先端設備等導入計画の認定がとれました―申請書類等の実際の記載例を紹介します

1.生産性向上特別措置法による支援

 2018年(平成30年)6月6日に施行された生産性向上特別措置法では、2020年度(平成32年度)までを生産性革命・集中投資期間と位置づけ、中小企業の生産性革命の実現のため、市区町村の認定を受けた中小企業の設備投資を支援しています。

 具体的には、中小企業者等が「先端設備等導入計画」を作成し、国から導入促進基本計画の同意を受けている市区町村に提出して同計画について認定を受けた場合は、税制支援、金融支援、予算支援を受けることができるといったものです。

 税制支援とは、導入した設備の固定資産税(償却資産税)の課税標準を、3年間にわたってゼロ以上2分の1以下の範囲内で軽減する制度です(固定資産税の軽減措置については、本ブログ記事「生産性向上特別措置法による新固定資産税の特例」を参照)。

 金融支援とは、先端設備等導入計画に基づく事業について、必要な資金繰りを支援(信用保証)する制度です。

 予算支援とは、認定事業者に対する一部補助金における採択を優先(審査時の加点)する制度です。

 先日、製造業を営むA社から、上記のうち税制支援を受けたいというご相談がありました。設備取得まで土曜日曜を含めて10日しかない状況でしたが、B市の担当者に事前確認した上で必要書類を提出し、無事認定を受けることができました。

 今回は、その際に得られた書類記載上の注意点等について述べていきます。

2.B市に確認したこと

 先端設備等導入計画は、設備取得前に認定を受けなければなりません。設備取得まで時間がなかったので、書類作成に先立って、B市の担当者に以下の点について確認しました。

(1) 認定に間に合うか?

 B市のホームページには、計画認定までの目安として2週間程度と記載されていました。
 そこで、設備の取得まで10日しかない状況で申請して、認定が間に合うかどうか尋ねたところ、明後日までに書類がB市に届くなら審査はできるとのことでした(つまり、土曜日曜を除く6日間で審査をすることは可能ということです)。

(2) 書類提出方法は郵送だけか?

 B市のホームページには、書類の提出は郵送のみとありました。時間がなかったので、作成した申請書類をB市に持参するつもりだったのですが、郵送でしか受け付けられないとのことでした。

 郵送の場合、速達で出してもB市に到着するまで1日かかります。すると、認定までのスケジュールを考えると、申請書類は1日で仕上げる必要がありました。

 設備取得まで10日-土曜日曜の2日-郵送にかかる1日-審査にかかる6日=1日

(3) 書類に不備があった場合は?

 提出した書類に不備があった場合は、A社へメールで連絡が入るとのことでした。
 その後、修正した書類が届くまで審査は中断されるとのことでしたので、不備は許されない状況でした。
 実は、「先端設備等導入計画」に1か所不備があったのですが、押印が不要な書類でしたので、修正したものは郵送によらずメール送信にて済ますことができました。 

3.書類記載上の注意点

 このような状況のもと、1日で以下の申請書類を仕上げなくてはなりません。

(1) 先端設備等導入計画に係る認定申請書
(2) 先端設備等導入計画
(3) 先端設備等導入計画に関する確認書
(4) B市暴力団排除条例に係る誓約書
(5) 申請書提出用チェックシート

 なお、税制支援を受ける場合は、上記以外に工業会証明書(写し)も必要ですが、A社は事前に入手されていました。

 では、これらの書類について、記載上の主な注意点と記載例を紹介していきます。

(1) 先端設備等導入計画に係る認定申請書

① 「宛名」(認定申請書の提出先)は、先端設備等が所在する市区町村長宛となります(B市市長 〇〇〇〇様)。本店の所在地を管轄する市区町村長ではありません。

② 「住所」(認定申請書の申請者)は、本店所在地を記載します。支店等で手続きをする場合でも、支店等の所在地ではなく本店の所在地を記載します。

③ 「名称及び代表者の氏名」で注意を要するのは、「代表者の氏名」です。名称は「A株式会社」、代表者の氏名は「代表取締役 〇〇〇〇」と記載します。

 B市によると、この代表取締役という役職名が抜けている場合は、修正の対象になるそうです。あらかじめB市担当者からよくある間違いとして聞いていましたが、聞いていなければ抜かしていたかもしれません。

(2) 先端設備等導入計画

「先端設備等導入計画」の記載要領は、上記(1)の「先端設備等導入計画に係る認定申請書」に載っています。
 主な注意点は次のとおりです。

① 「1 名称等」

(イ) 「2 代表者名(事業者が法人の場合)」欄には、念のため「代表取締役 〇〇〇〇」と記載しました。

(ロ) 「5 常時使用する従業員の数」欄に、役員は含めません。また、正社員以外のパート、アルバイト、契約社員等を従業員数に含めるかどうかは、個別判断とされています(含めても含めなくてもよい)。

② 「2 計画期間」

 計画期間は、3年間、4年間、5年間とされています。先端設備等導入計画の実施時期の月から起算して36か月、48か月、60か月のいずれかの期間を設定します。
 A社の場合は3年間の計画とし、「平成31年3月~平成34年2月」と記載しました。

