「従たる給与についての扶養控除等申告書」とは?

1.どんな場合に提出するのか?

出所:国税庁ホームページ

 「従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書」は、2か所以上から給与等の支払を受ける人で、主たる給与等の支払者から支給される給与だけでは扶養控除等の人的所得控除が控除しきれないと見込まれる人が、従たる給与の支払者(主たる給与の支払者以外の給与の支払者)から支給される給与から配偶者(特別)控除(源泉控除対象配偶者について控除を受けるものに限ります)や扶養控除を受けるために提出する書類です。

 主たる給与とは、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人に支払われる給与をいい、主たる給与の源泉徴収税額は源泉徴収税額表の「甲欄」で求めます(扶養控除等申告書の書き方については、本ブログ記事「令和6年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」をご参照ください)。

 従たる給与とは、従たる給与の支払者から支払われる給与をいい、従たる給与の源泉徴収税額は源泉徴収税額表の「乙欄」で求めます。

 この従たる給与の支払者のもとで、配偶者(特別)控除や扶養控除を受けるためには、「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出する必要があります。
 具体的には、2か所以上の給与の支払者から給与の支払を受ける人で、その年中の主たる給与等の金額(給与所得控除後の給与等の金額)が次の(1)と(2)の金額の合計額に満たないと見込まれる場合に提出します。

(1) 主たる給与につき控除される社会保険料及び小規模企業共済等掛金の見積額
(2) その人に適用される障害者控除額、寡婦控除額、ひとり親控除額、勤労学生控除額、配偶者(特別)控除額、扶養控除額および基礎控除額の合計額

 なお、主たる給与の支払者に申告した源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族を、年の中途で従たる給与の支払者に申告替えすることはできますが、従たる給与の支払者に申告した源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族を、年の中途で主たる給与の支払者に申告替えすることはできません。

※ 2023(令和5)年度税制改正により、源泉徴収手続の簡素化を図り納税者利便を向上させる観点から、2025(令和7)年1月1日以後に支給される給与等について提出する「給与所得者の扶養控除等申告書」及び「従たる給与についての扶養控除等申告書」に「簡易な申告書」が創設されました。詳細については、本ブログ記事「簡易な扶養控除等申告書とは?」をご参照ください。

2.「従たる給与についての扶養控除等申告書」が提出されている場合の源泉徴収

 「従たる給与についての扶養控除等申告書」の提出がある場合に、月額表の乙欄を使用して給与や賞与に対する源泉徴収税額を求めるときは、乙欄に記載されている税額から申告されている扶養親族等の数に応じ、扶養親族等1人につき1,610円を控除します。

 また、日額表の乙欄を使って源泉徴収税額を求めるときは、乙欄に記載されている税額から申告されている扶養親族等の数に応じ、扶養親族等など1人につき50円を控除します。

 なお、源泉徴収税額表の使い方については、本ブログ記事「源泉徴収税額表の『月額表』『日額表』の使い方と『甲欄』『乙欄』『丙欄』」をご参照ください。

電子取引データ保存への対応が難しい場合は猶予措置で紙保存!

1.宥恕措置は令和5年12月31日で終わる

 2022(令和4)年1月1日から施行されている改正電子帳簿保存法は、次の3つに区分されています。

・電子帳簿等保存
・スキャナ保存
・電子取引データ保存

 上記の3つの区分のうち、改正電子帳簿保存法で義務化されたのは電子取引データ保存であり、他の2つについては任意(利用したい事業者(対応可能な事業者)のみが対応すればいい)とされています。
 そこで、法人・個人を問わず全ての事業者が最低限対応しなければならないのは電子取引データ保存ということになりますが、電子データを単に保存するのではなく保存要件(真実性と可視性の確保)に従った電子データの保存が必要であったため、長年紙ベースで保存をしてきた事業者の対応は進みませんでした(保存要件については、本ブログ記事「事務処理規程と検索機能が実務対応の鍵:電子取引データ保存」をご参照ください)。
 このような事業者の状況を考慮して、改正法施行日直前の2022(令和4)年度税制改正大綱において2年間の宥恕措置が設けられ、2023(令和5)年12月31日までに⾏う電子取引については、保存すべき電子データをプリントアウトして紙で保存し、税務調査等の際に提示・提出できるようにしていれば差し⽀えないとされました。
 しかし、この宥恕措置は適用期限である2023(令和5)年12月31日をもって廃止されるため、2024(令和6)年1月1日からは保存要件に従った電子データの保存が必要となります。

2.猶予措置により紙保存でも電帳法違反にならない

 宥恕措置によって、2022(令和4)年1月1日から施行されている改正電子帳簿保存法のスタートは、実質的に2年間先送りにされたといえます。
 この2年間を電子取引データ保存への対応準備期間とするのが宥恕措置の趣旨でしたが、現状では事業者の準備が大きく進んだとはいえません。
 こうした状況を受けて、2023(令和5)年度税制改正では、宥恕措置に代わって猶予措置が設けられ、次の(1)(2)の要件をいずれも満たしている場合には、改ざん防⽌(真実性)や検索機能(可視性)など保存時に満たすべき要件に沿った対応は不要となり、電子データを単に保存しておくことができることとされました。

(1) 保存時に満たすべき要件に従って電子データを保存することができなかったことについて、所轄税務署⻑が相当の理由があると認める場合(事前申請等は不要)
(2) 税務調査等の際に、電子データの「ダウンロードの求め」及びその電子データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合

 つまり、この猶予措置により、上記の要件を満たせば2024(令和6)年1月1日以降も電子データの紙保存が認められることになります。

3.宥恕措置と猶予措置の相違点

 宥恕措置も猶予措置も、要件に従った電子データの保存ができない場合は紙保存を認めるという点は同じですが、異なる点もあります。
 宥恕措置とは、①2年間に限り、②電子帳簿保存法で定められた要件に従って電子データを保存することができなかったとしても、③やむを得ない事情があり、④税務調査等の際に電子データをプリントアウトした書面の提示・提出ができるなら、紙保存を認めるというものです。
 一方、猶予措置とは、①電子帳簿保存法で定められた要件に従って電子データを保存することができなかったとしても、②相当の理由があり、③税務調査等の際に電子データのダウンロードの求めに応じ、電子データをプリントアウトした書面の提示・提出ができるなら、紙保存を認めるというものです。
 両者を比較すると、以下の相違点があることがわかります。
 第一に、宥恕措置は2年間の経過措置であるのに対し、猶予措置は本則として規定された恒久的措置であることです。
 したがって、猶予措置の適用を受けることができる限り、電子データの紙保存がいつまでも認められることになります。
 第二に、宥恕措置における「やむを得ない事情」が、猶予措置では「相当の理由」に変わっている点です。
 宥恕措置での「やむを得ない事情」とは、要件に従って電磁的記録の保存を行うための準備を整えることが困難な事情等(保存に係るシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わない等)が該当します。
 そして、税務調査等の際に、税務職員から「やむを得ない事情」について確認等があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを、具体的でなくても構わないので適宜知らせることで差し支えないとされています。
 猶予措置における「相当の理由」については、国税庁から今後示されるFAQや通達の解説を待つことになりますが、宥恕措置と同じように、電子化対応が難しい理由や進捗状況などを説明すれば認められると思われます。
 第三に、宥恕措置では電子取引データの「ダウンロードの求め」に応じる必要はありませんでしたが、猶予措置ではプリントアウトした書面の提示・提出に加え、電子データについても「ダウンロードの求め」に応じる必要があります。
 宥恕措置では紙での提示・提出が認められていましたが、猶予措置では紙に加えてデータ形式でも提示・提出できるようにする必要があります。
 したがって、猶予措置でも紙保存が認められますが、電子データを保存しなくてもいいということではありません。電子帳簿保存法が定める要件に沿った対応は不要ですが、電子データを「単に」保存しておく必要があります。

