電子帳簿保存法の猶予措置における「相当の理由」とは?

1.宥恕措置は令和5年12月31日までの経過措置

 電子帳簿保存法とは、これまで紙で保存していた帳簿や決算書、請求書などの国税関係帳簿・書類を電子データで保存するための要件を定めた法律で、電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引データ保存の3つに区分されています。

 2022(令和4)年1月1日施行の改正電子帳簿保存法では、電子帳簿等保存とスキャナ保存への対応は任意とされていますが、電子取引データ保存への対応は義務化されています。
 そのため、2022(令和4)年1月1日からは、電子取引データは電子データのまま保存しなければなりませんが、単に保存するのではなく一定の要件(真実性・可視性)に従った保存をする必要があります。

 しかし、電子データを保存するときに満たすべき一定の要件への対応が困難な事業者の実情に配意して、2022(令和4)年1月1日以降も紙による保存を可能とする宥恕措置が講じられましたが、この宥恕措置も適用期限である2023(令和5)年12月31日の到来をもって廃止されます。

2.猶予措置は恒久的措置

 宥恕措置により、電子取引データ保存への対応準備期間が設けられましたが、事業者の対応が進んでいないことから、2023(令和5)年度税制改正で猶予措置が講じられ、以下の(1)(2)をいずれも満たしている場合には、真実性や可視性など保存時に満たすべき一定の要件に沿った対応は不要となり、電子データを単に保存しておくことができることとされました。

(1) 保存時に満たすべき要件に従って電子データを保存することができなかったことについて、所轄税務署⻑が相当の理由があると認める場合(事前申請等は不要)
(2) 税務調査等の際に、電子データの「ダウンロードの求め」及びその電子データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合

 したがって、この猶予措置により、上記の(1)(2)を満たせば2024(令和6)年1月1日以降も電子データの紙保存が認められることになります。
 ただし、猶予措置の適用を受ける場合には、上記(2)のとおり、電子データ自体を保存するとともに、その電子データ及び出力書面について提示又は提出をすることができる必要があることに留意しなければなりません。
 なお、宥恕措置は2年間の経過措置でしたが、猶予措置は本則として規定された恒久的措置ですので、猶予措置の適用を受けることができる限り、電子データの紙保存がいつまでも認められることになります。

3.猶予措置における「相当の理由」の意義

 猶予措置により、保存要件に従った保存ができない「相当の理由」があれば、保存要件を満たさなくても法律違反とみなされないこととなりました。
 この「相当の理由」については、電子帳簿保存法取扱通達7-12に次のように記載されています。

(猶予措置における「相当の理由」の意義)
7-12 規則第4条第3項((電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に関する猶予措置等))に規定する「相当の理由」とは、事業者の実情に応じて判断するものであるが、例えば、システム等や社内でのワークフローの整備が間に合わない場合等がこれに該当する。


 また、国税庁「電子帳簿保存法一問一答」問61の回答で次のように記載されています。

 令和5年度の税制改正において創設された新たな猶予措置の「相当の理由」とは、例えば、その電磁的記録そのものの保存は可能であるものの、保存時に満たすべき要件に従って保存するためのシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わない等といった、自己の責めに帰さないとは言い難いような事情も含め、要件に従って電磁的記録の保存を行うための環境が整っていない事情がある場合については、この猶予措置における「相当の理由」があると認められ、保存時に満たすべき要件に従って保存できる環境が整うまでは、そうした保存時に満たすべき要件が不要となります。
 ただし、システム等や社内のワークフローの整備が整っており、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存時に満たすべき要件に従って保存できるにもかかわらず、資金繰りや人手不足等の理由がなく、そうした要件に従って電磁的記録を保存していない場合には、この猶予措置の適用は受けられないことになります(取扱通達7-12)。