 気をつけなければならないのは、例えば「平成31年3月~平成34年3月」のような期間設定はできないということです(年号が問題なのではありません)。
 「平成31年3月~平成34年3月」は37か月であり、年単位に端数が生じています。計画期間は3年間(36か月)、4年間(48か月)、5年間(60か月)のいずれかしか設定できません。
 B市によると、この間違いも多いそうです。

③ 「3 現状認識」

(イ) 「①自社の事業概要」は、適用を受ける業種の内容を記載します。A社の場合は、次のように記載しました。

「創業〇〇年の法人事業者で、アルミなどの非鉄金属の切削・表面処理を中心に、精密機器等の部品加工及び製造を行う。」

(ロ) 「②自社の経営状況」は、売上高や営業利益率の推移による経営分析を行い、自社の特徴や経営上の課題、改善点、目標などを記載します。
 A社の場合は、概ね次のように記載しました。

「売上は平成29年3月期が〇〇千円、平成30年3月期が〇〇千円と減少しているが、営業利益は〇〇千円から〇〇千円に増加しており、営業利益率も〇.〇%から〇.〇%へ改善されている。
 他方で、〇〇、〇〇が、今後、当社の生産性を高め、業績を伸ばしていく上での課題である。」

④ 「4 先端設備等導入の内容」

(イ) 「(1) 事業の内容及び実施時期」欄には、「① 具体的な取組内容」と「② 将来の展望」を記載します。
 「① 具体的な取組内容」は、具体的な設備内容と導入による効果を記載します。
 注意しなければならないのは、先端設備等の導入による「人員削減のための計画」は、先端設備等の導入に関する指針に定める「雇用への配慮」の観点から認められないということです。
 A社の場合は、次のように記載しました。

「従来のNC工作機械の老朽化に伴い、本社工場に立形マシニングセンタを導入する。当該設備の導入により、手動式であった工具交換を自動化し、製造時の省力化によるコスト削減を図る。
 また、立形マシニングセンタは、加工物の複数面に同時に数種類の加工を連続して行うことができ、これまでよりも複雑な形状の加工も可能となるため、受注の変化に応じた柔軟な生産体制を構築することができる。」

 「② 将来の展望」は、上記の「①具体的な取組内容」の結果、期待される自社の生産性向上などを記載します。
 A社の場合は、次のように記載しました。

「新設備の導入で作業の自動化・省力化が進み、熟練工以外の工員であっても作業可能領域が広がるため、人的資源を適切に配置することができるようになる。人的資源の適切な配置によって製品の品質が向上し、より多くの受注にも柔軟な対応が可能となるため、生産性向上の実現が可能となる。」

(ロ)「(2) 先端設備等の導入による労働生産性向上の目標」

現状(A) 計画終了時の目標(B) 伸び率(B-A/A)
〇〇千円 〇〇千円 9.0%

 労働生産性の伸び率は、設備導入の直近の事業年度末から計画終了時において、年平均3%以上向上する必要があります。
 A社の場合、計画期間を3年に設定しましたので、伸び率が9%(3%×3年)以上向上している必要があります。

 労働生産性は、以下の算式により算定します。

 労働生産性=(営業利益+人件費+減価償却費)/労働投入量

 上記算式の人件費は、製造原価の労務費だけではなく販管費の人件費も対象になります。役員報酬を含めるかどうかは、個別判断とされています(含めても含めなくてもよい)。

 減価償却費は会計上の減価償却費が対象となり、製造原価及び販管費の減価償却費の合計となります。会計上の減価償却費は費用配分の原則に基づくことから、税務上認められている即時償却を予定している場合は計画終了時の労働生産性が正しく算定されないこともあるため、計算上は各計画期間に配分されるようにします。

 労働投入量は、「労働者数」又は「労働者数×1人当たりの年間就業時間」となります。労働者数は、上記算式の人件費の計算の基礎となった人数にします(人件費に役員報酬を含めた場合は、労働者数にも役員を含めます)。
 A社の場合は、労働者数を労働投入量としました。

 労働生産性の「現状(A)」欄は、設備導入の直近の事業年度末の決算書から数字を拾います。「計画終了時の目標(B)」欄は、A社の場合、伸び率が9.0%以上となるように逆算して算定しました。

 B市によると、労働生産性の算定にあたっては、現状と計画終了時において期間比較性が確保されるように、算定条件は必ず同一にしなければならないとのことでした(例えば、「現状(A)」欄の人件費に役員報酬を含めたのであれば、「計画終了時の目標(B)」欄にも役員報酬を含める必要があります)。
 また、計画終了時に9.0%以上の伸び率が達成できなかったとしても、罰則等はありません。

(ハ)「先端設備等の種類及び導入計画時期」

  設備名/型式 導入時期 所在地
1 マシニングセンタ/MT-12R 平成31年3月 〇〇県〇〇市〇〇3-4-5
2      
  設備等の種類 単価(千円) 数量 金額(千円) 証明書等の文書番号
1 機械装置 30,000 1 30,000 31-6147
2          
  設備等の種類 数量 金額(千円)
設備等の種類別小計 機械装置 1 30,000
合計   1 30,000

 「設備名/型式」欄は、工業会証明書に記載されている「設備の名称」と「設備型式」を転記します。
 「所在地」欄は、取得予定の先端設備等が設置される住所を記載します。〇〇県や〇〇府から記載します。
 「設備等の種類」欄と「証明書等の文書番号」欄は、工業会証明書に記載されている「減価償却資産の種類」と「整理番号」を転記します。
 「金額」欄は千円単位となっていますので、ご注意下さい。

