空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例

 被相続人の空き家を売却した際の3,000万円特別控除の特例制度は、相続開始直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋が対象とされていました。
 2019年度(平成31年度)税制改正では、被相続人が対象家屋から転居し、相続開始直前に老人ホーム等に入所していた場合でも、一定の要件に該当すればこの特例制度の適用が受けられることになり、適用期限も延長されました。
 今回は、改正点も踏まえてこの特例制度について整理します。

1.制度の概要

 被相続人の居住の用に供されていた家屋及びその敷地等を、相続又は遺贈によって取得した相続人が、2016年(平成28年)4月1日から2023年(令和5年)12月31日までに譲渡した場合は、相続時から譲渡時まで空き家であったことなど一定の要件を満たせば、譲渡益から最高3,000万円を控除することができます。

2.特例対象となる家屋とその敷地等

(1) 家屋(被相続人居住用家屋)

 特例の対象となる家屋(被相続人居住用家屋)とは、相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋で、次の3つの要件すべてに当てはまるものをいいます(主として被相続人の居住の用に供されていた一の建築物に限ります(注))。

1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたこと
  昭和56年5月31日以前に建築された家屋は、現行の耐震基準を満たしていません。
区分所有建物登記がされている建物でないこと
  区分所有建物登記がされている建物とは、分譲マンションのことです。
相続の開始直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
  被相続人が当該家屋に一人暮らしをしていたということです。

(注)「一の建築物に限る」とは、家屋が複数の建築物(例えば、母屋と離れなど)から成る場合は、被相続人が主として居住の用に供していたと認められる一の建築物(母屋)のみが特例の対象となることをいいます。
 ※関連記事「譲渡所得の各種の特例における『居住用家屋』の範囲

 なお、2019年度(平成31年度)税制改正で、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で一定の要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋(以下「従前居住用家屋」といいます)は被相続人居住用家屋に該当することとなりました。平成31年度税制改正については、下記(3)で述べます。

(2) 敷地等(被相続人居住用家屋の敷地等)

 特例の対象となる敷地等(被相続人居住用家屋の敷地等)とは、相続の開始直前(従前居住用家屋の敷地の場合は、被相続人の居住の用に供されなくなる直前)において被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地又はその土地の上に存する権利をいいます。

(3) 平成31年度税制改正(老人ホーム等に入所していた場合)

① 従前居住用家屋

 この特例制度では、相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった家屋及びその敷地等であっても、次のイからハの要件を満たす場合は、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋(従前居住用家屋)及びその敷地等は、特例の対象になります。

イ.次に掲げる事由(以下「特定事由」といいます)により、相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合であること。

(イ) 介護保険法第19条第1項に規定する要介護認定若しくは同条第2項に規定する要支援認定を受けていた被相続人又は介護保険法施行規則第140条の62の4第2号に該当していた被相続人が、次に掲げる住居又は施設に入居又は入所をしていたこと。

㋑ 老人福祉法第5条の2第6項に規定する認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、同法第20条の4に規定する養護老人ホーム、同法第20条の5に規定する特別養護老人ホーム、同法第20条の6に規定する軽費老人ホーム又は同法第29条第1項に規定する有料老人ホーム
㋺ 介護保険法第8条第28項に規定する介護老人保健施設又は同条第29項に規定する介護医療院
㋩ 高齢者の居住の安定確保に関する法律第5条第1項に規定するサービス付き高齢者向け住宅(㋑の有料老人ホームを除きます)

(ロ) 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第21条第1項に規定する障害支援区分の認定を受けていた被相続人が同法第5条第11項に規定する障害者支援施設(同条第10項に規定する施設入所支援が行われるものに限ります)又は同条第17項に規定する共同生活援助を行う住居に入所又は入居をしていたこと。

(注)被相続人が、上記(イ)の要介護認定若しくは要支援認定又は上記(ロ)の障害支援区分の認定を受けていたかどうかは、特定事由により被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなる直前において、被相続人がその認定を受けていたかにより判定します。

ロ.次に掲げる要件を満たしていること。

(イ) 特定事由によりその家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始直前まで、引き続きその家屋がその被相続人の物品の保管その他の用に供されていたこと。
(ロ) 特定事由によりその家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始直前まで、その家屋が事業の用、貸付けの用又は被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。
(ハ) 被相続人が上記イ(イ)又は(ロ)の住居又は施設(以下「老人ホーム等」といいます)に入所をした時から相続の開始直前までの間において、被相続人が主としてその居住の用に供していたと認められる家屋がその老人ホーム等であること。

ハ.その家屋が次の3つの要件すべてに当てはまるもの(特定事由によりその家屋が被相続人の居住の用に供されなくなる直前において、主として被相続人の居住の用に供されていた一の建築物に限ります)であること。

(イ) 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたこと
(ロ) 区分所有建物登記がされている建物でないこと
(ハ) 特定事由により被相続人の居住の用に供されなくなる直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと

