役員退職金の損金算入時期と経理処理

 役員に支給する退職金については、税務上、様々な論点があります。例えば、その適正額に関する議論は最たるものであり、税務調査の際にも、課税庁と納税者の間で度々争いが起こります。
 しかし、意外に見落とされがちなのが、役員退職金を損金に算入する時期の問題です。ここを誤ると、適正額云々以前に役員退職金の損金算入が否認されてしまいます。
 今回は、役員退職金の損金算入時期と経理処理について確認します。

1.損金算入時期の原則と例外

 税法上、役員に対して支給する退職金の損金算入時期は、原則として、株主総会、社員総会等の決議により、退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度とされ、損金経理は要件とされていません
 また、会社の機関として取締役会を設置しており、株主総会で役員退職金を支給することだけを決議し、具体的な支給額の決定は取締役会に一任することとしている場合は、その金額が取締役会で具体的に決定された日の属する事業年度において損金算入することとなります。
 ただし、法人が退職金を実際に支払った日の属する事業年度において、その支給額につき損金経理をした場合は、その支払った日の属する事業年度において損金算入することも認められます。
 したがって、役員に支給する退職金の損金算入時期は、その金額の確定時(原則)と支給時(例外)のいずれかによることができますが、原則の場合は損金経理は不要であり、例外の場合は損金経理が必要です。

※ 2006(平成18)年度の税制改正で、役員退職金についての損金経理要件が廃止されたため、退職金の額が確定した事業年度において仮払金等として経理した金額につき申告調整により減算することは認められます。

2.役員退職金を未払計上した場合

 上記のように、役員退職金の損金算入時期については、原則として退職金の額の確定時、例外として退職金の支給時となりますが、一般的には退職金の金額確定と支給は同じ事業年度になるものと思われます。
 しかし、資金繰り等の理由から、退職金の額の確定と支給が異なる事業年度になることも考えられます。
 例えば、3月決算法人の役員がX1年2月に退職したため、X1年5月の株主総会で退職金を1,000万円支給することが承認されましたが、資金繰りの都合から支給はX2年4月になるというような場合です。
 このとき、X2年3月期(X1年4月1日~X2年3月31日の事業年度)に役員退職金を損金算入するのであれば、次のように役員退職金を未払計上します。

借方 金額 貸方 金額
役員退職金 1,000万円 未払金 1,000万円

 そして、X2年4月の支給時に次のように処理します。

借方 金額 貸方 金額
未払金 1,000万円 現金預金 1,000万円

 また、支給日の属するX3年3月期(X2年4月1日~X3年3月31日の事業年度)に損金算入するのであれば、X2年3月期は経理処理をせず、支給日に次のように処理します。

借方 金額 貸方 金額
役員退職金 1,000万円 現金預金 1,000万円

 なお、退職金の額が具体的に確定する事業年度より前の事業年度において、取締役会で内定した金額を損金経理により未払計上した場合は、未払金に計上した時点での損金算入は認められません。
 例えば、3月決算法人の役員がX1年2月に退職したため、取締役会で1,000万円の退職金支給を内定し、その承認をX1年5月の株主総会で受けるとします。
 この場合、役員退職金1,000万円を次のように未払計上しただけでは、X1年3月期(X0年4月1日~X1年3月31日の事業年度)に損金算入することはできません。株主総会で承認を受けるのが翌期になりますので、X1年3月期においては退職金の額が確定していないからです。

借方 金額 貸方 金額
役員退職金 1,000万円 未払金 1,000万円

 この場合は、次のように実際に1,000万円の退職金をX1年3月期中に支給していれば、株主総会の承認を受ける前であってもX1年3月期に損金算入することができます。

借方 金額 貸方 金額
未払金 1,000万円 現金預金 1,000万円

注意!フリーレント契約の支払家賃の計上時期と経理処理

 不動産賃貸におけるフリーレント契約とは、賃貸借契約開始後の当初数か月間の賃料を無料にする、あるいは減額するというものです(本記事では、無料を前提とします)。
 貸主にとっては、賃貸不動産物件の稼働率の向上が見込めるというメリットがあり、また、借主にとっては初期費用を抑えることができるというメリットがありますが、賃料が無料であるということは、その間(フリーレント期間)の経理処理はどうしたらいいのか、という疑問が生じます
 この点について、前回は貸主側の処理を確認しました(前回記事「フリーレント契約の受取家賃の計上時期と経理処理」をご参照ください)。
 今回は、借主側の処理について確認します。

1.中途解約禁止条項がある場合

 フリーレント契約の場合、フリーレント期間中あるいはフリーレント期間経過直後に解約されてしまうことを防止するために、中途解約禁止条項が設けられているのが一般的です。例えば、次のようなフリーレント契約です。