 これらの記載から、システム等や社内のワークフローの整備が間に合わない場合だけではなく、資金繰りや人手不足等も相当の理由として認められるようです。

 なお、この猶予措置の適用にあたっては、保存時に満たすべき要件に従って保存をすることができなかったことに関する相当の理由を確認される場合がありますが、仮に税務調査等の際に、税務職員から確認等があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを具体的に説明すれば差し支えないとされています。



電子帳簿保存法のよくある誤解

 インボイスの次に待ち受けているのは、電子帳簿保存法への対応です。何もかも対応しなければならないと誤解している事業者の方も多いのですが、電子帳簿保存法のことを理解すればその誤解も解けます。
 今回は、FM宝塚「インボイス制度ってな~に?パート2」で本日の8:15からオンエアした内容を、Q&A形式でお伝えします。

※ 番組の概要については、本ブログ記事「FM宝塚で今年もインボイス制度等の解説をします」をご参照ください。

1.電子帳簿保存法とは?

Q.電子帳簿保存法とは?

A.電子帳簿保存法とは、これまで紙で保存していた帳簿や決算書、請求書などの国税関係帳簿・書類を電子データで保存するための要件を定めた法律です。

Q.紙の保存から電子データの保存に変わるということですね。いつから始まるのですか?

A.実は2022(令和4)年1月1日からすでに始まっているのですが、事業者の準備が進んでいない状況を考慮して、2024(令和6)年1月1日からの対応でもいいということになっています(宥恕措置)。

Q.対象となるのはどのような事業者ですか?

A.法人・個人や規模の大小にかかわらず、すべての事業者が対象となります。

2.スキャンして保存?

Q.紙の保存から電子データの保存に変わるということは、紙で受け取った請求書や領収書をスキャンして電子データで保存しなければならないということですか?

A.これは事業者の皆さんからよく聞かれる質問であり、多くの方が誤解しているところでもあります。電子帳簿保存法が最終的に目指すのは、スキャンして保存ということになりますが、現時点ではそこまで求められていません。

Q.電子帳簿保存法なのに電子データで保存しなくてもいい?

A.電子帳簿保存法というのは1つの法律ですが、その内容は3つの部分に分かれています。1つ目が「電子帳簿等保存」、2つ目が「スキャナ保存」、3つ目が「電子取引データ保存」です。これらのうち、1つ目の電子帳簿等保存と2つ目のスキャナ保存については、対応するかどうかは事業者の任意とされています。

Q.任意ということは、対応できる事業者や利用したい事業者だけが対応すればいいということですね?

A.そうです。先ほどの紙で受け取った領収書などをスキャンして保存するのは、任意とされている「スキャナ保存」に該当しますので、現時点では必ずしも対応する必要はありません。これまで通り紙で保存していただいて結構です。また、「電子帳簿等保存」への対応には会計ソフトの導入が必要ですが、これも対応は任意とされています。すべてが電子化されるわけではありません。

Q.ということは、今回対応しなければならないのは、3つ目の「電子取引データ保存」ですか?

A.はい。現時点で義務化されているのは3つ目の電子取引データ保存だけであり、あとの2つは任意とされていますので、来年1月1日からすべての事業者が対応しなければならないのは、「電子取引データ保存」です。

3.電子取引とは?

Q.「電子取引データ保存」の「電子取引」という言葉が抽象的であまりイメージできません。具体的にはどのようなものが「電子取引」に該当しますか?

A.「電子取引データ保存」とは、「電子取引」を紙ではなくデータで保存することをいいますが、言葉が抽象的過ぎて何が電子取引に該当するのかわかりにくいという声が多いです。
 具体的には、次のようなものが電子取引に該当します。
㋑電子メールで送受信する請求書や領収書などのPDF
㋺インターネット上のホームページやショッピングサイト(amazon、楽天)でダウンロードした請求書や領収書などのPDF
㋩インターネット上で表示される請求書や領収書などのスクリーンショット
㋥クラウドサービス(楽々明細、Misoca)を利用した電子請求書や電子領収書の授受
㋭クレジットカード(JCB、三井住友カード)の利用明細データ
㋬交通系ICカード(ICOCA、Suica)による支払データ
㋣スマートフォンアプリ(PayPay、LINEPay)による決済データ等の受領・・・など

Q.これらの電子取引を紙ではなく電子データのまま保存するということですね。PDFやスクリーンショットを撮ってパソコンに保存しておけばいいですか?

