売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、(1)の「2割特例」と簡易課税制度の関係について確認します。

※ (1)の「2割特例」の制度概要については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、(2)(3)の制度概要等については「インボイス制度に係る支援措置:R5年4月以降の申請可・少額取引のインボイス保存不要等」を、(4)については「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください。

1.納税額の計算上どちらが有利か?

 2割特例は売上税額の2割を納税額とするものですが、具体的には簡易課税制度と同様に以下のように計算します。

 消費税納税額=課税売上げに係る消費税額-課税売上げに係る消費税額×80%

 簡易課税制度におけるみなし仕入率は、事業区分に応じて下表のように定められていますが、2割特例は、簡易課税制度におけるみなし仕入率を事業区分にかかわらず一律に80%とすることと同義です。
 したがって、下表の第3種から第6種に該当する事業のうち1種類の事業のみを行う場合は、簡易課税制度よりも「2割特例」の方が納税額が少なくなり有利となります。

事業区分 該当する事業 みなし仕入率
第1種事業 卸売業 90%
第2種事業 小売業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) 80%
第3種事業 製造業、建築業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)など 70%
第4種事業 第1・2・3・5・6種以外の事業(飲食店業など) 60%
第5種事業 運輸・通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く) 50%
第6種事業 不動産業 40%

 第1種から第6種に該当する事業のうち2種類以上の事業を行う場合は、簡易課税制度のみなし仕入率と2割特例の80%を比較して、どちらか有利な方を適用します。つまり、みなし仕入率が80%を上回れば簡易課税制度が有利になり、下回れば2割特例が有利になります。

※ 2024(令和6)年度税制改正により、課税期間の初日において恒久的施設を有しない国外事業者は、簡易課税制度及び2割特例の適用を受けられないことになりました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

2.事務負担は2割特例が有利

 納税額の計算上、2割特例と簡易課税制度のどちらが有利になるかについては上記1のとおりですが、事務負担の軽減という点では、簡易課税制度よりも2割特例の方が有利になります。
 2割特例も簡易課税制度も納税額の計算にインボイスは必要ないという点では同じですが、2種類以上の事業を営む場合でも、2割特例は一律80%の仕入税額控除を行うため、簡易課税制度と異なり事業区分に応じた売上高と消費税額の把握は不要です。したがって、適用税率毎(軽減税率8%、標準税率10%など)の売上税額を把握するだけで納税額の計算が可能となります。
 また、簡易課税制度の適用を受ける場合には事前に簡易課税制度選択届出書の提出が必要ですが、2割特例の場合は事前の届出は不要であり、申告書に設けられる記載欄に適用を受ける旨を付記するだけです。
 さらに、2割特例には2年間の継続適用要件(いわゆる2年縛り)もありません。

出所:財務省ホームページ

「売上税額の2割納税の特例」の適用期間の留意点

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、(1)の「2割特例」の適用期間の留意点について確認します。

※ (1)の「2割特例」の制度概要については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、(2)(3)の制度概要等については「インボイス制度に係る支援措置:R5年4月以降の申請可・少額取引のインボイス保存不要等」を、(4)については「登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置」をご参照ください。

1.2割特例の適用対象期間

出所:財務省ホームページ

 2割特例は、免税事業者がインボイス発行事業者として課税事業者になる場合の税負担や事務負担を軽減するために設けられ、消費税納税額を売上税額(売ったときに受け取った消費税)の2割とする特例です。
 その適用対象期間は、2023(令和5)年10月1日から2026(令和8)年9月30日までの日の属する各課税期間です。

 具体的には上図のように、免税事業者である個⼈事業者が2023(令和5)年10⽉1⽇から登録を受ける場合は、2023(令和5)年分(令和5年10~12⽉分のみ)の申告から2026(令和8)年分の申告までの計4回の申告が適⽤対象となります。
 また、免税事業者である3⽉決算法⼈が2023(令和5)年10⽉1⽇から登録を受ける場合は、2024(令和6)年3⽉決算分(令和5年10⽉〜翌3⽉分のみ)から2027(令和9)年3⽉決算分までの計4回の申告が適⽤対象となります。

2.基準期間の課税売上高が1,000万円超の場合

出所:財務省ホームページ

 ただし、2割特例の適用対象期間内であっても、基準期間(法人は2期前、個人は2年前)における課税売上高が1,000万円を超える場合は、その課税期間は2割特例の適用を受けることができません。