「賃貸借期間2年間のうち、当初3か月間の賃料(月額40万円)はゼロとするフリーレント契約において、中途解約は禁止であり、仮に賃借人の都合で解約する場合は、賃借人はフリーレント期間に係る賃料相当額120万円(40万円×3か月)及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額(40万円×未経過期間月数)を賃貸人に支払う。」

 このような内容のフリーレント契約の場合、貸主には受取家賃の計上時期と経理処理について、理論的方法と実務的方法の2つが認められていました。
 理論的方法は、フリーレント期間開始時から受取家賃を計上する方法であり、実務的方法は、フリーレント期間は受取家賃を計上せずフリーレント期間終了後から受取家賃を計上する方法です。

 では、借主側にも理論的方法と実務的方法が認められているのでしょうか?この点について、以下で確認します。

(1) フリーレント期間開始時から支払家賃を計上―否認される可能性あり

 上記のフリーレント契約においては、中途解約が禁止されており、仮に賃貸借期間の中途で賃借人が自己の都合で解約する場合は、賃貸人は賃借人から、フリーレント期間に係る賃料相当額120万円及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額の支払を受けることになります。
 すなわち、賃貸借期間の2年間に係る賃料相当額840万円(40万円×(24か月-3か月))は、このフリーレント契約締結時に、これを受領する権利が確定しているといえます。
 このようなケースでは、受取家賃をフリーレント期間を含む全賃貸借期間に係る賃料として、各期間に配分して収益計上すること(理論的方法)が貸主側の経理処理として相当とされています。具体的には、月額35万円(840万円÷24か月)の受取家賃をフリーレント期間開始時から計上する処理です。

 では、この取引の裏側にある借主側にも同様の経理処理が認められるのでしょうか?具体的には、賃料を支払っていないフリーレント期間開始時から月額35万円の支払家賃を計上する次のような経理処理です。

借方 金額 貸方 金額
支払家賃 35万円 未払金 35万円

 また、フリーレント期間終了後の4か月目からの経理処理は、次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
支払家賃 35万円 現金預金 40万円
未払金 5万円    

 貸主側の裏側の処理として当然認められそうに思いますが、このような借主側の経理処理は否認される可能性があります。
 2018(平成30)年6月15日裁決(この裁決事例は、フリーレント期間の賃料を無料ではなく減額するというものでした)において、国税不服審判所は、債務が確定していないなどとして損金算入を認めませんでした(国税不服審判所ホームページ・公表裁決事例「平成30年6月15日裁決」参照)。個人的には、国税不服審判所の判断には疑問が残りますが、借主側の経理処理としては否認される可能性があることに注意が必要です。

(2) フリーレント期間終了後から支払家賃を計上

 賃料を支払っていないフリーレント期間は支払家賃を計上せず、実際に賃料の支払が始まるフリーレント期間終了後から支払家賃を計上する方法です。
 経理処理は、フリーレント期間は仕訳なし、フリーレント期間終了後の4か月目から次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
支払家賃 40万円 現金預金 40万円

2.中途解約禁止条項がない場合

 フリーレント契約において、中途解約禁止条項を設けないのはあまり一般的とはいえませんが、この場合は、上記1(2)と同様に、フリーレント期間終了後から支払家賃を計上します。

フリーレント契約の受取家賃の計上時期と経理処理

 不動産賃貸におけるフリーレント契約とは、賃貸借契約開始後の当初数か月間の賃料を無料にする、あるいは減額するというものです(本記事では、無料を前提とします)。
 貸主にとっては、賃貸不動産物件の稼働率の向上が見込めるというメリットがありますが、賃料が無料であるということは、その間(フリーレント期間)の受取家賃は計上しなくてもいいのか、という疑問が生じます。
 今回は、フリーレント契約の場合の受取家賃の計上時期と経理処理(貸主側の処理)について確認します。

※借主側の処理については、本ブログ記事「注意!フリーレント契約の場合の支払家賃の計上時期と経理処理」をご参照ください。

1.中途解約禁止条項がある場合

 フリーレント契約の場合、フリーレント期間中あるいはフリーレント期間経過直後に解約されてしまうことを防止するために、中途解約禁止条項が設けられているのが一般的です。例えば、次のようなフリーレント契約です。

「賃貸借期間2年間のうち、当初3か月間の賃料(月額40万円)はゼロとするフリーレント契約において、中途解約は禁止であり、仮に賃借人の都合で解約する場合は、賃借人はフリーレント期間に係る賃料相当額120万円(40万円×3か月)及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額(40万円×未経過期間月数)を賃貸人に支払う。」