A.単にPDFやスクリーンショットをパソコンに残すだけではダメで、一定の要件に従った保存をしなければなりません。これについては、次回放送でお話しします。

※ 一定の要件については、本ブログ記事「事務処理規程と検索機能が実務対応の鍵:電子取引データ保存」をご参照ください。

日払い給料と即日払い給料について

1.日払い給料と即日払い給料の違い

 最低賃金額の改定により、給料水準を見直す機会が多くなりますが、特に大きな影響を受けるのは、時給計算が主流となるパート・アルバイト等の非正規雇用者の給料です※1
 また、昨今の人手不足の影響もあり、自社への応募が増えるように他社との差別化を図るため、各企業は給料水準を引き上げることの他、給料の支払い方法を柔軟にするなどの見直しをするようになりました。その代表例が「日払い給料」と「即日払い給料」です。
 ところで「日払い給料」と「即日払い給料」の違いは何でしょうか?
 「日払い給料」とは給料計算の締めが1日単位である支払い方法をいいますが、必ずしも働いたその日に給料を支払う必要はありません
 これに対して日払い給料の一形態である「即日払い給料」は、働いたその日に当日分の給料を支払う必要があります
 働いたその日に給料を支払う必要があるかどうかという点において両者は異なりますが、いずれにせよ日払い給料と即日払い給料は、月払い給料に比べて事務処理負担が増える傾向にあります※2

※1 令和5年度の最低賃金額の改定については、本ブログ記事「令和5年度地域別最低賃金が10月1日~中旬にかけて引き上げられます」をご参照ください。

※2 月給制、日給制、日雇労働制の源泉徴収については、本ブログ記事「源泉徴収税額表の『月額表』『日額表』の使い方と『甲欄』『乙欄』『丙欄』」をご参照ください。

2.即日払い給料の注意点

 即日払い給料は働いた当日にその支払いをする必要があるため、基本的には現金払いとなります。そのため、パート・アルバイト等の人から領収証への捺印をしてもらうなど、給料を受取ったことの確認が必要になります。もし、これらの人が印鑑を忘れた場合などは、その場での給料の支払いはできないことを事前に伝えておくことが重要です。
 また、その場合の給料の支払い方法(後日に振り込むなど)によって、例えば郵送等で領収証等のやり取りが行われる場合には、郵便代等の諸経費をどちらが負担するかの取り決めも予めしておくことが必要です。
 さらに、交通費の取扱いについても注意が必要です。仮に交通費を支給しない場合には、パート・アルバイト等の人たちは即日払いの給料から交通費を負担することになるため、当初の想定より低い手取りとなる場合があります。交通費の支給の有無も併せて事前に伝えておくことが重要です。
 このように「即日払い給料」の支払いには、月払いとは異なる事務処理負担が企業にかかることがあります。

永年勤続表彰金は社会保険・労働保険・所得税の対象となるか?

1.社会保険の報酬に含まれるか?