 例えば、上図において、免税事業者である個⼈事業者が2023(令和5)年10⽉1⽇から登録を受ける場合は、2023(令和5)年分(令和5年10~12⽉分のみ)の申告から2026(令和8)年分の申告までの計4回の申告が適⽤対象となりますが、2026(令和8)年分の申告については、基準期間である2024(令和6)年の課税売上高が1,000万円を超えていますので、2割特例の適用を受けることはできません。

 したがって、2割特例の適用対象期間内であっても、申告する課税期間が2割特例の適⽤対象となるか否かについては確認が必要です。

3.課税事業者を選択してインボイス登録した場合

出所:財務省ホームページ

 2割特例は、免税事業者からインボイス発行事業者になった者(基準期間の課税売上高が1,000万円以下等の要件を満たす者で、インボイス発行事業者の登録をしなければ課税事業者にならなかった者)が対象となります。

 この対象者には、課税事業者選択届出書を提出し、登録を受けてインボイス発行事業者となる者も含まれます。
 ただし、2023(令和5)年10月1日前から課税事業者選択届出書を提出していることにより、引き続き事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる同日の属する課税期間については適用されません。

 例えば、免税事業者である個⼈事業者が2022(令和4)年12月に課税事業者選択届出書とインボイス登録申請書を提出して2023(令和5)年10月1日から登録を受け、2023(令和5)年1月1日から同年12月31日までの課税期間について納税義務が生じる場合は、当該課税期間(令和5年分)の申告については2割特例の適用を受けることができません(上図・左の例)。

 ただし、このような場合でも令和5年分の申告について2割特例の適⽤を受けるかどうかを検討できるように、その課税期間中(上記の例では、改正法の施⾏⽇である2023(令和5)年4⽉1⽇から同年12⽉31⽇まで)に、課税事業者選択不適⽤届出書を提出することで、その課税期間(令和5年分)から課税事業者選択届出書の効⼒を失効できることとされます。

 したがって、本⼿続を行うことにより、上記の例では、2023(令和5)年1⽉1日から同年9月30日までの納税義務が改めて免除され、インボイス発⾏事業者として登録を受けた2023(令和5)年10⽉1⽇から同年12⽉31⽇までの期間について納税義務が⽣じることとなり、その期間について2割特例を適⽤することが可能となります(上図・右の例)。

※ 2024(令和6)年度税制改正により、課税期間の初日において恒久的施設を有しない国外事業者は、簡易課税制度及び2割特例の適用を受けられないことになりました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

登録制度の見直しと手続きの柔軟化:インボイス制度負担軽減措置

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。このインボイス制度は、免税事業者を中心に多くの事業者へ影響を及ぼすことから、その影響を緩和するために、2023(令和5)年度税制改正で以下の負担軽減措置(支援措置)が講じられました。

(1) 売上税額の2割を納税額とする「2割特例」
(2) 帳簿保存のみで仕入税額控除ができる「少額特例」
(3) 少額な返還インボイスの交付義務の免除
(4) 登録制度の見直しと手続きの柔軟化

 今回は、上記の負担軽減措置のうち、2023(令和5)年4月1日から改正内容の一部が反映される(4)について確認します。

※ (1)の「2割特例」の制度概要については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、(2)(3)の制度概要等については「インボイス制度に係る支援措置:R5年4月以降の申請可・少額取引のインボイス保存不要等」ご参照ください。

1.インボイス登録手続きの柔軟化

出所:財務省ホームページ

 2023(令和5)年度税制改正では、上述したとおり4つの負担軽減措置が講じられました。
 そのほとんどが、インボイス制度がスタートする2023(令和5)年10月1日から適用されますが、「登録制度の見直しと手続きの柔軟化」のうち「手続きの柔軟化」については、2023(令和5)年4月1日から適用されます。

 改正前は、インボイス制度がスタートする2023(令和5)年10月1日からインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)になるためには同年3月31日までに登録申請しなければならず、同年4月1日以降に登録申請する場合は、同年3月31日までに申請することにつき「困難な事情」を申請書に記載する必要がありました。
 改正後は、2023(令和5)年4月1日以降の登録申請であっても、「困難な事情」の記載は不要となり、同年9月30日までに登録申請すれば同年10月1日からインボイス発行事業者になることができます。

2.インボイス登録制度の見直し

出所:財務省ホームページ

 「登録制度の見直しと手続きの柔軟化」のうち「登録制度の見直し」については、2023(令和5)年10月1日から適用されます。

 免税事業者がインボイス発行事業者の登録申請をして課税期間の初日から登録を受けようとする場合、現行(改正前)では、当該課税期間の初日の前日から起算して1か月前の日までに登録申請書を提出しなければなりません。
 改正後は、当該課税期間の初日の前日から起算して15日前の日までに短縮されます。
 したがって、2023(令和5)年10月1日後にインボイス発行事業者の登録を受けようとする免税事業者は、その登録申請書に、提出日から15日以後の日を登録希望日として記載することとなります。
 この場合、登録希望日後に登録がされたときは、当該登録希望日に登録を受けたものとみなされます。