⑤ 「5 先端設備等導入に必要な資金の額及びその調達方法」

使用・用途 資金調達方法 金額(千円)
先端設備等購入資金 融資 25,000
  自己資金 5,000

 「使用・用途」欄は、「先端設備等購入資金」と記載します。
 「資金調達方法」欄は、「自己資金」「融資」「補助金」のいずれかを記載します。
 「金額」欄は、上記④(ハ)下段の表にある「合計」欄と必ず一致するように記載します。実は、B市から修正の指摘を受けたのは、この箇所でした。
 当初、金額欄には融資を受ける25,000千円だけを記載していましたが、取得設備の合計金額30,000千円と一致していないとの指摘でした。残りの5,000千円についてA社に確認したところ自己資金で賄うとのことでしたので、上記のように修正してB市にメール送信しました。
 時間がなくあせっていたとはいえ、金額の不一致に気づかなかった私のケアレスミスでした。

(3) 先端設備等導入計画に関する確認書

 この書類は、税理士事務所等の認定経営革新等支援機関が、中小企業者等が作成した先端設備等導入計画の内容を確認し発行するものです。

 B市によると、間違いが多いのは日付だそうです。確認書の日付は、必ず申請書の日付より前の日付としなければなりません。

 「宛名」は、先端設備等導入計画を申請する「A株式会社 代表取締役 〇〇〇〇殿」と記載します。
 認定支援機関の「代表者役職」は、個人の税理士事務所に複数の税理士(所属税理士)がいる場合は、「所長税理士」などと記載します。

 「1.認定経営革新等支援機関担当者名等」の「①認定経営革新等支援機関担当者名」は、先端設備等導入計画事案を直接担当するのであれば、所長税理士、所属税理士以外に、税理士資格を持たない職員でもいいとのことでした。

 「2.先端設備等導入計画の実施に対する所見」は、導入する先端設備等が生産・販売活動等に直接利用されているか、先端設備等の導入によって労働生産性向上の目標に寄与するかといった観点から内容を確認します。

 A社の場合は、次のように3つの観点から記載しました。

「(1) 導入する先端設備等が生産活動に直接供されるかどうかについて
 マシニングセンタの導入により、作業の自動化・省力化によるコスト削減が可能となる。
 また、当該設備の導入により複雑な形状の加工も可能となるため、受注の変化に応じた柔軟な生産体制を構築することができるようになる。
 よって、今回導入する設備は、労働生産性の向上に資するものであり、生産に直接供される設備である。

(2) 先端設備等の導入の確実性について
 導入時期については、平成31年3月を見込んでおり、納入業者との調整もできていることから、問題ない。
 また、日本政策金融公庫からの設備資金2,500万円の融資の実行が確実であり、自己資金も潤沢であることから、導入に特段の問題はなく、導入は確実である。

(3) 労働生産性向上の目標達成見込について
 平成30年3月期において、営業利益〇〇千円、人件費〇〇千円、減価償却費〇〇千円、実労働者数〇〇人、労働生産性〇〇千円であった。
 先端設備等を導入することによって、計画期間終了後には、営業利益〇〇千円、人件費〇〇千円、減価償却費〇〇千円、実労働者数〇〇人、労働生産性〇〇千円となり、3年間で労働生産性の向上率9%を達成する計画である。
 雇用を確保しながら売上増による営業利益の増加が想定されることから、当該計画は妥当であり、労働生産性向上の目標達成見込みは高い。」

(4) B市暴力団排除条例に係る誓約書

 「宛名」は、「先端設備等導入計画に係る認定申請書」の宛名と同じく、先端設備等が所在する市区町村長宛となります(B市市長 〇〇〇〇様)。

 「商号又は名称」と「氏名又は職及び代表者名」は、フリガナを付けます。代表者名には、「代表取締役 〇〇〇〇」と記載しました。

 なお、この誓約書はB市独自の提出書類ですので、すべての市区町村で必要ということではありません。

(5) 申請書提出用チェックシート

 記入上の注意点は特にありませんが、「事業者名」は「A株式会社 代表取締役 〇〇〇〇」、「代表者名」は「代表取締役 〇〇〇〇」というように、役職名を記載しました。
 「申請者チェック」欄に✔を付けて提出します。

4.まとめ

 今回は申請までのスケジュールがタイトで大変でしたが、事前に市の担当者に確認・相談することが重要であると感じました。
 市区町村によって、提出書類や提出方法等が異なる場合もありますので、事前の確認は重要です。
 また、設備の取得が10日後に迫っていることを相談した上で申請しましたので、市の担当者も迅速に対応してくれたのだと思います。
 認定は、設備取得日の前日にとれました。 

税制改正による2019年4月1日以降の設備投資税制

 中小企業者等の設備投資を引き続き促進するため、中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制及び中小企業経営強化税制について、次のような改正が行われました(2019年度(平成31年度)税制改正)。