 2023(令和5)年6月27日に改正された「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」に、永年勤続表彰金について以下の問答が追加されました。

問3 事業主が長期勤続者に対して支給する金銭、金券又は記念品等(以下「永年勤続表彰金」という。)は、「報酬等」に含まれるか。

(答) 永年勤続表彰金については、企業により様々な形態で支給されるため、その取扱いについては、名称等で判断するのではなく、その内容に基づき判断を行う必要があるが、少なくとも以下の要件を全て満たすような支給形態であれば、恩恵的に支給されるものとして、原則として「報酬等」に該当しない。
 ただし、当該要件を一つでも満たさないことをもって、直ちに「報酬等」と判断するのではなく、事業所に対し、当該永年勤続表彰金の性質について十分確認した上で、総合的に判断すること。
≪永年勤続表彰金における判断要件≫
① 表彰の目的
 企業の福利厚生施策又は長期勤続の奨励策として実施するもの。なお、支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合は、より福利厚生としての側面が強いと判断される。
② 表彰の基準
 勤続年数のみを要件として一律に支給されるもの。
③ 支給の形態
 社会通念上いわゆるお祝い金の範囲を超えていないものであって、表彰の間隔が概ね5年以上のもの。


 この問答に示されているように、上記「永年勤続表彰金における判断要件」①②③を満たす永年勤続表彰金は原則として「報酬等」に該当せず、社会保険の対象とはなりません。

2.労働保険の賃金に含まれるか?

 労働保険における賃金総額とは、事業主がその事業に使用する労働者(年度途中の退職者を含みます)に対して賃金、手当、賞与、その他名称のいかんを問わず労働の対償として支払うすべてのもので、税金その他社会保険料等を控除する前の支払総額をいいます。
 永年勤続表彰金の労働保険における取扱いは、「行政手引50502(2)賃金と解されないものの例」に次のように記載されています。

ヌ 勤続褒賞金
 勤続年数に応じて支給される 勤続褒賞金は、一般的には、賃金とは認められない。


 したがって、永年勤続表彰金は一般的には「賃金」に該当せず、労働保険の対象とはなりません。

3.所得税における給与となるか?

 永年勤続表彰金の所得税における取扱いは、「国税庁タックスアンサーNo.2591創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき」によると、次に掲げる要件をすべて満たしていれば、給与として課税しなくてもよいことになっています。

(1) 創業記念などの記念品の場合
① 支給する記念品が社会一般的にみて記念品としてふさわしいものであること。
② 記念品の処分見込価額による評価額が10,000円(消費税および地方消費税の額を除きます。)以下であること。
③ 創業記念のように一定期間ごとに行う行事で支給をするものは、おおむね5年以上の間隔で支給するものであること。

(2) 永年勤続者に支給する記念品や旅行や観劇への招待費用の場合
① その人の勤続年数や地位などに照らして、社会一般的にみて相当な金額以内であること。
② 勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること。
③ 同じ人を2回以上表彰する場合には、前に表彰したときからおおむね5年以上の間隔があいていること。

 なお、記念品の支給や旅行や観劇への招待費用の負担に代えて現金、商品券などを支給する場合には、その全額(商品券の場合は券面額)が給与として課税されます。
 また、本人が自由に記念品を選択できる場合にも、その記念品の価額が給与として課税されます。

ふるさと納税の一足早い駆け込み需要

 例年であれば、年末に集中するふるさと納税ですが、今年(2023(令和5)年)は9月中に駆け込みでふるさと納税をする人が増えているようです。その背景には、総務省が今年の6月に行ったふるさと納税の自治体側のルールの見直しが影響しているものと思われます。
 今回は、ふるさと納税についてどのような改正があったのかを確認します。

1.自治体側のルール改正

 ふるさと納税をしようとする人は、ふるさと納税ポータルサイトなどでその年の自分の所得に応じた「ふるさと納税限度額」を確認した上で、ふるさと納税をしています。
 今回総務省が見直しを行ったのは、ふるさと納税をする寄附側のルールではなく、寄附を募る自治体側のルールです。

 これまでもふるさと納税を受ける自治体側には、「返礼品は寄附額の3割以内でなければならない」とか「地場産品でなければならない」などの他に、「返礼品を含む必要経費は寄附額の5割以下」というルールがありました。
 このルールは、ふるさと納税の過度な返礼品競争を防ぐため、返礼品の調達費用や送料など、自治体が寄附を募る経費の総額を寄附額の5割以下とする基準です。