賃上げ促進税制における出向者の取扱い

 賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です(詳細については、本ブログ記事「中小企業者等の賃上げ促進税制《令和4年4月1日~令和6年3月31日開始事業年度》」をご参照ください)。

 この賃上げ促進税制においては、雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除きます)がある場合には、当該金額を控除して要件の適用判定を行うこととされています。

 今回は、「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」のうち、出向先法人が出向元法人に支払う給与負担金の取扱いについて確認します。

1.出向者の賃金台帳が出向元法人にある場合

 「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」は雇用者給与等支給額から控除するため、法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向した使用人に対する給与を出向元法人(出向者を出向させている法人)が支給する際、出向元法人が出向先法人(出向元法人から出向者の出向を受けている法人)から支払を受けた出向先法人が負担すべき給与に相当する金額(給与負担金)は、雇用者給与等支給額から控除します。

 例えば、出向元法人に出向者の賃金台帳がある場合、出向元法人が出向者の給与に充てる給与負担金を出向先法人から受け取っているので、出向元法人の雇用者給与等支給額から当該給与負担金を控除しなければなりません。
 一方、出向先法人では出向者の賃金台帳がないため、給与負担金を雇用者給与等支給額の計算に含めることはできません。

2.出向者の賃金台帳が出向先法人にある場合

 出向先法人が出向元法人に出向者に係る給与負担金を支払う場合において、出向先法人の賃金台帳に当該出向者を記載しているときは、出向先法人が支払う給与負担金は出向先法人の雇用者給与等支給額に含まれます。

 出向先法人の賃金台帳に当該出向者の記載がない場合は、出向先法人が支払う給与負担金は出向先法人の雇用者給与等支給額に含まれません。

 例えば、出向先法人に出向者の賃金台帳がある場合、出向先法人が出向元法人に支払う給与負担金は、出向先法人の雇用者給与等支給額に含めます。
 一方、出向元法人では出向者の賃金台帳がないため、雇用者給与等支給額に含めることはできません。

中小企業者等の賃上げ促進税制《令和4年4月1日~令和6年3月31日開始事業年度》

1.簡素化された所得拡大促進税制

 賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。
 賃上げ促進税制は、従来からあった所得拡大促進税制が2022(令和4)年度税制改正で呼称が改められたものです。基本的な内容は所得拡大促進税制を踏襲しつつも、適用要件などの見直しが行われ、制度自体はより簡素化されたものとなりました。
 2022(令和4)年度税制改正による主な変更点は、次のとおりです。

・上乗せ要件を簡素化&控除率引き上げ(控除率最大40%) 
・教育訓練費増加要件に係る明細書の「添付義務」を「保存義務」へ変更
経営力向上要件は廃止 
出所:中小企業庁ホームページ

 以下では、賃上げ促進税制の内容について確認します。

2.賃上げ促進税制の内容

 2022(令和4)年度税制改正による賃上げ促進税制の内容は、次のとおりです。

(1) 制度概要

 中小企業者等で青色申告書を提出するものが、国内雇用者※1に対して給与等※2を支給する場合において、一定の要件(通常要件)を満たす場合には、その雇用者給与等支給増加額の15%(上乗せ要件を満たす場合は最大40%)の税額控除を適用できます。

※1 国内雇用者とは、法人又は個人事業主の使用人のうちその法人又は個人事業主の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者を指します。パート、アルバイト、日雇い労働者も含みますが、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は含まれません。
 なお、特殊関係者とは、法人の役員又は個人事業主の親族などを指します。親族の範囲は6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族までが該当します。また、当該役員又は個人事業主と婚姻関係と同様の事情にある者、当該役員又は個人事業主から生計の支援を受けている者等も特殊関係者に含まれます。

※2 給与等とは、俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与(所得税法第28条第1項に規定する給与等)をいいます。したがって、例えば、所得税法第9条(非課税所得)の規定により非課税とされる給与所得者に対する通勤手当等についても、原則的には本制度における「給与等」に含まれることになります。ただし、賃金台帳に記載された支給額のみを対象に、所得税法上課税されない通勤手当等の額を含めずに計算する等、合理的な方法により継続して国内雇用者に対する給与等の支給額の計算をすることも認められます。
 なお、退職金など、給与所得とならないものについては、原則として給与等に含まれません。

(2) 適用期間

 2022(令和4)年4月1日から2024(令和6)年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主は2023(令和5)年及び2024(令和6)年の各年が対象)

(3) 適用対象者

 適用対象となる中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下の①~③に該当するものを指します。

① 以下のイ、ロのいずれかに該当する法人(ただし、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は対象外)

イ.資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
ただし、以下の法人は対象外
(イ) 同一の大規模法人※3から2分の1以上の出資を受ける法人
(ロ) 2以上の大規模法人※3から3分の2以上の出資を受ける法人

※3 大規模法人とは、資本金の額若しくは出資金の額が1億円超の法人、資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人超の法人又は大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)との間に当該大法人による完全支配関係がある法人等をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます。

ロ.資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人

② 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主

③ 農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会

(4) 適用要件

 通常要件(税額控除率15%)と上乗せ要件(税額控除率15%と10%)は、次のとおりです。

① 通常要件(税額控除率15%)
 雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加していること

雇用者給与等支給額(適用年度)- 比較雇用者給与等支給額(前事業年度)/比較雇用者給与等支給額(前事業年度) ≧1.5%

  雇用者給与等支給額※4及び比較雇用者給与等支給額※5に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額※6を除きます)がある場合には、当該金額を控除して要件の適用判定を行います。

※4 雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される全ての国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。