※ 2021(令和3)年度税制改正で、中小企業投資促進税制に商業・サービス業・農林水産業活性化税制を盛り込む形で制度を一本化した上で、中小企業投資促進税制の適用期限が2023(令和5)年3月31日まで延長されました。なお、商業・サービス業・農林水産業活性化税制は適用期限(2021(令和3)年3月31日)の到来をもって廃止されました。改正内容等については、本ブログ記事「令和3年度改正後の中小企業投資促進税制」をご参照ください。

1.中小企業投資促進税制

(1) 制度概要

 この制度は、青色申告書を提出する中小企業者等(従業員数1,000人以下の個人事業主を含む)が、新品の機械装置等を取得等し指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除が選択適用できるというものです( ただし、資本金3,000万円超1億円以下の法人は、税額控除の適用はありません)。

(2) 改正内容

 この制度については、適用期限が2021年(平成33年)3月31日まで2年延長されました。

 中小企業投資促進税制については、本ブログ記事「中小企業等経営強化法の認定が不要の設備投資税制」を参照して下さい。 

2.商業・サービス業・農林水産業活性化税制

(1) 制度概要

 この制度は、認定経営革新等支援機関等(認定を受けた税理士、公認会計士、商工会議所等)から経営改善に関する指導及び助言を受けた青色申告書を提出する中小企業者等(従業員数1,000人以下の個人事業主を含む)が、新品の経営改善に資する器具備品や建物附属設備を導入した場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除が選択適用できるというものです(資本金3,000万円超1億円以下の法人は、税額控除の適用はありません)。

(2) 改正内容

 この制度については、経営改善設備の投資計画の実施を含む経営改善により、売上高又は営業利益の伸び率が2%以上となる見込みであることについて認定経営革新等支援機関等の確認を受けることを適用要件に加えた上で、適用期限が2021年(平成33年)3月31日まで2年延長されました。
 この改正は、2019年(平成31年)4月1日以後に取得等をする経営改善設備に適用されます。
 なお、同日前に交付を受けた経営改善指導助言書類に係る経営改善設備のうち同年9月30日までに取得等をしたものについては、上記の確認を受けることを不要とする経過措置が講じられます。

 商業・サービス業・農林水産業活性化税制については、本ブログ記事「中小企業等経営強化法の認定が不要の設備投資税制」を参照して下さい。 

3.中小企業経営強化税制

(1) 制度概要

 この制度は、青色申告書を提出する中小企業者等(従業員1,000人以下の個人事業主を含む)が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき一定の新品設備を取得し指定事業の用に供した場合、即時償却又は10%の税額控除(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)を選択適用できるというものです。

(2) 改正内容

 この制度については、特定経営力向上設備等の範囲の明確化及び適正化を行った上で、適用期限が2021年(平成33年)3月31日まで2年延長されました。

「特定経営力向上設備等の範囲の明確化及び適正化」とは、具体的には、2分の1超の売電を見込む太陽光発電設備を対象設備から除外することを意味します。

 全量売電を目的とした太陽光発電設備は中小企業経営強化税制の対象になりませんが、発電した電気の一部を指定事業に使用(例えば自社の製造工場で使用)し、余った電気を売電(余剰売電)する場合は対象となります。
 ところが、最近では、太陽光発電設備の敷地に自動販売機を設置し、そこにわずかな電気を使うことで形式的に指定事業に係る要件を満たすといった、制度趣旨に反するような事例がみられるようになったことから、2分の1超の売電を見込む設備については対象設備から除外されることとなりました。

 また、売電を予定している場合には、経営力向上計画の認定申請時に一定の書類(発電の用に供する設備の概要や当該設備による発電量等の見込みを記載)の添付が義務付けられました。

 中小企業経営強化税制については、本ブログ記事「中小企業等経営強化法の認定が必要な設備投資税制」を参照して下さい。

使用人賞与を未払計上する場合の注意点

1.損金算入の要件

 利益が出ている法人では、決算対策として使用人賞与を未払計上することがあります(いわゆる決算賞与です)。
 この決算賞与を損金算入するためには、以下の賞与の類型に応じて、それぞれの要件を満たすことが必要です。

(1) 支給予定日がすでに到来している賞与

  就業規則等で定められている支給予定日が到来している賞与については、次の要件を満たす必要があります。

① 使用人に支給額の通知をしていること
② その支給予定日又はその通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理していること

 上記2要件を満たす使用人賞与については、支給予定日又は通知日のいずれか遅い日の属する事業年度に損金算入することができます。
 使用人賞与については、実際に支給をした日の属する事業年度に損金算入するのが原則ですが、この規定はその例外として、内国法人が資金繰りが悪化している等の事情で労働協約又は就業規則により定められている支給予定日が到来していながら賞与が未払状態になっている場合には、たとえ未払であっても損金の額に算入することを認めるものです。

(2) 翌期の1か月以内に支払う賞与

 翌期に支給する使用人賞与については、次の要件を満たす必要があります。

① 支給額を各人別に、かつ、全員に通知をしていること
② その支給額につき①の通知をした日の属する事業年度 終了の日の翌日から1か月以内に賞与を支給すること
③ その支給額につき①の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること

 上記3要件を満たす使用人賞与については、通知日の属する事業年度に損金算入することができます。
 一般に、賞与はその支給額を通知するのとほぼ同時に支給されるのが慣行となっているものの、事業年度末において各人別に支給額が通知され、たまたま支給が遅れているような場合にまで一切損金算入することを認めないのは適当でないことから、一定範囲で通知をした日の属する事業年度においても損金の額に算入することを認めた上で、取扱いの統一性を確保し恣意性を排除する観点から、上記3要件が規定されています。

