50%を適用して割増賃金を計算します。
 この法定時間外労働時間数には所定休日(土曜日)の時間は含みますが、法定休日(日曜日)の時間は含みません。

 また、法定休日労働時間数は日曜日の5時間+3時間=8時間となり、この8時間に対して割増賃金率35%を適用して割増賃金を計算します。

 なお、月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の健康を確保するため、引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができます。
 代替休暇制度導入にあたっては、過半数組合、それがない場合は過半数代表者との間で労使協定を結ぶことが必要です。

賞与(ボーナス)の社会保険料と所得税の計算方法

 社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)と雇用保険料は毎月の給与から控除(天引き)しますが、ボーナス(賞与)に対しても社会保険料・雇用保険料はかかります。
 ボーナスから控除する社会保険料や所得税の計算方法は、毎月の給与から控除する場合と計算方法が異なります(雇用保険料は、ボーナスの場合も毎月の給与の場合も計算方法は同じです)。
 以下では、ボーナスに対する社会保険料・雇用保険料及び所得税の計算方法と、ボーナス支給後の手続きについて確認します。

1.賞与に対する社会保険料の計算方法

出所:全国健康保険協会ホームページ

 毎月の社会保険料は標準報酬月額に基づいて計算しますが、ボーナスから控除する社会保険料は「標準賞与額」に基づいて計算します。
 標準賞与額とは、支給する賞与額の1,000円未満の端数を切り捨てた金額をいいます。この標準賞与額に保険料率を乗じて社会保険料を算出し、算出された社会保険料を事業主と被保険者が労使折半で負担します。

 例えば、2022(令和4)年12月にAさん(兵庫県在住の38歳の従業員で扶養親族は1人)に400,800円のボーナスを支給する場合、ボーナスから控除する社会保険料と雇用保険料は次のように計算します。

標準賞与額400,000円×健康保険料率10.13%×1/2=20,260円(健康保険料)
標準賞与額400,000円×厚生年金保険料率18.3%×1/2=36,600円(厚生年金保険料)
実際支給額400,800円×雇用保険料率5/1000=2,004円(雇用保険料)※
控除合計額20,260円+36,600円+2,004円=58,864円

※社会保険料計算では、1,000円未満の端数を切り捨てた標準賞与額に保険料率を乗じますが、雇用保険料計算の際は1,000円未満の端数を切り捨てずに保険料率を乗じます。

 また、2022(令和4)年12月にBさん(兵庫県在住の41歳の従業員で扶養親族は1人)に400,800円のボーナスを支給する場合、ボーナスから控除する社会保険料と雇用保険料は次のように計算します。

標準賞与額400,000円×健康保険料率11.77%×1/2=23,540円(健康保険料・介護保険料)
標準賞与額400,000円×厚生年金保険料率18.3%×1/2=36,600円(厚生年金保険料)
実際支給額400,800円×雇用保険料率5/1000=2,004円(雇用保険料)
控除合計額23,540円+36,600円+2,004円=62,144円

2.賞与に対する所得税の計算方法

出所:国税庁ホームページ

 ボーナスに対する社会保険料と雇用保険料の計算ができたら、次は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いて、所得税(源泉徴収税額)の計算をします。
 所得税の計算方法は次のとおりです。

(1) まず、「前月の社会保険料等控除後の給与等の金額」を求めます。具体的には、その人の前月の給与額から前月の給与額に対する社会保険料・雇用保険料を差し引いた金額になります。
(2) 次に、その人の扶養親族等(源泉控除対象配偶者及び控除対象扶養親族)の数に応じて、(1)で求めた金額が記載されている行の「賞与の金額に乗ずべき率」を求めます。
(3) (2)で求めた率を、ボーナスの金額からボーナスにかかる社会保険料・雇用保険料を控除した金額に乗じて所得税を算出します。

 例えば、前月のAさんの給与が260,000円、社会保険料が37,102円、雇用保険料が1,300円だった場合、ボーナス400,800円に対する所得税は次のように計算します。

(1) 前月の給与額260,000円-前月の社会保険料37,102円-前月の雇用保険料1,300円=221,598円
(2) 扶養親族等の数が1人なので、(1)の金額は「94千以上243千円未満」の区分に該当し、賞与に乗ずべき率は2.042%。
(3) 所得税=(400,800円-58,864円)×2.042%=6,982円(円未満切捨て)

3.被保険者賞与支払届の提出

 事業主が被保険者および70歳以上被用者へ賞与を支給した場合は、支給日より5日以内に「被保険者賞与支払届」により支給額等を届出します。
 この届出内容により標準賞与額が決定され、これにより賞与の保険料額が決定されるとともに、被保険者が受給する年金額の計算の基礎となるものですので、忘れずに届出をしなければなりません。
 また、賞与にかかる保険料は、毎月の保険料と合算されて賞与支払月の翌月の「納入告知書(口座振替の場合は、納入告知額通知書)」で通知されます。

労働保険の年度更新の仕組みと会計処理(仕訳)

1.労働保険とは?