※5 比較雇用者給与等支給額とは、前事業年度における雇用者給与等支給額をいいます。

※6 雇用安定助成金額(国又は地方公共団体から受ける雇用保険法第62条第1項第1号に掲げる事業として支給が行われる助成金その他これに類するものの額)には、以下のものが該当します。
a 雇用調整助成金、産業雇用安定助成金又は緊急雇用安定助成金の額
b aに上乗せして支給される助成金の額その他のaに準じて地方公共団体から支給される助成金の額

出所:中小企業庁ホームページ

② 上乗せ要件(税額控除率15%)
 雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて2.5%以上増加していること

雇用者給与等支給額(適用年度)- 比較雇用者給与等支給額(前事業年度)/比較雇用者給与等支給額(前事業年度) ≧2.5%

 雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除きます)がある場合には、当該金額を控除して要件の適用判定を行います。

③ 上乗せ要件(税額控除率10%)
 教育訓練費の額が前事業年度と比べて10%以上増加していること

教育訓練費の額(適用年度)- 比較教育訓練費の額(前事業年度)/比較教育訓練費の額(前事業年度) ≧10%

 教育訓練費とは、所得の金額の計算上損金の額に算入される、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用のうち一定のものをいいます。
 具体的には、法人が教育訓練等を自ら行う場合の費用(外部講師謝金等、外部施設使用料等)、他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合の費用(研修委託費等)、他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の費用(外部研修参加費等)などをいいます。
 なお、教育訓練の対象者は法人又は個人の国内雇用者です。したがって、以下の者は国内雇用者ではないため対象外となります。

イ.当該法人の役員又は個人事業主
ロ.使用人兼務役員
ハ.当該法人の役員又は個人事業主の特殊関係者((イ) 役員の親族、(ロ) 事実上婚姻関係と同様の事情にある者、(ハ)役員から生計の支援を受けている者、(ニ) (ロ)又は(ハ)と生計を一にする親族)
ニ.内定者等の入社予定者

(5) 税額控除額

① 通常要件(税額控除率15%)を満たす場合
 控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額又は所得税額から控除します。ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

税額控除額 = 控除対象雇用者給与等支給増加額 ×15%

 控除対象雇用者給与等支給増加額とは、適用年度の雇用者給与等支給額から前事業年度の比較雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。ただし、調整雇用者給与等支給増加額を上限とします。
 調整雇用者給与等支給増加額とは、適用年度の雇用安定助成金額を控除した雇用者給与等支給額から、前事業年度の雇用安定助成金額を控除した比較雇用者給与等支給額を控除した金額をいいます。
 なお、雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額に、給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除きます)がある場合には、当該金額を控除して計算を行います。

出所:中小企業庁ホームページ

② 上乗せ要件(税額控除率15%)を満たす場合
 上記(5)①の通常要件の控除率15%に15%が上乗せされて、税額控除率は30%となります(通常要件15%+上乗せ要件15%=30%)。
 下記③を併用する場合は、税額控除率は40%となります(通常要件15%+上乗せ要件15%+上乗せ要件10%=40%)。
 ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

③ 上乗せ要件(税額控除率10%)を満たす場合
 上記(5)①の通常要件の控除率15%に10%が上乗せされて、税額控除率は25%となります(通常要件15%+上乗せ要件10%=25%)。
 上記②を併用する場合は、税額控除率は40%となります(通常要件15%+上乗せ要件15%+上乗せ要件10%=40%)。
 ただし、税額控除額は法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

青色事業専従者給与は国民健康保険税の節税になるか?

1.月額8万円の専従者給与は所得税・住民税・事業税の節税になる

 生計を一にしている配偶者その他の親族が個人事業主の経営する事業に従事している場合、個人事業主がこれらの人に給与を支払うことがありますが、これらの給与は原則として必要経費にはなりません。
 しかし、青色申告を行っている個人事業主の場合は、これらの人に実際に支払った給与の額を一定の要件の下に必要経費とすることができます。これを青色事業専従者給与の特例といいます。

 青色事業専従者給与は青色申告の特典の一つであり、個人事業主自身の所得税・住民税・事業税の節税になりますが、その一方で気になるのが、給与の支払いを受けた青色事業専従者には、その支払いを受けた給与の分だけ給与所得が生じ、所得税負担がかかる可能性があるということです。

 この点については、例えば青色事業専従者給与の額を月額8万円にすれば、青色事業専従者自身に所得税・住民税負担がかかることはありません。
 つまり、月額8万円の青色事業専従者給与を支給することは、個人事業主自身の節税になり、青色事業専従者自身の税負担もないということです。

 ところが、ここでさらに気になるのが、月額8万円の青色事業専従者給与の支給が国民健康保険税に及ぼす影響です。所得税・住民税・事業税の節税にはなっても、その分国民健康保険税が上がりはしないかという懸念があります。
 以下では、青色事業専従者給与が国民健康保険税に及ぼす影響を検討します。

2.国民健康保険税の計算の仕組み

 国民健康保険税の計算の仕組みは各自治体で異なるため、以下では兵庫県宝塚市の2023(令和5)年度の例を挙げます。

A.基礎課税額  
(1) 平等割額(1世帯あたり) 23,900円
(2) 均等割額(被保険者1人あたり) 31,600円
(3) 所得割額の税率(被保険者全員の所得に対して) 8.40%
(4) 課税限度額 65万円
B.後期高齢者支援金等課税額  
(1) 平等割額(1世帯あたり) 6,200円
(2) 均等割額(被保険者1人あたり) 8,900円
(3) 所得割額の税率(被保険者全員の所得に対して) 2.20%
(4) 課税限度額 22万円
C.介護納付金課税額  
(1) 平等割額(1世帯あたり) 6,200円
(2) 均等割額(介護保険第2号被保険者1人あたり) 12,100円
(3) 所得割額の税率(介護保険第2号被保険者全員の所得に対して) 2.70%
(4) 課税限度額 17万円

 国民健康保険税額は、上記のA~C の合計額です。A~Cをそれぞれ別々に納付することはできません。また、納税義務者は被保険者の属する世帯の世帯主です。
 C の介護納付金課税額は介護保険第2号被保険者(40歳~64歳の被保険者)がいる世帯に対してかかります。
 A~Cにおける(3) の所得割額は、被保険者ごとに前年中の総所得金額等から地方税法上の基礎控除額(43万円)を控除した後の金額(算定基礎額)に税率をかけて算出します。例えば、総所得金額が120万円の場合は、120万円-43万円=77万円が算定基礎額となり、これに税率をかけて所得割額を算出します。