2.決算賞与の留意点

 決算賞与を未払計上するにあたっての留意点は以下のとおりです。

(1) 使用人賞与の額には、使用人兼務役員に対して支給する賞与のうち使用人としての職務に対応する部分の金額が含まれます。

(2) 例えば「基本俸給×〇か月×業績割合」などのような支給額の算式を通知しても、支給額を通知したことにはなりません。業績割合が確定していないため、支給額も決定したものとはいえないためです。
 また、「基本俸給×〇か月」などのような支給額の算式は、使用人自身が支給額を計算できますが、法令上はあくまでも「支給額」の通知を求めていますので、具体的な支給額を通知することが望ましいといえます。

(3) 税務調査では、個々の使用人に対して実際に通知されたか否かが確認事項となりますので、すべての使用人別に書面やメールで支給額を通知して証拠資料を残しておくことが必要です。

(4) 所得拡大促進税制の適用にあたって決算賞与の未払計上によって賃金要件を充足している場合、税務調査で決算賞与の損金算入が否認されると所得拡大促進税制の適用も否認されてしまうリスクがあります。

※ 所得拡大促進税制は、2022(令和4)年4月1日以降「賃上げ促進税制」に呼称が改められ、適用要件などの見直しが行われています。賃上げ促進税制の詳細については、本ブログ記事「中小企業者等の賃上げ促進税制《令和4年4月1日~令和6年3月31日開始事業年度》」をご参照ください。

中小企業等経営強化法と生産性向上特別措置法の固定資産税の特例の比較

1.両制度の比較の意義

 2018年度(平成30年度)税制改正で、新たに生産性向上特別措置法(2018年(平成30年)6月6日施行)による固定資産税の特例(以下、「新固定資産税の特例」といいます)が創設されました。
 この創設に伴い、中小企業等経営強化法による固定資産税の特例(以下、旧固定資産税の特例」といいます)は、2019年(平成31年)3月31日をもって終了します。
 両制度とも地方税における設備投資税制であり、赤字企業でも減税が受けられるなど基本的には同様の制度といえますが、特例措置の内容など異なる点もあります。
 旧固定資産税の特例の廃止を間近に控えた今、両制度を比較することによって、新固定資産税の特例に対する理解も深まるものと思われますので、今回は両制度の比較を行います。

※ 新固定資産税の特例については、対象範囲に建物と構築物を加えた上で、2年間延長し、2023年(令和5年)3月取得設備までの適用期限に改正されました。

2.両制度の相違点

 両制度の主な相違点は、以下のとおりです。

項目 旧固定資産税の特例 新固定資産税の特例
適用法律 中小企業等経営強化法 生産性向上特別措置法
適用期限 2019年(平成31年)3月31日 2021年(平成33年)3月31日
対象地域 全国(一部地域で業種の限定あり) 導入促進基本計画の同意を受けた市区町村
計画書 経営力向上計画 先端設備等導入計画
労働生産性 5年計画の場合、5年後の伸び率は2%以上 3年計画の場合、3年後の伸び率は9%以上(年平均3%以上)
申請先 主務大臣(担当省庁) 市区町村
認定支援機関の事前確認 不要 必要
設備取得後の申請 可能(取得後60日以内) 不可
工業会証明書の追加提出 不可 可能
減免割合 2分の1 ゼロ~2分の1(市区町村による)
その他 国税における特別償却又は税額控除あり 金融支援(追加保証)、予算支援(補助金審査時の加点)あり

 なお、旧固定資産税の特例については本ブログ記事「中小企業等経営強化法の認定が必要な設備投資税制」を、新固定資産税の特例については「生産性向上特別措置法による新固定資産税の特例」を参照してください。

 

生産性向上特別措置法による新固定資産税の特例

 中小企業等経営強化法による固定資産税の特例は、中小企業者等が中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき、2019年(平成31年)3月31日までに取得した新品の機械装置等について、固定資産税(償却資産税)の課税標準が3年間にわたり2分の1に軽減される制度です。
 この制度は2019年(平成31年)3月31日をもって終了します(期限の延長は行われません)。

 これに代わり、2018年度(平成30年度)税制改正で、生産性向上特別措置法による固定資産税の特例(以下、「新固定資産税の特例」といいます)が創設されました。
 2019年(平成31年)4月1日以後に取得した資産については、新固定資産税の特例が適用されます。

 今回は、この新固定資産税の特例について、その概要を確認します。

1.制度概要

 新固定資産税の特例は、中小企業者等が市区町村から認定を受けた先端設備等導入計画に基づき、2021年(平成33年)3月31日までに取得した新品の機械装置等について、固定資産税(償却資産税)の課税標準が3年間にわたりゼロ以上2分の1以下の範囲内において軽減される制度です。