 なお、登録を取り消す場合の届出書の提出期限についても、同様の措置が講じられています。
 すなわち、インボイス発行事業者が登録取消届出書を提出し、その提出があった課税期間の翌課税期間の初日から登録を取り消そうとする場合は、当該翌課税期間の初日から起算して15日前の日(現行(改正前)は、その提出があった課税期間の末日から起算して30日前の日の前日)までに届出書を提出しなければなりません。

インボイス制度に係る支援措置:R5年4月以降の申請可・少額取引のインボイス保存不要等

 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、インボイス制度の円滑な実施に向けて、インボイス制度に係るいくつかの支援措置が講じられました。
 前回の記事では、その支援措置のうち売上税額の2割納税の特例について確認しましたが、今回は、2割納税の特例以外の主な措置について概観します。
 また、令和4年度第2次補正予算におけるインボイス制度への対応に係る支援策についても概観します。

1.令和5年4月以降も申請可能

 2023(令和5)年10月1日からインボイス制度が開始されますが、この制度開始時からインボイス発行事業者の登録を受けるためには、原則として2023(令和5)年3月31日までに申請書を提出する必要があり、2023(令和5)年4月1日以降に申請する場合は「困難な事情」があることを記載する必要がありました。
 しかし、令和5年度税制改正大綱においては、事業者の準備状況を考慮して、「困難な事情」の記載がなくても2023(令和5)年4月1日以降も申請できるように改められ、この場合でも制度開始時の登録が可能となりました。

2.少額取引はインボイスの保存不要

 基準期間の課税売上高が1億円以下の事業者等については、税込1万円未満の課税仕入れであれば、インボイスの保存がなくても帳簿の保存のみで仕入税額控除ができるようになりました。この措置は、2023(令和5)年10月1日から6年間実施されます。

※ 本特例の対象となる1万円未満かどうかの判定は、税込価額で行います。また、その金額の判定単位は、課税仕入に係る1商品ごとの金額ではなく、1回の取引の合計額が1万円未満であるかどうかにより判定します。

(1) 対象になる者
 基準期間(法人は2期前、個人は2年前)の課税売上高が1億円以下または特定期間(法人は前期の上半期、個人は前年の1月~6月))の課税売上高が5,000万円以下の者

※ 特定期間における5,000万円の判定に当たり、課税売上高に代えて給与支払額の合計額の判定によることはできません。

(2) 対象となる期間
 2023(令和5)年10月1日~2029(令和11)年9月30日

3.少額値引・返品は返還インボイスの交付不要

 すべての事業者は、税込1万円未満の値引きや返品等については、返還インボイスを交付する必要がなくなりました。振込手数料分を値引処理する場合も対象となります。
 また、この措置には適用期限はありません。

(1) 対象になる者
 すべての事業者

(2) 対象となる期間
 適用期限がない恒久的措置

4.インボイス制度対応に係る補助金支援

 インボイス制度への対応に係る支援策について、令和4年度第2次補正予算では、商工会・商工会議所及びよろず支援拠点等による講習会の開催や専門家派遣を含む事業者からの相談体制の強化に加え、IT導入補助金における補助下限の撤廃や、小規模事業者持続化補助金における補助上限の一律50万円上乗せ等が実施されます。

(1) IT導入補助金の下限撤廃

 IT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)について、安価な会計ソフトも対象となるように、補助下限額が撤廃されました。

① 対象になる者
 中小企業・小規模事業者等

② 補助額(下限額を撤廃)
 ・ITツール:~50万円(補助率3/4以内)、50~350万円(補助率2/3以内)
 ・PC、タブレット等:~10万円(補助率1/2以内)
 ・レジ、券売機等:~20万円(補助率1/2以内)

③ 補助対象
 ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、ハードウェア購入費等

(2) 小規模事業者持続化補助金の50万円上乗せ

 小規模事業者持続化補助金について、免税事業者がインボイス発行事業者に登録した場合、補助上限額が一律50万円加算 されます。

① 対象になる者
 小規模事業者

② 補助上限
 50~200万円(補助率2/3以内、一部の類型は3/4以内)が、100~250万円(インボイス発行事業者の登録で50万円プラス)

③ 補助対象
 税理士相談費用、機械装置導入、広報費、展示会出展費、開発費、委託費等
 

インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税

 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、インボイス制度の円滑な実施に向けて、インボイス制度に係る支援措置がいくつか講じられました。
 以下では、その支援措置のうち、売上税額の2割納税の特例について概観します。