 ところが、総務省によると、寄附を受領したことを示す書類の発送費用などを含めると5割を超えるケースが相次いで確認されたことから、今回の改正(基準の厳格化)に至りました。
 改正内容は次のとおりで、2023(令和5)年10月1日から2024(令和6)年9月30日まで適用されます。

(1) 募集に要する費用について、ワンストップ特例事務や寄附金受領証の発行などの付随費用も含めて寄付金額の5割以下とする(募集適正基準の改正)
(2) 加工品のうち熟成肉と精米について、原材料がふるさと納税の対象となる地方団体と同一の都道府県産であるものに限り、返礼品として認める(地場産品基準の改正)

※ 熟成肉などを返礼品としていながら、原料は別の都道府県から仕入れ、その自治体で熟成させたケースなどがあったため、熟成肉と精米については原材料がその都道府県で生産されたものに限るとしています。

2.返礼品の実質的な値上げ

 上記1.(1)の改正により、返礼品だけではなく、送料、書類代、送付の人件費や広告宣伝費なども含めて寄付額の5割以下にするには、寄附額に占める返礼品の割合を下げたり、寄附額を引き上げるなどの方策が考えられますが、いずれにしても返礼品の実質的な値上げと言えそうです。
 このような事情を背景に、9月中にふるさと納税をしようとする人が増えたため、一足早い駆け込み需要につながっているものと思われます。

令和5年度地域別最低賃金が10月1日~中旬にかけて引き上げられます

1.最低賃金とは?

 最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。
 仮に、最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。
 また、使用者が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、使用者は労働者に対してその差額を支払わなくてはなりません。
 地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められています※1
 なお、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています※2

※1 「地域別最低賃金」とは、産業や職種にかかわりなく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金です。各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。

※2 「特定(産業別)最低賃金」は、特定の産業について設定されている最低賃金です。関係労使が基幹的労働者を対象として、「地域別最低賃金」よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定されており、全国で227件の最低賃金が定められています(令和4年3月31日時点現在)。

2.最高額は東京都の時給1,113円

 厚生労働省は、都道府県労働局に設置されている地方最低賃金審議会が答申した2023(令和5)年度の地域別最低賃金の改定額(以下「改定額」)を取りまとめました。改定額及び発効予定年月日は、次の別紙のとおりです。

出所:厚生労働省ホームページ

 この「令和5年度地域別最低賃金答申状況」は、厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会が示した「令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について」などを参考として、各地方最低賃金審議会が調査・審議して答申した結果を取りまとめたものです。
 答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの異議申出に関する手続を経た上で、都道府県労働局長の決定により、10月1日から10月中旬までの間に順次発効される予定です。

 地域別最低賃金の全国整合性を図るため目安額のランクを設けていますが、4区分だったランクが今年度から3区分に変更となり、改定額を見ていくとAからCの47都道府県すべてで39円以上引き上げられ、東京都は時給1,113円と最高です。
 最高額1,113円(東京都)と最低額893円(岩手県)の金額差は220円です。差の割合は80.2%(893円÷1,113円≒80.2%)と8割を超えており、地域格差は少しずつ改善しています。

3.物価上昇に賃金上昇が追いつかず

 近年は最低賃金引き上げの流れが続いており、全国加重平均は時給1,004円と初めて千円を超え、引き上げ幅43円も過去最高となっています。
 しかし、消費者物価の上昇が大きく、昨年10月~今年6月までの消費者物価指数は対前年同期比4.3%で、最低賃金引き上げ率3.3%を大きく上回っています。

4.令和5年度の引き上げ幅は39円~47円

 また、地域経済の活性化や若年層の流出を防ぎ労働人口を確保するには、目安より高い金額の上乗せが必至とした回答が24県あり、目安を上回る引き上げが賃金の低い地方で相次ぎました。
 下表は、2023(令和5)年度の改定額を引き上げ幅ごとに見たものです。

