区分記載請求書等保存方式と請求書等保存方式の異同点

 軽減税率制度の実施による複数税率化に伴い、「適格請求書等保存方式(日本型インボイス制度)」が導入されますが、当面は執行可能性に配慮し、2019年(令和元年)10月1日から2023年(令和5年)9月30日までの4年間は、「区分記載請求書等保存方式」によって税率の区分経理に対応することになります。
 区分記載請求書等保存方式とは、現行の請求書等保存方式を維持した上で、次のように帳簿及び請求書等の記載事項を追加するものです。
 なお、簡易課税制度を適用する場合は、帳簿及び請求書等の保存は必要ありません。

1.帳簿の追加記載事項

 課税仕入れが軽減対象資産に係るものである場合には、帳簿の記載事項に「軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨」が追加されます。
 この記載は「軽減」等と省略して記載することや、事業者が定めた記号(※印など)を付す方法によることができます。

2.請求書等の追加記載事項

 課税仕入れが軽減対象資産に係るものである場合には、請求書等(請求書、納品書その他これらに類する書類)に、従前の記載事項に次の2項目が追加されます。
(1) 軽減対象資産の譲渡等である旨
(2) 税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の対価の額
 これらを記載した区分記載請求書の保存が、仕入税額控除の要件となります。

3.区分記載請求書等保存方式と請求書等保存方式の異同点

 区分記載請求書等保存方式と請求書等保存方式の記載事項の異同点を以下に掲げます。

  請求書等保存方式 区分記載請求書等保存方式
期間 令和元年9月30日まで 令和元年10月1日~令和5年9月30日
帳簿 ①課税仕入れの相手方の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容
④対価の額
左記に加え
軽減対象資産の譲渡等である旨
請求書等 ①請求書発行者の氏名又は名称
②取引年月日
③取引の内容
④対価の額
⑤請求書受領者の氏名又は名称
左記に加え
軽減対象資産の譲渡等である旨
税率ごとに区分して合計した税込対価の額

 

4.留意点

(1)「軽減対象資産の譲渡等である旨」等の記載がなかった場合の追記

 区分請求書等保存方式は請求書等保存方式と同様に、売り手には請求書等の交付が義務付けられていません。もし、仕入先から交付された請求書等に「軽減対象資産の譲渡等である旨」(上表⑥)や「税率ごとに区分して合計した税込対価の額」(上表⑦)の記載がない時は、これらの項目に限って交付を受けた事業者自らが、その取引の事実に基づき追記することができます(他の項目について追記や修正を行うことはできません)。

(2) 免税事業者からの課税仕入れの取扱い

 区分記載請求書等保存方式では、免税事業者も区分記載請求書を交付することができます。また、免税事業者からの課税仕入れも、区分記載請求書を保存していれば仕入税額控除の適用を受けることができます。
 この場合、免税事業者からの仕入れであっても、「軽減対象資産の譲渡等である旨」や「税率ごとに区分して合計した税込対価の額」の記載がある区分記載請求書等の保存が必要となります。
※上記2項目の記載がない場合は、取引の事実に基づき追記することができます。

(3) 3万円未満の取引等に係る仕入税額控除

 区分記載請求書等保存方式の下でも、3万円未満の少額な取引や自動販売機からの購入など請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるときは、現行と同様に、必要な事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除の要件を満たすことになります。

(4) 一定期間のまとめ記載

 日々の取引内容については納品書等に記載され、一定期間の納品についてまとめて請求書が交付される場合において、納品書等と請求書との相互関連性が明確で、かつ、これらの書類全体で区分記載請求書等の記載事項を満たすときは、これらの書類をまとめて保存することで、区分記載請求書等の保存があるものとして取り扱われます。
 この場合、請求書に記載する取引年月日については、対象となる一定期間を記載すればよく、また、同一の商品(一般的な総称による区分が同一となるもの)を一定期間に複数回購入しているような場合、「軽減対象資産の譲渡等である旨」の記載については、同一の商品をまとめて記載して差し支えありません。

(5) 軽減税率対象品目がない場合の請求書等の記載

 軽減税率の対象となるものがなく、取引のすべてが標準税率(10%)の対象となる場合は、2019年(令和元年)9月30日までの請求書と変わるところはありません。したがって、「軽減対象資産の譲渡等である旨」や「税率ごとに区分して合計した税込対価の額」の記載は要しません。

(6) すべてが軽減税率対象品目である場合の請求書等の記載

 取引のすべてが軽減税率の対象となる場合は、例えば「全商品が軽減税率対象」と記載するなど、その請求書等に記載されたすべての取引が軽減税率の対象であることが客観的に明らかになる程度の記載が必要です。