 以下では、このフリーレント契約の内容を前提に、受取家賃の計上時期と経理処理を確認します。

(1) フリーレント期間開始時から受取家賃を計上する

 上記のフリーレント契約においては、中途解約が禁止されており、仮に賃貸借期間の中途で賃借人が自己の都合で解約する場合は、賃貸人は賃借人から、フリーレント期間に係る賃料相当額120万円及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額の支払をうけることになります。
 すなわち、賃貸借期間の2年間に係る賃料相当額840万円(40万円×(24か月-3か月))は、このフリーレント契約締結時に、これを受領する権利が確定しているといえます。
 したがって、このようなケースでは、受取家賃はフリーレント期間を含む全賃貸借期間に係る賃料として、各期間に配分して収益計上することになります。
 具体的には、賃貸人は月額35万円(840万円÷24か月)の受取家賃をフリーレント期間開始時から計上することになり、次のように経理処理します。

借方 金額 貸方 金額
未収入金 35万円 受取家賃 35万円

 なお、フリーレント期間(3か月間)終了後の4か月目からは、次のように経理処理します。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 40万円 受取家賃 35万円
    未収入金 5万円

※貸方・未収入金5万円=35万円×3か月÷(24か月-3か月) 

 理論的には、上記のように受取家賃を計上することが相当と考えられますが、実務的には、次の方法も認められます。

(2) フリーレント期間終了後から受取家賃を計上する

 昨今のフリーレントは、取引実態が「賃料の免除又は値引き」といえるため、会計上フリーレント期間に対応する賃料相当額を収益に計上していない場合でも、税務上認容されます(週刊税務通信No.3338)。
 したがって、フリーレント期間の3か月間は受取家賃を計上せず、フリーレント期間終了後の4か月目から月額40万円の受取家賃を21か月間計上することになります。
 経理処理は、フリーレント期間は仕訳なし、フリーレント期間終了後の4か月目から次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 40万円 受取家賃 40万円

2.中途解約禁止条項がない場合

 フリーレント契約において、中途解約禁止条項を設けないのはあまり一般的とはいえませんが、例えば、次のようなフリーレント契約があるとします。

「賃貸借期間2年間のうち、当初3か月間の賃料(月額40万円)はゼロとするフリーレント契約において、中途解約が可能であり、解約後の未経過期間に係る賃料相当額の支払義務はないものの、賃借人の都合で解約する場合は、賃借人はフリーレント期間に係る賃料相当額120万円(40万円×3か月)を、中途解約時に賃貸人に支払う。」

 このようなケースでは、フリーレント契約の締結時に、全賃貸借期間に係る賃料相当額が確定しているとは認められませんので、当事者間の契約に従ってフリーレント期間の3か月間は受取家賃を計上せず、フリーレント期間終了後の4か月目から月額40万円の受取家賃を21か月間計上することになります。
 経理処理は、上記1(2)と同様になります。

請求書に印紙は必要?不要?

 印紙税の課税文書のうち、代表的なものとして領収書があります。売上代金を受領した際に発行する領収書について、そこに記載された受取金額が5万円以上の場合は、印紙を貼らなければならないことはよく知られています。
 一方、請求書を発行する際は、その請求金額にかかわらず基本的に印紙を貼る必要はありませんが、内容によっては印紙が必要となるケースもあります。
 今回は、請求書と印紙について確認します。

1.請求書に印紙は原則として不要

 印紙税が課税されるのは、印紙税法で定められた課税文書に限られています。この課税文書とは、次の3つのすべてに当てはまる文書をいいます。

(1) 印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること
※ 課税物件表については、国税庁ホームページ「印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」及び「印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで」をご参照ください。
(2) 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること
(3) 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと

 請求書は、上記(1)の課税物件表に掲げられている課税文書に該当しませんので、原則として印紙を貼る必要はありません。
 しかし、課税文書に該当するかどうかは、その文書に記載されている内容に基づいて判断しなければなりません。当事者の約束や慣習により文書の名称や文言は種々の意味に用いられるため、その文書の内容判断に当たっては、その名称、呼称や記載されている文言により形式的に行うのではなく、その文書に記載されている文言、符号等の実質的な意味を汲み取って行う必要があります。

2.請求書に印紙が必要となる場合

 例えば、売掛金の請求書に「済」や「了」と表示してあり、その「済」や「了」の表示が売掛金を領収したことの当事者間の了解事項であれば、その文書は売上代金の受領書(第17号の1文書)に該当することになります。
 つまり、請求書が領収書を兼ねる場合(請求書内で「領収済」というような請求代金の受け取りを証明する文言がある場合)は、タイトルが請求書となっていたとしても領収書の扱いになりますので、印紙を貼る必要があります。
 この場合は、記載金額によって印紙税額が変わります。印紙税額については、上記課税物件表(印紙税額の一覧表)の第17号文書をご参照ください。

不祥事による役員報酬の一時的な減額は定期同額給与になるか?

