退職所得の受給に関する申告書を提出した人が還付を受けるためにする確定申告

1.退職金支給時の源泉徴収

 従業員の方に退職金を支給する場合には、その支給額から所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。
 源泉徴収の方法は、退職する従業員の方から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けているかどうかにより異なります。

(1) 「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合

 退職金の支給額から下記算式で計算した退職所得控除額を控除した残額を2分の1にした額(1,000円未満の端数は切り捨てます。)が課税退職所得金額となります。

① 勤続年数が20年以下の場合
  勤続年数×40万円(80万円未満の場合には80万円)
② 勤続年数が20年超の場合
(勤続年数-20年)×70万円+800万円

 上記算式において、長期欠勤や休職中の期間は勤続年数に含めますが、丙欄適用期間は除きます。また、勤続年数に1年未満の端数があるときは1年に切り上げます。さらに、障害者になったことに基因して退職した場合は、上記の金額に100万円を加算します。
 ここで計算した課税退職所得金額に、「退職所得の源泉徴収税額の速算表」の「税額」欄の算式に従い計算した額が、源泉徴収する税額になります。

(2) 「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合

 退職金の支給額に20.42%の税率を乗じて計算した額を源泉徴収します。この場合、退職金を受給した従業員ご本人が確定申告をして、(1)と同様の計算を行い源泉徴収税額を精算することになります。

2.退職所得を確定申告して所得税の還付を受ける

 上記1(1)のように、退職金の支給を受けた人で、その勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出した人については、源泉徴収だけで課税関係が完結し、退職所得に関しての確定申告は原則不要とされています。

 しかし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出した人でも、以下のように確定申告することによって所得税の還付を受けることができます。

(1) 控除しきれなかった所得控除額を退職所得から差し引くための確定申告

 退職所得以外の所得の合計額が所得控除の合計額未満である場合には、控除しき
れなかった所得控除の額を退職所得の金額から差し引くことによって、所得税の還付を受けることができます。

 例えば、給与所得が129万円、所得控除額が139万円の場合には、給与所得の金額から控除することができない所得控除額10万円(139万円―129万円)を退職所得の金額から差し引くことによって、所得税の還付を受けることができます。

(2) 退職所得で損益通算を受けるための確定申告

 損益通算とは、不動産所得、事業所得、山林所得及び譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額を、一定の順序に従い他の所得の金額から差し引くことをいいます。

 退職所得は、国内の銀行預金の利子所得のような源泉分離課税とされている所得と違い、源泉徴収だけで課税関係が終わり確定申告できないものではありません。
 その年に事業所得等の損失がある場合には、確定申告をして損益通算を受けることができます。

 例えば、給与所得が129万円、事業所得の損失が139万円の場合には、事業所得の損失のうち給与所得の金額から引ききれない10万円が退職所得の金額から控除されます。
 その結果、給与所得と退職所得につき源泉徴収された所得税の還付を受けることができます。

賃貸用不動産の取得に要した借入金を借り換えた場合の借入金利子の必要経費算入額

1.借入金利子の取扱い

 賃貸用の不動産を取得するために要した借入金の利子は、その支払時期によって次のように取り扱います。

(1) 不動産賃貸業開始後で不動産使用後の場合は、必要経費に算入します。
(2) 不動産賃貸業開始後で不動産使用前の場合は、必要経費に算入するか不動産の取得価額に算入するか選択します(所得税基本通達37-27)。
(3) 不動産賃貸業開始前の場合は、不動産の取得価額に算入します。

 上記(2)のようなケースもありますが、基本的には、借入金利子は業務開始前は取得価額に算入し、業務開始後は必要経費に算入します。
(借入金利子の取扱いについては、本ブログ記事「賃貸用不動産取得に要した借入金利子の必要経費算入と損益通算」を参照)

2.借り換えた場合の必要経費算入額

(1) 減額して借り換えた場合

 賃貸用不動産を取得するために要した借入金を、返済中に借り換える場合があります。
 この場合、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する借入金利子の額はいくらにすればいいでしょうか?