引き上げ幅 改定額
39円 岩手893円
40円

北海道960円 宮城 923円 群馬 935円 富山948円
山梨938円 長野 948円 岐阜950円 静岡984円
三重 973円 滋賀967円 京都1008円 奈良 936円
岡山932円 和歌山929円 広島 970円 山口928円
香川918円

41円

栃木 954円  埼玉1028円 東京1113円 神奈川1112円
新潟931円 愛知1027円 大阪1064円 兵庫1001円
徳島896円 福岡941円

42円

福島900円 茨城 953円 千葉1026円 石川 933円

43円

福井931円  沖縄896 円

44円

秋田897円  愛媛 897円 高知897円 宮崎897円
鹿児島897円

45円

青森898円 大分899円 長崎898円 熊本898円

46円

山形900円 鳥取900円

47円

島根 904円 佐賀900円

個人事業主の家事按分の取扱い

 自宅を事務所として利用している個人事業主の場合、家賃や水道光熱費など、プライベートと事業を兼ねた支出が生じる場合があります。これを家事関連費といいます。
 この家事関連費の事業割合(事業利用分)を計算して、経費として計上することを家事按分といいます。
 以下では、家事按分の取扱いについて確認します。

1.白色申告は事業割合50%超でないとダメ?

 家事関連費の経費算入については、所得税法施行令第96条で次のように定められています。

(家事関連費)
第九十六条 法第四十五条第一項第一号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
二 前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費


 つまり、家事関連費については、次の場合は必要経費に算入できます。

(1) 白色申告の場合は、家事関連費の主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合
(2) 青色申告の場合は、業務の遂行上直接必要であったことが取引の記録等で明らかな場合

 ここで気になるのは、白色申告の場合には「主たる部分」という文言が付いていることです。
 この「主たる部分」については、国税庁の法令解釈通達に次のように示されています。

(業務の遂行上必要な部分)
45-2 令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。

 白色申告の場合は、家事関連費のうち業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定しますが、50%以下であっても必要な部分が明らかに区分できる場合は経費算入してかまわないとされています。
 したがって、青色申告でも白色申告でも、プライベートと事業の明確な区分ができれば必要経費に算入できますので、実務的な取扱いに違いはありません。
 なお、上記(1)の白色申告の場合には、「取引の記録等」の文言がありませんが、白色申告でも帳簿書類に基づいた税額を申告しますので、この点においても青色申告との実務的な取扱いに違いはありません。

2.事業割合は変更してもいい

 家事按分の事業割合について、例えば家賃の按分については「この月だけ業務で使用する面積がどうしても増える」といった場合もあると思います。そんな時は明確な理由・記録等があれば、事業割合を変更してもかまいません。
 また、家事関連費の事業支出が少額になる場合などは、計算根拠やそれを証明する資料の整備をするといったコストをかけず、「経費計上しない」という選択をすることも可能です。

 事業割合を明確に区分できない場合は家事按分が認められないケースもありますので、根拠を示してきちんと説明できることが大事です。

通勤手当の非課税限度額に注意

 役員や従業員などの給与所得者に対して通常の給与に加算して支給する通勤手当は、月額15万円以下であれば所得税および復興特別所得税(以下「所得税等」といいます)が非課税となっています
 しかし、この月額15万円というのは、電車やバスなどの交通機関を利用している場合の非課税限度額であり、マイカー等で通勤する場合は非課税限度額が変わります。
 また、交通機関とマイカーを併用して通勤している場合の非課税限度額にも注意が必要です。
 以下では、通勤手当の非課税限度額について確認します。

※ 通勤手当を区分せず給与に含めて支給する場合については、本ブログ記事「交通費込み給与の交通費部分は確定申告でも非課税にできない」をご参照ください。

1.電車やバスなどの交通機関で通勤している場合

 電車やバスなどの交通機関を利用して通勤している場合の非課税限度額は、月額15万円とされています。これは、通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額です。