 次の設例を用いて、2023(令和5)年度の国民健康保険税の計算をしてみます。

事業主:健康太郎 1977(昭和52)年4月23日生 前年の事業所得120万円
配偶者:健康花子 1980(昭和55)年1月23日生 専業主婦
A.基礎課税額(課税限度額650,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):23,900円/年
(2) 均等割額(1人あたり):31,600円×2人=63,200円/年
(3) 所得割額の税率:770,000円×8.40%=64,680円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒151,700円/年(百円未満切捨)
B.後期高齢者支援金等課税額(課税限度額220,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):6,200円/年
(2) 均等割額(1人あたり):8,900円×2人=17,800円/年
(3) 所得割額の税率:770,000円×2.20%=16,940円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒40,900円/年(百円未満切捨)
C.介護納付金課税額(課税限度額170,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):6,200円/年
(2) 均等割額(1人あたり):12,100円×2人=24,200円/年
(3) 所得割額の税率:770,000円×2.70%=20,790円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒51,100円/年(百円未満切捨)
D.国民健康保険税額
国民健康保険税額:A+B+C=243,700円/年

3.専従者給与は国民健康保険税の節税になる

 上記2の設例では、事業主の総所得金額(事業所得)が120万円で配偶者の所得が0円の場合の国民健康保険税を試算しました。
 次に上記2の設例において、配偶者に月額8万円(年額96万円)の青色事業専従者給与を支給する場合の国民健康保険税を以下で試算します。
 この場合、事業主の事業所得は120万円-96万円=24万円になり、配偶者の給与所得は96万円-55万円(給与所得控除額)=41万円となります。

事業主:健康太郎 1977(昭和52)年4月23日生 前年の事業所得24万円
配偶者:健康花子 1980(昭和55)年1月23日生 前年の給与所得41万円
A.基礎課税額(課税限度額650,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):23,900円/年
(2) 均等割額(1人あたり):31,600円×2人=63,200円/年
(3) 所得割額の税率:0円×8.40%=0円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒87,100円/年(百円未満切捨)
B.後期高齢者支援金等課税額(課税限度額220,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):6,200円/年
(2) 均等割額(1人あたり):8,900円×2人=17,800円/年
(3) 所得割額の税率:0円×2.20%=0円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒24,000円/年(百円未満切捨)
C.介護納付金課税額(課税限度額170,000円)
(1) 平等割額(1世帯あたり):6,200円/年
(2) 均等割額(1人あたり):12,100円×2人=24,200円/年
(3) 所得割額の税率:0円×2.70%=0円/年
(4) 基礎課税額合計:(1)+(2)+(3)≒30,400円/年(百円未満切捨)
D.国民健康保険税額
国民健康保険税額:A+B+C=141,500円/年

 上記の試算より、配偶者に青色事業専従者給与を支給する場合の国民健康保険税は141,500円/年となり、支給しない場合の243,700円/年より減額されています。
 つまり、月額8万円の青色事業専従者給与の支給は、所得税・住民税・事業税だけではなく、国民健康保険税にも節税効果があることがわかります。また、青色事業専従者の税負担も生じていません。

 上記の試算では、青色事業専従者である配偶者に税負担を生じさせないという前提で、所得税・住民税・事業税・国民健康保険税の節税効果を狙って月額8万円の給与としました。
 どの程度の給与を支給するかについては、個人事業主と青色事業専従者の年齢やそれぞれに適用される所得税率を考慮しながら最適解を探ることになります。

 なお、青色事業専従者として給与を支給された配偶者は、国民年金保険料の免除申請等を行う際の「扶養親族等」には含まれなくなります。
 国民年金保険料は所得にかかわらず一律ですが、もし免除申請等を行う際は不利になる場合もありますのでご注意ください(国民年金保険料の免除ラインについては、本ブログ記事「国民年金保険料が免除される所得基準の計算方法~確定申告書との違いに注意!」をご参照ください)。
 

事務処理規程の書き方と記載例:電子取引データ保存

1.事務処理規程による運用が現実的

 2022(令和4)年1月1日から施行されている改正電子帳簿保存法では、①電子帳簿等保存、②スキャナ保存、③電子取引データ保存のうち、③電子取引データ保存が義務化されました。
 この電子取引データ保存にあたっては、真実性(保存されたデータが改ざんされていないこと)と可視性(保存されたデータを検索・表示できること)が確保されていなければなりません。
 この2要件のうち、真実性を確保するためには、次の(1)~(4)のうち、いずれかの保存措置を行う必要があります。

(1) タイムスタンプが付された後、取引情報の授受を行う
(2) 取引情報の授受後、その業務に係る通常の期間(2か月+7日以内)を経過した後速やかにタイムスタンプを付す
※ 2023(令和5)年度税制改正で、「保存を行う者又は監督者に関する情報を確認できるようにしておく」という要件が廃止されました。
(3) 記録事項の訂正・削除の履歴を確認できるシステム又は訂正・削除を行うことができないシステムで、取引情報の授受及び保存を行う
(4) 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行う

 中小企業や個人事業主の実情を踏まえると、真実性を確保するためには上記(4)の事務処理規程による運用が現実的だと思われます(詳細については、本ブログ記事「電子取引データ保存の実務対応~事務処理規程と検索機能」をご参照ください)。
 そこで、以下において事務処理規程の記載例を確認します。

2.事務処理規程の記載例

 事務処理規程は、上記1のとおり真実性を確保する観点から必要な措置として要件とされたものです。
 この規程については、どこまで整備すればデータ改ざん等の不正を防ぐことができるのかについて、事業規模等を踏まえて個々に検討する必要がありますが、国税庁ホームページには参考資料(各種規程等のサンプル)として、法人の例と個人事業主の例がそれぞれWord形式でダウンロードできるようになっています。
 ここでは法人の例を用いて、事務処理規程の記載例を以下に示します(赤文字部分は国税庁のひな型に補足を加えたものです)。

(法人の例)

電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程

第1章 総則

(目的)
第1条 この規程は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法の特例に関する法律第7条に定められた電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務を履行するため、○○株式会社(貴社名を記載)において行った電子取引の取引情報に係る電磁的記録を適正に保存するために必要な事項を定め、これに基づき保存することを目的とする。

(適用範囲)
第2条 この規程は、○○株式会社(貴社名を記載)の全ての役員及び従業員(契約社員、パートタイマー及び派遣社員を含む。以下同じ。)に対して適用する。

(管理責任者)
第3条 この規程の管理責任者は、●●(責任者名を記載)とする。

第2章 電子取引データの取扱い

(電子取引の範囲)
第4条 当社における電子取引の範囲は以下に掲げる取引とする。
一 EDI取引
二 電子メールを利用した請求書等の授受
三 クラウドサービスを利用した請求書等の授受
四 ウェブサービスを利用した請求書等の授受
五 キャッシュレスサービスを利用した支払証明等の受領
六 ペーパーレスFAXを利用した請求書等の授受
七 記録媒体による請求書等の授受
八 上記に掲げるものの他、電子データにより行われる各種の取引に係る請求書等の授受