② 適用期限の延長

 この特例制度の適用期限が、2023年(令和5年)12月31日(改正前:2019年(令和元年)12月31日)まで4年延長されました。

③ 適用関係

 上記①②の改正は、2019年(平成31年)4月1日以後に行う被相続人居住用家屋又はその敷地等の譲渡について適用されます。

3.適用を受けるための要件

 この特例の適用を受けるためには、次の(1)から(7)の要件を満たす必要があります。

(1) 売った人が、相続又は遺贈により被相続人居住用家屋及びその敷地等を取得したこと。

(2) 次の①又は②の売却をしたこと。

① 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋を売るか、被相続人居住用家屋とともにその敷地等を売ること。

(注)被相続人居住用家屋は次のイとロの2つの要件に、被相続人居住用家屋の敷地等は次のイの要件に当てはまることが必要です。

イ.相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ロ.譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること。

② 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の全部の取壊し等をした後に被相続人居住用家屋の敷地等を売ること。

(注)被相続人居住用家屋は次のイの要件に、被相続人居住用家屋の敷地等は次のロ及びハの要件に当てはまることが必要です。

イ.相続の時から取壊し等の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ロ.相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ハ.取壊し等の時から譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。

(3) 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。

(4) 売却代金が1億円以下であること。

(5) 売った家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。

(6) 同一の被相続人から相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又はその敷地等について、この特例の適用を受けていないこと。

(7) 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと。
 特別の関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。

4.適用を受けるための手続

 この特例の適用を受けるためには、次に掲げる(1)、(2)の区分に応じて、それぞれ次に掲げる書類を添えて確定申告をすることが必要です。

(1) 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋を売るか、被相続人居住用家屋とともにその敷地等を売った場合

譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)〔土地・建物用〕

② 売った資産の登記事項証明書等で次の3つの事項を明らかにするもの

イ.売った人が被相続人居住用家屋及びその敷地等を被相続人から相続又は遺贈により取得したこと
ロ.被相続人居住用家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたこと
ハ.被相続人居住用家屋が区分所有建物登記がされている建物でないこと

③ 売った資産の所在地を管轄する市区町村長から交付を受けた「被相続人居住用家屋等確認書

(注)ここでいう「被相続人居住用家屋等確認書」とは、市区町村長が次のイからヘまでの6つの事項(被相続人居住用家屋が従前居住用家屋以外の場合は、イ及びロに掲げる事項)を確認した旨を記載した書類をいいます。

イ.相続の開始直前(従前居住用家屋の場合は、被相続人の居住の用に供されなくなる直前)において、被相続人が被相続人居住用家屋を居住の用に供しており、かつ、被相続人居住用家屋に被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。
ロ.被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋及びその敷地等が相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ハ.被相続人居住用家屋が、被相続人が要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続の開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかったこと。
ニ.被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始直前まで引き続き被相続人の物品の保管その他の用に供されていたこと。
ホ.被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始直前まで事業の用、貸付けの用又は被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。
ヘ.被相続人が老人ホーム等に入所した時から相続の開始の直前までの間において被相続人の居住の用に供する家屋が2以上ある場合には、これらの家屋のうちその老人ホーム等が、被相続人が主として居住の用に供していた一の家屋であること。

耐震基準適合証明書又は建設住宅性能評価書の写し

売買契約書の写しなどで売却代金が1億円以下であることを明らかにするもの

(2) 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の全部の取壊し等をした後に被相続人居住用家屋の敷地等を売った場合

① 上記(1)の①、②及び⑤に掲げる書類

② 売った資産の所在地を管轄する市区町村長から交付を受けた「被相続人居住用家屋等確認書

(注)ここでいう「被相続人居住用家屋等確認書」とは、市区町村長が次のイからニの4つの事項(被相続人居住用家屋が従前居住用家屋以外の場合は、イからハに掲げる事項)を確認した旨を記載した書類をいいます。

イ.上記(1)の③のイの事項。
ロ.被相続人居住用家屋が相続の時から取壊し等の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
ハ.被相続人居住用家屋の敷地等が次の2つの要件を満たすこと。

(イ) 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。
(ロ) 取壊し等の時から譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。

ニ.上記(1)の③のハからヘの事項。

5.留意点

 この空き家の譲渡所得の特例と取得費加算の特例は、いずれかの選択適用となります。
 取得費加算の特例とは、相続後3年10か月以内に相続財産を売却した場合は、相続税額の一部を取得費に加算することにより譲渡所得にかかる所得税を軽減する制度です。
 なお、例えば、相続で取得した被相続人(親)の自宅(空き家)の売却と、相続人(子)のマイホーム取得が同一年となった場合など、空き家の譲渡所得の特例と他の譲渡所得や所得税の特例との併用は制限されていません。ただし、マイホームの3,000万円控除とは同一年合計で控除限度額3,000万円となります。