※ 新固定資産税の特例については、対象範囲に建物と構築物を加えた上で、2年間延長し、2023年(令和5年)3月取得設備までの適用期限に改正されました。

2.適用期間

 2018年(平成30年)6月6日~2021年(平成33年)3月31日に取得した資産

3.適用対象者

 適用対象者である中小企業者等は、次のとおりです(租税特別措置法第42条の4第8項第6号)。

(1) 資本金又は出資金の額が1億円以下の法人
(2) 資本又は出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の法人 
 ただし、以下の法人は対象になりません。
① 同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人
② 2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
※大規模法人とは、資本金又は出資金の額が1億円超の法人(資本又は出資を有しない場合は常時使用する従業員数が1,000人超の法人)をいいます。

 なお、先端設備等導入計画の認定を受けることができる中小企業者(中小企業等経営強化法第2条第1項)は、上記の新固定資産税の特例における中小企業者と規模要件が異なり、例えば、製造業などは、資本金の額もしくは出資の総額が3億円以下又は常時使用する従業員数が300人以下とされています。

4.対象設備

 (1)生産性向上要件及び(2)販売開始要件を満たす下表の設備(新品に限る)が対象となります。

(1) 生産性向上要件
 旧モデルと比較して、生産効率、エネルギー効率、精度その他の生産性の向上に資するものの指標が年平均1%以上向上するもの
(2) 販売開始要件
 一定期間内に販売されたモデルであること(最新モデルである必要はありませんが、中古資産は対象外になります)

設備の種類 用途又は細目 最低価額 販売開始時期
機械装置 全て 160万円以上 10年以内
工具 測定工具及び検査工具 30万円以上 5年以内
器具備品 全て 30万円以上 6年以内
建物附属設備※ 全て 60万円以上 14年以内

※償却資産として課税されるものに限ります。

5.適用手続

 新固定資産税の特例の適用を受けるためには、次の手続きが必要です。

(1) 工業会証明書を取得
※計画の申請・認定前に取得できなかった場合は、認定後から賦課期日(1月1日)までに誓約書とあわせて追加提出することができます。
(2) 経営革新等支援機関の事前確認書を取得
(3) 市区町村に先端設備等導入計画の認定を申請
(4) 市区町村から先端設備等導入計画の認定書を取得
(5) 設備取得 
※設備取得後の計画申請は一切認められませんので、注意が必要です。
(6) 市区町村に税務申告(償却資産申告書を提出)

6.措置内容

 固定資産税(償却資産税)の課税標準が3年間にわたり、ゼロ以上2分の1以下の範囲内において市町村が定めた割合に軽減されます。

7.留意事項

 工業会証明書の追加提出が賦課期日(1月1日)に間に合わなかった場合は、減税期間が短縮されます。
 例えば、2019年(平成31年)に取得した設備について2020年(平成32年)の1月1日までに工業会証明書を追加提出できず、2021年(平成33年)の1月1日までに提出した場合、2020年(平成32年)は減税を受けられず、減税期間は2年になります。

セミナー講師料を支払った場合の源泉徴収

 セミナーや社内研修などで、外部から弁護士等を講師として招き、講演を依頼する企業も多いと思います。セミナー等を開催した企業は、その支払う講師料から所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。

 源泉徴収の対象は、原則として消費税を含めた金額ですが、請求書等で報酬と消費税が明確に区分されている場合は、その報酬の額のみを源泉徴収の対象とすることができます。
 例えば、弁護士に講師料54,000円(消費税4,000円を含む)を支払う場合、50,000円×10.21%=5,105円を源泉徴収し、講師には54,000円-5,105円=48,895円を渡します。

 また、源泉徴収した企業は、その所得税及び復興特別所得税5,105円を、支払った月の翌月10日までに税務署に納めなければなりません。納期の特例の対象にはなりませんので、ご注意下さい。

退職所得の受給に関する申告書を提出した人が還付を受けるためにする確定申告

1.退職金支給時の源泉徴収

 従業員の方に退職金を支給する場合には、その支給額から所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。
 源泉徴収の方法は、退職する従業員の方から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けているかどうかにより異なります。

(1) 「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合

 退職金の支給額から下記算式で計算した退職所得控除額を控除した残額を2分の1にした額(1,000円未満の端数は切り捨てます。)が課税退職所得金額となります。

① 勤続年数が20年以下の場合
  勤続年数×40万円(80万円未満の場合には80万円)
② 勤続年数が20年超の場合
(勤続年数-20年)×70万円+800万円

 上記算式において、長期欠勤や休職中の期間は勤続年数に含めますが、丙欄適用期間は除きます。また、勤続年数に1年未満の端数があるときは1年に切り上げます。さらに、障害者になったことに基因して退職した場合は、上記の金額に100万円を加算します。
 ここで計算した課税退職所得金額に、「退職所得の源泉徴収税額の速算表」の「税額」欄の算式に従い計算した額が、源泉徴収する税額になります。

(2) 「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合

 退職金の支給額に20.42%の税率を乗じて計算した額を源泉徴収します。この場合、退職金を受給した従業員ご本人が確定申告をして、(1)と同様の計算を行い源泉徴収税額を精算することになります。

2.退職所得を確定申告して所得税の還付を受ける

 上記1(1)のように、退職金の支給を受けた人で、その勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出した人については、源泉徴収だけで課税関係が完結し、退職所得に関しての確定申告は原則不要とされています。

 しかし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出した人でも、以下のように確定申告することによって所得税の還付を受けることができます。