記載に当たってはその範囲を具体的に記載してください(法人が行う可能性のある全ての電子取引を具体的に列挙するのは困難であるため、八において網羅的な条項を設けています)

(取引データの保存)
第5条 取引先から受領した取引関係情報及び取引相手に提供した取引関係情報のうち、第6条に定めるデータについては、保存サーバ、保存メディア、クラウドストレージ等(ウェブサービスを提供する者、○○株式会社(貴社名を記載)の全ての役員及び従業員のものを含む)内に、△△年間保存する(下線部については、青色欠損金との関係から「10年間」程度が妥当と思われます。また、「当該取引関係情報の法定保存期間にあわせて保存する」と記載することも可能です)

(対象となるデータ)
第6条 保存する取引関係情報は以下のとおりとする。
一 見積依頼情報
二 見積回答情報
三 確定注文情報
四 注文請け情報
五 納品情報
六 支払情報
七 ▲▲

上記第6条の下線部は、貴社の取引上発生する可能性のある証憑を限定列挙することが困難であるため、代表的な書類の名称とそれに類する情報を含ませて、以下のように記載することも可能です。

一 見積書その他これに類する情報
二 契約書その他これに類する情報
三 注文書その他これに類する情報
四 納品書その他これに類する情報
五 請求書その他これに類する情報
六 領収書その他これに類する情報
七 上記に掲げるものの他、電子データにより行われる各種の取引に係る請求書等の授受

(運用体制)
第7条 保存する取引関係情報の管理責任者及び処理責任者は以下のとおりとする。
一 管理責任者 ○○部△△課 課長 XXXX(貴社責任者情報を記載)
二 処理責任者 ○○部△△課 係長 XXXX(貴社責任者情報を記載)

(訂正削除の原則禁止)
第8条 保存する取引関係情報の内容について、訂正及び削除をすることは原則禁止とする。

(訂正削除を行う場合)
第9条 業務処理上やむを得ない理由によって保存する取引関係情報を訂正または削除する場合は、処理責任者は「取引情報訂正・削除申請書」に以下の内容を記載の上、管理責任者へ提出すること。
一 申請日
二 取引伝票番号
三 取引件名
四 取引先名
五 訂正・削除日付
六 訂正・削除内容
七 訂正・削除理由
八 処理担当者名
2 管理責任者は、「取引情報訂正・削除申請書」の提出を受けた場合は、正当な理由があると認める場合のみ承認する。
3 管理責任者は、前項において承認した場合は、処理責任者に対して取引関係情報の訂正及び削除を指示する。
4 処理責任者は、取引関係情報の訂正及び削除を行った場合は、当該取引関係情報に訂正・削除履歴がある旨の情報を付すとともに「取引情報訂正・削除完了報告書」を作成し、当該報告書を管理責任者に提出する。
5 「取引情報訂正・削除申請書」及び「取引情報訂正・削除完了報告書」は、事後に訂正・削除履歴の確認作業が行えるよう整然とした形で、訂正・削除の対象となった取引データの保存期間が満了するまで保存する。

附則

(施行)
第10条 この規程は、令和○年○月○日(運用開始日付を記載)から施行する。

 

事務処理規程と検索機能が実務対応の鍵:電子取引データ保存

1.義務化された電子取引データ保存

 2022(令和4)年1月1日から施行されている改正電子帳簿保存法は、次の3つに区分されています。

・電子帳簿等保存
・スキャナ保存
・電子取引データ保存

 上記の3つの区分のうち、改正電子帳簿保存法で義務化されたのは電子取引データ保存であり、他の2つについては任意(利用したい事業者(対応可能な事業者)のみが対応すればいい)とされています。
 電子取引データ保存とは、取引情報の授受を電子メールやウェブサイト上、EDI(電子データ交換)システムなどを用いて行った場合に、これらの電子取引をその電子データのまま保存することをいいます(電子取引等の具体例については、本ブログ記事「改正電子帳簿保存法:電子取引と電子データの具体例」をご参照ください)。
 改正電子帳簿保存法には2年間の宥恕規定が設けられていますので、2023(令和5)年12月31日までに⾏う電子取引については、保存すべき電子データをプリントアウトして紙で保存し、税務調査等の際に提示・提出できるようにしていれば差し⽀えありません。
 しかし、2024(令和6)年1月1日からは、法人・個人を問わずすべての事業者が、保存要件に従った電子データの保存をしなければなりません。

2.保存要件:真実性の確保

 電子データの保存要件には、真実性(保存されたデータが改ざんされていないこと)と可視性(保存されたデータを検索・表示できること)があります。
 真実性を確保するためには、次の(1)~(4)のうち、いずれかの保存措置を行う必要があります。

(1) タイムスタンプが付された後、取引情報の授受を行う
(2) 取引情報の授受後、その業務に係る通常の期間内(2か月+7日以内)にタイムスタンプを付す
※ 2023(令和5)年度税制改正で、「保存を行う者又は監督者に関する情報を確認できるようにしておく」という要件が廃止されました。
(3) 記録事項の訂正・削除の履歴を確認できるシステム又は訂正・削除を行うことができないシステムで、取引情報の授受及び保存を行う
(4) 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行う

 中小企業や個人事業主の実情を鑑みると、上記(1)~(3)には次のような対応し難い面があると思われます。

(1)については、すべての取引先からタイムスタンプが付されたデータをもらうのは実質的に不可能である。
(2)については、タイムスタンプの付与に対応したシステムの導入コストやランニングコスト等が発生する。
(3)についても、訂正・削除の履歴を管理できるシステム等の導入コストやランニングコストが発生する。

 これらのことを考慮すると、(4)の事務処理規程による運用は、新たにシステムを導入するためのコストも発生せず現状のシステムで対応可能であるため、中小企業や個人事業主にとっては現実的な対応であるといえます(事務処理規程については、本ブログ記事「事務処理規程の書き方と記載例:電子取引データ保存」をご参照ください)。

3.保存要件:可視性の確保

 電子データのもう一つの保存要件である可視性を確保するためには、次の(1)~(3)の保存措置を行う必要があります。

(1) 電子計算機(パソコン等)、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付けて、保存しているデータを画面・書面に速やかに出力できるようにしておく
(2) 電子計算機処理システムの概要書(データ作成ソフトマニュアル等)を備え付ける
(3) 次の①~③の検索機能を確保する
取引年月日、取引金額、取引先の3つの項目で検索できること
② 日付又は金額の範囲指定により検索できること
③ 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること

 上記のうち(1)と(2)については、特に問題はないと思われます。可視性の要件を満たすためには、(3)の検索機能の確保への対応が必要になります。
 ただし、検索機能の確保には、次のような例外があります。