 所得税基本通達38-8の4では、次のように規定されています。

 「固定資産を取得するために要した借入金を借り換えた場合には、借換え前の借入金の額(借換え時までの当該借入金に係る未払利子を含む。)と借換え後の借入金の額とのうちいずれか低い金額は、借換え後もその固定資産の取得資金に充てられたものとして取り扱う。」

 例えば、借換え前(借換え時)の借入金の残高が500万円、借換え後の借入金の額が300万円だとしたら、低い金額の300万円を借換え後も固定資産の取得資金に充てられたものとします。
 したがって、必要経費に算入する借入金利子も、借換え後の300万円に対する利子になります。

(2) 増額して借り換えた場合

 上記(1)のように減額して借り換えた場合はわかりやすいのですが、増額して借り換えた場合は少し複雑です。
 例えば、借換え前(借換え時)の借入金残高が500万円、借換え後の借入金の額が700万円だとしたら、低い金額の500万円を借換え後も固定資産の取得資金に充てられたものとします。ここまではわかります。

 では、必要経費に算入する借入金利子はいくらにすればいいでしょうか?
 旧借入金500万円の返済予定表に記載されている利子を、借換え後は支払っていないにもかかわらず、必要経費に算入するのでしょうか?
 また、旧借入金の借換え時の残りの支払期間が5年で、新借入金の借換え後の支払期間が7年だとしたら、必要経費に算入できるのは5年だけということになるのでしょうか?

 いろいろと考えだすとわからなくなってしまいましたので、税務署に聞いてみました。
 回答は、「新借入金の利子を、借換え時の旧借入金残高と新借入金残高の比で按分して、旧借入金に対応する利子部分を必要経費に算入して下さい。」というものでした。

 簡単な数値例によって、次のようなケースを想定してみます。

借換え前(旧借入金:年利率1.2%)

返済日 返済額 元金 利子 残高
1月25日 105,800円 100,000円 5,800円 5,700,000円
2月25日 105,700円 100,000円 5,700円 5,600,000円
3月25日 105,600円 100,000円 5,600円 5,500,000円
4月25日 105,500円 100,000円 5,500円 5,400,000円
5月25日 105,400円 100,000円 5,400円 5,300,000円
6月25日 105,300円 100,000円 5,300円 5,200,000円
7月25日 105,200円 100,000円 5,200円 5,100,000円
8月25日 105,100円 100,000円 5,100円 5,000,000円
合計     43,600円  


借換え後(新借入金:年利率0.6%)

返済日 返済額 元金 利子 残高
        7,000,000円
9月20日 103,500円 100,000円 3,500円 6,900,000円
10月20日 103,450円 100,000円 3,450円 6,800,000円
11月20日 103,400円 100,000円 3,400円 6,700,000円
12月20日 103,350円 100,000円 3,350円 6,600,000円
合計     13,700円  

 このケースでは、必要経費に算入する借入金利子は次のようになります。

 43,600円+13,700円×5,000,000円/7,000,000円≒53,385円

雇用保険を遡って加入できるか?

1.雇用保険の加入要件

 雇用保険の被保険者は、 常用・パート・アルバイト・派遣等、名称や雇用形態にかかわらず、 次の要件をいずれも満たす方です。

 (1) 1 週間の所定労働時間が 20時間以上であり、
 (2) 31 日以上の雇用見込みがある場合

 (1)の要件は、例えばアルバイトの方が1日あたり5時間で週3日勤務する場合は、1週間の所定労働時間が15時間となりますので加入要件を満たしませんが、週4日勤務の場合は1週間の所定労働時間が20時間となりますので加入要件を満たします。

 この所定労働時間は「雇用契約書」の内容により判断します。
 1日5時間週3日勤務という雇用契約を結んでいた場合に、たまたま忙しい日が続いたため1週間の労働時間が20時間以上になったとしても、(1)の要件を満たしたことにはなりません。
 もし、1週間の所定労働時間が20時間以上となることが常態となった場合は(1)の要件を満たすことになりますが、その場合は雇用契約を変更する必要があります。

 (2)の要件は、具体的には以下の場合を指します。
 ① 期間の定めがなく雇用される場合
 ② 雇用期間が31日以上である場合
 ③ 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない場合
 ④ 雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合

 上記(1)と(2)の加入要件を満たす場合は、本人が希望するか否かにかかわらず被保険者となり、雇用保険料の申告納付が必要です。

 なお、65歳以上の新規雇用者の雇用保険については、本ブログ記事「65歳からの老齢基礎年金と雇用保険」を参照してください。

2.雇用保険の加入手続きを失念していた場合

 労働保険申告書の作成過程で、雇用保険の加入要件を満たす従業員がいるにもかかわらず、事業主が加入手続きを失念していたことが判明することがあります。
 この場合、雇用保険を遡って加入することはできるのでしょうか?