 会社や役員が不祥事を起こした場合に、役員がその不祥事の責任をとって役員報酬を一定期間減額するということがよく報道されています。
 例えば、不祥事が発覚した会社でそのイメージダウンを避けるために、役員が責任をとって役員報酬を6か月間30%減額するなどという場合です。
 このような場合、その減額された役員報酬は定期同額給与として損金算入できるのでしょうか?今回は、この点について確認します。

1.臨時改定事由とは?

 事業年度の中途で役員報酬の減額が行われた場合、それが臨時改定事由によるものであるときは、定期同額給与に該当するものとされています(法人税法施行令69条1項1号)。
 臨時改定事由とは、「役員の職制上の地位の変更、役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」をいいます。
 例えば、社長が任期途中で退任したことに伴い副社長が社長に就任する場合は、一般的には、その地位及び職務内容ともに重大な変更があると認められることから、臨時改定事由に該当するといえます。
 また、合併法人の取締役が合併後も引き続き同じ地位に留まるものの、その職務内容に大幅な変更がある場合等も臨時改定事由に該当するといえます。
 なお、ここでいう「役員の職制上の地位」とは、定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等により付与されたものをいい、いわゆる自称専務等はこれに該当しません。

2.臨時改定事由に該当するか?

 ここで、今回の減額事由(不祥事の責任をとる)が「その他これらに類するやむを得ない事情」に該当するか否かがポイントになります。
 役員がとるべき不祥事の責任には、例えば法令違反により行政処分を受けるなど役員個人の行為が原因となるものや、役員は直接かかわっていなくても組織ぐるみで隠ぺいや改ざんを行うなど組織の行為が原因となるものがあります。
 いずれにせよ、これらの不祥事に対する役員の責任を問うために、一定期間役員報酬を減額することは、企業慣行として定着していると考えられます。
 そのため、役員報酬を一時的に減額する理由が、企業秩序を維持して円滑な企業運営を図るため、あるいは法人の社会的評価への悪影響を避けるために、やむを得ず行われたものであり、かつ、その処分の内容が、その役員の行為に照らして社会通念上相当のものであると認められる場合には、「やむを得ない事情」に該当するものとして、減額された期間においても引き続き同額の定期給与の支給が行われているものとして取り扱って差し支えないとされています(2006(平成18)年12月 国税庁・質疑応答事例「一定期間の減額」より)。

3.自主返還された場合

 なお、国税庁・質疑応答事例「一定期間の減額」では、不祥事の責任をとるため、いったん支給した定期給与を役員が自主的に返還した場合には、その自主返還された定期給与は定期同額給与として取り扱われるとしています。この場合、自主返還された定期給与は、雑収入等で処理することとなります。

賃貸用マンションの修繕積立金は支払期日に必要経費算入可、意外な盲点は管理費の消費税の取扱い

 分譲マンションのオーナー(区分所有者)が、転勤等のため長期間自室を留守にする場合、賃貸に出して家賃収入を得ることがあります。
 賃貸に出した場合でも、修繕積立金と管理費をマンション管理組合に支払うのは、オーナーである区分所有者です(家賃に転嫁して賃借人の負担とするかどうかは別として)。
 今回は、修繕積立金を必要経費に算入する時期の確認と、意外な盲点である(間違った処理が多い)管理費の消費税の取扱いを確認します。

1.原則は修繕完了時に必要経費算入

 修繕積立金は、原則として、実際に修繕等が行われその修繕等が完了した日の属する年分の必要経費になります。
 修繕積立金は、マンションの共用部分について行う将来の大規模修繕等の費用の額に充てられるために長期間にわたって計画的に積み立てられるものであり、実際に修繕等が行われていない限りにおいては、具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していないことから、原則的には、管理組合への支払期日の属する年分の必要経費には算入されず(所得税基本通達37-2)、実際に修繕等が行われ、その費用の額に充てられた部分の金額について、その修繕等が完了した日の属する年分の必要経費に算入されることになります。

2.一定の場合は支払期日に必要経費算入可

 しかしながら、修繕積立金は区分所有者となった時点で、管理組合へ義務的に納付しなければならないものであるとともに、管理規約において、納入した修繕積立金は、管理組合が解散しない限り区分所有者へ返還しないこととしているのが一般的です(マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省)第60条第6項)。
 そこで、修繕積立金の支払がマンション標準管理規約に沿った適正な管理規約に従い、次の事実関係の下で行われている場合には、その修繕積立金について、その支払期日の属する年分の必要経費に算入しても差し支えないものとされています。