・税務職員によるダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合は、上記(3)の検索要件のうち②③は不要です。
・ダウンロードの求めに応じることに加えて、法人の場合は2期前(個人事業主の場合は2年前)の売上高が5,000万円以下の場合、又はデータを出力した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものに限ります)を提示・提出できるようにしている場合は、上記(3)の検索機能の確保自体が不要となります。
※ 2023(令和5)年度税制改正で、売上高が1,000万円以下から5,000万円以下に引き上げられました。

 したがって、多くの中小企業や個人事業主が、検索機能を確保するために実質的に対応しなければならないのは、上記(3)のうち①ということになります(例外(データを出力した書面を提示・提出できるようにしている場合)で検索機能の確保が不要となる売上高5,000万円超の事業者も、取引年月日等及び取引先ごとにきちんと整理された電子データの保存は必要ですので、実質的には上記(3)①へ対応しておくことが望まれます)。
 (3)①については、検索機能を確保する簡易な方法として、国税庁ホームページに下図の方法(索引簿を作成するかファイル名に規則性を持たせるか)が示されています。

出所;国税庁ホームページ

改正電子帳簿保存法:電子取引と電子データの具体例

1.電子取引とは?

 2022(令和4)年1月1日から施行されている改正電子帳簿保存法には、2年間の宥恕規定が設けられています。
 宥恕規定はシステム対応が間に合わなかった事業者に適用される経過措置であり、これにより2023(令和5)年12月31日までは、「電子取引」を「電子データ」で保存せずに「出力書面(紙)」で保存することができます。
 しかし、2024(令和6)年1月1日からは、「電子取引」をプリントアウトして「紙」で保存することは認められなくなり、「電子データ」で保存しなければなりません。
 ところが、「電子データ」のまま保存しなければならない「電子取引」には、具体的にどのようなものが該当するのかわかりにくい一面があります。
 この点については、国税庁ホームページの「電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)」の「問2 電子取引とは、どのようなものをいいますか。」において、以下の回答が示されています。

 「電子取引」とは、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいいます(法2六)。
 なお、この取引情報とは、取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいいます。
 具体的には、いわゆるEDI取引、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む。)、インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引等をいいます。


 一定の回答が示されてはいるものの、電子取引が具体的にどのようなものをいうのかについては、やはり判然としません。

2.電子取引の具体例と保存対象となる電子データ

 しかし、国税庁ホームページの「電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)」を読み進めると、次の「問3」の質問が電子取引の具体例を考えるにあたって参考になります。

 当社は以下のような方法により仕入や経費の精算を行っていますが、データを保存しておけば出力した書面等の保存は必要ありませんか。
(1) 電子メールにより請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)を受領
(2) インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)又はホームページ上に表示される請求書や領収書等のスクリーンショットを利用
(3) 電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービスを利用
(4) クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、スマートフォンアプリによる決済データ等を活用したクラウドサービスを利用
(5) 特定の取引に係るEDIシステムを利用
(6) ペーパーレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用
(7) 請求書や領収書等のデータをDVD等の記録媒体を介して受領


 この「問3」の質問に対して、回答では「(1)~(7)のいずれも『電子取引』(法2五)に該当すると考えられます」と示されていますので、「問3」の内容を参考にして、電子取引の範囲と具体例及び対象となる電子データについて下表にまとめます。

電子取引の範囲 電子取引の具体例 対象となる電子データ
(1) 電子メールによる請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)の授受 取引先等との受発注等 ・メールに添付された請求書・領収書等のPDFファイル等
・メール本文
(2) インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)の受領又はホームページ上に表示される請求書や領収書等のスクリーンショットの利用 Amazon、Rakuten等のEC(電子商取引)サイト 電子請求書、電子領収書、注文詳細等のメールや画面等
・Yahoo!オークション等のオークションサイト
・メルカリ、ラクマ、PayPayフリマ等のフリーマーケットサイト
商品画面、取引履歴画面、連絡メール等
クレジットカード 電子提供される利用明細書等
ネットバンキング 振込等各種取引、ペイジーやデビット等決済の詳細、入出金履歴等の明細
電気・ガス、携帯電話等のインフラ会社等のお客様管理ページ 電子請求書、電子領収書等
(3) クラウドサービスを利用した電子請求書や電子領収書の授受 Misoca、楽楽明細等の請求書発行システム 電子請求書、電子領収書等
(4) クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、スマートフォンアプリによる決済データ等の受領 ・JCB、三井住友カード等のクレジットカード
・ICOCA、Suica、iD等の電子マネー
・PayPay、LINEPay等のアプリ
電子提供される利用明細書等、決済完了通知、決済履歴等の画面等
(5) EDIシステムを利用した請求書等の授受 インフォマート、ビーエルトラスト、スマクラ等のEDIサービス 電子契約書、電子請求書・電子領収書等受発注に関する商取引文書
(6) ペーパーレスFAXを利用した請求書等の授受

複合機で受信後に出力指定することによりプリントアウトされるもの

複合機内に受信されたFAXデータ、発信の場合は相手に送信したデータ
eFax等のインターネットファックス クラウド上の受信データ、発信の場合は相手に送信したデータ
(7) DVD等の記録媒体を介した請求書や領収書等のデータの受領 DVD、CD-R、USBメモリ等 電子契約書、電子請求書・電子領収書等受発注に関する商取引文書

令和5年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例

 年末調整では、勤務先に各種申告書(扶養控除等申告書、基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書、保険料控除申告書、住宅借入金等特別控除申告書)を提出することで、いろいろな控除を受けることができます。
 これらの申告書のうち、今回は2023(令和5)年分扶養控除等申告書の書き方を確認します。扶養控除等申告書には2024(令和6)年分もありますが、令和5年分は今年(令和5年)の年末調整の計算に使用するため、令和6年分は来年(令和6年)1月から支払う給与の計算に使用するため、勤務先に提出します。
 令和5年分扶養控除等申告書は、昨年(令和4年)の年末調整時に提出済み、途中入社の方は入社時に提出済みだと思われますが、今年(令和5年)の年末調整で修正事項(結婚や出産により扶養者が増えた等)の有無を確認するため、勤務先より配布されます。
 以下では、令和5年分扶養控除等申告書の書き方について確認します。

※ 令和6年分については「令和6年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の書き方と記載例」をご参照ください。

1.氏名、住所などの記入

(1) 所轄税務署長等
 給与の支払者(勤務先)の所在地等の所轄税務署長とあなた(給与所得者)の住所地等の市区町村長を記載します。

(2) 給与の支払者の法人(個人)番号
 この申告書を受理した給与の支払者が、給与の支払者の個人番号又は法人番号を付記します。給与の支払者が法人の場合は、給与の支払者の法人番号をあらかじめ記載(印字)して、給与所得者に配付しても差し支えありません。