 次の加入要件を満たす場合は、原則として2年間遡って加入することができます。

(1) 1 週間の所定労働時間が 20時間以上であり、
(2) 31 日以上の雇用見込みがある場合

 さらに、2010年(平成22年)10月からは雇用保険料が給与から天引きされていたことが明らかで ある場合は、特例として2年を超えて遡って雇用保険の加入手続きができるようになりました。

 手続きとしては、雇用保険被保険者資格取得届に加えて遅延理由書(書式は任意ですがハローワークで入手することもできます)の提出が必要です。
 また、賃金台帳や給与明細、タイムカード等の提出も必要です。

決算日が月末以外の会社は社会保険料の会社負担分を未払計上できない

 3月20日を期末(決算日)としているA社の社長から、次のようなご相談がありました。
 「3月分の給与に対する社会保険料の会社負担分を法定福利費として未払計上できるか?」

 A社は、給与計算の締め日を毎月20日、給与支給日を月末としています。3月分の給与は3月31日に支給しますが、決算日が3月20日ですので、3月分の給与は翌期の支給になります。
 そのため、3月分の給与(2月21日~3月20日)は決算時に未払計上していましたが、同時に3月分の社会保険料(4月末納付分)の会社負担分も未払計上できないか、というご相談でした。

1.社会保険料の債務確定時期

 法人税法は債務確定主義を採っており、期末までに債務が確定していたかどうかが重要です(法人税法22条3項2号、法人税基本通達2-2-12、9-3-2)。
 A社の場合、3月分の社会保険料の会社負担分を未払計上するためには、期末である3月20日までに納付義務が確定している必要があります。

 では、3月分の社会保険料の納付義務は、いつ確定するのでしょうか?

 社会保険料は、健康保険法156条3項等の規定により、被保険者が月末まで在職している場合に同者に係る保険料を翌月末日までに納付することとなっています。3月分(3月1日~3月31日分)の社会保険料の納付額は、翌月の4月に発行される納入告知書で明らかになります。
 これは、給与支給月(賞与を含む)の月末まで、被保険者(従業員)が在職していることが要件であることを意味します。例えば、3月30日に従業員が退職した場合は、その従業員の3月分については納付義務はありません。
 つまり、月末にならないと社会保険料の額が確定しないということです。

 A社の3月分の社会保険料の納付義務は、月末の3月31日にならないと確定しませんので、期末である3月20日時点では債務が確定していないことになります。
 したがって、A社の場合、3月分の社会保険料の会社負担分を法定福利費として未払計上することはできません。

 一方、A社の場合、2月分(2月1日~2月28日分)の社会保険料は3月末に納付することになりますが、期末の3月20日時点では未納付となっています。
 この2月分の社会保険料の会社負担分は法定福利費として未払計上することができます。なぜなら、2月分の社会保険料の納付義務は2月末時点で確定しているからです。

2.給与支給日を月末から20日にした場合

 A社の給与支給日を月末から20日に変更した場合、3月分の社会保険料の会社負担分を未払計上することはできるでしょうか?

 答えは「否」です。
 法人税基本通達9-3-2では、法人が負担する社会保険料の額については、当該保険料の計算の対象となった月の末日の属する事業年度において損金算入することができるとされています。
 3月分の給与を20日に支給するとしても、これに対応する社会保険料の納付義務が確定するのは3月31日ですので、3月20日の期末時点で債務が確定していません。よって、未払計上することはできません。

残価設定ローンで車を購入した場合の減価償却と経理処理

1.残価設定ローンの残価は減価償却の対象となるか?