1.売上に係る消費税の2割の納税でよい

 消費税の納税額は、売上に係る消費税(売ったときに受け取った消費税)から仕入れに係る消費税(買ったときに支払った消費税)を差引いて計算します。
 例えば、税率が10%の場合、77,000円で仕入れた商品を110,000円で売ったとすると、納税額は10,000円(受け取った消費税)から7,000円(支払った消費税)を差引いた3,000円になります。この支払った消費税を差引くことを「仕入税額控除」といいます。

 今回の令和5年度税制改正大綱では、免税事業者がインボイス発行事業者になった場合の税負担と事務負担を軽減するために、仕入れに係る消費税(買ったときに支払った消費税)がいくらであろうと、売上に係る消費税(売ったときに受け取った消費税)の2割だけを納税すればよいという特例が設けられました。
 先の例でいうと、実際には仕入に係る消費税が7,000円だったとしても、売上に係る消費税10,000円の2割である2,000円を納税すればよいことになり、1,000円分の税負担が軽減されます。

 また、消費税の申告を行うためには、通常、経費等の集計やインボイスの保存などが必要となりますが、この特例を適用すれば、所得税・法人税の申告で必要となる売上高を税率毎(軽減税率8%と標準税率10%など)に把握するだけで、申告書の作成(納税額の計算)ができるようになります。
 さらに、事前の届出も不要ですので、申告時に適用するかどうかの選択が可能です。

 この特例をまとめると、次のようになります。

(1) 特例の対象となる者
 免税事業者からインボイス発行事業者になった者(基準期間の課税売上高が1,000万円以下等の要件を満たす者で、インボイス発行事業者の登録をしなければ課税事業者にならなかった者)が対象

(2) 特例の対象となる期間
 ・法人は、2023(令和5)年10月1日~2026(令和8)年9月30日を含む課税期間
 ・個人事業者は、2023(令和5)年10~12月の申告から2026(令和8)年分の申告まで

 なお、課税期間の特例の適用を受ける課税期間等については適用されません(2割納税の特例の適用期間については、本ブログ記事「『売上税額の2割納税の特例』の適用期間の留意点」をご参照ください)。

(3) 事前の届出
 この特例を適用するにあたって、事前の届出は不要(確定申告書に特例の適用を受ける旨を付記するだけ)

2.簡易課税制度との関係

 令和5年度税制改正大綱で設けられた上記の売上税額の2割納税の特例は、従来の簡易課税制度におけるみなし仕入率を、業種にかかわりなく一律に80%とすることと同義であるといえます。
 免税事業者がインボイス発行事業者になる場合に、仕入税額控除の方法を原則課税ではなく簡易課税にするという選択肢もありましたが、今回設けられた2割納税の特例との有利不利を考慮したうえで判断しなければなりません(2割納税の特例と簡易課税の有利不利については、本ブログ記事「売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?」をご参照ください)。

※ 免税事業者がインボイス発行事業者となる場合の簡易課税制度の選択については、本ブログ記事「免税事業者がインボイス発行事業者となる場合の事前準備」をご参照ください。

※ 2024(令和6)年度税制改正により、課税期間の初日において恒久的施設を有しない国外事業者は、簡易課税制度及び2割特例の適用を受けられないことになりました。
 この改正は、2024(令和6)年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

インボイス制度のよくある質問

 2023(令和5)年10月1日から始まるインボイス制度について、これまでに事業者の皆さんから受けた質問をQ&A形式で紹介します。

1.インボイス制度が始まると、免税事業者は消費税額を請求できない?

Q.免税事業者である当社は、これまで消費税分を加算した金額を相手方に請求していましたが、インボイス制度が始まる令和5年10月1日以降も消費税分を請求すると、消費税法違反になりますか?

A.令和5年10月1日以降の取引においても、免税事業者が消費税相当額を請求してはならないという規定は消費税法にありません。したがって、消費税分を請求しても違法ではありません。

Q.ということは、これまで通り請求書に消費税率や消費税額を記載しても問題はないということですね?

A.税率や税額を記載すること自体は違法ではありませんが、免税事業者がインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)であるとの誤解を招くような書類を発行することは禁じられており、罰則規定もあります。
 また、免税事業者が請求書に税率や税額を記載することは、相手方から値引き交渉の材料とされる可能性もあります。
 したがって、請求金額は税額を別記する外税ではなく税込みの金額である内税で記載し、消費税率や消費税額は記載しないで請求書を作成するのが良いと思います。

2.インボイス発行事業者になれば外税で請求してもよいという提案を受けたが?