(3) あなたの個人番号
 あなたの個人番号を記載する必要がありますが、一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください。

※本ブログ記事「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」のマイナンバー記載を省略する方法」をご参照ください。

(4) あなたの住所又は居所
 令和5年分は、令和5年12月31日時点の住所を記載します(給与の支払者の指示に従ってください)。令和6年分は、令和6年1月1日時点の住所を記載します。

(5) 配偶者の有無
 ここでいう配偶者とは、一定の要件を満たす必要のある源泉控除対象配偶者のことではありません。単に配偶者がいれば「有」に○、いなければ「無」に○を付けます。

(6) 従たる給与についての扶養控除等申告書の提出
 2か所以上から給与の支払を受けている人が、他の給与の支払者に「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出している場合に◯を付けます。

※ 本ブログ記事「『従たる給与についての扶養控除等申告書』とは?」をご参照ください。

2.源泉控除対象配偶者、控除対象扶養親族の記入

(1) 源泉控除対象配偶者
 配偶者が「源泉控除対象配偶者」となるには、以下の要件を満たす必要があります。

① あなたの所得金額が900万円以下である(給与収入のみならば年収1,095万円以下)
② 配偶者の所得金額が95万円以下である(給与収入のみならば年収150万円以下)
③ あなたと生計を一にする配偶者である
④ 青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない

 上記4要件を満たす場合は、配偶者の情報を記入します。なお、年末調整において配偶者(特別)控除の適用を受けるには、この欄の記載の有無に関わらず「給与所得者の配偶者控除等申告書」の提出が必要です。

※ ここでいう所得金額は合計所得金額です。合計所得金額については、本ブログ記事「『合計所得金額』『総所得金額』『総所得金額等』の違いとは?」をご参照ください。
※「生計を一にする」については、本ブログ記事「所得控除における『生計を一にする』の判定基準」をご参照ください。

(2) 控除対象扶養親族
 親族が「控除対象扶養親族」となるには、以下の要件を満たす必要があります(①~③は扶養親族の要件)。

① 親族の所得金額が48万円以下である(給与収入のみならば年収103万円以下)
② あなたと生計を一にする親族である
③ 配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者のいずれにも該当しない
④ 居住者のうち、年齢16歳以上である人(平成20年1月1日以前生)
⑤ 非居住者のうち、次のイ~ハのいずれかに該当する人
イ 年齢16歳以上30歳未満の人(平成6年1月2日から平成20年1月1日までの間に生まれた人)
ロ 年齢70歳以上の人(昭和29年1月1日以前に生まれた人)
ハ 年齢30歳以上70歳未満の人(昭和29年1月2日から平成6年1月1日までの間に生まれた人)のうち、「留学により国内に住所及び居所を有しなくなった人」、「障害者」又は「あなたから令和5年中において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受ける人」

 上記の要件(①~④又は①~③⑤)を満たす場合は、親族の情報を記入します。なお、児童福祉法の規定により養育を委託されたいわゆる里子や老人福祉法の規定により養護を委託されたいわゆる養護老人で、あなたと生計を一にし、令和5年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人も扶養親族に含まれます。

※「非居住者」とは、国内に住所を有せず、かつ、現在まで引き続いて1年以上国内に居所を有しない個人をいいます。

(3) 個人番号
 源泉控除対象配偶者及び控除対象扶養親族の個人番号を記載する必要がありますが、一定の要件の下、個人番号の記載を要しない場合がありますので、給与の支払者に確認してください(上記1.(3)参照)。

(4) 老人扶養親族
 控除対象扶養親族が年齢70歳以上(昭和29年1月1日以前生)の場合には、次のとおりいずれかに✓を付けます。

① その人があなた又はあなたの配偶者の直系尊属で、あなた又はあなたの配偶者のいずれかと同居を常況としている人であるとき→「同居老親等」に✓を付けます。
② その人が①以外の人であるとき →「その他」に✓を付けます。

(5) 特定扶養親族
 控除対象扶養親族が年齢19歳以上23歳未満(平成13年1月2日~平成17年1月1日生)の場合に、✓を付けます。

(6) 非居住者である親族
 源泉控除対象配偶者が非居住者である場合に「非居住者である親族」欄に○を付けます。
 また、控除対象扶養親族が非居住者であり、その非居住者の年齢が16歳以上30歳未満又は70歳以上である場合には「非居住者である親族」欄の「16歳以上30歳未満又は70歳以上」に✓を付け、30歳以上70歳未満の場合には、「留学」、「障害者」又は「38万円以上の支払」のうち該当するいずれかの項目に✓を付けます。
 源泉控除対象配偶者や控除対象扶養親族が非居住者である場合、親族関係書類の添付等が必要です。
 また、上記の「留学」に✓を付けた場合は、留学ビザ等書類の添付等が必要です。

3.障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生の記入

(1) 同一生計配偶者
 同一生計配偶者が一般の障害者、特別障害者又は同居特別障害者に該当する場合には、該当する欄に✓を付けます。

※「同一生計配偶者」とは、あなたと生計を一にする配偶者(青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、令和5年中の合計所得金額の見積額が48万円以下の人をいいます。

(2) 扶養親族
 扶養親族が一般の障害者、特別障害者又は同居特別障害者に該当する場合には、該当する欄に✓を付けます。
 なお、障害者控除の対象となる扶養親族は、控除対象扶養親族とは異なり、年齢16歳未満(平成20年1月2日以後生)の扶養親族も対象となります。

(3) 寡婦、ひとり親、勤労学生
 あなたが寡婦、ひとり親、勤労学生に該当する場合に✓を付けます
 寡婦は、ひとり親に該当しない女性で、以下のいずれかに当てはまる人です。

① 所得金額が500万円以下で、夫と離婚した後に婚姻をしておらず、扶養親族がいる
② 所得金額が500万円以下で、夫と死別した後婚姻をしていない、もしくは夫の生死が明らかでない

 ひとり親は、現在婚姻していない人、もしくは配偶者の生死が明らかでない一定の人のうち、以下のすべてに当てはまる人です。

① 所得金額が500万円以下である(給与収入のみならば、年収6,777,778円以下)
② 生計を一にする子がいる
③ 事実上の婚姻関係にある人がいない

※寡婦、ひとり親については、本ブログ記事「ひとり親控除の新設と寡婦(夫)控除の改正」をご参照ください。

 勤労学生は、以下のすべてに当てはまる人です。

① あなたが学生である(小学校、中学校、高等学校、高等専門学校、大学の学生、国や地方公共団体、学校法人などが設立した専修学校、各種学校、または職業訓練学校のうち一定の要件を満たす学校の学生)
② アルバイトなどの勤労による所得金額が75万円以下である(収入が1つの勤務先からのアルバイト代(給与収入)のみならば、年収130万円以下)