 新幹線や特急列車を利用した場合の運賃等の額も、その通勤方法や経路が「最も経済的かつ合理的な経路および方法」に該当する場合は非課税の通勤手当に含まれますが、グリーン料金は最も経済的かつ合理的な通勤経路および方法のための料金とは認められないため、非課税の通勤手当に含まれません。
 したがって、通勤手当が月額15万円以内だったとしても、そこにグリーン料金が含まれている場合は、グリーン料金部分については給与として課税されます。
 つまり、給与の額にグリーン料金を合算して所得税等の源泉徴収を行うことになります。

2.マイカーや自転車などで通勤している場合

 マイカーや自転車などを使用して通勤している場合の1か月当たりの非課税限度額は、片道の通勤距離(通勤経路に沿った長さです)に応じて、次のように定められています。

片道の通勤距離 1か月当たりの非課税限度額
2キロメートル未満 全額課税
2キロメートル以上10キロメートル未満 4,200円
10キロメートル以上15キロメートル未満 7,100円
15キロメートル以上25キロメートル未満 12,900円
25キロメートル以上35キロメートル未満 18,700円
35キロメートル以上45キロメートル未満 24,400円
45キロメートル以上55キロメートル未満 28,000円
55キロメートル以上  31,600円

 上表の1か月当たりの非課税限度額を超えて通勤手当を支給する場合は、超える部分の金額が給与として課税されます。
 したがって、その超える部分の金額は、通勤手当を支給した月の給与の額に上乗せして、所得税等の源泉徴収を行います。

3.交通機関とマイカー等を併用して通勤している場合

 電車やバスなどの交通機関とマイカーや自転車などを併用して通勤している場合は、両者の合計額が月額15万円までなら所得税等が非課税となります。
 具体的には、次の(1)と(2)を合計した金額が月額15万円以内であれば、非課税の通勤手当となります。

(1) 電車やバスなどの交通機関を利用する場合の1か月間の通勤定期券などの金額
(2) マイカーや自転車などを使用して通勤する片道の距離で決まっている1か月当たりの非課税となる限度額(上記2参照)

 例えば、自宅から自宅の最寄駅まではマイカーを使用し(片道距離3キロメートル)、自宅の最寄駅から勤務先の最寄駅までは電車を利用する(1か月定期券15,000円)場合は、4,200円+15,000円=19,200円が非課税の通勤手当となります。

白色申告法人は貸倒引当金を設定することができるか?

1.個人事業主の場合

 貸倒引当金は、決算日における売掛金や貸付金などの金銭債権について、次期以降に貸倒れが生じると予想される金額を見積って設定します。
 貸倒引当金には、「個別評価による貸倒引当金(個別評価金銭債権に係る貸倒引当金)」と「一括評価による貸倒引当金(一括評価金銭債権に係る貸倒引当金)」があります。
 個人事業主については、「個別評価による貸倒引当金」は青色申告者、白色申告者を問わず適用できますが※1、「一括評価による貸倒引当金」は青色申告者だけが適用できます※2つまり、白色申告者は「一括評価による貸倒引当金」を設定することができません。
 では、法人についても、青色申告法人と白色申告法人で貸倒引当金の取扱いが異なるのでしょうか?

※1 白色申告者は、事業的規模の所得において個別評価のみ認められます。
※2 青色申告者は、事業的規模の所得において個別評価、一括評価が認められます。ただし、青色申告者であっても一括評価が認められるのは事業所得だけであり、不動産所得については認められません。

2.法人の場合

 法人についても、貸倒引当金は個別評価金銭債権と一括評価金銭債権とに区分して設定します。
 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の適用対象法人は、次のとおりです(法法第52条第1項)。