Q.当社は免税事業者であることから、これまでは内税で請求をしていましたが、インボイス制度導入を契機に取引先と取引条件の見直しをしていたところ、インボイス発行事業者になれば外税で請求してもよいという提案を受けました。この提案に乗るべきでしょうか?

A.乗ってください。例えば、内税で10万円を請求していたのを外税で11万円を請求できるということは、1万円の収入増加になります。一方で、消費税の納税義務も生じますので、この増えた1万円のうちいくらかは消費税として納付することになりますが、必ず手元に残るお金はあります。これは消費税の計算方法が原則課税でも簡易課税でも、仕入率が0%でない限り必ず手元にお金が残ります。
 ただし、取引先がこの1社だけならこの提案に乗るべきですが、他にも取引先があり、その取引先とは内税での請求が続くのであれば、各取引先との取引量や取引金額などを総合的に勘案して検討しなければなりません(外税請求と内税請求の割合を考慮する必要があります)。

3.事務所家賃を口座振替で支払っており貸主から請求書や領収書を受け取っていない。この場合、インボイス制度が始まると仕入税額控除できなくなる?

Q.当社は事務所の家賃を口座振替で支払っていますが、貸主から請求書や領収書が発行されないため、家賃の支払の記録としては銀行の通帳に口座振替の記録が残るだけです。この場合、インボイス制度が始まると当社は仕入税額控除ができなくなるのでしょうか?

A.契約書に基づき代金決済が行われ、取引の都度、請求書や領収書が交付されない取引であっても、仕入税額控除を受けるためには、原則としてインボイスの保存が必要です。
 そこで、仕入税額控除を受けるためには、次の3つの方法があります。

口座振替の都度、貸主からインボイスの交付を受け、それを保存する。
貸主から一定期間の家賃についてのインボイスの交付を受け、それを保存する(インボイスは、一定期間の取引をまとめて交付することもできます)。
インボイスの記載事項の一部(例えば、口座振替の年月日以外の事項)が記載された契約書とともに通帳(口座振替の年月日の事実を示すもの)を併せて保存する(インボイスとして必要な記載事項は、一の書類だけで全てが記載されている必要はなく、複数の書類で記載事項を満たせば、それらの書類全体でインボイスの記載事項を満たすことになります)。

 上記のうち事務の煩雑さを考慮すると、②か③になると思いますが、③については令和5年9月30日以前からの契約の場合は、契約書にインボイスとして必要な事項(例えば、登録番号)の記載が不足している場合には、別途、記載が不足していた事項(登録番号)の通知を貸主から受け、契約書とともに保存していれば差し支えありません。
 貸主の立場からは、③での対応が一番楽だと思います。

Q.もし、貸主がインボイス発行事業者ではない場合は、当社は仕入税額控除ができないのでしょうか?

A.免税事業者や消費者から物を買ったりサービスを受けたりした場合でも、一定の要件のもとに6年間は仕入税額控除をしてもいいという経過措置が設けられています。
 令和5年10月1日から令和8年9月30日までは免税事業者に支払った消費税相当額の80%を、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは50%を仕入税額控除できます。

※ 一定の要件とは、「区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等及びこの経過措置の規定の適用を受ける旨を記載した帳簿を保存していること」です。

4.インボイス制度開始前に請求書に登録番号を記載しても大丈夫?

Q.当社はインボイス登録申請書を提出し、令和4年10月に登録番号が通知されました。インボイス制度が始まる前に、この登録番号を請求書に記載しても問題ないでしょうか?

A.問題ありません。請求書等に登録番号を記載したとしても、取引の相手方は現行制度(区分記載請求書等保存方式)の仕入税額控除の要件を確保できますので、インボイス制度開始前に請求書に登録番号を記載しても差し支えありません。

5.電子インボイスとデジタルインボイスの違いとは?

Q.取引の相手方から、電子帳簿保存法に対応するために電子インボイスを発行してほしいという要望がありましたが、電子インボイスとデジタルインボイスの違いがわかりません。

A.電子インボイスとデジタルインボイスは似ていますが、それぞれ異なるものです。
 「電子インボイス」とは、例えば、紙の請求書を「画像データ化(PDF)」してメール送信したものをいいます。Excelで作成した請求書をプリントアウトせずにPDFに変換し、メールに添付して送信したものも電子インボイスです。
 電子インボイスは、紙やExcelデータなどを電子化(PDF)したものであり、人がそれを処理することが前提となっています。
 これに対し「デジタルインボイス」とは、請求に関する情報について、売り手のシステムから買い手のシステムへ人を介さずにデータ連携する仕組みです。
 売り手のシステムが生成したインボイスデータ(電子データ)を買い手のシステムで読み取り、受発注や決済まで自動処理させることを前提としています。
 業務の効率化という点では、デジタルインボイスの方が利便性が高いといえます。