 自動車をローンで購入する場合、通常のローン以外に残価設定ローンという方法があります。
 残価設定ローンの「残価」とは、自動車の販売会社があらかじめ設定した数年後の買取保証額のことです。残価設定ローンは、この買取保証額を車両価格から差し引いて残りの金額をローンで支払うものです。

 例えば480万円の車を5年ローンで購入する場合、5年後の残価(買取保証額)を120万円とすると、毎月の支払額は(480万円-120万円)÷60回=6万円になります。通常のローンであれば、毎月の支払額は480万円÷60回=8万円となりますので、残価設定ローンは毎月の支払額を安くすることができます。

 さて、ここで問題になるのが、残価設定ローンの「残価」は減価償却の対象になるか?ということです。 

 通常のローンで車を購入した場合は、車両価格の480万円をベースに減価償却することに何ら疑問を生じません。
 しかし、残価設定ローンで購入した場合は、車両価格の480万円から残価120万円を差し引いた360万円をベースに減価償却すべきではないのかという疑問が生じます。

 結論を先に述べると、残価設定ローンの場合も通常のローンの場合も車両価格の480万円をベースに次のように減価償却をします(定率法、耐用年数6年)。

経過年数 期首帳簿価額 減価償却費 期末帳簿価額
1年 4,800,000円 1,598,400円 3,201,600円
2年 3,201,600円 1,066,132円 2,135,468円
3年 2,135,468円 711,110円 1,424,358円
4年 1,424,358円 475,735円 948,623円
5年 948,623円 475,735円 472,888円
6年 472,888円 472,887円 1円

 残価設定ローンは、冒頭でも述べたとおり、自動車販売会社が数年後の買取額を保証して車を売る仕組みです。
 上記の例では、480万円で売った車を5年後に120万円で買取ることを自動車販売会社が保証しています。購入者側から見れば、480万円で買った車を5年後に120万円で買い戻してもらえるので、差額の360万円をローンで支払うということです。

 勘違いしてはいけないのが、買った車はあくまでも480万円であって、360万円の車を買ったのではないということです。
 減価償却は取得価額をベースとします。したがって、購入者の取得価額は残価部分も含めた480万円ですので、480万円をベースに減価償却することになります。

2.買取時と返却時の経理処理

(1) 480万円の車を5年ローン、残価120万円で購入したときの仕訳は次のとおりです。

借方 金額 貸方 金額
車両運搬具 4,800,000 未 払 金 3,600,000
    長期未払金 1,200,000

(2) 5年ローンの返済後に車を買い取ったときの仕訳は次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
長期未払金 1,200,000 現金預金 1,200,000

 残価120万円を支払うと、車は会社の所有になりますので、残価支払後も車両価格の480万円をベースに減価償却を継続します。

(3) 5年ローンの返済後に車を返却(売却)したときの仕訳は次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
長期未払金 1,200,000 車両運搬具 472,888
    車両売却益 727,112

 5年経過後の車の帳簿価額は472,888円となっていますが、残価(買取保証額)は120万円ですので売却益が生じます。

給与課税される通勤手当・切手の購入・軽油引取税の消費税の取扱い

1.所得税において給与課税される通勤手当

 通勤に通常必要であると認められる通勤手当・定期券等は、給与を支払う事業者の課税仕入れになります。
 所得税法上、非課税となる通勤手当には月額15万円の上限が設けられていますが、消費税ではこの上限にかかわりなく、通勤に通常必要であるかどうかで判断します。
 したがって、所得税において給与課税される月額15万円を超える部分の通勤手当は、通勤に通常必要なものであれば、消費税の課税仕入になります。

2.切手の購入は実務では課税仕入

 日本郵便株式会社等から購入する切手・はがきの消費税の取扱いは、原則的には購入時非課税仕入・使用時課税仕入となります。
 しかし、自社で使用する切手・はがきについては、購入と使用が繰り返し行われることから、上記のような購入時と使用時の原則処理を厳格に行っても、事務処理が煩雑になるだけです。
 そこで、以下の要件を満たす場合には、購入時に課税仕入とすることが認められています。

(1) 自ら引換給付を受けること(自社で使用すること)
(2) 継続して購入の日の属する課税期間の課税仕入としていること(継続適用すること)

3.軽油引取税が明記されていない場合

 軽油を購入した場合、軽油本体は消費税の課税取引、軽油引取税は不課税取引として会計処理します。
 例えば、消費税率を8%とすると、1,130円(税込)の軽油を購入した場合、レシートには軽油本体750円、軽油引取税320円、消費税60円などと記載されています。
 これを税込方式で仕訳すると、次のようになります(控除対象仕入税額は60円)。