(1) 控除しきれなかった所得控除額を退職所得から差し引くための確定申告

 退職所得以外の所得の合計額が所得控除の合計額未満である場合には、控除しき
れなかった所得控除の額を退職所得の金額から差し引くことによって、所得税の還付を受けることができます。

 例えば、給与所得が129万円、所得控除額が139万円の場合には、給与所得の金額から控除することができない所得控除額10万円(139万円―129万円)を退職所得の金額から差し引くことによって、所得税の還付を受けることができます。

(2) 退職所得で損益通算を受けるための確定申告

 損益通算とは、不動産所得、事業所得、山林所得及び譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額を、一定の順序に従い他の所得の金額から差し引くことをいいます。

 退職所得は、国内の銀行預金の利子所得のような源泉分離課税とされている所得と違い、源泉徴収だけで課税関係が終わり確定申告できないものではありません。
 その年に事業所得等の損失がある場合には、確定申告をして損益通算を受けることができます。

 例えば、給与所得が129万円、事業所得の損失が139万円の場合には、事業所得の損失のうち給与所得の金額から引ききれない10万円が退職所得の金額から控除されます。
 その結果、給与所得と退職所得につき源泉徴収された所得税の還付を受けることができます。

賃貸用不動産の取得に要した借入金を借り換えた場合の借入金利子の必要経費算入額

1.借入金利子の取扱い

 賃貸用の不動産を取得するために要した借入金の利子は、その支払時期によって次のように取り扱います。

(1) 不動産賃貸業開始後で不動産使用後の場合は、必要経費に算入します。
(2) 不動産賃貸業開始後で不動産使用前の場合は、必要経費に算入するか不動産の取得価額に算入するか選択します(所得税基本通達37-27)。
(3) 不動産賃貸業開始前の場合は、不動産の取得価額に算入します。

 上記(2)のようなケースもありますが、基本的には、借入金利子は業務開始前は取得価額に算入し、業務開始後は必要経費に算入します。
(借入金利子の取扱いについては、本ブログ記事「賃貸用不動産取得に要した借入金利子の必要経費算入と損益通算」を参照)

2.借り換えた場合の必要経費算入額

(1) 減額して借り換えた場合

 賃貸用不動産を取得するために要した借入金を、返済中に借り換える場合があります。
 この場合、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する借入金利子の額はいくらにすればいいでしょうか?

 所得税基本通達38-8の4では、次のように規定されています。

 「固定資産を取得するために要した借入金を借り換えた場合には、借換え前の借入金の額(借換え時までの当該借入金に係る未払利子を含む。)と借換え後の借入金の額とのうちいずれか低い金額は、借換え後もその固定資産の取得資金に充てられたものとして取り扱う。」

 例えば、借換え前(借換え時)の借入金の残高が500万円、借換え後の借入金の額が300万円だとしたら、低い金額の300万円を借換え後も固定資産の取得資金に充てられたものとします。
 したがって、必要経費に算入する借入金利子も、借換え後の300万円に対する利子になります。

(2) 増額して借り換えた場合

 上記(1)のように減額して借り換えた場合はわかりやすいのですが、増額して借り換えた場合は少し複雑です。
 例えば、借換え前(借換え時)の借入金残高が500万円、借換え後の借入金の額が700万円だとしたら、低い金額の500万円を借換え後も固定資産の取得資金に充てられたものとします。ここまではわかります。

 では、必要経費に算入する借入金利子はいくらにすればいいでしょうか?
 旧借入金500万円の返済予定表に記載されている利子を、借換え後は支払っていないにもかかわらず、必要経費に算入するのでしょうか?
 また、旧借入金の借換え時の残りの支払期間が5年で、新借入金の借換え後の支払期間が7年だとしたら、必要経費に算入できるのは5年だけということになるのでしょうか?

 いろいろと考えだすとわからなくなってしまいましたので、税務署に聞いてみました。
 回答は、「新借入金の利子を、借換え時の旧借入金残高と新借入金残高の比で按分して、旧借入金に対応する利子部分を必要経費に算入して下さい。」というものでした。

 簡単な数値例によって、次のようなケースを想定してみます。

借換え前(旧借入金:年利率1.2%)

返済日 返済額 元金 利子 残高
1月25日 105,800円 100,000円 5,800円 5,700,000円
2月25日 105,700円 100,000円 5,700円 5,600,000円
3月25日 105,600円 100,000円 5,600円 5,500,000円
4月25日 105,500円 100,000円 5,500円 5,400,000円
5月25日 105,400円 100,000円 5,400円 5,300,000円
6月25日 105,300円 100,000円 5,300円 5,200,000円
7月25日 105,200円 100,000円 5,200円 5,100,000円
8月25日 105,100円 100,000円 5,100円 5,000,000円
合計     43,600円  


借換え後(新借入金:年利率0.6%)

返済日 返済額 元金 利子 残高
        7,000,000円
9月20日 103,500円 100,000円 3,500円 6,900,000円
10月20日 103,450円 100,000円 3,450円 6,800,000円
11月20日 103,400円 100,000円 3,400円 6,700,000円
12月20日 103,350円 100,000円 3,350円 6,600,000円
合計     13,700円  

 このケースでは、必要経費に算入する借入金利子は次のようになります。

 43,600円+13,700円×5,000,000円/7,000,000円≒53,385円

雇用保険を遡って加入できるか?

