65歳からの老齢基礎年金と雇用保険

1.年金の受給資格期間が10年に短縮された

 原則65歳から老齢基礎年金を受け取るためには、保険料納付済期間(国民年金保険料納付済期間や厚生年金保険、共済組合等の加入期間を含みます)と国民年金の保険料免除期間などを合計した「受給資格期間」が、これまでは25年(300月)以上が必要とされていました。

 しかし、2017年(平成29年)8月1日からは、受給資格期間が10年(120月)以上あれば老齢基礎年金を受け取ることができるようになりました。

 なお、受給資格期間を満たして老齢基礎年金を受給できる方が、1か月でも厚生年金保険に加入していた場合には、原則65歳から老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金も受給できます。

2.65歳以上の従業員も雇用保険の適用対象となった

 先日、顧問先の社長から「65歳以上の従業員を雇った場合、雇用保険の適用対象となるか?」という質問を受けました。

 そこで、調べてみると、2017年(平成29年)1月1日以降は、これまで適用除外となっていた65歳以上の新規雇用者についても、雇用保険の適用対象となったようです。

(1) 2016年(平成28年)12月31日までの旧制度

 以前の制度では、65歳以上の新規雇用者は、雇用保険に加入することはできませんでした。
 ただし、65歳以前から働き、65歳以降も同じ会社で働き続ける場合は、65歳になった段階で高年齢継続被保険者という扱いになり、雇用保険に加入し続けることができます。

 また、離職して求職活動をする場合には、高年齢求職者給付金(賃金の50%~80%の最大50日分)が1度だけ支給されました。
 なお、毎年4月1日時点で満64歳以上になる方については雇用保険料が免除されています。

(2) 2017年(平成29年)1月1日以降の新制度

 2017年(平成29年)1月1日からの新制度では、65歳以降に雇用された従業員も雇用保険の加入要件を満たす場合は雇用保険に加入することができます(雇用保険の加入要件については、本ブログ記事「雇用保険を遡って加入できるか?」を参照してください)。
 また、その従業員が離職して求職活動をする場合には、その都度、高年齢求職者給付金が支給されます。支給要件・内容はこれまでと同様で、年金との併給も可能です。

 介護休業給付、教育訓練給付等についても、新たに65歳以上の方も対象となります。

 さらに、2020年度(令和2年度)より、64歳以上の方の雇用保険料の徴収免除が廃止され、原則通り徴収が開始されます(2020年(令和2年)3月まで免除されます)。 

雇用保険を遡って加入できるか?

1.雇用保険の加入要件

 雇用保険の被保険者は、 常用・パート・アルバイト・派遣等、名称や雇用形態にかかわらず、 次の要件をいずれも満たす方です。

 (1) 1 週間の所定労働時間が 20時間以上であり、
 (2) 31 日以上の雇用見込みがある場合

 (1)の要件は、例えばアルバイトの方が1日あたり5時間で週3日勤務する場合は、1週間の所定労働時間が15時間となりますので加入要件を満たしませんが、週4日勤務の場合は1週間の所定労働時間が20時間となりますので加入要件を満たします。

 この所定労働時間は「雇用契約書」の内容により判断します。
 1日5時間週3日勤務という雇用契約を結んでいた場合に、たまたま忙しい日が続いたため1週間の労働時間が20時間以上になったとしても、(1)の要件を満たしたことにはなりません。
 もし、1週間の所定労働時間が20時間以上となることが常態となった場合は(1)の要件を満たすことになりますが、その場合は雇用契約を変更する必要があります。

 (2)の要件は、具体的には以下の場合を指します。
 ① 期間の定めがなく雇用される場合
 ② 雇用期間が31日以上である場合
 ③ 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない場合
 ④ 雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合

 上記(1)と(2)の加入要件を満たす場合は、本人が希望するか否かにかかわらず被保険者となり、雇用保険料の申告納付が必要です。

 なお、65歳以上の新規雇用者の雇用保険については、本ブログ記事「65歳からの老齢基礎年金と雇用保険」を参照してください。

2.雇用保険の加入手続きを失念していた場合

 労働保険申告書の作成過程で、雇用保険の加入要件を満たす従業員がいるにもかかわらず、事業主が加入手続きを失念していたことが判明することがあります。
 この場合、雇用保険を遡って加入することはできるのでしょうか?

 次の加入要件を満たす場合は、原則として2年間遡って加入することができます。

(1) 1 週間の所定労働時間が 20時間以上であり、
(2) 31 日以上の雇用見込みがある場合

 さらに、2010年(平成22年)10月からは雇用保険料が給与から天引きされていたことが明らかで ある場合は、特例として2年を超えて遡って雇用保険の加入手続きができるようになりました。

 手続きとしては、雇用保険被保険者資格取得届に加えて遅延理由書(書式は任意ですがハローワークで入手することもできます)の提出が必要です。
 また、賃金台帳や給与明細、タイムカード等の提出も必要です。

上場株式等の配当所得及び譲渡所得に係る住民税の課税方式は申告不要が得策

 2017年度(平成29年度)税制改正で、上場株式等の配当所得・譲渡所得について、所得税と住民税で異なる課税方式を選択できるようになりました。

※ 2023(令和5)年分の確定申告から、上場株式等の配当所得・譲渡所得に係る課税方式を所得税と一致させることになりました(所得税と住民税で異なる課税方式を選択することはできません)。
 これにより扶養控除や配偶者控除等の適用、非課税判定、国民健康保険税の保険料算定など、各種行政サービスに影響する場合がありますのでご注意下さい。