(燃 料 費)810 (現金預金)1,130
(租税公課)320

 ところが、軽油引取税の額が請求書・領収書等に明記されていない場合は、軽油引取税も含めて全額が課税取引になります(消費税基本通達10-1-11)。
 この場合の仕訳は、次のようになります(控除対象仕入税額は1,130×8/108≒83円)。

(燃 料 費)1,130 (現金預金)1,130

不動産の貸付けでも事業所得となる場合

 不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付けによる所得をいいます。
 不動産の貸付けによる所得は、事業として行われている場合でも事業所得とはならずに不動産所得となります。
  一方で不動産の貸付けによる所得は、人的役務の提供が主になるものや事業に付随して行われるものについては、事業所得や雑所得に区分されるものもあります。
 不動産の貸付けから生じる所得で、その所得区分を迷いやすい例を以下に挙げます。

1.不動産所得となるもの

(1) アパート、賃貸マンション、貸家、駐車場などの家賃収入
(2) 地上権、借地権などの貸付け、設定による収入(借地権等の設定のうち、一定金額以上の権利金を収入し た場合は、譲渡所得となります)
(3) 総トン数20トン以上の船舶の貸付収入
(4) 広告等のため、土地、家屋の屋上や側面などを使用させる場合の賃貸収入

2.事業所得又は雑所得となるもの

(1) ホテル、賄いつき下宿、時間貸し駐車場や自転車預り業の収入(事業又は雑)
(2) 従業員宿舎の収入(事業)
(3) 総トン数20トン未満の船舶の貸付収入(事業又は雑)
(4) 浴場業、飲食業における広告の掲示による収入(事業)

賃貸期間の経過に応じて返還しないこととなる敷金

1.不動産所得の収入計上時期

 不動産を賃貸したことにより収受する地代・家賃、共益費などは、契約や慣習などにより支払日が定められている場合はその定められた支払日、支払日が定められていない場合は実際に支払を受けた日(ただし、請求があったときに支払うべきものと定められているものは、その請求の日)に不動産所得の収入金額に算入します。
 また、不動産を賃貸することにより一時に受け取る権利金や礼金は、貸し付ける資産の引渡しを必要とするものは引渡しのあった日、引渡しを必要としないものについては、契約の効力発生の日に収入金額に算入します。

 一方、敷金や保証金は本来は預り金ですから、受け取っても収入にはなりませんが、返還を要しないものは、返還を要しないことが確定した日にその金額を収入金額に算入する必要があります。

2.賃貸期間の経過に応じて返還しないこととなる敷金

 不動産の賃貸の際に収受する敷金や保証金は、原則として退去時に借主に返還しますので、不動産所得の計算上その預かった年分の収入金額には算入しません。
 しかし、敷金・保証金について、賃貸期間の経過に応じて返還しない金額が増加する定めとなっている場合は、その増加する部分の金額をそれぞれの年分の収入金額に算入する必要があります。
 以下の具体例で、収入金額に算入する部分の金額を確認します。

(1) 賃貸借契約の内容

 2019年(平成31年)3月6日に収受した敷金が400,000円で、敷金の返還条件が次の場合。

①1年以内に解約したときは、敷金の10%を返還しない
②2年以内に解約したときは、敷金の15%を返還しない
③2年を超えて解約したときは、敷金の20%を返還しない

(2) 収入金額に算入する部分の金額

①の場合
400,000円×10%(居住期間にかかわりなく返還しない割合を乗じます)=40,000円を、2019年(平成31年分)の収入金額に算入します。

②の場合
400,000円×(15%-10%)=20,000円を、2020年(平成32年分)の収入金額に算入します。

③の場合
400,000円×(20%-10%-5%)=20,000円を、2021年(平成33年分)の収入金額に算入します。

 不動産所得の計算をするときは、敷金のすべてを預り金として処理する前に、敷金の返還条件を契約書で確認しておく必要があります。

日本フルハップの会費は法人と個人で経理処理が異なる!