免税事業者がインボイス発行事業者となる場合の事前準備

 2023(令和5)年10月1日から適格請求書等保存方式(インボイス制度)がスタートします。
 現在課税事業者で今後も課税事業者が続くと見込まれる場合や、現在は免税事業者だけど2023(令和5)年10月1日時点では課税事業者であり、それ以降も課税事業者であることが見込まれる場合は、インボイス発行事業者の登録をしない理由はないと言えます。
 一方、現在免税事業者で今後も免税事業者であることが見込まれる場合は、インボイス発行事業者の登録をすべきか否かについて、免税事業者の方は非常に悩ましい判断を迫られています。
 今回は、いろいろと検討した結果、インボイス制度のスタートに合わせてインボイス発行事業者になるという決断をした免税事業者の、事前に必要な準備について述べていきます。

1.消費税を意識した記帳を今から始める

 免税事業者がインボイス発行事業者の登録をするということは、当然のことながら課税事業者になることを意味します。つまり、消費税の申告納税義務が生じます。
 この場合、個人事業主と12月決算法人を前提(以下2、3において同じ)とすると、消費税の申告対象となる期間は2023(令和5)年1月1日~同年12月31日の1年間ではなく、2023(令和5)年10月1日~同年12月31日までの3か月間になります。
 免税事業者の方は、会計ソフトを使用している場合も手書きや表計算ソフト等で帳簿を作成している場合も、これまでは消費税を意識した記帳は行っていなかったと思われます。
 しかし、課税事業者になると、消費税についてもきっちり記帳をしなければ消費税の申告納税をすることができません。免税事業者である今のうちから、消費税を意識した記帳を行って、申告納税に備える必要があります(今のうちに練習をしておくということです)。
 また、下記3で述べるように、課税事業者になったときの納税額の有利不利をシミュレーションするためにも、免税事業者のうちから消費税を意識した記帳を行う必要があります。

2.棚卸資産に係る調整措置を適用する

 消費税の納税額は、売上に係る消費税(売ったときに受け取った消費税)から仕れに係る消費税(買ったときに支払った消費税)を差引いて計算します。例えば、税率を10%とすると、77,000円で仕入れた商品を110,000円で売った場合、納税額は10,000円(受け取った消費税)から7,000円(支払った消費税)を差引いた3,000円になります。この支払った消費税を差引くことを「仕入税額控除」といいます。
 しかし、免税事業者のときに仕入れた商品等を課税事業者になってから販売すると、消費税納税額の計算上、売上に係る消費税(課税事業者になってから受け取った消費税)は計上されますが、仕入れに係る消費税(免税事業者のときに支払った消費税)は差引くこと(仕入税額控除)ができません。
 このような不合理を調整するために、免税事業者が課税事業者になった場合に、免税事業者時代の棚卸資産(商品や原材料などの在庫)に含まれる消費税を仕入税額控除できる「棚卸資産に係る調整措置」が設けられています。
 免税事業者が今回のインボイス制度導入に合わせて課税事業者になった場合に当てはめると、2023(令和5)年9月30日時点の棚卸資産に含まれる消費税を、課税事業者になった2023(令和5)年10月1日~同年12月31日の期間で仕入税額控除できることになります。
 今回この調整措置を適用するためには、棚卸し(在庫の確認)を決算期の12月31日だけではなく、免税事業者最終日の9月30日にも行う必要があります。
 この調整措置は納税者有利の規定ですから、卸売業や小売業、飲食店業など、棚卸資産のある業種の事業者の方は、忘れずに適用してください。ただし、下記3の簡易課税制度を選択する場合は適用できません。