(1) 区分所有者となった者は、管理組合に対して修繕積立金の支払義務を負うことになること
(2) 管理組合は、支払を受けた修繕積立金について、区分所有者への返還義務を有しないこと
(3) 修繕積立金は、将来の修繕等のためにのみ使用され、他へ流用されるものでないこと
(4) 修繕積立金の額は、長期修繕計画に基づき各区分所有者の共有持分に応じて、合理的な方法により算出されていること

3.管理費の消費税課税区分は不課税!

 不動産所得の計算上、修繕積立金を必要経費に算入する時期については上記のとおりです。また、管理費については、支払期日に必要経費に算入することに関して疑義は生じません。
 しかし、マンション管理組合に支払う管理費の消費税課税区分には要注意です。支払った管理費の課税区分を「課税仕入」としているケースが多いのですが、これは間違いです。
 マンション管理組合は、その居住者である区分所有者を構成員とする組合であり、その組合員との間で行う取引は営業に該当しません。したがって、マンション管理組合に支払う管理費の消費税課税区分は「不課税(課税対象外)」となります。
 区分所有者が支払う管理費が、マンション管理組合を介して、マンションを管理する不動産業者に渡るとしても、現行の消費税法では不課税となります。

個人が受け取る和解金等の課税関係

 交通事故の被害者と加害者との間、あるいは従業員とその勤務先である会社との間などで紛争が生じた場合、裁判上又は裁判外の和解により、和解金、解決金、示談金、損害賠償金、慰謝料等(以下「和解金等」といいます)が支払われることがあります。
 和解金等という言葉のイメージから、これらを受け取った個人には所得税が課されないものと考えがちですが、税務調査では実態に沿った課税がされます。
 個人が和解金等を受け取った場合は、まず非課税となるのか課税されるのかを判断し、次に、課税される場合は所得区分を判断することになります。

1.和解金等が非課税となる場合

 所得税法では、損害賠償金やこれに類するもので、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に起因して受け取るものその他政令で定めるものは非課税とされています。
 政令においては、次の(1)~(3)のうち、損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填したものを除いた額は非課税とされています。

(1) 心身に加えられた損害につき支払いを受ける損害賠償金(その損害に起因する給与又は収益の補償を含む)
(2) 不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払いを受ける損害賠償金(事業所得の収入金額とされるものを除く)
(3) 心身又は資産に加えられた損害につき支払いを受ける相当の見舞金(事業所得その他役務の対価たる性質を有するものを除く)

 和解金等が非課税となるのか課税されるのかを判断するにあたっては、その和解契約書(和解調書)に記載されている文言にかかわらず、実体上の事実に基づいて判断しなければなりません。
 例えば、当事者間において和解契約上は損失を補填するための損害賠償金として金銭を支払うという契約がなされていたとしても、金銭の取得者に客観的な損害が生じていると認められない場合は、その金銭の取得は非課税となりません。損害賠償金が非課税とされるのは、損害賠償金が心身の癒し又は資産に受けた損害を補填するものであって、取得者に利益をもたらすものではないからです。
 したがって、和解の前提となる和解契約書だけではなく、客観的な事実やその支払いがなされるに至った経緯、客観的な損害等が生じているか否か等を総合的に勘案する必要があります。
 課税庁サイドにおいても、和解契約書だけではなく、その過程である訴状の内容、答弁書の内容、準備書面の内容などの裁判資料を基に、和解金等の発生源泉に沿った事実認定を行い、実態に沿った課税がなされます。

2.和解金等が課税される場合

 和解金等が課税される場合は、所得区分についても判断しなければなりません。
 例えば、労使間に不当解雇の問題で紛争があり、これを和解によって解決し和解金等を支払う場合は、その和解金等の算出根拠等が所得区分の判断の指針となります。
 和解金等の算出根拠が、未払い賃金や未払い残業代であれば給与所得になり、解雇予告手当であれば退職所得になります。また、セクハラ等による精神的苦痛に対する慰謝料であれば、非課税となります。
 しかし、実務上は和解金等の算定根拠が明確でなく、和解契約書の内容もあいまいな表現が使われているケースが多いといえます。
 そのため、和解金等が営利を目的とした継続行為から生じたものではなく、労務その他役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しない一種の紛争解決金であると考えれば一時所得となりますが、その和解金等について何らかの対価性があり、他の所得に分類できないと考えれば雑所得となります。
 参考までに、隣接地のマンション建設工事に伴い収受した補償料名義の金員は一時所得に当たるとした以下の裁決事例を挙げておきます(昭和58年4月22日裁決、裁決事例集 No.26 – 51頁)。