1.雇用保険の加入要件

 雇用保険の被保険者は、 常用・パート・アルバイト・派遣等、名称や雇用形態にかかわらず、 次の要件をいずれも満たす方です。

 (1) 1 週間の所定労働時間が 20時間以上であり、
 (2) 31 日以上の雇用見込みがある場合

 (1)の要件は、例えばアルバイトの方が1日あたり5時間で週3日勤務する場合は、1週間の所定労働時間が15時間となりますので加入要件を満たしませんが、週4日勤務の場合は1週間の所定労働時間が20時間となりますので加入要件を満たします。

 この所定労働時間は「雇用契約書」の内容により判断します。
 1日5時間週3日勤務という雇用契約を結んでいた場合に、たまたま忙しい日が続いたため1週間の労働時間が20時間以上になったとしても、(1)の要件を満たしたことにはなりません。
 もし、1週間の所定労働時間が20時間以上となることが常態となった場合は(1)の要件を満たすことになりますが、その場合は雇用契約を変更する必要があります。

 (2)の要件は、具体的には以下の場合を指します。
 ① 期間の定めがなく雇用される場合
 ② 雇用期間が31日以上である場合
 ③ 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない場合
 ④ 雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合

 上記(1)と(2)の加入要件を満たす場合は、本人が希望するか否かにかかわらず被保険者となり、雇用保険料の申告納付が必要です。

 なお、65歳以上の新規雇用者の雇用保険については、本ブログ記事「65歳からの老齢基礎年金と雇用保険」を参照してください。

2.雇用保険の加入手続きを失念していた場合

 労働保険申告書の作成過程で、雇用保険の加入要件を満たす従業員がいるにもかかわらず、事業主が加入手続きを失念していたことが判明することがあります。
 この場合、雇用保険を遡って加入することはできるのでしょうか?

 次の加入要件を満たす場合は、原則として2年間遡って加入することができます。

(1) 1 週間の所定労働時間が 20時間以上であり、
(2) 31 日以上の雇用見込みがある場合

 さらに、2010年(平成22年)10月からは雇用保険料が給与から天引きされていたことが明らかで ある場合は、特例として2年を超えて遡って雇用保険の加入手続きができるようになりました。

 手続きとしては、雇用保険被保険者資格取得届に加えて遅延理由書(書式は任意ですがハローワークで入手することもできます)の提出が必要です。
 また、賃金台帳や給与明細、タイムカード等の提出も必要です。

決算日が月末以外の会社は社会保険料の会社負担分を未払計上できない

 3月20日を期末(決算日)としているA社の社長から、次のようなご相談がありました。
 「3月分の給与に対する社会保険料の会社負担分を法定福利費として未払計上できるか?」

 A社は、給与計算の締め日を毎月20日、給与支給日を月末としています。3月分の給与は3月31日に支給しますが、決算日が3月20日ですので、3月分の給与は翌期の支給になります。
 そのため、3月分の給与(2月21日~3月20日)は決算時に未払計上していましたが、同時に3月分の社会保険料(4月末納付分)の会社負担分も未払計上できないか、というご相談でした。

1.社会保険料の債務確定時期

 法人税法は債務確定主義を採っており、期末までに債務が確定していたかどうかが重要です(法人税法22条3項2号、法人税基本通達2-2-12、9-3-2)。
 A社の場合、3月分の社会保険料の会社負担分を未払計上するためには、期末である3月20日までに納付義務が確定している必要があります。

 では、3月分の社会保険料の納付義務は、いつ確定するのでしょうか?

 社会保険料は、健康保険法156条3項等の規定により、被保険者が月末まで在職している場合に同者に係る保険料を翌月末日までに納付することとなっています。3月分(3月1日~3月31日分)の社会保険料の納付額は、翌月の4月に発行される納入告知書で明らかになります。
 これは、給与支給月(賞与を含む)の月末まで、被保険者(従業員)が在職していることが要件であることを意味します。例えば、3月30日に従業員が退職した場合は、その従業員の3月分については納付義務はありません。
 つまり、月末にならないと社会保険料の額が確定しないということです。

 A社の3月分の社会保険料の納付義務は、月末の3月31日にならないと確定しませんので、期末である3月20日時点では債務が確定していないことになります。
 したがって、A社の場合、3月分の社会保険料の会社負担分を法定福利費として未払計上することはできません。

 一方、A社の場合、2月分(2月1日~2月28日分)の社会保険料は3月末に納付することになりますが、期末の3月20日時点では未納付となっています。
 この2月分の社会保険料の会社負担分は法定福利費として未払計上することができます。なぜなら、2月分の社会保険料の納付義務は2月末時点で確定しているからです。

2.給与支給日を月末から20日にした場合

 A社の給与支給日を月末から20日に変更した場合、3月分の社会保険料の会社負担分を未払計上することはできるでしょうか?

 答えは「否」です。
 法人税基本通達9-3-2では、法人が負担する社会保険料の額については、当該保険料の計算の対象となった月の末日の属する事業年度において損金算入することができるとされています。
 3月分の給与を20日に支給するとしても、これに対応する社会保険料の納付義務が確定するのは3月31日ですので、3月20日の期末時点で債務が確定していません。よって、未払計上することはできません。