猶予措置は電子取引データ保存の最後の手段!

 電子取引データの保存要件が緩和されたとはいえ、対応に四苦八苦している事業者や既にあきらめている事業者の方もいます。そのような方には、究極の緩和策である猶予措置の適用をお勧めします。
 今回は、FM宝塚「インボイス制度ってな~に?パート2」の最終回で本日の8:15からオンエアした内容を、Q&A形式でお伝えします。

※ 番組の概要については、本ブログ記事「FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします」をご参照ください。

1.どうしても対応できない場合は猶予措置

Q.前回の放送で、税務職員のダウンロードの求めに応じることができて2年前の売上高が5,000万円以下の事業者などは、検索機能を確保しなくてもいいという話がありました。その場合でも、保存要件に従った電子データの保存が必要ということでしたが、どうしても対応できないという声もあります。そんな場合はどうしたらいいでしょうか?

A.2023(令和5)年度の改正で猶予措置が設けられ、この猶予措置の要件に該当する場合は保存要件を満たさなくてもよく、電子データを単に保存しておくことができるとされました。

Q.猶予措置の要件とは?

A.次の2つのいずれにも該当することが必要です。

(1) 保存要件を満たせなかったことについて、所轄税務署⻑が「相当の理由」があると認める場合

(2) 税務調査の際に、電子データのダウンロードの求め及びその電子データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合

この2つの要件を満たせば、2024(令和6)年1月1日以降も電子データを印刷して紙で保存することができますので、対応に困っている事業者の方は猶予措置の適用を検討してみてください。

2.猶予措置における「相当の理由」とは?

Q.猶予措置は検討する価値があると思いますが、「相当の理由」の内容が気になります。どんな場合に「相当の理由」があると認められるのでしょうか?

A.この「相当の理由」については、電子帳簿保存法取扱通達7-12に記載されています。要約しますと、例えば、保存要件に適合したシステムの導入や社内でのワークフローの整備が間に合わない場合などは相当の理由があると認められます。また、資金繰りや人手不足等も相当の理由として認められるようです。

Q.「準備が間に合わない」とか「資金や人手が足りない」など、自己の責任だと思われるような理由でも認められるのですね?

A.そうですね。ただし、単に経営者の信条のみに基づく理由である場合は認められません。例えば、電子データは一瞬で失われる可能性があるので、我が社では電子データを紙で保存することを信条としている、といった場合です。

Q.相当の理由について、税務署への事前の申請は必要ですか?

A.事前申請は必要ありません。仮に税務調査の際に、相当の理由について税務職員から確認があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを具体的に説明すれば差し支えないとされています。

Q.電子帳簿保存法は令和4年1月1日から始まっていますが、令和5年12月31日までの2年間に限り、電子データを紙で保存してもいいとされています。今回の改正で設けられた猶予措置にも期限はありますか?

A.期限はありません。猶予措置は経過措置ではなく本則として規定された恒久的措置ですので、猶予措置が適用される限り、電子データを紙で保存することができます。

3.紙保存に加えてデータの保存も必要

Q.猶予措置を適用している間は紙保存ができるということですが、電子データを保存しなくてもいいということになりますか?

A.いいえ。この点については誤解する事業者の方もいるかもしれませんので念を押しておきますと、先ほど言いましたように、猶予措置には「電子データのダウンロードの求めに応じることができる」という要件があります。ダウンロードの求めに応じるためには、電子データの保存が必要になります。つまり、電子帳簿保存法が定める保存要件に従った保存は不要ですが、電子データを保存しなくてもいいということではありません。

Q.ということは、猶予措置を適用する場合でも、紙保存に加えて電子データの保存も必要ということですね。でも、保存要件を満たす必要がなくなるだけでだいぶん負担が減りますね。

A.そうですね。これまでの紙保存と何が変わるかといえば、電子データをとりあえず保存するだけですからね。この猶予措置ができたことによって電子帳簿保存法が骨抜きにされたという意見もありますが、対応に困っていた事業者の方は助かると思います。