1.法人と個人で異なる経理処理

 2018年分(平成30年分)の確定申告から新規に関与先となった個人事業主の方から、前年の確定申告書を見せていただきました。前年まではその方のお父さんが確定申告(事業所得)をされていたのですが、ご高齢のため会計事務所に依頼したとのことでした。

 確定申告書以外に出納帳等も見せていただいたのですが、ご自身が加入されている日本フルハップの会費の全額を必要経費に算入されていることに気づきました。
 法人の場合は、会費(加入者1名につき月額1,500円)の全額を損金算入することができるのですが、個人事業の場合は、加入者が誰であるかにより経理処理が異なります。

2.会費の経理処理

 日本フルハップの会費は指定の信用金庫の口座から自動振替されますが、その経理処理は以下のようになります。

(1) 法人事業所(振替口座は法人名義)の場合

 →全額損金に計上します(勘定科目は「諸会費」等)

(2) 個人事業所(振替口座は事業主名義)の場合

① 事業主及び事業主と生計を一にする配偶者その他の親族が加入者の場合
 →保険料相当部分(852円)は事業主個人の負担となり(勘定科目は「事業主貸」等)、保険料相当部分以外(648円)は必要経費に算入します(勘定科目は「諸会費」等)

② その他の加入者の場合
 →全額必要経費に算入します(勘定科目は「諸会費」等)

 なお、消費税については、法人・個人ともに同じ扱いになり、会費に消費税は含まれません(保険料相当部分は非課税、保険料相当部分以外は不課税)。

 2013年(平成25年)4月以降の会費から、上記のように変わっていますので、ご注意ください。

複数の課税文書に該当する場合の「所属の決定」

1.複数の課税文書に該当する場合

 契約書に貼る印紙の額は、印紙税額一覧表(課税物件表)を見ればわかります(参考:国税庁ホームページ「印紙税額一覧表」)。
 例えば、不動産売買契約書なら第1号文書、工事請負契約書なら第2号文書に該当しますので、これらの契約書に記載された金額によりそれぞれの印紙税額が決まります。

 しかし、実際の商取引の現場で作成される契約書には、複数の課税文書の要件に当てはまるケースも少なくありません。
 例えば、1年間の保守契約を締結する場合、保守作業を請け負うという契約は「請負に関する契約書」となり第2号文書に該当します。また、1年間継続して保守作業を行うという契約ですから「継続的取引の基本となる契約書」となり第7号文書にも該当します。 

 このように複数の課税文書に該当する場合は、最終的にどちらか一方の文書に該当することとされています(どちらの文書に該当するかの判定を「所属の決定」といいます)。
 所属の決定については、印紙税法別表第一課税物件表の適用に関する通則及び印紙税法基本通達に規定されています(参考:国税庁ホームページ「印紙税法別表第一課税物件表の適用に関する通則」、「印紙税法基本通達」)。 

2.所属の決定の具体例

 複数の課税文書の要件を満たす場合、最終的にどの課税文書に該当するかについての判定の仕方は、上記の印紙税法別表第一課税物件表の適用に関する通則及び印紙税法基本通達に規定されていますが、おおむね印紙税額が大きくなる方の文書に該当するように措置されているようです。

 以下に、実際の契約書でよくあるケースについて、所属の決定例を紹介します。

(1)第1号又は第2号文書と第3号から第17号までの文書に該当する場合(ただし、下記(2)又は(3)に該当する文書は除く)・・・第1号又は第2号文書

(例1)不動産及び売掛債権の譲渡契約書(第1号文書と第15号文書)→第1号文書
(例2)請負工事の内容とその代金の受領事実を記載した契約書(第2号文書と第17号文書)→第2号文書

(2)第1号又は第2号文書で契約金額の記載のないものと第7号文書に該当する場合・・・第7号文書

(例)継続する物品運送についての基本的な事項を定めた記載金額のない契約書(第1号文書と第7号文書)→第7号文書

(3)第1号文書と第2号文書に該当する場合(ただし、(4)に該当する文書は除く)・・・第1号文書

(例)機械製作及びその機械の運送契約書(第2号文書と第1号文書)→第1号文書

(4)第1号文書と第2号文書に該当する文書で、その文書にそれぞれの契約金額が区分記載されており、第2号文書についての契約金額が第1号文書についての契約金額を超えるもの・・・第2号文書

(例)機械製作費200万円及びその機械の運送料10万円とが区分記載されている請負及び運送契約書→第2号文書