 請求人の所有に係る本件土地は、都市計画法の規定による近隣商業地域内にあり建築基準法等の規定による中高層建築物の高さについての制限も受けていないことから、本件建物の建築により具体的な土地の利用価値が低下したとする因果関係の存在は、明確でなく、仮に若干の土地の利用価値の低下があったとしても社会通念上、この程度のものは受忍すべき範囲内であると考えられ、また、建築業者と請求人との間に当該金員の授受の合意が行われるに際して日照阻害に基因する具体的な損害の予測やその額の見積りを行っていない事実から、隣接地のマンション建築工事に伴い授受した補償料の金員は本件建物の建設に反対を受けた建築業者が請求人の同意を受けるために支払った一種の紛争解決金とみるのが相当であり所得税法第34条に規定する一時所得に該当する。

相続財産を売却した場合の取得費加算の特例

 相続開始後3年10か月以内に相続財産を譲渡(売却)した場合は、相続税額の一部を取得費に加算することにより、譲渡所得に係る所得税額を軽減することができます。
 今回は、この取得費加算の特例の内容と計算例を確認します。

1.取得費加算の特例

(1) 特例の概要

 相続又は遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を、相続開始の日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合は、実際の取得費又は概算取得費に一定の相続税額を加算して、譲渡所得に係る所得税額額を軽減することができます。

譲渡所得の計算式
譲渡所得=収入金額-〔(取得費+加算する相続税額)+譲渡費用〕-特別控除額

(2) 取得費に加算する相続税額

 取得費に加算する相続税額は、次の計算式で計算した金額となります。ただし、その金額がこの特例を適用しないで計算した譲渡益(土地、建物、株式などを売った金額から取得費、譲渡費用を差し引いて計算します。)の金額を超える場合は、その譲渡益相当額が取得費に加算する相続税額となります。
 なお、譲渡した財産ごとに計算します。

取得費に加算する相続税額の計算式
取得費に加算する相続税額=その者の相続税額×その者の譲渡資産の相続税の課税価格/その者の債務控除前の相続税の課税価格

(3) 特例を受けるための要件

 この特例を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。

① 相続や遺贈により財産を取得した者であること
② その財産を取得した人に相続税が課税されていること
③ その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること

(4) 特例を受けるための手続き

 この特例を受けるためには、確定申告をすることが必要です。
 確定申告書には、①相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書、②譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】)や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書などの添付が必要です。

(5) 留意点

 この特例を受けるにあたって、留意しなければならない点は次のとおりです。

① この特例は譲渡所得のみに適用がある特例ですので、株式等の譲渡による事業所得及び雑所得については、適用できません。
② この特例と空き家の譲渡所得の特例とは、選択適用となります。なお、空き家の譲渡所得の特例については、本ブログ記事「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」をご参照ください。

2.計算例

 相続により令和元年10月に取得した土地のうち、その2分の1を令和3年4月に譲渡した場合の譲渡所得の金額と所得税額は以下のようになります(下表を前提とします)。

取得した相続財産の課税価格 1億円
上記のうち土地の相続税課税価格 8,000万円
譲渡した土地の相続税課税価格 4,000万円
土地の譲渡価額 5,000万円
取得費 不明
仲介手数料 50万円
譲渡した者の納付すべき相続税額 1,000万円

取得費に加算する相続税額は、1,000万円×4,000万円/1億円=400万円になります。
譲渡所得の金額は、5,000万円-(5,000万円×5%+400万円+50万円)=4,300万円になります。
所得税額は、4,300万円×20.315%=873万5,450円になります。
なお、取得費加算の特例の適用がない場合の所得税額は、954万8,050円です。

相続開始前3年以内の贈与の節税メリット

 相続開始前3年以内に被相続人から贈与された財産は、相続の際には相続税の課税価格に加算する必要があります(いわゆる生前贈与加算の特例)。
 これは、被相続人の余命があとわずかというときに、相続税を少しでも安くするために、あらかじめ相続人に財産を移転する、というような行為を抑えることを狙ったものです。
 このような生前贈与加算の特例が適用されても、生前贈与を行うメリットはあるのでしょうか?
 今回は、生前贈与加算の特例と生前贈与のメリットについて整理します。

※ 2023(令和5)年度税制改正で、生前贈与の加算期間が3年から7年に延長されました。詳細については、本ブログ記事「生前贈与加算期間はいつから7年になる?」をご参照ください。

