注意!フリーレント契約の支払家賃の計上時期と経理処理

 不動産賃貸におけるフリーレント契約とは、賃貸借契約開始後の当初数か月間の賃料を無料にする、あるいは減額するというものです(本記事では、無料を前提とします)。
 貸主にとっては、賃貸不動産物件の稼働率の向上が見込めるというメリットがあり、また、借主にとっては初期費用を抑えることができるというメリットがありますが、賃料が無料であるということは、その間(フリーレント期間)の経理処理はどうしたらいいのか、という疑問が生じます
 この点について、前回は貸主側の処理を確認しました(前回記事「フリーレント契約の受取家賃の計上時期と経理処理」をご参照ください)。
 今回は、借主側の処理について確認します。

1.中途解約禁止条項がある場合

 フリーレント契約の場合、フリーレント期間中あるいはフリーレント期間経過直後に解約されてしまうことを防止するために、中途解約禁止条項が設けられているのが一般的です。例えば、次のようなフリーレント契約です。

「賃貸借期間2年間のうち、当初3か月間の賃料(月額40万円)はゼロとするフリーレント契約において、中途解約は禁止であり、仮に賃借人の都合で解約する場合は、賃借人はフリーレント期間に係る賃料相当額120万円(40万円×3か月)及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額(40万円×未経過期間月数)を賃貸人に支払う。」

 このような内容のフリーレント契約の場合、貸主には受取家賃の計上時期と経理処理について、理論的方法と実務的方法の2つが認められていました。
 理論的方法は、フリーレント期間開始時から受取家賃を計上する方法であり、実務的方法は、フリーレント期間は受取家賃を計上せずフリーレント期間終了後から受取家賃を計上する方法です。

 では、借主側にも理論的方法と実務的方法が認められているのでしょうか?この点について、以下で確認します。

(1) フリーレント期間開始時から支払家賃を計上―否認される可能性あり

 上記のフリーレント契約においては、中途解約が禁止されており、仮に賃貸借期間の中途で賃借人が自己の都合で解約する場合は、賃貸人は賃借人から、フリーレント期間に係る賃料相当額120万円及び解約後の未経過期間に係る賃料相当額の支払を受けることになります。
 すなわち、賃貸借期間の2年間に係る賃料相当額840万円(40万円×(24か月-3か月))は、このフリーレント契約締結時に、これを受領する権利が確定しているといえます。
 このようなケースでは、受取家賃をフリーレント期間を含む全賃貸借期間に係る賃料として、各期間に配分して収益計上すること(理論的方法)が貸主側の経理処理として相当とされています。具体的には、月額35万円(840万円÷24か月)の受取家賃をフリーレント期間開始時から計上する処理です。

 では、この取引の裏側にある借主側にも同様の経理処理が認められるのでしょうか?具体的には、賃料を支払っていないフリーレント期間開始時から月額35万円の支払家賃を計上する次のような経理処理です。

借方 金額 貸方 金額
支払家賃 35万円 未払金 35万円

 また、フリーレント期間終了後の4か月目からの経理処理は、次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
支払家賃 35万円 現金預金 40万円
未払金 5万円    

 貸主側の裏側の処理として当然認められそうに思いますが、このような借主側の経理処理は否認される可能性があります。
 2018(平成30)年6月15日裁決(この裁決事例は、フリーレント期間の賃料を無料ではなく減額するというものでした)において、国税不服審判所は、債務が確定していないなどとして損金算入を認めませんでした(国税不服審判所ホームページ・公表裁決事例「平成30年6月15日裁決」参照)。個人的には、国税不服審判所の判断には疑問が残りますが、借主側の経理処理としては否認される可能性があることに注意が必要です。

(2) フリーレント期間終了後から支払家賃を計上

 賃料を支払っていないフリーレント期間は支払家賃を計上せず、実際に賃料の支払が始まるフリーレント期間終了後から支払家賃を計上する方法です。
 経理処理は、フリーレント期間は仕訳なし、フリーレント期間終了後の4か月目から次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
支払家賃 40万円 現金預金 40万円

2.中途解約禁止条項がない場合

 フリーレント契約において、中途解約禁止条項を設けないのはあまり一般的とはいえませんが、この場合は、上記1(2)と同様に、フリーレント期間終了後から支払家賃を計上します。