1.上場株式等の配当所得の課税方式

 上場株式等の配当所得については、所得税及び住民税ともに以下の課税方式を選択することができます。

(1) 申告不要
(2) 総合課税
(3) 申告分離課税

 所得税の確定申告書において、上場株式等の配当所得を総合課税又は申告分離課税として申告した場合は、住民税も同様にその課税方式が適用されます。
 しかし、納税通知書が送達される日までに、所得税の確定申告書とは別に住民税の申告書「上場株式等の配当・譲渡所得等の課税方式選択申告書」を提出することにより、所得税と異なる課税方式(申告不要、総合課税、申告分離課税)を選択することができます(例えば所得税は総合課税、住民税は申告不要など)。

2.上場株式等の譲渡所得の課税方式

 また、上場株式等の譲渡所得については、所得税及び住民税ともに以下の課税方式を選択することができます。

(1) 申告不要
(2) 申告分離課税

 この場合も、納税通知書が送達される日までに、所得税の確定申告書とは別に住民税の申告書を提出することにより、所得税と異なる課税方式(申告不要、申告分離課税)を選択することができます(例えば所得税は申告分離課税、住民税は申告不要など)。

3.住民税は申告不要が得策

 申告した上場株式等の配当所得と譲渡所得は、住民税の非課税判定や社会保険料(国民健康保険料・後期高齢者医療保険料)算定の基準となる総所得金額や合計所得金額に含まれます。社会保険料(国民健康保険料・後期高齢者医療保険料)には、この住民税の課税所得に連動する「所得割」の仕組みがあるため、申告によって所得が増えれば社会保険料も増えるリスクがあります。
 申告することで所得税の負担を軽減できても、社会保険料が増えれば、全体として負担増となる可能性があります。しかし、住民税を申告不要としておけば社会保険料には影響がありません。
 したがって、住民税は申告不要を選択することが得策といえます
 

個人経営の飲食業・理美容業等は社会保険加入を強制されない

 会計事務所に寄せられる相談は税金のことだけではありません。先日も飲食業を営む個人事業主さんから、社会保険に関する次のような質問を受けました。
 「従業員を10人に増やしたいが、社会保険に加入しなければならないか?」 

1.個人事業は5人以上の雇用で強制加入

 法人の場合、たとえ1人でも従業員を雇ったときは、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しなければなりません。
 個人事業の場合は、5人以上の従業員を雇ったときは社会保険の加入が強制されます。
 では、10人の従業員を雇用する個人経営の飲食店に社会保険の加入義務はあるのでしょうか?

2.「法定16業種」以外は任意加入

 答えは「否」です。
 5人以上の従業員を雇用する個人事業主でも、「法定16業種」に該当しない農業、漁業、一部のサービス業(旅館、飲食、理美容業、弁護士事務所、税理士事務所など)を営む者は、社会保険への加入が任意とされています。
 したがって、個人経営の飲食店は、5人以上の従業員を雇っても社会保険の加入を強制されることはありません。

※ 被用者保険(健康保険「協会けんぽ」・厚生年金)の適用を拡大する一環として、これまで被用者保険の適用業種でなかった税理士をはじめ、公認会計士、弁護士、司法書士など10の士業についても、常時5人以上の従業員を使用している個人事務所を強制適用業種に加えることとした「年金制度機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が2020(令和2)年の通常国会で成立し、公布されました(2022(令和4)年10月1日から施行)。改正内容については、本ブログ記事「5人以上の従業員を雇用している士業の個人事務所は令和4年10月から社会保険の加入が必要です」をご参照ください。

3.「法定16業種」とは?

 法定16業種とは、製造業・土木建築業・鉱業・電気ガス事業・運送業・貨物積みおろし業・清掃業・物品販売業・金融保険業・保管賃貸業・媒介周旋業・集金案内広告業・教育研究調査業・医療業・通信報道業・社会福祉事業及び更生保護事業をいいます。

外国人・年金受給者を雇用した場合や試用期間中の社会保険の取扱い

1.健康保険・厚生年金保険の加入要件

 健康保険・厚生年金保険は正社員だけではなく、法人の代表者や役員も被保険者になります。
 また、パートやアルバイトの方でも、1週間の所定労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上である場合は、被保険者になります。
 さらに、正社員の4分の3未満であっても、次の5要件をすべて満たす方は被保険者になります。

(1) 週の所定労働時間が20時間以上
(2) 勤務期間が1年以上見込まれること
(3) 月額賃金が8.8万円以上
(4) 学生以外
(5) 従業員501人以上の企業に勤務していること

※ (2)の要件は、2022(令和4)年10月以降は「1年以上」が「2か月を超える」見込みであることに変わります。
 また、(5)の要件は、2022(令和4)年10月以降は「501人以上」が「101人以上」に、2024(令和6)年10月以降は「51人以上」に変わります。
 
 では、次のような場合の被保険者はどのようになるのでしょうか?

2.外国人を雇用した場合

 上記1の加入要件を満たす方は、国籍を問わず被保険者になります。

3.年金受給者を雇用した場合

 70歳未満で老齢厚生年金(特別支給を含む)を受給している人を雇用した場合でも、上記1の加入要件を満たす方は被保険者になります。

4.試用期間中の場合

 法律上の雇用契約や本人の同意にかかわりなく、上記1の加入要件を満たす方は、試用期間中であっても被保険者になります。