(4) 障害者又は勤労学生の内容
 左記の障害者又は勤労学生に該当する(人がいる)場合、その該当する事実やその人の氏名を記載します。
(例)障害者の場合・・・障害の状態又は交付を受けている手帳などの種類と交付年月日、障害の程度(等級)などの障害者に該当する事実を記載します。

(注)寡婦、ひとり親に該当する方について、死別、離婚、生死不明の別、生計を一にする子の氏名及びその子の所得の見積額など、寡婦又はひとり親に該当する事実の記載は必要ありません。

4.他の所得者が控除を受ける扶養親族等の記入

 他の所得者が控除を受ける扶養親族等の欄については、共働きなどで子供を扶養親族としなかった方が子供の氏名等を記入する欄ですが、空欄でも構いません。記入しなかったとしても「控除額が減り、損をする」というわけではありません。

5.住民税に関する事項の記入

(1) 16歳未満の扶養親族
 年齢16歳未満(平成20年1月2日以後生)の扶養親族について記載します。16歳未満の扶養親族は「扶養控除」の対象外ですが、住民税の計算で利用するためあわせて記載します。

(2) 控除対象外国外扶養親族
 国内に住所を有しない16歳未満の扶養親族に該当する場合に○を付けます。この場合、親族関係書類及び送金関係書類を令和6年3月15日までに住所所在地の市区町村に提出しなければならない場合があります。

(3) 退職手当等を有する配偶者・扶養親族
 退職手当等(源泉徴収されるものに限ります。以下同じです)の支払を受ける配偶者(あなたと生計を一にする配偶者で、令和5年中の退職所得を除いた合計所得金額の見積額が133万円以下であるものに限ります)又は扶養親族について記載します。

(4) 非居住者である親族
 退職手当等の支払を受ける配偶者が非居住者である場合には、「非居住者である親族」欄の「配偶者」に✓を付けます。
 また、退職手当等の支払を受ける扶養親族が非居住者であり、その非居住者の年齢が30歳未満又は70歳以上である場合には「非居住者である親族」欄の「30歳未満又は70歳以上」に✓を付け、30歳以上70歳未満の場合には、「留学」(留学により国内に住所及び居所を有しなくなった人)、「障害者」又は「38万円以上の支払」(あなたから令和5年中において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受ける人)のうち該当するいずれかの項目に✓を付けます。
 この場合、親族関係書類、留学ビザ等書類及び送金関係書類を令和6年3月15日までに住所所在地の市区町村に提出しなければならない場合があります。

(5) 令和5年中の所得の見積額(退職所得を除く)
 令和5年中の退職所得の金額を除いた合計所得金額の見積額を記載します。

(6) 障害者区分
 退職手当等の支払を受ける配偶者のうち同一生計配偶者(あなたと生計を一にする配偶者で、令和5年中の退職所得を除いた合計所得金額の見積額が48万円以下である人をいいます)又は扶養親族について、その配偶者又は扶養親族が障害者である場合は「一般」に✓を付け、特別障害者である場合は「特別」に✓を付けます。

(7) 寡婦又はひとり親
 退職所得を除くと令和5年中の合計所得金額の見積額が48万円以下となる扶養親族を有することにより、あなたが寡婦又はひとり親に該当する場合に、✓を付けます。

(注)記載欄が足りない場合は、適宜の様式に記載してこの申告書に添付します。なお、住民税では、扶養親族等の要件とされる所得の金額には、退職所得の金額は含めないこととされています。

白色申告に関する誤解~損益通算・繰越控除・青色申告承認後の白色申告

 前回(「白色申告に関する誤解~現金主義と収支内訳書」)に続いて、白色申告に関する誤解をとり上げます。

1.白色申告は損益通算できない?

 不動産所得、事業所得、山林所得及び譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額は、一定の順序(第一次通算、第二次通算、第三次通算)で他の所得の金額から控除することができます。
 例えば、不動産外交員など事業所得と給与所得がある人で、事業所得の損失が200万円で給与所得が60万円の場合は、給与所得は0となり、140万円の損失が残ります(60万円-200万円=△140万円)。
 このように、他の黒字の所得金額から損失の金額を差し引くことを、損益通算といいます。
 この損益通算は、その対象となる損失の金額や損益通算の順序などが厳密に決められていますが、青色申告だけに適用する旨の規定はありません。したがって、白色申告の場合でも、損益通算はできます。

2.白色申告は損失の繰越控除ができない?

 青色申告の場合は、損失の生じた年の翌年から3年間にわたってその損失を繰越控除できます。
 先の例でいえば、損益通算して生じた140万円の損失を翌年の所得から控除することができ、それでも控除しきれない損失の金額がある場合は翌々年、翌々翌年の所得から控除することができます。
 では、白色申告の場合は、損失の繰越控除ができないのでしょうか?
 この答えを出すためには、繰越控除できる損失には次の2種類があることを理解する必要があります。

(1) 純損失の繰越控除
 純損失の金額とは、事業所得、不動産所得、総合譲渡所得、山林所得の4つの所得の損失のうち、損益通算しても控除しきれない損失の金額をいいます。先の例で生じた140万円の損失は純損失です。
 青色申告の場合は、この純損失の金額のすべてを、純損失の生じた年の翌年から3年間の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除することができます。
 しかし、白色申告の場合は、純損失の金額のうち、変動所得の損失と被災事業用資産の損失の金額に限り控除することができます。先の例で生じた140万円の純損失は、繰越控除できません。

(2) 雑損失の繰越控除
 雑損控除の額がその年分の所得金額から控除できなかった場合、その控除不足額を雑損失の生じた年分の翌年以後3年間の総所得金額、分離短期(長期)譲渡所得の金額、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得の金額、株式等に係る譲渡所得等の金額、先物取引に係る雑所得等の金額、山林所得金額、又は退職所得金額から控除することができます。
 この雑損失の金額については、青色申告の場合も白色申告の場合も、そのすべてを控除することができます。

 したがって、白色申告は雑損失の金額についてはすべて繰越控除できるが、純損失の金額については変動所得の損失と被災事業用資産の損失の金額しか繰越控除ができないということになります。

3.青色申告の承認後は白色申告できない?

 青色申告の特典を受けるためには、税務署に青色申告承認申請書を期限までに提出しなければなりません。
 では、青色申告の承認を受けた後でも、白色申告はできるのでしょうか?

 青色申告については、所得税法143条に次のように規定されています。

不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行なう居住者は、納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、確定申告書及び当該申告書に係る修正申告書を青色の申告書により提出することができる。

 いわゆる「できる」規定ですので、青色申告の承認を受けたとしても青色申告が強制されるものではありません。
 つまり、青色申告の承認後であっても白色申告をすることができます。