1.生前贈与加算の特例

 生前贈与加算の特例とは、相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続開始前3年以内にその相続に係る被相続人から財産を贈与を受けていた場合、その贈与により取得した財産(贈与税の非課税財産を除きます)の価額(贈与を受けた時の価額)を相続財産に加算し、贈与を受けた財産につき課された贈与税額は、その者の相続税額から控除するというものです。
 この場合の相続開始前3年以内とは、相続開始の日から遡って3年目の応当日から相続開始の日までをいいます。
 例えば、X年4月5日に相続があった場合には、(X-3)年4月5日からX年4月5日までをいいます。
 なお、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産に相続税がかかるのは、相続や遺贈によって財産を取得した者がいる場合です。
 例えば、相続人である長男が、被相続人が亡くなる1年前に土地をもらっていたとします。この場合、長男が今回の相続によって被相続人の財産をもらったときは、この土地を相続財産に加えて相続税を計算することになります。
 しかし、もし、長男が今回の相続によって被相続人の財産を何ももらっていないときは、この土地を相続財産に加える必要はありません。

2.生前贈与の節税メリット

 このような生前贈与加算の特例の適用を受ける場合でも、次のような節税効果が期待できます。

(1) 前述したように、生前贈与加算の対象は、相続又は遺贈により財産を取得した者に限定されています。したがって、孫(相続又は遺贈により財産を取得している場合を除きます)への贈与は加算対象外となります。

(2) 贈与税の非課税財産は、生前贈与加算の対象外です。例えば、扶養義務者相互間における生活費や教育費の贈与等は加算対象外です。

(3) 居住用不動産の贈与で贈与税の配偶者控除の適用を受けた場合は、控除額相当額(最高2,000万円)は生前贈与加算の対象外です。また、直系尊属からの住宅取得等資金贈与の非課税特例、直系尊属からの教育資金の一括贈与の特例(一定の場合は、贈与者死亡時の管理残額が加算の対象)及び結婚・子育て資金の一括贈与の特例(贈与者死亡時の管理残額が加算の対象)についても、同様の効果があります。

(4) 生前贈与加算の特例により加算される価額は、贈与時の財産の価額となるため、値上がりしている財産については節税効果があります。

 上記(1)~(4)の節税効果以外に、生前贈与には、被相続人の意思に基づいた財産の移転が確実に実行できるメリットがあります。
 ただし、生前贈与に係る遺留分侵害額の請求に留意する必要があります。

定期同額給与と損金算入が認められる改定事由とは?

 同族会社では、役員報酬は経営者の個人的意思により決定できることが多いと考えられるため、法人税法は役員報酬に係る諸規定を設けています。

 これは、多額の利益が見込まれる事業年度に多額の役員報酬を計上し、法人税等の負担を軽減するといったような経営者による意図的な操作を排除するためです。

 今回は、損金算入できる役員報酬のうち、定期同額給与となるものと損金算入が認められる改定事由について確認します。

※ 損金算入できる役員報酬には、定期同額給与、事前確定届出給与及び業績連動給与があります(同族会社にあっては、同族会社以外の法人との間にその法人による完全支配関係があるものに限り、業績連動給与の支払者とされます)。
 事前確定届出給与については、本ブログ記事「事前確定届出給与の届出期限と支給額の注意点」をご参照ください。

1.定期同額給与とは?

 定期同額給与とは、次に掲げる給与をいいます。

類型 根拠条文
その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」といいます)で、その事業年度の各支給時期における支給額又は支給額から源泉税等の額(注1)を控除した金額が同額であるもの 法人税法34条1項
その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までに改定された定期給与(注2) 法人税法施行令69条1項1号イ
その事業年度において、その法人の役員の職制上の地位の変更、職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(以下「臨時改定事」といいます)により改定された定期給与(注2) 法人税法施行令69条1項1号ロ
その事業年度において、その法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(以下「業績悪化改定事由」といいます)により改定された定期給与(その定期給与の額を減額した改定に限られます)(注2) 法人税法施行令69条1項1号ハ
継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの(注3) 法人税法施行令69条1項1号ニ

(注1)源泉税等の額とは、源泉徴収をされる所得税の額、特別徴収をされる地方税の額、定期給与の額から控除される社会保険料の額その他これらに類するものの額の合計額をいいます。
(注2)上表の法人税法施行令69条1項1号イ~ハに規定する定期給与が定期同額給与に該当するためには、その改定前の各支給時期における支給額が同額であること及びその改定後の各支給時期における支給額が同額であること、が必要となります。
(注3)上表の法人税法施行令69条1項1号ニに規定する経済的利益は定期同額給与の類型の一つですが、その詳細については今回の記事では省略します。