3.簡易課税の選択を検討する

 消費税の仕入税額控除の方法には、原則課税と簡易課税があります。
 原則課税は、商品等を購入した際の領収書等から実際に支払った消費税を集計し、これを受け取った消費税から差し引いて納税額を計算します。
 一方、簡易課税は、業種ごとに決められた「みなし仕入率※1」という一定の割合を、受け取った消費税に乗じて(掛け算して)支払った消費税を算出します。
 例えば、小売業の場合、77,000円で仕入れた商品を110,000円で売ったとき、原則課税で計算した「支払った消費税」は7,000円(納税額は3,000円)になりますが、簡易課税では、小売業のみなし仕入率は80%ですので、「支払った消費税」は受け取った消費税10,000円に80%を乗じた8,000円(納税額は2,000円)になります。
 この計算例でわかるように、簡易課税は、原則課税のように実際に支払った消費税を領収書等から集計する必要がありません(売上高がわかれば納税額の計算ができます)。つまり、インボイス制度が導入されてもインボイスを保存する必要がないので、経理事務負担が軽減されるということです※2
 また、上記の計算例のように、実際の仕入率(支払った消費税7,000円÷受け取った消費税10,000円=70%)よりみなし仕入率(小売業80%)の方が高い場合は、簡易課税の方が原則課税よりも納税額が少なくなります。逆に、実際の仕入率がみなし仕入率より高い場合は、納税額が原則課税より増えます。
 このように、実際の仕入率とみなし仕入率の関係によっては、簡易課税の方が税負担が軽減される場合があるということです。
 うまくいけば、事務負担も税負担も軽減されますので、簡易課税の選択は検討する価値があります※3

 ただし、簡易課税を選択する場合には、次の点に留意しなければなりません。

(1) 基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること。
 この制限に関しては、今回は免税事業者(基準期間の課税売上高1,000万円以下)が課税事業者になる場合を述べていますので、クリアしています。

(2) 簡易課税を選択する場合は、「簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要がある。
 通常は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出しなければなりませんが、今回のインボイス制度導入に合わせて免税事業者が課税事業者になる場合は、2023(令和5)年12月31日までに提出すればよいことになっています。

(3) 簡易課税を選択した場合は、2年間継続適用しなければならない。
 簡易課税を初めて選択した次の年度に原則課税の方が有利になる場合でも、簡易課税を継続適用しなければなりません。

※1 みなし仕入率

事業区分 該当する事業 みなし仕入率
第1種 卸売業 90%
第2種 小売業 80%
第3種 農業、林業、漁業、建設業、製造業など 70%
第4種 飲食店業など 60%
第5種 金融・保険業、運輸通信業、サービス業 50%
第6種 不動産業 40%

※2 所得税法・法人税法上は、受領した請求書等は保存しなければなりません。

※3 2022(令和4)年12月23日に閣議決定された令和5年度税制改正大綱において、売上税額の2割納税の特例が設けられました。簡易課税制度の選択にあたっては、この2割納税の特例との有利不利を考慮する必要がありますので、ご注意ください。2割納税の特例については、本ブログ記事「インボイス制度に係る支援措置:売上税額の2割納税」を、2割納税の特例と簡易課税制度の有利不利については「売上税額の2割納税の特例と簡易課税制度はどちらが有利か?」をご参照ください。

FM宝塚でインボイス制度の解説をします

 2023(令和5)年10月1日から始まるインボイス制度について、FM宝塚で解説をさせていただくことになりました(提供:宝塚商工会議所)。

 インボイス制度が始まるとどうなるのか?
 免税事業者はインボイス発行事業者として登録した方がいいのか?
 登録するかどうかは何を基準に判断すればいいのか?
 課税事業者が免税事業者との取引を見直す際の注意点は?

などについて、パーソナリティーの芦田純子さんと一緒に解説をしていきます。

 自分は関係ないと思っていても、取引先などからインボイス対応について聞かれたときに、知識がなければ答えることができませんので、この放送を通してインボイス制度の概要をつかんでいただければと思います。

 番組名は「インボイス制度ってな~に?」、初回放送は2022(令和4)年10月8日(土)8時15分~8時30分で、2022(令和4)年12月24日(土)までの全12回(再放送を含みます)の放送です。

放送スケジュール
2022/10/8(土) 8:15~8:30 ①本放送
2022/10/15(土) 8:15~8:30 ①再放送
2022/10/22(土) 8:15~8:30 ②本放送
2022/10/29(土) 8:15~8:30 ②再放送
2022/11/5(土) 8:15~8:30 ③本放送
2022/11/12(土) 8:15~8:30 ③再放送
2022/11/19(土) 8:15~8:30 ④本放送
2022/11/26(土) 8:15~8:30 ④再放送
2022/12/3(土) 8:15~8:30 ⑤本放送
2022/12/10(土) 8:15~8:30 ⑤再放送
2022/12/17(土) 8:15~8:30 ⑥本放送
2022/12/24(土) 8:15~8:30 ⑥再放送

適格請求書等の発行が免除される場合とは?

1.適格請求書等の交付義務と保存義務

 2023(令和5)年10月1日から「適格請求書等保存方式」(以下、「インボイス制度」といいます)が開始されます。
 インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者は、取引の相手方(課税事業者に限ります)から求められたときは「適格請求書の交付義務が免除されるもの」に該当する場合を除き、適格請求書又は適格簡易請求書を交付し、その写しを保存しなければなりません。ただし、免税取引、非課税取引及び不課税取引のみを行った場合については、適格請求書等の交付義務はありません。
 では、「適格請求書の交付義務が免除されるもの」とは、どのような取引をいうのでしょうか?