① 期末資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等による完全支配関係がある子法人等を除く)
② 公益法人等又は協同組合等
③ 人格のない社団等
④ 銀行、保険会社その他これらに準ずる法人
⑤ 金融に関する取引に係る金銭債権を有する一定の法人(上記①から④までに掲げる法人を除く)

 また、一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定には、貸倒実績率を用いる方法(原則)と法定繰入率を用いる方法(特例)があります。
 前者の適用対象法人は上記①~⑤と同じですが、後者の適用対象法人は次のようになっています(措法57の9)。

① 期末資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等による完全支配関係がある子法人等を除く)
※ ただし、適用除外事業者(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等をいいます)を除きます。
② 公益法人等又は協同組合等
③ 人格のない社団等

 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金と一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の適用対象法人は以上のとおりですが、その適用対象法人が青色申告法人であることを要求するものとはなっていません。
 つまり、白色申告法人でも貸倒引当金を設定することができるということです。
 

外貨建預金の為替差益を申告(認識)しなければならない場合

 前回の記事(「外貨建預金の為替差益を申告(認識)しなくてもよい場合とは?」)で、外貨建預金を払い出しても為替差損益を認識しなくてもよいケースについて確認しましたが、今回は外貨建預金を払い出して為替差損益を認識しなければならないケースについて確認します。

1.為替差益を認識しなければならないケース

 例えば、次のような取引があった場合、建物の購入時点で預金A及び預金Bに係る為替差益を認識して雑所得として申告する必要はあるでしょうか?

 米ドル建で預け入れていた預金10万ドル(以下「預金A」という)と5万ドル(以下「預金B」という)を払い出し、これらの資金を用いて米国内にある貸付用の建物を12万ドルで購入し、残りの3万ドルは引き続き米ドルで保有している。

・預金Aの預入時のレート:1ドル=100円(円からドルへの交換と預金Aの預入は同日)
預金Bの預入時のレート:1ドル=112円(円からドルへの交換と預金Bの預入は同日)
預金の払出時のレート:1ドル=115円
建物購入時のレート:1ドル=120円

※ 便宜上、預金の利子は考慮しない。

 この場合、建物の購入時点で為替差益を認識する必要があります。したがって、雑所得として申告する必要があります。

 外貨建取引とは、外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいい、居住者が外貨建取引を行った場合には、その外貨建取引の金額の円換算額はその外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとされています(所得税法第57条の3第1項)。

 上記の例のように、外貨建の預金をもって貸付用の建物を外貨建取引により購入した場合には、新たな経済的価値(その購入時点における評価額)を持った資産が外部から流入したことにより、それまでは評価差額にすぎなかった為替差損益に相当するものが所得税法第36条の「収入すべき金額」として実現したものと考えられますので、当該建物の購入価額の円換算額とその購入に充てた外国通貨を取得した時の為替レートにより円換算した金額との差額(為替差損益)を所得として認識する必要があります。

 つまり、資産の種類が変わった場合(預金から現金、預金から有価証券など)や外貨の種類が変わった場合(ドルから円など)には、為替差損益を認識する必要があります。

2.為替差損益の計算方法

 上記1の例のように、建物の購入に充てた外国通貨の取得が複数回ある場合の為替差損益の計算については、所得税法施行令第118条第1項(譲渡所得の基因となる有価証券の取得費等)の規定に準じて、次のとおり計算するのが相当です。

(1) 保有するドルの1ドル当たりのレートの計算
 預金A:100円×10万ドル=10,000,000円
 預金B:112円×5万ドル=5,600,000円
 1ドル当たりのレート:(10,000,000円+5,600,000円)÷15万ドル=104円

(2) 為替差益の計算
 (120円-104円)×12万ドル=1,920,000円

 なお、購入した建物は、その購入時の為替レートによる円換算額を取得価額として、その後の不動産所得の金額を計算する際に減価償却費が計算されるほか、当該建物を譲渡した場合の取得費も当該取得価額を基に計算されることになります(所得税法第57条の3第1項)。