 当該事業年度の1か月以内の各支給時期に同額を支給する場合に限り定期同額給与に該当し、損金算入が可能となります(法人税法34条1項)。

 したがって、事業年度の中途における増額・減額がある場合や、臨時・不定期な支給の場合には、原則として定期同額給与に該当せず、損金不算入となります。

 ただし、以下の場合は、事業年度中途における改定であっても、損金算入が認められる定期同額給与に該当します(法人税法施行令69条1項1号イ~ハ)。

2.損金算入が認められる改定と認められない改定

(1) 定時株主総会における定期給与の改定

 上記1のとおり、その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までに株主総会等で役員報酬を改定した場合は、その改定前の各支給時期における支給額が同額である定期給与及びその改定後の各支給時期における支給額が同額である定期給与のそれぞれについて、損金算入が認められます。

 例えば、3月決算法人が5月30日に開催した定時株主総会で、代表取締役の役員報酬月額60万円を6月分から80万円に改定した場合、改定前の60万円×2か月=120万円と改定後の80万円×10か月=800万円は、全額損金算入が認められます。

 しかし、多額の利益が見込まれるため、定時株主総会開催日に遡及して増額改定する旨の決議を行い、改定前と改定後の役員報酬の差額を決算月等に別途支給した場合は、当該差額全額が損金不算入となります。

 また、臨時株主総会等において、事業年度の中途で定期給与の増額改定が決議され、当該増額改定後の各支給時期における支給額が同額であったとしても、当該増額部分は損金不算入となります。

 例えば、3月決算法人が5月30日に開催した定時株主総会で代表取締役の役員報酬の改定を行わず、10月1日に開催した臨時株主総会で役員報酬月額60万円を10月分から80万円に改定した場合、改定後の増額部分(80万円-60万円)×6か月=120万円は損金不算入となります。

 ただし、次の臨時改定事由に該当する場合は、臨時増額改定であっても損金算入が認められます。

(2) 臨時改定事由とは?

 代表者の急逝等やむを得ない事情により、役員の職制上の地位、職務内容に重大な変更が生じた場合は、当該役員に対する定期給与の増額改定が当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日後に行われたものであっても、定期同額給与として取り扱われます。
 この場合には、増額改定前の定期給与と増額改定後の定期給与のそれぞれが、定期同額給与として取り扱われます。

 例えば、3月決算法人が、代表取締役Aの急逝により10月1日に開催した臨時株主総会において、取締役Bを代表取締役に選任するとともに、Bの役員報酬月額50万円を10月分から前任者Aと同額の80万円に増額改定した場合、改定前の50万円×6か月=300万円と改定後の80万円×6か月=480万円は、全額損金算入が認められます。

(3) 業績悪化改定事由とは?

 役員報酬の事業年度中途における改定が行われた場合は、増額改定だけではなく減額改定についても、原則として損金不算入となります。

 例えば、一時的な資金繰りの悪化や単に業績目標値に達しなかったことにより、事業年度中途において定期給与を減額改定した場合には、減額改定前の定期給与のうち減額改定後の定期給与を超える部分の金額は損金不算入となります。

 例えば、3月決算法人が5月30日に開催した定時株主総会で代表取締役の役員報酬の改定を行わず、10月25日に開催した臨時株主総会で、一時的に資金繰りが悪化したために役員報酬月額60万円を11月分から40万円に改定した場合、改定前の定期給与60万円のうち改定後の定期給与40万円を超える部分の金額(60万円-40万円)×7か月=140万円は、損金不算入となります。

 しかし、減額改定が業績悪化改定事由による場合は、減額改定前と減額改定後の各支給時期における支給額が同額であれば、定期同額給与として損金算入が認められます。

 例えば、3月決算法人が5月30日に開催した定時株主総会で代表取締役の役員報酬の改定を行わず、10月25日に開催した臨時株主総会で、業績悪化改定事由により役員報酬月額60万円を11月分から40万円に改定した場合、改定前の60万円×7か月=420万円と改定後の40万円×5か月=200万円は、全額損金算入が認められます。

 この業績悪化改定事由とは、「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」と規定され、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員報酬を減額せざるを得ない事情があることをいいますので、財務諸表の数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したことだけではなく、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員報酬を減額せざるを得ない事情が生じていることが必要です。

 具体的には、次のような場合の減額改定は、通常、業績悪化改定事由による改定に該当します。

① 株主との関係上、経営上の責任から役員報酬を減額せざるを得ない場合
② 取引銀行との借入金返済リスケジュール協議上、役員報酬を減額せざるを得ない場合
③ 取引先等からの信用を維持・確保する必要性から策定した経営改善計画に役員報酬の減額が盛り込まれた場合