2.適格請求書の交付義務が免除されるもの

 次の取引は、適格請求書発行事業者が行う事業の性質上、適格請求書を交付することが困難なため、適格請求書の交付義務が免除されます。したがって、適格請求書及び適格簡易請求書のいずれも交付する義務はありません。

(1) 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送(公共交通機関特例)※①
(2) 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限る)
(3) 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限る)
(4) 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等(自動販売機特例)※②
(5) 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)

※① 3万円未満の公共交通機関による旅客の運送かどうかは、1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定します。したがって、1商品(切符1枚)ごとの金額や、月まとめ等の金額で判定することにはなりません。
 例えば、東京-新大阪間の新幹線の大人運賃が 13,200 円であり、4人分の運送役務の提供を行う場合には、4人分の 52,800 円で判定することとなります。

※② 自動販売機特例の対象となる自動販売機や自動サービス機とは、代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われる機械装置であって、その機械装置のみで代金の受領と資産の譲渡等が完結するものをいいます。
 例えば、自動販売機による飲食料品の販売のほか、コインロッカーやコインランドリー等によるサービス、金融機関のATMによる手数料を対価とする入出金サービスや振込サービスのように機械装置のみにより代金の受領と資産の譲渡等が完結するものが該当することとなります。
 なお、小売店内に設置されたセルフレジを通じた販売のように機械装置により単に精算が行われているだけのもの、コインパーキングや自動券売機のように代金の受領と券類の発行はその機械装置で行われるものの資産の譲渡等は別途行われるようなもの及びネットバンキングのように機械装置で資産の譲渡等が行われないものは、自動販売機や自動サービス機による商品の販売等に含まれません。

適格請求書・適格簡易請求書の記載事項と記載例

 2023(令和5)年10月1日から適格請求書等保存方式(以下、「インボイス制度」といいます)がスタートします。
 インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者は、取引の相手方(課税事業者に限ります)から求められたときは、適格請求書又は適格簡易請求書を交付し、その写しを保存しなければなりません(免税取引、非課税取引及び不課税取引のみを行った場合については、適格請求書等の交付義務はありません)
 以下では、適格請求書と適格簡易請求書の記載事項について確認します。

1.適格請求書

 適格請求書とは、次の事項が記載された書類(請求書、納品書、領収書、レシート等)をいいます。
 現行の区分記載請求書等保存方式(2019(令和1)年10月1日~2023(令和5)年9月30日)における請求書等の記載事項に加え、①、④及び⑤の下線部分が追加されます。

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率
税率ごとに区分した消費税額等(消費税額等とは、消費税額及び地方消費税額に相当する金額の合計額のことです)
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

 例えば、飲食料品や日用雑貨の販売を行っている事業者が、現行の区分記載請求書等保存方式の下で発行している区分記載請求書の記載例は、次のようになります。

出所:国税庁ホームページ

 この事業者が適格請求書発行事業者となった場合に発行する適格請求書の記載例は、次のようになります。

出所:国税庁ホームページ

 区分記載請求書の記載事項と比較すると、①、④及び⑤の記載事項が追加されています。
 なお、適格請求書の様式は、法令等で定められていません。適格請求書として必要な事項が記載された書類であれば、請求書、納品書、領収書等その名称にかかわらず、適格請求書に該当します。

2.適格簡易請求書

 インボイス制度においては、適格請求書発行事業者が、小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業又は駐車場業等のように不特定かつ多数の者を相手方として事業を行う場合には、適格請求書に代えて適格簡易請求書を交付することができます。
 適格簡易請求書の記載事項は、適格請求書の記載事項よりも簡易なものとされており、適格請求書の記載事項と比べると、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載が不要である点、「税率ごとに区分した消費税額等」又は「適用税率」のいずれか一方の記載で足りる点が異なります。
 なお、具体的な記載事項は、次のとおりです。

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲
渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率

 例えば、小売業(スーパーマーケット)を営む事業者が、適格請求書発行事業者となった場合に発行する適格簡易請求書の記載例は、次のようになります(「適用税率のみを記載する場合」と「税率ごとに区分した消費税額等のみを記載する場合」の2例)。

出所:国税庁ホームページ

 なお、適格請求書及び適格簡易請求書の発行が免除されるケースについては、本ブログ記事「適格請求書等の発行が免除される場合とは?」をご参照ください。