 労働保険は、労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険に分かれます。
 労災保険は、従業員が仕事中にけがをしたり通勤途中で事故にあった場合に、その治療費や診療費を負担する保険で、その保険料は事業主が全額負担します。
 雇用保険は、失業した場合に当面の生活費を補償する保険で、その保険料は負担割合に応じて事業主と従業員が負担します。

※ 2023(令和5)年度の雇用保険料率については、本ブログ記事「令和5年度雇用保険料率が改定されます」をご参照ください。

2.労働保険の年度更新とは?

 労働保険料を計算する期間を「保険年度」といい、毎年4月1日から翌年の3月31日までの1年間を単位とします。この1年間に支払われる賃金総額の見込額に事業の種類ごとに定められた保険料率を掛けて算出した概算保険料を、その年度の6月1日から7月10日までに当年度分(4/1~翌3/31)として労働基準監督署(ハローワーク等)へ申告・納付します。

 労働保険料の申告・納付では、当年度分の概算保険料だけではなく、前年度に支給された実際の賃金総額をもとに算定した確定保険料と前年度に納付した概算保険料との差額を精算します。この一連の手続きを「労働保険の年度更新」といいます。
 つまり、年度更新は、前年度の概算保険料の精算と当年度の概算保険料の納付という2つの手続きから成ります。
 概算保険料の精算は、前年度分の確定保険料が前年度に納付した概算保険料より多い場合は前年度の不足分を納付し、前年度分の確定保険料が前年度に納付した概算保険料より少ない場合は当年度の概算保険料の納付額に充当されます(原則として還付金は受け取りません)。

 なお、労働保険の年度更新の際には、労災保険料と雇用保険料の他に一般拠出金も納付します。
 一般拠出金とは、石綿(アスベスト)健康被害者の救済費用にあてるため創設されたもので、全額を事業主が負担します。

3.年度更新の会計処理

 労働保険の会計処理は、前年度の概算保険料を精算する必要があることから、他の社会保険(健康保険・厚生年金)より少し複雑です。
 会計処理上のポイントは、労働保険の手続きの流れと誰が保険料を負担するのかを理解することです。そのうえで、事業主負担分は法定福利費として費用処理し、従業員負担分は立替金などの勘定科目で処理します。

 労働保険の会計処理には、法人税法で認められている会計処理と期間帰属を重視した会計処理がありますが、ここでは実務的に有用な前者の会計処理について確認します。

【設例】
(1) 前年度(R4年度)の概算保険料329,200円の内訳
労災保険:85,800円
雇用保険:243,400円(事業主負担分162,300円 従業員負担分81,100円

(2) 前年度(R4年度)の確定保険料337,800円の内訳
労災保険:88,400円
雇用保険:249,400円(事業主負担分166,300円 従業員負担分83,100円

(3) 当年度(R5年度)の概算保険料393,200円の内訳
労災保険:88,400円
雇用保険:304,800円(事業主負担分194,000円 従業員負担分110,800円

※ 一般拠出金は省略します

(1) 前年度(R4年度)概算保険料の納付

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法定福利費 248,100 ※2 現金預金 329,200
立替金 ※1 81,100 ※3    

※1 立替金勘定以外に「仮払金」勘定なども可
※2 事業主負担分:85,800+162,300=248,100
※3 従業員負担分:81,100
※4 (参考)R4年度(R4.4.1~R5.3.31)の給与支給時の仕訳(1年間の合計額)

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
給料手当 ××× 現金預金 ×××
    立替金 ※1 83,100 ※2

※1 立替金勘定以外に「預り金」勘定なども可
※2 前年度(R4年度)雇用保険(従業員負担分)の確定保険料

(2) 前年度(R4年度)概算保険料と確定保険料の精算

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法定福利費 6,600 ※1 現金預金 8,600
立替金 2,000 ※2    

※1 事業主負担分:88,400+166,300-248,100=6,600
※2 従業員負担分:83,100-81,100=2,000

(3) 当年度(R5年度)概算保険料の納付

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法定福利費 282,400 ※1 現金預金 393,200
立替金 110,800 ※2    

※1 事業主負担分:88,400+194,000=282,400
※2 従業員負担分:110,800

 年度更新の一連の流れに沿った会計処理(仕訳)を示すと、上記のようになります。あとは保険年度ごとに(2)と(3)の仕訳を繰り返し行っていくことになります。